言語
この記事では言語(げんご、英: language)、特に自然言語について述べる。
概要
広辞苑や大辞泉には次のようにある[1]。
- 人間が音声や文字を用いて思想・感情・意志 等々を伝達するために用いる記号体系[1]。およびそれを用いる行為(広辞苑[1])。音声や文字によって、人の意志・思想・感情などの情報を表現したり伝達する、あるいは他者のそれを受け入れ、理解するための約束・規則。および、そうした記号の体系(大辞泉[2])。
- ある特定の集団が用いる、音や文字による事態の伝達手段[1]。(個別言語のことで、英語・フランス語・日本語などのこと[1])
- (言語学用語)ソシュールの用語「langue ラング」の日本語での訳語。
辞典等には以上のようにあるわけだが、これは大きく二分すると「自然言語」と「形式言語」とがあるうちの自然言語について述べている。しかし、1950年代以降の言語学などでは、定義中にも「記号体系」といった表現もあるように形式的な面やその扱い、言い換えると形式言語的な面も扱うようになっており、こんにちの言語学において形式体系と全く無関係な分野はそう多くはない。形式的な議論では、「その言語における文字の、その言語の文法に従った並び」の集合が「言語」である、といったように定義される。
言語は、人間が用いる意志伝達手段であり、社会集団内で形成習得され、意志を相互に伝達すること(コミュニケーション)や、抽象的な思考を可能にし、結果として人間の社会的活動や文化的活動を支えている[3]。言語(個別言語)には、文化の特徴が織り込まれており、共同体のメンバーは、(その共同体で用いられている)言語の習得をすることによって、その共同体での社会的学習、および(その共同体で望ましいとされる)人格を形成してゆくことになる[3]。
言語学 |
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言語の変化と変異 |
理論 |
応用分野 |
関連項目 |
ソシュールの研究が、言語学の発展の上で非常に重要な役割を果たしたわけであるが、ソシュール以降は、「共同体の用いる言語体系」のことは「langue ラング」と呼ばれ、それに対して、個々の人が行う(個別の)言語活動は「parole パロール」という用語で呼ばれるようになっている[3]。(Langue and paroleも参照)。
こうした言語学で(ソシュール以降の言語学)は言語をどのように理解しているか、その(独特の)[誰によって?]用語も用いて説明すると、『「外的形式としての言語」は「音声言語」および音声言語を前提とした「文字言語」がある。「音声言語」は、「発話」と「了解」に分けられ、「言語単位」(音素・形態素・単語)を素として音韻体系・文法体系を構成している[3]』ということになる。
《音韻》 と 《意味》の間の結び付け方(連合)、また、《文字》と音韻・形態素・単語との間の結び付け方(連合)は、社会的に作られている習慣である[3](シニフィアンとシニフィエの記事も参照)。
なお、(2016年)現在の言語学は、ソシュールの影響が下地にあるものの、主として1950年代前後に始まり広がった、チョムスキーによるものをはじめとする諸理論、およびそれ以降の、それらへの修正あるいは反論、に由来するものが多くを占めており、普通の言語学の議論では「ソシュールの言語学」(「近代言語学」あるいは「ヨーロッパ構造主義言語学」とも。「構造主義言語学」には「アメリカ構造主義言語学」(構造主義文法を参照)もあるので注意)だけに拘ることは、あまりしない。
自然発生的にあるものとしての「自然」言語、の他、近代以降、エスペラントなどの国際補助語など、人工言語も作られた。しかし、「人工言語」と呼ばれる言語のうち、エスペラントなど多くは、発生が積極的な人為によりなされたという点以外は、多くの点で自然言語と同様のものであり、偏見的な理由以外には区別する理由は無い(人工言語の記事も参照のこと)。自然言語の持ついくつかの性質を全く削いだ、形式言語として設計されている人工言語も一部にはある(ログランなど)。
(言語学の用語に沿って)「動物のコミュニケーションの体系」も「言語」と呼ぶこともある、という主張がある。しかし、チョムスキー理論では「普遍文法」などの概念において、言語は人間のものという大前提があり、どういう意味で「言語学の用語に沿って」なのかは不明確である。
