火病
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火病(ひびょう、かびょう、ファッピョン[1]、ファビョン[2]、朝: 화병[注釈 1])は、鬱火病(うっかびょう、うつひびょう、ウルァッピョン/ウラッピョン[4]、朝: 울화병[注釈 2]、朝: 울홧병[6])の略称で、火病という言葉は中国の明帝国の医師張介賓が初めて使用し、朝鮮時代に韓国に伝えられた。朝鮮民族(韓民族)の文化依存症候群(文化結合症候群)、精神医学的症候群(精神疾患)[7][8][9][10][11][12][3][13][14][15][16]。朝鮮民族(韓民族)特有の情緒由来の感情や激しいストレスを抑えてきたことで起こる疾病である。かつては朝鮮民族中年女性の病気と言われていたが、若年層の比率が上昇している[12][14]。怒りや悔しさ、恨(ハン)などの感情を長期間持続していた場合に患うとされる[17]。韓国には、火病専門の「火病クリニック」もある[9]
概説
[編集]朝鮮における火病に対する認識の歴史は古く、朝鮮王朝時代にまでさかのぼる[18]。正祖の母親は著書『閑中録』の中で怒りによって胸が痛み、極度の不安を感じたり、うつ状態になったりする病を「火症」と表現している[19]。韓国では怒りを「お腹の中から火の玉があがってくるようだ」と表現する事から、火病とは「怒りを抑圧し過ぎたことによって起きる心身の不調」を指す[20][10]。尚、日本では腹が立つ、腹の虫が収まらない、腑が煮えくり返るなどと表現し、インド古来の伝承では下腹部に不完全燃焼物(ストレス)が溜まるとし、火の呼吸など対処法が存在する。
『DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアル』によれば、症候として、不眠、疲労、パニック障害、切迫した死への恐怖、不快感情、消化不良、食欲不振、呼吸困難、動悸、全身の疼痛、心窩部に塊がある感覚などを呈する[21]、という。元「ミス・コリア」で韓方医のキム・ソヒョンによれば、冷えの症状のほか、消化不良、頭痛・めまい、慢性疲労、不眠・抑うつ症状などが現れる[8]、という。
また、医師でメンタルヘルスガイドの中嶋泰憲によれば、不眠、激しい疲れ、パニック、今にも死んでしまうような感覚、冴えない気分、消化不良、食欲消失、息苦しさ、動悸、体の痛み、みぞおちのしこり感といった異変が心身に生じる、という[10]。
精神科医キム・ジョンウによると、火病は一種のストレスの病気であるが、一般的なストレス病では急にストレスが表われる場合が多いのに対し、火病では同じストレスを六カ月以上受けるという[22]。また、怒りの原因を我慢することで起きるのが特徴であるという[22]。また、キム・ジョンウは、韓国人の精神科医が集まると「火病になる人は純粋で頑固な人が多い。患者が楽天的で、融通性があり、たまには人を騙したり、悪いことを見て見ぬ振りができれば、神経症にかからないのに」という話をよくすると述べている....[23]。他者への劣等感や自己に対して感じるコンプレックス、無意識の葛藤が心身の不調として現われる[24]。
ユング心理学においてはコンプレックスと劣等感は区別される。劣等感は文字通り自分が人より劣っているという感覚をいう一方で、コンプレックスは苦痛、恐怖感、羞恥心など意識には受け入れがたい感情の集まりをいう。そのため、通常は自我によって抑圧されて意識されることはなく、その意識化は嫌悪感や無力感、罪悪感を伴うために容易ではない。
傾向
[編集]かつては患者の80%が女性だったが、近年は男性の患者も増加傾向にあるとされる[25]。
2012年現在、韓国の小・中・高校生648万人のうち105万人(16.2%)は、うつ病の兆候や暴力的な傾向を示す「要関心群」で、そのうち22万人は、すぐに専門家の診断や治療を受けるべき「要注意群」であるという[26]。
韓国健康保険審査評価院の調査結果では、韓国で火病の診療を受けた患者数が年間11万5000人に上り、そのうち女性患者数が7万人と男性を大きく上回り、特に40~50代の中年層が多かった[27]。
2015年1月27日の就職ポータル「Career」の調査によると、韓国の会社員の90.18%が職場で火病の経験があると答えたとされている[28][29]。
ネットスラング・衝動的憤怒
[編集]インターネット上では「急に怒り出す人」の代名詞のように使用されるが[10]が、本来の火病は朝鮮民族(韓民族)が「怒りや悔しさを長期間、心の底に抑圧させた結果」に発症する病である[4][14]。医師の中嶋泰憲は全くの誤解であると述べている[10]。
