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「モールの定理」の版間の差分

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[[ファイル:elastic load method.png|thumb|right|300px|弾性荷重を共役ばりに作用させると、たわみ角とたわみが得られる。]]
{{正確性}}
'''モールの定理'''(モールのていり、{{lang-en|Mohr's theorem}})とは、[[はり (構造)|はり]]における[[弾性曲線方程式]]を解く際に、力の釣り合いなどから求めた曲げモーメントを利用して'''弾性荷重'''(だんせいかじゅう、{{lang-en|elastic load}})を生成し、それを'''共役ばり'''(きょうやくばり、{{lang-en|conjugate beam}}<ref name="yamakubo_126">[[#yamakubo|山本・久保『わかりやすい構造力学(Ⅰ)』]]、p.126。</ref>)に作用させた時の、曲げモーメントとせん断力が、そのはりのたわみとたわみ角となっている、という定理<ref name="miyamoto_99">[[#miyamoto|宮本ほか『構造工学』]]、p.99。</ref>。
{{翻訳中途|[[:en:Euler-Bernoulli beam equation]]|date=2008年5月}}


このモールの定理を用いてはりの変形を求める方法を'''弾性荷重法'''(だんせいかじゅうほう、{{lang-en|elastic load method}})<ref name="yamakubo_126" />、あるいは'''モールが考えた方法'''もしくは'''共役ばり法'''と呼び<ref name="sakimoto_151">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、p.151。</ref>、この方法を使うと、微分方程式を直接解いたり、エネルギー保存則を利用することなく、はりのたわみを求めることが出来る<ref name="sakimoto_151" />。
主に建築構造設計で使われる、荷重をかけられたときの、梁のたわみを求めるために使われる定理。


== 概要 ==<!-- 見出し名としては微妙。誘導とか考え方に近い内容。 -->
弾性曲線方程式では、ある分布荷重<math>p</math>が載荷されている、はりのたわみ<math>v</math>は、4階の微分方程式(たわみ曲線の微分方程式)<math>EI v'''' = p</math>で表わされる<ref name="sakimoto_153">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、p.153。</ref>ので、この微分方程式を解けば、はりのたわみを求めることが出来る。しかし、以下のように考えれば、この微分方程式を直接解くことなくたわみを求めることが出来る<ref name="sakimoto_160-161">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、pp.160-161。</ref>。

<!-- sakimoto_160-161参照はじめ -->
まず、弾性曲線方程式を(1)<math>M'' = -p</math>と(2)<math>EI v'' = -M</math>の2段階に分ける。
すると、(1)は与系<ref group="注">問題として与えられた(設定された)条件や状態全体のこと</ref>を、力の釣り合いによって曲げモーメントを求めることによって解決できる。
一方、(2)は<math>z = M/EI</math>とすると、<math>v'' = -z</math>と変形できる。これは記号が違うだけで(1)と同じ形となっており、ゆえにzを新しい荷重('''弾性荷重'''<ref name="okamura_171">[[#okamura|岡村『構造力学 (I)]]、p.171。</ref>もしくは'''z荷重'''と呼ばれる<ref name="sakimoto_161">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、p.161。</ref>)としてはりに作用させ、曲げモーメントに相当する量<math>\bar M</math>を求めると、これがそのままたわみと等しくなる。また、たわみ角<math>\theta</math>は<math>v'=\theta</math>であるから、せん断力<math>Q</math>は<math>M' = Q</math>であることを考慮すると、弾性荷重に対するせん断力に相当する量<math>\bar Q</math>が、たわみ角と等しくなる。

これらの関係を整理すると[[#表1|表1]]のようになる。
{| class = "wikitable"
|+ {{anchor|表1}}: 与系と対応系の各量の関係<ref name="sakimoto_161" />
! colspan="2" | 与系
! colspan="2" | 対応する系
|-
| 荷重 || <math>p</math>
| 弾性荷重 || <math>z = M/EI</math>
|-
| せん断力 || <math>Q</math>
| たわみ角 || <math>\theta</math>
|-
| 曲げモーメント || <math>M</math>
| たわみ || <math>v</math>
|-
| 曲げモーメント=荷重関係 || <math>M'' = -p</math>
| 弾性荷重=たわみ関係 || <math>v'' = -z</math>
|}
これを[[オットー・モール]]({{lang|en|[[:en:Christian Otto Mohr]]}})が考案したため、この関係をモールの定理と呼ぶのである。
<!-- sakimoto_160-161参照おわり -->

