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「複素指数函数」の版間の差分

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[[複素解析]]における'''複素指数函数'''(ふくそしすうかんすう、{{lang-en-short|''complex exponential function''}})は、[[ネイピア数]] {{mvar|e}} を底とする複素変数 {{mvar|z}} に関する[[指数函数|自然指数函数]] '''{{math|1=''e{{sup|z}}'' = exp(''z'')}}''' を言う。それは実変数 {{mvar|x}} の[[指数函数|自然指数函数]] {{mvar|e{{sup|x}}}} の複素変数 {{mvar|z}} への[[解析接続]]であり、[[解析函数]]としての唯一の拡張である{{sfn|高木|1983|p=230}}。
[[File:Complex_exp.jpg|thumb|right|複素指数函数のグラフ<br />
明度は函数の絶対値を表す - 虚軸方向の変化に対して一定であり、実軸方向では右へ行く(引数の実部が大きい)ほど明るくなっているのがわかる。<br />
色相は函数の偏角を表す - 実軸方向の変化に対して一定であり、虚軸方向では引数の虚部に対する周期性が色相の繰り返しパターンから読み取れる。]]
[[複素解析]]における'''複素指数函数'''(ふくそしすうかんすう、{{lang-en-short|''complex exponential function''}})は、[[ネイピア数]] {{mvar|e}} を底とする複素変数 {{mvar|z}} に関する[[指数函数|自然指数函数]] '''{{math|''e{{sup|z}}'' {{=}} exp(''z'')}}''' を言う。それは実変数 {{mvar|x}} の[[指数函数|自然指数函数]] {{mvar|e{{sup|x}}}} の複素変数 {{mvar|z}} への[[解析接続]]であり、[[解析函数]]としての唯一の拡張である{{sfnp|高木|1983|p=230}}。


解析接続の一般論から(あるいは直接的な計算により)、実指数函数について成り立つ性質のいくつかは複素指数函数に対してもそのまま成り立ち、またそれにより複素函数 {{math|exp: '''C''' &rarr; '''C'''*}} は複素数の[[加法群]] {{math|'''C'''}} から非零複素数の[[乗法群]] {{math|'''C'''*}} への[[位相群]]の準同型(連続[[指標 (数学)|指標]])として[[微分可能]]かつ {{math|exp&prime;(1) {{=}} 1}} なるものとして特徴づけられる{{sfnp|ブルバキ|1968b|p=97}}。
解析接続の一般論から(あるいは直接的な計算により)、実指数函数について成り立つ性質のいくつかは複素指数函数に対してもそのまま成り立ち、またそれにより複素函数 {{math|exp: '''C''' '''C'''*}} は複素数の[[加法群]] {{math|'''C'''}} から非零複素数の[[乗法群]] {{math|'''C'''*}} への[[位相群]]の準同型(連続[[指標 (数学)|指標]])として[[微分可能]]かつ {{math|1=exp&prime;(1) = 1}} なるものとして特徴づけられる{{sfn|ブルバキ|1968b|p=97}}。


{{mvar|x}} が実数であるとき、{{mvar|i}} を[[虚数単位]]として純虚指数函数 {{math|exp(''ix'')}} は[[オイラーの公式]]
{{mvar|x}} が実数であるとき、{{mvar|i}} を[[虚数単位]]として純虚指数函数 {{math|exp(''ix'')}} は
: <math>\exp(ix)=\cos x+i\sin x</math>
: [[オイラーの公式]]: <math>\exp(ix)=\cos(x)+i\sin(x)</math>
を満たす。右辺は "{{math|'''c'''os + '''''i''&thinsp;s'''in}}" の省略形として '''[[純虚指数函数|{{math|cis(''x'')}}]]''' とも書かれる。函数 {{math|cis: '''R''' &rarr; '''U'''}} は実数の加法群 {{math|'''R'''}} から絶対値 {{math|1}} の複素数の乗法群 {{math|'''U'''}} への全射な連続指標であり、そのようなものの中で {{math|cis(2''&pi;'') {{=}} 1}}(つまり[[周期函数|周期]] {{math|2''&pi;''}} あるいは[[核 (代数学)|核]] {{math|ker(cis) {{=}} 2''&pi;'''''Z'''}})のものとして特徴づけられる{{sfnp|ブルバキ|1968b|p=97}}。
を満たす。右辺は "{{math|'''c'''os + '''''i''&thinsp;s'''in}}" の省略形として '''[[純虚指数函数|{{math|cis(''x'')}}]]''' とも書かれる。函数 {{math|cis: '''R''' '''U'''}} は実数の加法群 {{math|'''R'''}} から絶対値 {{math|1}} の複素数の乗法群 {{math|'''U'''}} への全射な連続指標であり、そのようなものの中で {{math|1=cis(2''π'') = 1}}(つまり[[周期函数|周期]] {{math|}} あるいは[[核 (代数学)|核]] {{math|1=ker(cis) = 2''π'''''Z'''}})のものとして特徴づけられる{{sfn|ブルバキ|1968b|p=97}}。


