人工呼吸
人工呼吸(じんこうこきゅう)とは、自発呼吸が不十分な人に対し、人工的に呼吸を補助することをいう。
概要
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一般的には陽圧をかけて肺に気体を送り込み、換気を補助する。応急処置の人工呼吸(口移し式)、マスクとアンビューバッグを使う方法、気管内チューブと人工呼吸器を使う方法などがある。
総務省消防庁のガイドラインによれば「心肺蘇生法においては、心臓マッサージ[注釈 1]を主に行い。「救助者が人工呼吸の訓練を受けており、それを行う技術と意思がある場合」は気道確保し、呼吸の補助方法である人工呼吸も行う」ことと記述されている[1][2]。日本での119番によって指示が得られる。
- 「血液や嘔吐物などにより感染危険がある場合、人工呼吸を行わず、胸骨圧迫続けます。(※ 人工呼吸用マウスピース等を使用しなくても感染危険は極めて低いといわれていますが、感染防止の観点から、人工呼吸用マウスピース等を使用したほうがより安全です。)」[3]。
歴史
古代ギリシアの医学者ガレノス(129年頃-200年頃)は、「死んだ動物の喉に葦を通し空気を吹き込み気管支を満たすと、肺が膨らむ様子を見ることが出来る」という記述を残している[4]。
1773年、英国の医師ウィリアム・ホーズ(1736-1808)は、溺れて仮死状態になった人に人工呼吸することで蘇生できると世に広めた。1767年に水難から命を保護する組織を結成した医師も啓蒙活動に参加した。彼らは、1774年のイングランドで溺れた人を蘇生することを目的とし、現代まで存続している慈善団体「王立人道協会」を結成した[5][6]。
その後、衛生的・効率的に肺に空気を送り込む器具の開発や方法の模索が行われた。
やがて、首から下の全身を機械の中に入れ、その機械の中を陰圧(大気圧未満)として胸腔に空気が吸入されるようにすると言う「鉄の肺」が開発され、一部の病院で使われるようになったが、これは大掛かりな設備であり、受けられる患者も限られていた。
長期人工呼吸の「出発」とも言えるのは、1952年のスカンディナヴィアにおける急性灰白髄炎(ポリオ)の大流行による、小児麻痺への対応である。呼吸筋を動かす中心である脊髄前角が、ポリオウイルスによって冒されたため、子供たちは充分な呼吸ができず、次々と亡くなっていった[7]。
これに対し、当時最も効果的な治療法であった「鉄の肺」は数が十分には足りず、やむを得ず気管切開の処置をし、麻酔器を用いて徒手的手段による人工呼吸を行うしかなかった。すると、鉄の肺を用いての呼吸管理は約80%の死亡率であったのに対し、麻酔器を用いて人工呼吸処置を受けた患者は約75%が死亡せず救命された。この為、1400名にのぼる医学生らが徒手的人工呼吸治療に参加し、このポリオ流行が終わるまで、全ての教育活動は中止された[要検証 ][7]。
やがて気管挿管が一般的になると、その挿管チューブを介して空気を出し入れする現在の方式が広まっていった。
現在では呼吸の状態を様々な形で持続的に測定する機能のついたもの、呼吸器の離脱を自動的に進めて行くもの、在宅人工呼吸に使用する小型で医療従事者以外でも操作できるもの、マスクを使用し気管挿管の必要ないもの(非侵襲的人工呼吸)まで様々な種類が使われている。しかし、それぞれに操作が異なり、また独自の動作モードや作動原理を持ったものが特に新しい機種に多く、医療事故の一因ともなる。その一方で、医療事故を防ぐための機能もまた新しい機種ほど備わっているのも事実である。
通常、ヒトが意識せずに行っている自発呼吸では胸郭が拡大することによって胸腔内に陰圧をつくり、気管を通して空気(ガス)が入ってくる。従って、空気を吸い込んだ時に肺内及び気道内の圧上昇は通常おこらない。一方、人工呼吸はガスを肺内に機械的に押し込む。
この方法には,胸郭外を陰圧にすることによって胸郭をひろげガスを入れる方法と、 気管に挿管チューブを入れその気道からガスを入れる方法がある。
適応
肺炎・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)・ショック・脳血管障害・呼吸停止などにより、原因に対する適切な処置および酸素投与を行ってもなお酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が不十分な場合である。病状にもよるが、一般にPaO2:50Torr以下、PaCO2:70Torr以上が適応とされる。また、全身麻酔で行われる手術時は人工呼吸を必要とすることが多い。
BLSにおける人工呼吸
呼吸停止に陥った人を救命するために現場に居合わせた一般市民が行う処置で、BLSの一部である。主に口から呼気を吹き込んで強制的に換気する方法である。詳細は心肺蘇生法を参照。
気道確保
- フェイスマスク
- ラリンジアルマスク
- コンビチューブ
- 気管挿管
- 気管切開
器械式人工換気
蘇生における人工呼吸と異なり、数時間以上(時には数年~数十年)に渡って呼吸補助をする必要がある場合には、人工呼吸器を用いる。人工呼吸器はバッグ換気などのような用手での人工呼吸と異なり、気道内圧やその変化・酸素分圧などを細かく調整するための様々なモード・機能が備わっている。
- BIPAP/APRV
- CPAP
- SIMV,IMV
- CMV(IPV)
- HFJV
- 液体換気(liquid ventilation)
脚注
注釈
- ^ 通常「心臓マッサージ」といわれるものは、正確には「胸骨圧迫」。
出典
- ^ 人工呼吸、省略OK? 変わる心肺蘇生法 京都市消防局が救命講習(産経West 掲載日:2015.4.4。参照日:2018.6.18.)
- ^ 救急蘇生法の指針2015(市民用)(総務省消防庁)
- ^ 倒れている人をみたら(東京消防庁)
- ^ Colice, Gene L (2006). "Historical Perspective on the Development of Mechanical Ventilation". In Martin J Tobin. Principles & Practice of Mechanical Ventilation (2 ed.). New York: McGraw-Hill. ISBN 978-0-07-144767-6.
- ^ この記述にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Humane Society, Royal". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 13 (11th ed.). Cambridge University Press. pp. 871–872.
- ^ New Scientist, Vol. 193 No. 2586 (13–19 Jan 2007), p. 50
- ^ a b 株式会社南山堂発行、TEXT麻酔・蘇生学(第1版発行 1995年2月10日、ISBN 4-525-30841-9)p.336「【臨床実習メモ 161】 鉄の肺と人工呼吸器」より
参考文献
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関連項目
外部リンク
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