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「ブラウン方式」の版間の差分

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{{画像提供依頼|
'''ブラウン方式'''(ブラウンほうしき)とは、[[図書館]]での図書貸出方式のひとつ。
*逆ブラウンチケット方式で用いられていた回数券
*画像外部リンクで示されているような、貸出券や装備例
== 概要 ==
*貸出の動作原理を示した図
[[19世紀]]末に[[イギリス]]で考案された、ブックカードと、それに対応した袋状の貸出カードを使う貸出方式である。
|date=2015年9月18日 (金) 16:37 (UTC)
|依頼ページ=Wikipedia:画像提供依頼/社会#文化・風俗
袋状の貸出カードにブックカードを入れ、返却予定日順に図書館が保管し、貸出記録はせず、貸出券と本を引替える。
}}
'''ブラウン方式'''{{refnest|group="†"|ブラウン式{{Sfn|舘浩道||p=252}}やブラウン式貸出法{{Sfn|日図協用語委員会|1997|p=635}}の呼称も見られる。}} ({{Lang-en-short|Browne charging system}}, {{en|Browne issue system}})は[[カード式貸出法]]に大別される{{Sfn|日図協用語委員会|1997|p=107}}、[[図書館]]における図書の[[貸出方式]]の一つ。貸出券の独特な形状から袋形貸出方式とも呼称される{{Sfn|日図協用語委員会|1997|p=635}}。貸出券・ブックカード・デートスリップの組み合わせによって貸出記録をつくるというのが、本方式の基本原理であり{{Sfn|舘浩道||p=252}}、「記入する必要がない」<ref>{{Cite journal|和書|title= <特集貸出システムを考える> ブラウン方式からコンピュータまで|author= 図書館雑誌編集委員会|journal= 図書館雑誌|volume= 70|issue= 6|page= 216}}</ref>、「記録がいつまでも残らない」{{Sfn|舘浩道||p=252}}ことを大きな特徴とする。

アメリカの図書館員{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}、ブラウン ({{en|Browne}}) が考案、1985年発行の『{{仮リンク|ライブラリージャーナル|en|Library journal}}』で発表{{Sfn|Kirkwood, Leila H.|1961|p=60}}し、イギリスの{{日本語版にない記事リンク|ジェームス・ダフ・ブラウン|en|James Duff Brown}}が改良した{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}。日本においては、日本図書館協会が導入を推奨{{Sfn|舘浩道||p=252}}、最も用いられた貸出方式であり{{Sfn|日図協用語委員会|1997|p=635}}、1980年代には日本の図書館における貸出方式の[[デファクトスタンダード]]にもなった{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=67}}が、2000年4月時点における日本の図書館の貸出業務の80%が[[コンピュータ方式|コンピュータ]]によるものになる{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}など、採用している図書館は減少している。

ブラウン方式の変形方式についても本項で述べる。

== 手続き ==
貸出方式は図書館によって千差万別であり{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=14}}、全く同じ方式を採用している図書館は一つとして存在しないと言われている{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=70}}が、各種文献によれば概ね次のように貸出・返却・督促・予約業務がされていたようである。なお、以下に示すのは通常のブラウン方式(特にこの方式を{{en|straightforward Browne method}}という{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}})の手続きであり、変形ブラウン方式については後述する。

=== 準備・装備・利用者登録 ===
{{external media
|image1= [http://makurazaki-mishino.up.n.seesaa.net/makurazaki-mishino/image/IMG_0162.jpg IMG_0162.jpg] - 貸出券とブックカード<br>2013年現在もブラウン方式を採用する枕崎市立図書館の貸出券とブックカード<ref name="external media 1">{{Cite web|url= http://makurazaki-mishino.seesaa.net/article/353992502.html|title= レトロな本の貸し出しシステムを体験しませんか?|author= 枕崎みしのたくかにと|date= 2013-04-05|accessdate= 2015-07-10}}</ref>。貸出券が袋状になっているのが確認できる。
|image2= [http://makurazaki-mishino.up.n.seesaa.net/makurazaki-mishino/image/IMG_1244.jpg IMG_1244.jpg] - ブックポケット・ブックカード・デートスリップの装備例<br>上記図書館の蔵書<ref name="external media 1"/>。ブックポケットが見返しに張り付けられており、その向かいのページでは、デートスリップが張り付けられている。
}}
予め、1冊の貸出図書につき一枚の請求番号・書名・著者名・図書の受入番号などのうちいくらかが書き込まれたカード状の'''ブックカード'''、ブックカードを本に保持させるための上部及び右部が開かれた袋状の'''ブックポケット'''、貸出図書の返却期限を貸出図書と関連付けて記入するための'''デートスリップ'''、利用者の名前・登録番号・有効期限・督促時の連絡先{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=69}}などが書き込まれ、上部及び右部が開かれた袋状の'''貸出券'''の4つを用意する{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}。通常、ブックカードは貸出券より縦長になり、書名や請求記号などはカード上部に記載される{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=77}}。

ブックポケット及びデートスリップはあらかじめ決められた位置にそれぞれ貼り付けられ、ブックカードはブックスリップに挿入される{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=69}}。さらに、貸出申込を行った利用者に対し、貸出券を図書館の同時貸出可能な冊数と同じ枚数だけ交付する{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=69}}。

=== 貸出 ===
利用者は貸出を受けるときに、図書と一緒に図書の冊数分の枚数の貸出券を図書館員へ提出する{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}。図書館員は、図書付属のデートスリップへ返却日を押印し、ブックポケットからブックカードを抜き出し、貸出券に挿入し、返却予定日別に図書名・図書の登録番号・請求番号などの順で保管する{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=70}}{{Refnest|group="†"|どういう順番で保管するのがよいかについては蔵書数・貸出数など、各図書館の特性による{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=71}}。}}。本は利用者に貸し出す{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=70}}。

