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リーフ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
タリフィット語から転送)
リーフ語
Tamazight Tarifit
話される国 モロッコの旗 モロッコ
メリリャ (スペイン)
地域 リーフ地方
民族 リーフ人英語版
話者数 170万人
言語系統
表記体系 アラビア文字ティフィナグ文字ラテン文字
言語コード
ISO 639-3 rif
消滅危険度評価
Severely endangered (Moseley 2010)
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リーフ語(リーフご、リーフ語:Tamazight Tarifit)は、アフロ・アジア語族のベルベル語派に属する言語である。リフ語タリフィット語タリフィート語北部シルハ語とも呼ばれる。モロッコ北東部地中海沿岸のリーフ山脈一帯で話されている。

極東タリーフィート語・東部タリーフィート語・西部タリーフィート語に細分化するが、この地域全体としてのベルベル語方言間ではコミュニケーションが可能。また、西部タリーフィート語地域のさらに西側には、アラビア語とタリーフィート語の二重言語併用地帯である。

北アフリカにおけるベルベル語の分布
モロッコ北部のリーフ語使用地域

リーフ語の文字表記

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リーフ地方のベルベル人は従来のベルベル文字を使用せず、もっぱらアラビア文字を使用してきた。しかしながら、その表記法には一定の規則はなく、各人が様々な方法で話し言葉をアラビア文字化している。

タリーフィート語の表記についてメクレラン III[1]は、IRCAM公認の現行のティフナグ文字の外に、ネオ・ティフィナグ文字やトアレグ・ティフィナグ文字のバリアから複数の文字を併用すると記した。

母音と子音

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母音

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独立母音としての基本母音は、/a/ /i/ /u/の三つであるが、これらは隣接音の影響を被って様々な異音として現れる。

母音/e/
  • 補助母音/e/
    • 子音の三連続(時に二連続)を避けるために、発音上補助母音/e/が挿入される。
    • ámmən  「そのように」
  • [ə]から転じた/e/の扱い
    • 補助母音の位置にアクセントが移動することがある。この際は/ə/としてはっきり発音される。
    • erzem 「(君は)それを開けなさい」
  • /e/の母音交換
    • /e/は隣接母音の影響を被り、様々な母音に移行する
      • -/'/, /y/, /w/との隣接の際に同化
    • yés→yís 「馬」
  • /r/に先行する/e/は/a/に移行
    • erabbi→arabbi 「神」
  • その他の喉頭音、気息音との接触の際に、/e/は/a/に移行する傾向がみられるが、/r/との時ほど顕著な/a/は現われない
    • exseġ→exsaġ 「私は欲する」
  • 地域によっては、/e/が硬口蓋音/k/や/g/(時には軟口蓋音/q/, /x/)との接触で/i/に移行する
    • exsi→ixsi 「(君は)取りなさい」
母音/i
/i/は/'/や/r/に先行する際、調音点が/e/と/a/の中間点[æ]に移行する。
  • ṯira→ṯæra 「文字(複数)」
母音/u/
/u/のバリエーションとして[o]があり、同様に/r/や/'/との隣接の際の異音として機能する。
  • uhran→ohran 「オラン(地名)」

子音

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'/'/ > /ḥ/(無声音化)
Kelaia及び一連のカビーリ部族において、女性単数名詞の語尾/ṯ/の前に見られる。
  • ṯareqqi'ṯ→ṯareqqiḥṯ 「修繕」
/b/ >/f/(唇歯音化)
女性単数名刺の語尾尾/ṯ/の前に見られ、東部タリーフィート語で顕著。
  • ṯaqsebṯ 〜 ṯaqsefṯ 「城、要塞」
  • /t/, /ṯ/, /ṭ/, /d/, /ḏ/の間の相互交換
  • 口蓋音の/g/, /y/, /k/, /q/, /x/の間の相互交換
  • 軟口蓋音/ġ/, /q/, /x/ の間の相互交換
  • /n/に後続する/ŗ/は、相互同化により/ll/として口蓋化する場合がある
    • n-eṛ mexzen→enll-mexzen 「政府の」
/s/は母音との接触の際、西部タリーフィート語では有声化して/z/になることがある
  • seḏara'→zeḏara' 「上に」
母音/u/と半子音/w/との組み合わせにおいて、後方の半子音/w/の重複は/gg/または/kk/に移行する
  • aḏuwwa→aḏugga 「義父、義兄」
硬口蓋破裂音/ž/は西部方言で破裂音化し、東部方言では半母音/y/に移行する
  • ṯamežera→ṯameyra 「収穫」

