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「真性異言」の版間の差分

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Jad!atd (会話 | 投稿記録)
異言 2010年6月20日 (日) 20:34 (UTC) より分割しました
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2010年7月1日 (木) 18:57時点における版

異言(いげん)は、英語 glossolalia(グロソラリア、ギリシア語γλώσσα)と英語 xenoglossy(ゼノグロッシー、xeno-「異なる」+ glossy「原語」)の訳語でいずれも、学んだことのない外国語を用いることができる超常的な現象のことを指す。英語においては、glossolaliaは主に宗教の分野で、xenoglossyは主に超心理学の分野で使われる。宗教上の異言を超心理学的な異言と区別するために、xenoglossyを「真性異言」と訳してglossolaliaと区別する場合もある。

超心理学における異言

超心理学分野では、異言(真性異言、xenoglossy)を朗唱型異言 (recitative xenoglossy) と応答型異言 (responsive xenoglossy) に区別する。

朗唱型異言とは、知らないはずの言語を話したり書いたりすることはできるが、それを使って母語話者とコミュニケーションすることはできないという場合である。異言として報告されている多くの事例はこちらに属し、詳しく調べてみると、無意識のうちに記憶していたものが何かの拍子に出てきただけという場合が多い。

一方、応答型異言は、母語話者と意志の疎通ができるという場合であり、研究対象としてはこちらの方が重要である。

科学的に調査された異言の事例

これまで科学的に調査された応答型異言の事例としてイアン・スティーヴンソン(Ian Stevenson)が報告している3例とメアリ・バーリントン(Mary Barrington)らが報告している1例がある。スティーヴンソンによる3例のうち2例は退行催眠(前世療法)時に生じた事例、残りの1例とバーリントンらが報告している1例は、いわゆる憑依現象による事例である。

イェンセン(Jensen)の事例(退行催眠時の異言)

1955年から1956年にかけて、英語を母語とするアメリカ人の女性(匿名)が催眠状態にある時にイェンセンという過去世の男性人格が登場した事例。(ただし、慎重なスティーブンソンは、過去世の人格である可能性が高いとしながらも判断は保留している)。女性はユダヤ系の両親の元で育ちフィラデルフィアで育っている。父親も母親もロシアのオデッサ生まれの移民。両親をはじめこの女性の生育歴を見る限りスウェーデン語を学んだ形跡はないにも関わらず、退行催眠中に登場するイェンセンはスウェーデン語の母語話者と会話をすることができた。イェンセンの話すスウェーデン語にはノルウェー語なまりがあり、また自分の住んでいる場所をはじめいくつかの地名を明らかにしたが、現在の地図でどこに相当するのかは特定できなかった。

イェンセンの登場した退行催眠セッションは8回行われたが、スウェーデン語の母語話者と直接話をしたのは6〜8回である。

イェンセンの事例を報告した1974年の著書Xenoglossy: A Review and Report of a Case『異言:事例の検討と報告』では166ページ(pp. 299-264)にわたって第7回目のセッションにおけるイェンセンとスウェーデン語話者との会話の記録が掲載されている。

グレートヒェン(Gretchen)の事例(退行催眠時の異言)

英語を母語とするアメリカ人女性ドロレス・ジェイ (Dolores Jay) 氏が催眠状態にある時に登場した女性人格で、母語話者とドイツ語で会話をすることができた。ウェスト・バージニア州で生まれ育ったドロレス・ジェイは、同州育ちで牧師のキャロル・ジェイ(Carrol Jay)氏の妻。教区の信者の治療のために催眠を用いていたキャロル・ジェイ氏が妻に催眠をかけたところ、ドイツ語を話すグレートヒェンなる人格が出現した。グレートヒェンの話した内容を詳細に分析した結果、スティーブンソンは、彼女が19世紀最後の四半世紀にドイツで送ったと考えるのに十分な証拠があると考えている。グレートヒェンがドイツ語を話したセッションは19回に及んでいる。