=== 返却 ===
利用者から図書の返却を受けたときは、図書館員がデートスリップの返却日や返却図書名などを頼りに貸出券を探し、貸出券に挿入されたブックカードを図書のブックスリップへ戻す{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}。ブックカードが抜かれた貸出券は利用者の元へ返却する{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}。

=== 予約 ===
利用者から予約があったときは、書架と貸出記録の保管箱の両方を探し、貸出中であれば、予約が入っている旨を示すカードを貸出券に挿入する{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=74}}。保管箱の検索は、予約図書の登録番号を元に各返却日の貸出記録を当たればよい{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=74}}。どちらを探してもなかった場合は亡失が即座にわかる{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=74}}。

=== 督促 ===
利用者への督促は、古い返却予定日の貸出記録とセットになっている貸出券に記載されている連絡先へ問い合わせる{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=74}}。

== 特徴 ==
利点として、
* 装備や手続きが簡素である{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}。
** アルバイトのような未熟な図書館員や利用者が貸出手順を理解しやすい{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §POINTS AFFECTING THE EFFICIENCY OF BROWNE}}。
* 貸出券とブックカード (とデートスリップ) のセットで貸出記録を構成する関係で、返却処理が行われることで貸出記録が消滅する{{Sfn|舘浩道||p=252}}。
* 貸出時に利用者・図書館員の双方が何も書かずに済む{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=93}}。
* 予約処理が可能である{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=74}}{{Refnest|group="†"|一方で、一日の貸出冊数が1000冊を超え始めると、実用上困難であるとの指摘もある<ref>{{Cite journal|和書|title= ブラウン方式からコンピュータまで|author= 図書館雑誌編集委員会|journal= 図書館雑誌|volume= 70|issue= 6}}</ref>。}}。
* 督促処理が可能であり、督促にあたり登録者名簿を参照する必要がない{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=93}}。
* カードの挿し入れ、デートスリップへの押印に終始する機械的業務で楽{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=72}}。
* 「小説の同時貸出を制限する」{{refnest|group="†"|同時貸出可能な冊数をn冊、その内小説はm冊までの貸出に限るとすれば、 (n-m) 枚の貸出券の色に通常のものと別の色を使用し、その色の貸出券では小説を借りられないようにする<ref>{{harvnb|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=93}}に「貸出冊数4冊のうち小説は2冊に限るというような制限」を行う際の例が示されている。</ref>、などが挙げられる。}}「本によって貸出期間を変更する」といった処理も簡単に実装できる{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|pp=93-94}}。
といった点が挙げられる。

{| class="wikitable" style="float:right;margin:0 0 1em 1em"
|-
|+ 一時間当たり・図書館員一人あたりの貸出返却処理可能冊数{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §OBTAINING TIMES FOR COMPARISON}}
! rowspan="2" | 貸出方式 !! rowspan="2" | 貸出時 !! colspan="2" | 返却時
|-
! 罰金なし !! 罰金あり{{refnest|group="†"|シンガポール<ref>{{Cite web|url= https://www.nlb.gov.sg/VisitUs/Membership.aspx|title= Membership|publisher= National Library Board Singapore|language= English|date= 3025-09-09|accessdate= 2015-09-16}}</ref>など、国によっては返却遅れに対する罰則を与えることがある。}}
|-
| ブラウン方式 || 720 || 345〜370<ref name="sort diff" group="†">貸出記録のソートによる差異</ref> || 310〜325<ref name="sort diff" group="†"/>
|-
| 逆ブラウン方式 || 750 || 380〜410<ref name="sort diff" group="†"/> || 340〜360<ref name="sort diff" group="†"/>
|-
| トークン方式 || 860〜1120<ref name="item diff" group="†">使用器具・機械による差異</ref> || 1240 || 880
|-
| フォトチャージング方式 || 800〜840<ref name="item diff" group="†"/> || 1030 || 770
|}


その一方で、
* 返却を受けた際に、貸出券をその場で利用者に返す必要があり、返却図書冊数と同じ枚数の貸出券を探さなければならないため、利用者を待たせる{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}。
* 貸出が多い図書館では多くの人手を要する{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}。特に忙しい時間には[[レファレンスサービス]]担当の図書館員ですら、貸出・返却手続に追われることとなる{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §POINTS AFFECTING THE EFFICIENCY OF BROWNE}}。
* カウンターに置かれる貸出記録は特に大規模図書館で邪魔となる{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §POINTS AFFECTING THE EFFICIENCY OF BROWNE}}。
* 貸出記録が消滅してしまうため、利用者数や各種統計調査が不可能である{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=94}}。
などの問題点を抱えており、大規模図書館の貸出方式としては向かない{{Sfn|日図協用語委員会|1997|p=635}}。

== 歴史 ==
簡便なこと{{Sfn|Kirkwood, Leila H.|1961|p=65}}や記録時に利用者を待たせないこと{{Sfn|Kirkwood, Leila H.|1961|p=65}}などを利点として挙げ、{{仮リンク|ライブラリー・ビューロ|en|Library Bureau}}の司書であった{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}、アメリカのニーナ・E・ブラウン{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=65}}({{en|Nina. E. Browne}}{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}, 1860年 - ?{{Sfn|日本図書館情報学会用語辞典編集委員会|2013|pp=216-217}})が1985年の''{{en|Library Journal}}''で発表する{{Sfn|Kirkwood, Leila H.|1961|p=60}}。その後、イギリスのジェームズ・ダフ・ブラウンが改良する{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}。本方式はアメリカではニューアーク方式の導入前までは利用されていた{{Sfn|日本図書館情報学会用語辞典編集委員会|2013|pp=216-217}}が、広く採用されることはなかった{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}。他方、イギリスではフォトチャージング方式やコンピュータ方式の導入までは最もよく利用される貸出方式となり{{Sfn|日本図書館情報学会用語辞典編集委員会|2013|pp=216-217}}、「ブラウン方式は今やイギリス伝統の貸出方式と思われている」("{{Interp|The Browne system}} is now considered traditionally a British method")とまで言われるようになった{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §THE BROWNE SYSTEM OF BOOK CHARGING}}。

