女らしさ
女らしさ(おんならしさ、英: femininity)とは、女性が持つと考えられている属性や特徴などのこと[1][2][3]。「男らしさ」に対置される観念である。女性らしさともいう[4][5]。女振り、女っぷりとも言い、女としての容姿や器量(心の性質、心の器の大きさ)[6]。2009年ころからは女子力と言うことが増えている。
概説
[編集]「女らしさ」は、文化圏、地域、宗教の教派、歴史、時代、世代、家庭環境、個人の嗜好などの影響を受けつつ形成され、多様である。同一地域、同一文化圏であっても、時代とともに変化してゆくことは多く、ある人が思い描く「女らしさ」も、年齢や経験とともに変化してゆくことは多い。
従来、女らしさとして「繊細である」「感情的である」「脆弱である」「優しさや思いやりがある」「共感性がある」「身体的な魅力や美しさ、官能さがある」といった印象が挙げられてきた[7][8][9]。これらはときに否定的な意味合いを含むこともあり[7]、男らしさと比べられる[8]。また、「結婚すること」や「出産すること」も女らしさの象徴となってきた[10]。
日本の内閣府男女共同参画局の性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する2022年の調査によれば、「女性は女性らしい感性がある」と回答したのは男性では45.7%、女性では43.1%、「女性は感情的になりやすい」と回答したのは男性では35.3%、女性では37.0%、「女性はか弱い存在なので守らなければならない」と回答したのは男性では33.1%、女性では23.4%、「家事・育児は女性がするべき」と回答したのは男性では27.3%、女性では20.7%であった[11]。また、電通総研の2023年の調査によれば、「男は男らしく、女は女らしくあるべき」と回答した人は全体では38.2%だったものの、男性は48.8%、女性は27.7%と男女差があった[12]。加えて男性は年代による差がみられ、年上の男性ほど女性に女らしさを求める傾向が高いことが明らかになっている[12]。
第二波フェミニズムでは、そうした従来的な女らしさを、女性を男性に永久に従属させることを目的とした家父長制の手段とみなし、批判してきた[7]。伝統的として扱われてきた従来的な女らしさは、性別二元論の社会規範のかたちで女性を心理的に苦しめることもある[10]。それに関連して「有害な女らしさ」という概念も提唱されている[13]。女らしさは性的対象化と関連するものとしてみなされることもある[14]。
女らしさは時代とともに変化している。イギリスの調査によれば、50年間の間に女らしさとして思い浮かべる印象が「思いやりのある良き母親」「繊細で優しい」から「自立していて野心があり、立ち直りが早い」へと変化していることが示された[15]。
なお、「男性らしさは強いことで女性らしさは弱いこと」などとされてしまうと、女性の心の奥底に劣等感が醸成されることになる[8]。
日本では2009年ころから、女性のたくましさや生きる力の強さを認め、女子力と表現することが一般化している。すなわち、女性が女性らしい態度、容姿などを重んじ、女性ならではの感覚・能力を生活や職業に活かすことを言い、女性が自分の生き方を向上させる力や、女性が自分の存在を示す力のことである[16]。ちなみに「女子力」という言葉は、2009年の新語・流行語大賞にノミネートされている(2009年の日本#流行語を参照)。
なお日本では、女子力の高い母親のことはもともとは肝っ玉母さんと言っていた。心の器が大きくて、少々のことでは動じず、大らかさがあり包容力の塊のような母親のことで、子供や夫を包み込む面倒見の良い存在である。広義では比喩的に、度量の大きな母親のような女性責任者や女性上司も指す。昔も今も、どの町内にも、こういう女子力の高い女性がいる。宮崎駿の『天空の城ラピュタ』にも空賊団の首領ドーラという肝っ玉母さんが登場する。ドーラのモデルは宮崎駿の母親、宮崎美子で、「ダメな息子は蹴り飛ばすが、見込みがあれば力になってくれる母親」だという[17]。
ギャラリー
[編集]脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 小学館『デジタル大辞泉』. “女らしい”. コトバンク. 2020年6月13日閲覧。
- ^ 三省堂『大辞林』第3版. “女らしい”. コトバンク. 2020年6月13日閲覧。
- ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “女らしい”. コトバンク. 2020年6月13日閲覧。
- ^ https://woman.mynavi.jp/article/160115-6/
- ^ https://toranet.jp/contents/career_skill/motivation/18968/
- ^ [1]
- ^ a b c “Does Femininity Need a Makeover?”. Psychology Today (2021年3月31日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ a b c “Society’s problem with femininity”. The University of Auckland (2021年7月11日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ “2. Americans see different expectations for men and women”. Pew Research Center (2017年12月5日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ a b “Modern Femininity: Why Being Untraditional Is So Stressful”. Verywell Mind (2023年2月24日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ “令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究”. 内閣府男女共同参画局. 2024年5月16日閲覧。
