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傍腫瘍性神経症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
傍腫瘍症候群から転送)

傍腫瘍性神経症候群(ぼうしゅようせいしんけいしょうこうぐん、paraneoplastic neurological syndrome PNS)とは悪性腫瘍の遠隔効果による神経筋疾患である。抗神経抗体の病態への関与が考えられている。

定義

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腫瘍に関連する神経筋障害のうち、腫瘍の直接浸潤や転移、栄養、代謝、凝固障害、化学療法や放射線治療の副作用、日和見感染によらず、腫瘍の遠隔効果によるものと考えられるものを傍腫瘍性神経症候群(PNS)という。腫瘍の遠隔効果に関しては免疫介在性の機序によると考えられるものをPNSと呼ぶことが多い。特に肺小細胞癌(SCLC)によるものの報告が多い。

診断

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2004年にPNSの診断ガイドラインがヨーロッパ神経学会(EFNS)とPNS Euronetworkの合同タスクフォースによって提唱された。このガイドラインはPNSを神経症候、抗神経抗体などから診断にアプローチするものである。神経症候ではPNSとして認知度が高い病型をclassical syndromeとし、PNSとして生じえる病型をNon-classical syndromeとして区別している。Classical syndromeでは抗神経抗体陰性であっても悪性腫瘍合併の可能性が考えられるとしている。抗神経抗体に関しては、通常の免疫組織学的染色パターンとリコンビナント蛋白を抗原とする免疫ブロット間の両者で特異性が確認できる、腫瘍に関連した多数の症例報告がある、抗体に関連して特徴的な神経徴候がみられる、腫瘍のない症例での陽性率知られているという条件を満たしているものをwell characterized onco-neural antibodyとしている。これらの条件を満たさないがPNSに関連していると報告されているものはpartially characterized onco-neural antibodyとしている。抗電位依存性カルシウムチャンネル抗体、抗電位依存性カリウムチャンネル抗体、抗ニコチン性アセチルコリン受容体抗体、抗NMDA受容体抗体などは腫瘍陰性例でも報告されているためAntibodies that occur with and without cancer associationとされている。

神経症候

中枢神経

classical syndrome Non-classical syndrome
脳脊髄炎 脳幹脳炎
辺縁系脳炎 視神経炎
亜急性小脳変性症(PCD) 傍腫瘍性網膜症
オプソクローヌス・ミオクローヌス 黒色関連網膜症
  stiff-person症候群
  壊死性脊髄炎
  運動ニューロン疾患

末梢神経

classical syndrome Non-classical syndrome
亜急性感覚性末梢神経障害 急性感覚運動性末梢神経障害(ギラン・バレー症候群、腕神経叢炎)
慢性胃腸偽性閉塞症 亜急性/慢性感覚運動末梢神経障害
  単クローン性ガンマグロブリン血症を伴う末梢神経障害
  血管炎を伴う末梢神経障害
  急性汎自律神経障害

神経接合部・筋

classical syndrome Non-classical syndrome
ランバート・イートン筋無力症 重症筋無力症
皮膚筋炎 後天性神経性筋強直症
  急性壊死性筋障害
well characterized onco-neural antibody
抗体 症例数 複数施設 傍腫瘍性神経症候群 腫瘍 腫瘍を伴わない抗体陽性率 PNSを伴わない担癌抗体陽性率
Anti-Hu(ANNA1) >600 yes 脳脊髄炎、感覚性ニューロノパチー、慢性偽性腸閉塞症、PCD、辺縁系脳炎 SCLC 2% 16%
Anti-Yo(PCA1) >200 yes PCD 卵巣腫瘍、乳癌 2% 1%
Anti-CV2(CRMP5) >100 yes 脳脊髄炎、舞踏病、感覚性ニューロノパチー、感覚運動ニューロパチー、慢性偽性腸閉塞症、PCD、辺縁系脳炎 SCLC、胸腺腫 4% 9%
Anti-Ri(ANNA2) 61 yes 脳幹脳炎 乳癌、SCLC 3% 4%
Anti-Ma2(Ta) 55 yes 辺縁系脳炎、間脳炎、脳幹脳炎、PCD 精巣腫瘍、肺癌 4% 0%
Anti-amphiphysin 20 yes stiff-person症候群、種々の神経症候 乳癌、SCLC 5% 1%
partially characterized onco-neural antibody
抗体 症例数 複数施設 傍腫瘍性神経症候群 腫瘍 腫瘍を伴わない抗体陽性率 PNSを伴わない担癌抗体陽性率
Anti-Tr(PCA-Tr) 28 yes PCD ホジキンリンパ腫 11% 0%
ANNA3 11 no 種々の神経症候 SCLC 9% 0%
PCA2 9 no 種々の神経症候 SCLC 0% 2%
Anti-Zic4 8 no PCD SCLC 12% 16%
Anti-mGluR1 2 no PCD ホジキンリンパ腫 50% ?
Antibodies that occur with and without cancer association
抗体 傍腫瘍性神経症候群 腫瘍
Anti-VGCC ランバート・イートン筋無力症、小脳変性症 SCLC
Anti-VGKC ニューロミオトニア、辺縁系脳炎、痙攣 SCLCなど
Anti-AchR 重症筋無力症 胸腺腫
Anti-nAchR 亜急性汎自律神経不全 SCLCなど
Anti-NMDAR 抗NMDA受容体抗体脳炎 卵巣奇形腫
Anti-GAD stiff-person症候群、小脳失調、辺縁系脳炎 胸腺腫など

診断基準

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Definite PNS
classical syndromeがあり、腫瘍の存在が神経症状発症から5年以内に確認された場合。抗神経抗体の有無は問わない。
non-classical syndromeであり、同時に行った免疫学的治療ではなく腫瘍に対する治療が神経症状を改善させた場合。
non-classical syndromeであり、抗神経抗体を認め、神経症状から5年以内に腫瘍が診断されている場合。
well characterized onco-neural antibodyを有するが腫瘍をいまだに発見できない場合。
Possible PNS
classical syndromeであるが、抗神経抗体が陰性であり腫瘍が確認できないもの。5年以内に腫瘍が発見されなければ否定される。
partially characterized onco-neural antibodyが陽性で腫瘍の存在を確認できない場合。
non-classical syndromeで抗神経抗体が陰性だが神経症状発症から2年以内に腫瘍が確認された場合。

参考文献

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  • Management of paraneoplastic neurological syndromes: report of an EFNS Task Force.Vedeler CA.PMID 16834698
  • Recommended diagnostic criteria for paraneoplastic neurological syndromes.Graus F.PMID 15258215

関連項目

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