ヒラコテリウム
ヒラコテリウム | |||||||||||||||||||||
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ハインリヒ・ハルダーによる想像図
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地質時代 | |||||||||||||||||||||
暁新世 - 始新世 | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Hyracotherium Owen, 1841 | |||||||||||||||||||||
下位分類(種) | |||||||||||||||||||||
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ヒラコテリウム(Hyracotherium)は始新世に北アメリカ大陸およびヨーロッパ大陸に生息していた哺乳類。現生するウマ科動物の最古の祖先と考えられており、エオヒップス(Eohippus)という別名(シノニム)でも知られている。(近年は別種として分けるという説もある)和名は「あけぼのウマ」。
発見史
[編集]1838年にイギリス・サフォーク州の河畔で歯の化石が発見されたのを最初として、翌1839年にもイギリス南部の海岸で同じ特徴の歯が付いた頭蓋骨の化石が発見された。これらはいずれも新種の動物のものであると考えられたが、鑑定を行った生物学者のリチャード・オーウェンは、当初この化石をウマ科動物のものであるとは考えず、頭蓋骨の特徴、目の位置、歯の形状などから、イワダヌキ科に属するハイラックスに近いと判断し、1841年、「ハイラックス様の獣」を意味する「ヒラコテリウム」と名付けた。
以降もヨーロッパで同様の化石が発見されたが、いずれも断片的なものでウマ科動物との関連付けは行われなかった。しかしその後北米において系統的なウマの化石が次々と発掘され、さらに始新世の地層から前肢4本、後肢3本の指先に蹄を持つ生物の全身骨格が発見された。これに対して1876年にオスニエル・チャールズ・マーシュが「始新世のウマ」を意味する「エオヒップス」と名付けた。さらにエドワード・ドリンカー・コープによってエオヒップスが北米最古のウマ科動物であることが断定され、またヒラコテリウムの化石との比較により、両者が同一の動物であるとの主張を行った。この説は広く受け入れられ、さらに研究が進んだ今日では、ヒラコテリウムはウマ科最古の動物であるとされている。
なお、名前については「エオヒップス」の方がより生物自体の位置付けをよく表していると評価され、一般向け書籍などでは広く使用されているが、命名順の優先により正式な学名はあくまで「ヒラコテリウム」となっている。
身体上の特徴
[編集]主に北アメリカ大陸とヨーロッパの森林地帯に生息、体高はおよそ20~30cmと、現在見られるウマ科動物と比較すれば非常に小型である。骨格では椎骨の発達が特に顕著であり、背から後躯にかけて強大な筋肉が備わり、優れた走力で捕食者から逃れていたと考えられている。また前肢4本、後肢3本の指は本来5本であったが、進化の過程で前肢の第1指、および後肢の第1指と第5指は退化し、完全に消失したと見られる。食性は草食で、口腔正面手前からいずれも小型の切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯を備え、木の若芽や草の実など柔らかい植物を摂取していたとされる。生息域や食性から、各個体が独自のテリトリーを有する単独生活者であったと推測されている。また、これらの特徴は初期の奇蹄類全体に見られるものであり、ヒラコテリウムはウマ科動物のみならず奇蹄目全体の原型であるという見方も為されている。
後世の進化
[編集]始新世の前期を過ぎるとヨーロッパにおいてヒラコテリウムは姿を消し、生息域は北アメリカ大陸に限定されるようになった。以降の進化の過程において、徐々にその身体は大型化し、第2・4指の退化と第3指の強大化(より走ることへ適応)、切歯の扁平化と下顎骨の大型化(植物を磨り潰すための適応)などが見られるようになっていった。しばらくその進化は一本の系統で続いていたが、漸新世中後期に発生したミオヒップス以降は、気候の変化による森林地帯の減少に伴い、そのまま森林に留まったアンキテリウムと、新たに広がった草原地帯に生息域を移したパラヒップスとに分枝した。これらの一部は北アメリカを出てユーラシア大陸へと生息域を拡大したが、アンキテリウムは中新世後期に絶滅し、以降はパラヒップスの系統において草原での進化が続けられた。草原域に生える硬い繊維質の植物を摂取するため、歯の咬合面は強固な擦り臼状となり、下顎骨はさらに巨大化した。また、中新世中期に現れたメリキップスの四肢においては、平坦な地面を駆けるために第2・4指の退化がさらに進み、第3指のみで全体重を支える形となった。この頃には体高は約1m程度まで大型化している。
その後更新世に至り、北アメリカ大陸において現生ウマ科動物の直接の祖先となるエクウスが登場、ユーラシア大陸、さらにアフリカ大陸へと広がり、各地でそれぞれに姿を変えていった。なお、ウマに関しては、北アメリカ大陸においては8000~9000年前頃に原因不明の絶滅が生じ、17世紀にヨーロッパ人によって再び持ち込まれるまで存在しなかった。
参考文献
[編集]- 日本中央競馬会競走馬総合研究所編 『馬の医学書 - Equine Veterinary Medicine』(チクサン出版社、1997年)
- 原田俊治『馬、この愛すべき動物のすべて - シマウマからサラブレッドまで』(PHP研究所、1991年)