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副反応

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副反応(ふくはんのう)とは、ワクチン接種に伴う免疫付与以外の反応のことである。ワクチンの場合、投与に伴う免疫付与以外の反応も外来物質の化学的作用ではなく免疫学的機序によって起こるものが多い。そのため一般的な治療薬における副作用と区別している。[要出典]英語圏ではワクチンでも普通にside effect(副作用)と表記される[1]有害事象とは、接種後の不利益な反応のすべてであり、因果関係を問わない[2]治験では掴めなかった低い頻度の副作用の発生が検出されるよう、迅速に情報収集がなされる[3]

1948年のジフテリア予防接種禍事件は、予防接種の制度による品質保証が不十分なため、戦後の薬害事件1号となり、世界最大の予防接種事故となった[4]。1962年にはじまるインフルエンザワクチン訴訟[5]、1970年の種痘ワクチン[6]、1989年の新三種混合ワクチン(MMRワクチン)[3]、2005年の日本脳炎ワクチンでは重篤な症状が生じていることが検出され[2]、接種中止やワクチンの改良などが続いた。

日本での副反応被害救済については、1970年の閣議了解による暫定的な救済措置を経て、1976年の予防接種法の改正によって制度化された[7]

ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)は重篤な副反応は増加しないことが知られており、世界的には接種が進められている[8]。しかし、日本では2013年に厚生労働省により積極的な推奨が中止され、2016年には薬害があるとする集団訴訟が起こされた[9]

副反応の収集体制

因果関係の不明な場合も報告は重要であり、ロタウイルスワクチンは、1998年にアメリカで承認された後に、初期の臨床試験では検出不能であった腸重積症(腸閉塞)の因果関係が翌年には判明した[10]

ワクチンによる低い頻度の副作用の発生は避けられず、開発段階や治験で全体像が掴みにくいため、接種開始後の迅速な情報収集と評価が重要となる[3]。副反応と思わしき重大な事象は因果関係が明確でなくても届けられる[11]。このため、無関係な発熱なども紛れ込む[2]。厚生労働省の予防接種後副反応報告書は、予防接種後に一定の基準(報告基準)に合致する症状が出現した際に、因果関係にかかわらず報告するよう求めている[12]。厚生労働省の予防接種後副反応報告書集計報告の制度では、副反応報告基準の範囲外であってもすべての報告を単純集計した数字が発表されるため、実際には予防接種と無関係の紛れ込み事象が含まれている[13]

国際的にはAdverse Events Following Immunization(AEFI、ワクチン接種後の有害事象)と呼ばれる[14][15]

副反応の発生機序

ウイルスまたは細菌の感染によるもの

生ワクチンでは、弱毒化した細菌またはウイルスそのものを被接種者に投与する。この細菌またはウイルスが被接種者に感染することにより、液性免疫および細胞性免疫の双方を惹起することができるのが生ワクチンの特徴である。

生ワクチンの細菌またはウイルスに感染してもほとんど症状は出ない場合が、稀に感染に伴って症状が出現する場合がある。これらの症状がワクチンの副反応として報告される。

  • 麻疹ワクチンをはじめ、生ワクチンウイルスによる発熱はしばしば(1-3割)みられる。
  • 麻疹ワクチンでは発疹がみられることもある。
  • BCG接種では、接種局所の腫脹・水疱形成・痂皮化が必発(これらが発生しない場合、結核菌に対する細胞性免疫も惹起されず、ツベルクリン検査が陽転しない可能性がある)であるほか、所属リンパ節の腫脹がときにみられる。免疫不全者などに接種すると、発疹や播種性感染症などの重篤な副反応を呈する危険がある。

感染によらない免疫学的機序によるもの

ワクチンとして接種されたウイルス・細菌の構成成分、あるいは含まれる不純物に対する免疫反応が副反応の原因となることもある。これらの症状は生ワクチンのみならず、不活化ワクチンやコンポーネントワクチンでもみられる。

  • 接種局所の腫脹・発赤は、特に三種混合ワクチンやインフルエンザワクチンでよく知られている、一種のアレルギー反応である。菌体成分・ウイルス成分のほか、免疫を有効に賦活させるために添加されているアルミン酸塩に対するアレルギーも原因となりうる。
  • インフルエンザワクチンは精製の過程で卵を使用しているため、重度の卵アレルギー患者にはアナフィラキシーショックを発症させる可能性があり、卵アレルギー患者は接種要注意者とされている。
  • ワクチンの構成成分に対する抗体が形成された際に、それらの抗体が患者の組織に対して交叉反応を示すことがある。ワクチン接種に伴うギランバレー症候群急性散在性脳脊髄炎はこの機序によって起こると考えられている。インフルエンザワクチンによるギランバレー症候群、日本脳炎ワクチンによる急性散在性脳脊髄炎がよく知られている。