[[File:Complex_exp.jpg|thumb|right|複素指数函数のグラフ:<br />
任意の複素数 {{mvar|z}} は、適当な二つの実数 {{mvar|x, y}} を用いて {{math|''z'' {{=}} ''x'' + ''iy''}} と表わされるから、複素指数函数は実二変数の函数として '''{{math|exp(''z'') {{=}} exp(''x'')&sdot;cis(''y'')}}''' と書くこともできる。これは既知の実函数としての {{math|exp, cos, sin}} のみからなり、これを複素函数 {{math|exp}} の定義として採用することもある。そのような定義の仕方は、位相群としても {{math|'''C''' &cong; '''R''' &times; '''R'''}}(加法群の同型)と {{math|'''C''' &cong; '''R'''{{sub|&ge;0}} &times; {{sfrac|'''U'''|2''&pi;'''''Z'''}}}}(極形式)を通じて正当化できる。
* 明度は函数の絶対値を表す: 虚軸方向の変化に対して一定であり、実軸方向では右へ行く(引数の実部が大きい)ほど明るくなっているのがわかる。<br />
* 色相は函数の偏角を表す: 実軸方向の変化に対して一定であり、虚軸方向では引数の虚部に対する周期性が色相の繰り返しパターンから読み取れる。]]
任意の複素数 {{mvar|z}} は、適当な二つの実数 {{mvar|x, y}} を用いて {{math|''z'' {{=}} ''x'' + ''iy''}} と表わされるから、複素指数函数は実二変数の函数として '''{{math|1=exp(''z'') = exp(''x'')&sdot;cis(''y'')}}''' と書くこともできる。これは既知の実函数としての {{math|exp, cos, sin}} のみからなり、これを複素函数 {{math|exp}} の定義として採用することもある。そのような定義の仕方は、位相群としても {{math|'''C''' &cong; '''R''' × '''R'''}}(加法群の同型)と {{math|'''C''' &cong; '''R'''{{sub|&ge;0}} × '''U'''/2''π'''''Z'''}}(極形式)を通じて正当化できる。


