三菱・レーシングランサー
カテゴリー | FIA グループT1 |
---|---|
先代 | パジェロエボリューション MPR13, MPR14 |
主要諸元[2][3][4] | |
シャシー | マルチチューブラーフレーム |
サスペンション(前) | 独立懸架・ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング |
サスペンション(後) | 独立懸架・ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング |
全長 | 4,475 mm |
全幅 | 1,990 mm |
トレッド | 1,750 mm |
ホイールベース | 2,900 mm |
エンジン | 6G7 DI-D 2,997 cc V型6気筒 コモンレール式ディーゼル (ドライサンプ式オイルシステム) ターボ フロントミッドシップ |
トランスミッション | リカルド 5速 シーケンシャルMT 前後:リカルド製LSD |
出力 | 280 PS (210 kW) / 66.3 m⋅kgf (650 N⋅m) |
重量 | 1,900 kg |
燃料 | レプソル |
タイヤ | BFグッドリッチ |
主要成績 | |
チーム | チーム・レプソル三菱ラリーアート[2] |
ドライバー | |
初戦 |
2008年 FIAインターナショナルカップ・クロスカントリーバハ バハ・ポルトガル[5] |
初勝利 |
2008年 FIAインターナショナルカップ・クロスカントリーバハ バハ・ポルトガル[6] |
最終勝利 |
2008年 FIAインターナショナルカップ・クロスカントリーバハ バハ・ポルトガル |
最終戦 | 2009年のダカール・ラリー |
三菱・レーシングランサー (英語: Racing Lancer) は、三菱自動車がダカール・ラリー参戦を目的に開発したクロスカントリーラリーカーである。
概要
[編集]1983年よりパジェロでダカール・ラリーをはじめとするクロスカントリーラリー競技に参戦してきた三菱は、2008年のダカール・ラリー参戦体制発表の場で2009年よりクリーンディーゼルを搭載した新型車両で参戦することを明かし[7][8]、2008年7月に「レーシングランサー」を公開した[9][1][10]。背景にはレギュレーション上有利なディーゼルエンジンを採用する競合の性能向上に、ガソリンエンジンで対抗することが難しくなっていること[11]。パジェロの販促として始まったダカール・ラリー参戦が、CI活動に変化していたことがある[12]。
車両開発は2007年8月に開始され、2008年6月に1号車が完成した[2][13]。その後フランス、スペイン、モロッコでのテストを経て、2008年10月のFIA インターナショナルカップ・クロスカントリーバハ 第6戦 バハ・ポルトガルで実戦投入、続いて2009年のダカール・ラリーに参戦した[13]。ダカール・ラリー終了後、三菱はワークス活動の終了を決定した[14]。
ワークス活動終了後はプライベーターに放出され、ガソリンエンジンに戻されたり、外観を変えたりしながら用いられた。
メカニズム
[編集]FIA グループT1に準拠したプロトタイプで、マルチチューブラーフレーム、フロントミッドシップエンジン、ダブルウィッシュボーン式サスペンション、4輪駆動システムといった基本構成はパジェロエボリューションから踏襲する[15]。
外装はCFRP製でランサースポーツバックをモチーフにし、空力性能を向上している[2][10][15][16]。ルーフ上にはルーフ幅いっぱいに確保された大型のエアインテークを備え、リアハッチ内に設置されたインタークーラーに冷却風を導入する[2][17]。
スチール製マルチチューブラーフレームのシャシーは新規に設計しなおされた[17]。2010年施行の規定変更に対応してパイプを大径化し、ホイールベースをパジェロエボリューションより125 mm延長している[17]。ホールベースの延長によって生じたスペースを利用して床下燃料タンクの搭載位置を低下させ、スペアタイアの搭載位置を中央に寄せることで低重心化とマスの集中化をさらに推し進めた[15]。ディーゼル化による燃費向上により燃料タンクの容量をパジェロエボリューションより10%減らしている[18]。