この方式は日本でも[[今沢慈海]]によって早くから伝えられたが、1923年に[[東京市]]立[[日比谷]]図書館 (現在の[[日比谷図書文化館]]) が本方式より着想を得て採用した「捺印移動式」の他、導入されることはなかった{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=65}}。その後、貸出を中心とする図書館奉仕に舵を切り始める1965年頃{{refnest|group="†"|図書館の中で資料を読ませる閲覧中心の図書館から貸出を主体とする館外奉仕への変革を主張した『中小都市における公共図書館の運営』(通称: 中小レポート、日本図書館協会、1963年)の刊行{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|p=329}}、日本図書館協会の指導の下、日本で初めてブラウン方式を導入した[[練馬区立練馬図書館]]の誕生(1964年10月){{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}などが直近にあった。}}より、ブラウン方式を導入する館が現れ始める{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=67}}。

さらに、1970年に発行された『市民の図書館』においてブラウン方式が紹介されたことから、導入する図書館が増え{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}、1975年に行われた『日本の図書館』の付帯調査で、日本の公共図書館の半数が、ブラウン方式かその変形方式を採用していることが明らかになる{{Sfn|図問研 図書館用語委員会|1982|p=570}}など急速に普及してゆく。

しかし、コンピュータによる貸出方式が普及することで、日本の公立図書館の8割がコンピュータを貸出業務に利用する{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=494-495}}など、ブラウン方式を採用し続ける図書館は減少していった。

== ブラウン方式の変形方式 ==
ブラウン方式は図書館業界に広く知られたが、欠点も存在し、より効率的な運用を目指そうと以下に示すような変形方式も開発、使用されてきた。

=== {{Anchor|逆ブラウン方式}} ===
<!--図書館情報学用語の一覧からリンク。また、各図書館記事からリンクされる可能性あり-->
[[File:Difference between Brown system and reverse Browne system ja.svg|thumb|300px|alt=ブラウン・逆ブラウンの両方式における貸出券・ブックカード・貸出記録の形|<small>上段がブラウン方式、下段が逆ブラウン方式で左から貸出券・ブックカード及び貸出記録としての形。貸出記録の検索のためにはブックカードは貸出券より縦長でなければならない。こうした状況において、ブラウン方式では、ブックカードよりも下にある貸出券ごと摘み上げないと、貸出券を回収できない(右上図)。一方、逆ブラウン方式では、ブックカードの上を摘み上げるだけで貸出券も同時に回収することができる(右下図)。</small>]]
逆ブラウン方式({{lang-en-short|reverse Browne charging system}})は、貸出券をカード状、ブックカードを袋状とする変形方式{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71}}。処理手順はブラウン方式と同じだが、ブラウン方式での貸出券・ブックカードの形状が'''逆'''となるため、この名称がある<ref>{{Cite book|和書|title= 図書館情報学用語辞典|editor= 日本図書館学会用語辞典編集委員会|publisher= 丸善|date= 1997-09-25|isbn= 4621043625|page= 41}}</ref>。

原理としては通常のブラウン方式と同一であり、貸出しの際に何も書かなくてよい、返却で記録が消滅すること、貸出記録の保管にスペースを取る必要がある等のブラウン方式と同じ特徴を有する{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|pp=66-67}}。しかし、通常のブラウン方式では返却処理で貸出記録を抜く際、手を奥まで入れ、つかまなければブックカードだけが抜けてしまったが、本方式では貸出券とブックカードの両方を片手で引き抜くことが出来{{Sfn|遠山義樹|1977|p=3}}、一回の作業時間が若干早くなる{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=94}}。また、持ち歩きがないため薄手にできるブックカードのほうを袋状とすることで加工費が下がるという費用上の長所もあり{{refnest|group="†"|さらに付け加えるなら、ブックカードと貸出券(利用者数×同時貸出可能な冊数)の発行枚数を比べることでも逆ブラウン方式有利という結論を導くことが可能である{{Sfn|遠山義樹|1977|p=3}}。}}、保管時の厚さも逆ブラウン方式の方が薄く出来るためより多く保管できる{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=80}}。利用者側もカード状の方が携帯に便利という利点がある{{Sfn|前川恒雄、石井敦、石橋幸男|1966|p=94}}。これらの特徴から、{{harvnb|遠山義樹|1977|p=3}}では、「能率の良さは,ブラウンの比ではない」としている。一方で、『[[市民の図書館]]』での紹介が「ブラウン方式の逆」程度に終始し、「どちらも大差ない」との印象を与えてしまったため、日本での導入館は少なかった{{Sfn|遠山義樹|1977|p=3}}。

=== {{Visible anchor|回数券方式|逆ブラウンチケット方式}} ===
<!--各図書館記事からリンクされる可能性あり-->
貸出券を使い捨ての'''回数券'''、ブックカードを袋状とする変形方式で、逆ブラウンチケット方式とも呼ばれる{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=71-72}}。チケットには利用者の登録番号が記されており、貸出時の処理はブラウン方式とほとんど同じだが、返却時に貸出券 (ここではチケット) を利用者に返さず、捨てる{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=84}}。

