「脂質異常症」の版間の差分
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=== 運動療法 === |
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2011年10月25日 (火) 08:23時点における版
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脂質異常症 | |
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コレステロール | |
概要 | |
診療科 | 内分泌学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | E78.0 |
ICD-9-CM | 272.0 |
DiseasesDB | 6226 |
eMedicine | med/1073 |
Patient UK | 脂質異常症 |
MeSH | D006937 |
脂質異常症(ししついじょうしょう、dyslipidemia)は、血液中に含まれる脂質が過剰、もしくは不足している状態を指す。
2007年7月に高脂血症から脂質異常症に改名された。
診断基準による分類
高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症といった種類があり、WHOの基準に基づき日本動脈硬化学会が診断基準を定めている。
高コレステロール血症/hypercholesterolemia
血液中の総コレステロール値が高い(220mg/dL以上)タイプの脂質異常症である。生活習慣による脂質異常症の多くがこのタイプである。1997年の国民栄養調査では、日本人の男27%、女33%が該当する。フラミンガムスタディにおいて使用されたためこの値と生活習慣病との関連が注目されたという意味で重要だが、最近ではLDLのほうがあきらかに心血管リスクとの相関度が高いのでこの値の重要度は廃れている。現在WHO、アメリカ、日本のガイドラインは、いずれも総コレステロール値に注目していない。
高LDLコレステロール血症
コレステロールの担体である低比重リポ蛋白(LDL)が血液中に多く存在する(140mg/dL以上)タイプの脂質異常症である。現在世界最新のガイドラインである米国ATP-IIIによれば、コレステロールの検査値の中では唯一心血管疾患の絶対的リスクファクターであり、他の検査値であるHDL、トリグリセリドと比較して明らかに重要度が高い。
低HDLコレステロール血症
血液中の高比重リポ蛋白(HDL)が少ない(40mg/dL未満)タイプの脂質異常症である。特に女性において、心血管疾患の重要なリスクファクターとなりうる。1997年の国民栄養調査では、日本人の男16%、女5%が該当する。この病態は脂質が足りなくて起こるため、高脂血症から脂質異常症へと改名される主な理由となった。
高トリグリセリド血症 (高TG血症)
血液中にトリグリセリドが多く存在する(150mg/dL以上)タイプの脂質異常症である。1997年の国民栄養調査では、日本人の男45%、女33%が該当する。内臓脂肪型肥満の人に多い。一時期(米国ATP-IIのころ)、その心血管疾患との関連が疑問視されたが、現在ではやはり関連はあると考える人が多い。RLP-C(Remnant-like lipoprotein particles-cholesterol)が、高TG血症における動脈硬化発症への関与が示唆されている。
根本要因による分類
生活習慣に起因する脂質異常症
喫煙や食生活の乱れ・運動不足・糖尿病などにより、血中脂質値が上昇した状態。食生活の改善や運動の習慣化などにより改善されることが多い。
家族性脂質異常症
LDLの代謝異常など先天的要因による脂質異常症で、治療回復が困難である。
- I型家族性脂質異常症
- 末梢組織が血液中を循環するリポ蛋白から脂肪酸を受け取る際に使われるリポ蛋白リパーゼ、あるいはそれを活性化するアポ蛋白であるapo C-IIの機能不全により、血液中の脂肪が末梢に行き渡らず、血液中に増えるために起こる。血中カイロミクロン濃度の増加が見られる。
- II型家族性脂質異常症
- LDLはLDL受容体を介して、末梢細胞に取り込まれるが、このLDL受容体を欠損あるいは障害を受けた場合に発症し、血中のLDLが増加するために発症する。
- III型家族性脂質異常症
- 末梢細胞によるリポ蛋白認識の際にマーカーとなるアポ蛋白 Eの3種の分子種(apo E2、E3およびE4)の内、正常型のE3に対して受容体への結合力の弱いE2を発現していると、カイロミクロンレムナントやIDLの血中からのクリアランスが低下してこれらが蓄積するために発症する。特徴的な症状には手掌線条黄色腫がある。
二次性脂質異常症
甲状腺機能低下症・ネフローゼ症候群・神経性食思不振症・一部の型の糖原病・リポジストロフィなどによる。閉経後や妊娠中も血清脂質が上昇する。
合併症
- 黄色腫(皮膚にできる黄色い腫瘤)
治療
体脂肪率の減少により大きく数値を低下させることが可能である。2-3kgの減量が大きな影響を与える。 治療内容はLDL-C値≧140mg/dl,TG≧150mg/dl,HDL-C<40mg/dlにてその他の動脈硬化のリスクファクターによって異なる。空腹時にTG<400mg/dlであれば、LDL-C=TC-HDL-TG/5という関係式も知っておくと便利である。LDL-Cが上昇している場合は甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、ステロイドの使用状況も念頭におき、二次性であれば原疾患の治療を優先する。