他にも、言語にはさまざまな分類がある。前述の音声言語と文字言語の他、口語、口頭言語、書記言語、文語、といった分類があるが、重なる部分もありはっきり分類できるものでもない。また、一例として、「日本語対応手話」は一般の日本語の話し言葉や書き言葉と同一の言語の「視覚言語バージョン」であるが、「日本手話」は一般の日本語とは異なる言語と考えられており、そちらは音声言語や文字言語とは異なる「視覚言語」ということになる、など、分類は単純ではない。また屈折語・膠着語・孤立語といったような分類もある。詳細は言語類型論を参照。
自然言語以外については、人工言語・形式言語・コンピュータ言語などの各記事を参照。
ソシュールの後の言語学では、もっぱら上述のような説が展開され、そうした考え方ばかりで理解しようとする人が増えたわけであるが、[誰によって?]実際の言語を広く研究すると、厳密には、言語の定義には多くの困難が伴う。コミュニケーションの「規則」がどこかに明記されており人々がそれを参照しながらコミュニケーションが行われるわけではなく、実際人々が単一の規則に従っていないと考えさせる材料もある。方言のような地理的なバリエーション、新語の普及のような歴史的変化、言い間違いや言いかけに終わる発言など、文法として通常考えられる規則に反する発話などが、その例として考えられる。(むしろ現代の言語学でさかんに研究されているテーマのようにも思われるが)
なお、ジャック・デリダという、フランスの一般にポスト構造主義の代表的哲学者と位置づけられている哲学者は、「声」を基礎とし文字をその代替とする発想(「音声中心主義」、"Phonocentrism" とデリダは称するもの)が言語学に存在する、と主張し、それに対する批判を投げかける立場を主張した(『声と現象』)。『グラマトロジーについて』と「差延」の記事も参照。
個別言語は、民族の滅亡や他言語による吸収によって使用されなくなることがある。このような言語は死語と呼ばれ、死語が再び母語として使用されたことは歴史上にただ一例、ヘブライ語の例しかない。しかし、ヘブライ語は自然に復活したわけでも完全に消滅していたわけでもなく、文章語として存続していた言語を、パレスチナに移住したユダヤ人たちが20世紀に入って日常語として人工的に復活させ[4]、イスラエル建国とともに公用語に指定して完全に再生させたものである。このほかにも、古典アラビア語、ラテン語、古典ギリシャ語のように、日常語としては消滅しているものの文章語としては存続している言語も存在する。このほか、日常ではもはや用いられず、教典や宗教行為のみで用いられるようになった典礼言語も存在する。
近年、話者数が非常に少ない言語が他言語に飲み込まれて消滅し、新たに死語と化すことが問題視されるようになり、消滅の危機にある言語を危機言語と呼ぶようになった。これは、世界の一体化が進み、交通網の整備や流通の迅速化、ラジオ・テレビといったマスメディアの発達によってそれまで孤立を保っていた小さな言語がそのコミュニティを維持できなくなるために起こると考えられている。より大きな視点では英語の国際語としての勢力伸張による他主要言語の勢力縮小、いわゆる英語帝国主義もこれに含まれるといえるが、すくなくとも21世紀初頭においては英語を母語とする民族が多数派を占める国家を除いては英語のグローバル化が言語の危機に直結しているわけではない。他主要言語圏においても同様である。言語消滅は、隣接したより大きな言語集団(必ずしもその国の主要集団であるわけではない)との交流が不可欠となり、その言語圏に小言語集団が取り込まれることによって起きる。こうした動きは人的交流や文化的交流が盛んな先進国内においてより顕著であり、北アメリカやオーストラリアなどで言語消滅が急速に進み、経済成長と言語消滅との間には有意な相関があるとの研究も存在する[5]。その他の地域においても言語消滅が進んでおり、2010年にはインド領のアンダマン諸島において言語が一つ消滅し[6]、他にも同地域において消滅の危機にある言語が存在するとの警告が発せられた[7]。
- 世界に存在する自然言語の一覧は言語の一覧を参照
歴史
起源
言語がいつどのように生まれたのか、生まれたのが地球上の一ヶ所か複数ヶ所かはわかっておらず、複数の説が存在するが、例えばデンマークの言語学者オットー・イェスペルセンは、以下のような説を唱えている。
プープー説 ("Pooh-pooh" theory) | 思わず出た声から感情に関する語が出来たもの。 爆笑から"laugh"「わらう」「ショウ(笑)」、嫌う声から"hate"「きらい」「ケン(嫌)」など。 |
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ワンワン説 ("Bow Bow" theory) | 鳴き声から動物に関する語が出来たもの。 「モウ~」から"cow"「うし」「ギュウ(牛)」、「ワオ~ン」から"wolf"「おおかみ」「ロウ (狼)」など。 |
