イースター・エッグ (おまけ要素)
イースター・エッグ(Easter egg)は、コンピュータゲームやソフトウェアなど、主に電子的なメディアに隠されたメッセージ、画像、機能のこと。
この言葉は、復活祭で用いられる装飾された卵のイースター・エッグが由来となっている。祭事中に大人たちがこれを隠して子供たちが見つける「エッグハント」と呼ばれる遊びがあり、製作者が隠し要素を入れる行為をエッグハントになぞらえてイースター・エッグと呼ばれるようになった[2]。
コンピュータゲーム
[編集]イースター・エッグの要素は、その言葉が使われるようになる前から存在している。コンピュータゲームの分野で知られている最も古いイースター・エッグは『Moonlander』(1973年)にある。このゲームはプレイヤーが宇宙船を操作して月に着陸させることを目指すという内容だが、水平方向にかなり遠くまで飛ぶとマクドナルドの店舗を示すマークが現れ、その隣に着陸すると宇宙飛行士が店舗を訪れたことを示すメッセージが表示される[3]。また、テキストアドベンチャーゲームの元祖とされる『コロッサル・ケーブ・アドベンチャー』(1976年)ではいくつかの隠しコマンドが存在し、その中で、プレイヤーがゲーム世界の2つの地点間を移動できるコマンド「xyzzy」が有名になった[4]。
「イースター・エッグ」という言葉が初めて用いられたのは、ゲームデザイナーのウォーレン・ロビネットがプログラミングを行いアタリより1980年に発売されたAtari 2600用ソフト『アドベンチャー』である。当時のアタリは、競合他社が開発者を引き抜くのを防ぐため、また、アタリを買収し権力闘争を行う関係にあった親会社のワーナー・コミュニケーションズと開発者が交渉するのを防ぐため、ゲームデザイナーの名前をクレジットに掲載することを認めていなかった[5][6]。この姿勢に不満を持ったロビネットは、ゲーム内において、灰色の1ピクセルの点を特定の場所に運ぶことで到達できる隠し部屋に入ると「Created by Warren Robinett(ウォーレン・ロビネットによる作成)」という文章が鮮やかな色で表示されるという隠し要素を組み込んだ[5]。完成したソースコードを1979年6月に渡したロビネットは、隠し要素についてアタリに伝えることなくソフトの発売前に退社した[6]。発売後、隠し要素は15歳の少年によって発見され、少年はそのことを報告する手紙をアタリに送った[5]。事実を知った経営陣は激怒したが、家庭用ゲーム部門のマネージャーだったスティーブ・ライトは彼らに対し、これはゲーム内のイースター・エッグで子供たちはそれを見つけるのが大好きだと語り、すべてのゲームにイースター・エッグを追加するよう奨励すべきと訴えた[5]。これ以降、アタリのゲームに同様の隠し要素を入れることが公式の開発ポリシーとなり、このことがフレーズの普及につながった[5]。
イースター・エッグには、製作者が意図しない形で生まれたものもある。コナミが1985年に稼働開始したアーケードゲーム『グラディウス』をファミリーコンピュータ(ファミコン)向けに移植する際、テストを容易にしようと考えたコナミの開発者の橋本和久は、操作する自機を大幅にパワーアップさせるコマンドをゲーム内に組み込んだが、その後、コマンドが除去されないまま製品化された[7]。ファミコン版が発売された1986年の時期は空前の裏技ブームだったことからこのコマンドはゲームファンの間で好評を博し、以降のコナミのゲームでも「コナミコマンド」として定番化しさまざまな作品で採用されるようになった[8]。
ソフトウェア
[編集]1960年代に使用されていたDEC製のコンピュータのうちPDP-6以降のモデルでは、テキストエディタのTECOを呼び出してファイルを作成する際に用いるmake
コマンドでファイル名引数にlove
を指定すると、コマンドはmake love
を読み取り、ファイル作成前に一時停止してnot war?
