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戦術データ・リンク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リンク 4から転送)
US Navy 戦術データ・リンク情報共有化機器装備

戦術データ・リンク(せんじゅつデータ・リンク、: Tactical Digital Information Link, TADIL)は、軍隊の作戦行動に用いられる情報を伝達、配信及び共有するためのデータ通信システムの総称である。

概要

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情報交換装置または、情報共有化機器とも訳される通信情報機器とその通信仕様(プロトコル)を総合して戦術データ・リンクと称する。音声情報、自己や目標の位置や状態の情報、可視光・赤外線・レーダー表示など画像情報、を一括して送受信できる[1]。使用資源にUHF帯からSHF帯の高周波の電波を使用するため、指向性をもたせることも容易で、デジタル技術で秘匿性と対妨害性も優れる。

戦術データ・リンクを用いることで情報の共有化が容易になり、使用する組織においては効率的な指揮管理能力が得られる。戦術データ・リンクの装備の有無、バージョンを探れば、その兵器の能力、任務、指揮官からの期待値等がおおむね推測可能であり、近代戦においては必須の装備といえる。

アメリカ合衆国軍隊による軍事における革命では、中心的な役割を果たす技術となっている。20世紀末からは、さまざまな方面から得られた情報を戦術データ・リンクによって統合的に共有し、部隊の行動に関与する者が総合的な判断材料を得ることが計画されている。このため、従来型の指揮系統にある中間管理層を必要とせずに、効率的で迅速な情報収集と指揮命令の伝達を可能とすることを計画している。本技術の使用によって補給対象の優先順位が判断しやすくなる面でも有効とされる。

陸軍空軍では、通信衛星または早期警戒管制機早期警戒機によって各部隊の保有する情報の一元化が可能になったため、大部隊の機動的運用が可能になった。例えば、歩兵の一兵士が目前に敵大部隊を発見した際、その状況をこの技術に基づいた携帯型ターミナル装置に入力すれば、ネットワークに含まれる友軍部隊のすべてが敵の存在を知り、迅速な対応が可能となる。

主な戦術データ・リンク

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TDDL

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時分割データ・リンク (TDDL: Time Division Data Link) は、西側諸国空軍地上要撃管制システムで用いられていた地対空データ・リンクの通称。アメリカ空軍半自動式防空管制組織 (SAGE)、航空自衛隊自動警戒管制組織 (BADGE)、北大西洋条約機構のNATO自動警戒管制組織 (NADGE) などで、同名、ないし同種のデータ・リンクが採用されているが、詳細な仕様は不明である。

日本版TDDLは、同様に時分割多重化技術を採用したリンク4 (TADIL-C) の技術が導入されていると伝えられ、極超短波 (UHF) が採用されている。新BADGEシステム (JADGE) は、より高速で相互運用性も向上したリンク 16に代替される計画である。

リンク4 (TADIL-C)

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リンク4 (TADIL-C) は、NATOおよびアメリカ海軍で、航空機の要撃管制や着艦誘導に用いられるデータ・リンクである。リンク 4は、リンク 4Aとリンク 4Cの2種があり、いずれもUHF帯を使用して通信速度は5,000 bpsである。1950年代末から使用され、古く単純な技術を使用しており、伝送速度は遅く、電子攻撃に弱い弱点を持つが、運用は比較的容易で、データリンクの黎明期を支えた重要な規格である。リンク 4はSTANAG 5504として規格化されていた。

リンク 4Aは、艦船と航空機、あるいは航空機間の音声通信の代替用に設計されたもので、自動着艦や、航空機の要撃管制などに用いられ、最大で100機までを管制できる。時分割多重化されており、艦船から航空機への管制メッセージ(V-シリーズ; 14ミリ秒)、航空機から艦船への応答メッセージ(R-シリーズ; 18ミリ秒)、試験メッセージの3形式のメッセージを使用している。14+18ミリ秒がタイミングとなっており、14ミリ秒の管制メッセージは70のタイム・スロット(各々0.2ミリ秒)に分かれていて、そのうち56個でデータ伝送し、残り6.8ミリ秒のうち最大4.8ミリ秒は管制・応答時の伝送遅延を吸収するために用いられる。