ドンドン説 ("Ding-dong" theory) | 音響から自然物に関する語が出来たもの。 「ピカッ!ゴロゴロ」から"thunder"「かみなり」「ライ(雷)」、「ザーッ…」から"water"「みず」「スイ(水)」など。 |
エイヤコーラ説 ("Yo-he-ho" theory) | かけ声から行動に関する語が出来たもの。 停止を促す声から"stop"「とまる」「テイ(停)」、働く時の声から"work"「はたらく 」「ロウ(労)」など。 この説は、集団行動をとる時の意味の無いはやし歌が、世界各地に残っている事からも裏付けられる。 |
生物学的な観点から言語の起源を探ろうという試みもある。最近の分子生物学的研究によれば、FOXP2と名づけられている遺伝子に生じたある種の変異が言語能力の獲得につながった可能性がある[8]。さらにその変異は現生人類とネアンデルタール人が分化する以前の30-40万年前にはすでに生じていたとの解析結果が発表されており[9]、現生人類が登場とともに既に言語を身につけていた可能性も考えられる。しかしFOXP2は言語能力を有しない他の動物の多くが持っていること、FOXP2の変異が言語能力の獲得の必要条件であるとの直接的な証明はまだなされていないことなどに留意する必要がある。
変化
生物の場合には、進化が止まった生物が現在も生き残っている「生きている化石」と呼ばれるものがある。また、一見似ている2種類が全然別の種類から進化していたというケースもある。言語にも同じような現象が起きており、その変化の速度は一定ではなく、侵略・交易・移動等他民族との接触が多ければ、その時言語も大きく変化する。代表例として英語、フランス語、ルーマニア語、アルバニア語、アルメニア語等がある。逆に接触が少ないとほとんど変化しなくなる。代表例としてドイツ語、アイスランド語、ギリシャ語、スラヴ語派、バルト語派(特にリトアニア語)、サンスクリット語等があり、特にアイスランド語は基本文法が1000年前とほとんど変っていない。
言語はもともといくつかの祖語から分化したと考えられており、同一の祖語から発生したグループを語族と呼ぶ。語族はさらに語派、語群、そして言語と細分化されていく。世界の大多数の言語はなんらかの語族に属するが、なかには現存する他の言語と系統関係が立証されておらず、語族に分類できない孤立した言語も存在する。また、地理・文化的に近接する異なった系統の言語が相互に影響しあい顕著に類似する事例も見られ、これは言語連合と呼ばれる。
同一語族に属する言語群の場合、共通語彙から言語の分化した年代を割り出す方法も考案されている。
一つの言語の言語史を作る場合、単語・綴り・発音・文法等から古代 (Old)・中世 (Middle)・近代 (Modern) と3分割し、例えば「中世フランス語」等と呼ぶ。ただし古代については古代ノルド語、古代プロシア語、[要出典]古代教会スラヴ語は「古代」を付けたままだが、古代英語は 「古英語」、古代ギリシャ語は「古典ギリシャ語」がそれぞれ一般に用いられる。
ある言語と他の言語が接触した場合、両言語の話者の交流が深まるにつれて様々な変化が発生する。これを言語接触という。言語接触によって、両言語には相手の言語から語彙を借用した借用語が発生するほか、交流が深まるにつれて商業や生活上の必要から混成言語が発生することがある。この混成言語は、初期にはピジン言語と呼ばれる非常に簡略化された形をとるが、やがて語彙が増え言語として成長してくると、クレオール言語という新しい言語となる[10]。クレオール言語はピジン言語と比べ語彙も多く、何よりきちんと体系だった文法が存在しており、一個の独立した言語とみなして全く差し支えない。クレオール言語はピジン言語と違い、母語話者が存在するのも特徴である。
中世の世界においてはしばしば、文語と日常使用する言語との間には隔たりがみられ、なかには中世ヨーロッパにおけるラテン語のようにその土地の言葉と全く異なる言語を文章語として採用している世界も存在した。ラテン語は欧州において知識人の間の共通語として用いられ、ルネサンスなどで大きな役割を果たしたが、やがて印刷術の発展や宗教改革などによって各国において使用される日常言語が文語として用いられるようになった。この際、それまで方言の連続体しか持たなかった各国において、その言語を筆記する標準的な表記法が定まっていき[11]、各国において国内共通語としての標準語が制定されるようになった。これは出版物などによって徐々に定まっていくものもあれば、中央に公的な言語統制機関を置いて国家主導で標準語を制定するものもあったが、いずれにせよこうした言語の整備と国内共通語の成立は、国民国家を成立させるうえでの重要なピースとなっていった。