室谷克実によると、日本の2ちゃんねる用語では「火病 (かびょう・ファビョン)」と呼び、三橋貴明によると、2ちゃんねる用語のファビョンは、ヒステリックになって、何が何だかわからなくなり、最後に怒りのあまり倒れてしまう症状であるという[30]。かつて存在した2ちゃんねる用語のオンライン辞書である『2典』によると、(本来の症状とは違うのだが)唐突に逆切れした場合などに「ファビョーン」と伸ばして使用されたという[31]。また、「ファビョる」は「ファビョン」の動詞形で、特定の国籍に限らず逆上した人に対する侮蔑の意を込めて表現したもので、単に「キレる」という意味でも使われるという[31]。2010年に鹿児島大学法文学部教授の内山弘[32]は、2ちゃんねるとニコニコ動画からネット用語を収集し、動詞化語尾「~る」を使って創造された新語の一つに「ファビョる」を挙げている。意味は「ぶち切れ状態になること」で、朝鮮語の 「 (火病=ファビョン)」が語源であると述べている[33]。
衝動的憤怒・憤怒調節障害
[編集]「衝動的な憤怒」は火病でなく、間欠性爆発性障害(憤怒調節障害)である。精神的苦痛や衝撃直後に激憤または鬱憤から突発的な衝動的行動を起こす。こちらは朝鮮民族(韓民族)以外でも見られる反復性衝動制御障害の一種であるが、韓国国内の成人の半分が憤怒調節障害を抱え[34]、過熱された憤怒過剰社会が韓国の社会問題となっている[35][36]。韓国警察庁の「2015年の統計年報」によると、傷害や暴行などの暴力犯罪、殺人や殺人未遂などの重罪の内訳で、動機が「動機が偶発的か現実に不満」という間欠性爆発性障害由来である割合が41.3%となっている[37]。
調査結果
[編集]中央日報によると、韓国のサラリーマンの90%が罹患経験があり、「くやしいことにあったり恨めしいことを体験して、積もった怒りを抑えることができずに表れる身体や精神のさまざまな苦痛」とし、主に胸にしこりがあるように感じる、苦しさと熱が体内からこみ上げてくるような症状が現れるという[4]。
韓国健康保険審査評価院(HIRA)の調査結果では、2011年から2013年の3年間における火病と新たに診断された韓国人の年間平均が約11万5000人である。その内、女性患者数が約7万人で男性を大きく上回り、特に40~50代の中年層が多いとされる[15][17]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 呉善花 2014, p. 192.
- ^ “Red Velvetジョイ、最近変わった宿舎生活と“火病(ファビョン)”を告白|スポーツソウル日本版”. スポーツソウル. 2021年7月4日閲覧。
- ^ a b “火病にはワールドカップが薬?”. 中央日報 日本語版. (2006年6月12日)
- ^ a b c “韓国人の火病急増、サラリーマン90%が病む…その原因は?”. 中央日報. 2022年6月10日閲覧。
- ^ 大阪外国語大学朝鮮語研究室編; 主幹: 塚本勲―北嶋静江『朝鮮語大辞典 下巻 ㅅ~ㅎ』角川書店、昭和61年2月20日、ISBN 4-04-012200-3、1809頁。
- ^ 朝鮮總督府編『朝鮮語辭典』朝鮮總督府、大正九年三月三十日發行、六四三頁。
- ^ 呉善花 2014, p. 192
- ^ a b キム・ソヒョン 2019, p. 58
- ^ a b 久保田るり子 (2003年12月10日). “恨(ハン)と火病(ファッピョン)”. 産経新聞. 2019年10月31日閲覧。
- ^ a b c d e 中嶋泰憲 (2010年12月16日). “火病(韓国):怒りを抑圧した結果の心身の異変”. AllAbout. 2019年11月1日閲覧。
- ^ 慎武宏 (2018年7月19日). “『グッド・ドクター』の生みの親・韓国は先進国の中で「もっとも医師の少ない国」?”. YahooNews. 2019年11月1日閲覧。
- ^ a b “火病にはワールドカップが薬?”. 中央日報. 2022年6月10日閲覧。
- ^ [https://web.archive.org/web/20151021214218/http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/151019/wor15101909140011-n2.html
- ^ a b c “韓国で若者の「火病」患者が増加 韓国ネット「寝てる時間が一番幸せ」「韓国の教育が問題」_新華網日本語”. jp.xinhuanet.com. 2023年9月23日閲覧。
- ^ a b “韓国、火病患者が年間11万5000人…男性より女性に多い”. 中央日報. 2022年6月10日閲覧。
- ^ パク・ヨンミ著・満園真木訳『生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った』辰巳出版、2015年11月20日 初版第1刷発行、ISBN 978-4-7778-1609-5、40頁。Hwa-byung―a common diagnosis in both North and South Korea that roughly translates into “disease caused by mental or emotional stress".
