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ルシノール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ルシノール
識別情報
CAS登録番号 18979-61-8
PubChem 205912
特性
化学式 C10H14O2
モル質量 166.22 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ルシノール(Rucinol)とは、4-ブチルベンゼン-1,3-ジオールの事である。レゾルシノールの4位にブチル基を結合させた誘導体であるため、4-n-ブチルレゾルシノール(4-n-butylresorcinol)とも呼ばれる。なお、この化合物の水酸基は、フェノール性水酸基である。

ルシノールは化粧品において、美白成分の1つとして知られている。ポーラ化成工業が開発し、日本で1998年に医薬部外品の美白有効成分として承認された[1]。なお本稿では、同じく美白成分で一般にW377と呼ばれるフェニルエチルレゾルシノール (Phenylethyl resorcinol)についても記す。

開発

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レゾルシノールでは、チロシナーゼ阻害作用が見られたものの、皮膚刺激性が有った[2]。1995年にレゾルシノールから合成されたルシノールでは、高濃度では皮膚刺激性が出るものの[3]、レゾルシノールよりも皮膚刺激性は低く、チロシナーゼの活性を阻害し、チロシンの酸化によるメラニンの合成を抑制することが発見された[3]ポーラ化成工業が開発し、日本で1998年に医薬部外品の美白有効成分として承認されたが、特性が良かったためにポーラの開発陣にとっては次の美白成分開発のハードルが上がってしまった[1]

有効性

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二重盲検法にて、44名に紫外線B波(UVB)を照射し、その21日後に目視で確認した結果、0.3%濃度のルシノールローションを使用した群は、偽薬よりも日焼けによる色素沈着が少なかった[2]

肝斑の28名に対する3か月間のランダム化比較試験では、0.3%濃度ルシノール美容液を使用した部分は、偽薬を塗った顔半面より色素沈着が少なく、また、78%のヒトに効果が見られた[4]。黄色味と赤味を減少した[4]。また、別なランダム化比較試験では、肝斑の20名の韓国人女性が参加し、4週間後と8週間後のいずれの時点においても、0.1%濃度ルシノールクリームを使用した部分は、偽薬を使用した場所と比較して、メラニンが減少した[3]。副作用は10%のヒトに見られ、軽度な紅斑と痒みが出たものの、一時的であった[3]。これも別なランダム化比較試験だが、肝斑の23名が参加し、8週後に、0.1%濃度ルシノールクリームを使用した部分は、偽薬を使用した場所よりもメラニンが減少し、6割の人が主観的に有効だと判断した[5][注釈 1]

11名の手の日光黒子に対して、CO2レーザー照射後にルシノールかグリチルリチン酸を塗布したランダム化比較試験では、4週後に2つの成分に、差は無かった[6]

ランダム化比較試験で、31名で溶解型マイクロニードルのパッチを施し、メラニン色素を減少させるのに偽薬と比較して2倍以上有効であった[7]

副作用

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高濃度では皮膚への刺激性が出る[3]。  

フェニルエチルレゾルシノール

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別の化合物としてフェニルエチルレゾルシノール (Phenylethyl resorcinol、一般にW377の名がある) は、レゾルシノールから合成されるフェノール化合物であり、ルシノールと同様に、チロシナーゼ活性を阻害する特性を有する[8]。2007年に、アジア人で0.5%濃度フェニルエチルレゾルシノールで肌を明るくした実験は存在するが、偽薬対照の設置・被験者人数など実験詳細が不明である[9]。フェニルエチルレゾルシノールが1%を超えると、皮膚刺激を起こす場合が有り[8]、化粧品や[10]、日焼け止めに配合されアレルギー性接触皮膚炎が報告された[11]

製剤の改良

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フェニルエチルレゾルシノールは、水溶性が低く光に暴露された際の安定性が低いため、リン脂質、エタノール、水からなるエトソーム化や[8]、フェニルエチルレゾルシノールを溶かし込んだ脂質粒子のナノ化による改良が試行錯誤されている[12]

配合剤の研究

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光老化[13]、肝斑[14]に使用した研究が存在するものの、偽薬対照は設けられておらず、フェニルエチルレゾルシノールの他に、グリセロリン酸二ナトリウム、L-ロイシン、ウンデシレノイルフェニルアラニンを配合したクリームであり、日焼け止めも毎日使用されている。フェニルエチルレゾルシノール単独の有効性ではない。

脚注

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注釈

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  1. ^ 実験条件はルシノールでは偽薬と比較されているが、アゼライン酸コウジ酸では、ハイドロキノンと比較されている(リンク先参照)。