一方、リンク 4Cは、リンク 4Aを補完して、戦闘機間で使用されるデータ・リンクである。F-14にのみ搭載され、ひとつのリンク 4Cネットワークには、最大で4機までが参加できるが、リンク 4Aとリンク 4Cを同時に使用することはできない。

リンク 4はかなり古い規格であり、将来的にはリンク 16 (TADIL-J) に代替される計画であったが、2009年現在にいたるまで運用され続けている。

リンク 10

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これは、後述のリンク 11に多くの面で匹敵する、イギリスのデジタル・データ・リンクである。開発はフェランティ社によって行われた。フェランティ社の社内呼称はリンク X、NATO呼称がリンク 10である。輸出用の派生型としてリンク Yが開発されており、これは北大西洋条約機構外部においてはもっとも一般的な戦術データ・リンク規格となった。

リンク 10/Xの性能は、おおむねリンク 11と同等で、HF-SSB、VHF、UHF帯を使用する。ただし、要求される情報処理性能が4分の1である一方で、1つの目標あたりの情報も3分の1となっている。リンク 11との互換性はないため、イギリス海軍では、42型駆逐艦など大型艦ではリンク 11を同時に搭載するとともに、リンク 10搭載艦には、リンク 11受信専用の端末 (ROLE: Receive-Only Link-Eleven) を搭載している。

輸出用のリンク Yの通信速度は300 - 1200 bps、ネットワークに参加できるユニット数も通常は24程度である。現在販売されているのは改良型のMk.2で、通信速度は4.8 kbpsに増強されている。

NTDS / ATDS系列

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1950年代後半より、アメリカ海軍は、艦隊防空をシステム化する試みとして、海軍戦術情報システム (NTDS) の開発を開始していた。これは、各艦に戦術情報処理装置を搭載し、それらを戦術データ・リンクによって連接して、艦隊全体で一体となって戦闘を行なうものであった。そのネットワークにおいて、艦隊内での情報共有に用いられるデータリンクとしては、コリンズ社の開発したAリンク(のちのリンク 11)が採用された。リンク 11は、NTDSに並行して海軍航空隊が整備していた空中戦術情報システム (ATDS: Airborne Tactical Data System) においても採用され、空軍でもTADIL Aとして採用されて、それぞれE-2 AEWE-3 AWACSに搭載されている。

リンク 11 (TADIL-A/B)

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リンク 11はアメリカ海軍での名称、TADIL-Aはアメリカ空軍での名称で、本質的に同じものである。アメリカ空軍・海軍、NATO軍日本航空自衛隊海上自衛隊などで使われる。これらは、西側諸国で使用されている代表的な戦術データ・リンクである。のちに改良型のリンク 11B (TADIL-B) が開発され、フランスは、Vega / TAVITACで使用するために、リンク 11をコピーしてリンク Wを開発した。

リンク 11 (TADIL A) は、1950年代後半に開発された比較的古いものであるため、やや複雑な接続方法を採用しており、ネットワークを構成する各ステーションのうち1つが通信ネット管制ステーション (NCS: Net Control Station) となって、他のステーション (NPS: Net Picket Station) の通信を管制する。ネットワークに所属するユニットは必要に応じて通信ネット管制艦 (NCS) の任を果たす必要があるため、その運用にはある程度の情報処理能力が要求される。

リンク 11は、STANAG 1241として規格化されており、リンク 11で送受信されるメッセージはM-シリーズと称され、自艦の座標を送信するM.1、空中目標の座標を送信するM.2、水上目標の座標を送信するM.3、ASW目標の座標を送信するM.4、ESM探知の座標を送信するM.5、ECM目標の座標を送信するM.6、戦域ミサイル防衛において使用されるM.7、情報源などについて伝達するM.9、航空管制用のM.10、航空機の状況を伝達するM.11B、対潜哨戒機の状況を伝達するM.11C、敵味方識別装置の情報を伝達するM.11D、諜報状況を伝達するM.11M、国籍情報を伝達するM.13、武器・交戦状況を伝達するM.14、指揮統制について伝達するM.15がある。

HFUHFを併用し、伝送距離は艦艇間で25海里、艦艇と航空機間は150海里ほどである。端末機器数は20個程度であり、使用については護衛隊、護衛隊群程度の比較的小規模な範囲で運用される。伝送速度はHF/UHF帯使用で1,364bps、UHF帯使用で2,250bpsである。ECCM性を向上したSLEW仕様では1,800bpsである。ネットワークに参加できるユニット数も、通常は20程度、最大でも62である。

