「カイメンタケ」の版間の差分
m →生態: 樹木への侵入様式について補足. |
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| 名称 = カイメンタケ |
| 名称 = カイメンタケ |
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| 亜界 = [[ディカリア|ディカリア亜界]] [[:en:Dikarya|Dikarya]] |
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| 門 = [[担子菌門]] {{sname||Basidiomycota}} |
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| 亜門 = [[ハラタケ亜門]] {{sname||Agaricomycotina}} |
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| 亜綱 =未確定 (''[[incertae sedis]]'') |
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| 目 = [[タマチョレイタケ目]] {{sname||Polyporales}} |
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| 科 = [[サルノコシカ |
| 科 = [[ツガサルノコシカケ科]] {{sname||Fomitopsidaceae}} |
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| 属 = |
| 属 = カイメンタケ属 {{snamei||Phaeolus}} |
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| 種 = '''カイメンタケ''' {{snamei||Phaeolus schweinitzii|P. schweinitzii}} |
| 種 = '''カイメンタケ''' {{snamei||Phaeolus schweinitzii|P. schweinitzii}} |
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| 学名 = {{snamei|Phaeolus schweinitzii}} <small>(Fr.) Pat.</small> |
| 学名 = {{snamei|Phaeolus schweinitzii}} <small>(Fr.) Pat.</small> |
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| シノニム = {{snamei|Polyporus schweinitzii}} |
| シノニム = {{snamei|Polyporus schweinitzii}} |
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'''カイメンタケ''' (''Phaeolus schweinitzii'')は[[ |
'''カイメンタケ''' (''Phaeolus schweinitzii'')は[[担子菌門]][[ツガサルノコシカケ科]]のカイメンタケ属に属する[[キノコ]]の一種である。 |
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== 形態 == |
== 形態 == |
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[[子実体]]は半円形ないし扇形あるいは腎臓形を呈するかさの集合体で、一塊の直径はときに30㎝にも達する。通常は柄を欠くが、重なり合ったかさの基部が柄状をなすこともある。かさの表面は、若い部分(かさの周辺部)ではクリーム色ないし汚れた黄褐色であるが、すみやかに赤褐色~暗褐色(チョコレート色)となり、不明瞭な同心円状の環紋をあらわし、かつビロード状の毛をかぶるが、次第に毛は抜けてくる。肉は赤褐色~暗褐色で、生時には多少弾力のあるフェルト質であるが、乾燥するともろくて砕けやすい海綿質になる。かさの裏面は浅くて比較的粗大な[[管孔]]を形成し、その口は多角形をなすが崩れやすく、未熟なものでは帯緑黄褐色~淡橙褐色であるが、充分に成熟すれば暗褐色となる。 |
[[子実体]]は半円形ないし扇形あるいは腎臓形を呈するかさの集合体で、一塊の直径はときに30㎝にも達する。通常は柄を欠くが、重なり合ったかさの基部が柄状をなすこともある。かさの表面は、若い部分(かさの周辺部)ではクリーム色ないし汚れた黄褐色であるが、すみやかに赤褐色~暗褐色(チョコレート色)となり、不明瞭な同心円状の環紋をあらわし、かつビロード状の毛をかぶるが、次第に毛は抜けてくる。肉は赤褐色~暗褐色で、生時には多少弾力のあるフェルト質であるが、乾燥するともろくて砕けやすい海綿質になる。かさの裏面は浅くて比較的粗大な[[管孔]]を形成し、その口は多角形をなすが崩れやすく、未熟なものでは帯緑黄褐色~淡橙褐色であるが、充分に成熟すれば暗褐色となる。 |
