トランス排除的ラディカルフェミニスト
フェミニズム |
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トランス排除的ラディカルフェミニスト(トランスはいじょてきラディカルフェミニスト、英語: trans-exclusionary radical feminist)とはトランスジェンダーの権利の制限を主張(トランス女性の女性トイレ利用に対する法的制限やトランス女性の女子スポーツ競技への参加禁止等)する立場、または、ジェンダーは出生時に指定された性で決まるとした立場を取るラディカル・フェミニスト[1][2][3][4]のことを指す。
頭文字をとってTERF(ターフ)という略称でも呼ばれる。2008年にトランス包摂的ラディカルフェミニスト(trans-inclusive radical feminst、または、trans-inclusionary radical feminist, TIRF)と区別するために造語[5][6]。当初は文字通りラディカル・フェミニストの中でトランス女性へ排斥的な立場を採る人々を指したが、ラディカル・フェミニストどころかフェミニストでないにもかかわらず、「トランス女性の女性専用空間利用に反対する人」全体を指す言葉となっていることも度々ある[7][8]。TERFを蔑称であるとする人達は、自己をジェンダークリティカル(英:gender-critical、GC)と称している[9][10][11]。
概要
[編集]2008年に作られ[12]、トランスジェンダーの人の権利保障の世界的潮流の中で、トランス女性が法的性別変更しても女性とみなさなかったり、トランスジェンダーの権利の法制化(トランスジェンダー差別を禁止する法律整備や法的性別変更要件の緩和)に対して反対意見を主張したり、女性スペース(女性トイレ、更衣室、レイプ被害者保護施設やDVシェルターなど)へのトランス女性の立ち入りやそれを認める法律や施設にNOの声を上げる「フェミニスト」に対する批判的な言葉である[13][14][15][16]。
語源
[編集]ターフ(TERF)という言葉は、シスジェンダー女性(身体性も性自認も女性の人)でトランス包摂的なラディカル・フェミニストであるヴィブ・スミスが2008年にブログで使ったことにより一般的になったというのが通説である[12]。そのブログにおいてスミスは、ミシガン州の女性のための音楽祭がトランス女性の参加を拒否していることに対して、自身のようなトランス包括的・ラディカルフェミニストとトランス女性を排除するラディカル・フェミニスト(トランス排除的ラディカル・フェミニスト)を区別する必要性を説いた[5]。スミスはターフ(TERF、トランス排除的ラディカル・フェミニスト)が蔑称であるとの批判に対しインタビューで「ターフは本来、フェミニストの一部の派閥を中立的で正確に描写する用語であった」と語っている[5]。
言葉への賛否
[編集]用法についての議論
[編集]主に1960年代から80年代に主流であった第二波フェミニズムでは、トランスジェンダーはしばしば排除されてきた。しかしインターセクショナリティの概念が重要となった第三波フェミニズムを始め、特に第四波フェミニズムにおいてはトランスジェンダーの権利はフェミニズムにおける重要なテーマとなった[17][18]。
現代において、全米女性同盟[19][18][20]やプランド・ペアレントフッド[21][22]など多くの主要なフェミニスト団体においては、「トランス女性は女性である」という認識が主流派となっている[17][23]。その考えを否定し[24][25][26]、トランスジェンダーの権利をフェミニズムの問題と捉えず、また女性専用空間や、女性団体からのトランス女性の排除を主張することをトランス排除的という[27] 。
そのようなフェミニズムにおいてトランスジェンダー差別と認識される思想[7][8][28][29]を持つ少数派のフェミニスト[30][31]で、特にラディカルフェミニストを称する用語であったが、現在はより広義において、トランスジェンダー排除的、差別的な意見を持つ人を指す言葉として使われることもあり、必ずしもラディカルフェミニズムとの関連性はない[7][8]。トランス排除的でフェミニストではない人のことをトランスフォビア(トランス嫌悪)を語源とする「トランスフォーブ」と呼ぶこともある。
トランスジェンダー権利擁護派とTERF(ジェンダークリティカル)の対立
[編集]トランス女性が女性トイレ、女性更衣室、女性スパなどの女性専用空間に参入することへの懸念や反発していることで「トランス排除的ラディカルフェミニスト(TERF)」と呼ばれることを蔑称として拒否する人達の中には、自らをジェンダークリティカル(GC)と称する人たちがいる[11][10]。
トランス排除的ラディカルフェミニストという用語が蔑称であるとする根拠について、トランス排除的ラディカルフェミニストという用語が侮蔑的な誹謗中傷として使われ、時に暴力的な文脈や女性蔑視的に使われると主張する[32][33][34][24]。トランス排除的ラディカルフェミニストが蔑称であるかどうかの学術的な合意は2018年時点では得られていない[34][24][35]。
トランスジェンダー活動家・研究者のクリスタン・ウィリアムズは自身のウェブサイトでトランス排除的ラディカルフェミニストの定義について「本質主義への固執による生物学的決定論をもとに、トランスジェンダーの人々の存在・人権・参加を積極的に否定するラディカルフェミニストの一派」とした[25][26]。
スミスによると、本来トランス排除的ラディカルフェミニストは「トランス女性を同胞(シスター)として認めない自称ラディカルなフェミニスト達」の呼称であったが、今はそれに加えて否定的な意味を含むようになったと認めた。また、時として一部の人を攻撃する武器として、排外主義者だけでなく包摂を唱える人たちにも使われるようになった[12]。そのことにより、トランス排除的ラディカルフェミニストという用語の使用については賛否両論あるものの、現代のフェミニズムをめぐる議論において一般的な概念となっている[36]。