ブラウン方式(や逆ブラウン方式)に比べ、
* 利用者は貸出券返却のために待つ必要がなくなる{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|pp=83-85}}{{Refnest|group="†"|所定の位置に返却図書をおいてそのまま立ち去るといった返却方法を採用することもできる{{Sfn|舘浩道||p=253}}。}}。
* 貸出券を返す必要がある他方法に比べ、返却ポストを導入しやすい{{Sfn|遠山義樹|1977|p=4}}<ref group="†">他方式でも、返却ポストから返された図書の貸出券を利用者来館時まで保管するという方法を採ることは出来る。</ref>。
* 図書館員は空いた時間に処理が出来る{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=84}}
* 当日分以外の貸出記録をカウンターに置かずにすむため、利用者のプライバシー保護を強化することができ{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=85}}、また利用者によるいたずらも防止できる{{Sfn|遠山義樹|1977|p=4}}。
* 同時貸出の制限を撤廃することができる{{Sfn|遠山義樹|1977|p=3}}。
といった利点が挙げられる一方で、チケット本体には利用者への連絡先が記されていないため、督促時には、登録者順の利用者名簿を参照しなければならなく、面倒であるという欠点も抱えている{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=85}}。また、返却の証拠が残らない{{refnest|group="†"|通常のブラウン方式では、返却された貸出券がある種のレシートのような役割を果たすことができる{{Sfn|F.N.Hogg|W.J.Matthews|T.E.A. Verity|1961|loc= §POINTS AFFECTING THE EFFICIENCY OF BROWNE}}。}}ために、返却の有無を巡ってトラブルになる可能性もある{{Sfn|遠山義樹|1977|p=4}}。

日本においては、『小図書館の運営――北海道の小規模市町村における図書館サービスに関する報告書』(北海道公共図書館協会、1975年)での紹介や置戸町立図書館の成功例が知られており{{Sfn|図問研 図書館用語委員会|1982|pp=42-43}}、チケットを図書館に存置しておき、貸出の度にチケットに自分の登録番号を書かせる北海道の置戸町立図書館やレジスターのように逐次的に発行させる図書館など、チケットの発行形態などでも多種多様になっている{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|pp=87-89}}。

=== {{Anchor|一括ブラウン方式}} ===
<!--各図書館記事からリンクされる可能性あり-->
ブラウン方式や逆ブラウン (チケット) 方式は図書に利用者を紐付ける方法であったのに対して、一括ブラウン方式は利用者に図書を紐付ける方式である。登場当時は決まった呼称がなかったが、『貸出し』(前川恒雄、1982年)によって一括ブラウン方式と名づけられた{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=91}}。

利用者登録の際に、袋状の貸出券を'''一枚だけ'''、利用者へ交付する{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=72}}。貸出の際は、利用者は借りたい図書と一緒に交付された貸出券を図書館員へ差し出す{{Sfn|日図協 ハンドブック編集委員会|1990|p=72}}。図書館員は、一枚の貸出券にブックカードを'''全て'''挿入し、貸出記録を返却予定日別の'''利用者名で'''配列する{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=92}}。利用者が返却に来たときは利用者に名前を聞き、名前を元に貸し出し記録を探す{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=93}}。

複数冊の貸出記録が一箇所にまとまっているため、貸出・返却・督促が極めて簡便であるという利点を持つ一方で、貸出記録が登録番号などで並んでいないため予約業務が極めて困難という欠点を抱えている{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|pp=93-94}}。また、回数を分けて貸出を受けるときの処理が煩雑である{{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=95}}。

==== 中小レポート方式 ====
貸出券を(通常の)ブラウン方式のブックポケットで、ブックカードを目録カードでそれぞれ代用する方式は特に中小レポート方式と呼ばれる{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|p=330}}。この名称は、日本図書館協会出版の『中小都市における公共図書館の運営』(略称: 中小レポート)で簡単な方式として紹介されたことによる{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|p=330}}。具体的方式は一括ブラウン方式と同様であるが、導入の際の手間が少ない利点がある{{Sfn|図書館用語辞典編集委員会|2004|p=330}}。

但し、一括ブラウン方式のことを中小レポート方式と呼ぶ例があり{{Refnest|group="†"|例えば、『貸出と閲覧』(前川恒雄、1966年){{Sfn|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982|p=104}}}}、混同に注意する必要がある。