文法とその特徴

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名詞

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男性名詞は通常語頭に/a-/を有することで特徴づけられる。一方、女性名詞は男性名詞に/ṯ/を接尾辞および接頭辞として加える。

  • áfrox「男の子」  ṯáfroxṯ「女の子」 
名詞の格変化
リーフ語の名詞は全てのものが、独立格および従属格の二つの形態を有する。独立格が辞書に現れる形態であるのに対し、従属格とは名詞が文中で他の語との依存関係にあるときに現れる形態である。

形容詞

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リーフ語の形容詞は、名詞に後置され名詞を修飾する。しかし、前方の名詞が不定名詞である際には、接辞(男性名詞との接続には/ḏ-/、女性名詞との接続には/et-/)を伴う。

動詞

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  • 規則動詞と不規則動詞がある
  • 直接法と間接法がある

直接法の時制には、現在形・過去形・未来形があり、それぞれ単数と複数を区別する

  • 単数形の活用は、一人称(共通)・二人称(共通)・三人称男性・三人称女性
  • 複数形の活用は、一人称(共通)・二人称男性・二人称女性・三人称男性・三人称女性

直接法の人称には、無人称と呼ばれるものがある。現在形・過去形・未来形の三つに区別されるが、それぞれの時制は人称や性、数による活用をもたない。唯一に形態を有することから「分詞」と呼ばれることもある。

  • 命令法は二人称に対する形態のみ。単数の形態は共通だが、複数においては男女を区別する。
  • 形態的には過去刑の動詞が、意味上は現在の事柄に言及することができる。この用法をもつのは、主に状態に言及する動詞。

現在進行形「~している」という概念は、直接法現在形が兼ねている。

動詞の派生形

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語根に一連の接頭辞を添加することで異なった意味をもつ派生動詞となる。

  • 基本型(原型)
  • 第II型 /s-/
  • 第III型 /n-/
  • 第IV型 /m-/
  • 第V型 /tuá-/
  • 第VI型 基本動詞に第II型から第V型の接頭辞のうちいずれか2つを添加

直接目的語の位置

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他動詞は通常直接目的語の前に置かれるが、強調の概念を示す際に直接目的語が他動詞に先行することがある。その際には、強調される語句のあとに接辞/ai/を挿入(強調の接辞)。

関係代名詞

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名詞の後に無人称を分詞とした句を形容詞的に添加する。

強調構文

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無人称分詞に、強調の接辞/ai/または/i/を加える。

代表的なあいさつ表現

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  • ṣbaḥ lxir 「おはよう」
  • ms: lxir 「こんにちは/こんばんは」
  • ns ilman 「おやすみ」
  • 'la xir 「お元気で」

方言

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  • アルゼウ方言
  • イズナセン方言(ベニ・スナッセン方言)
  • Igzennaian
  • ウリゲル方言

