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コクサッキーウイルス

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コクサッキーウイルス
コクサッキーウイルスB4型の電子顕微鏡写真
コクサッキーウイルスB4型の電子顕微鏡写真
分類
: 第4群(1本鎖RNA +鎖)
: ピコルナウイルス目 Picornavirales
: ピコルナウイルス科 Picornaviridae
: エンテロウイルス属 Enterovirus
: エンテロウイルスA型、エンテロウイルスB型(コクサッキーウイルス) Enterovirus A, B (Coxsackievirus)[1]

コクサッキーウイルス[2]: Coxsackievirus)は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する、エンベロープを持たない直鎖の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。同じくエンテロウイルス属の仲間にはポリオウイルスエコーウイルス英語版パレコウイルス英語版があり、コクサッキーウイルスは国際ウイルス分類委員会の分類では「エンテロウイルスA型」と「エンテロウイルスB型」に相当する[1]。エンテロウイルス属は人間に対する病原体として最も一般的かつ重要なものであり、多くは糞口感染、また飛沫感染を来す[3]。種の名前は、1948年にニューヨーク州コクサッキー英語版のポリオ類似患者からこのウイルスが分離されたことに由来している[2]

コクサッキーウイルスはA群とB群の2群に分かれ、ヘルパンギーナ手足口病の原因病原体として有名だが、エコーウイルス[4]ムンプスウイルス同様ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)を起こすことでも知られている[2]。不顕性感染も多いが、時に致死的な感染症を引き起こすこともある[2]

コクサッキーウイルスが細胞感染を起こす場合は、アデノウイルスと同じCoxsackievirus and adenovirus receptor英語版 (CAR) を介する[5]

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コクサッキーウイルスはA群 (Group A) とB群 (Group B) のふたつに分けられるが、これは初期の研究で得られた新生児マウスに対する病原性に基づいている[6]。マウスにおいて、A群は全身の筋炎による弛緩性麻痺、B群は痙性麻痺(筋の局所損傷と神経組織の変性が原因)を引き起こすと報告されている[7]。少なくとも、A群では23の血清型(1-22、24)、B群では6の血清型が知られている(コクサッキーA23型は後にエコーウイルス9型と同一であることが判明したので欠番)[7]。A群・B群に共通する感染時兆候として、非特異的発熱性疾患、発疹、上気道炎などがあげられ、夏風邪の起因ウイルスとして知られる[8]。またA群・B群どちらもウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)の原因ウイルスとして代表的であり、脳炎を起こすこともある[2]

A群

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コクサッキーA群ウイルスは皮膚・粘膜感染を起こすことが多く、ヘルパンギーナ手足口病急性出血性結膜炎の原因ウイルスとして知られている[9]。ヘルパンギーナの原因は多くコクサッキーA群(2、3、4、5、6、10型など)だが、コクサッキーB群・エコーウイルス[要曖昧さ回避]が分離されることもある[10]。手足口病の病原としてはコクサッキーウイルスA16型・A6型とエンテロウイルス71型が多い[11]。このうちA6型はヘルパンギーナの病原体として知られていたが、2008年以降手足口病の病原体としての分離例が報告されるようになった[11][12]。手足口病では時に急性髄膜炎、稀に急性脳炎を合併するが、他のウイルスに比べエンテロウイルス71型感染例での合併率が高い[13]。急性出血性結膜炎の原因として知られているのはA24型変異株である(他にエンテロウイルス70型が知られる)[14][15]

A16型の基本再生産数R 0)は中央値2.50、四分位数範囲1.96から3.67と推測されている[16]

B群

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B群は心臓胸膜膵臓肝臓に感染しやすく、胸膜痛心筋炎心膜炎肝炎肝炎ウイルスの関与しない肝炎)を起こす[2]。B群の心臓への感染(ウイルス性心筋炎)は心嚢液貯留英語版を引き起こし得る。また、発熱と強い胸痛が特徴のボルンホルム病英語版流行性筋痛症)を引き起こすことでも知られ、1999年には愛知県で流行した[17]

またB6型は膵臓のランゲルハンス島に障害を与え、糖尿病(インスリン依存性糖尿病; IDDM)の原因となることが示唆されている[8]。2004年には、シェーグレン症候群発症とコクサッキーウイルス感染との関係を示唆する論文が発表された[18]

