乾杯
乾杯(かんぱい)は、宴席において主導者の合図により共に酒を飲む儀礼。
日本
日本における乾杯は、代表者の音頭と共に、おもに酒を注いだ杯(グラス)を掲げ、「乾杯」を唱和してグラスを掲げ、飲む行為。おもに会食や酒宴の初期に、食事や飲み物に手をつけていない段階で行われる。食事を開始するきっかけとして行われることが多い。おもに慶事の場合に行われ、弔事においては献杯(けんぱい)と呼び変えられる。
古代に神や死者のために神酒を飲んだ宗教的儀式が起源らしく、転じてやがて人々の健康や成功を祝福する儀礼に変化した。現在の様式は日本国内で行われていたものではなく、海外から持ち込まれたものである。乾杯や献杯は、マナー・しきたりの一種であって、地域によって格段の差があるわけではない。厳格な手順に沿わないからといって指摘や抗議をされることは少ないが、頻繁に行われる行為なので、その地域のマナーや風習を理解することが必要とされる行為である。
また、神前結婚式での新郎新婦の二人による三々九度など、多数の人間によって行われるものでなくとも、祈りや祝いといった同様の行為を伴う場合、乾杯に分類されることもある。なお、厳密に分類する場合は、会食・酒宴によらない場合は別のものとされる。
手順
現在、日本国内で行われることが多い乾杯の主な手順は次のとおりである。なお、地域や集まりの趣旨・構成によって変わることがあり、注意が必要である。
- 司会の合図や場の雰囲気で開始する。
- 着席している場合には、起立する。
- 卓上のグラスを手に取る(原則としてすべての人が手に取るまで次へ進まない)。
- 代表者が音頭をとる(長い挨拶をしてはいけない)。
- 代表者の「乾杯」の掛け声(“発声”という)のあと、参列者も「乾杯」と唱和する。
- 目の高さぐらいを基準に、グラスを掲げる。
- グラスに口をつけ、中の物を飲む(酒が飲めない場合は、形だけでも行うことが望ましい)。
- 可能であれば、飲み干す。
- グラスを置き、拍手する。
- 着席したり、食事を始めたり、歓談に移るなど、マナーに則り自由に行動する。
西洋料理の場合
西洋料理(洋食)では、ワインを注いだグラスによって行われることが多い。
シャンパンによる乾杯の場合には、シャンパングラスが傷つきやすいので、グラスを当てることはマナー違反ではないものの、細心の注意が必要である。 またロシアなどに見られるトーストという乾杯は協調性やハーモニーなどの意味が含まれている。
日本料理の場合
日本料理(和食)の場合、着席していることが多いが、起立することはない。その代わり、正座など、姿勢を正して行うことが求められる。
また、酒の種類としては日本酒を用いることが多く、特に改まった場では、現在では多くなってきているグラスやお猪口ではなく、本来の盃(杯)が用いられることもある。
代表的な場面
- 盃事
- かつては結婚式や養子縁組、徒党の結成など、縁を結ぶ儀式において酒を飲む儀式が行われていた。現代では神道の神前結婚式(三々九度)[1]で酒が酌みかわされるがこれは盃事とは称されず、盃事といえば暴力団における親分・子分、兄弟分の縁を結ぶ儀式を指す。
- 鏡割り
- 慶事において、酒樽の蓋を木槌で割って開ける鏡割りが行われた後、その酒で乾杯が行われる。便宜上、事前に用意された酒で行うこともある。
逸話
- 宮古島ではオトーリと呼ばれる中国式の乾杯を元にした文化がある。車座になり、親が立ち上がり、口上を述べ、まず一杯飲み、次にまわす。また親も飲む。一周してから次の親が立ち上がり、また同じことをする。→詳細は「オトーリ」を参照
- 沖縄民謡に「乾杯さびら」というのがあり、乾杯の繰り返しである。
乾杯と献杯の違い
乾杯が慶事に行われるのに対し、献杯はおもに葬儀や法事などの弔事に行われる。
乾杯の手順との主な違いは、掛け声と唱和が「献杯(けんぱい)」になるとともに、グラスを当てず、その後を沈黙(黙祷)で迎えることなどである。
なお、「献杯」を本来の意味である、「敬意を表すためにさかずきをさす(ささげる)」こととして用い、「乾杯」と同じように慶事に行う地域もある。
乾杯の悪ふざけ
- 若者の間では、乾杯を行った後、グラスを空にしないといけないという一部地域でのマナーを逆手に、一気飲みを強要し、空となったグラスにさらに酒を注ぐようなアルコールハラスメントが横行した。
- 幹事や乾杯の音頭を取る者が年少者であったり、その出席者の中でいわゆる「弄られキャラ」である場合に、その者が乾杯の音頭をしようとする時にふざけて「乾杯」と言ってフライングをしようとする者もいる。
