国際コミュニケーション英語能力テスト
国際コミュニケーション英語能力テスト(こくさいコミュニケーション えいごのうりょくテスト、Test Of English for International Communication、通称「TOEIC(トーイック)」)は、英語を母語としない者を対象とし、英語によるコミュニケーション能力を検定するための試験である。
試験問題は米国のETS(Educational Testing Service;教育試験サービス)により作成され、日本では財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会が年8回(1・3・5・6・7・9・10・11月)、全国80都市でTOEIC公開テストを実施している。受験料は5,985円となっている(第149回TOEIC公開テスト―2009年9月13日(日)実施―から受験料が改定された。旧受験料は6,615円)。
歴史
1979年、日本経済団体連合会と通商産業省(当時)の要請に応えて 米国ETS(Educational Testing Service、教育試験サービス)(en:Educational Testing Service)が開発した。
概要
- 試験は約60ヶ国で実施され、年間延べ500万人が受験している[1]。国内では年8回実施され、受験者は年間約160万人となっている。
- 非英語圏では社員の採用や人事評価にスコアを用いる例がある。近年では大学院でも、英検やTOEFLと同様に受験生の英語運用能力の判定材料に用いる動きが見られる。例えば、フランス語圏の大学のビジネススクールで、卒業要件にTOEICスコアを基準となっている等である。
- 受験者は聞き取り (Listening) 100問と読解 (Reading) 100問から構成される計200問の試験を受け、それらの合計がスコアとして認定される。受験者のスコアは、素点による絶対評価ではなく、その回における全受験者の結果との相対評価により算出され、10~990点の間で5点刻みで評価される(「聞き取り」と「読解」でそれぞれ5~495点)。受験者数が多いことから、スコアへの信頼性が高いとされる。
- TOEIC運営委員会では、「公開テストの採点はETSで実施し、まずは全受験者の素点を出し、各レベル毎の正解率で著しく悪い問題は採点の対象外にする等をして毎回均一のレベルになるようにしている」との事。[2]
- TOEICには2つの形式があり、1つは個人に対して実施され、ETSによりスコアが正式に認定される「公開テスト (Secure Program Test; SP Test) 」、もう1つは過去の公開テストで出題された問題を使って企業や学校等の団体で随時実施される「IPテスト(Institutional Program;団体特別受験制度)」である。
- 設問は主にビジネスにおける活動や場面、状況を想定して作られている。合否判定はなく、受験時におけるスコアを認定する制度を採用している。試験問題は各国共通であり、評価は統計的手法により行われるため、各回で問題の難易度に多少の差があっても受験者の英語運用能力が同等であればスコアに大幅な変化は生じないとされている。なお、受験後に発行される「Official Score Certificate(公式認定証)」に有効期限は設定されていない[3]。
評価
スコアの10~990点に応じて、コミュニケーション能力のレベル(Proficiency Scale)がA, B, C, D, Eの5段階で評価される。また、スコア分布も公開され、受験者中のおおよその順位を知ることもできる。TOEICスコアとコミュニケーション能力レベルとの相関表は以下のとおりである。
レベル TOEICスコア 評価 ガイドライン A 860点~ Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる。 自己の経験の範囲内では、専門外の分野の話題に対しても十分な理解とふさわしい表現ができる。Native Speakerの域には一歩隔たりがあるとはいえ、語彙・文法・構文のいずれをも正確に把握し、流暢に駆使する力を持っている。 B 730点~855点 どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている。 通常会話は完全に理解でき、応答もはやい。話題が特定分野にわたっても、対応できる力を持っている。業務上も大きな支障はない。正確さと流暢さに個人差があり、文法・構文上の誤りが見受けられる場合もあるが、意思疎通を妨げるほどではない。 C 470点~725点 日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる。 通常会話であれば、要点を理解し、応答にも支障はない。複雑な場面における的確な対応や意思疎通になると、巧拙の差が見られる。基本的な文法・構文は身についており、表現力の不足はあっても、ともかく自己の意思を伝える語彙を備えている。 D 220点~465点 通常会話で最低限のコミュニケーションができる。 ゆっくり話してもらうか、繰り返しや言い換えをしてもらえば、簡単な会話は理解できる。身近な話題であれば応答も可能である。語彙・文法・構文ともに不十分なところは多いが、相手がNon-Nativeに特別な配慮をしてくれる場合には、意思疎通をはかることができる。 E ~215点 コミュニケーションができるまでに至っていない。 単純な会話をゆっくり話してもらっても、部分的にしか理解できない。断片的に単語を並べる程度で、実質的な意思疎通の役には立たない。
