ケータイ小説
文学 |
---|
ポータル |
各国の文学 記事総覧 出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
ケータイ小説(ケータイしょうせつ)とは、携帯電話を使用して執筆し閲覧される小説(電子書籍)である。
概説
通常一般のWebサイトではなく携帯電話用サイトに向け、やはり携帯電話を使用して執筆する。広義にはインターネット(以下「ネット」)上の小説投稿サイト等において発表されるオンライン小説の一形態であるが、媒体の違いから明確に区別される。携帯電話からのブラウジングを明確に意識した小説を、独自に発表したという意味においてYoshiが祖であると言われ、10代から20代を中心とした若者文化の2007年を代表する流行として注目された。ウェブ上に公開される事に変わりはないので、携帯電話以外からアクセスが可能な物も存在する。
特徴
画面上の特徴
携帯電話での執筆・閲覧となることから、創作においてはまず1画面サイズ上の表示文字数による制約を受ける。そのため、本来の文法作法に則らない
- 改行の多用。
- 文章表現の抑制(修飾語を減らす等)。
- 括弧書き(登場人物の会話や台詞)の多用。
といった、特殊な記述方法がとられることが多い。
出版書籍上の特徴
オンライン小説と同様、人気が出たものを書籍化して販売されることもある。この場合、ケータイのリアリティーを追い、既存の文学と一線を画するという意味で、出版小説の一般的な体裁(縦書き・右開き)をとらずに、いわゆる横書きで左開きという特殊な体裁(ノートと同じ)で出版されている。
発生の背景
それまでのネット上の小説
インターネット上には元々、小説投稿サイト(トータルクリエーターズ、小説投稿238など)を拠点としたオンライン小説が存在しており、当時から一般の書き手(アマチュア作家)による投稿(発表)と読み手からの感想・批評が相互に行われてきた。オンライン小説には、書籍と同様に様々なジャンル(ライトノベル系、純文学系、ボーイズラブ系など)も存在し、良質な作品がWEB小説コンテストなどを通じて大手出版社によって書籍化されるケースもあった。
パソコン(ネット)という媒体の限界
読み手にせよ書き手にせよ、いずれにしてもオンライン小説を活用するのは不便だった。以下の理由が挙げられる。
- 少なくとも子供たちには高価なはずであるパソコン機器の購入と、親の理解があった上でのネット加入が必要であった。
- パソコンを有していない場合は、投稿・閲覧が制限されるため大衆に浸透しない。
- 機器が重厚であるだけに、それでもなんとかパソコンを所有しネットを繋いでいたとしても、文庫本を片手にするかのように通勤や通学途中・あるいは外出先などで利用することは難しかった。
こうした形式は手軽さに欠け、多くが内向的であって大きくメジャー化できなかった。
オンラインでの困難
オンライン作家による小説投稿は、いわゆるパソコン通信と、その応用である小説投稿サイトで行われた時代が長く続いてきた(1990年前後~)。
パソコン通信の場合、投稿自体は簡単だったが、「過去ログ化」の不可、「スレッドの削除」不可、「掲示板の維持管理」不可といった管理限界を抱えていた。また独自にサイトを開設するには、文学の資質よりも先にまず、ホームページ作成やHTMLといったITの知識が必要になるというハードルを内包していた。
ケータイ小説の誕生と躍進
21世紀になってから(2001年以降)は、携帯電話による通信が生活に密着したレベルで飛躍的に普及し、さらにインターネット接続機能の一般化によって、場所や時間を選ばずに行われる様々な世代による電子コミュニケーションが可能となった。特に日本の若年者層においては、生まれながらに高度に発達した"ケータイ環境"が存在するようになった。そのような中で、「ケータイ」で表現し「ケータイ」で読むというケータイ小説が受容されていくようになる。代表的なものとしては、創始者ともいえるYoshiの『Deep Love』シリーズや美嘉の『恋空』、メイの『赤い糸』などがある。
PCに比べ、オペレーションには制約制限が伴う携帯電話だが、携帯から利用できるSNSやブログの登場といった、若年層を中心に広がる携帯電話コミュニティ文化の興隆、および魔法のiらんどのブック機能にみられるような入力支援機能などの実装が一助となった。
現状