海上自衛隊ではしらね型護衛艦の「しらね」から装備が始まり、たちかぜ型護衛艦以降のミサイル護衛艦、あさぎり型護衛艦以降の汎用護衛艦、およびはやぶさ型ミサイル艇の全てに搭載されているほか、P-3C 哨戒機にも装備されている。航空自衛隊ではE-2C 早期警戒機E-767 早期警戒管制機が装備している。

リンク 14

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上記のとおり、リンク 11の運用には、ある程度の情報処理装置が必要であり、一方、この時期の戦術情報処理装置は、かなり大規模な容積や電力供給を必要としていた。このため、旧式の戦闘艦や、小型の艦では、リンク 11を送受信できるだけの情報処理装置を搭載できないケースが多かった。

このことから、海軍戦術情報システム搭載艦から非搭載艦に情報を送信するためのデータ・リンクとして開発されたのがリンク 14である。リンク 14のメッセージはリンク 11のフォーマットに則っており、これをテレタイプ端末によって受信するため、受信側は特別な設備を必要としない特徴がある。

日本がはつゆき型護衛艦に搭載するために開発した戦術情報処理装置であるOYQ-5では、リンク 14によって受信したデータが入力される。これは、同型が比較的小型であり、リンク 11を運用できるレベルの情報処理能力を付与する余裕がないことから採用された方式であり、アメリカ海軍のオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートの初期建造艦が搭載していたJTDS(: Junior Tactical Data System)で、当初採用されたものと同様のアプローチである。ただしJTDSは、のちの改修でリンク 11に対応した[2]

メッセージのプロトコルはSTANAG 5514として定義されている。HF、VHF、UHFの電波を使用し、伝送速度は75bpsである。北大西洋条約機構での運用は2000年で終了した[3]

Jシリーズ

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1980年代より、進歩したネットワーク・通信技術を適用した新しい戦術データ・リンクの開発が開始された。その第1弾として、1990年代前半より運用されはじめたのが統合戦術情報伝達システム (JTIDS) によるリンク 16である。そのメッセージ・フォーマットはJ-シリーズと称され、リンク 11の後継であるリンク 22においても基本的に踏襲されたほか、リンク 16の衛星通信版であるS-TADIL J、さらには情報資料を配信するIBS(Integrated Broadcast Service; 統合同軸報送信サービス)においても採用された。

リンク 16 (TADIL-J)

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リンク 11と同様に、リンク 16はアメリカ海軍での名称、TADIL-Jはアメリカ空軍での名称であり、本質的には同じものである。統合戦術情報伝達システム (JTIDS) を使用した戦術データ・リンクである。リンク 11とは通信方式が異なり、単純な改良型ではない。リンク 11と比べて伝送速度が向上し、衛星中継通信も可能となった。航空自衛隊ではE-2C早期警戒機E-767早期警戒管制機F-15J 戦闘機(近代化改修機)・ペトリオットJADGEシステムが装備しており運用を開始している。海上自衛隊ではイージス艦であるこんごう型護衛艦ちょうかい」より装備が開始された。典型的な通信速度は115kbps/58kbps/32kbpsである。

リンク 22

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リンク 22はリンク11の後継規格であり、リンク 16との互換性もある。NATO軍向けにリンク 11改 (NILE, NATO Improved Link 11) として1992年に開発が開始されている。アメリカ合衆国イギリスを主体として、カナダドイツフランススペインが開発計画に参加している。

HFUHFを併用し、HF通信の場合の伝送距離は300海里、通信速度は最大10kbpsである。2008年からドイツの水上艦艇に搭載される。

LAMPS用データリンク

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1960年代からアメリカ海軍は、護衛駆逐艦駆逐艦に広く搭載するための多用途艦載機として、LAMPS構想の開発を開始していた。初期のLAMPS (LAMPS Mk I) は、無人対潜ヘリコプター (DASH) の代替用として開発された経緯から、かなり小型のSH-2 シースプライト・ヘリコプターを採用していた。従って、ソノブイから得られた情報を機上で処理することはほとんど不可能であり、データリンクによって母艦に転送して処理・分析してもらう必要があった。

