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にがり

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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にがり(苦汁、滷汁)とは、海水からとれる塩化マグネシウムを主成分とする食品添加物。海水からを作る際にできる余剰なミネラル分を多く含む粉末または液体であり、主に伝統的製法において、豆乳豆腐に変える凝固剤として使用される。

概要

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海水に含まれている塩類は、塩化ナトリウムが大部分を占める。海水から食塩を生成する場合、塩化ナトリウムが先に結晶化するので、これをかき集めるなどして物理的に取り除いたのちに残る液体がにがりである。にがりの成分は、塩化マグネシウムが中心である。ほかにナトリウムカリウムを含む。味は、主にマグネシウムイオンにより、文字通り苦い。

国内においては香川県三豊市の仁尾興産と兵庫県赤穂市の赤穂化成の2社が大半のシェアを持つ[1]

組成

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イオン交換膜によって得られる物の1リットルあたりの大まかな組成は、以下のとおりである[2]

  • 比重 1.264(30℃)
  • 塩化マグネシウム 188.4g
  • 塩化カリウム 56.4g
  • 食塩 74.7g
  • 塩化カルシウム 64.5g
  • 臭素 10.6g
  • 硫酸マグネシウム 微量

用途

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食品

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食品衛生法では、にがりは「粗製海水塩化マグネシウム」という名称で既存添加物名簿に収載されている。法律では食品に添加物を使用した際は基本的に名簿にある物質名で表記をすることになっているが、粗製海水マグネシウムは豆腐の凝固剤として使用した場合と、食用塩の原材料に使用した場合、粗製海水塩化マグネシウムの後に「(にがり)」と付記してもよいことになっている。豆腐の凝固剤としては、他にも焼石膏グルコノデルタラクトンなどが使用されている。

太平洋戦争中の日本では、にがりは飛行機の製造(マグネシウム合金製造)に必要とされ軍の統制品となり、にがりの代用品としてすまし粉と呼ばれる石膏の粉(硫酸カルシウム)で豆腐を固める製法が普及した [3] [4]

にがりは、煮物料理のアク抜き、また初乳や生乳を固めた「牛乳豆腐」を固める凝固剤にも用いられる。

その他

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硫酸マグネシウム塩化カリウム臭素等の原料とされる[5][2][6]

製法

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天日採塩法で塩を得る場合、完全に水分を蒸発させると出来上がった塩にマグネシウム分が多く残って苦味が出てしまう。塩化マグネシウムは塩化ナトリウムより溶解度が高いので、塩化ナトリウムが析出した後で、かつマグネシウム分がすべて結晶化してしまう前のタイミングで塩を収穫する。収穫した塩は湿っているので、これを高床にした小屋に運び込むとマグネシウム分に富んだ水分がにがりとして床下にしたたり落ちる[7]。日本では1972年にイオン交換膜法による製塩に切り替わるまで煎熬採塩法が広く行われていたが、この場合は鹹水を煮詰めて析出した塩を採った残りの液体としてにがりが得られる[8]。なお、出来上がった塩にもマグネシウム分が含まれているので、これをカマスなどに詰めて置いておくとにがりがしたたり落ちてくる[9](塩化マグネシウムは塩化ナトリウムよりも水への溶解度が高く、潮解性があるので、吸湿して溶け出してくる)。にがり成分をしたたり出させる工程を「枯らし」といい[7][9]、塩を2年、3年など長期間に渡って枯らした塩は珍重された[9]

にがりの成分は、製法やメーカーで大きく異なる実態がある[10]

健康への影響

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にがりはマグネシウムを多く含むため、飲み過ぎると下痢などの消化器症状を起こすことがある[11]。また高マグネシウム血症などの悪影響が出る場合があり、過剰摂取は危険である。2004年3月に神奈川県の知的障害者入居施設で、職員が女性入所者に誤ってにがりの原液400mlを飲ませたところ血管が詰まって危篤状態となり[12]、翌4月に死亡する事件が起きた[13]

2004年5月30日に放映された『発掘!あるある大事典II』では「にがりダイエット」が放映されてから[14]、にがりのダイエット効果が話題になっていたが、科学的根拠はなく、同番組を見て試した視聴者が下痢などの症状を訴えることが相次いだため、後に厚生労働省から警告が出された。

なお「第6次改定日本人の栄養所要量について」によると、マグネシウムの所要量は約320mg/日、マグネシウムの許容上限摂取量は約700mg/日である[15]

一方、赤穂化成は2021年に、にがりに含まれるマグネシウムが筋肉形成に与える効果を示した研究を発表するなど、大学などと連携しにがりの成分の研究を続けている。東京慈恵会医科大学の客員教授の横田は、マグネシウムが糖尿病や肥満のリスクを下げると指摘している[1]

参考文献

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  1. ^ a b 〈小さくても勝てる〉にがり、豆腐だけじゃない 需要創出で大手2社連続増収 仁尾興産、保湿力高い入浴剤 赤穂化成は料理に栄養プラス”. 日本経済新聞 (2024年8月28日). 2024年8月28日閲覧。
  2. ^ a b 小松勝, 西川周, 小島茂樹、「ブロムを中心とした「にがり工業」の現状と将来」『日本海水学会誌』 1980年 34巻 4号 p.217-232, doi:10.11457/swsj1965.34.217, 日本海水学会
  3. ^ 工藤詩織の「お豆腐」進化論 Vol.10
  4. ^ 戦争で消えた本物の「にがり豆腐職人」(前編)
  5. ^ “Production of pure potassium salts directly from sea bittern employing tartaric acid as a benign and recyclable K+ precipitant”. RSC Advances (65). (12 August 2014). doi:10.1039/C4RA04360J. http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2014/RA/C4RA04360J#!divAbstract 4 November 2015閲覧。. 
  6. ^ 製塩工程における 海水資源回収の現状と展望 公益財団法人塩事業センター 海水総合研究所 公開講演2021”. 塩事業センター. 2024年8月9日閲覧。
  7. ^ a b 「カンホアの塩」の天日製法 - 2:結晶、収穫、石臼挽き(Step 4~7)”. カンホアの塩. 2021年1月3日閲覧。
  8. ^ にがり”. 珠洲製塩. 2021年1月3日閲覧。
  9. ^ a b c 誤解していませんか、塩のこと”. 伯方塩業. 2021年1月3日閲覧。
  10. ^ “にがり”の成分や表示等についてテストしました 大阪府消費生活センター
  11. ^ ミネラルについての解説 - マグネシウム 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所。2004年10月13日。
  12. ^ 「にがり原液、飲まされ危篤 神奈川県立障害者施設」朝日新聞、2004年3月30日、朝刊 社会面、39頁
  13. ^ 「にがり原液飲み、危篤の女性死亡 神奈川・障害者施設 」朝日新聞、2004年4月19日、朝刊 社会面、34頁
  14. ^ 第9回「にがりで本当にヤセるのか!?」] 発掘!あるある大事典2文字化け時は文字エンコードを(日本語 シフトJISに)
  15. ^ 第6次改定日本人の栄養所要量について

関連項目

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外部リンク

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