最も新しい言語であり、また誕生する瞬間がとらえられた言語としては、ニカラグアの子供達の間で1970年代後半に発生した「ニカラグア手話」がある。これは、言語能力は人間に生得のものであるという考えを裏付けるものとなった。
世界の言語
言語の数と範囲の不確定
現在世界に存在する言語の数は千数百とも数千とも言われる。1939年にアメリカのL・H・グレイは2796言語と唱え、1979年にドイツのマイヤーが4200から5600言語と唱えており、三省堂の言語学大辞典・世界言語編では8000超の言語を扱っている[12]。
しかし、正確に数えることはほぼ不可能である。これは、未発見の言語や、消滅しつつある言語があるためだけではなく、原理的な困難があるためでもある。似ているが同じではない「言語」が隣り合って存在しているとき、それは一つの言語なのか別の言語なのか区別することは難しい(「言語」なのか「方言」なのか、と言い換えてもよい)。さらに、ある人間集団を「言語の話者」とするか「方言の話者」とするかの問題でもある。たとえば、旧ユーゴスラビアに属していたセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの4地域の言語は非常に似通ったものであり、学術的にはセルビア・クロアチア語として同一の言語として扱われる。また旧ユーゴスラビアの政治上においても国家統一の観点上、これらの言語は同一言語として扱われていた。しかし1991年からのユーゴスラビア紛争によってユーゴスラビアが崩壊すると、独立した各国は各地方の方言をそれぞれ独立言語として扱うようになり、セルビア語、クロアチア語、ボスニア語の三言語に政治的に分けられるようになった[13]。さらに2006年にモンテネグロがセルビア・モンテネグロから独立すると、モンテネグロ語がセルビア語からさらに分けられるようになった。こうした、明確な標準語を持たず複数の言語中心を持つ言語のことを複数中心地言語と呼び、英語(イギリス英語、アメリカ英語など)などもこれに含まれる。
逆に、中国においては北京語やそれを元に成立した普通話(標準中国語)と、上海語や広東語といった遠隔地の言語とは差異が大きく会話が成立しないほどであるが、同系統の言語ではあり、書き言葉は共通であるためこれら言語はすべて中国語内の方言として扱われている。
同じ言語かどうかを判定する基準として、相互理解性を提唱する考えがある。話者が相手の言うことを理解できる場合には、同一言語、理解できない場合には別言語とする。相互理解性は言語間の距離を伝える重要な情報であるが、これによって一つの言語の範囲を確定しようとすると、技術的難しさにとどまらない困難に直面する。一つは、Aの言うことをBが聞き取れても、Bの言うことをAが聞き取れないような言語差があることである。もう一つは、同系列の言語が地理的な広がりの中で徐々に変化している場合(言語連続性または方言連続性という)に、どこで、いくつに分割すべきなのか、あるいはまったく分割すべきでないのかを決められないことである。
こうした困難に際しても、単一の基準を決めて分類していくことは、理屈の上では可能である。しかしあえて単一基準を押し通す言語学者は現実にはいない。ある集団を「言語話者」とするか「方言話者」とするかには、政治的・文化的アイデンティティの問題が深く関係している。どのような基準を設けようと、ある地域で多くの賛成を得られる分類基準は、別の地域で強い反発を受けることになる。そうした反発は誤りだと言うための論拠を言語学はもっていないので、結局は慣習に従って、地域ごとに異なる基準を用いて分類することになる。
言語と方言の区別について、現在なされる説明は二つである。第一は、言語と方言の区別にはなんら言語学的意味はないとする。第二のものはまず、どの方言もそれぞれ言語だとする。その上で、ある標準語に対して非標準語の関係にある同系言語を、方言とする。標準語の選定は政治によるから、これもまた「言語と方言の区別に言語学的意味はない」とする点で、第一と同じである。この定義では、言語を秤にかけて判定しているのではなく、人々がその言語をどう思っているかを秤にかけているのである。