2008年からは紀伊国屋書店年間ベストセラーランキングのトップ100にも入らない作品が増えたため、ブームは過ぎたと見る向きもある[1]。『日経エンタテインメント!』の永江朗は、そもそもブームは一時的なものなので1、2年たてば、市場が冷めてくるのは当然であると述べた[2]。永江はブームは過ぎた要因はいくつかあるが、中でも読者対象であった女子中高生に飽きられたことが大きいと分析している[2]。話題性から1冊は購入してみたものの、それ以上何冊も買って読むには至らず、リピーターを生むような引き付け方が出来なかった。結果、マーケティング全体に行き渡ったところで、ブームが終わった[2]。しかし、ブームが去った後もケータイ小説を原作とした映像作品は次々に制作されている為、ブームの再燃を期待する声も業界内にはあり、今後もこの市場の動向は注目すべきだろうとしている[2]。
著名人の意見
小説家、劇作家の筒井康隆はケータイ小説・オンライン小説(小説投稿サイト発)が生まれた背景には読み手が書き手の才能を見抜けなくなっている実際があるとしている。「表面的に似ていても本質的にレベルの違う作品の区別がつけられず、自分でも簡単に書けると思って(錯覚して)しまった。だからオンライン小説・ケータイ小説が生まれた」と発言している。また、背景を考えれば当然の流れだとも発言している[3]。
映画プロデューサーの角川春樹は文学と映画は連動していると考えているが、映画の質の低下は文学の世界を見ても分かるという。「純文学はほとんど読まれなくなって、売れるのは『いま、会いにゆきます』『電車男』やケータイ小説のような「これが小説なのか」と思ってしまうものばかりだ」と発言している[4]。
コラムニストの中森明夫は、ケータイ小説をファーストフードに喩えて、ここから新しい文学は生まれず、少女たちに消費されるだけのものとした[5]。
『文学賞メッタ斬り!』などの著作を発表している豊崎由美はTBSラジオ『ストリーム』のコーナー「コラムの花道」でyoshiを「ケータイ小説における設定の元祖」と位置づけた上でケータイ小説全般における『1年間ほどにおける一人称語りのヒロインの恋愛、失恋、性交、妊娠、レイプ、DV、中絶、自殺未遂(リストカット)、不治の病、動物、死』という詰め込み展開のパターンを「コンデンスライフ(濃縮された人生)」と名付け「出版社の安易な書籍化」や「設定における無知さ」などを批判している[6]。ゲームクリエーターの米光一成も同意見で、「そこには大人の姿が見えない。ケータイ小説とは謂わば少女たちの“秘密基地”だ」と批評[7]。
作家の池上永一は、ケータイ小説を小説ではなく都市伝説などに近いものとし、小説として批判するのは間違っていると発言した[8]。清水義範もやはり「小説とは違う文化だ」と述べている。同時にブログやウェブサイトなどネットでの創作活動を通して、小説家が現われることはないと考えている。そして「あの発表形式がお手軽に自己顕示欲を満たしてくれるから」、「うまく書いて感心させてやろうという意識には、結びつかず、私の書いていることに価値があるのだという意識に流れてしまう」と述べ、仮にベストセラーになる作品があっても、その著者が時の人になっても、小説雑誌から原稿依頼が舞い込むような本格的な小説家にはならないだろうと結論付けている[9]。
一方で瀬戸内寂聴は、自身が名誉実行委員長を務めた第3回日本ケータイ小説大賞授賞式にて、同委員長を務めるに当たって「ケータイ小説は日本の文学を悪くすると言われていますが、読まれているのには理由があるはず。なぜ読まれるのか知りたくて書いてみた」と語り、自ら筆名「ぱーぷる」で『あしたの虹』を野いちごにて連載したことを明らかにした[10]。また“ケータイ小説の女王”と称される内藤みかは女性達の鞄が小型化し、本を鞄に入れて持ち歩くことが出来なくなってしまった、どうすれば読んでもらえるかと考えた末、常に持ち歩く携帯電話で読める小説を連載することを考えたと述べている[11]。なお、内藤はケータイ小説を始めてから年収がそれまでの4倍になったと告白している[11]。
活字離れへの影響
本を読まない・読んだことの少ない世代(主に中高生)にとっては手を出し易く、支持を受けることが多いとされる。また、ケータイ小説を読むことから発展し、文章を書かせたり読ませたりさせて思考能力を発達させたり・あるいは活字への興味を湧かせたりすることを期待されているふしがある。だが一方では、語彙に乏しく稚拙な文章の多いケータイ小説の表現に馴染んでしまうことにより、かえって活字離れや表現力不足を悪化させてしまうとの指摘もある。