グレートヒェンの事例を報告した1984年の著書Unlearned Language: New Studies in Xenoglossy(日本語版は『前世の言葉を話す人々』として春秋社から出版)では34ページ (pp. 170-203) にわたってグレートヒェンがドイツ語で会話する様子が記録されている。

シャラーダ(Sharada)の事例(憑依現象による異言)

1973年にインドで発生した事例で、マラーティー語を母語とする女性ウッタラ(Uttara)がトランス状態になって登場した女性人格。シャラーダはウッタラの母語であるマラーティー語は話さず、ベンガル語を流暢に話した。イェンセンやグレートヒェンは催眠中に登場した人格であるが、シャラーダは覚醒中に突然出現した。スティーブンソンが現地に赴きこの事例について調査を始めたのは1975年のことだが、調査に区切りをつけた1980年にもまだシャラーダの出現は続いていた。

シャラーダは両親や親族の名前、自分に馴染みのある土地の名前など自分についてかなりのことを語り、またその多くは実在したが、シャラーダが生まれ育ったと考えられる家族を正確に突き止めることはできなかった。

言語だけでなく、その立ち振る舞い、習慣など全てベンガル風で、明らかにマラータ族のウッタラとは異なっていた。たとえば、ウッタラより頻繁に食を断つ(断食する)、椅子にではなく床に坐る、夫の名前を聞かれた時、顔を赤らめる、ほとんどの時間を一人でベンガルの宗教書などを読んで暮らす、など、ウッタラには見られない少し古風なベンガル女性の特徴を見せた。また、シャラーダの両親をはじめマラーティー語を話す人達に囲まれながら、マラーティー語を話そうとはせず、マラーティー語を粗野な言語だと軽蔑しているようであった。

シャラーダ人格が出現している時にはウッタラとしての人格は見られなくなり、ウッタラとしての人格が現れている時にはシャラーダ人格は登場しない。シャラーダが出現する時にはまるでウッタラの人格がどこかに押しやられ、シャラーダに乗っ取られるような感じである。ウッタラに戻った時にはシャラーダとしての記憶はなく、シャラーダにはウッタラの記憶はない。

このシャラーダの事例が紹介されているのは、グレートヒェンの事例が紹介されているのと同じ著書においてであるが、シャラーダの話すベンガル語が英語話者には馴染みのないものであるためか、英語訳しか掲載されていない。

ルチア(Lúcia)の事例(憑依現象による異言)

1933年、高い教育を受けた16歳のハンガリー女性、アイリス・ファルザディ (Iris Farczády) が自称41歳の労働者階級のルチアというスペイン女性に身体を乗っ取られる(ように見える)事件が起きた。内気で教養あふれるアイリスの性格は、がさつであまり上品とは言えない掃除夫の性格に変わり、アイリスの母語であるハンガリー語はルチアの母語であるスペイン語に完全にとって代わられてしまった。この事件はマスコミでも広く報道され、よく知られるようになったが、次第に人々の関心は薄れ、忘れ去られてしまう。

70年後の2003年、メアリ・ローズ・バーリントン(Mary Rose Barrington)、ピーター・マラッツ(Peter Mulaca)、ティトゥス・リバス(Titus Rivas)の三人がこの事件を再調査し、ルチアと名乗る人格に相当する人物がスペインに実在するかどうかという点の確認と、86歳になったルチアの言語能力を調べている。

大規模な調査にも関わらず、ルチア人格に相当する人物の特定はできなかったが、流暢なスペイン語を話すルチアの言語能力は再確認され、資料は心霊現象研究会 (SPR) の図書館に資料として残保存されている。

参考文献

  • Barrington, Mary R., Peter Mulacz, and Titus Rivas (2005) The Case of Iris Farczády – A Stolen Life, The Journal of the Society for Psychical Research 69, 49-77.
  • Stevenson, Ian (1974) Xenoglossy: A Review and Report of a Case. Charlottesville: University Press of Virginia.
  • Stevenson, Ian (1984) Unlearned Language: New Studies in Xenoglossy. Charlottesville: University Press of Virginia.(笠原敏雄訳 (1995)『前世の言葉を話す人々』東京:春秋社)

脚註

関連項目