ある言語同士が独立の言語同士なのか、同じ言語の方言同士なのかの判定は非常に恣意的であるが、その一方で、明確に系統関係が異なる言語同士は、たとえ共通の集団で話されていても、方言同士とはみなされないという事実も有る。たとえば、中国甘粛省に住む少数民族ユーグ族は西部に住むものはテュルク系の言語を母語とし、東部に住むものはモンゴル系の言語を母語としている。両者は同じ民族だという意識があるが、その言語は方言同士ではなく、西部ユーグ語、東部ユーグ語と別々の言語として扱われる。また海南島にすむ臨高人も民族籍上は漢民族であるが、その言語は漢語の方言としては扱われず、系統どおりタイ・カダイ語族の臨高語として扱われる。
なお、使用する文字は同言語かどうかの判断基準としてはあまり用いられない。言語は基本的にどの文字においても表記可能なものであり、ある言語が使用する文字を変更することや二種以上の文字を併用することは珍しいことではなく、また文法などに文字はさほど影響を与えないためである。(たとえば日本語をアルファベットのみで表記したとしても、それは単に「アルファベットで書かれた日本語」に過ぎず、何か日本語以外の別の言語に変化するわけではない)。上記のセルビア・クロアチア語においてはクロアチアが主にラテン文字を、セルビアが主にキリル文字を用いていたが、ユーゴスラビア紛争において両国間の仲が極度に悪化するまでは同一言語として扱われていたし、デーヴァナーガリー文字を用いるインドの公用語であるヒンディー語とウルドゥー文字を用いるパキスタンの公用語であるウルドゥー語も、ヒンドゥスターニー語として同一言語または方言連続体として扱われることがある。
普段話されている言語の人口順位(上位10言語)
1位 | 中国語 | 12億1300万人 |
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2位 | スペイン語 | 3億2900万人 |
3位 | 英語 | 3億2800万人 |
4位 | アラビア語 | 2億2100万人 |
5位 | ヒンディー語 | 1億8200万人 |
6位 | ベンガル語 | 1億8100万人 |
7位 | ポルトガル語 | 1億7800万人 |
8位 | ロシア語 | 1億4400万人 |
9位 | 日本語 | 1億2200万人 |
10位 | ドイツ語 | 9030万人 |
人口は2009年現在の概算。 ただし、中国語は12、アラビア語は16の下位分類の合計である。統計および分類は、エスノローグ第十六版による。
世界で最も母語話者の多い言語は上図の通り中国語であるが、公用語としている国家は中華人民共和国と中華民国(台湾)、それにシンガポールの3つの国家にすぎず、世界において広く使用されている言語というわけではない。また、上記言語分類において12の下位分類の合計となっている通り、共通語たる普通話の下に各地方の多様な方言が存在する。母語話者数2位の言語はスペイン語である。これはヨーロッパ大陸のスペインを発祥とする言語であるが、17世紀のスペインによる新大陸の植民地化を経て、南アメリカおよび北アメリカ南部における広大な言語圏を獲得した。2007年度においてスペイン語を公用語とする国々は19カ国にのぼる。さらにほぼ同系統の言語である7位のポルトガル語圏を合わせた新大陸の領域はラテンアメリカと呼ばれ、広大な共通言語圏を形成している。同じく広大な共通言語圏を持つ言語として、4位のアラビア語が挙げられる。アラビア語はクルアーンの言語としてイスラム圏全域に使用者がいるが、とくに北アフリカから中東にかけて母語話者が多く、公用語とする国々は23カ国にのぼっていて、ひとつのアラブ文化圏を形成している。ただしこれも文語であるフスハーと口語であるアーンミーヤに分かれており、アーンミーヤはさらに多数の方言にわかれている。英語は母語話者の人口は3位であるが、公用語としては最も多くの国で話されている(55ヵ国)うえ、21世紀においてもっとも有力な国家であるアメリカやそれ以前の覇権国家であったイギリスの公用語であるため国際的には最重要言語となっている。さらに世界の一体化に伴い研究やビジネスなども英語で行われる場面が増え、非英語圏どうしの住民の交渉においても共通語として英語を使用する場合があるなど、英語の世界共通語としての影響力は増大していく傾向にある。英語に次ぐ国際語としては、17世紀から19世紀まで西洋で最も有力な国際語であったフランス語が挙げられる。フランス語の母語話者は9000万人とトップ10にも入らないが、フランス語を公用語とする国々はアフリカの旧フランス植民地を中心に29カ国にのぼる。ちなみに、国連の公用語は、英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語の6つであるが、これは第二次世界大戦の戦勝国の言語に、広大な共通言語圏を持つスペイン語とアラビア語を加えたものである[14]。