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[[File:Phaeolus.schweinitzii3.-.lindsey.jpg|thumb|やや未熟なカイメンタケの管孔面の拡大]] |
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[[胞子]]は楕円形・無色で平滑、細胞壁は薄い。[[菌糸]]には[[かすがい連結]]を欠いている。 |
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[[胞子]]は広楕円形ないし卵形で無色・平滑、薄壁である。子実層にはシスチジアや剛毛体(ごうもうたい:先端が尖り、厚壁で褐色を呈する菌糸の末端細胞)を欠く。[[菌糸]]は褐色を呈し、薄壁ないしいくぶん厚壁で、隔壁部に[[かすがい連結]]を持たない。 |
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== 生態 == |
== 生態 == |
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[[マツ科]]に属する[[針葉樹]] |
[[マツ科]]に属する[[針葉樹]])の生きている立ち木あるいは切り株の根際に発生し、[[心材]]の[[褐色腐朽]]を起こす。子実体はきわめて大形であるが多年生ではなく、胞子を放出すれば暗褐色に変わり、すみやかに朽ちて消える<ref name=IandH>今関六也・本郷次雄(編著)、1989. 原色日本新菌類図鑑(Ⅱ). 保育社、大阪. ISBN 4-586-30076-0.</ref>。 |
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日本では特に[[カラマツ]](''Larix kaempferi'' (Lamb.) Carrière)や[[エゾマツ]](''Picea jezoensis'' (Sieb. & Zucc.) Carrière)・[[トウヒ]](''Picea jezoensis'' (Sieb. & Zucc.) Carrière var. ''hondoensis'' (Mayr.) Rehde)あるいは[[トドマツ]](''Abies sachalinensis'' (Fr.Schmidt) Masters)などの腐朽菌としてしばしば出現するが、[[アカマツ]](''Piinus densiflora'' Sieb. & Zucc.)などにも生える<ref>工藤伸一、2009. 東北きのこ図鑑. 家の光協会、東京. ISBN 978-4-259-56261-8.</ref><ref>佐野修治、京都御苑きのこ観察日記. ''in'' カラー版きのこ図鑑(幼菌の会:編) pp. 304-311. 家の光協会、東京. ISBN 978-4-25953-967-2.</ref>。そのほか、[[モミ]](''Abies firma'' Sieb. & Zucc.)や[[ツガ]](''Tsuga sieboldii'' Carrière)<ref name=Kanagawa>神奈川キノコの会(編)、城川四郎(著)、1996. 猿の腰掛け類きのこ図鑑. 地球社、東京. ISBN 978-4-80495-093-8.</ref>・[[シラビソ]](''Abies veitchii'' Lindl.)・[[オオシラビソ]](''Abies mariesii'' Mast.)<ref name=Shibata>柴田尚、2006. 森のきのこたち-種類と生態―. 八坂書房、東京. ISBN 978-4-89694-875-2</ref>に発生することもある。 |
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腐朽能力はかなり強く、しばしば[[宿主]]となった樹木の折損あるいは根返りの原因となる。地中の根の傷口(太い根の切断や、礫による傷、あるいは他の腐朽菌による根の腐朽跡など)から侵入して、樹木の根際の材を腐朽させるケースが多い<ref name=infection>小岩俊行、2002.カラマツ根株心腐病菌の侵入口.日本林学会誌 84: 9-15.</ref>。[[子実体]]の発生は、腐朽がかなり進んでからでなければ見られないことが多いため、カイメンタケに寄生されていても発見が遅れがちで、造林上の病害として重要視されている。 |
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[[チベット自治区]](西藏)においては[[トウヒ属]]樹木に発生した記録がある<ref>Dai, Y.-C., Yu, C.-J., and H.-C. Wang, 2007. Polypores from eastern Xizang (Tibet), western China. Annales Botanici Fennici 44: 135-145.</ref>。北アメリカでは[[マツ科]]に属する[[テーダマツ]](''Pinus taeda'' L.)<ref>Hepting, G. H., 1971. Diseases of forest and shade trees of the United States (Agriculture Handbook 386). United States Department of Agriculture Forest Service. Washington, DC.