== 共役ばり ==
モールの定理により、弾性荷重を作用させたはりの、曲げモーメント相当量<math>\bar M</math>とせん断力相当量<math>\bar Q</math>を求めることが出来れば、与系のたわみとたわみ角が求まる。
しかし、元の弾性曲線方程式には、支点などによって設定されたたわみとたわみ各の境界条件があることを考えれば、弾性荷重を作用させるはりも、同等の境界条件を曲げモーメント相当量とせん断力相当量が満たしていなければならない<ref name="yamakubo_125">[[#yamakubo|山本・久保『わかりやすい構造力学(Ⅰ)』]]、p.125。</ref>。

このように境界条件を満たすために便宜的に考えられたはりを、'''共役ばり'''といい、与系のはりと共役ばりの変位と断面力を対応させて変換することで作ることができる<ref name="okamura_171" />。

与系の各条件に対する共役ばりの条件を[[#表2|表2]]に示す。
この変換表を代表的なはりに適用したものが[[#表3|表3]]であるが、このように、単純ばりは同じ単純ばりのままだが、片持ちばりでは左右が逆になり、ゲルバーばりはヒンジの位置が変わるなど、与系のはりと共役ばりでは異なるはりとなる<ref name="okamura_172">[[#okamura|岡村『構造力学 (I)]]、p.172。</ref>。

{| class = "wikitable"
|+ {{anchor|表2}}: 与系のはりと共役ばりの各条件の対応<ref name="okamura_171">[[#okamura|岡村『構造力学 (I)]]、p.171。</ref>
! colspan="2" | 与系のはり
! colspan="2" | 共役ばり
|-
! 固定支点
| rowspan="2" | [[ファイル:fixed support.svg|150px]]
! 自由端
| rowspan="2" | [[ファイル:free end.svg|150px]]
|-
| <math>v = 0</math><br /><math>\theta = 0</math>
| <math>\bar M = 0</math><br /><math>\bar Q = 0</math>
|-
! 自由端
| rowspan="2" | [[ファイル:free end.svg|150px]]
! 固定支点
| rowspan="2" | [[ファイル:fixed support.svg|150px]]
|-
| <math>v \not= 0</math><br /><math>\theta \not= 0</math>
| <math>\bar M \not= 0</math><br /><math>\bar Q \not= 0</math>
|-
! 回転支点
| rowspan="2" | [[ファイル:hinged support.svg|150px]]
! 回転支点
| rowspan="2" | [[ファイル:hinged support.svg|150px]]
|-
| <math>v = 0</math><br /><math>\theta \not= 0</math>
| <math>\bar M = 0</math><br /><math>\bar Q \not= 0</math>
|-
! 中間支点
| rowspan="2" | [[ファイル:middle support.svg|150px]]
! 中間ヒンジ
| rowspan="2" | [[ファイル:middle hinge.svg|150px]]
|-
| <math>v = 0</math><br /><math>\theta</math>:連続
| <math>\bar M = 0</math><br /><math>\bar Q</math>:連続
|-
! 中間ヒンジ
| rowspan="2" | [[ファイル:middle hinge.svg|150px]]
! 中間支点
| rowspan="2" | [[ファイル:middle support.svg|150px]]
|-
| <math>v</math>:連続<br /><math>\theta</math>:不連続
| <math>\bar M</math>:連続<br /><math>\bar Q</math>:不連続
|}

{| class = "wikitable"
|+ {{anchor|表3}}: 代表的なはりの共役ばり<ref name="okamura_171" />
! colspan="2" | 与系のはり
! 共役ばり
|-
! 単純ばり
| [[ファイル:simple beam.svg|300px]]
| [[ファイル:simple beam.svg|300px]]
|-
! 片持ちばり
| [[ファイル:cantilever beam (left supported).svg|300px]]
| [[ファイル:cantilever beam (right supported).svg|300px]]
|-
! 片端張り出しばり
| [[ファイル:left end overhanging beam.svg|300px]]
| [[ファイル:fixed-hinge-support beam.svg|300px]]
|-
! 両端張り出しばり
| [[ファイル:both end overhanging beam.svg|300px]]
| [[ファイル:Both end fixed and 2 middle hinged beam.svg|300px]]
|-
! 2径間ゲルバーばり
| [[ファイル:2 spans Gerber's beam (left hinged).svg|300px]]
| [[ファイル:2 spans Gerber's beam (right hinged).svg|300px]]
|-
! 3径間ゲルバーばり
| [[ファイル:3 spans Gerber's beam (support-support-hinge).svg|300px]]
| [[ファイル:3 spans Gerber's beam (support-hinge-support).svg|300px]]
|}