- 「一気飲み」で今までアルコール飲用の経験のない若者が酔いつぶれ、死亡する事故があり批判されている。アルコールが血中に高度になるというより、酔って、食べたものなどが喉につまって死亡することが多いと考えられ、酔いつぶれた人を世話をしなければいけない。
言葉としての乾杯
「乾杯」は、祝辞の言葉、勢いのある言葉として利用されるので、書籍、テレビドラマ、楽曲など、数え切れないさまざまな作品に利用されている。
特に、その物事を祝い、発展を願うものにつけることが多く、その場合には、「○○に乾杯」と称されることが多い。
中国
中国では、敬意の表明として杯の酒を飲み干すという文化がある。宴席で何度も行う乾杯には、基本的にアルコール度数の高い白酒(パイチュウ、拼音: )を使う(紹興酒などの黄酒は、産地の浙江省や上海市周辺で用いられる程度)。乾杯用には、小さいグラス(“小酒杯”という)を用いる。飲んだ後で、相手に向けて杯を傾け底を見せたり、逆さにして、飲み干したことを示す習慣がある。ただし、「乾杯(カンペイ、gānbēi)!」を発声した人が直後に「随意(スイイー、suíyì)」と言ったときには、飲み干さなくてもよい(宴席で乾杯を依頼されたときには、そう言ってあげると喜ばれることが多い)。円卓での宴会では、客と招待側とが同数で交互になるように着席する。乾杯は、招待側の要人が始め、次に客の主賓が行うというように、交互に、やや時間を空けて行うことが多い。当然、乾杯の前に簡単なスピーチが要求される。このとき、もし漢詩が詠めれば、尊敬される。
しかし、最近の北京では、乾杯に白酒を用いず、ワインやビールで行うようになってきている。
韓国
韓国では、目上の人よりも高い位置でグラスを合わせることは失礼とされる。また、乾杯のあとはグラスにあるものを飲み干さなければならない。また、その際、グラスに口を付けている所を見せないようにするため、口元を手で覆い隠す(韓国では、口を付けているのを見せて飲むのは無礼な行為とされている)
欧米
欧米における乾杯は「○○に捧げる」と唱えて行われることが多い。乾杯を捧げる対象は複数でもよく、真面目なものとユーモラスなものが織り交ぜられることもある。 日本ではあまり行われていないが、乾杯する時に、相手や同席する人の目を見るのがマナーである。
乾杯が行われるようになった由来は諸説ある。
- 中世ヨーロッパにて、酒の席での毒殺が横行していたため、盃をお互いに飲み干すことで毒物が入っていないことを示した
- 強い衝撃でお互いの酒をお互いのグラスに飛ばしあい毒が入っていないことを証明しあう
- 古代ギリシャにて、酒の中に宿っている悪魔を追い払うために、悪魔はガラスがぶつかる音が苦手とされていたのでグラスを会わせて音を立てた
なお、イタリアのマフィアに自分達の血を赤ワインに混ぜ、乾杯する儀式がある。 また、中世ヨーロッパではグラスを打ち合わせることはしなかったが、1552年にフランソワ・ラブレーがふざけて打ち鳴らしたことから広まった [2]。
各言語における「乾杯」の掛け声
- 英語:チアーズ(Cheers)
- スコットランド:スランジーヴァ(Slangiva, Slaintheva)
- 中国:カンペイ(乾杯)
- イタリア:チン チン(Cin Cin)、プロージット(Prosit)、アッラ・サルーテ(Alla salute!)
- ドイツ:プロージット(Prosit)、プロースト(Prost)
- ギリシャ:スティン・イェアー・マス(Στην υγειά μας)
- スペイン:サルー(¡Salud!)
- デンマーク:スコール(Skal)
- ロシア:ザ・ズダローヴィエ(За здоровье)
- ブラジル:サゥーヂ(Saúde)
- フランス:サンテ(Santé !)、ア・ヴォートル・サンテ(À votre santé !)
- ポーランド:ナズドロウィ(Na Zdrowie)
- トルコ:シェレフェ(Sherefé)
記録
ギネス・ワールド・レコーズにおいて「同じ場所で1度の乾杯で同時に杯を上げた人数」の記録は2009年12月31日にポルトガルのイベントで達成された「26,564人」。その後2010年6月26日、明治神宮野球場で行なわれたプロ野球の試合時のイベントで「27,126人」を記録。ギネス側がこれを認定すれば世界記録となる。
脚注
- ^ キリスト教系結婚式後の祝宴での乾杯では、おもにシャンパンが用いられ、新郎新婦を祝う。
- ^ 高平 鳴海, 愛甲 えめたろう, 銅 大, 草根 胡丹, 天宮 華蓮『図解 食の歴史』新紀元社、2012年、112頁。ISBN 978-4775310007。