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|editor= 日本図書館協会用語委員会|title= 図書館用語集 改訂版|date= 1997-01-20|year= 1997|publisher= [[日本図書館協会]]|isbn= 4820496069|id= {{全国書誌番号|97015108}}|ref= {{SfnRef|日図協用語委員会|1997}}}}
* {{Cite book|和書|editor= 図書館用語辞典編集委員会|title= 最新 図書館用語大辞典|date= 2004-04-30|year= 2004|publisher= [[柏書房]]|isbn= 4760124896|id= {{全国書誌番号|20590278}}|ref= harv}}
* {{Cite book|和書|editor= 図書館問題研究会 図書館用語委員会|title= 図書館用語辞典|date= 1982-10|year= 1982|publisher= [[角川書店]]|isbn= 4040310004|id= {{全国書誌番号|83006760}}|ref= {{Sfnref|図問研 図書館用語委員会|1982}}}}
* {{Cite book|和書|title= 図書館情報学用語辞典|edition= 第4版|editor= 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会|publisher= 丸善出版|date= 2013-12-25|isbn= 9784621087749|ref= harv}}
* {{Cite book|和書|editor= 日本図書館協会 図書館ハンドブック編集委員会|title= 図書館ハンドブック|date= 1990-04|year= 1990|edition= 第5版|publisher= 日本図書館協会|isbn= 4820490028|id= {{全国書誌番号|90037460}}|ref= {{SfnRef|日図協 ハンドブック編集委員会|1990}}}}
* {{Cite book|和書|editor= 図書館問題研究会東京支部 スライド「貸出方式を考える」製作委員会|author= 図書館問題研究会東京支部 スライド「貸出方式を考える」製作委員会|title= みんなの図書館入門<貸出方式篇>|date= 1982-11-15|year= 1982|edition= 初版|publisher= 図書新聞|id= {{全国書誌番号|83009146}}|ref= {{Sfnref|図問研東京支部 スライド製作委員会|1982}}}}
* {{Cite book|和書|editor= 前川恒雄|author= 前川恒雄、石井敦、石橋幸男|title= 貸出しと閲覧|date= 1966-08-25|year= 1966|edition= 初版|series= 図書館の仕事|publisher= 日本図書館協会|id= {{全国書誌番号|66008188}}。{{NDLJP|2934418}}|ref= harv}}
* {{Cite journal|和書|title= 貸出し方式を考える視点|author= 遠山義樹|journal= 図書館評論|issue= 18|publisher= 図書館問題研究会|date= 1977-09-10|id= {{全国書誌番号|00017320}}。{{NDLJP|3449190}}|ref= harv}}
* {{Cite journal|和書|title= わたしの実務シリーズ 回数券式をみなおそう|author= 舘浩道|journal= 図書館雑誌|volume= 67|issue= 6|page= 252|ref= harv}}
* {{Cite book|author= Kirkwood, Leila H.|title= Charging systems volume 2, part 3|year= 1961|publisher= Graduate School of Library Service|language= English|url= https://archive.org/details/chargingsystemsv006772mbp|id= {{LCCN|60016771}}|ref= harv}}
* {{Cite book|author1= F.N.Hogg|author2= W.J.Matthews|author3= T.E.A. Verity|title= A Report on a Survey made of BOOK CHARGING SYSTEMS at present in use in England|year= 1961|publisher= The Library Association|language= English|id= {{LCCN|62004015}}|ref= harv}}<!--ページ番号が振られていないため、章でのリンクにしてあります-->
== 注釈 ==
<references group="†"/>

== 出典 ==
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== 関連項目 ==
* [[ニューアーク方式]] - ブラウン方式が広く用いられる以前に用いられた貸出方式
* [[コンピュータ方式]] - ブラウン方式が廃されて以降に用いられるようになった貸出方式
* [[トークン方式]]、[[フォトチャージング方式]] - 日本以外で盛んに用いられていた貸出方式


利用者の[[プライバシー]]が保護される、予約が可能などの多くのメリットがあり、[[コンピュータ]]を用いた貸出方法が登場するまでは、図書館貸出方式の主流であった。
日本では、[[練馬区立練馬図書館]]が、[[1964年]]([[昭和]]39年)に初めて導入した。
ブックカードが袋状になっているものを「逆ブラウン式」という。
== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Kotobank|ブラウン式貸出法|2=図書館情報学用語辞典}}
* [http://www.itin.jp/estimate/detail.php?productno=1319 ブラウン式図書貸出とその順序]

[[Category:図書館|ふらうんほうしき]]
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[[Category:図書館]]

2015年11月3日 (火) 18:17時点における版

ブラウン方式[† 1]: Browne charging system, Browne issue system)はカード式貸出法に大別される[3]図書館における図書の貸出方式の一つ。貸出券の独特な形状から袋形貸出方式とも呼称される[2]。貸出券・ブックカード・デートスリップの組み合わせによって貸出記録をつくるというのが、本方式の基本原理であり[1]、「記入する必要がない」[4]、「記録がいつまでも残らない」[1]ことを大きな特徴とする。

アメリカの図書館員[5]、ブラウン (Browne) が考案、1985年発行の『ライブラリージャーナル英語版』で発表[6]し、イギリスのジェームス・ダフ・ブラウン英語: James Duff Brownが改良した[7]。日本においては、日本図書館協会が導入を推奨[1]、最も用いられた貸出方式であり[2]、1980年代には日本の図書館における貸出方式のデファクトスタンダードにもなった[8]が、2000年4月時点における日本の図書館の貸出業務の80%がコンピュータによるものになる[9]など、採用している図書館は減少している。

ブラウン方式の変形方式についても本項で述べる。

手続き

貸出方式は図書館によって千差万別であり[10]、全く同じ方式を採用している図書館は一つとして存在しないと言われている[11]が、各種文献によれば概ね次のように貸出・返却・督促・予約業務がされていたようである。なお、以下に示すのは通常のブラウン方式(特にこの方式をstraightforward Browne methodという[7])の手続きであり、変形ブラウン方式については後述する。

準備・装備・利用者登録

画像外部リンク
IMG_0162.jpg - 貸出券とブックカード
2013年現在もブラウン方式を採用する枕崎市立図書館の貸出券とブックカード[12]。貸出券が袋状になっているのが確認できる。
IMG_1244.jpg - ブックポケット・ブックカード・デートスリップの装備例
上記図書館の蔵書[12]。ブックポケットが見返しに張り付けられており、その向かいのページでは、デートスリップが張り付けられている。

予め、1冊の貸出図書につき一枚の請求番号・書名・著者名・図書の受入番号などのうちいくらかが書き込まれたカード状のブックカード、ブックカードを本に保持させるための上部及び右部が開かれた袋状のブックポケット、貸出図書の返却期限を貸出図書と関連付けて記入するためのデートスリップ、利用者の名前・登録番号・有効期限・督促時の連絡先[13]などが書き込まれ、上部及び右部が開かれた袋状の貸出券の4つを用意する[9]。通常、ブックカードは貸出券より縦長になり、書名や請求記号などはカード上部に記載される[14]

