ヘル朝鮮
ヘル朝鮮(ヘルちょうせん、朝: 헬조선)とは、韓国の主に20-30歳代の若者たちが[1]韓国社会の生きづらさを「地獄のような朝鮮[2]」と自嘲するために使うスラング。2015年にSNSから広がり[3][4]、その後メディアや文化人も頻繁に言及する流行語となった[5]。
流行の背景には、韓国の超競争社会による雇用不安と、縁故採用がはびこる不公正な就職状況がある[3]。韓国では過酷な受験競争を経て大学を出てもすぐ就職できないことは珍しくなく、2014年時点で20代の就業率は57.4%だった[6]。高学歴層の就職競争は特に熾烈である[7]。反面、富裕層やエリート官僚による縁故採用がなくならず、政治的なスキャンダルにもなっている[6]。結局、カネもコネも無い「第三身分」は勤勉に努力したところで安定したキャリアデザインを描けないという不条理な現実に対する憤りが[8]、自国を否定する「ヘル朝鮮」という言葉への若者たちの共感を生んだ[9]。
このフレーズの初出は明らかでないが、少なくとも2012年9月にはネット上に現れている[9]。ただしその頃は、朝鮮時代の後進ぶりをあげつらう意味合いで使われていた[9]。2015年5月に「韓国卑下のハブ」を自認するサイト「ヘル朝鮮」が開設されると、このフレーズに朴槿恵政権への批判が重ねられてネットで広がりを見せるようになり[10]、8月21日に東亜日報は「ヘル朝鮮という言葉がこれから大流行するであろう」と報じた[9]。そして9月22日に韓国の英語版ネットメディア「コリア・エクスポゼ」が「韓国、汝の名はヘル朝鮮」という記事を掲載すると、「ヘル朝鮮」は一気に大流行するようになった[9]。
この若い世代の「ヘル朝鮮」観は、上の年代から理解を得ているとは言い難い[2]。彼らが若かった時代はまだ今日ほど就職・労働環境が厳しくなく[2]、あるいは韓国社会で生きることを「運命」と受け入れ、自分への暴力的な扱いも「妻子のため」を思えば耐えることが出来たからだ[7]。とはいえ「ヘル朝鮮」という悲観的な言葉の独り歩きに警鐘を鳴らす識者・文化人も出ており、朴槿恵大統領は9月に大統領府で開かれた主席秘書官会議で「行き過ぎた悲観と批判を脱し、経済体質を変えて第2の跳躍を実現しなければならない」と発言した[11]。
脚注
- ^ 三田 (2015年9月23日). “韓国の若年層にまん延する「ヘル朝鮮症候群」、根底に政府へ...”. レコードチャイナ. 2016年2月3日閲覧。
- ^ a b c チャン・ハソン (2016年1月13日). “【コラム】「ヘル朝鮮」を「ヘブン大韓民国」に(1)”. 中央日報. 2016年2月3日閲覧。
- ^ a b 「韓国の態度が根本的に変わらぬ限り放っておけばよいと大前氏」『週刊ポスト』2016年1月29日号、小学館、2016年2月3日閲覧。
- ^ 中西美穂 (2015年12月26日). “karaのニュース - [コラム “ヘル朝鮮”女優カン・ドゥリさん自殺から見る韓国社会]”. 楽天WOMAN. 2016年2月3日閲覧。
- ^ 河鐘基 (2015年12月8日). “韓国人による韓国ディスが止らない!(1)”. 日刊サイゾー. 2016年2月3日閲覧。
- ^ a b 藤原修平「就職難や自殺 韓国の若者たちを苦しめる「ヘル朝鮮」の実像 (2)」『SAPIO』2016年1月号、小学館、2016年2月3日閲覧。
- ^ a b 朴露子 (2016年1月19日). “[寄稿] 移民だけが「ヘル朝鮮」の脱出口に見える理由”. ハンギョレ. 2016年2月3日閲覧。
- ^ スティーブン・デニー (2015年12月25日). “なぜ今「ヘル朝鮮」現象か”. ニューズウィーク日本版. 2016年2月3日閲覧。
- ^ a b c d e 藤原修平「就職難や自殺 韓国の若者たちを苦しめる「ヘル朝鮮」の実像 (1)」『SAPIO』2016年1月号、小学館、2016年2月3日閲覧。
- ^ MJ (2015年7月27日). “韓国で拡大する“ヘル朝鮮症候群”とは?「日本よりはマシ」の声も・・韓国ネット「出ていきたければ出ていけ」「これでは他の国に好かれるはずが…」”. FOCUS-ASIA.COM. 2016年2月3日閲覧。
- ^ 河鐘基 (2015年12月8日). “韓国人による韓国ディスが止らない!(2)”. 日刊サイゾー. 2016年2月3日閲覧。