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ジハーディ・ジョン

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ジハードのジョンJihadi John, Jailer John)は、イスラム国のとある構成員の渾名(ニックネーム)。彼はイギリス人だと言われており、2014年に複数の捕虜を斬首したらしいことで知られている。

渾名

彼のジョンという渾名は、彼の人質の一団がつけたものである。彼らによると、ジョンは「ザ・ビートルズ」と呼ばれるテロユニットの一員であり、西洋人の人質の家族と連絡を取る際に人質たちの見張りをしていたという[1]。この渾名はビートルズのメンバーのジョン・レノンから来たもので、他のメンバーも同様に「ジョージ」「ポール」「リンゴ」と呼ばれていた。ユニットのメンバーは全員イギリス英語を話した[2][3]。「ジハード(聖戦)のジョン」「看守のジョン」という渾名はイギリスのマスコミが付けた[4][5]

FBI は2014年9月25日にジハードのジョンの正体を突き止めたが、その名前はいまだ公にされていない[6]キャメロン英首相はジハードのジョンを追跡して捕らえるよう、MI5MI6GCHQ に指示している[7][8][9]

犠牲者

氏名不詳のシリア兵

2014年5月に投稿されたインスタグラムの動画には、シリア兵を殺している男が映っており、調査者はこれをジハードのジョンではないかと考えている。動画では、アサド大統領に忠誠を誓う男がシリアの屋外でうずくまり、その頭部を後ろから別の男がピストルで撃つ[10]

ジェームズ・フォーリー

2014年8月19日に YouTube へ投稿された動画で、ジャーナリストのジェームズ・フォーリーは事前に用意された原稿を読み上げ、米国、昨今のイラク空爆、米空軍に所属する自分の兄弟を非難した[11]。覆面をしたジハードのジョンも別の原稿を読み上げ、米国とオバマ大統領を非難し、イラクへの軍事介入を止めるよう要求した[11]。そして覆面の男は画面外でフォーリーを斬首したのち、要求が容れられなければスティーヴン・ソトロフも斬首すると脅した。FBINSCは、斬首されたフォーリーの死体が映った動画は真正であると認めた[11]

スティーブン・ソトロフ

2014年9月2日に公開された動画は、伝えられるところによると米国人ジャーナリストのスティーヴン・ソトロフがジハードのジョンによって斬首される様子を映していた[12]ホワイトハウスは動画の信憑性を認めた[13]

デービッド・ヘインズ

2014年9月13日には、キャメロン英首相に宛てた動画が公開された。これには、人質になっていたイギリス人の援助活動家デービッド・ヘインズ英語版がジハードのジョンに斬首される様子が映っていた[14]

アラン・ヘニング

2014年10月3日にイスラム国が公開した動画では、ジハードのジョンがイギリス人の援助活動家アラン・ヘニング英語版を斬首した。サルフォード出身のタクシー運転手だったヘニングは、シリアで救援物資輸送のボランティアをしていたのだが、2013年12月27日にイスラム国の支配下にあるアル・ダナ英語版で誘拐されたのだった[15][16]

ピーター・カッシグ

2014年11月15日、ジハードのジョンが生首を前に立ちはだかっている動画がイスラム国によって投稿された。ホワイトハウスは、この首は米国人の援助活動家ピーター・カッシグ英語版のものだと認めた[17]。カッシグが実際に斬首される様子は映っておらず、これ以前の斬首動画とは違って彼は何の陳述もしていないことから、彼はカメラの前で話すことを拒んだと推測されている。

18人のシリア兵

カッシグを映して終わる動画では、覆面のジハードのジョン率いる一団が18人のシリア兵を斬首する様子を、おぞましいほど生々しく映している。BBC によると、この動画は以前のものと違って、多くのイスラム国戦闘員の顔を映しており、アレッポ県の Dabiq で撮影されたと分かるもので、また「流血のどんちゃん騒ぎ」の様相を呈している。殺害の場面を省いた以前の動画とは違って、ジハードのジョンによる斬首の様子が映っている[18]

人質

2014年8月の時点で、イスラム国は20人を超える人質を抱えていると主張している[19]。多くの人質の家族は、世間の関心を惹いて人質の安全が脅かされないよう、人質の名前を公にしないことにしている[20]。欧州出身の人質の全て、あるいは殆ど全ては、各々の国が身代金を払って解放された。しかし米国と英国の法律は身代金の支払いを禁じている[21]