食事療法
日常の生活強度に合った食事をする必要がある。目安は、
- 総エネルギー量(kcal)= 標準体重(kg) × 生活活動強度指数(kcal)
- 生活活動強度指数
- 軽労働(主婦・デスクワーク):25-30 kcal
- 中労働(製造・販売業・飲食店):30-35 kcal
- 重労働(建築業・農業・漁業):35-40 kcal
- 生活活動強度指数
で計算し、食事量を決める。エネルギー量の計算は、80kcalを1単位として計算する方法が簡単で、一般的である。例えば、デスクワークの多い成人男性では、1500kcal~1600kcal(約20単位)ということになる。
その他、以下の点に注意して食事をすることが重要である。
- 毎日、いろいろな食品をとり混ぜて、バランスよく摂取する。
- アルコール、甘いものは控えめにする。
- 食物繊維をとる。
- 1日3食きちんと食べる。
食事療法でよく問題になる卵に関しては、2006年11月厚生労働省研究班が「卵を毎日食べても食べなくても、心筋梗塞になる危険度はあまり変わらない」との疫学調査を発表した。
運動療法
医者と相談してメニューを決めて実行する。いきなり激しい運動は避けるべきである。(内部リンク:運動療法も参照のこと)
投薬による治療
スタチン系などの脂質降下薬(LLD : lipid lowering drug)である程度血中の中性脂肪やコレステロールを下げることができ、合併症の発症リスクが下がるとされる(→根拠に基づいた医療)。ただし、薬剤治療は脂質異常症の原因を解決するものではないので中止すればまた以前の値に戻ることが多く、そのことを指して「一生やめられない」と表現されることもある。これは、麻薬のように身体依存性があったり、ステロイド製剤のように急に中止できないという意味ではない。根本的なコントロールには生活改善が望まれるが、遺伝素因も大きいため必ずしも生活習慣だけで治療できるものではない。
- 高LDL-Cの治療
HMG-CoA阻害薬であるスタチン系が第一選択となる。重大な副作用としては肝障害と骨格筋障害が知られている。筋肉痛といった症状が出現することが多く、筋炎や横紋筋融解症は極めて稀である。筋疾患や甲状腺機能低下症が認められる場合は横紋筋融解症のリスクが高まるため注意が必要である。高齢者や肝機能障害、腎機能障害がある場合も注意が必要である。重症(目標値よりも50mg/dl以上高い)であればアルバスタチン(リピドール®)、ピタバスタチン(リバロ®)、ロスバスタチン(クレストール®)が選択されることが多く、軽症(目標値との差が30mg/dl以内)ならばプラバスタチン(メバロチン®)、シンバスタチン(リポバス®)、薬物相互作用が気になる場合はプラバスタチン(メバロチン®)、ピタバスタチン(リバロ®)が選択されることが多い。相互作用はマクロライド系抗菌薬、アゾール系抗真菌薬、カルシウム拮抗薬など多岐にわたる。
- 高TGの治療
フィブラートがよく用いられる。フィブラートにはHDL-Cを増加させる作用もある。肝障害、横紋筋融解症のリスクがあり、そのリスクは腎機能障害時に増悪する。また胆汁へのコレステロールが排出を促すため、胆石症を起こすことがあり、既往がある場合は注意が必要である。またSU剤やワーファリンとの相互作用も知られている。フェノフィブラート(リピディル®、トライコア®など)とベザフィブラート(ベサトール®SR、ベザリップ®など)が知られている。フェノフィブラートは尿酸低下作用もあるが、一過性の肝機能障害を起こしやすく、肝障害のある患者では避けられる傾向がある。
LDL吸着療法による治療
LDLアフェレーシスといわれ、重度の家族性脂質異常症を患う人などに行う治療法である。患者の血液を取り出し、LDLなど不要なものをろ過して体内に戻す方法で、血液中のコレステロール量は急激に減少するがすぐに元に戻ってしまうため、2週間に1度は治療を行う必要がある。しかし、これも根本的な解決には至らない。
脂質異常症に由来する疾患
- 動脈硬化症
- 自覚症状はない場合が多いが、血管壁に徐々にコレステロールが蓄積され動脈硬化症が進行することで血液の流れが悪くなる。特に頭蓋内の血管がつまり、脳の一部が死滅する脳梗塞や、心臓の冠動脈の血管が詰まる虚血性心疾患になりやすい。
- 高血圧、糖尿病、肥満とともに死の四重奏と俗称され、現在はメタボリック症候群といわれる。
- 膵炎
- 膵臓の病気。大量飲酒者では高トリグリセリド血症をきたし易く、よく発症する。また、リポ蛋白の一種のカイロミクロンが著しく上昇するリポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症では、膵炎を来し易い。乳児で乳を呑んだあと腹痛を来すなどの場合、中鎖脂肪酸(MCT)を主体とした治療用ミルクを必要とする。妊娠中に発症した場合、血液浄化療法によるカイロミクロンの除去や中心静脈栄養による厳密な脂肪制限を必要とする場合もある。
関連書籍
- 専門医がやさしく教える高脂血症2(西崎統ほか、PHP研究所、2001年3月)
- 中性脂肪とコレステロール(石川俊次、主婦の友社、2000年7月)
- 高脂血症診療ガイド(村瀬敏郎、文光堂、2005年5月)
- コレステロールをみる・考える(齋藤康・山田信博編、南江堂、1999年7月)
- 高脂血症治療ガイド2004年版(日本動脈硬化学会編、日本動脈硬化学会、2004年7月)
関連項目
外部リンク
- 日本動脈硬化学会
- 家族性高コレステロール血症について(家族性高脂血症) 金沢大学馬渕教授
- 病気の解説のページ
- コレステロールゼミナール(コレゼミ) MSD株式会社
- コレステロールの異常 メルクマニュアル家庭版