</ref>や[[ヒマラヤスギ]](''Cedrus deodara'' (Roxb.) G.Don<ref>L. F. Grand and C. S. Vernia, 2002. New Taxa and Hosts of Poroid Wood-Decay Fungi in North Carolina. Castanea 6: 193-200.</ref>あるいは[[ベイマツ]](''Pseudotsuga menziesii''<ref> Global review of forest pests and diseases – A thematic study prepared in the framework of the Global Forest Resources Assessment 2005 (FAO Forestry Paper 156). Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome. ISBN 978-92-5-106208-1.</ref>に寄生するほか、クロベ属([[ヒノキ科]])・[[イチイ属]]([[イチイ科]])などにも発生する。さらには、[[ユーカリ属]]・[[アカシア属]]・[[フウ属]]・[[カバノキ属]]・[[サクラ属]]・[[コナラ属]]などの[[広葉樹]]などをも腐朽させることもあるという<ref name=Australia>Sinclair, W. A., Lyon, H. H., and W. T. Johnson, 1987. Diseases of trees and shrubs. Cornell University Press, Ithaca. ISBN</ref>が、日本では広葉樹に発生した例は少なく、僅かに[[ソメイヨシノ]]<ref>財団法人 日本緑化センター、2008. 最新・樹木医の手引き(改訂3版2刷). 財団法人 日本緑化センター、東京. ISBN 4-931085-39-3</ref>や[[エゾヤマザクラ]]<ref>山口岳広、1991. エゾヤマザクラに生じたカイメンタケ. 森林防疫40: 139.</ref>が[[宿主]]となった記録がある程度である。ただし、ブナの木片への人工接種することによる腐朽試験では、カイメンタケも旺盛に菌糸を生長させるとする報告もある |
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⚫ | [[富士山]]麓に立地したカラマツの老齢林(樹齢49-77年生)においては、[[根株腐朽]]を起こした立木のうち、 |
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<ref>[http://hdl.handle.net/2115/20678 大澤正之・阿部豊、1949. 北海道産ブナ材の腐朽に就いて. 北海道大学農学部 演習林研究報告14: 186-207.]</ref>。なお、カイメンタケは森林土壌中に生息し、生きた樹木の材を腐朽させる菌であるため、製材されたり構造物に用いられたりした木材上に子実体を形成することはほとんど皆無である<ref>渇見武雄・赤井重恭、1945. 木材腐朽菌学. 朝倉書店、東京.</ref>。 |
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腐朽能力はかなり強く、しばしば[[宿主]]となった樹木の折損あるいは根返りの原因となる。地中の根の傷口(太い根の切断や、礫による傷、あるいは他の腐朽菌による根の腐朽跡など)から侵入して、樹木の根際の材を腐朽させるケースが多い<ref name=SakhalinFir>[http://hdl.handle.net/2261/22922 Yokota, S., 1956. Observations on the Butt Rot of Sakhalin Fir (''Abies sachalinensis'' MAST.) in the Tokyo University Forest, Hokkaido, with Special Reference to Infection and Propagation of Decay. Bulletin of the Tokyo University Forests 52: 165-171.]</ref><ref name=infection>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110002830695 小岩俊行、2002. カラマツ根株心腐病菌の侵入口.日本林学会誌 84: 9-15.]</ref>。カラマツの幼樹(樹齢2-10年:心材の径の平均 1.7 cm)の根株からはカイメンタケが分離培養されないことから、自然環境下での菌の感染は、早くとも樹齢10年を経た後に起きる可能性が高いと推定されている。また、人工造林向けのカラマツ苗は、樹齢1-2年程度で造林に使用されることから、苗畑においてカラマツがカイメンタケに感染する可能性は少ない(あるいはほとんど皆無である)と考えられる<ref>[http://hdl.handle.net/2241/99743 Kuroda, Y., Ohsawa, M., Yamada, M., Takamizawa, K., and K. Katsuya, 1992. The time of infection of butt-rot fungi into larch trees. Bulletin of the Tsukuba University Forest (8): 123-129.]</ref>。 |
