すべての馬は同じ色
すべての馬は同じ色(All horses are the same color)とは、数学的帰納法を用いた証明に欠陥があることから生じるパラドックス。実際に矛盾があるわけではなく、この論証は決定的な間違いを含むために正しくない。数学的帰納法によって命題を証明しようとする際に起こる不思議な誤謬の例としてジョージ・ポーヤが用いた。
概要
この数学的帰納法をもとにした間違った論証は、次のようなものである。
5頭の馬がいると考えたとき、すべての馬が同じ色であることを証明するためには何が必要だろうか。そのうち4頭までは同じ色だという証拠があるものとする。ということは、5頭の馬からそれ以外の1頭を除けば、どの馬も同じ色であることが証明できるだろう。それを2回行うと、同じ色だと証明できる4頭の馬は2組にわけられる。前提となっている証拠をもちいると、4頭はすべての馬が同じ色でなければならない。実際に見ていこう。最初の組には、1頭目、2頭目、3頭目、4頭目を振り分ける。これはすべての馬が同じ色でなければならない。そして次の組には2頭目、3頭目、4頭目、5頭目を振り分ける。こちらもすべての馬が同じ色でなければならない。
すると5頭すべての馬が同じ色であるということになる。
しかし、同じ色をもつと前提して2組に振り分ける馬の数は4頭でなければならないという決まりはあるのだろうか?もう一度この論法を使って同じ過程を辿ると、4頭の組は3頭でもよいことがわかる。3頭の組は2頭に、2頭の組は1頭にといった風に。おしまいには馬の数は1頭になってしまうが、それならすべての馬が同じ色であるのは明らかだ。
またこの論法を使うと、馬の数を増やすこともできる。6頭の馬すべてが同じ色であることの証明も同一の作業でできるし、あるいはそれ以上に有限であるすべての馬は同じ色でなければならなくなる。
解題
上記の論証は、数学的帰納法の前提としてもちいられている馬の部分集合2組が共通要素(common element)をもっているという暗黙の仮定を行っている。これは n=1 のときには、つまり本来のグループに2頭しかいない場合には正しくない。
この2頭を、馬Aと馬Bとする。この馬Aがグループから除かれたならば、残っている馬は同じ色(ひとつの色)であるということは正しい(残っているのは馬Bだけである)。しかしもし代わりに馬Bが除かれたら、それは馬Aだけを含むまったく別の組になる。馬Aは馬Bと同じ色かもしれないし、そうでないかもしれない。
この論証にある問題は、この(暗黙のうちに行われた)仮定なのである。つまり2組はそれぞれひとつの色の馬だけを含んでいるので、本来のグループもやはり同じ色の馬だけを含んでいるという仮定だ。この2組には共通要素がないので、この2頭は同じ色を共有しているとは限らない。「すべての馬は同じ色」は妥当な推論によって明白な矛盾を提示しているようにみえるが、実際には推論が誤っている。馬のパラドックスが示しているのは、一般論(general statement)は誤りうるという特殊なケースを考慮しないと、落とし穴に嵌ってしまうということである。
関連項目
参考文献
- Enumerative Combinatorics by George E. Martin, ISBN 0-387-95225-X
外部リンク
- Fusan Akman Horseinduction イリノイ州立大学