ジョン・キャントリー

人質になっているイギリス人のフォトジャーナリストであるジョン・キャントリー英語版は、イスラム国の一連の動画に現れている。彼は2012年11月22日にアメリカ人のジェームズ・フォーリーと共に誘拐された。

氏名不詳のアメリカ人女性

26歳のさるアメリカ人女性は、知られる限り未だ唯一捕えられたままのアメリカ人である。彼女は2013年8月に他の援助活動家たちと共にシリアで誘拐されたが、彼女以外はその後解放された。彼女の家族の要請により、どの報道機関も彼女の名前を報じていない。なお、以前の斬首動画とは違って、カッシグとシリア兵たちが殺された動画の中で彼女は次の犠牲者として姿も名前も現れず、またイスラム国は彼女を人質にしていることを公には認めていない[21]

Y と後藤健二

会社経営者の Y(42歳)は2014年8月以前のいずれかの時点で捕えられた。フリージャーナリストの後藤健二(1967年生)は Y の救出を試みるうち、2014年10月のいずれかの時点で捕えられた。2015年1月、2人を殺されたくなければ2億ドルの身代金を支払うよう日本政府に脅迫がなされ[22]、その動画には2人を前に引きすえたジハードのジョンらしき男が映された。

動画の分析

公式の分析

FBINSCは、斬首された死体を映して終わるジェームズ・フォーリーの動画を真正のものと公式に認めた[11]。キャメロン英首相とイギリス外務省もデービッド・ヘインズの殺害を映した動画が本物であることを認めた[23]

これらの動画は、欧米と非アラビア語圏を特にターゲットとしたイスラム国の公式な広報部門 Al-Itisam Establishment for Media Production から承認を受けたイスラム国の放送局アル・ハヤート・メディア・センターが製作、公開した[24]

非公式の分析

タイムズ』紙から依頼を受けたある犯罪科学の専門家は、ジェームズ・フォーリーの動画を見て「これは演技だと思います。殺害はカメラを止めた後で行われたのかもしれません。」と述べた。同紙は「フォトジャーナリストのフォーリー氏が斬首されことは誰にも疑いは無いが、撮影上のごまかしや巧妙なポストプロダクション(撮影後編集)が行われたようだ」と結論づけた[25]。『International Business Times of Australia』紙の2人の映像専門家は、動画の一部は演技であり編集加工されているようだと述べた[26]。人質解放交渉人である James Alvarez 博士はジェームズ・フォーリーの動画について、2台のカメラを使い分け、フォーリーのオレンジ色の作業着にクリップでマイクロフォンをつけるなど、「プロ級に仕組まれている」と述べた[11]。CU Denver National Center for Media Forensics の Associate Director であるジェフ・スミスは「最も興味深いのは、動画の中で行われる斬首がフォーリーとソトロフの両方とも演技だという点だ」と述べた[27]

イギリスのアナリストであるエリオット・ヒギンズは写真と動画を分析し、フォーリーの動画がラッカの町の南にある丘で撮影されたことを示す、写真と動画に関する犯罪科学的な証拠を公表した[28][29][30]

正体の特定

ジハードのジョンは FBI、MI5、およびスコットランドヤードから指名手配された[31][32][33]。動画において彼は、褐色のデザートブーツ以外は頭からつま先まで黒づくめに覆って正体を隠し、覆面は目元しか露出していない[31]。とはいえ、彼に関するいくつかの事実を動画から確認することができる。彼は「多文化性ロンドン英語英語版」を話し[31]、肌質はアフリカ系もしくは南アジア系のようである[11]。また右利きの人がするように左腋に皮製のホルスターを吊るしてピストルを見せびらかしているが[34]、動画での彼の仕草は明らかに左利きのものである[35]

彼の正体の手がかりとなる他の要素として、身長、全体的な体格、手の甲の静脈パターン、声、衣服がある[11][31]。分析チームによっては、撮影地を特定するため、動画の背景の地形を手がかりにするかもしれない[11]。2014年8月24日にイギリスの駐米大使ピーター・ウェストマコット卿は、洗練された音声認識技術によってイギリスはジハードのジョンの正体にかなり近づいたと言ったが[36]、報道時にはそれ以上の詳細の公開を拒んだ[37]

デイリー・テレグラフ』紙のある記事では、ジハードのジョンの正体が決定的に明らかになったとしても、シリアとイラクでの騒乱の性質ゆえに、彼がイギリスで法の裁きを受けることはまず無いだろうと書かれた。

