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ファーミキューテス門

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フィルミクテス門から転送)
ファーミキューテス門
クロストリジウム・ディフィシル (Clostridium difficile)
分類
ドメイン : 細菌 Bacteria
: ファーミキューテス門
Firmicutes
下位分類(綱)

ファーミキューテス門(ファーミキューテスもん、Firmicutesフィルミクテス門、グラム陽性細菌門)とは、細菌の一つである。その多くは低GC含量、グラム陽性に特徴付けられる[1]。そのため、グラム陽性低GC含量細菌とも呼ばれる。しかし、Megasphaera, Pectinatus, Selenomonas and Zymophilusのようないくつかの系統では多孔質の擬似外膜を持ちグラム陰性である。元々は、放線菌などすべてのグラム陽性菌がここに分類されていた。球菌(単球菌)または棒状の形態(桿菌)と呼ばれる丸い細胞を持つ。

ファーミキューテス門は、2021年に国際原核生物命名規約によってBacillota(バシラス門)と改名された[2]

270以上のが分類されており、細菌の中ではプロテオバクテリア門に次ぐ多様性を持つ。多くのFirmicutesは、乾燥に耐性があり、極端な条件に耐えることができる内生胞子(芽胞)を生成する。それらはさまざまな環境で見られ、グループにはいくつかの注目すべき病原体が含まれている。ヘリオバクテリア科においては、酸素非発生型光合成によってエネルギーを生成する事が知られている。ビール、ワイン、サイダーの発酵に重要な役割を果たすものも知られている。腸内細菌皮膚常在菌病原菌などが含まれている他、ビールワイン果実酒ヨーグルトなどの発酵食品の生産過程でも重要な役割を果たしているものが知られている。

特徴

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枯草菌とその芽胞(水色)

グラム陽性菌はFirmicutes(グラム陽性菌門)と放線菌門(Actinobacteria)の2つに大別されるが、FirmicutesはDNA中のGC含量(全核酸塩基中のG+Cの割合)が低いことが特徴である[要出典]。GC含量は55%未満で、40%前後のものが多い[要出典]。特徴的な耐久構造である芽胞を形成する能力を持つ種が広い分類範囲に含まれることから、芽胞形成能力を持った偏性嫌気性の祖先から進化してきたと考えられている[要出典]

学名は細胞壁の構造に由来しており、ラテン語でfirmus(強固な)+cutis(皮膚)という意味である[要出典]。ただし、国際細菌命名規約は門の階級について規定しないため、厳密に言えばFirmicutesは学名ではなく、ただのラテン語名に過ぎない。

系統

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概要

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ファーミキューテス門の下位分類としては5綱が知られている。歴史的にはモネラ界を大別する4門の1つであり、グラム陽性菌全てを含む門としてファーミキューテス綱(バシラス、クロストリジウム類)、放線菌綱、デイノコッカス-サーマス綱が分類されていた時期もある[要出典]。その後性質の違いによりバシラス(Bacillus)とクロストリジウム(Clostridium)以外が分離され、さらに16S rRNAで系統が整理された結果、新たにウェイロネラ科 (Veillonellaceae)(擬似的にグラム陰性に染まる)などもファーミキューテス門に分類される結果となった[要出典]。クロストリジウム綱やバシラス綱は生化学的性質に基づいて分類されており、今後分類が再編される可能性がある[要出典]

なお、系統的に近いモリクテス綱(Mollicutes、細胞壁を欠損しているという特徴がある)に関しては、ファーミキューテス門に含まれる場合と、テネリクテス門(Tenericutes)として独立させる場合で、意見が分かれている[要出典]。Bergey's Manual 2ndでは現在テネリクテス門を分けているが、近年の系統解析ではファーミキューテス門に含まれる見解が支配的である[要出典]

系統樹

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系統樹はAnnotree[3]とGTDB (release 05-RS95 (17 July 2020))[4]を利用して作成された。

Firmicutes G

Limnochordia

Firmicutes E

"Thermaerobacteria"

"Symbiobacteriia"

"Sulfobacillia"

"Selenobacteria"

Negativicutes

Firmicutes B

"Syntrophomonadia"

"Dehalobacteriia"

"Peptococcia"

"Desulfitobacteriia"

"Moorellia"

"Thermincolia"

"Desulfotomaculia"

"Halanaerobiaeota"

"Halanaerobiia"

Firmicutes A

"Thermosediminibacteria"

"Thermoanaerobacteria"

"Mahellia"

Clostridiia s.s.