ガウス平面内の帯 {{math|'''B''' :{{=}} {{mset|''x'' + ''yi'' : &minus;''π'' &lt; ''y'' &lt; ''&pi;''}}}} への制限 {{math|exp: '''B''' &rarr; '''F'''}} ({{math|'''F''' :{{=}} '''C''' {{setminus}} '''R'''{{sub|&le;0}} (&sub; '''C'''*)}}) は一価の函数として[[全単射]]となり、{{mathbf|F}} 上でこの函数の一価な[[逆函数]]として対数の主値 {{math|Log: '''F''' &rarr; '''B'''}} が定まる。この {{math|Log}} は正の実半軸 {{math|'''R'''{{sub|&ge;}}}} 上の実函数としての[[自然対数]]函数 {{math|log{{sub|''e''}}}} の {{mvar|F}} への解析的延長であり、特に {{math|'''z''' &isin; '''F'''}} に対して {{math|Log(''z'') {{=}} &int;{{su|b=1|p=''z''}}{{sfrac|''d&zeta;''|''&zeta;''}}}} を満たす{{sfnp|ブルバキ|1968a|pp=98&ndash;99|loc=第3章 §1.7 複素対数関数}}[[解析接続]]の一般論により
ガウス平面内の帯 {{math|1='''B''' := {{mset|''x'' + ''yi'' : &minus;''π'' < ''y'' < ''π''}}}} への制限 {{math|exp: '''B''' '''F'''}} ({{math|1='''F''' := '''C''' {{setminus}} '''R'''{{sub|&le;0}} (&sub; '''C'''*)}}) は一価の函数として[[全単射]]となり、{{mathbf|F}} 上でこの函数の一価な[[逆函数]]として対数の主値 {{math|Log: '''F''' '''B'''}} が定まる。この {{math|Log}} は正の実半軸 {{math|'''R'''{{sub|&ge;}}}} 上の実函数としての[[自然対数]]函数 {{math|log{{sub|''e''}}}} の {{mvar|F}} への解析的延長であり、特に {{math|'''z''' &isin; '''F'''}} に対して {{math|1=Log(''z'') = {{su|b=1|p=''z''}}{{sfrac|''''|''ζ''}}}} を満たす{{sfn|ブルバキ|1968|pp=98&ndash;99|loc=第3章 §1.7 複素対数関数}}[[解析接続]]の一般論により
: <math>\log(z)=\int_1^z\frac{\mathit{d\zeta}}{\zeta}</math>
: <math>\log(z) = \int_1^z \frac{\mathit{d\zeta}}{\zeta}</math>
によって、[[複素対数函数]] {{math|log}} が {{math|Log}} をさらに延長した解析函数として得られるが、これは[[分岐点 (数学)|特異点]] {{math|''z'' {{=}} 0}} を囲む閉曲線に沿った解析接続によって[[多価函数|無限多価性]]を示す。それでも非零複素数 {{mvar|z}} に対して等式 {{math|exp(log(''z'')) {{=}} ''z''}} は常に成り立つ(その意味では {{math|log}} はまだ {{math|exp}} の「逆函数」である)。
によって、[[複素対数函数]] {{math|log}} が {{math|Log}} をさらに延長した解析函数として得られるが、これは[[分岐点 (数学)|特異点]] {{math|1=''z'' = 0}} を囲む閉曲線に沿った解析接続によって[[多価函数|無限多価性]]を示す。それでも非零複素数 {{mvar|z}} に対して等式 {{math|1=exp(log(''z'')) = ''z''}} は常に成り立つ(その意味では {{math|log}} はまだ {{math|exp}} の「逆函数」である)。


== 定義 ==
== 定義 ==
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|image1= Exponential Function (Imag Part).png
|image1= Exponential Function (Imag Part).png
|image2= Exponential Function (Imag Part) Density.png
|image2= Exponential Function (Imag Part) Density.png
|footer= {{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の[[虚部]]
|footer= {{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の虚部
}}
}}
複素指数函数の定義の仕方は大まかに二通り存在する。
複素指数函数の定義の仕方は大まかに二通り存在する。
; 級数による定義{{sfnp|高木|1983|p=193}}
; 級数による定義{{sfn|高木|1983|p=193}}
: 任意の[[複素数]] {{mvar|z}} に対して <math display="block">\exp z:=\sum^{\infin}_{n=0}\frac{1}{n!}z^n</math> によって定まる[[整函数]]をいう。
: 任意の[[複素数]] {{mvar|z}} に対して <math display="block">\exp(z) := \sum^{\infin}_{n=0} \frac{1}{n!}z^n</math> によって定まる[[整函数]]をいう。
; 実函数を用いた定義{{sfnp|木村|高野|1991|p=25}}{{sfnp|ブルバキ|1968a|p=96|loc=第3章 §1.5. 複素指数関数}}
; 実函数を用いた定義{{sfn|木村|高野|1991|p=25}}{{sfn|ブルバキ|1968|p=96|loc=第3章 §1.5. 複素指数関数}}
: 複素指数函数は実二変数 {{mvar|x, y}} の函数として <math display="block">\exp(x+iy) :=\exp x\;(\cos y + i\sin y)</math> と定義とされる。
: 複素指数函数は実二変数 {{mvar|x, y}} の函数として <math display="block">\exp(x+iy) := e^x\cdot(\cos(y) + i\sin(y))</math> と定義とされる。
これら二つの定義の同値性を確かめることは、任意の実数 {{mvar|y}} に対する[[オイラーの公式]] {{math|exp(''iy'') {{=}} cos&thinsp;''y'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''y''}} を証明することに他ならない。
これら二つの定義の同値性を確かめることは、任意の実数 {{mvar|y}} に対する[[オイラーの公式]] {{math|1=exp(''iy'') = cos(''y'') + ''i''&thinsp;sin(''y'')}} を証明することに他ならない。