ブックポケット及びデートスリップはあらかじめ決められた位置にそれぞれ貼り付けられ、ブックカードはブックスリップに挿入される[13]。さらに、貸出申込を行った利用者に対し、貸出券を図書館の同時貸出可能な冊数と同じ枚数だけ交付する[13]

貸出

利用者は貸出を受けるときに、図書と一緒に図書の冊数分の枚数の貸出券を図書館員へ提出する[5]。図書館員は、図書付属のデートスリップへ返却日を押印し、ブックポケットからブックカードを抜き出し、貸出券に挿入し、返却予定日別に図書名・図書の登録番号・請求番号などの順で保管する[9][5][15][† 2]。本は利用者に貸し出す[15]

返却

利用者から図書の返却を受けたときは、図書館員がデートスリップの返却日や返却図書名などを頼りに貸出券を探し、貸出券に挿入されたブックカードを図書のブックスリップへ戻す[9]。ブックカードが抜かれた貸出券は利用者の元へ返却する[9]

予約

利用者から予約があったときは、書架と貸出記録の保管箱の両方を探し、貸出中であれば、予約が入っている旨を示すカードを貸出券に挿入する[17]。保管箱の検索は、予約図書の登録番号を元に各返却日の貸出記録を当たればよい[17]。どちらを探してもなかった場合は亡失が即座にわかる[17]

督促

利用者への督促は、古い返却予定日の貸出記録とセットになっている貸出券に記載されている連絡先へ問い合わせる[17]

特徴

利点として、

  • 装備や手続きが簡素である[7]
    • アルバイトのような未熟な図書館員や利用者が貸出手順を理解しやすい[18]
  • 貸出券とブックカード (とデートスリップ) のセットで貸出記録を構成する関係で、返却処理が行われることで貸出記録が消滅する[1]
  • 貸出時に利用者・図書館員の双方が何も書かずに済む[19]
  • 予約処理が可能である[17][† 3]
  • 督促処理が可能であり、督促にあたり登録者名簿を参照する必要がない[19]
  • カードの挿し入れ、デートスリップへの押印に終始する機械的業務で楽[21]
  • 「小説の同時貸出を制限する」[† 4]「本によって貸出期間を変更する」といった処理も簡単に実装できる[23]

といった点が挙げられる。

一時間当たり・図書館員一人あたりの貸出返却処理可能冊数[24]
貸出方式 貸出時 返却時
罰金なし 罰金あり[† 5]
ブラウン方式 720 345〜370[† 6] 310〜325[† 6]
逆ブラウン方式 750 380〜410[† 6] 340〜360[† 6]
トークン方式 860〜1120[† 7] 1240 880
フォトチャージング方式 800〜840[† 7] 1030 770


その一方で、

  • 返却を受けた際に、貸出券をその場で利用者に返す必要があり、返却図書冊数と同じ枚数の貸出券を探さなければならないため、利用者を待たせる[9][5]
  • 貸出が多い図書館では多くの人手を要する[5]。特に忙しい時間にはレファレンスサービス担当の図書館員ですら、貸出・返却手続に追われることとなる[18]
  • カウンターに置かれる貸出記録は特に大規模図書館で邪魔となる[18]
  • 貸出記録が消滅してしまうため、利用者数や各種統計調査が不可能である[26]

などの問題点を抱えており、大規模図書館の貸出方式としては向かない[2]

歴史

簡便なこと[27]や記録時に利用者を待たせないこと[27]などを利点として挙げ、ライブラリー・ビューロ英語版の司書であった[7]、アメリカのニーナ・E・ブラウン[28]Nina. E. Browne[7], 1860年 - ?[29])が1985年のLibrary Journalで発表する[6]。その後、イギリスのジェームズ・ダフ・ブラウンが改良する[7]。本方式はアメリカではニューアーク方式の導入前までは利用されていた[29]が、広く採用されることはなかった[7]。他方、イギリスではフォトチャージング方式やコンピュータ方式の導入までは最もよく利用される貸出方式となり[29]、「ブラウン方式は今やイギリス伝統の貸出方式と思われている」("[The Browne system] is now considered traditionally a British method")とまで言われるようになった[7]

この方式は日本でも今沢慈海によって早くから伝えられたが、1923年に東京市日比谷図書館 (現在の日比谷図書文化館) が本方式より着想を得て採用した「捺印移動式」の他、導入されることはなかった[28]。その後、貸出を中心とする図書館奉仕に舵を切り始める1965年頃[† 8]より、ブラウン方式を導入する館が現れ始める[8]

さらに、1970年に発行された『市民の図書館』においてブラウン方式が紹介されたことから、導入する図書館が増え[9]、1975年に行われた『日本の図書館』の付帯調査で、日本の公共図書館の半数が、ブラウン方式かその変形方式を採用していることが明らかになる[31]など急速に普及してゆく。

しかし、コンピュータによる貸出方式が普及することで、日本の公立図書館の8割がコンピュータを貸出業務に利用する[9]など、ブラウン方式を採用し続ける図書館は減少していった。

ブラウン方式の変形方式

ブラウン方式は図書館業界に広く知られたが、欠点も存在し、より効率的な運用を目指そうと以下に示すような変形方式も開発、使用されてきた。

逆ブラウン方式

ブラウン・逆ブラウンの両方式における貸出券・ブックカード・貸出記録の形
上段がブラウン方式、下段が逆ブラウン方式で左から貸出券・ブックカード及び貸出記録としての形。貸出記録の検索のためにはブックカードは貸出券より縦長でなければならない。こうした状況において、ブラウン方式では、ブックカードよりも下にある貸出券ごと摘み上げないと、貸出券を回収できない(右上図)。一方、逆ブラウン方式では、ブックカードの上を摘み上げるだけで貸出券も同時に回収することができる(右下図)。