と応答する[9][注 1]。このイースター・エッグは、1967年10月から1968年10月の間にスタンフォード人工知能研究所のウィリアム・F・ワイアーによって作成され、ソフトウェアプログラムの分野で最初のイースター・エッグとなった[9]。
マイクロソフトが提供する表計算ソフトのMicrosoft Excel 95(1995年)で特定の手順を踏むと「Hall of Tortured Souls」という3DダンジョンRPG風のソフトが起動する[10]。また、Microsoft Excel 97(1997年)にはフライトシミュレーション風ソフトが、ワープロソフトのMicrosoft Word 97(1997年)にはピンボールゲームのソフトが含まれている[11][12]。なおマイクロソフトは、2002年に表明した「信頼できるコンピューティング」の方針に沿う形でこれ以降のイースター・エッグの収録を禁止している[13]。
検索エンジンのGoogle 検索は、特定の検索ワードに対して特別な反応が返ってくるというイースター・エッグが多数存在することで知られている。例えば、「斜め」で検索すると検索結果が斜めに表示され、「一回転」で検索すると画面が一回転する[14][15]。
Appleでは、黎明期の製品にさまざまなイースター・エッグを組み込んでいた。一例として、PCのPower MacではOSがSystem 7.5.5から7.6.1のバージョンでノートパッドを開いて「secret about box」と入力しデスクトップにドラッグすると3Dのイグアナの旗が表示される。その後、1997年にスティーブ・ジョブズがCEOに就任すると一転してイースター・エッグが禁止となった。彼の死後の2012年には、アプリケーションストアのMac App Storeでのアプリのダウンロード中にアプリのタイムスタンプが一時的にMacintosh発売日の「1984年1月24日」と表示される仕掛けが施された[16]。
セキュリティ上の懸念
[編集]セキュリティ関連書籍の著者であるミシェル・E・カベイは2000年にNATO本部で行った講演の中で、メーカー側が関知しない形で含まれているイースター・エッグについて、データ内に潜み条件が満たされると動作するマルウェアの論理爆弾と同一視し危険性を主張している[17]。
2006年、計算機科学者のダグラス・W・ジョーンズは、イースター・エッグの中には違法コピーを検出するために意図的に作られたものもあるがベンダーの品質管理テストをすり抜けた不正機能の例であることは明らかだと述べた[18]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 「Make Love Not War」は「戦争をしないで恋をしよう」の意味で、1960年代に行われた反戦運動のスローガンである。
出典
[編集]- ^ "Zwei Kaninchen und ein Igel" ("Two rabbits and a hedgehog") by Carl Oswald Rostosky.
- ^ “Access Accepted第683回:40年以上も続くゲーム業界の慣習 ~ 開発者が隠した「イースターエッグ」”. 4Gamer.net (2021年4月12日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ "Critical Kate" Willaert (2021年4月4日). “The True First Easter Egg: Ready Player One Was Wrong” (英語). A Critical Hit!. 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Somewhere Nearby is Colossal Cave: Examining Will Crowther's Original “Adventure” in Code and in Kentucky” (英語). DHQ: Digital Humanities Quarterly (2007年). 2024年11月10日閲覧。
- ^ a b c d e “Easter Eggs: The Hidden Secrets of Videogames” (英語). Paste Magazine (2016年3月27日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ a b “Of Dragons and Easter Eggs: A Chat With Warren Robinett” (英語). The Jaded Gamer (2003年5月13日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Geek Trivia: The cheat goes on” (英語). TechRepublic (2007年3月5日). 2023年1月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月10日閲覧。
- ^ “FC版『グラディウス』が発売された日。通称“コナミコマンド”が初登場したことでも有名な移植作品。オプションは2個まで。【今日は何の日?】”. ファミ通.com (2024年4月25日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ a b “Make Love Not War: Talking With The Creator Of The First Software Easter Egg” (英語). A Critical Hit! (2021年5月23日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Excel Easter Egg - Excel 95 Hall of Tortured Souls” (英語). The Easter Egg Archive. 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Excel Easter Egg - Excel 97 Flight to Credits” (英語). The Easter Egg Archive. 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Word (Microsoft) Easter Egg - Pinball in Word 97” (英語). The Easter Egg Archive. 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Why no Easter Eggs?” (英語). Microsoft Learn (2005年10月21日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ “iPhoneの『Safari』などで「斜め」と検索すると…… ほかにも沢山あるよ”. ガジェット通信 (2011年4月11日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ “Google検索で「一回転」と検索すると……? 「斜め」以外にも沢山あったオモシロ裏技”. ガジェット通信 (2013年4月15日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ “OS Xにイースターエッグ復活! しかもインセインリー・グレイト(動画あり)”. ギズモード・ジャパン (2012年7月30日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ M. E. Kabay (2000年3月27日). “Easter eggs and the Trusted Computing Base” (英語). Network World. 2006年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月10日閲覧。
- ^ “A Conversation with Douglas W. Jones and Peter G. Neumann” (英語). ACM Queue (2006年11月10日). 2024年11月10日閲覧。