2014年9月20日に米上院は、ジェームズ・フォーリー、スティーヴン・ソトロフ、デービッド・ヘインズの殺害に関わった者たち(ジハードのジョンも含む)の捕獲につながる情報の提供者に1000万ドルの懸賞を与えることを承認した[38][39]

疑われている人物

2014年9月14日にキャメロン英首相は、ジハードのジョンの正体は分かっているがまだ公表できないと認めた[40]

2014年9月25日にFBIの局長ジェイムズ・コウミは、ジハードのジョンの正体を既に突き止めているが、それが誰か、どこの出身かという情報は教えないと報道陣に告げた[41]。「我々は彼の正体を突き止めたと信じている。それが誰かをあなたたちに言うつもりはない。」と彼は言った[42]。Middle East Institute の著述家・学者であるマイケル・ライアンは「一定レベルの確証が得られるまでは公表できないのだろう」と推測している[41]

ジハードのジョンと疑われている主な人物は3人いる。[43][44][45]。それは、西ロンドンの23歳のラッパーバーミンガムの20歳のハッカー、ポーツマスの20代の男の3人である。

反応

バラク・オバマ米大統領はジハードのジョンの行為を非難し、動画で行われた斬首に関わった者たち全ての処罰を誓った[46]ジョン・ケリー米国務長官もジハードのジョンを「覆面に隠れた臆病者」と呼び、全ての関係者は合衆国により罪を問われるだろうと述べて、オバマに同調した[46]。イギリスの高官たちはジハードのジョン捕獲への取り組みをそれぞれ述べている。イギリスの元 Minister for Security であるアラン・ウェスト提督はジハードのジョンのことを「死刑台に向かう死刑囚」と呼び、「オサマ・ビンラディンのように追われて捕えられる」だろうと述べた[47]。キャメロン英首相は、ジハードのジョンが「いずれ法の裁きを受ける」ことを全く確信していると述べ、彼の行為を非難した[48][49]。英司法大臣のクリス・グレイリングとインターポール事務総長のロナルド・ノウブルは、ジハードのジョンは法の裁きを受けるべきだと述べた[50]

ビートルズのメンバーだったリンゴ・スターは、そのバンドに由来した渾名をテロユニットが使っていることに嫌悪感をあらわした。『ロンドン・イブニング・スタンダード』紙の取材に対し彼は「馬鹿げてる。彼らがあそこでやっていることは、ビートルズが支持した全てのものに反している」と述べた[51]

脚注

  1. ^ “Hunt for "Jihadi John" continues”. DailyMail. http://www.dailymail.co.uk/news/article-2730336/Find-British-butcher-mask-Jihadi-filmed-beheading-American-journalist-identified-John-Londoner-gang-UK-extremists-known-The-Beatles.html 2014年8月22日閲覧。 
  2. ^ James Harkin, Ian Birrell, Sharon Churcher, and Dan Bloom (2014年8月23日). “British spies are on verge of identifying 'Jailer John': Ambassador to US reveals 'we are not far away' from unmasking fanatic who murdered James Foley as SAS gets ready to find him”. Daily Mail Online. 2014年11月14日閲覧。
  3. ^ Levy, Megan (2014年8月5日). “How London rapper L Jinny became Jihadi John, suspected of beheading James Foley”. Sydney Morning Herald. http://www.smh.com.au/world/how-london-rapper-l-jinny-became-jihadi-john-suspected-of-beheading-james-foley-20140825-107zdz.html 2014年9月25日閲覧。 
  4. ^ “'Jihadi John', fears for Gazza and GCSE 'ghost of Gove' in headlines”. BBC News. (2014年8月22日). http://www.bbc.co.uk/news/blogs-the-papers-28891342 2014年10月5日閲覧。 
  5. ^ McCoy, Terrence (2014年8月22日). “The brutality of ‘Jihadi John,’ the Islamic State militant who decapitated James Foley”. Washington Post. http://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2014/08/22/the-sadistic-brutality-of-jihadi-john-the-islamic-state-militant-who-decapitated-james-foley/ 2014年10月5日閲覧。 
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  7. ^ British Prime Minister David Cameron orders spy chiefs to hunt down ‘Jihadi John’”. The Times of India (2014年10月5日). 2014年10月5日閲覧。
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