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生きたカラマツ(樹齢28年および50年)の根際部にカイメンタケを人工的に接種した場合、その部位から腐朽が広がる速度は一年に5-6 cm程度であるという<ref>遠藤昭・渡瀬彰、1967. 根株腐朽と立地(V)-カラマツ生立木への心腐れ病菌の接種. 日本林学会第78回大会講演要旨集 201-203.</ref><ref name=Kuroda>[http://hdl.handle.net/2241/99815 黒田吉雄、1997. カラマツ根株心腐病菌に関する生態学的研究. 筑波大学農林技術センター演習林報告13: 1-72.]</ref>。[[子実体]]の発生は、腐朽がかなり進んでからでなければ見られないことが多いため、カイメンタケに寄生されていても発見が遅れがちで、造林上の病害として重要視されている。腐朽の及ぶ範囲は、ときとして地際より3.5 m<ref name=Fukushima>大槻晃太・柳田範久・川口知穂、1997. 主要材質劣化病害(カラマツ根株心腐病)の被害実態の解明と被害回避法の開発. 福島県林業試験場研究報告(30): 115-125.</ref>ないし 4.5 m<ref name=Process>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110002830372 黒田吉雄・大沢正嗣・勝屋敬三、1991. カラマツ根株心腐病菌の樹幹内での進展. 日本林学会誌73: 232-237.]</ref>に達することがある。感染は空気中に放出された有性胞子、あるいは地中の菌糸や[[厚膜胞子|厚壁胞子]]によると推定されており<ref>Barrett, D. K., 1985).The occurrence of ''Phaeolus schweinitzii'' in the soils of Sitka spruce plantations with broadleaved or non-woodland histories. European Journal of Forest Pathology 15: 412–417.</ref>、カイメンタケの腐朽を受けた切り株その他は、周囲の健全な樹木に新たな感染を起こす伝染源となる<ref name=SakhalinFir/><ref>Blakeslee, G. M., 1980. Residual naval stores stumps as reservoirs of inoculum for infection of slash pines by ''Phaeolus schweinitzii''. Plant Disease 64: 167.</ref>。なお、カイメンタケは、老齢樹を腐朽・折損することで林床にギャップを形成し、林分の若返りを促す役割も担っている<ref name=Shibata/>。 |
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⚫ | [[富士山]]麓に立地したカラマツの老齢林(樹齢49-77年生)においては、[[根株腐朽]]を起こした立木のうち、78パーセントはカイメンタケによるものであった<ref>Osawa, M., Kuroda, Y., and K. Katsuya, 1994. Heart-Rot in Old-Aged Larch Forests (I) : State of Damage Caused by Butt-Rot and Stand Conditions of Japanese Larch Forests at the Foot of Mt. Fuji. Journal of the Japanese Forestry Society 76(1): 24-29.</ref>。長野県下でも、根株腐朽を受けたカラマツ立ち木のうちの41パーセントがカイメンタケによるものであった例がある<ref name=Process/>。また、北海道(足寄郡足寄町)において、林齢を異にしたカラマツ人工林(林齢17年・24年・31年・38年、および41年)を選び、それぞれの林内での立木伐採から6ヶ月を経過した後、伐採跡(切り株)からのカイメンタケの子実体の出現頻度を求めたところ、41年生の林分においては伐採した立木総数の16パーセントであったのに対し、16年生の若齢林分では4パーセントにとどまったという。さらに、41年生の老齢林内においては、尾根よりも沢筋において出現率が高かったとの結果が示されている<ref>Ohga, S., and D. A. Wood, 1998. Occurrence of ''Phaeolus schweinitzii'' fruit body on the stumps in Japanese larch plantation. Mushroom science and biotechnology 6: 171-174.