逆ブラウン方式(: reverse Browne charging system)は、貸出券をカード状、ブックカードを袋状とする変形方式[5]。処理手順はブラウン方式と同じだが、ブラウン方式での貸出券・ブックカードの形状がとなるため、この名称がある[32]

原理としては通常のブラウン方式と同一であり、貸出しの際に何も書かなくてよい、返却で記録が消滅すること、貸出記録の保管にスペースを取る必要がある等のブラウン方式と同じ特徴を有する[33]。しかし、通常のブラウン方式では返却処理で貸出記録を抜く際、手を奥まで入れ、つかまなければブックカードだけが抜けてしまったが、本方式では貸出券とブックカードの両方を片手で引き抜くことが出来[34]、一回の作業時間が若干早くなる[26]。また、持ち歩きがないため薄手にできるブックカードのほうを袋状とすることで加工費が下がるという費用上の長所もあり[† 9]、保管時の厚さも逆ブラウン方式の方が薄く出来るためより多く保管できる[35]。利用者側もカード状の方が携帯に便利という利点がある[26]。これらの特徴から、遠山義樹 1977, p. 3では、「能率の良さは,ブラウンの比ではない」としている。一方で、『市民の図書館』での紹介が「ブラウン方式の逆」程度に終始し、「どちらも大差ない」との印象を与えてしまったため、日本での導入館は少なかった[34]

回数券方式

貸出券を使い捨ての回数券、ブックカードを袋状とする変形方式で、逆ブラウンチケット方式とも呼ばれる[36]。チケットには利用者の登録番号が記されており、貸出時の処理はブラウン方式とほとんど同じだが、返却時に貸出券 (ここではチケット) を利用者に返さず、捨てる[37]

ブラウン方式(や逆ブラウン方式)に比べ、

  • 利用者は貸出券返却のために待つ必要がなくなる[38][† 10]
  • 貸出券を返す必要がある他方法に比べ、返却ポストを導入しやすい[40][† 11]
  • 図書館員は空いた時間に処理が出来る[37]
  • 当日分以外の貸出記録をカウンターに置かずにすむため、利用者のプライバシー保護を強化することができ[41]、また利用者によるいたずらも防止できる[40]
  • 同時貸出の制限を撤廃することができる[34]

といった利点が挙げられる一方で、チケット本体には利用者への連絡先が記されていないため、督促時には、登録者順の利用者名簿を参照しなければならなく、面倒であるという欠点も抱えている[41]。また、返却の証拠が残らない[† 12]ために、返却の有無を巡ってトラブルになる可能性もある[40]

日本においては、『小図書館の運営――北海道の小規模市町村における図書館サービスに関する報告書』(北海道公共図書館協会、1975年)での紹介や置戸町立図書館の成功例が知られており[42]、チケットを図書館に存置しておき、貸出の度にチケットに自分の登録番号を書かせる北海道の置戸町立図書館やレジスターのように逐次的に発行させる図書館など、チケットの発行形態などでも多種多様になっている[43]

一括ブラウン方式

ブラウン方式や逆ブラウン (チケット) 方式は図書に利用者を紐付ける方法であったのに対して、一括ブラウン方式は利用者に図書を紐付ける方式である。登場当時は決まった呼称がなかったが、『貸出し』(前川恒雄、1982年)によって一括ブラウン方式と名づけられた[44]

利用者登録の際に、袋状の貸出券を一枚だけ、利用者へ交付する[45]。貸出の際は、利用者は借りたい図書と一緒に交付された貸出券を図書館員へ差し出す[45]。図書館員は、一枚の貸出券にブックカードを全て挿入し、貸出記録を返却予定日別の利用者名で配列する[46]。利用者が返却に来たときは利用者に名前を聞き、名前を元に貸し出し記録を探す[47]

複数冊の貸出記録が一箇所にまとまっているため、貸出・返却・督促が極めて簡便であるという利点を持つ一方で、貸出記録が登録番号などで並んでいないため予約業務が極めて困難という欠点を抱えている[48]。また、回数を分けて貸出を受けるときの処理が煩雑である[49]

中小レポート方式

貸出券を(通常の)ブラウン方式のブックポケットで、ブックカードを目録カードでそれぞれ代用する方式は特に中小レポート方式と呼ばれる[50]。この名称は、日本図書館協会出版の『中小都市における公共図書館の運営』(略称: 中小レポート)で簡単な方式として紹介されたことによる[50]。具体的方式は一括ブラウン方式と同様であるが、導入の際の手間が少ない利点がある[50]

但し、一括ブラウン方式のことを中小レポート方式と呼ぶ例があり[† 13]、混同に注意する必要がある。

参考文献

  • 日本図書館協会用語委員会 編『図書館用語集 改訂版』日本図書館協会、1997年1月20日。ISBN 4820496069全国書誌番号:97015108 
  • 図書館用語辞典編集委員会 編『最新 図書館用語大辞典』柏書房、2004年4月30日。ISBN 4760124896全国書誌番号:20590278 
  • 図書館問題研究会 図書館用語委員会 編『図書館用語辞典』角川書店、1982年10月。ISBN 4040310004全国書誌番号:83006760 
  • 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会 編『図書館情報学用語辞典』(第4版)丸善出版、2013年12月25日。ISBN 9784621087749 
  • 日本図書館協会 図書館ハンドブック編集委員会 編『図書館ハンドブック』(第5版)日本図書館協会、1990年4月。ISBN 4820490028全国書誌番号:90037460 
  • 図書館問題研究会東京支部 スライド「貸出方式を考える」製作委員会 著、図書館問題研究会東京支部 スライド「貸出方式を考える」製作委員会 編『みんなの図書館入門<貸出方式篇>』(初版)図書新聞、1982年11月15日。全国書誌番号:83009146 
  • 前川恒雄、石井敦、石橋幸男 著、前川恒雄 編『貸出しと閲覧』(初版)日本図書館協会〈図書館の仕事〉、1966年8月25日。全国書誌番号:66008188NDLJP:2934418 
  • 遠山義樹「貸出し方式を考える視点」『図書館評論』第18号、図書館問題研究会、1977年9月10日、全国書誌番号:00017320NDLJP:3449190 
  • 舘浩道「わたしの実務シリーズ 回数券式をみなおそう」『図書館雑誌』第67巻第6号、252頁。 
  • Kirkwood, Leila H. (1961) (English). Charging systems volume 2, part 3. Graduate School of Library Service. LCCN 60-16771. https://archive.org/details/chargingsystemsv006772mbp 
  • F.N.Hogg; W.J.Matthews; T.E.A. Verity (1961) (English). A Report on a Survey made of BOOK CHARGING SYSTEMS at present in use in England. The Library Association. LCCN 62-4015 

