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大戦略III グレートコマンダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
大戦略III'90から転送)

大戦略III グレートコマンダー (だいせんりゃくすりー グレートコマンダー)は、日本のゲームメーカーシステムソフトが開発、1989年6月に発売したパーソナルコンピュータウォー・シミュレーションゲーム大戦略シリーズの一つ[* 1]。従来のターン制のデザインから、セミリアルタイム制となり、高度の概念も登場した。1990年に発売された改善・リメイク版である『大戦略III '90』(だいせんりゃくすりー ないんてぃ)についても本項で述べる。

大戦略III グレートコマンダー
ジャンル ウォー・シミュレーション
対応機種 PC-9801
開発元 システムソフト
発売元 システムソフト
人数 1人
メディア FD
発売日 1989年6月
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大戦略III '90
ジャンル ウォー・シミュレーション
対応機種 PC-9801
FM-TOWNS
X68000
開発元 システムソフト
発売元 システムソフト
人数 1人
メディア FD / CD-ROM(FM TOWNS)
発売日 1990年10月(PC-9801)[1]
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概要

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大戦略シリーズは従来、ヘクスで構成されたマップ上で数カ国が争い、国ごとに交替で現代兵器を現したユニット(駒)を動かし、戦闘などを行いつつ、敵国の首都歩兵ユニットで占領するシステムであった。

本作『大戦略III グレートコマンダー』(以下グレートコマンダー)では1ターンを100カウントに細かく分割し、従来より非常に細かい頻度で処理を進行させ、プレイ感覚をリアルタイム進行に近づけるセミリアルタイム制を採用した[2]。これにより、移動についての概念が「1ターンに何マス進めるか」から「1マス進むのに何カウントかかるか」と言ったものに変化した[* 2][3]ほか、強力な攻撃を行えるが攻撃間隔の長い兵器の存在と言った要素や[2]、簡易な兵器は早急に生産されるが軍艦など巨大・精密な兵器の生産にはより時間を要するようになると言った要素も発生している[2][* 3][* 4]。また海中、地海、低空、高空と言う高度の概念も導入され、1マスにつき高度の異なる最大4部隊のスタック[* 5]が行えるようになった[4]。敵の首都を占領する以外に、爆撃等の手段で耐久力をゼロにしてもその陣営は敗北となり、兵器ユニットは消滅し占領していた都市は中立となる。

操作系としては従来は自軍の部隊全てをプレイヤーが毎ターン細かく手動で操作していたものが、グレートコマンダーでは各部隊に予め命令を与えておき、あとは各部隊がいわば自律的に命令に従って行動を行う形態に改められた[2][3]

これらの要素によりゲーム進行はかなり「現実的」となった[2]

その他マップサイズは128ヘクス×128ヘクスと広大なものとなり[3]、登場する兵器は252種類[5]。最大4か国戦で争われ、同時には最大で256部隊がゲームに存在できる[5]。また1部隊に4種までの兵器を混在させ、例えば歩兵を戦車が護衛するかのような「混成部隊」を作成できるようになった[6][3][7][* 6]