Firmicutes D

"Proteinivoracia"

"Dethiobacteria"

"Natranaerobiia"

"Fusobacteriota"

Fusobacteria

"Bacillota"

"Alicyclobacillia"

"Desulfuribacillia"

"Bacillia" s.s.

バシラス綱

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化膿レンサ球菌

通性または偏性好気性のグループ。バシラス(桿菌)と名前は付いているが、これはBacillus属に由来するものでこの綱の性質を表すものではない。ラクトバシラス目は無芽胞で乳酸発酵をする種(乳酸菌レンサ球菌ミュータンス菌など)を多く含む。バシラス目には芽胞を形成する多くの種が含まれるが、無芽胞のものもいる。枯草菌炭疽菌ブドウ球菌がバシラス目の代表例である。

クロストリジウム綱

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破傷風菌

偏性嫌気性。多くが芽胞形成能力を持つ。この綱の代表的な生物であるClostridium属は、破傷風菌ボツリヌス菌など地球上で最も強力な毒素を産生する能力を持つ種を含む。ウェルシュ菌もクロストリジウム属に含まれる。クロストリジウム目はヘリオバクテリア(Heliobacteria)と呼ばれる光合成細菌も1科含んでいる。

エリュシペロトリクス綱

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16S rRNA配列によって定義されている小さめの鋼。哺乳類鳥類に分布する通性嫌気性菌。8属を含む。

ネガティウィクテス綱

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嫌気性で、グラム陰性に染まる1群。31属を含む。外膜を有する。

サーモリソバクテリア綱

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Thermolithobacter属の1属のみを含む。を還元する偏性嫌気性菌。

病原性を持つ系統

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ファーミキューテス門は、マウスとヒトの腸内細菌叢の大部分を占めている[5]腸内細菌叢の一部であるファーミキューテス門細菌は、エネルギー吸収に関与しており、糖尿病と肥満の発症に関連している可能性があることが示されている[6][7][8][9]。健康なヒト成人の腸において、最も豊富な系統はFaecalibacterium prausnitziiであり、腸全体の細菌数の5%を構成している。この種は、肥満によって引き起こされる軽度の炎症の減少に直接関連している[10]F. prausnitziiは、非肥満の子供よりも肥満の子供の腸内で、より高いレベルで発見されている。

複数の研究で、痩せた対照よりも肥満の人に多くのファーミキューテス門細菌が見られた。肥満患者では、特にファーミキューテス門細菌の内でもLactobacillusの相対存在量が高いことが発見されている。減量食を摂取した肥満患者は腸内のFirmicutesの量が減少していることを示した研究例もある[11]

マウスの食餌の変化は、ファーミキューテス門細菌の数の変化を促進することが示されている。標準的な低脂肪/高多糖類食を与えられたマウスよりも、西洋型食餌(高脂肪/高糖)を与えられたマウスの方が、比較的豊富なFirmicutesが見られた。ファーミキューテス門細菌の量が多いことは、マウス内の脂肪過多と体重の増加にも関連していた[12]。具体的には、肥満マウスでは、モリクテスMollicutes)が最も存在量が多かった。この肥満マウスの微生物叢を無菌マウスの腸に移植すると、ファーミキューテス門細菌の存在量が少ない痩せたマウスに微生物叢を移植したマウスと比較して、無菌マウスはかなりの量の脂肪を獲得した[13]

人間の糞便から分離されたクリステンセネラ属(Christensenellクロストリジウム綱)の存在は、肥満度指数の低下と相関することがわかっている[14]