歴史

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コクサッキーウイルスは、1948年から1949年頃に、オールバニ (ニューヨーク州)ニューヨーク州保健局英語版で働いていたギルバート・ダルドーフドイツ語版が発見した。コクサッキーの名前は、最初の検体を見つけたハドソン川沿いの町コクサッキー英語版に由来している[19][20]。ダルドーフは1949年のScienceで論文を発表し[21]、1959年にはコクサッキーウイルスの発見が元でラスカー賞を受賞した[22]

ダルドーフは、元々グレイス・シックルズ (Grace Sickles) と協働し、急性灰白髄炎(ポリオ)の治療法を研究していた[23][24]。ダルドーフはサルを用いた先行研究で、ある種のウイルスに既感染だとポリオによる障害が軽く済むことを示唆していた[19]。ダルドーフはその後、新生児マウスを研究材料として、ポリオや類症の患者の便からウイルスを分離しようと試み、その中でポリオ類似ながら症状が軽度から無症状であるウイルスを発見した[19]。1951年には、コクサッキーB群へ感染させたマウスが、ポリオウイルスへ抵抗性を獲得したという論文を発表した[25]。ダルドーフはレベッカ・ギフォード (Rebecca Gifford) ともコクサッキーウイルスについていくつか論文を発表している[26][27][28][29]

その後の研究により、コクサッキーウイルスの感染ではボルンホルム病英語版流行性筋痛症)やヘルパンギーナなど様々な病気が起こることが明らかになり、新生児マウスに感染させた際の病態病理により、弛緩性麻痺を起こすA群・痙性麻痺を起こすB群に分けられることになった[7]。新生児マウスを使うというアイデアは、1947年にデンマークの科学者オルスコフ (Ørskov) とアンデルセン (Andersen) が書いた論文[30]にダルドーフが着目したことがきっかけだった(ふたりはこの方法でマウスのウイルスを研究していた)[19]。コクサッキーウイルスの発見により多くのウイルス学者がこの方法を用いるようになり、ポリオウイルスと無関係のものも含め、ヒトの腸管に感染する多くのウイルスが発見されることになった[19]。またダルドーフの研究は、あるウイルスへの感染が他のウイルスの複製を阻害することもあること、その一部はインターフェロンによることが分かるきっかけとなった[19]

2007年、中国東部でアウトブレイクが発生した。800人以上が感染し、子ども200人が入院したほか、26人の死者が出たと報告されている[31]

コクサッキーウイルスA21型の野生型であるCavatak英語版は、腫瘍溶解性ウイルスとして治験に用いられている[32][33]