言語と国家
言語は国家を成立させるうえでの重要な要素であり、カナダ(英語とフランス語)やベルギー(フラマン語とワロン語、ただし公用語は同系統の大言語であるオランダ語とフランス語)のように異なる言語間の対立がしばしば言語戦争と呼ばれるほどに激化して独立問題に発展し、国家に大きな影響を及ぼすことも珍しくない。東パキスタンのように、西パキスタンの言語であるウルドゥー語の公用語化に反発してベンガル語を同格の国語とすることを求めたことから独立運動が起き、最終的にバングラデシュとして独立したような例もある[15]。こうした場合、言語圏別に大きな自治権を与えたり(たとえばベルギーにおいては1970年に言語共同体が設立され、数度の変更を経てフラマン語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体の3つの言語共同体の併存する連邦国家となった[16])、国家の公用語を複数制定する(例えばスイスにおいては、それまでドイツ語のみであった公用語が1848年の憲法によってドイツ語・フランス語・イタリア語の三公用語制となり[17][18]、さらに1938年にはロマンシュ語が国語とされた[19][20])ことなどによって少数派言語話者の不満をなだめる政策はよく用いられる。この傾向が特に強いのはインドであり、1956年以降それまでの地理的な区分から同系統の言語を用いる地域へと州を再編する、いわゆる「言語州」政策を取っている[21]。
公用語、共通語、民族語
国家における言語の構造は、公用語-共通語-民族語(部族語、方言)の三層の構造からなっている。もっとも、公用語と共通語、また三層すべてが同じ言語である場合はその分だけ層の数は減少する。
日本を例にとれば、各地方ではその地方の方言を使っている。つまり、同じ地方のコミュニティ内で通用する言語を使用している。これが他地方から来た人を相手にする場合となると、日本語(いわゆる標準語)を使用することとなる。日本では他に有力な言語集団が存在しないため、政府関係の文書にも日本標準語がそのまま使用される。つまり、共通語と公用語が同一であるため、公用語-方言の二層構造となっている。
公用語と共通語は分離していない国家も多いが、アフリカ大陸の諸国家においてはこの三層構造が明確にあらわれている。これらの国においては、政府関係の言語(公用語)は旧宗主国の言語が使用されている。学校教育(教授言語)もこの言語で行われるが、民族語とかけ離れた存在であることもあり国民の中で使用できる層はさほど多くない。この穴を埋めるために、各地域においては共通語が話されている。首都がある地域の共通語が強大化し、国の大部分を覆うようになることも珍しくない。しかし文法の整備などの遅れや、国内他言語話者の反対、公用語の使用能力がエリート層の権力の源泉となっているなどの事情によって、共通語が公用語化はされないことがほとんどである。その下に各民族の民族語(部族語)が存在する[22]。
言語の生物学
言語機能は基本的にヒトに固有のものであるため、言語の研究には少数の例外を除き動物モデルを作りにくい。そのため、脳梗塞などで脳の局所が破壊された症例での研究(損傷脳研究)や、被験者に2つの単語を呈示しその干渉効果を研究するなどの心理学的研究が主になされてきたが、1980年代後半より脳機能イメージング研究が手法に加わり、被験者がさまざまな言語課題を行っているときの脳活動を視覚化できるようになった。
言語に関する脳の領域
古典的なブローカ領域、ウェルニッケ領域のほか、シルヴィウス裂を囲む広い範囲(縁上回、角回、一次・二次聴覚野、一次運動野、体性感覚野、左前頭前野、左下側頭回)にわたっている。脳梗塞などで各部が損傷されると、それぞれ違ったタイプの失語が出現する。例えば左前頭前野付近の損傷で生じるブローカ失語は運動失語であり、自発語は非流暢性となり復唱、書字も障害される。左側頭葉付近の障害で生じるウェルニッケ失語は感覚失語であり自発語は流暢であるが、言語理解や復唱が障害され、文字による言語理解も不良である。
ほとんどの右利きの人では、単語、文法、語彙などの主要な言語機能は左半球優位である。しかし声の抑揚(プロソディ)の把握、比喩の理解については右半球優位であると言われている。
文字の認識には左紡錘状回、中・下後頭回が関与するが、漢字(表意文字)とひらがな(表音文字)で活動する部位が異なると言われている。
ヒトの発達における言語機能の獲得