</ref>。また、[[八ヶ岳]]山麓に立地したカラマツ人工林(樹齢28-71年)においても、根株腐朽の症例のうち17パーセントをカイメンタケが占めていたとの報告がある<ref>Ohsawa, M., Katsuya, K., and H. Takei, 1987. Newly Unidentified Butt-Rot Basidiomycetous Fungus of Japanese Larch and Method for Baiting the Fungus from the Soil. Journal of the Japanese Forestry Society 69: 309-314.</ref>。福島県や長野県のカラマツ造林地における調査でも、根株心材腐朽の原因としてはカイメンタケが最も多く、これにレンゲタケや[[ハナビラタケ]]が次ぐとされ、特に地下水の停留が起こりやすく、宿主樹木の根の衰弱ないし壊死を起こしがちな緩傾斜地での被害が目立つとされている<ref name=Fukushima/><ref>岡田充弘・小山泰弘・古川仁、2002. カラマツ根株心腐病の被害実態の解明と被害回避法の確立. 長野県林業総合センター研究報告16: 33-39.</ref>。 |
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北海道の[[トドマツ]]天然林における観察例では、カイメンタケ同様に針葉樹の根株腐朽菌である[[マツノネクチタケ]](白色腐朽菌)およびトドマツオオウズラタケ(''Postia balsamea'' (Peck) Jülich:褐色腐朽菌)の二種と、同時に同一の立ち木から発生した例がある<ref name=SakhalinFir/>。 |
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北アメリカ(オレゴン州)の Santa Catalina Mountains における調査例では、褐色腐朽によって根返りや折損をきたした針葉樹について、その原因となった菌を腐朽材片から分離・培養して確認したところ、被害木の本数の62パーセントはカイメンタケによるものであり、30パーセントが[[ハナビラタケ]]属の菌に起因していた。残り8パーセントは、カイメンタケとハナビラタケ属の菌とが同一の樹木に同時に感染したことによるものであり、調査した林分においては、他の菌による根株の褐色腐朽は見出されなかったという<ref name=Arizona>Martin, K. J., and R. L. Gilbertson, 1978. Decay of Douglas-fir by ''Sparassis radicata'' in Arizona. Phytopathology 68: 149-154.</ref>。 |
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なお、カイメンタケは、ショウジョウパエ科(Famiy Drosophilidae)のショウジョウパエ亜科(Subfamily Drosophilinae)に属するモンキノコショウジョウパエ(''Mycodrosophila. poecilogastra'' Loew)の食物であり、繁殖の場でもある<ref>Kimura, M. T., Oda, M., Beppu, J., and H. Watabe, 1977. Breeding sites of drosophilid flies in and near Sapporo,northern Japan, with supplementary notes on adult feeding habits. Kontyǔ 45: 571-582.</ref>。ただし、モンキノコショウジョウバエが利用するのはカイメンタケのみではなく、木材の白色腐朽菌である[[ヒラタケ]]や褐色腐朽菌<ref name=Handbook>財団法人 ゴルファーの緑化促進協力会(編)、2007. 緑化樹木腐朽病害ハンドブック-木材腐朽菌の見分け方とその診断. 財団法人日本緑化センター、東京. ISBN 4931085415.</ref>の一種であるアオゾメタケ(''Postia caesia'' (Schrad.: Fr.) P. Karst.)、あるいは地上の枯れ葉や小枝を分解するモリノカレバタケ属の一種(''Gymnopus'' sp.)、および広葉樹の白色腐朽菌ではないかと推定される[[シロキクラゲ]]なども同様に利用する<ref>[http://hdl.handle.net/2115/21012 南尚貴・戸田,正憲・別府桂、1979. 北海道大学苫小牧地方演習林におけるショウジョウバエ集団の生態的構造(附:Niche parameters算出の補正法について). 北海道大学農学部 演習林研究報告36: 479-507.]</ref>と報告されている。 |
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==生理的性質== |