関連項目

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脚注

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  1. ^ a b Genus: Enterovirus / Virus Taxonomy: 2018b Release”. ICTV virus taxonomy. 国際ウイルス分類委員会. 2019年7月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 中込治・神谷茂(編集) 2015, pp. 440–441.
  3. ^ 細矢 2017, p. 345.
  4. ^ Choudhary, Madhu Chhanda; et al. (2019-01-14). Echovirus Infection. Medscape. https://emedicine.medscape.com/article/216564-overview 2019年7月28日閲覧。. 
  5. ^ 大塚, 寺崎 & 北浦 2009, p. 1183.
  6. ^ Pedro-Pons, Agustín (1968) (Spanish). Patología y Clínica Médicas. 6 (3rd ed.). Barcelona: Salvat. p. 598. ISBN 978-84-345-1106-4 
  7. ^ a b c 細矢 2017, p. 344.
  8. ^ a b コクサッキーウイルス”. シスメックスプライマリケア. 2019年7月28日閲覧。
  9. ^ Seitsonen, Jani; Shakeel, Shabih; Susi, Petri; Pandurangan, Arun P.; Sinkovits, Robert S.; Hyvönen, Heini; Laurinmäki, Pasi; Ylä-Pelto, Jani et al. (2012). “Structural analysis of coxsackievirus A7 reveals conformational changes associated with uncoating”. Journal of Virology 86 (13): 7207–7215. doi:10.1128/JVI.06425-11. PMC 3416324. PMID 22514349. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3416324/. 
  10. ^ ヘルパンギーナとは”. 国立感染症研究所 (2014年7月23日). 2019年7月28日閲覧。
  11. ^ a b 小林正明. “2013および2017年におけるコクサッキーウイルスA6型による手足口病患者の臨床的・疫学的観察”. IASR (国立感染症研究所) 38(2017年10月号): 198-199. https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2412-related-articles/related-articles-452/7605-452r05.html 2019年7月28日閲覧。. 
  12. ^ <速報> コクサッキーウイルスA6型による手足口病の成人例―大阪府”. IASR. 国立感染症研究所 (2011年7月26日). 2019年7月28日閲覧。
  13. ^ 手足口病とは”. 国立感染症研究所 (2014年10月17日). 2019年7月28日閲覧。
  14. ^ 急性出血性結膜炎とは”. IDWR 2002年第33号. 国立感染症研究所. 2019年7月28日閲覧。
  15. ^ 急性出血性結膜炎”. 感染症法に基づく医師の届出のお願い. 厚生労働省. 2019年7月28日閲覧。
  16. ^ “Estimation of the basic reproduction number of enterovirus 71 and coxsackievirus A16 in hand, foot, and mouth disease outbreaks”. Pediatr Infect Dis J 30 (8): 675–9. (Aug 2011). doi:10.1097/INF.0b013e3182116e95. PMID 21326133. 
  17. ^ 志水哲也、山下照夫、杉山雅、都築秀明、榮賢司、鈴木康元. “ボルンホルム病の流行-愛知県”. IASR. 国立感染症研究所. 2019年7月28日閲覧。
  18. ^ Triantafyllopoulou, Antigoni; Tapinos, Nikos; Moutsopoulos, Haralampos (2004). “Evidence for Coxsackievirus Infection in Primary Sjogren's Syndrome”. Arthritis & Rheumatism 50 (9): 2897–2902. doi:10.1002/art.20463. PMID 15457458. 
  19. ^ a b c d e f Rapp, Fred (1994年). “Biographical Memoirs: V.65”. The National Academies Press. 2019年8月15日閲覧。
  20. ^ Racaniello, Vincent (2009年8月10日). “Coxsackie NY and the virus named after it”. Virology Blog. 2012年8月20日閲覧。
  21. ^ DALLDORF, GILBERT (1949-12-02). “The Coxsackie Group of Viruses”. Science 110 (2866): 594. doi:10.1126/science.110.2866.594. 
  22. ^ Clark, Alfred E. (1979年12月28日). “Dr. Gilbert Dalldorf, A Researcher Known For Work on Viruses”. ニューヨーク・タイムズ. 2019年8月15日閲覧。
  23. ^ “An Unidentified, Filtrable Agent Isolated From the Feces of Children With Paralysis”. Science 108 (2794): 61–62. (July 1948). Bibcode1948Sci...108...61D. doi:10.1126/science.108.2794.61. PMID 17777513. 
  24. ^ “A virus recovered from the feces of poliomyelitis patients pathogenic for suckling mice”. J. Exp. Med. 89 (6): 567–82. (June 1949). doi:10.1084/jem.89.6.567. PMC 2135891. PMID 18144319. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2135891/. 
  25. ^ Dalldorf, Gilbert (July 1, 1951). “THE SPARING EFFECT OF COXSACKIE VIRUS INFECTION ON EXPERIMENTAL POLIOMYELITIS”. Journal of Experimental Medicine英語版 94. doi:10.1084/jem.94.1.65. 
  26. ^ “Clinical and epidemiologic observations of Coxsackie-virus infection”. N. Engl. J. Med. 244 (23): 868–73. (June 1951). doi:10.1056/NEJM195106072442302. PMID 14843332. 
  27. ^ “Adaptation of Group B Coxsackie virus to adult mouse pancreas”. J. Exp. Med. 96 (5): 491–7. (November 1952). doi:10.1084/jem.96.5.491. PMC 2136156. PMID 13000059. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2136156/. 
  28. ^ “Susceptibility of gravid mice to Coxsackie virus infection”. J. Exp. Med. 99 (1): 21–7. (January 1954). doi:10.1084/jem.99.1.21. PMC 2136322. PMID 13118060. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2136322/. 
  29. ^ “Recognition of mouse ectromelia”. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 88 (2): 290–2. (February 1955). doi:10.3181/00379727-88-21566. PMID 14357417. 
  30. ^ Ørskov, J.; Andersen, Else Krag (1948-06-02). POLIOMYELITIS IN MICE*. doi:10.1111/j.1699-0463.1948.tb00717.x.  (Original: the Fourth International Congress for Microbiology, Copenhagen, July, 1947.)
  31. ^ “China says it controls viral outbreak in children”. Reuters. (2007年5月19日). https://www.reuters.com/article/worldNews/idUSPEK35841720070520?feedType=RSS 2019年8月15日閲覧。 .
  32. ^ About CAVATAK®”. Viralytics英語版. 2019年8月15日閲覧。
  33. ^ Cavatak (Coxsackievirus – CVA21)”. Immuno-Oncology News. 2019年8月15日閲覧。

参考文献

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外部リンク

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