LAMPS Mk Iでは、AKT-22 FM送信機により、単信式のアナログ・データリンクが用いられており、DIFAR (指向性パッシブ・ソノブイ) またはDICASS (指向性指令探信ソノブイ) ならば各2チャンネル、LOFAR (低周波捕捉測距ソノブイ) ならば8チャンネルのデータを送信するとともに、音声による交信を行なうことができた。これらはSバンドを使用していたため、母艦からの進出距離は見通し線内に限られた。

その後、SH-60 シーホーク・ヘリコプターを中核として開発された、性能強化型のLAMPS Mk IIIでは、二重通信・デジタル式のSRQ-4リンク・システム(機上端末はAN/ARQ-44)が採用されており、ソノブイのほか、レーダーやESMのデータも送信可能になったが、同時送信は不可能である。Cバンドを使うデータ・リンクは以前と同様に見通し線内でしか使用できないが、HF帯を使うことで見通し線外での使用を可能にした音声通信装置も搭載している。

さらに、これを発展させたLAMPS Mk III Block II (MH-60R)では、陸海空で統一規格として採用されたTactical Common Data Link (TCDL) と互換性のあるAN/ARQ-58 CDLホーク・リンク (Common Data Link Hawklink) が採用されている。使用周波数はKuバンドに変更され、機上端末はAN/ARQ-58を使用する。これによって、見通し線を越えて100海里までデータ・リンクが可能となり、通信速度も21.4Mbpsに向上する。

リンク 60

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海上自衛隊の護衛艦と搭載ヘリ間のデータ・リンクである。音声、戦術データーのほか、搭載ヘリからのレーダー画像、赤外線画像、ソノブイ受信信号など索敵データーが伝送される。開発にあたってはLAMPS MkIIIの戦術コンピューターAN/AYK-14の規格に基づき設計されている。

TCDL

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TCDL (Tactical Common Data Link)は、比較的簡素な設備で運用できるデジタル・データ・リンクとして、アメリカ国防総省航空調査局 (DARO) および国防高等研究計画局 (DARPA) が開発した。TCDLは、上記のCDLホーク・リンクなど、すでに運用されているCDL (Common Data Link)ファミリーと互換性を有するものとして開発され、使用する周波数はKuバンド、全二重通信の回線であり、上りは15.15 - 15.35 GHzを使用して200kbps、下りは14.40 - 14.83 GHzを使用して10.71 Mbpsの回線速度を有する。TCDLは基本的に見通し線上での運用を想定しており、RC-12 ガードレールRC-135V/W リベットジョイントE-8 JSTARSなどの航空機と地上部隊の間でデジタル・データのやり取りを可能にするほか、無人航空機の管制にも使用される。機上端末と地上端末が開発されているが、いずれも高度に商用オフザシェルフ化されている。

現在、たとえばE-8 JSTARSが収集したデータは無線を通じて口頭で伝えられるため、聞き間違いをする可能性があり、地上の各戦闘員は頭の中で状況を組み立てなくてはいけない。TCDLの実用化により、これらの情報はデジタル・データの形で直接伝えられることになるため、情報はスムーズに伝達され、人為的なミスの可能性は大幅に減少する。

IVIS

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車間情報システム (IVIS: Intervehicular Information System) は、装甲戦闘車両が搭載する簡易データ・リンクの総称である。アメリカでは、M1エイブラムスのA2型、M2ブラッドレー歩兵戦闘車のA2 ODS型より搭載されたほか、フランスのルクレール、中国の99式戦車など、各国の第3・5世代主力戦車と分類される車両が同種の機能を搭載している。これらは、各車の位置と、それらが探知した目標の位置を共有することができた。アメリカではFBCB2、日本ではReCs(基幹連隊指揮統制システム)など、より総合的な戦術C4Iシステムによって、発展的に代替されつつある。

脚注

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  1. ^ 一般的な概念で言えば、携帯電話で通話しているときに音声だけでなく映像(テレビ電話)やGPSによる位置情報を同時に送信できることに似ている。
  2. ^ Norman Friedman (2006). The Naval Institute guide to world naval weapon systems. Naval Institute Press. ISBN 9781557502629. https://books.google.co.jp/books?id=4S3h8j_NEmkC 
  3. ^ Richard S. Deakin『Battlespace Technologies: Network-Enabled Information Dominance (Artech House Intelligence and Information Operations)』Artech House、2010年、403頁。ISBN 978-1596933378 

関連項目

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