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[[麦芽]]エキス[[培地]]などを用いて[[培養]]することが可能で、生育至適温度は28℃前後であるという<ref name=MixedCulture/>。初めは綿毛状・白色のコロニーを形成するが、次第にフェルト状になるとともに黄褐色を帯びてくる。培養した菌糸も、子実体の構成菌糸と同様に[[かすがい連結]]を持たない<ref name=Australia/>。また、コロニー表面に立ち上がった菌糸(気中菌糸 aerial hyphae)の中途、あるいは培地の内部に蔓延した菌糸の中途や先端部に[[厚膜胞子|厚壁胞子]]を形成する<ref name=Australia/><ref name=Handbook/>。厚壁胞子は球形ないし卵形で表面は平滑、黄褐色を帯び、細胞壁はいくぶん肥厚する。 |
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腐朽が進んだ材では、その見かけ[[比重]]は健全な材の75-85パーセント程度に落ち、[[セルロース]]も健全材の30パーセント前後にまで減少する。逆に、アルカリ(1パーセント[[水酸化ナトリウム]]溶液)可溶物は4倍量程度にまで増加する(エゾマツおよびトドマツの場合)<ref>[http://hdl.handle.net/2115/20709 福山伍郎・川瀨淸、1954. 稀アルカリの消費量による木材の簡易腐朽度測定法. 北海道大学農学部 演習林研究報告17: 151-178.]</ref>。カラマツの心材片を用いた腐朽試験でも、材の絶乾重量は健全な材片の70パーセント程度にまで低下するとの報告がある<ref name=Kuroda/>。 |
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カイメンタケが産生する[[セルラーゼ]]については純化・結晶化・構造解析が行われ、β-1,4-グルカン-4-グルカノヒドラーゼであることが明らかになっている<ref>Bailey, P. J., Lese, W., Roesch, R., Kilich, G., and E. G. Afting, 1969. Cellulase (beta-1,4-glucan-4-glucanohydlase) from the wood-decaying fungus ''Polyporus schweinitzii'' Fr. Ⅰ. Purification. Biochimica et Biophysica Acta 185: 381-391.</ref>。他にヘミセルラーゼやアセチルエステラーゼなどをも産生し、アセチルキシランに対する後者の活性力価は、ブタの肝臓に含まれるシュードコリンエステラーゼの約二倍、シイタケに由来するアセチルエステラーゼの約40パーセントに相当する<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/30005474145 Tsujiyama, S., and N. Nakano, 1996. Distribution of acetyl esterase in wood-rotting fungi. Mycoscience 37: 289-294.]</ref>。なお、[[ラッカーゼ]]や[[ペルオキシダーゼ]]は産生しないが、[[チロシナーゼ]]活性を有する。 |
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子実体のアルコール滲出物や、菌糸体を液体培地上で培養した後の濾液には抗菌活性が認められるが、これはヒスピディン(hispidin: 4-ヒドロキシ-6-(3,4-ジヒドロキシスチリル)ピロン)によるものであるといわれている<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110003661432 Ueno, A., Fukushima, S., Saiki, Y., and T. Harada, 1964. Studies on the Components of ''Phaeolus schweinitzii'' (FR.) PAT. Chemical and pharmaceutical bulletin 12: 376-378.]</ref>。ヒスピディンは、白色腐朽菌であるヤケコゲタケ(''Inonotus hispidus'' (Bull.: Fr.) P. Karst.)の子実体から初めて単離された化合物<ref>Nambudiri, A. M. D., Vance, C. P. and F. H. N. Towers, 1973. Effect of light on enzymes of Phenylpropanoid metabolism and Hispidin biosynthesis in ''Polyporus hispidus''. Biochemical Journal 134: 891-897.</ref>であり、抗酸化機能も有する<ref>橋本敏弘・額田真喜子・山本功男・淺川義範、2000. ニンギョウタケモドキ属キノコおよびカイメンタケに含まれる抗酸化性物質. 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集 44: 88-90.</ref>。 |