出典

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  1. ^ "Firmicutes" - ドーランド医学辞典
  2. ^ Oren, Aharon and Arahal, David R and G{\"o}ker, Markus and Moore, Edward RB and Rossello-Mora, Ramon and Sutcliffe, Iain C (2023). “International code of nomenclature of prokaryotes. Prokaryotic code (2022 revision)”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (Microbiology Society) 73 (5a): 005585. doi:10.1099/ijsem.0.005585. https://doi.org/10.1099/ijsem.0.005585. 
  3. ^ Mendler, K; Chen, H; Parks, DH; Hug, LA; Doxey, AC (2019). “AnnoTree: visualization and exploration of a functionally annotated microbial tree of life”. Nucleic Acids Research 47 (9): 4442–4448. doi:10.1093/nar/gkz246. PMC 6511854. PMID 31081040. http://annotree.uwaterloo.ca/app/. 
  4. ^ GTDB release 05-RS95”. Genome Taxonomy Database. 2020年7月1日閲覧。
  5. ^ Ley, Ruth E and Peterson, Daniel A and Gordon, Jeffrey I (2006). “Ecological and evolutionary forces shaping microbial diversity in the human intestine”. Cell 124 (4): 837–848. doi:10.1016/j.cell.2006.02.017. PMID 16497592. 
  6. ^ Ley, Ruth E and Turnbaugh, Peter J and Klein, Samuel and Gordon, Jeffrey I (2006). “Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity”. Nature 444 (7122): 1022–1023. Bibcode2006Natur.444.1022L. doi:10.1038/4441022a. PMID 17183309. 
  7. ^ Henig, Robin Marantz (2006年8月13日). “Fat Factors”. New York Times Magazine. https://www.nytimes.com/2006/08/13/magazine/13obesity.html?pagewanted=3&ei=5070&en=0c39c5880e4d7067&ex=1166850000 2008年9月28日閲覧。 
  8. ^ “Obesity alters gut microbial ecology”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (31): 11070–11075. (August 2005). Bibcode2005PNAS..10211070L. doi:10.1073/pnas.0504978102. PMC 1176910. PMID 16033867. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1176910/. 
  9. ^ Komaroff AL. The Microbiome and Risk for Obesity and Diabetes. JAMA. Published online December 22, 2016. doi:10.1001/jama.2016.20099
  10. ^ Chakraborti, Chandra Kanti (15 November 2015). “New-found link between microbiota and obesity”. World Journal of Gastrointestinal Pathophysiology 6 (4): 110–119. doi:10.4291/wjgp.v6.i4.110. PMC 4644874. PMID 26600968. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4644874/. 
  11. ^ Million, M.; Lagier, J.-C; Yahav, D.; Paul, M. (April 2013). “Gut bacterial microbiota and obesity”. Clinical Microbiology and Infection 19 (4): 305–313. doi:10.1111/1469-0691.12172. PMID 23452229. 
  12. ^ Turnbaugh, Peter J. (17 April 2008). “Diet-Induced Obesity Is Linked to Marked but Reversible Alterations in the Mouse Distal Gut Microbiome”. Cell Host & Microbe 3 (4): 213–223. doi:10.1016/j.chom.2008.02.015. PMC 3687783. PMID 18407065. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3687783/. 
  13. ^ Million, M. (April 2013). “Gut bacterial microbiota and obesity”. Cell Microbiology and Infection 19 (4): 305–313. doi:10.1111/1469-0691.12172. PMID 23452229. 
  14. ^ Goodrich, Julia K.; Waters, Jillian L.; Poole, Angela C.; Sutter, Jessica L.; Koren, Omry; Blekhman, Ran; Beaumont, Michelle; Van Treuren, William et al. (2014). “Human Genetics Shape the Gut Microbiome”. Cell 159 (4): 789–799. doi:10.1016/j.cell.2014.09.053. ISSN 0092-8674. PMC 4255478. PMID 25417156. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4255478/. オープンアクセス

外部リンク

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