スライドギター
スライドギター(英語: slide guitar、別名:ボトルネックギター)は、ギターの奏法のひとつ。スライドバーと呼ぶ棒を指に装着または持ち、弦がフレットや指板から浮いた状態のままバーを任意の位置で弦に接触させ、ピッキングして発音する奏法である。
概要
[編集]別名であるボトルネックギターの由来は、もともとは酒瓶などの瓶の首の部分をカットしたもの(ボトルネック)に指を通して使用していたことによる[1][2]。
初期のデルタ・ブルースのスライド・ギター奏者は、アメリカ南部のミシシッピ・デルタ出身者がひじょうに多く、彼らがもともと畑で歌っていたアフリカ起源の歌が影響を与えていたと見られている[3]。スライドギターの利点は、弦をフレットに触れさせずに音程を得られるため、スライドバーをスライドさせることで、微分音の表現が可能になり、特有の幅広いビブラートやグリッサンドを行えることである。ハワイのギタリストは、標準的なチューニングから、いくつかの弦をゆるめる「スラック・キー」を使用する[4]。この際、開放弦がそのまま和音となるようにチューニングされることが多い[5]。これは現代の音楽シーンではオープン・チューニングと呼ばれている。ブルースでも同様にオープン・チューニングが多用される[4]。
音楽理論的に不協和音が多数存在する為、この奏法を敬遠するミュージシャン、プロデューサー、サウンドプロデューサーも少なからず存在する。[要出典]この奏法は主にハワイアンやブルース、カントリーミュージックなどでの奏法として発達し、スライド奏法の演奏に特化したスティール・ギターがある。通常のスパニッシュ・タイプのギターにおいては、リゾネーター・ギター(一般にドブロ・ギターと呼ばれるギター)などが、音量が増大して金属音の独特な効果が出ることも相まって、好んで用いられた。カントリー・ブルースのロバート・ジョンソン[6]、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、タンパ・レッド、ココモ・アーノルドらは、スライドギター演奏の初期の演奏家である。その後マディ・ウォーターズやエルモア・ジェームスらによりブルースがエレクトリック化し、それをルーツとした白人ブルース・ロックの隆盛が起きて、エレクトリックギターで優れたスライド演奏をするミュージシャンが現れた。デュアン・オールマンやローウェル・ジョージ、ジェシ・エド・デイヴィス、ライ・クーダー、デレク・トラックス、サニー·ランドレスらは、スライド・ギターの名手として知られている。
詳細・スライドバー
[編集]ガラス、ブラス、鉄、ステンレス、陶器など様々な材質があり、また大きさ、形状、重さも様々である[2][7]。それぞれ音の効果や、弾きやすさなどが異なる[2][7]。
スライドバーは楽器店などで購入できるが、ガラス瓶を切断して自作することも可能である。堅牢性を重視して製造されるガラス瓶から作ったスライドバーは、楽器店で売られているものよりも肉厚で音が良いと言われる事もあるが[7]、切り口が危険であるため、安全のため研磨するなどのDIY技量が必要である。化粧品や薬品などの小瓶を使うのも手で、スライドギターの名手として名高いデュアン・オールマン[注 1]は「コリシディン」という薬の瓶をそのまま使っていた[1][8]。市販のスライドバーやガラス瓶以外にも様々な物で代用可能であり、中には(時には応急的または演出的に)ソケットレンチ・金属製ライター・ナイフ・牛の骨などを使う者もいる[2][1]。座奏するスティール・ギターでは、通常は指を入れる穴のない重量のある金属製のスライドを使用する[2][9][10]。
著名なスライド奏者
[編集]世界
[編集]- ブライアン・ジョーンズ
- デュアン・オールマン
- チャーリー・パットン
- サン・ハウス
- サント・ファリナ
- マディ・ウォーターズ
- ジョン・リー・フッカー
- エルモア・ジェイムス
- ハウンド・ドッグ・テイラー
- ジェフ・ベック
- タンパ・レッド
- ココモ・アーノルド
- ローウェル・ジョージ
- ライ・クーダー
- ジェシ・エド・デイヴィス
- ジョージ・ハリスン
- ロン・ウッド
- デレク・トラックス
- ジョニー・ウィンター
- エリック・サーディナス
- デヴィッド・リンドレー
- サニー・ランドレス
日本
[編集]- 内田勘太郎(憂歌団)
- 桑田佳祐(サザンオールスターズ)
- 鈴木茂(SKYE、はっぴいえんど、ティン・パン・アレイ他)
- 高田漣
- 田原健一 (Mr.Children)
- 山内総一郎(フジファブリック)
- 山崎まさよし
関連項目
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 1971年に交通事故のため、24歳の若さで早逝している。
出典
[編集]- ^ a b c “エレキギターのマメ知識:酒場で生まれた? スライドギター奏法”. 楽器解体全書. ヤマハ. 2023年2月12日閲覧。
- ^ a b c d e 竹内伸一 (2022年10月10日). “【今さら聞けない楽器のア・ソ・コ】お題「スライドバー」”. BARKS. ジャパンミュージックネットワーク株式会社. 2023年2月18日閲覧。
- ^ “A Brief History of the Blues ”. 4 August 2020閲覧。
- ^ a b Ross, Michael. “Pedal to the Metal: A Short History of the Pedal Steel Guitar”. premierguitar.com. 5 October 2017閲覧。
- ^ よしみ Nui だいすけ. “スラック・キー・ギター”. ハワイ州観光局公式ラーニングサイト. 2021年11月23日閲覧。
- ^ http://www.discogs.com/artist/272142-Robert-Johnson
- ^ a b c 井戸沼尚也. “スライド・バーの素材/形状/重さでギターの音はどう変わるのか?|連載コラム|デジマート地下実験室”. デジマート・マガジン. デジマート. 2023年2月12日閲覧。
- ^ Della Cava, Marco (2014年10月25日). “Allman Brothers' final shows haunt Beacon”. USAトゥデイ. 2023年2月12日閲覧。
- ^ “スチールギター バーの種類と使い心地”. RGS Guitar School. 2023年2月12日閲覧。
- ^ “スチールギター バーの持ち方”. RGS Guitar School. 2023年2月12日閲覧。
洋書
[編集]- van der Merwe, Peter (1989), Origins of the Popular Style: The Antecedents of Twentieth-Century Popular Music, Oxford: Clarendon Press, pp. 66–67, ISBN 0-19-316121-4
外部リンク
[編集]- The Magic and Mystery of Slide Guitar - an exhibit curated by the Museum of Making Music, National Association of Music Merchants, Carlsbad, CA – detailing the history and evolution of slide guitar technique.
- Open-G tuning, Open-E tuning and Slide guitar An overview of Open-G and Open-E slide