搭載するターボディーゼルエンジンの開発にあたって、ベースに適当な量産ディーゼルエンジンを持っていなかった三菱は6G7ガソリンエンジンをディーゼルエンジン化するという手法を採っている[19]。開発は2006年4月に開始し[20][13][注釈 2]、当初は2008年のダカール・ラリーに投入する予定で進められた[22]。2007年6月からパジェロエボリューションに搭載して走行テストが行われ[23][13]、2008年に入るとダカール・シリーズなどに同エンジンを搭載したパジェロエボリューション (MPR14) を投入し実戦テストを行った[24][25]。過給機は三菱重工製の大小2つのタービンを組み合わせた2ステージターボを2組搭載してツインターボを構成する[26]。燃料は非食品植物性物質由来のバイオ燃料を混合しており、環境への配慮も謳う[2]。
6G7 DI-D | 6G7 (MPR13, 2008年) | |
---|---|---|
ボア×ストローク (mm) | 91.1 × 76.6 | 96.5 × 91.1 |
排気量 (cc) | 2,996 | 3,998 |
リストリクタ径 (mm) | ⌀38 | ⌀31 |
最大トルク (N·m) | ≥650 | 412 |
最高出力 (kW) | ≥206 | 188 |
圧縮比 | 15.0 | 10.5 |
過給 | 2ステージターボ | 自然吸気 |
戦績
[編集]2008年
[編集]FIAインターナショナルカップ・クロスカントリーバハ
[編集]イベント | ドライバー | コ・ドライバー | SS順位[28][29][30] | 総合順位[6] | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | ||||
バハ・ポルトガル | ステファン・ペテランセル | ジャン・ポール・コトレ | 7 | 1 | 1 | 2 | 1 |
2009年
[編集]ダカール・ラリー
[編集]三菱は4台のレーシングランサーを投入[31][32]。第1ステージで増岡がエンジンプーリーを固定しているボルトの折損を起因としてエンジンを損傷し、修復できずリタイア[33][34]。第6ステージでアルファンがコ・ドライバーの体調不良によってリタイア[33][35]。第7ステージでペテランセルがエンジントラブルでリタイアし[33][36]、ロマだけが総合10位で完走[37]、8連勝・通算13勝の連勝・通算優勝記録更新は成らなかった。ステージベストは第13ステージの1回だった。
ダカール終了後の3月、かねてより三菱のクロスカントリー車を欲しがっていた、27歳のニコラ・ミスリン率いるフランスの企業エリグループ社が、三菱のクロスカントリーラリーチームを運営していたMMSP SASを買収し、彼の所有していたJMBストラダーレ名義で参戦を継続[38]。ラリーレイド競技者でもあるミスリンはジャン=ミシェル・ポラトをナビとして自らレーシングランサーのステアリングを握り、バハ・アラゴンで4位となった[39]。同年11月に正式にMMSPのワークショップを引き継いだ。
ドライバー | コ・ドライバー | ステージ順位[40][41] | 総合順位[37] | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | |||
増岡浩 | パスカル・メモン | リタイア | リタイア | |||||||||||||
ステファン・ペテランセル | ジャン・ポール・コトレ | 6 | 2 | 5 | 8 | 9 | 4 | リタイア | リタイア | |||||||
リュック・アルファン | ジル・ピカール | 5 | 5 | 15 | 3 | 6 | リタイア | リタイア | ||||||||
ホアン・ナニ・ロマ | ルーカス・センラ・クルス | 8 | 4 | 8 | 5 | 7 | 5 | 4 | 4 | 7 | 5 | CAN | 40 | 1 | 4 | 10 |
2010年
[編集]JMBはダカールに、ミスリン含む5台のレーシングランサーを参戦させた[42][43]。コストの問題からディーゼルターボは使用せず、ガソリンエンジン(パジェロエボリューションの4リッターV6)[44]に換装した。カルロス・スーザの総合6位(ガソリン四輪駆動車クラス1位)を最高位として全車が完走した[45]。