複素変数への拡張は他にも方法があり、マクローリン展開を用いずに微分の自己再帰性と初期条件だけを与えた[[正則函数]]を考えても同じ結論を得ることができる。

== 基本的な性質 ==
[[File:Exponential Function Modulus.png|thumb|right|{{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の絶対値]]
[[File:Exponential Function Modulus.png|thumb|right|{{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の絶対値]]
[[File:Exponential Function Argument.png|thumb|right|{{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の偏角]]
[[File:Exponential Function Argument.png|thumb|right|{{math|exp(''x'' + ''iy'')}} の偏角]]
{{mvar|x, y}} は実数として、{{math|1=''z'' = ''x'' + ''yi'' = {{abs|''z''}}''e''{{sup|arg ''z''}}}} と書く。以下の性質は定義から直ちに確認できる:{{sfn|木村|高野|1991|p=25}}{{sfn|ブルバキ|1968|p=97|loc=第3章 §1.6. 関数 {{mvar|e{{sup|z}}}} の性質}}
複素変数への拡張は他にも方法があり、マクローリン展開を用いずに微分の自己再帰性と初期条件だけを与えた[[正則函数]]を考えても同じ結論を得ることができる。
* {{math|1=''y'' = 0}} のとき明らかに {{math|1=exp(''z'') = exp(''x'') = ''e{{sup|x}}''}} は実[[指数函数]]であり、したがって複素指数函数は実指数函数の複素変数への拡張である。また特に {{math|1=exp(0) = ''e''{{sup|0}} = 1}} が成り立つ。
{{clear}}
* '''周期性''': 任意の複素数 {{mvar|z}} に対して {{math|1=exp(''z''+2''πi'') = exp(''z'')}} が成り立つ。すなわち、複素指数函数は周期(実は基本周期){{math|2''πi''}} を持つ[[周期函数]]である。一般に任意の[[整数]] {{mvar|n}} に対して {{math|1=exp(''z''+2''nπi'') = exp(''z'')}} が成り立つ。この周期性のために、逆函数となるべき[[複素対数函数|対数函数の複素数への拡張]]は無限多価となる。
== 基本的な性質 ==
* 絶対値に関して、{{math|1={{abs|exp(''z'')}} = {{abs|''e{{sup|x}}''}}}} および {{math|1={{abs|exp(''iy'')}} = 1}} が成り立つ。すなわち、複素指数函数の絶対値は引数の実部のみによって決まり、引数の虚部の影響を受けない。また特に任意の {{mvar|z}} に対して {{math|exp(''z'') &ne; 0}} が言える。
{{mvar|x, y}} は実数として、{{math|''z'' {{=}} ''x'' + ''yi'' {{=}} {{abs|''z''}}''e''{{sup|arg ''z''}}}} と書く。以下の性質は定義から直ちに確認できる{{sfnp|木村|高野|1991|p=25}}{{sfnp|ブルバキ|1968a|p=97|loc=第3章 §1.6. 関数 {{mvar|e{{sup|z}}}} の性質}}
* [[複素共軛]]に関して、{{math|1={{overline|exp(''z'')}} = exp({{overline|''z''}})}} が成り立つ。
* {{math|''y'' {{=}} 0}} のとき明らかに {{math|exp(''z'') {{=}} exp(''x'') {{=}} ''e{{sup|x}}''}} は実[[指数函数]]であり、したがって複素指数函数は実指数函数の複素変数への拡張である。また特に {{math|''e''{{sup|0}} {{=}} 1}} が成り立つ。
* '''周期性''' - 任意の複素数 {{mvar|z}} に対して {{math|exp(''z'' + 2''&pi;i'') {{=}} exp(''z'')}} が成り立つ。すなわち、複素指数函数は周期(実は基本周期){{math|2''&pi;i''}} を持つ[[周期函数]]である。一般に任意の[[整数]] {{mvar|n}} に対して {{math|exp(''z'' + 2''n&pi;i'') {{=}} exp(''z'')}} が成り立つ。この周期性のために、逆函数となるべき[[複素対数函数|対数函数の複素数への拡張]]は無限多価となる。
* 絶対値に関して、{{math|{{abs|''e{{sup|z}}''}} {{=}} {{abs|''e{{sup|x}}''}}}} および {{math|{{abs|''e{{sup|iy}}''}} {{=}} 1}} が成り立つ。すなわち、複素指数函数の絶対値は引数の実部のみによって決まり、引数の虚部の影響を受けない。また特に任意の {{mvar|z}} に対して {{math|exp(''z'') &ne; 0}} が言える。
* [[複素共軛]]に関して、{{math|{{overline|exp ''z''}} {{=}} exp({{overline|''z''}})}} が成り立つ。


