「円高不況」の版間の差分
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円相場が円高に傾くと、労働力などの生産要素の価格が国際的に見て高くなる。このコスト高になった結果、輸出財の競争力や収益力は低下することになり、輸出が減少して輸出企業やその下請けなど関連企業が打撃を受ける。一方で、輸入財は相対的に割安になるため国内生産の競合品より競争力が増し、輸入が増加することとなる。輸出の減少と輸入の増加は[[純輸出]]を減少させ、GDPの縮小、すなわち景気の悪化を引き起こす。これは[[貿易収支]]が赤字であるか黒字であるかによらないメカニズムであり、円高が問題となるのは日本が貿易黒字国であるためという考え方は誤りである。また、輸出企業そのものだけでなくその関連企業の業績も落ち込むので、輸出の規模が小さいから円高の影響も小さいと考えることも誤りである。なお、上記のメカニズムは不況という景気循環を捉えるために、完全雇用が常には成り立たない[[短期]]について述べたものであり、[[長期]]には先決的な総投資と総貯蓄の差によって経常収支は規定される(→[[貯蓄投資バランス]])。 |
円相場が円高に傾くと、労働力などの生産要素の価格が国際的に見て高くなる。このコスト高になった結果、輸出財の競争力や収益力は低下することになり、輸出が減少して輸出企業やその下請けなど関連企業が打撃を受ける。一方で、輸入財は相対的に割安になるため国内生産の競合品より競争力が増し、輸入が増加することとなる。輸出の減少と輸入の増加は[[純輸出]]を減少させ、GDPの縮小、すなわち景気の悪化を引き起こす。これは[[貿易収支]]が赤字であるか黒字であるかによらないメカニズムであり、円高が問題となるのは日本が貿易黒字国であるためという考え方は誤りである。また、輸出企業そのものだけでなくその関連企業の業績も落ち込むので、輸出の規模が小さいから円高の影響も小さいと考えることも誤りである。なお、上記のメカニズムは不況という景気循環を捉えるために、完全雇用が常には成り立たない[[短期]]について述べたものであり、[[長期]]には先決的な総投資と総貯蓄の差によって経常収支は規定される(→[[貯蓄投資バランス]])。 |
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加えて、[[比較優位]]の理論から示されるように、輸出産業には国内において相対的に生産性の高い産業がなり、輸入産業には相対的に生産性の低い産業がなるため、円高は生産性の高い輸出企業が不利に晒されて生産活動を縮小したり、さらには |
加えて、[[比較優位]]の理論から示されるように、輸出産業には国内において相対的に生産性の高い産業がなり、輸入産業には相対的に生産性の低い産業がなるため、円高は生産性の高い輸出企業が不利に晒されて生産活動を縮小したり、さらにはそのような企業が海外に拠点を移すことを促すことから長期的にも深刻な問題となりえる<ref>[http://jp.reuters.com/article/economicNews/idJPnTK024560220090210 COLUMN-〔インサイト〕円高イコール交易条件改善は事実でない、輸出産業の受けた被害]</ref><ref>[http://www31.atwiki.jp/anti_deflation/pages/15.html 貿易入門:基礎とQ&A]</ref>。 |
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== 歴史 == |
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2010年12月14日 (火) 05:24時点における版
円高不況(えんだかふきょう)は、円相場の上昇(円高)に伴い日本国内の輸出産業や、下請けなどその関連企業が損害を被る結果発生する不況のことである。
特に1983年から1987年にかけての不況期を指すことが多い(政府発表では1983年から1986年の第10循環に相当する)。
メカニズム
円相場が円高に傾くと、労働力などの生産要素の価格が国際的に見て高くなる。このコスト高になった結果、輸出財の競争力や収益力は低下することになり、輸出が減少して輸出企業やその下請けなど関連企業が打撃を受ける。一方で、輸入財は相対的に割安になるため国内生産の競合品より競争力が増し、輸入が増加することとなる。輸出の減少と輸入の増加は純輸出を減少させ、GDPの縮小、すなわち景気の悪化を引き起こす。これは貿易収支が赤字であるか黒字であるかによらないメカニズムであり、円高が問題となるのは日本が貿易黒字国であるためという考え方は誤りである。また、輸出企業そのものだけでなくその関連企業の業績も落ち込むので、輸出の規模が小さいから円高の影響も小さいと考えることも誤りである。なお、上記のメカニズムは不況という景気循環を捉えるために、完全雇用が常には成り立たない短期について述べたものであり、長期には先決的な総投資と総貯蓄の差によって経常収支は規定される(→貯蓄投資バランス)。
加えて、比較優位の理論から示されるように、輸出産業には国内において相対的に生産性の高い産業がなり、輸入産業には相対的に生産性の低い産業がなるため、円高は生産性の高い輸出企業が不利に晒されて生産活動を縮小したり、さらにはそのような企業が海外に拠点を移すことを促すことから長期的にも深刻な問題となりえる[1][2]。
歴史
変動相場制移行後最初の円高不況は1971年8月、ドルショックの影響で引き起こされた。およそ4半世紀の間1ドル=360円の固定レートが使われていたため収支計算には勿論その固定レートが用いられていたが、急なレートの変更(1ドル=307円)が日本の輸出産業に与えた打撃は大きく(ニクソンショック)、赤字を計上する企業が続出した。
その後1973年までの2年間は再び固定相場体制が採られた(スミソニアン体制)が、不安定かつ暫定的な体制であったため数次にわたる通貨危機が発生し、遂には変動相場制に移行することとなった。これにより日本円は信用の低下していた米ドルに対して急速に切り上げられることとなり、再び輸出産業は大きな損害を被った。
1975年から1984年にかけては、円相場は250円近辺に落ち着くようになったが、じりじりと円安ドル高が進行している状態であった。ドル高による国際競争力の喪失を恐れたアメリカは、1985年にG5を招集し、ニューヨークのプラザホテルにて会議を開き、諸国にドル安誘導を要請し各国はそれを承認した(プラザ合意)。1ドル=240円台で推移していた円相場は1985年末には1ドル=200円まで修正され、その後も一貫して円高ドル安状況が継続していった。特に中小の輸出主導型会社は苦境に陥ったが、1986年頃から日本政府主導で公定歩合を2.5%に引き下げる超低金利政策などの不況対策が行われ、状況は好転した。
2010年10月、連邦準備制度理事会が金融緩和策などを実施したことで円が1ドル=81円を突破し、日本の製造業は再び大きな影響を受けている。