なお地形については、グレートコマンダーには部隊配置などに必要な金銭を供給する従来よりの都市のほか、資源としての燃料の概念があるため精油所があり、また兵器生産のための工業力を供給するための工場も登場する[8]。工業力が潤沢に供給されていれば、部隊の生産速度は向上する。また地上部隊を運用するための基地航空機ヘリコプターを運用するための空港艦船を運用するためののほかに後述の索敵で重要となるレーダー基地も登場している。各都市にはその種類ごとに兵器ユニットに対する補給や修理・補充能力が与えられており、都市は地上ユニットと短距離離陸垂直着陸機・ヘリコプターに補給を、基地は地上ユニットに補給・修理・補充を、空港は航空機とヘリコプターに補給・修理・補充を、港は艦船に補給・修理・補充を、レーダー基地は短距離離陸垂直着陸機・ヘリコプターに補給・修理・補充を、行えるといったふうに細分化されていた。補給を行うだけであれば最寄りの都市に立ち寄ればよいだけだが、損耗した部隊に補充を行う必要があると基地まで後退させる必要があるなど、戦術的に複雑な要素となった。また旧バージョンの大戦略シリーズでは、生産した兵器ユニットを新しく配備できるのは首都付近に限定されていたが、グレートコマンダーでは首都から離れていても耐久度がフル回復している基地・レーダー基地と空港に最初から配備することが可能となり、前線まで兵器をえんえんと移動させる手間と時間を掛ける必要がなくなった。各都市は0から15の耐久力を持ち、敵の占領を受けつつあったり爆撃などの攻撃を受けると耐久力が下がっていく。耐久力がゼロとなった都市は占領中であれば占領され、破壊された場合は中立となる。耐久力は1ターン進む時点で+1回復するので、あまりに少数の歩兵で占領を行っているといつまでたっても占領できないこともありうる。耐久力の状態は、前述の補給や補充能力にも影響し、耐久力が低い状態では補給も補充も行えず、一定回復すると補給のみ可能に、さらに回復すると補充も可能にとなる。

輸送や搭載についても詳細なルール化が行われた。C-5 ギャラクシーのような大型輸送機には主力戦車を含むすべての地上部隊ユニットを搭載可能であるが、小型輸送機では歩兵ユニットかM551シェリダンのような空挺可能兵器しか搭載できない。輸送機への積み下ろしは基本的に空港でしか行えないが、小型輸送機に空挺兵か空挺可能兵器を搭載した時のみ、任意の陸上で降下させることが可能。また輸送艦は一度に大量の地上部隊ユニットを海上輸送可能だが積み下ろしは港でしか行えない。揚陸艦であれば浅瀬で地上部隊ユニットを上陸させることも可能。強襲揚陸艦は揚陸艦としての機能に加え、短距離離陸垂直着陸機とヘリコプターを着艦させて補給を行う能力も併せ持つ。

視界と索敵の概念も取り入れられ、自陣営の都市と兵器ユニットが持つ視界の外に存在する敵ユニットを視認したり攻撃を加えたりすることができなくなった。思いがけない地点から突如、敵の侵攻を受けたり、こちらから視認できていないが敵からはこちらのユニットが視認できていて一方的に攻撃されるといった状況も発生するようになった。視界はユニットごと・都市種類ごとに海中・地海・低空・高空の4高度それぞれの半径が数値化されており、戦車や歩兵は全高度あまり広い視界を持たず、偵察戦闘車偵察機は地海に広めの視界を持つ、戦闘機やイージス艦早期警戒機・レーダー基地は高空に特に広い視界と低空に広い視界を持つ、対潜哨戒機は海中に広い視界を持つといった性格づけがされていた。したがって、有利に攻略を進めるためには、直接的な攻撃能力が乏しい偵察能力に特化した兵器ユニットを生産配備する必要性も生まれた。マップの画面表示機能においても、現在の自軍の視界範囲外を分かりやすく暗く表示する機能があり、どの高度の視界を基準で表示するか選択できた。

システムソフトによればグレートコマンダーは6万本程度を出荷したと言う[9]

大戦略III '90

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1990年10月に発売された、『大戦略III グレートコマンダー』の強化・改良版。「グレートコマンダー」を「'90」に書き換えるための『大戦略IIIパワーアップキット』も同時発売され[10]、その後にはマップエディタ付きのマップコレクションも発売されている[11]