さらに以下の性質は重要である{{sfnp|木村|高野|1991|p=25}}{{sfnp|ブルバキ|1968a|p=97|loc=第3章 §1.6. 関数 {{mvar|e{{sup|z}}}} の性質}}
さらに以下の性質は重要である:{{sfn|木村|高野|1991|p=25}}{{sfn|ブルバキ|1968|p=97|loc=第3章 §1.6. 関数 {{mvar|e{{sup|z}}}} の性質}}
* '''指数法則''' {{math|''e{{sup|z}}''&sdot;''e{{sup|w}}'' {{=}} ''e''{{sup|''z''+''w''}}}} が成り立つ。
* '''指数法則''': {{math|1=exp(''z'')&sdot;exp(''w'') = exp(''z'' + ''w'')}} が成り立つ。
* 複素指数函数は[[コーシー&ndash;リーマン方程式]]を満たすから[[正則函数|複素微分可能]]であって、{{math|(''e{{sup|z}}'')&prime; {{=}} ''e{{sup|z}}''}} が成立する。
* 複素指数函数は[[コーシー&ndash;リーマン方程式]]を満たすから[[正則函数|複素微分可能]]であって、{{math|1=exp&prime;(''z'') = exp(''z'')}} が成立する。
これらは三角函数の性質から導くこともできるし、級数による定義に対して[[コーシー積]]を直接計算しても示せる。あるいは実指数函数の対応する性質に[[解析接続]]の一般論を適用しても示せる。
これらは三角函数の性質から導くこともできるし、級数による定義に対して[[コーシー積]]を直接計算しても示せる。あるいは実指数函数の対応する性質に[[解析接続]]の一般論を適用しても示せる。


== 関連概念 ==
== 参考文献 ==
=== 一般の複素数冪 ===
{{main|冪乗}}{{see also|複素対数函数|冪函数#複素変数冪函数}}
[[複素対数函数]] {{math|log ''z''}} が既知ならば、一般の複素数 {{math|''w'' &ne; 0}} および {{mvar|z}} に対して、{{anchor|複素数の複素数乗}} (''complex exponentiation'') としての{{anchor|一般の冪}}は {{math|''w{{sup|z}}'' {{coloneqq}} exp(''z''&sdot;log(''w''))}} と定義される<ref name="MathWorld">[[#Reference-Mathworld-Complex Exponentiation|Weisstein. MathWorld]], ''Complex Exponentiation''.</ref>。これは固定された {{mvar|w}} を底とし、複素変数 {{mvar|z}} を指数とする指数函数と見ることもできるし、あるいは冪指数 {{mvar|z}} を固定して、{{math|''w'' &ne; 0}} を変数とする[[冪函数#複素変数冪函数|冪函数]]と見ることもできる。これは {{math|log ''w''}} の多価性([[複素数の偏角|偏角]] {{math|arg ''w''}} の不定性)により一般には[[多価函数]]となり、{{math|log}} の主値から {{mvar|w{{sup|z}}}} の主値が定まる。例えば、{{mvar|n}} を整数として
:<math>2^{1/2}=\sqrt{2}\,\exp(n\pi i)=\pm\sqrt{2}</math>
となる。ただし、ふつうは {{mvar|e<sup>z</sup>}} を {{math|exp(''z'' log ''e'')}} によって再定義しない(そうすれば常に、{{math|''e<sup>z</sup>'' {{=}} exp(''z'')}} であり、曖昧さを生じない)。