問題構成(2006年5月からの新構成)
聞き取り
このセクションは合計100問、制限時間は 45分間である(但し、音声の長さに応じて制限時間が多少変わる場合があり、その場合は予め告知される)。
- Part 1 - 写真描写問題 (Photographs) - 1枚の写真を見て、その写真について放送される適切な英文を選ぶ。4択式で合計10問。
- Part 2 - 応答問題 (Question-Response) - 質問文が放送された後、それに対する応答文が3つ放送され、適切なものを選ぶ。合計30問。
- Part 3 - 会話問題 (Short Conversations) - 2人の会話を聞いて、その会話についての質問に対し最も適当な選択肢を選ぶ。質問文と選択肢は問題用紙に記載されている。4択式で合計30問。
- Part 4 - 説明文問題 (Short Talks) - ナレーションを聞いて、それについての質問に対し適切な選択肢を選ぶ。1つのナレーションにつき複数問出題される。質問と選択肢は問題用紙に記載されており、4択式で合計30問。
旧構成の Part 3、Part 4の問題文は印刷のみであったが、新構成では印刷されている問題文が音声でも読み上げられる。またPart 3、Part 4の1つの会話・説明文に対する問題数が2~3問と不定であったものが、新構成ではそれぞれ3問に固定されている。
読解
このセクションは合計100問、制限時間は75分間である。
- Part 5 - 短文穴埋め問題 (Incomplete Sentences) - 短文の一部が空欄になっていて、4つの選択肢の中から最も適切な語句を選ぶ。合計40問。
- Part 6 - 長文穴埋め問題 (Text Completion) - 手紙などの長文のうち複数の箇所が空欄になっていて、それぞれ4つの選択肢から最も適切な語句を選ぶ。合計12問。
- Part 7 - 読解問題 (Reading Comprehension) - 広告、手紙などの英文を読み、それについての質問に答える。読解すべき文書が一つのもの (Single passage) が28問。「手紙+タイムテーブル」など読解すべき文書が2つのもの (Double passage) が20問。それぞれ4択式。
再構成・刷新
「国際コミュニケーション」と銘打っておきながら聴き取りテストに北米の発音しか聞こえないのはおかしいという批判があったが、現在では改善が見られる。日本では第122回公開テスト(2006年5月実施)を皮切りに問題の再構成が行われた。主な変更点として以下が挙げられる[4]。
- 問題文の長文化
- 聴き取りテストでの発音として、米国、カナダ、英国、オーストラリア(含ニュージーランド)の発音が採用され、それぞれ25%の割合となっている(但し、聴き取りテストの中での指示や案内の音声は常に米国の発音である)。
- 第1部の写真描写問題の数を削減
- 第6部の誤文訂正問題を廃止し、新たに長文穴埋め問題を導入
- 第7部の読解で単一文書に加え、読解すべき文書が2つのもの(double passage)を導入
新旧両方のTOEIC受験経験者を対象に、(財)国際ビジネスコミュニケーション協会TOEIC運営委員会が行なったアンケート結果[2]によれば、56.8%が再構成後のTOEICは難しくなったと感じている。この傾向は下位層ほど顕著であり、10~395点の受験者では実に85.6%、400~495点の受験者では69.9%、500~595点の受験者では59.3%が「難しくなった」と回答している。また、600~695点の受験者では58.9%、700~795点の受験者では48.6%で、800~895点の受験者では47.9%で、900~990点の受験者では39.8%が「難しくなった」と回答した。
なお、IPテストについても2007年4月から新構成に移行されている[4]。
旧問題構成(2006年3月まで)
聞き取り(旧構成)
このセクションは合計100問で、制限時間は約45分間である。
- Part I - 写真描写問題 (One Picture) - 1枚の写真を見て、その写真について放送される適切な英文を選ぶ。4択式で合計20問。
- Part II - 応答問題 (Question-Response) - 質問文が放送された後、それに対する応答文が3つ放送され、適切なものを選ぶ。合計30問。
- Part III - 会話問題 (Short Conversations) - 2人の会話を聞いて、その会話についての質問に対し最も適当な選択肢を選ぶ。質問文と選択肢は問題用紙に記載されている。4択式で合計30問。
- Part IV - 説明文問題 (Short Talks) - ナレーションを聞いて、それについての質問に対し適切な選択肢を選ぶ。1つのナレーションにつき複数問出題される。質問と選択肢は問題用紙に記載されており、4択式で合計20問。
読解(旧構成)
このセクションは合計100問あり、制限時間は75分間である。
- Part V - 文法・語彙問題 (Incomplete Sentences) - 文の一部が空欄になっていて、4つの選択肢の中から最も適切な語句を選ぶ。合計40問。