実際、全国学校図書協議会の調査では、平成19年の小中学生の一ヶ月の読書の量は調査を始めた昭和30年から過去最高に増加している。しかし女子中学の読む本の上位10位のうち9点が携帯小説であり、「ケータイ小説から卒業できない」との現場の教師からの声がある[12]。
書籍化
2002年にYoshiの『Deep Loveアユの物語』がケータイ小説として初めて書籍化されスターツ出版から刊行、Deep Loveシリーズは2007年2月の時点で計270万部の大ヒットとなった[13]。2003年から2005年までは年に4点程度刊行されたが、2005年10月に刊行されたChacoの『天使がくれたもの』の大ヒット以降、扱う出版社も増え、河出書房新社など純文学の賞を主催する出版社からも刊行されている。 出版科学研究所の集計によると、2006年には22点、2007年には98点の新刊が刊行された[14]。2007年には無名の新人でも初版が5万部から10万部が相場となった[15]。
主なケータイ小説賞
主なケータイ小説家
ほとんどのライターがハンドルネームで人物不詳。
- 稲森遥香 - 『純愛』
- エンドケイプ - 『イメクラの血液。』
- 香乃子『特等席はアナタの隣。』
- ココア - 『Cool boy』 『With a princess』
- Saori - 『呪い遊び(シリーズ)』
- 桜川ハル - 『ケータイ恋愛小説化』 『不機嫌でかつスィートなカラダ』
- タンジール(大鶴義丹) - 『チェンジ・ザ・ゲーム』
- chaco - 『天使がくれたもの』『みずたま』
- ツムギ - 『泣き顔にKISS』
- toto - 『シューズ』
- 十和 - 『クリアネス』
- 内藤みか - 『いじわるペニス』
- ナナセ - 『片翼の瞳』
- 春田モカ - 『偽りの王子様』
- ヒヨリ - 『俺様彼氏とあたしの関係』
- べあ姫 - 『Teddy bear』
- メイ - 『赤い糸』
- ももしろ - 『S彼氏上々』
- 百音 - 『永遠の夢』『永遠の願い』
- Yoshi - 『Deep Love』
- 凛 - 『もしもキミが。』
- 結衣 - 『恋愛約束』『あいつ等だけのお姫様!?』『極上甘々キッス♪』
- kagen 『携帯彼氏』
脚注
- ^ “ブーム終わった「ケータイ小説」 ベストセラーランク登場せず”. J-CASTニュース. (2009年2月)
- ^ a b c d 「上半期ヒット総まくり<出版編>「ケータイ小説のブーム去りビジネス向け自己啓発書が台頭」」『日経エンタテインメント!』第12巻第12号、日経BP社、2008年8月、pp.120。
- ^ 「筒井康隆 迷える文学界にベテラン作家が問題作で一石を投じる」『日経エンタテインメント!』第11巻第7号、日経BP社、2007年5月、pp.13。
- ^ 「上半期興収ランキング 意外なヒット作、大コケ映画は? 角川春樹を直撃『蒼き狼』が惨敗したワケ」『日経エンタテインメント!』第11巻第13号、日経BP社、2007年8月、pp.74。
- ^ 阿部英明 「ケータイ小説はブンガクの夢を見るか」『週刊朝日』2007年10月26日号、朝日新聞社。
- ^ TBS『ストリーム』「大人気・ケータイ小説をめった斬り」小西克哉 松本ともこ 2007年11月16日音声書き起こし
- ^ “週刊ビジスタニュース”. ソフトバンククリエイティブメールマガジン. (2008年3月5日)
- ^ 「テーゲーチャンプルー」『asta』、ポプラ社。
- ^ 清水義範「小説家になる方法」(2007年,ビジネス社 ISBN978-4-8284-1398-3)
- ^ “ケータイ小説書いちゃった 86歳寂聴さん、筆名で発表”. 共同通信社. (2008年9月24日)
- ^ a b 2007年5月23日放送回『世界バリバリ★バリュー』出演時に発言。
- ^ 産経新聞「すくむ社会 第1部 コピペ症候群」
- ^ “ケータイ小説とは”. コラム. 出版科学研究所 (2007年2月13日). 2月10日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
- ^ “Books Radar”. 出版月報 (2008年1月号).
- ^ “ケータイ小説刊行状況”. コラム. 出版科学研究所 (2007年8月10日). 2月10日閲覧。accessdateの記入に不備があります。