救済制度

日本の医療制度の上では、重症の副反応は「定期接種」に指定されているものは日本国政府が補償し、そうでない場合には医薬品医療機器総合機構 (PMDA) で審査され救済される[11]

従来、予防接種による被害の救済を受けるには、相当の年月と資金を要した[7]。1964年のインフルエンザワクチンにおける訴訟は、1980年代から1990年代まで持ち込まれた[要出典]。1970年6月の東京都下での種痘の副反応(後述)による種痘渦事件は社会的関心を引き、7月31日の閣議了解によって救済制度を創設するまでは、閣議了解によって救済が実施されるようになり、続く訴訟によって1976年に予防接種法が改正され救済制度が設立された[7]。さらに、予防接種事故審査会、予防接種制度部会が発足した[16]

アメリカ合衆国連邦政府の『ワクチン傷害補償プログラム(VICP)』は、1988年以来2018年までの約30年間において、約6,000人に対して総額38億ドルを支払っている[17]

薬害などとして知られる社会的問題となった事例

  • 1948年 - ジフテリアは、予防接種が制度化された直後、品質保証のための検定制度が機能しておらず、毒素が不活性となっていないワクチンが用いられ、84人が死亡し、854人に後遺症が残り、戦後の薬害事件1号となり、世界最大の予防接種事故となった[4]
  • 1964年 - 予防接種ワクチン禍事件。インフルエンザワクチンの集団接種が1962年に開始され、1964年に接種後に高熱と発作を起こし重度の障害を残した例で、訴訟が行われ、これに乗じて全国で訴訟が起こった[5]。90年代には国側から和解が持ち込まれ、実質としては被害者側が勝訴する結果となった。
  • 1970年 - 種痘渦事件[7]種痘ワクチンでは、当時、種痘合併症と呼ばれた種痘後脳炎が死因統計に検出され、解析すると高頻度だと判明し、補償要求運動としての種痘禍騒ぎが起こり、後に弱毒性のワクチンが開発された[6]
  • 1975年 - 三種混合ワクチン(DPTワクチン)の接種がしばらく中止となった。
  • 1989年 - MMRワクチン薬害事件と呼ばれ、同年始まった新三種混合ワクチンの発熱、嘔吐、痙攣のある無菌性髄膜炎が発生し、1993年より日本でのMMRワクチン製造はなくなった[3]
  • 2005年 - 日本脳炎ワクチンは脳脊髄炎の発生のため、2005年に積極的な推奨が中止された[2]。ワクチン製造の過程でネズミの脳組織を使用しているために、わずかに混入した脳組織に対する抗体が被接種者の中枢神経組織を攻撃して起こると考えられている。このため、vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)を用いた新型ワクチンが開発され、2009年からこのワクチンが接種されている。

係争中の事例

ヒトパピローマウイルスワクチン

2013年、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)の積極的な推奨が中止され、2016年には薬害があるとして保証を求める集団訴訟が起こされた[9]。2021年1月 (2021-01)現在、係争が続いている[9]

ワクチンの副反応が疑われた事例

MMRワクチン

有名なものはMMRはしか流行性耳下腺炎風疹)ワクチンで、1998年にある論文が接種によって自閉症になるとして発表され、懸念が広まった[18][19]。接種の差し控えが広がったために、麻疹に感染する子供が増加し問題となった。MMRワクチンによって自閉症になったとして訴訟も起こったが、巨額の費用を投入して実施された調査では、MMRワクチンと自閉症には因果関係が認められなかった[18][20]。結局きっかけとなった論文が捏造であることが発覚し、2010年に論文は撤回され[18]、発表を行った医師は医師免許を剥奪された[21]。世間が論文に騙されたのは、自閉症という疾患が当時それほど認知されていなかった事が原因とされる[18]

百日咳ワクチン

また1970-80年代には、百日咳ワクチンの接種に対する否定的な報道が世界中のマスコミで行われ、日本、スウェーデン、イギリス、ソビエト社会主義共和国連邦などで接種率が低下した[22]。日本でも国の予防接種事故救済制度が発足する一方で、厚生省は1975年に乳児への百日咳ワクチン接種を中止し、百日咳ワクチンを含むワクチンの接種開始年齢を2歳以上に引き上げる対応を行ってしまう[23]。その結果1979年をピークとする百日咳の流行が起きてしまうが[23][22]、厚生省が百日咳ワクチンの接種開始年齢を3か月からに訂正したのは、14年後の1989年になってからであった[23]。1981年ごろより感染者数が減少に転じるもの、1970年代前半のレベルに戻ったのは、接種中止から20年後の1995年であった[23]