- Part VI - 誤文訂正問題 (Error-Recognition) - 文中4箇所に下線が引いてあり、うち語法が誤って使われているものを1つ選択する。合計20問。
- Part VII - 読解問題 (Reading Comprehension) - 広告、手紙などの英文を読み、それについての質問に答える。4択式で合計40問。
LPI
TOEICそのものは上記の通り多肢選択式の試験だが、別料金にてLPI (Language Proficiency Interview)という口述試験を別途行っている。20~25分程度の面接の中で、発音、文法、語彙、理解力などが評価される。以前は本試験で730点(Bクラス)以上を得た受験者のみ対象だったが、2005年4月1日よりこの制限はなくなった。但し、公式ページでは730点以上取得者の受験が推奨されている。
評価はFSIスケールと呼ばれる各言語共通の基準により、0、0+、1、1+、…(以後4+まで。ノーマークとプラスがある)…、5の11段階でつけられる。客観性を期すため、複数の採点者によって評価される方式をとっている。評価基準は非常にハイレベルに設定されており、ネイティブでない人がレベル3以上を得ることは稀だといわれている。
TOEIC 団体特別受験制度 (TOEIC-IP)
団体特別受験制度(IP:Institutional Program、以下TOEIC-IP)とは、実施される団体の都合に合わせて随時、TOEICテストを実施できる制度のことである。 基本的に、TOEIC-IPテストの有効性は、通常 TOEIC公開テストと同等に扱われる。
しかしながら、TOEIC公開テストと比較して、次の相違点があるため注意が必要である。
- 受験者の写真と署名が印刷された "Official Score Certificate"(公式認定証)は発行されない。
- 過去に実施されたTOEIC公開テストと全く同一の問題が出される、いわゆる「過去問試験」である。
- TOEIC-IPテスト受験の際、顔写真入り身分証明書等の確認による厳密な本人確認が、必ずしも行われているわけではない。
そのため、企業・学校・団体によっては、履歴書に「TOEIC公開テストのスコア」の記入を指定する場合もあり、その場合、TOEIC-IPのスコアは記入することができない。
また、"Official Score Certificate"(公式認定証)の提出を求められても、そもそもTOEIC-IPでは公式認定証は発行されないため、提出することができない。
TOEIC Bridge
TOEICの姉妹版として、2001年に初・中級レベルの TOEIC Bridge(トーイック・ブリッジ)が始まった。聞き取り50問、読解50問(各10~90点)でトータルスコア20~180点で評価される。長文の文章が短くなっているなど、問題の難易度は従来のTOEICテストよりも下げられている。従来のTOEICは、企業での英語能力測定を主な目的として開発された。そのため、問題数も200問と多く高校生や英語の初心者が受けるには適していなかった。TOEIC Bridgeはこのような人を対象として開発された。TOEIC Bridgeの利用目的は高校生の留学選抜や英語特進クラス選抜やレベルチェック、大学の英語レベルチェック等多岐に渡る。
- 受験者の比較(2005年度 日本国内での受験者数)
- TOEIC 1,499,000人(前年度比 +66,000人)
- TOEIC Bridge 109,200人(前年度比 +26,000人)
TOEIC スピーキングテスト / ライティングテスト
2007年1月21日に東京・大阪・名古屋等の主要都市で初めて実施した[3]。実施に至った背景は、従来の200問マークシートテストでは会話能力や作文能力が測れないという難点があったが、ETSが研究を重ねた結果、従来のTOEIC / TOEIC Bridgeとは別個に実施されることになった。特にプレゼンテーションや音読、e-mail作成問題や論文作成等、従来のマークシートでは測れなかった部分を補完している。企業等の今後の需要が見込まれる試験である。スコアはSpeaking・Writingテストで130~140でTOEICテストで700~750相当と運営委員会が考えている。
TOEIC スピーキングテスト / ライティングテストはETSのInternet-Based Testing (iBT) というシステムを介して実施される。ETS認定テスト会場のパソコンをインターネットにつなぐことでテスト問題が配信される。受験者はTOEICテスト(リスニング、リーディング)型のマークシート解答用紙で解答するのではなく、パソコン上で音声を吹き込んだり、文章を入力する方法をとっている。iBTによってさらに効率的、かつ標準化された公平な方式で受験者の解答を記録・評価し、受験後のフィードバックを行うことが可能となった。問題レベルは現在のTOEFL iBTテストに準じているが、問題形式ではWritingがTOEFL iBTと大きく異なっている。Speakingと最後の300字の論述問題は変わっていないが、短文での写真の描写問題や英文メール作成問題等実際のビジネスシーンを考えた問題構成になっている。
テスト構成はスピーキングが20分、ライティングが60分で、他に説明や指示(すべて英語)などを含めると90分程度を要する。テストスコアは0点~200点で表示される。
項目応答理論(IRT)は使われているのか?