トランスジェンダー女性やその支持者から、「トランス排除的ラディカルフェミニスト」と批判されている有名人として、J・K・ローリングなどがいる[2]。J・K・ローリングは2019年にトランスジェンダー差別的と指摘されるマヤ・フォーステイターを支持したことから批判を受けるようになり、2020年にはメディアが「生理(月経)のある人」という言葉を使ったことに対して「Wumben? Wimpund? Woomud?」と揶揄したことでも非難を浴び、トランス女性が女性トイレや女性更衣室の利用をすることに反対し、自身の設立した性暴力被害者支援センターではトランス女性が利用できないように排除するなど、さまざまな言動がトランスジェンダー差別的であると批判を受け続けている[37]。このJ・K・ローリングを擁護する論説を掲載したニューヨーク・タイムズに対して1000人近くの寄稿者が抗議する書簡を2023年に発表した[38]。J・K・ローリングは自分もトランスジェンダー活動家からの「脅迫ツイート」を受けていると主張している[39][40]。日本国内ではトランスジェンダー排除的な「主張」を作中で展開したため講談社から刊行を拒否されたとされる笙野頼子がいる[41]。
脚注
[編集]- ^ “「トランス女性の私と同じトイレを使えますか?」エマ・ワトソンの3年前の回答が「本当のフェミニズム」と賞賛される(ハフポスト日本版)”. Yahoo!ニュース. 2022年6月26日閲覧。
- ^ a b “『ハリポタ』作者がまたも物議、トランス差別グッズを販売するサイトを宣伝”. front-row.jp. 2022年6月26日閲覧。
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- ^ The 'Feminist' Discourse on Trans Exclusion from Sports
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- ^ “TIRF Trans Inclusive Radical Feminism”. ja-jp.facebook.com. 2023年2月7日閲覧。
- ^ a b c Lewis, Sophie (7 February 2019). "Opinion | How British Feminism Became Anti-Trans". The New York Times. ISSN 0362-4331. 2020年2月20日閲覧. 引用和訳:「もしトランスフォビックなハラスメントがフェミニズムの範疇に含まれていることが驚きならば、それはあなただけではない。…時と共に、ターフはラディカルであるかどうかに関わらず、反トランスジェンダーなフェミニスト全体を指す言葉となった。」
- ^ a b c Miller, Edie (5 November 2018). "Why Is British Media So Transphobic?". The Outline. 2020年2月20日閲覧. 引用和訳:「正直に言うと、イギリスの保守派はいつでもトランスフォビックな主張をすることはできるけれどもその必要もなかった。左派の中の一部が彼らの代わりにヘイトを広めているからだ。悲しいことに、その中でも最も積極的なヘイトはラディカルフェミニストの内輪から来ている。イギリスのフェミニズムのターフ問題は深刻になりつつある。ターフという用語は今では、ラディカルフェミニズムとの関連性に限らず、典型的なターフの論理を使ったトランス排除的な主張をする人を呼ぶ用語となった。」
- ^ “What are gender-critical beliefs?” (英語). The Week UK. 2023年2月7日閲覧。
- ^ a b “GC Academia Network” (英語). GC Academia Network. 2023年2月7日閲覧。
- ^ a b Vasquez, Tina (17 February 2014). "It's Time to End the Long History of Feminism Failing Transgender Women". Bitch. Bitch Media. 2020年2月20日閲覧. . 引用和訳:「"[Cathy] Brennan、Elizabeth Hungerfordを含む現代のフェミニスト達の一部はトランス女性を女性専用空間に許容すべきがどうか継続して疑問を呈している。このようなフェミニストは自らをラディカルフェミニストやジェンダークリティカルフェミニストと呼ぶ。2008年ごろから、トランスジェンダーコミュニティやトランスジェンダーの権利を支持する人たちがそのようなフェミニストのことをトランス排外主義ラディカルフェミニストもしくはTERFと呼ぶようになった。Brennanはこの言葉は蔑称だと主張する。」
- ^ a b c Smythe, Viv (28 November 2018). "I'm credited with having coined the word 'Terf'. Here's how it happened". The Guardian. 2020年2月20日閲覧. 引用和訳:「2008年に投稿したいくつかのブログにおいて、私たちとは違い、トランス女性をシスターとして認めない自称ラディカルなフェミニスト達のグループのことを初めてターフ(Terf)と名付けたということを後になって言われるようになった」
- ^ 山田, 秀頌 (16 February 2019). "「女性専用スペースからトランス女性を排除しなければならない」という主張に、フェミニストやトランスはどう抵抗してきたか". WEZZY. 2020年2月22日閲覧
- ^ “【正論】LGBT法案に科学的根拠あるか 麗澤大学教授・八木秀次”. 産経ニュース. 産経デジタル (2021年12月14日). 2023年2月21日閲覧。