グレートコマンダーは画期的なゲームであったが、BASICで作成されていたこともあり、当時のパーソナルコンピューターのマシンパワー(全体的な処理能力)では荷が重かった[12]。 神崎祥生が『マイコンBASICマガジン』誌上で行ったレビューによれば、80286(10MHz)CPUを搭載したPC-286V(PC-9801シリーズ互換機)でグレートコマンダーを動作させたところ、ゲームの仕様上はプレイヤーは126部隊まで運用できるところ、50-60部隊を出すと最早リアルタイムゲームであるとは思えないほど低速になる、ほとんど絶え間なくフロッピーディスクドライブをアクセスしている、1ターン(100カウント)進めるのに1時間ほどかかるなどと言った状態で、後年の『システムソフトのエンスー学館』でも、夜に命令を与えたものが朝までに決着が付かない、プログラマーN88-BASICの限界を知った、などと紹介されていた[13]

'90ではプログラムはC言語で作成され、MS-DOS上で動作する仕様に改められた。これにより動作速度が格段に向上した[9][* 7][* 8]。さらに一部のカウントをまとめて処理することでも処理を高速化[14]。また生産についてはグレートコマンダーではコンピュータが各兵器に自動的に工場を分配していたものが、プレイヤーによる指定が可能となり、任意の兵器の大増産などが行えるようになった[14]

敵国を操作するコンピュータの思考ルーチンについても、ゲームシステムの大幅な変更により従来のノウハウを継ぐことができず[9]、優秀とは言えないものであったが[* 9]、'90では戦場全体を見渡し全体的な方策を策定する「戦略アルゴリズム」と、各部隊の具体的行動を策定する「戦術アルゴリズム」に階層化され、強化された[9]

反面、プレイヤーが部隊に与えられる命令は、従来広域的な「作戦命令」と細かな「行動命令」に分けられていたものが「作戦命令」に一本化され、操作が簡便になった[15][9]。これは例えば戦闘については「行わない / 積極的 / 普通 / 消極的」から選択し、「移動」については敵国の建物の方向に移動する、などを組み合わせるものである[16]

また、新しく生産された部隊に対してのデフォルトの行動命令を設定できるようにもなり[9]、さらに基本的なプレイに必要な9種のプリセット命令が用意された[17]

その他インターフェイスの改善[9]、歩兵の占領機能を持った輸送ヘリ・輸送車の導入[* 10][9][18]日本語入力システムVJE-β」のサブセット版の搭載による部隊名・ユーザー定義作戦名の命名機能の追加[15]などの改善がなされ、スタックについてもグレートコマンダーでは「海中」「地海」「低空」「高空」ごとに1部隊まで、最大4部隊までと制限されていたものが、'90では高度問わず最大4スタックまでと制限が緩和され、部隊の渋滞が起こりにくくなった[19]

注釈

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  1. ^ かつらつかさ (1990)によれば、20種類目。
  2. ^ 多摩豊 (1989)では従来のルールでは移動範囲内のどこに移動しても(つまりは1マスしか動かずとも、限界まで動いたとしても)次の行動に移れるタイミングは同一であったものが、グレートコマンダーでは移動を終えた部隊(本ゲームでは単一兵器による小隊を最大4小隊組み合わせた単位を部隊とする。本項もこれに倣う)はただちに次の行動に移れるため、移動力のマネジメントが重要になったと解説している。
  3. ^ 各兵器には生産に必要な生産力が設定されており、'90の場合、一般的な歩兵では8に過ぎないが、例えばニミッツ級航空母艦には900と言う値が設定されている(数値はZOBplus (1991) p.171- の兵器データ一覧を参照)。工場を多く占領することで各兵器の生産に多くの工場を割り当てられれば、それに比例して生産速度も向上する。
  4. ^ なお、生産された兵器は従来どおりの首都の他、耐久力の高まった前線の拠点にも配置が可能である。
  5. ^ 同一のマスに複数の駒/ユニット/部隊が存在すること。後述するが'90ではスタック制限が緩和されている。
  6. ^ ただし各兵種が同一の高度を持つ必要がある。ジェット戦闘機と歩兵は混成部隊とはできない。なお神崎祥生の解説によれば、混成部隊は中途半端に陥り勝ちであり、ZOBplus (1991)によれば、扱いが難しいもの。
  7. ^ BASICはインタプリタとしての実装が多く、コンパイラとして実装されることの多いC言語と比較すると、一般的に動作速度は劣るものである。
  8. ^ だがかつらつかさ (1990)によれば、'90でも希に1ターンに10-30分かかるといった事態に陥ると言う。ただしかつらつかさの使用していた機種は不明。
  9. ^ ZOBplus (1991) p.35によれば、グレートコマンダーは「とても弱かった」とのことであり、爆撃機により敵首都強襲・破壊による勝利と言った手段が容易であった。この作戦は'90ではそのままでは通用しにくくなった。神崎祥生 (1989)でも、終盤戦(編注:首都攻略戦)はあっさり終わると評している。
  10. ^ 従来は、「輸送ヘリ」や「輸送車」で「歩兵」(を含む)部隊を輸送し、歩兵部隊により建築物を占領していた。なお、本作では占領にも一定の時間が必要である。これは占領を行う部隊の機数や熟練度によって増減する。