出典

  1. ^ Vaccines and Immunizations Possible Side-effects from Vaccines CDC
  2. ^ a b c d 大谷清孝、森田順、阿部淳、松本昇、小林修、板倉隆太、林賢「予防接種後の有害事象と副反応 (日本小児感染症学会若手会員研修会第 4 回安曇野セミナー)」(pdf)第25巻第4号、2013年。 
  3. ^ a b c d 土井脩「MMRワクチン副作用問題」(pdf)『医薬品レギュラトリーサイエンス』第42巻第12号、2011年、1070-1071頁。 
  4. ^ a b 土井脩「ジフテリア予防接種禍事件」(pdf)『医薬品レギュラトリーサイエンス』第47巻第4号、2016年、284-285頁。 
  5. ^ a b 高橋真理子 (2014年11月21日). “常識破りの連続だったインフルワクチン報道”. http://webronza.asahi.com/science/articles/2014112200024.html 2018年4月10日閲覧。 
  6. ^ a b 平山宗宏「種痘研究の経緯 : 弱毒痘苗を求めて」『小児感染免疫』第20巻第1号、2008年4月1日、65-71頁、NAID 10021244074 
  7. ^ a b c d 堀勝洋「社会保障法判例 - 児童の障害が種痘に起因すると認められ、予防接種法による障害児養育年金の不支給決定が取り消された事例」(pdf)『季刊社会保障研究』第17巻第4号、1982年9月、469-474頁。 
  8. ^ 子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために|公益社団法人 日本産科婦人科学会”. www.jsog.or.jp. 2021年1月23日閲覧。
  9. ^ a b c 子宮頸がんワクチン被害の裁判”. HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団. 2021年1月23日閲覧。
  10. ^ Causality assessment of an adverse event following immunization (AEFI) (2ed ed.). 世界保健機関. (2018-01). p. 4-5. ISBN 978-92-4-151365-4. http://www.who.int/vaccine_safety/publications/gvs_aefi/en/ 
  11. ^ a b 日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会、岡部信彦、荒川創一、岩田敏、庵原俊昭、白石正、多屋馨子、藤本卓司 ほか「医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版」『日本環境感染学会誌』第29巻第0号、2014年、S1-S14、doi:10.4058/jsei.29.S1NAID 130004706473 
  12. ^ 予防接種後副反応報告書-用紙、注意事項3と6、厚生労働省
  13. ^ 予防接種後副反応報告書集計報告書平成23年度分、2枚目、厚生労働省、2012年12月5日
  14. ^ 05_予防接種後の有害事象対応 handout 2017.3.20”. 厚生労働省. 2021年1月24日閲覧。
  15. ^ NAKAYAMA, Tetsuo (2019-07-20). “Vaccine Adverse Events and Adverse Reactions”. Kansenshogaku Zasshi 93 (4): 493–499. doi:10.11150/kansenshogakuzasshi.93.493. ISSN 0387-5911. https://doi.org/10.11150/kansenshogakuzasshi.93.493. 
  16. ^ 菅野重道「予防接種による健康被害、特にその後遺症としての心身障害および救済制度について」『東洋大学児童相談研究』第7巻、1988年3月、1-11頁、NAID 110001046152 
  17. ^ Data & Statistics” (pdf). Health Resources and Services Administration (2018年3月30日). 2018年4月20日閲覧。
  18. ^ a b c d 村中璃子 あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)WEDGE REPORT 2016年3月19日閲覧
  19. ^ Wakefield AJ, Murch SH, Anthony A et al. (28 February 1998). “Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children”. Lancet 351 (9103): 637-41. doi:10.1016/S0140-6736(97)11096-0. PMID 9500320. http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673697110960/fulltext. (撤回済)
  20. ^ “英医学誌、自閉症と新三種混合ワクチンの関係示した論文を撤回”. AFPBB News (フランス通信社). (2010年2月3日). http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2690341/5270873 2013年1月18日閲覧。 
  21. ^ Meikle, James; Boseley, Sarah (24 May 2010). “MMR row doctor Andrew Wakefield struck off register”. The Guardian (London). オリジナルの2010年5月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100527003931/http://www.guardian.co.uk/society/2010/may/24/mmr-doctor-andrew-wakefield-struck-off 2010年5月24日閲覧。 
  22. ^ a b Lancet 1998; 351:356-61.
  23. ^ a b c d 堺春美 現代の感染症 百日咳,ジフテリア 週刊医学界新聞 詳細 第2242号 1997年6月2日

外部リンク