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- ^ a b Williams, Cristan (24 September 2013). “You might be a TERF if ...” (英語). The TransAdvocate. 21 February 2020閲覧。
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- ^ Bollinger, Alex (19 December 2018). “Famous lesbian site taken over by anti-trans 'feminists'. Now lesbian media is standing up.” (英語). www.lgbtqnation.com. 21 February 2021閲覧。
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- ^ Goldberg, Michelle (2014年7月28日). “What Is a Woman?” (英語). ISSN 0028-792X 21 February 2021閲覧。
- ^ Bennett, Catherine (19 November 2017). "Bullies everywhere delight in coming up with new insults". The Guardian. 2020年2月20日閲覧. 引用和訳:「ターフという用語を支持する人達はイジメの道具としてその言葉を使い、言論や、もしかすると研究さえも抑え込むことに成功している。例としてugly terf, fucking terf scum」
- ^ Heuchan, Claire (6 October 2017). "If feminist Linda Bellos is seen as a risk, progressive politics has lost its way". The Guardian.2020年2月20日閲覧. 引用和訳:「ターフはトランス排外主義ラディカルフェミニストの略である。オンライン上ではターフに対する暴力を示唆する攻撃的な文脈で使われることも多い。このような言論はジェンダーを構造的なシステムの一部という考えに批判的な女性の人間性を否定することだ。」
- ^ a b Allen, Sophie R.; Finneron-Burns, Elizabeth; Leng, Mary; Lawford-Smith, Holly; Jones, Jane Clare; Reilly-Cooper, Rebecca; Simpson, R. J. (24 September 2018). "On an Alleged Case of Propaganda: Reply to McKinnon" (PDF).
- ^ McKinnon, Rachel (7 March 2018). "The Epistemology of Propaganda" (PDF). Philosophy and Phenomenological Research. 96 (2): 483–489. doi:10.1111/phpr.12429. 引用和訳:「現代のターフの多くは、トランス女性がターフという用語を発明したと責め、『ターフは女性に対するミソジニーだ』という馬鹿げた主張をする。…どうやら、ターフという用語は女性を批判することに使われているからミソジニーな蔑称だという考えである。しかしこれは、差別的な蔑称の根本的な性質から考えるとナンセンスである。」
- ^ Hines, Sally (17 February 2019). “The feminist frontier: on trans and feminism” (英語). Journal of Gender Studies 28 (2): 145–157. doi:10.1080/09589236.2017.1411791. ISSN 0958-9236. (要購読契約)
- Also published in Oren, Tasha; Press, Andrea (16 May 2019) (英語). The Routledge Handbook of Contemporary Feminism. Routledge. ISBN 978-1-317-54263-6
- ^ “What has JK Rowling said about trans people? The story of the Harry Potter author’s views”. PinkNews (2023年2月10日). 2023年2月21日閲覧。
- ^ “Nearly 1,000 contributors protest New York Times’ coverage of trans people”. The Guardian (2023年2月18日). 2023年2月21日閲覧。
- ^ “「差別ではなく区別だ」発言で大炎上したJ・K・ローリング、トランスジェンダー活動家からの「脅迫ツイート」さらす”. サイゾーウーマン (2021年7月21日). 2022年6月26日閲覧。
- ^ Schocket, Ryan. “ハリポタ作者、J.K.ローリングの発言が「トランスジェンダーに差別的」と再び批判殺到”. BuzzFeed. 2022年6月26日閲覧。
- ^ 笙野頼子「前書き」『発禁小説集』鳥影社、2022年5月8日。ISBN 978-4-86265-962-0。
関連項目
[編集]- トランスジェンダリズム
- ジェンダー・セルフID
- 性同一性
- トランス女性
- トランスフォビア
- 月経
- フェミニズム
- ミサンドリー
- ラディカルフェミニズム
- 性労働者排除的ラディカルフェミニスト(SWERF Sex Worker Exclusionary Radical Feminist)
- 女性専用空間
- 性自認差別
- ヘイトクライム
- トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