出典

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  1. ^ ZOBplus (1991)
  2. ^ a b c d e 謎の六角仙人 (1989)
  3. ^ a b c d 多摩豊 (1989)
  4. ^ ZOBplus (1991) p.13
  5. ^ a b 「日本SLG紀行」5
  6. ^ 神崎祥生 (1989)
  7. ^ ZOBplus (1991) pp.33-34
  8. ^ ZOBplus (1991) pp.24-26
  9. ^ a b c d e f g h 猪野清秀 (1990)
  10. ^ ZOBplus (1991) pp.11-12
  11. ^ 『マイコンBASICマガジン』 1991年1月号 p.236 コンテストの優秀作品を収録とのこと。
  12. ^ ZOBplus (1991) p.11
  13. ^ 「日本SLG紀行」6
  14. ^ a b ZOBplus (1991) p.16-17
  15. ^ a b 『Oh!PC』1990年11月15日号
  16. ^ ZOBplus (1991) p.18, pp.27-28
  17. ^ かつらつかさ (1990)
  18. ^ ZOBplus (1991) p.29
  19. ^ ZOBplus (1991) p.13

参考文献

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  • 1990、『oh!PC』1990年11月15日号、ソフトバンク pp. 234
  • 1991、『マイコンBASICマガジン』1991年1月号、電波新聞社 pp. 236
  • ZOBplus(編)、1991、『大戦略III’90POWERUP BOOK』、技術評論社 ISBN 4-87408-455-9
  • 猪野清秀、1990、「大戦略III'90 リターンマッチなるか」、『マイコンBASICマガジン』(1990年12月号)、電波新聞社 pp. 228-229
  • かつらつかさ、1990、「MEDIA BREAK 前事の忘れざるは後事の師なり 大戦略III'90」、『月刊アスキー』(1990年12月号)、アスキー pp. 438-439
  • 神崎祥生、1989、「大戦略III グレートコマンダー システムソフト」、『マイコンBASICマガジン』(1989年8月号)、電波新聞社 pp. 271-273
  • 多摩豊、1989、「MEDIA BREAK エレクトロメディアのエンタテイメント リアルタイムシステムを導入したシリーズ最新作 大戦略III」、『月刊アスキー』(1989年8月号)、アスキー pp. 394-395
  • 謎の六角仙人、1989、「コンピュータシミュレーションを読む! 大戦略III」、『Oh!PC』(1989年9月15日号)、ソフトバンク pp. 340-341
  • システムソフトのエンスー学館 日本SLG紀行5”. システムソフトアルファー. 2012年6月2日閲覧。 - またはマイコンBASICマガジン2000年4月号
  • システムソフトのエンスー学館 日本SLG紀行6”. システムソフトアルファー. 2012年6月2日閲覧。 - またはマイコンBASICマガジン2000年5月号