スタートラッカー
スタートラッカー(Star Tracker:STT、恒星姿勢センサ)は、人工衛星や宇宙探査機などの宇宙機に使用される姿勢センサである。高感度カメラで宇宙空間を撮影した画像から恒星を識別し、その配置から宇宙機の向きや角度が計算される[1]。2010年頃に開発が進行したJAXAの基幹衛星等では1万分の数度の精度が要求されている[2]。
概要
[編集]一般的には宇宙機の姿勢センサとして慣性基準装置(IRU)を同時に搭載するが、IRUは内部センサである性質上誤差が累積するため、絶対姿勢を検出できるスタートラッカーによりそれが補正される。一方で、スタートラッカーは7等級程度の暗い恒星を写すために露光時間が必要なことから出力が数Hz程度とそれだけで姿勢制御するには遅く[3]、ランダム性のある誤差の発生が無視できず、視野角に太陽や地球が干渉する場合は利用できないなど、スタートラッカーとIRUは相互に補間するセンサとして組み合わせて使用される[2][4]。また、宇宙機の軌道等の環境や要求される精度に応じて地球センサ(ESA、または地球カメラ(ECAM))、太陽センサ(SSA)など他の姿勢センサも併せて利用される[5]。
スタートラッカーにはカメラだけでなく、オンボードコンピュータや計算ソフトウェア・アルゴリズムも含まれ[1]、内蔵する星カタログのデータと照合して自律的に姿勢を出力することが求められる[6]。
世代
[編集]機能や性能を元にスタートラッカーの世代が分類される。以下のような技術的な観点が挙げられる[注釈 1]。
- 撮像管を使用し、恒星の撮像のみを実施する[6][7]
- イメージセンサにCCDを使用したもの[8]
- 恒星の配列情報を地上から都度送る必要がなく内蔵データのみで姿勢推定が可能[6][9][8]
- イメージセンサにCMOSを使用し高性能化させたもの[8]
その他
[編集]スタートラッカーの珍しい使用例として、2024年に月面に着陸した月着陸実証機SLIMが予定外の姿勢で着陸した中、本来月面で使用する予定のなかったスタートラッカーで明るい月面の撮影を試みた例がある。取得した画像からは山の稜線や影を確認することができる[10][11][12]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 多数の開発機関によって並行して開発されており、世代の分類法や世代数の数え方は資料によって特徴や基準のゆらぎがある。開発元が重視する機能をもって次世代と区別する傾向が見られる
出典
[編集]- ^ a b “DLAS”. www.hp.phys.titech.ac.jp. 2024年11月13日閲覧。
- ^ a b 水野, 貴秀; 坂井, 真一郎 (2009). “宇宙機の航法誘導・姿勢制御用センサ開発”. 電気学会誌 129 (11): 743–748. doi:10.1541/ieejjournal.129.743 .
- ^ “ISAS | 人工衛星の姿勢を制御する高性能機器の開発 / 宇宙科学を支えるテクノロジー”. www.isas.jaxa.jp. 2024年11月13日閲覧。
- ^ “X線天文衛星ASTRO‐H「ひとみ」 異常事象調査報告書|平成28(2016)年6月14日 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構”. 文部科学省. 2024年11月13日閲覧。
- ^ “ここから宇宙へ 誘導制御システム試験設備|JAXA”. JAXA. 2024年11月14日閲覧。
- ^ a b c “NEC技報 Vol.64 No.1 2011年3月 宇宙特集衛星機器を構成する標準コンポーネント”. 日本電気. 2024年11月14日閲覧。
- ^ “設計開発サービス|アイデア提案型の光学システム開発企業 株式会社ジェネシア”. www.genesia.co.jp. 2024年11月13日閲覧。
- ^ a b c 河野, 裕之 (2011-01-24). 略半球形状レンズによる小型遮光バッフルを持つスターセンサの開発 .
- ^ “DLAS”. www.hp.phys.titech.ac.jp. 2024年11月13日閲覧。
- ^ “開発・運用状況 | 小型月着陸実証機 SLIM | ISAS/JAXA”. www.isas.jaxa.jp. 2024年11月13日閲覧。
- ^ “X 小型月着陸実証機SLIM”. X. 2024年11月14日閲覧。
- ^ “[フォトレポートSLIMが「スタートラッカー」で撮影した月面]”. UchuBiz (2024年4月30日). 2024年11月13日閲覧。