注釈

  1. ^ ブラウン式[1]やブラウン式貸出法[2]の呼称も見られる。
  2. ^ どういう順番で保管するのがよいかについては蔵書数・貸出数など、各図書館の特性による[16]
  3. ^ 一方で、一日の貸出冊数が1000冊を超え始めると、実用上困難であるとの指摘もある[20]
  4. ^ 同時貸出可能な冊数をn冊、その内小説はm冊までの貸出に限るとすれば、 (n-m) 枚の貸出券の色に通常のものと別の色を使用し、その色の貸出券では小説を借りられないようにする[22]、などが挙げられる。
  5. ^ シンガポール[25]など、国によっては返却遅れに対する罰則を与えることがある。
  6. ^ a b c d 貸出記録のソートによる差異
  7. ^ a b 使用器具・機械による差異
  8. ^ 図書館の中で資料を読ませる閲覧中心の図書館から貸出を主体とする館外奉仕への変革を主張した『中小都市における公共図書館の運営』(通称: 中小レポート、日本図書館協会、1963年)の刊行[30]、日本図書館協会の指導の下、日本で初めてブラウン方式を導入した練馬区立練馬図書館の誕生(1964年10月)[9]などが直近にあった。
  9. ^ さらに付け加えるなら、ブックカードと貸出券(利用者数×同時貸出可能な冊数)の発行枚数を比べることでも逆ブラウン方式有利という結論を導くことが可能である[34]
  10. ^ 所定の位置に返却図書をおいてそのまま立ち去るといった返却方法を採用することもできる[39]
  11. ^ 他方式でも、返却ポストから返された図書の貸出券を利用者来館時まで保管するという方法を採ることは出来る。
  12. ^ 通常のブラウン方式では、返却された貸出券がある種のレシートのような役割を果たすことができる[18]
  13. ^ 例えば、『貸出と閲覧』(前川恒雄、1966年)[51]

出典

  1. ^ a b c d e 舘浩道, p. 252.
  2. ^ a b c d 日図協用語委員会 1997, p. 635.
  3. ^ 日図協用語委員会 1997, p. 107.
  4. ^ 図書館雑誌編集委員会「<特集貸出システムを考える> ブラウン方式からコンピュータまで」『図書館雑誌』第70巻第6号、216頁。 
  5. ^ a b c d e f 日図協 ハンドブック編集委員会 1990, p. 71.
  6. ^ a b Kirkwood, Leila H. 1961, p. 60.
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  8. ^ a b 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 67.
  9. ^ a b c d e f g h i 図書館用語辞典編集委員会 2004, pp. 494–495.
  10. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 14.
  11. ^ 日図協 ハンドブック編集委員会 1990, p. 70.
  12. ^ a b 枕崎みしのたくかにと (2013年4月5日). “レトロな本の貸し出しシステムを体験しませんか?”. 2015年7月10日閲覧。
  13. ^ a b c 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 69.
  14. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 77.
  15. ^ a b 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 70.
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  18. ^ a b c d F.N.Hogg, W.J.Matthews & T.E.A. Verity 1961, §POINTS AFFECTING THE EFFICIENCY OF BROWNE.
  19. ^ a b 前川恒雄、石井敦、石橋幸男 1966, p. 93.
  20. ^ 図書館雑誌編集委員会「ブラウン方式からコンピュータまで」『図書館雑誌』第70巻第6号。 
  21. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 72.
  22. ^ 前川恒雄、石井敦、石橋幸男 1966, p. 93に「貸出冊数4冊のうち小説は2冊に限るというような制限」を行う際の例が示されている。
  23. ^ 前川恒雄、石井敦、石橋幸男 1966, pp. 93–94.
  24. ^ F.N.Hogg, W.J.Matthews & T.E.A. Verity 1961, §OBTAINING TIMES FOR COMPARISON.
  25. ^ Membership” (English). National Library Board Singapore (3025年9月9日). 2015年9月16日閲覧。
  26. ^ a b c 前川恒雄、石井敦、石橋幸男 1966, p. 94.
  27. ^ a b Kirkwood, Leila H. 1961, p. 65.
  28. ^ a b 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 65.
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  34. ^ a b c d 遠山義樹 1977, p. 3.
  35. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 80.
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  38. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, pp. 83–85.
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  40. ^ a b c 遠山義樹 1977, p. 4.
  41. ^ a b 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 85.
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  45. ^ a b 日図協 ハンドブック編集委員会 1990, p. 72.
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  47. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 93.
  48. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, pp. 93–94.
  49. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 95.
  50. ^ a b c 図書館用語辞典編集委員会 2004, p. 330.
  51. ^ 図問研東京支部 スライド製作委員会 1982, p. 104.

関連項目

外部リンク