参考文献

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主な執筆者、編者の順。

  • 石原忠佳『ベルベル語とティフィナグ文字の基礎 : タリーフィート語〈Tarīfīt〉入門』春風社、2014年2月。 NCID BB15478099国立国会図書館書誌ID:025306064 ISBN 978-4-86110-394-0。全224頁。22cm、ベルベル語[2]、JP-eコード:86110394JAAA01MBJE3X。NCID BB17529907NCID BB15478099
  • 石原忠佳、新開正『ベルベル人とベルベル語文法:民族・文化・言語:知られざるベルベル人の全貌』新風舎、2006年1月。 NCID BA75986909国立国会図書館書誌ID:000008046466 ISBN 4-7974-7620-6全183頁、21cm。ベルベル語。
  • 石原忠佳『ベルベル語小辞典 : 品詞・項目別』明石書店、2023年2月。国立国会図書館書誌ID:032657565 ISBN 978-4-7503-5519-1全246頁、22cm。ベルベル語--辞書
  • 金井真紀「村の歌い手は評価が低い(ベルベル語)」『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った : 世界ことわざ紀行』岩波書店、2022年12月。 NCID BD00222890国立国会図書館書誌ID:032504473 ISBN 978-4-00-061573-0全79ページ、20cm。諺
  • シャケール, サレム 著「アラビア語化の中のベルベル語【マグレブ、とくにアルジェリアの場合】」、三浦信孝、糟谷啓介 編『言語帝国主義とは何か』藤原書店、2000年9月、184-203頁。 NCID BA48343837国立国会図書館書誌ID:000002925193NDLJP:info:ndljp/pid/10201604 ISBN 4-89434-191-3全397頁。21cm。言語政策--論文集。
      • プロローグ 植民地時代とポスト植民地時代の言語支配【言語帝国主義を発見原理として】/ 7-24
      • 序 母国・国語・国家語 : 言語生態学の重層的〈中心・周辺〉モデル/ 27-38
      • 言語と民族は切り離し得るという、言語帝国主義を支える言語理論/ 39-51
      • 英語帝国主義の過去と現在/ 95-110
      • 共和国の言語同化政策とフランコフォニー/ 111-131
      • フランス語は「フランス人」を創出するか【植民地帝国におけるアリアンス・フランセーズの言語普及戦略】/ 132-149
      • II 少数言語の抵抗 : クレオール語圏の言語生態学と言語政策/ 153-165
      • クレオール、クレオリザシオン、クレオリテ/ 166-183
      • 旧仏領アフリカにおいてアフリカ諸言語はどのようにして「復権」され得るのか?【セネガルの事例から】/ 204-216
      • エピローグ 言語帝国主義論の射程/ 375-386
      • 「言語帝国主義」関連ブックガイド150/ 397-393
      • 編集後記/ 387-392
      • 執筆者紹介
  • 庄司博史 編『世界の公用語事典』丸善出版、2022年1月。国立国会図書館書誌ID:031929996 ISBN 978-4-621-30694-9、JP-eコード:62130694100010000000。全409頁、22cm。標準語--便覧。
  • 中野暁雄『モロッコのベルベル語による民族誌的語り』第106集. ベルベル研究 = Studia Berberi ; 第4、堀内里香 編訳、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所〈イスラム文化研究 = Studia culturae Islamicae〉、2017年10月。 NCID BB24850951国立国会図書館書誌ID:028625235 ISBN 978-4-86337-257-3全243頁。20、27cm。ベルべル--モロッコ。原タイトル: 『Ethnographical texts in Moroccan Berber』。
  • [Folch, Ramon] 編『世界自然環境大百科』大澤雅彦 総監訳、朝倉書店〈Humans in the World's Ecosystems. 3〉、2012年2月。 NCID BB08406418国立国会図書館書誌ID:023421300 ISBN 978-4-254-18513-3全479頁、29cm。索引あり。生態学--便覧 、サバンナ--便覧。原タイトル:『Savannahs』
  • 堀内里香『タシュルヒート語彙集』〈アジア・アフリカ基礎語彙集 ; 36〉2000年3月。 NCID BA47304986国立国会図書館書誌ID:000002904005 ISBN 4-87297-770-X全260頁、図版17枚 ; 26cm。ベルベル語--語彙。
  • 山岡政紀『ヒューマニティーズの復興をめざして : 人間学への招待』勁草書房、2018年2月。国立国会図書館書誌ID:028810186 ISBN 978-4-326-10266-2全271p、21cm。人間科学。
欧文

定期刊行物

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脚注

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  1. ^ MeClelland III著作の目次。
    • Foreword(序文)・Preface(はじめに)・Acknowledgements (謝辞)
    • List of Figures(挿し絵一覧)・List of Tables(表一覧)・List of Abbreviations and Symbols(略語と記号一覧
    • Introduction(概論)
    • General (一般)
    • Phonology(音韻論)
    • Morphology(形態論)
    • Syntax(統語論)
    • Discourse pragmatics and clause structure(談話語用論と節構造)
    • Interrelations of syntax, pragmatics and story structure(統語論、語用論、物語構造の相互関係)
    • A final word(結びの言葉)
    • Tarifit Berber-English Dictionary(Tarifit ベルベル語-英語辞典)
    • Bibligraphy(参考文献)
    • Index(索引)

出典

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  1. ^ MeClelland III 2004
  2. ^ ベルベル語の世界初となる体系的な文法書を完成!”. warp.ndl.go.jp. 創価大学 (2014年5月). 2014年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月7日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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