TOEFLがIRTを採用しているため、その下位試験のTOEICにもIRTが採用されているとの噂がネットに広まっているが、ETSはTOEICにIRTを使っているとは発言していない。 そのため、TOEICがIRTを採用している証拠はない。
TOEIC運営委員会の発行する'TOEIC Newsletter November 2005 No.92'[5]によると、「共通のアンカー(問題)を複数テストの問題の一部として組み込む方法」をEquating(スコアの同一化)のために使っていると書かれている。
さらに、一部のTOEIC講師がTOEICの採点システムを分析し、IRTが使われていない可能性が高いことを示している[6]。
しかし、教育学の天野郁夫氏や教育測定法の前川眞一氏等のアカデミアの人々(学会・研究集会等で、公開情報以外にも携わることができる立場の人々)は、IRTがTOEICに利用されていることを前提として解説していることが多い。しかしながら、より具体的なスコア算出方法などは、公開の場では明かしていない。 IRTのどのモデルをどういう形で使っているかなど、前述のTOEIC講師の自主研究も含めて、公開の場で具体的な検証が必要と思われる。 [7] [8] [9]
ビジネスとTOEICスコアの関係
日本の英語教育学の第一人者の一人である鳥飼玖美子は、「英語でのビジネスができるかどうかは、英語力だけによるものではない。その人物の実務経験や人間力、コミュニケーション力などのトータルの力があってこそ。『TOEICのスコア=仕事能力』ではないのに、ない交ぜに語られており、そこに最大の問題がある」と述べている[10]。
東京外国語大学学生の就活を支援する小野瀬克二は、講演で「ある化粧品の会社の就活でTOEICで960点取った外語大女子大生が採用されず、660点しか取れないが明るい女子大生が内定をもらった。不採用の女子大生は20分間の面接で落ちたようだ。理由は人とのコミニュケーションが上手く取れないからだ。」と発言した[11]。
英国の移民・入国管理制度
TOEICテスト及びTOEICスピーキングテスト/ライティングテストは、英国内務省・国境移民庁が導入を進める、移民・入国管理制度下で英語力を証明するための試験として認定されている。 Points Based Systemと呼ばれる新制度では、これまで80以上あった就業や留学の申請ルートが5つのTierと呼ばれる階層に整理されており、それぞれの能力、経験、年齢などに応じてポイント加算され、その結果に応じて入国許可が与えられることになる。TOEICテスト、TOEICスピーキングテスト/ライティングテストは、特に英国での就業を希望する際に英語能力を証明するために活用されている[12]。
脚注
- ^ 公式ウェブページ http://www.toeic.or.jp/toeic/about/ での2008年10月26日の記述による
- ^ [1]
- ^ 公式ウェブページ http://www.toeic.or.jp/toeic/faq/faq_02_17.html (2009年5月20日現在)
- ^ a b 公式ウェブページ http://www.toeic.or.jp/toeic/about/what/renewal.html (2009年5月22日現在)
- ^ TOEIC Newsletter November 2005 No.92 http://www.toeic.or.jp/sys/letter/News92_0139.pdf
- ^ TOEIC対策 疑問ひたすら100連発 by ヒロ前田 http://toeic-info.jugem.jp/?eid=135
- ^ アドミッション・ポリシー http://www.keinet.jp/doc/gl/08/11/kaikaku.pdf では「TOEICやTOEFLは項目反応理論(IRT)を使って、難易度が標準化された問題を出題しています」と発言
- ^ 心理・教育測定法(発展編)http://www.hum.titech.ac.jp/classes/PsyEduMea2.html
- ^ 第2言語習得 (SLA) 用語集 http://www.modern.tsukuba.ac.jp/~ushiro/Publishing/SLAglossary.htm#SLAtop "Item Response Theory"の解説において、「現在、TOEIC、TOEFLをはじめとする大規模な言語テストの多くで用いられている。」としている。
- ^ TOEICではもう限界? 転換期迎えたビジネス英語(3)(東洋経済オンライン)
- ^ モーニングセミナー(浅草倫理法人会)
- ^ 英国内務省・国境庁