実函数としての指数・対数や、複素数の整数冪・実数冪などに対しては恒等式となるようないくつかの等式は、複素数の複素数乗を含むように一般化しようとするとき、たとえ複素数冪や複素対数が「一価」函数として定義される場合であってさえも、成立しないことがあり得る(詳細は[[冪乗#指数・対数法則の不成立]]を参照)。
* 等式 {{math|log(''b''<sup>''x''</sup>) {{=}} ''x''&sdot;log&thinsp;''b''}} は任意の複素数に対しては成り立たない。少なくとも、枝の選択は等式の成否に関わる。例えば、常に複素対数の{{仮リンク|主枝 (数学)|label=主枝|en|principal branch}}を選ぶものとすれば <math display="block">i\pi=\log(-1)=\log\left[(-i)^2\right]\neq 2\log(-i)=2\left(-\frac{i\pi}{2}\right)=-i\pi</math> は反例になる。
* 等式 {{math|(''bc'')<sup>''x''</sup> {{=}} ''b''<sup>''x''</sup>''c''<sup>''x''</sup>}} および {{math|(''b''/''c'')<sup>''x''</sup> {{=}} ''b''<sup>''x''</sup>/''c''<sup>''x''</sup>}} は {{mvar|b, c}} および {{mvar|x}} を任意の複素数とした場合には成立しない{{efn|たとえば主枝をとった計算で <math display="block">1=\left[(-1)\times(-1)\right]^{1/2}\not=(-1)^{1/2}(-1)^{1/2}=-1</math> である。}}。
* 等式 {{math|(''e''<sup>''x''</sup>)<sup>''y''</sup> {{=}} ''e''<sup>''xy''</sup>}} は {{mvar|x, y}} が任意の複素数である場合には成り立たない{{sfnp|Steiner|Clausen|Abel|1827}}{{efn|たとえば {{math|''e''{{sup|2''&pi;i''}} {{=}} 1}} より {{math|(''e''{{sup|2''&pi;i''}}){{sup|2''&pi;i''}} {{=}} 1}} であるが、{{math|''e''{{sup|2''&pi;i''&sdot;2''&pi;i''}} {{=}} ''e''{{sup|&minus;4''&pi;''{{sup|2}}}} &ne; 1}} である。}}。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{reflist|30em}}
{{reflist|30em}}
* {{cite book | 和書 | last= 高木 | first=貞治 | authorlink= 高木貞治 | title= 解析概論 | publisher= [[岩波書店]] | edition= 改訂第三版 | year= 1983 | ref=harv}}