- ^ a b “韓国人は、なぜ“ファビョる”のか? 年間11万人以上が患う「火病」と「恨(ハン)」の真実 (2015年2月27日)”. エキサイトニュース. 2022年6月10日閲覧。
- ^ “年間11万人が“火病(ファビョン)”に苦しむ現代韓国。なぜ火病は韓国特有の病気なのか”. S-KOREA(エスコリア). 2021年3月3日閲覧。
- ^ “年間11万人が“火病(ファビョン)”に苦しむ現代韓国。なぜ火病は韓国特有の病気なのか”. S-KOREA(エスコリア). 2021年3月3日閲覧。
- ^ 呉善花 2014, p. 193
- ^ American Psychiatric Association [編]; 髙橋三郎、大野裕、染谷俊幸訳『DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、1996年5月15日発行 第1版第1刷、ISBN 4-260-11804-8、809頁。原著第4版 (Washington D.C.: American Psychiatric Association, 1994) の全訳。
- ^ a b 呉善花 2014, p. 195
- ^ 呉善花 2014, pp. 195–196
- ^ 呉善花 2014, p. 197
- ^ “火病とFコード〜病を隠して育てて来た韓国の風土変えよう” (朝鮮語). 中央日報. (2007年11月13日)[リンク切れ]
- ^ 金秀恵 (2013年2月17日). “韓国の小中高生、22万人は「精神科の受診が必要」”. 朝鮮日報 日本語版. オリジナルの2013年2月17日時点におけるアーカイブ。 2013年2月17日閲覧。
- ^ “年間11万人が“火病(ファビョン)”に苦しむ現代韓国。なぜ火病は韓国特有の病気なのか”. S-KOREA(エスコリア). 2021年3月3日閲覧。
- ^ “한국인 화병 급증, 한국인에게만 발생…직장인 90% ‘화병 경험’” (朝鮮語). 뉴스1 (2015年1月28日). 2019年9月26日閲覧。
- ^ “韓国人の火病急増、サラリーマン90%が病む…その原因は?”. 中央日報 日本語版. (2015年1月28日)
- ^ 三橋貴明、室谷克実『韓国人がタブーにする韓国経済の真実』PHP研究所、ISBN 978-4-569-79661-1、2011年6月18日 発行、163頁。
- ^ a b 2典プロジェクト『2典 第3版』宝島社、2005年8月13日 第1刷発行、ISBN 4-7966-4754-6、448頁。
- ^ “研究者詳細 - 内山 弘”. ris.kuas.kagoshima-u.ac.jp. 2022年6月10日閲覧。
- ^ 内山弘「ネットの日本語 -2ちゃんねるとニコニコ動画を中心に-」『地域政策科学研究』第7巻、鹿児島大学、2010年、219-236頁、ISSN 1349-0699、NAID 120002383575。
- ^ “韓国の成人の半分が憤怒調節障害、どのように怒りを堪えるか”. 中央日報. 2022年6月11日閲覧。
- ^ “【時論】憤怒調節障害を病んでいる大韓民国(1)”. 中央日報. 2022年6月11日閲覧。
- ^ “【時論】憤怒調節障害を病んでいる大韓民国(2)”. 中央日報. 2022年6月11日閲覧。
- ^ “憤怒調節障害”. 東亜日報 (2017年6月20日). 2022年6月11日閲覧。
参考文献
[編集]- 呉善花「火病に苦しむ韓国人」『「反日韓国」の自壊が始まった』悟空出版、2014年11月7日。ISBN 978-4-908117-01-5。[信頼性の低い医学の情報源?]
- キム・ソヒョン『1日10分、めぐりをよくして不調を改善 しり温活美人』ポプラ社、2019年1月13日。ISBN 978-4-591-15836-4。
関連項目
[編集]- 朝鮮民族(韓国民族)
- 朝鮮の儒教/孝/忠
- 恨
- うつ病
- フラストレーション
- ヒステリー/間欠性爆発性障害
- パーソナリティ障害/自己愛性パーソナリティ障害
- 精神疾患
- 文化依存症候群
- 夫源病/主人在宅ストレス症候群
- ヘル朝鮮
- 癇癪/易怒性/自己愛性憤怒
外部リンク
[編集]- 옛날한의원 화병클리닉 (火病クリニックのサイト)
- Examining Anger in 'Culture-Bound' Syndromes (「Psychiatric Times」内)
- 朝鮮王朝実録中の「火病」 (2013年5月1日時点のアーカイブ)
- Jongwoo Kim (김종우), Kyunghee University GangdongOriental Hospital, DEVELOPMENT of Clinical Guideline for Hwa-byung