コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

原理とパラメータのアプローチ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
原理とパラメータから転送)

原理とパラメータのアプローチ(げんりとパラメータのアプローチ、英: principles-and-parameters (P&P) approach)とは、普遍文法が、全ての言語に共通した原理 (principles) と、言語ごとに選択可能なパラメータ (parameters) から出来ていると仮定し、それによって言語の普遍性と多様性を捉えようとする生成文法の考え方[1]:3。この観点では、言語獲得(特に文法の獲得)とは、言語経験を通してそれぞれのパラメータを設定して行く過程として捉えられる[1]:3

歴史

[編集]

下接の条件とパラメータ

[編集]

1967年ノーム・チョムスキー[2]は、ジョン・R・ロス[3]が提案した様々な島の制約を説明する高次の原理として、下接の条件を提案した。下接の条件とは、「移動は、二つ以上の境界節点 (bounding node) を越えることができない」[1]:140、太字は原文という原理である。チョムスキーは、英語のデータから、SとNPが境界節点であると考えた。

(1a)    *What did you wonder where Bill put?
(1b)    whati [S you wonder wherej [S Bill put ti tj ] ]

下接の条件に従うと、たとえば (1a) の非文法性は、(1b) のように what が2つのS節点を越えて移動しているからであると説明できる。

これに対して、1982年ルイージ・リッツィ[4]は、イタリア語では(1a)と同様の構造を持つ(2)のような文が文法的になることを指摘した。

(2a)    イタリア語
Tuo  fratello,  cui  mi  domando  che  storie  abbiano  raccontato,  era  molto  preoccupato. 
your  brother  to  whom  myself  ask  which  stories  they.have  told  was  very  troubled 
‘Your brother, to whom I wonder which stories they told, was very troubled.’

リッツィは、境界節点がパラメータになっていると考えることでこの問題を解決しようとした。つまり、英語ではSが境界節点だが、イタリア語ではそうではなく、S'が境界節点であると考えたのである。

(2b)    tuo fratello [S' a cuii [S mi domando [S' che storiej [S abbiano raccontato ti tj ] ] ] ]

このように考えると、(2a) の a cui は、(2b) に示したようにSは2つ越えているが、S'は1つしか越えていない。そのために文法的になると説明できる。

リッツィによるこの提案は、パラメータを初めて用いた画期的なものであり[1]:150、その後の研究動向に大きな影響を与えた[5]:40[* 1]

GB理論における発展

[編集]

極小主義におけるパラメータ

[編集]

批判

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ ただし、このようなwhの島などに関する英語とイタリア語の違いは存在しないことがその後の研究で明らかになった[1]:150

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e 渡辺明 (2009)『生成文法』東京大学出版会
  2. ^ Chomsky, Noam (1973) Conditions on transformations. In Anderson, Stephen R. & Kiparsky, Paul (eds.), A festschrift for Morris Halle, 232-286. New York: Holt, Reinhart and Winston.
  3. ^ Ross, John R. (1967) Constraints on variables in syntax. Cambridge, MA: MIT. (Doctoral dissertation.)
  4. ^ Rizzi, Luigi (1982) Issues in Italian syntax (Studies in Generative Grammar 11). Dordrecht: Foris.
  5. ^ Newmeyer, Frederic J. (2005) Possible and probable languages: A generative perspective on linguistic typology. Oxford: OUP.