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リミテッド・アニメーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

リミテッド・アニメーション: limited animation)は制約による絵の意図的な単純化を特徴とするアニメーションのスタイルである[1]

概要

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リミテッド・アニメーション

従来のフル・アニメーションのリアルな動作を追求した表現手法に対し、簡略化された抽象的な動作を表現するための手法として考案された[1](参考: 記号化)。一例として動きを簡略化しセル画の枚数を減らす(コマ打ち[2]

ワーナー・ブラザース製作・チャック・ジョーンズ監督の『ドーバーボーイズ』(原題:The Dover Boys、1942年)で初めて実用化され、アメリカのアニメーション制作会社UPAにより本格的に導入された[3]が、後のハンナ・バーベラなどにより、専ら省力化のために使用された。

日本では柳原良平による壽屋(現・サントリー)のTVコマーシャル『トリス・バー』(1958) が最初のリミテッドアニメーションである[4]。戦後アニメ創成期において虫プロ手塚治虫テレビアニメの『鉄腕アトム』制作に制作費や制作時間を削減するために採用した。これによりリミテッドアニメーションを進化させ同時に日本製アニメーションの手法として定着、現在では洗練されアニメの手法として発展している。

手法

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リミテッド・アニメーションは「現実/実写への接近」との決別を標榜し絵を意図的に単純化するスタイルである[1]。ゆえに個別具体的な表現手法を指す語ではなく、方向性を共有しているスタイルの総称である。とはいえリミテッド・アニメーションでしばしば見られる特徴的な表現手法は様々存在する。以下はその一例である。

コマ打ち

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コマ打ちは1枚の画を1枚以上の連続したコマに割り当てる表現技法である。アナログ/連続的に画が変化する現実やそれを捉える実写映画へ接近するのであれば1コマ打ちが求められるが、あえてより多いコマ数でコマ打ちすることで、変化が劇的でケレン味ある映像表現を追求することができる[2]

海外のリミテッドアニメは2コマ打ち(毎秒12枚の画)が多く[要出典]、日本のリミテッドアニメはさらに少なく3コマ打ち(毎秒8枚の画)が主流である[5]

シンクロ・ヴォックス

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シンクロ・ヴォックス(Syncro-Vox, Synchro-Vox)は、静止画像やアニメーション上のキャラクターの口の部分に、口の実写映像を光学合成するものであり、リミテッド・アニメーションの中で最も極端な例の一つとして知られている。この技法は、1950年代エドウィン・"テッド"・ジレット英語版がTVCM向けに動物がしゃべっているように見せるために考案したものである。ジレットは1952年2月4日にこの手法を特許として申請し、1956年3月27日に特許を取得した(米国特許番号:第2,739,505号)[6]

音声と映像の同期が難しかった当時、シンクロ・ヴォックスはアニメ制作の省力化に用いられるようになり、主な使用例としてはカンブリア・プロダクションズ英語版の『冒険王カーゴ』(原題:Clutch Cargo、別邦題:冒険王クラッチ)、『宇宙ライダー エンゼル』(Space Angel、キャプテン・ゼロ)、『キャプテン・ファドム』(Captain Fathom)などが挙げられる[7]。当時の視聴者からは「口だけが実写のアニメは不気味だった」と評されることもある[8]

その後、シンクロ・ヴォックスは本格的なアニメーションの技法として使われることは少なかったものの、テレビ番組などで笑いをとるため、ほかの実写映像に別人の口を合成する形で使われるようになった。

2004年制作のディズニー・ピクサー作品『Mr.インクレディブル』(ミスター・インクレディブル、原題:The Incredibles)では、DVD販売の特典映像として作品内作品のヒーローアニメ「Mr.Incredible and Pals」にこの手法がレトロな雰囲気と相まった演出の手法として用いられている。

2023年に制作されたCGショートアニメ『ヘルピポシリーズ ぴーち鬼ぱーち鬼』で、キャラクターの口の部分に声を演じるチョコレートプラネットの口の実写映像を合成するという手法が使われている[9]

その他

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画面の一部だけを動かす場合、特にキャラクターの体や顔の向きと輪郭はそのままで、目や口だけが動く、画面内の多くのキャラクターのうち、1・2名のみが動く、複数のキャラクターが全く同様の軌跡で動く、などが特徴である。他にも同じようなシーンでセル画を使い回すバンクシステムなどの工夫が知られる。

脚注

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出典

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  1. ^ a b c "リミテッドアニメーション ... 絵をデザイン的に単純化し、動きを少なくしたアニメーションのスタイル" 西村 2021, p. 48 より引用。
  2. ^ a b "人を殴るシーン。あえて中割りを入れずに、3コマによる変化の大きい劇的な動きにしたほうが、速くインパクトのあるパンチに感じられるケースが多い。むしろ1コマ打ちではぬるっと見えてしまい、スピード感がなくなったりもする。" 以下より引用。高瀬, 康司 (2019), 第2回 アニメの「コマ打ち」とは何か――井上俊之が語る「コマ打ち」の特性, フィルムアート社., https://www.filmart.co.jp/pickup/25111/ 
  3. ^ "リミテッドアニメーションは、40 年代初頭のアメリカでのちに UPA(ユナイテッド・プロダクションズ・オブ・アメリカ)となるグループが確立したスタイルである。このグループは、ディズニー社を退社したアニメーターの集まりで、ディズニーとは異なるアニメーションを目指し、グラフィックデザインを動画化した。" 西村 2021, p. 48 より引用。
  4. ^ "1958 年 ... 柳原良平は、UPA の作品を参照し、トリス(当時は寿屋)のウイスキーのテレビコマーシャルを制作した。〈アンクルトリス〉シリーズの第一作『トリス・バー』... で、これが日本における最初のリミテッドアニメーションである。" 西村 2021, p. 48 より引用。
  5. ^ "現在,流通している 2D アニメ―ションは 1 秒が 24 フレームで 8 枚の絵を使う 3 コマ打ちのものが多く" p. 74 より引用。北畑. (2018). 2Dセルアニメーション風3DCGのフレームレートと立体感の関係. 三次元画像コンファレンス講演論文集. doi: 10.60374/sanjigen.26.0_72.
  6. ^ Method and Means for Producing Composite Talking Picture
  7. ^ "Don't believe your eyes! How 'Clutch Cargo' cuts corners as a television comic strip", TV Guide, December 24, 1960, pp. 28-29.
  8. ^ 三宅裕司『ぼっ!ぼっ…ぼくらはテレビ探偵団』祥伝社、1987年、33頁。ISBN 4-396-62005-5NDLJP:12275922/18
  9. ^ チョコプラ「なんか付いてるかも」 口元だけ実写「ヘルピポ」新シリーズは慣れたらかわいい、お笑いナタリー、2023年7月14日。

参考文献

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  • 西村, 智弘 (2021). "日本のアニメーションはいかにして成立したのか". アニメーション研究. 21 (2): 43–50. doi:10.34370/jjas.21.2_43

関連項目

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