* {{cite book | 和書 | last1= 木村 | first1=俊房 | authorlink1= 木村俊房 | last2= 高野 | first2= 恭一 | title= 関数論 | series= 新数学講座 | publisher= [[朝倉書店]] | year=1991 | ref= harv}}
== 参考文献 ==
* {{cite book | 和書 | last= ブルバキ | first=ニコラ | authorlink=ニコラ・ブルバキ|series=数学原論|title=実一変数関数(基礎理論)1 | translator= 小島順、村田全、加地紀臣男 | publisher= 東京図書 | year= 1968 | ref= harv}}
* {{cite journal|last1=Steiner|first1=J.|last2=Clausen|first2=T.|last3=Abel|first3=N. H.|title=Aufgaben und Lehrsatze, erstere aufzulosen, letztere zu beweisen|trans_title=Problems and propositions, the former to solve, the later to prove|url=http://gdz.sub.uni-goettingen.de/no_cache/dms/load/img/?IDDOC=270662|location=[[ベルリン|Berlin]]|publisher={{enlink|Walter de Gruyter|p=off|s=off}}|journal=[[クレレ誌|Journal für die reine und angewandte Mathematik]]|volume=2|year=1827|month=January|pages=286–287|issn=0075-4102|oclc=1782270|doi=10.1515/crll.1827.2.96|ref=harv}}
* {{cite book|和書|last=高木|first=貞治|authorlink=高木貞治|title=解析概論|publisher=[[岩波店]]|edition=改訂第三版|year=1983|ref=harv}}
* {{cite book | 和書 | last=ブルバキ | first= ニコラ | series= 数学原論 | title= 位相3 | translator= 笠原皓司、清水達雄 | publisher= 東京図 | year= 1968 | ref= {{SfnRef|ブルバキ|1968b}}}}
* {{cite book|和書|last1=木村|first1=俊房|authorlink1=木村俊房|last2=高野|first2=恭一|title=関数論|series=新数学講座|publisher=[[朝倉書店]]|year=1991|ref=harv}}
* {{cite book|和書|last=ブルバキ|first=ニコラ|authorlink=ニコラ・ブルバキ|series=数学原論|title=実一変数関数(基礎理論)1|translator=小島順、村田全、加地紀臣男|publisher=東京図書|year=1968|ref={{SfnRef|ブルバキ|1968a}}}}
* {{cite book|和書|last=ブルバキ|first=ニコラ|series=数学原論|title=位相3|translator=笠原皓司、清水達雄|publisher=東京図書|year=1968|ref={{SfnRef|ブルバキ|1968b}}}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{MathWorld|title=Complex Exponentiation|urlname=ComplexExponentiation}}
* {{MathWorld | title= Complex Exponentiation | urlname= ComplexExponentiation}}
* {{PlanetMath|title=complex exponential function|urlname=complexexponentialfunction}}
* {{PlanetMath | title= complex exponential function | urlname= complexexponentialfunction}}
* {{SpringerEOM|urlname=Exponential_function|title=Exponential function}}
* {{SpringerEOM | urlname= Exponential_function | title= Exponential function}}


{{DEFAULTSORT:ふくそしすうかんすう}}
{{DEFAULTSORT:ふくそしすうかんすう}}

2017年2月10日 (金) 16:25時点における版

複素解析における複素指数函数(ふくそしすうかんすう、: complex exponential function)は、ネイピア数 e を底とする複素変数 z に関する自然指数函数 ez = exp(z) を言う。それは実変数 x自然指数函数 ex の複素変数 z への解析接続であり、解析函数としての唯一の拡張である[1]

解析接続の一般論から(あるいは直接的な計算により)、実指数函数について成り立つ性質のいくつかは複素指数函数に対してもそのまま成り立ち、またそれにより複素函数 exp: CC* は複素数の加法群 C から非零複素数の乗法群 C* への位相群の準同型(連続指標)として微分可能かつ exp′(1) = 1 なるものとして特徴づけられる[2]

x が実数であるとき、i虚数単位として純虚指数函数 exp(ix)

オイラーの公式:

を満たす。右辺は "cos + i sin" の省略形として cis(x) とも書かれる。函数 cis: RU は実数の加法群 R から絶対値 1 の複素数の乗法群 U への全射な連続指標であり、そのようなものの中で cis(2π) = 1(つまり周期 あるいは ker(cis) = 2πZ)のものとして特徴づけられる[2]

複素指数函数のグラフ:
* 明度は函数の絶対値を表す: 虚軸方向の変化に対して一定であり、実軸方向では右へ行く(引数の実部が大きい)ほど明るくなっているのがわかる。
* 色相は函数の偏角を表す: 実軸方向の変化に対して一定であり、虚軸方向では引数の虚部に対する周期性が色相の繰り返しパターンから読み取れる。

任意の複素数 z は、適当な二つの実数 x, y を用いて z = x + iy と表わされるから、複素指数函数は実二変数の函数として exp(z) = exp(x)⋅cis(y) と書くこともできる。これは既知の実函数としての exp, cos, sin のみからなり、これを複素函数 exp の定義として採用することもある。そのような定義の仕方は、位相群としても CR × R(加法群の同型)と CR≥0 × U/2πZ(極形式)を通じて正当化できる。