同年のクロスカントリー・バハ・ワールドカップでは2.0リッターガソリンターボエンジンに換装して参戦し[46]、ハイル・バハではヤジード・アル=ラジ(ナビはマシュー・ボウメル)が優勝して一時首位に立った[47]。
2011年
[編集]JMBストラダーレはプライベーターとしては十分な実績を残す一方、財政難による解雇や契約不履行による自主退職、土地代や部品代の未払いが相次ぎ、ナニ・ロマも契約を拒否。ミスリンは頑として財政難を隠し通そうとするが、2010年10月には活動停止状態に陥った[48]。そして2011年6月に破産申請を行った[49][50][51]。
レーシングランサーはペトロブラスが支援するブラジル三菱の手に渡り、MIVECのガソリン4リッターV6エンジンを搭載して参戦[52]。グィリアム・スピネッリが総合9位(ガソリン四輪駆動車クラス2位)で完走を果たした。彼は前年もJMBのレーシングランサーで10位フィニッシュしており、ブラジル人として初めて2年連続総合トップ10入りを果たしたドライバーとなった[53]。
2012年
[編集]前年に続きブラジル三菱も参戦する一方で、オランダのプライベーターであるリワルド・ダカールチームがウィバース・スポーツとの提携により、レーシングランサーを3台揃えて参戦。エンジンはブラジル三菱と同様4リッター6気筒[54]。この年ダカール初参戦のベルナルド・テン・ブリンケ(ナビはマシュー・ボウメル)が、総合8位(ガソリン四輪駆動車クラス3位)で完走した[55]。
2013年以降
[編集]リワルドはレーシングランサーをベースにフォード・HRXへと外観を変更し、フォード製V8エンジンを搭載して参戦した[56]。このマシンは後に中国資本によって復活したボルクヴァルトがダカールへ参戦する際のベース車両にもなった[57][58]。
ブラジル三菱もレーシングランサーを流用し、クロスオーバーSUVの三菱・ASXへマシンを変更した。高地に対応するためエンジンの出力アップの必要に迫られたが、三菱の市販車には適当なものが無かったため、アストンマーティン製のV8エンジンを搭載した[59]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b 『2009年ダカールラリー制覇を目的とした新型競技車『レーシング ランサー』(コードネーム:MRX09)を開発』(プレスリリース)三菱自動車工業株式会社 。2020年6月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j 『チーム・レプソル三菱ラリーアート、2009年ダカールラリーに『レーシング ランサー』4台体制で参戦 -ディーゼルエンジン搭載車による、初の総合優勝を目指す-』(プレスリリース)三菱自動車工業株式会社、2008年9月8日 。2020年6月2日閲覧。
- ^ "2009 dakar preview - repsol mitsubishi ralliart team" (Press release) (英語). Colt Car Company Limited (Mitsubishi Motors UK). 2020年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月2日閲覧。
- ^ 今井 2009.
- ^ 『三菱自動車、FIAクロスカントリーバハ・インターナショナルカップ第6戦バハ・ポルトガルでディーゼルターボエンジンを搭載した新型競技車『レーシング ランサー』が初出場』(プレスリリース)三菱自動車工業株式会社、2008年10月27日 。2020年6月2日閲覧。
- ^ a b 『三菱自動車 FIAクロスカントリーバハ・インターナショナルカップ第6戦バハ・ポルトガルでディーゼルターボエンジンを搭載した新型競技車『レーシング ランサー』が記念すべきデビュー戦を総合優勝でかざる』(プレスリリース)三菱自動車工業株式会社、2008年11月3日 。2020年6月2日閲覧。
- ^ Racing on 423, p. 98; Ralliart Journal 120, p. 1.