出典

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  1. ^ a b Miyuki Nagata (2019年6月19日). “あの化粧品がすごい理由をつくったひとに聞いてみた。Vol.5 ポーラ「ホワイトショット LX・MX」”. T JAPAN. 2019年6月18日閲覧。
  2. ^ a b 片桐崇行、大久保禎、及川みどり ほか「4-n-ブチルレゾルシノール(ルシノール)のメラニン産生抑制作用とヒト色素沈着に対する有効性」『日本化粧品技術者会誌』第35巻第1号、2001年、42-49頁、doi:10.5107/sccj.35.42 
  3. ^ a b c d e Sun Young Huh, Jung-Won Shin, Jung-Im Na et al. (2010-2). “The Efficacy and Safety of 4-n-butylresorcinol 0.1% Cream for the Treatment of Melasma: A Randomized Controlled Split-face Trial”. Annals of dermatology 22 (1): 21–25. doi:10.5021/ad.2010.22.1.21. PMID 20548876. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/20548876/. 
  4. ^ a b A. Khemis, A. Kaiafa, C. Queille-Roussel, L. Duteil, J. P. Ortonne (2007-5). “Evaluation of efficacy and safety of rucinol serum in patients with melasma: a randomized controlled trial”. The British journal of dermatology 156 (5): 997–1004. doi:10.1111/j.1365-2133.2007.07814.x. PMID 17388924. 
  5. ^ Sun Young Huh, Jung-Won Shin, Jung-Im Na, Chang-Hun Huh et al. (2010-4). “Efficacy and safety of liposome-encapsulated 4-n-butylresorcinol 0.1% cream for the treatment of melasma: a randomized controlled split-face trial”. The Journal of dermatology 37 (4): 311–315. doi:10.1111/j.1346-8138.2010.00787.x. PMID 20507399. 
  6. ^ Francesca Romana Grippaudo, Pier Paolo Di Russo (2016-12). “Effects of topical application of B-Resorcinol and Glycyrrhetinic acid monotherapy and in combination with fractional CO2 laser treatment for benign hand hyperpigmentation treatment”. Journal of cosmetic dermatology 15 (4): 413–419. doi:10.1111/jocd.12241. PMID 27325103. 
  7. ^ Suyong Kim, Huisuk Yang, Miroo Kim, Ji Hwoon Baek et al. (2016-3). “4-n-butylresorcinol dissolving microneedle patch for skin depigmentation: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial”. Journal of cosmetic dermatology 15 (1): 16–23. doi:10.1111/jocd.12178. PMID 26341915. 
  8. ^ a b c Limsuwan T, Boonme P, Khongkow P, Amnuaikit T (2017). “Ethosomes of Phenylethyl Resorcinol as Vesicular Delivery System for Skin Lightening Applications”. BioMed research international 2017: 8310979. doi:10.1155/2017/8310979. PMC 5540262. PMID 28804723. https://doi.org/10.1155/2017/8310979. 
  9. ^ Vielhaber, G.; Schmaus, G.; Jacobs, K.; et al. (2007). “4-(1-Phenylethyl)1,3-Benzenediol: A New, Highly Efficient Lightening Agent”. International Journal of Cosmetic Science 29 (1): 65–66. doi:10.1111/j.1467-2494.2007.00355_6.x. ISSN 0142-5463. 
  10. ^ Michi Gohara, Akiko Yagami, Kayoko Suzuki et al. (2013-11). “Allergic contact dermatitis caused by phenylethyl resorcinol [4-(1-phenylethyl)-1,3-benzenediol], a skin-lightening agent in cosmetics”. Contact dermatitis 69 (5): 319–320. doi:10.1111/cod.12114. PMID 24117746. 
  11. ^ Maria-Antonia Pastor-Nieto, Paloma Sanchez-Pedreno et al. (2016-10). “Allergic contact dermatitis caused by phenylethyl resorcinol, a skin-lightening agent contained in a sunscreen”. Contact dermatitis 75 (4): 250–253. doi:10.1111/cod.12617. PMID 27620125. 
  12. ^ Bo-Sik Kim, Young-Guk Na, Jae-Hwan Choi et al. (2017-8). “The Improvement of Skin Whitening of Phenylethyl Resorcinol by Nanostructured Lipid Carriers”. Nanomaterials (Basel, Switzerland) 7 (9). doi:10.3390/nano7090241. PMC 5618352. PMID 28846658. https://doi.org/10.3390/nano7090241. 
  13. ^ Frank Dreher, Zoe D. Draelos, Michael H. Gold et al. (2013-3). “Efficacy of hydroquinone-free skin-lightening cream for photoaging”. Journal of cosmetic dermatology 12 (1): 12–17. doi:10.1111/jocd.12025. PMID 23438137. 
  14. ^ Michael H. Gold, Julie Biron (2011-9). “Efficacy of a novel hydroquinone-free skin-brightening cream in patients with melasma”. Journal of cosmetic dermatology 10 (3): 189–196. doi:10.1111/j.1473-2165.2011.00573.x. PMID 21896130.