== 弾性荷重法 ==
[[ファイル:elastic load method (full).png|thumb|right|300px|弾性荷重法の例]]
モールの定理を利用して、たわみやたわみ角を求める方法を'''弾性荷重法'''と呼ぶがこれは以下のように整理される<ref name="sakimoto_165">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、p.165。</ref>。
# 与系の曲げモーメント<math>M</math>を求める。
# 曲げモーメントを曲げ剛性<math>EI</math>で除して、弾性荷重を生成する。
# 共役ばりを作成する。
# 弾性荷重を作用させる。
# 共役ばりにおけるせん断力(相当量)<math>\bar Q</math>を求めると、与系のたわみ角<math>\theta</math>を得ることができる。
# 共役ばりにおける曲げモーメント(相当量)<math>\bar M</math>を求めると、与系のたわみ<math>v</math>を得ることができる。

このように、弾性荷重法を使うと、微分方程式を直接解くことなく、はりのたわみやたわみ角を求めることができるが、以下のような長所と短所がある<ref name="sakimoto_167">[[#sakimoto|崎本『構造力学 [上]』]]、p.167。</ref>。
;長所
:* はりの中間で、モーメント外力が働いていたり、断面寸法(曲げ剛性)が急変するなどして、曲げモーメントが全支間で場合分けが必要な場合、微分方程式を直接解く場合には、各場合分け間の連続条件を解かなければならなくなるが、弾性荷重法ではそれが必要ない。
:* ある特定の点でのたわみやたわみ角だけが必要な場合は、共役ばり上での、その点の曲げモーメント相当量あるいはせん断力相当量だけを求めるだけでよい。
;短所
:* 等分布あるいは等辺分布荷重などが作用しており、曲げモーメント高次式になる場合、弾性荷重の合力の大きさや作用位置の計算が煩雑になる。
:* 計算に曲げモーメントが必要になるので、弾性荷重法のみでは不静定ばりは解くことができない。

== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書
|author = 崎本達郎
|year = 2004
|title = 基礎土木工学シリーズ1 構造力学 [上]
|publisher = 森北出版
|isbn = 4-627-42510-4
|ref = sakimoto
}}
*{{Cite book|和書
|author = 宮本裕ほか
|year = 1994
|title = 構造工学
|publisher = 技報堂出版
|isbn = 4-7655-1542-7
|ref = miyamoto
}}
*{{Cite book|和書
|author = 岡村宏一
|year = 1988
|title = 構造工学(I)―土木教程選書
|publisher = 鹿島出版会
|isbn = 4-306-02225-0
|ref = okamura
}}
*{{Cite book|和書
|author = 山本宏、久保喜延
|year = 1987
|title = わかりやすい構造力学(Ⅰ)
|publisher = 鹿島出版会
|isbn = 4-306-02248-X
|ref = yamakubo
}}
{{Reflist|3}}

== 注釈 ==
<references group="注"/>

{{デフォルトソート:もおるのていり}}
[[Category:力学]]
[[Category:力学]]
[[Category:建築]]
[[Category:建築]]
[[Category:機械工学]]
[[Category:機械工学]]
[[Category:土木工学]]

[[ar:معادلة شعاع أويلر-بيرنولي]]
[[de:Balkentheorie]]
[[en:Euler–Bernoulli beam equation]]
[[es:Curva elástica]]
[[fr:Théorie des poutres]]
[[he:תורת אוילר ברנולי]]
[[it:Teoria della trave]]
[[pt:Equação da viga de Euler-Bernoulli]]
[[sv:Balkteori]]
[[zh:歐拉-伯努力棟樑方程]]

2010年7月27日 (火) 11:11時点における版

弾性荷重を共役ばりに作用させると、たわみ角とたわみが得られる。

モールの定理(モールのていり、英語: Mohr's theorem)とは、はりにおける弾性曲線方程式を解く際に、力の釣り合いなどから求めた曲げモーメントを利用して弾性荷重(だんせいかじゅう、英語: elastic load)を生成し、それを共役ばり(きょうやくばり、英語: conjugate beam[1])に作用させた時の、曲げモーメントとせん断力が、そのはりのたわみとたわみ角となっている、という定理[2]

このモールの定理を用いてはりの変形を求める方法を弾性荷重法(だんせいかじゅうほう、英語: elastic load method[1]、あるいはモールが考えた方法もしくは共役ばり法と呼び[3]、この方法を使うと、微分方程式を直接解いたり、エネルギー保存則を利用することなく、はりのたわみを求めることが出来る[3]

概要

弾性曲線方程式では、ある分布荷重が載荷されている、はりのたわみは、4階の微分方程式(たわみ曲線の微分方程式)で表わされる[4]ので、この微分方程式を解けば、はりのたわみを求めることが出来る。しかし、以下のように考えれば、この微分方程式を直接解くことなくたわみを求めることが出来る[5]