- ^ “三菱自動車/ラリーアート 2008年ダカールラリー 「チーム・レプソル三菱ラリーアート」 参戦記者会見、増岡浩選手壮行会を開催”. 株式会社ラリーアート. (2007年11月30日). オリジナルの2016年5月18日時点におけるアーカイブ。 2020年6月2日閲覧。
- ^ “三菱、「レーシング ランサー」投入で次のダカールラリーはいただき!?”. webCG. 2020年6月2日閲覧。
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- ^ 『三菱自動車、ダカールラリーのワークス活動終了について』(プレスリリース)三菱自動車工業株式会社 。2020年6月2日閲覧。
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- ^ “FIA INTERNATIONAL CUP FOR CROSS COUNTRY BAJAS BAJA PORTALEGRE 500 01 NOVEMBER 2008 LEG 2” (英語). 三菱自動車工業株式会社. 2013年5月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月2日閲覧。
- ^ “FIA INTERNATIONAL CUP FOR CROSS COUNTRY BAJAS BAJA PORTALEGRE 500 02 NOVEMBER 2008 DAY 3” (英語). 三菱自動車工業株式会社. 2013年5月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月2日閲覧。
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- ^ 9000 Kilometer, 430 Teams, 16 Tage
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- ^ Guilherme Spinelli comemora desempenho no Rally Dakar 2011
- ^ Team presentation Riwald Dakar Team powered by Wevers Sport
- ^ January 1 – January 15, 2012 – The Rally
- ^ Dakar 2013: Riwald Dakar Team nos presenta su equipo
- ^ Dakar Rally 2018: Nicolas Fuchs and Borgward happy with 3rd place in SS01
- ^ Borgward presenta su BX7 DKR
- ^ El MITSUBISHI ASX BRASILENO
参考文献
[編集]- 乙竹, 嘉彦、大島, 弘己「2009年ダカールラリー出場車両の開発」『テクニカルレビュー』第21巻、三菱自動車工業株式会社、2009年、ISSN 0915-2377。
- 「Dakar Rally 2008 Preview - パジェロに栄冠を。」(PDF)『ラリーアートジャーナル』第120巻、株式会社ラリーアート、2007年、1-2頁、 オリジナルの2013年10月23日時点におけるアーカイブ、2020年6月2日閲覧。
- Mario G Taga「MPR13 THE LAST DANCE」『Racing on』第23巻第2号、ニューズ出版、2008年2月、96-99頁、ASB:RON20071227。
- 古賀, 敬介「独占詳報 三菱レーシングランサー」『Racing on』第23巻第12号、ニューズ出版、2008年12月、130-135頁、ASB:RON20081101。
- Mario G Taga「新天地で目指す新たな砂の覇者」『Racing on』第24巻第2号、ニューズ出版、2009年2月、72-75頁、ASB:RON20081227。
- Mario G Taga「4分の1に見えた光明」『Racing on』第24巻第3号、三栄書房、2009年3月、72-77頁、ASB:RON20090201。
- 『MotorFan illustrated』第30巻、三栄書房、2009年、ISBN 9784779605833。
- 今井, 清和「Chapter2 : 最新Racing Engine MITSUBISHI 6G7-DID」。
- (Web抄録) Motor Fan illustrated編集部 (2021年5月6日). “内燃機関超基礎講座 | 三菱のダカール用レーシングディーゼル[6G7-DID]ガソリンエンジンがベース”. Motor-Fan Tech. 2021年8月30日閲覧。
- 畑村, 耕一「Chapter2 : 最新Racing Engine MITSUBISHI 6G7-DID Professional Eye Dr.Hatamura まさに常識破り! ハンデから生み出された驚きのレーシング・ディーゼル」。
- (Web再録) Motor Fan illustrated編集部 (2020年12月5日). “内燃機関超基礎講座 | 三菱のダカール用ディーゼルはまさに常識破り! 量産ガソリンエンジンがベース”. Motor-Fan Tech. 2022年9月27日閲覧。
- 今井, 清和「Chapter2 : 最新Racing Engine MITSUBISHI 6G7-DID」。
外部リンク
[編集]- ダカールラリー | 三菱自動車モータースポーツ - ウェイバックマシン(2016年9月29日アーカイブ分)