これも多方面から研究されている。個人の言語能力は、全体的な知的能力とは乖離することがあり(例として読字障害、ウィリアムズ症候群、自閉症など)、個体発生やヒトの進化における言語の起源などにヒントを与えている。また、ヒトは環境の中で聴取する音声から自力で文法などの規則を見出し学習する機能を生得的に(=遺伝的に)備えているため、特に教わらなくても言語を学習できるとする考えも存在する。(詳しくは生得説を参照)
最近の近赤外線分光法を用いた研究において、生後2~5日の新生児が逆再生よりも順再生の声を聞いたほうが、あるいは外国語より母国語を聞いたときの方が聴覚皮質の血流増加が大きかったと報告されており(Peñaら,PNAS,2003)、出産前から母体内で言語を聴いていることが示唆される。
脚注
- ^ a b c d e 広辞苑 第六版「げんご(言語)」
- ^ 大辞泉「げんご(言語)」
- ^ a b c d e ブリタニカ百科事典「言語」
- ^ 「物語 エルサレムの歴史」p166 笈川博一 中央公論新社 2010年7月25日発行
- ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3024935 「経済成長で少数言語が失われる、研究」AFPBB 2014年09月03日 2017年2月6日閲覧
- ^ http://www.afpbb.com/articles/-/2691446?pid=5282181 「最後の話者が死亡、消滅危機言語が絶滅 インド・アンダマン諸島のボ語」AFPBB 2010年02月06日 2017年2月6日閲覧
- ^ http://www.afpbb.com/articles/-/2783379 「ジャラワ族も存亡の危機、インド・アンダマン諸島」AFPBB 2011年01月26日 2017年2月6日閲覧
- ^ Nature. 413(6855):519-23.
- ^ Current Biology 17:1908–1912
- ^ 「フランス語学概論」p40-41 髭郁彦・川島浩一郎・渡邊淳也著 駿河台出版社 2010年4月1日初版発行
- ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p40 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
- ^ 城生佰太郎・松崎寛 『日本語「らしさ」の言語学』 講談社 1995年 p.22
- ^ 「人類の歴史を変えた8つのできごと1 言語・宗教・農耕・お金編」p30-31 眞淳平 岩波ジュニア新書 2012年4月20日第1刷
- ^ 「言語世界地図」p209-210 町田健 新潮新書 2008年5月20日発行
- ^ 大橋正明、村山真弓編著、2003年8月8日初版第1刷、『バングラデシュを知るための60章』p58、明石書店
- ^ 「物語 ベルギーの歴史」p179 松尾秀哉 中公新書 2014年8月25日
- ^ 「図説スイスの歴史」p86 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
- ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p198 2000年7月25日発行
- ^ 「図説スイスの歴史」p111 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
- ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p198 2000年7月25日発行
- ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p123 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
- ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」pp18-21 梶茂樹・砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
関連項目
外部リンク
- 言語 - 脳科学辞典 神経科学の立場からの解説。
- MSN Encarta – Multimedia – Language
- CIA – The World Factbook – Field Listing – Languages
- Ethnologue, Languages of the World
- Language - スカラーペディア百科事典「言語」の項目。