まず、弾性曲線方程式を(1)と(2)の2段階に分ける。 すると、(1)は与系[注 1]を、力の釣り合いによって曲げモーメントを求めることによって解決できる。 一方、(2)はとすると、と変形できる。これは記号が違うだけで(1)と同じ形となっており、ゆえにzを新しい荷重(弾性荷重[6]もしくはz荷重と呼ばれる[7])としてはりに作用させ、曲げモーメントに相当する量を求めると、これがそのままたわみと等しくなる。また、たわみ角であるから、せん断力であることを考慮すると、弾性荷重に対するせん断力に相当する量が、たわみ角と等しくなる。

これらの関係を整理すると表1のようになる。

表1: 与系と対応系の各量の関係[7]
与系 対応する系
荷重 弾性荷重
せん断力 たわみ角
曲げモーメント たわみ
曲げモーメント=荷重関係 弾性荷重=たわみ関係

これをオットー・モール(en:Christian Otto Mohr)が考案したため、この関係をモールの定理と呼ぶのである。

共役ばり

モールの定理により、弾性荷重を作用させたはりの、曲げモーメント相当量とせん断力相当量を求めることが出来れば、与系のたわみとたわみ角が求まる。 しかし、元の弾性曲線方程式には、支点などによって設定されたたわみとたわみ各の境界条件があることを考えれば、弾性荷重を作用させるはりも、同等の境界条件を曲げモーメント相当量とせん断力相当量が満たしていなければならない[8]

このように境界条件を満たすために便宜的に考えられたはりを、共役ばりといい、与系のはりと共役ばりの変位と断面力を対応させて変換することで作ることができる[6]

与系の各条件に対する共役ばりの条件を表2に示す。 この変換表を代表的なはりに適用したものが表3であるが、このように、単純ばりは同じ単純ばりのままだが、片持ちばりでは左右が逆になり、ゲルバーばりはヒンジの位置が変わるなど、与系のはりと共役ばりでは異なるはりとなる[9]

表2: 与系のはりと共役ばりの各条件の対応[6]
与系のはり 共役ばり
固定支点 自由端


自由端 固定支点


回転支点 回転支点


中間支点 中間ヒンジ

:連続

:連続
中間ヒンジ 中間支点
:連続
:不連続
:連続
:不連続
表3: 代表的なはりの共役ばり[6]
与系のはり 共役ばり
単純ばり
片持ちばり
片端張り出しばり
両端張り出しばり
2径間ゲルバーばり
3径間ゲルバーばり

弾性荷重法

弾性荷重法の例

モールの定理を利用して、たわみやたわみ角を求める方法を弾性荷重法と呼ぶがこれは以下のように整理される[10]

  1. 与系の曲げモーメントを求める。
  2. 曲げモーメントを曲げ剛性で除して、弾性荷重を生成する。
  3. 共役ばりを作成する。
  4. 弾性荷重を作用させる。
  5. 共役ばりにおけるせん断力(相当量)を求めると、与系のたわみ角を得ることができる。
  6. 共役ばりにおける曲げモーメント(相当量)を求めると、与系のたわみを得ることができる。

このように、弾性荷重法を使うと、微分方程式を直接解くことなく、はりのたわみやたわみ角を求めることができるが、以下のような長所と短所がある[11]

長所
  • はりの中間で、モーメント外力が働いていたり、断面寸法(曲げ剛性)が急変するなどして、曲げモーメントが全支間で場合分けが必要な場合、微分方程式を直接解く場合には、各場合分け間の連続条件を解かなければならなくなるが、弾性荷重法ではそれが必要ない。
  • ある特定の点でのたわみやたわみ角だけが必要な場合は、共役ばり上での、その点の曲げモーメント相当量あるいはせん断力相当量だけを求めるだけでよい。
短所
  • 等分布あるいは等辺分布荷重などが作用しており、曲げモーメント高次式になる場合、弾性荷重の合力の大きさや作用位置の計算が煩雑になる。
  • 計算に曲げモーメントが必要になるので、弾性荷重法のみでは不静定ばりは解くことができない。

参考文献

  • 崎本達郎『基礎土木工学シリーズ1 構造力学 [上]』森北出版、2004年。ISBN 4-627-42510-4 
  • 宮本裕ほか『構造工学』技報堂出版、1994年。ISBN 4-7655-1542-7 
  • 岡村宏一『構造工学(I)―土木教程選書』鹿島出版会、1988年。ISBN 4-306-02225-0 
  • 山本宏、久保喜延『わかりやすい構造力学(Ⅰ)』鹿島出版会、1987年。ISBN 4-306-02248-X 

注釈

  1. ^ 問題として与えられた(設定された)条件や状態全体のこと