ガウス平面内の帯 B := {x + yi : −π < y < π} への制限 exp: BF (F := CR≤0 (⊂ C*)) は一価の函数として全単射となり、F 上でこの函数の一価な逆函数として対数の主値 Log: FB が定まる。この Log は正の実半軸 R 上の実函数としての自然対数函数 logeF への解析的延長であり、特に zF に対して Log(z) = ∫z
1
/ζ
を満たす。[3]解析接続の一般論により

によって、複素対数函数 logLog をさらに延長した解析函数として得られるが、これは特異点 z = 0 を囲む閉曲線に沿った解析接続によって無限多価性を示す。それでも非零複素数 z に対して等式 exp(log(z)) = z は常に成り立つ(その意味では log はまだ exp の「逆函数」である)。

定義

exp(x + iy) の実部
exp(x + iy) の虚部

複素指数函数の定義の仕方は大まかに二通り存在する。

級数による定義[4]
任意の複素数 z に対して によって定まる整函数をいう。
実函数を用いた定義[5][6]
複素指数函数は実二変数 x, y の函数として と定義とされる。

これら二つの定義の同値性を確かめることは、任意の実数 y に対するオイラーの公式 exp(iy) = cos(y) + i sin(y) を証明することに他ならない。

複素変数への拡張は他にも方法があり、マクローリン展開を用いずに微分の自己再帰性と初期条件だけを与えた正則函数を考えても同じ結論を得ることができる。

基本的な性質

exp(x + iy) の絶対値
exp(x + iy) の偏角

x, y は実数として、z = x + yi = |z|earg z と書く。以下の性質は定義から直ちに確認できる:[5][7]

  • y = 0 のとき明らかに exp(z) = exp(x) = ex は実指数函数であり、したがって複素指数函数は実指数函数の複素変数への拡張である。また特に exp(0) = e0 = 1 が成り立つ。
  • 周期性: 任意の複素数 z に対して exp(z+2πi) = exp(z) が成り立つ。すなわち、複素指数函数は周期(実は基本周期)2πi を持つ周期函数である。一般に任意の整数 n に対して exp(z+2nπi) = exp(z) が成り立つ。この周期性のために、逆函数となるべき対数函数の複素数への拡張は無限多価となる。
  • 絶対値に関して、|exp(z)| = |ex| および |exp(iy)| = 1 が成り立つ。すなわち、複素指数函数の絶対値は引数の実部のみによって決まり、引数の虚部の影響を受けない。また特に任意の z に対して exp(z) ≠ 0 が言える。
  • 複素共軛に関して、exp(z) = exp(z) が成り立つ。

さらに以下の性質は重要である:[5][7]

これらは三角函数の性質から導くこともできるし、級数による定義に対してコーシー積を直接計算しても示せる。あるいは実指数函数の対応する性質に解析接続の一般論を適用しても示せる。

参考文献

  1. ^ 高木 1983, p. 230.
  2. ^ a b ブルバキ 1968b, p. 97.
  3. ^ ブルバキ 1968, pp. 98–99, 第3章 §1.7 複素対数関数.
  4. ^ 高木 1983, p. 193.
  5. ^ a b c 木村 & 高野 1991, p. 25.
  6. ^ ブルバキ 1968, p. 96, 第3章 §1.5. 複素指数関数.
  7. ^ a b ブルバキ 1968, p. 97, 第3章 §1.6. 関数 ez の性質.
  • 高木, 貞治『解析概論』(改訂第三版)岩波書店、1983年。 
  • 木村, 俊房、高野, 恭一『関数論』朝倉書店〈新数学講座〉、1991年。 
  • ブルバキ, ニコラ 著、小島順、村田全、加地紀臣男 訳『実一変数関数(基礎理論)1』東京図書〈数学原論〉、1968年。 
  • ブルバキ, ニコラ 著、笠原皓司、清水達雄 訳『位相3』東京図書〈数学原論〉、1968年。 

関連項目

外部リンク

  • Weisstein, Eric W. "Complex Exponentiation". mathworld.wolfram.com (英語).
  • complex exponential function - PlanetMath.(英語)
  • Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Exponential function”, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Exponential_function