- ^ a b “ジェンダーに関する意識調査(2023年)”. 電通総研 (2023年6月27日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ “Toxic Femininity, Explained — Plus, Tips to Overcome This Mindset”. Healthline. 2024年5月16日閲覧。
- ^ “Not An Object: On Sexualization and Exploitation of Women and Girls”. UNICEF USA (2021年1月11日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ “How femininity has changed over the past 50 years, according to a new study”. The Independent (2018年9月25日). 2024年5月16日閲覧。
- ^ goo辞書
- ^ 肝っ玉母さん「ドーラ」の秘密を徹底解説
関連文献
[編集]- 宮本百合子著『「女らしさ」とは』(初出、「アカハタ」1946年(昭和21年)11月12日号)(宮本百合子全集 第十五巻、 新日本出版社、1980年)
- 羽仁説子『新しい女らしさをもとめて』知性社、1958、ASIN B000JAU4BG
- 村中兼松『性度心理学―男らしさ・女らしさの心理』帝国地方行政学会、1974、ASIN B000J9X20W
- 村中兼松『男らしさ・女らしさからみた職業・結婚・人間関係』ぎょうせい、1977.03、ASIN B000J8Z2JW
- イソノ え-たろ『愛される女らしさ』ミリオン出版社、1979.05、ASIN B000J8D5E6
- 秋山達子『いい女への旅立ち―聡明な女らしさを求めて』祥伝社、1978.10、ISBN 4396101384、 1987.10 ISBN 4396310137
- 川上源太郎『こころのおしゃれ―聡明な女らしさを育てる本』芳文社、1981.01、ISBN 4832200054
- 鈴木健二『女らしさ物語―美しく生きる45章』小学館、1982.12、ISBN 4093960313、 集英社 1985 ISBN 4087490238
- 鈴木丈織『女らしさを生かす職場学―相手を知り、自分を伸ばす』早稲田教育出版、1984.01、ISBN 4898262198
- 秋山さと子 『ほんとうの女らしさを求めて―女の魅力を育てる本』海竜社、1986.10、ISBN 4759301615
- 鈴木健二『女らしさ愛らしさ―美しく生きるための心得』大和出版、1986.10、ISBN 4804770488、 1992.10 ISBN 4804701397
- 佐佐木綱『女らしさ・男らしさ―計画の視点より』淡交社、1989.05、ISBN 4473010953
- 森隆夫『豊かな個性―男らしさ・女らしさ・人間らしさ』ぎょうせい、1991.12、ISBN 4324030219
- 青木やよひ、磯田 三雄 『ちょっと変じゃない?―「女らしさ」「男らしさ」ってなんだろう』小峰書店、1992.10、ISBN 4338104015
- 浦里はる美『女らしさを磨く―女優浦里はる美の宝箱』生有会、1994.06、ISBN 4795236089
- 渡部昇一著『人間らしさの構造』講談社学術文庫、1977.05、ISBN 4061581430
- スーザン・ブラウンミラー『女らしさ』 勁草書房、1998.07、ISBN 4326652101
- 小倉孝誠『「女らしさ」はどう作られたのか』法藏館、1999.04、ISBN 4831872466
- 伊藤緋紗子『「女らしさ」という名の幸せ』講談社、1999.09、ISBN 4062641119
- 星島恵美子『女性のスピーチ実例集―女らしさを生かし自信をもって話せる』講談社、1999.09、ISBN 4062641119
- 蔦森樹『男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて』朝日新聞社、2001.02、ISBN 4022613238
- 高橋裕子『「女らしさ」の社会学―ゴフマンの視角を通して』学文社、2002.09、ISBN 4762011649
- 森永康子『女らしさ・男らしさ―ジェンダーを考える』 (心理学ジュニアライブラリ) 北大路書房、2002.11、ISBN 4762822841
- 『男らしさ・女らしさって何? (こんのひとみ心の言葉)』ポプラ社、2003.03、ISBN 4591076237
- 渡部昇一著『男は男らしく 女は女らしく』ワック・マガジンズ(ワック文庫)、2004.12、ISBN 4898315275
- 新井えり『「女らしさ」の磨きかた―本当の美しさが宿る心くばり、マナー、言葉遣い、愛情』グラフ社、2005.10、ISBN 4766209230
- 小倉孝誠『“女らしさ”の文化史―性・モード・風俗』中央公論新社、2006.08、ISBN 4122047250
- 小倉千加子『オンナらしさ入門(笑)』理論社、2007.04、ISBN 4652078277
- ケイト・ボーンスタイン『隠されたジェンダー』新水社、2007 ISBN 488385101X
外部リンク
[編集]- 『石川喜三郎『家庭と倫理』「女子の作法」(1905年刊行)』 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- “「女らしさ」とは何か 与謝野晶子”. 青空文庫. 2020年6月13日閲覧。