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アズマタケ(主に[[マツ属]]の樹木の根株を犯して白色腐朽を起こす)とともに、適当な培地を流し込んだ容器内に同時に接種する対峙培養を行うと、培地の種類あるいは対峙培養の温度にかかわらず、アズマタケのコロニーはカイメンタケのそれに被覆されて生長を停止するという<ref name=MixedCulture>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110002756896 永友勇、1930. 「アヅマタケ」(''Polyporus orientalis'' Lloyd) と「カイメンタケ」(''Polylporus Schweinitzii'' Fr.) との Mixed Culture の結果に就て. 日本植物病理學會報 2: 289-292.]</ref>が、その原因がヒスピディンの活性によるものであるのか否かについては不明である。カイメンタケと同様、[[カラマツ]]・[[エゾマツ]]・[[トドマツ]]その他の針葉樹を侵すトドマツオオウズラタケ(褐色腐朽菌)やチウロコタケモドキ(''Stereum sanguinolentum'' (Alb. & Schwein.) Fr.,:主に枯れ枝の脱落部から侵入し、白色腐朽を起こす)などとの間で対峙培養を行ったところでは、カイメンタケとこれら二種とは拮抗を示す<ref name=Succession>[http://hdl.handle.net/2241/99655 大沢正嗣・勝屋 敬三、1986. カラマツ根株心腐病罹病木および健全木樹幹内の菌類相とその遷移. 筑波大学農林技術センター演習林報告 2: 17-29.]</ref>。他の菌類に寄生する性質を持つ ''Trichoderma viride'' Pers.<ref>Dudos. B., and J. L. Ricard, 1974. Curative treatment of peach trees against silver leaf disease (''Stereum purpureum'') with ''Trichoderma viride'' preparations. Plant Diseases Reports 58: 147-150.</ref><ref>小松光雄、1976. シイタケに抗菌性の''Hypocrea'',''Trichoderma'' および類縁菌群の研究. 菌蕈研究所研究報告13: 1-113.</ref>や 抗菌性物質の産生能力を有する''Paecilomyces variotii'' Bainier<ref>Takeuchi, S., Yonehara, H., and H. Umezawa, 1959. Studies on variotin, a new antifungal antibiotic Ⅰ. Preparations and properties of variotin. Journal of Antibiotics (Series A) 12: 195-200.</ref>は、腐朽がかなり進んだ段階(あるいは腐朽過程が終わりに近づいた段階)にある木材から見出されることが多い菌であるが、これらとの対峙培養に際しては、カイメンタケの菌糸は著しい生育阻害を受ける<ref name=Succession/>。 |
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なお、カイメンタケはある種の[[ヒ素]]化合物を代謝して、揮発性のメチルアルシンを生成する性質を持つ。この性質を利用してカイメンタケを検出するための特殊な[[培地]](五酸化二ヒ素 As<sub>2</sub>O<sub>5</sub>)を含む)が考案されている<ref>Barret, 1978. An improved selected medium for isolation of ''Phaeolus schweinitzii''. Transactions of the British Mycological Society 71: 507-508.</ref>。 |
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合成[[オーキシン]]の一種であるナフタレン酢酸(NAA)は、培地1リットル当り1 mgの添加でカイメンタケの菌糸生長を抑制する。また L-グルタミンも、培地1リットル当り 500mg の濃度で同様に働く。合成[[サイトカイニン]]の一種[[6-ベンジルアミノプリン]]はNAAの作用を増強するが、L-グルタミンによる菌糸生長抑制に対しては妨害作用を示すという<ref>Hŕib, J., Vooková, B., and P. Fľak, 1993. Effect of auxin, cytokinin, and glutamine on mycelial growth of Phaeolus schweinitzii. European Journal of Forest Pathology 23: 269-275.</ref>。 |
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== 分布 == |
== 分布 == |
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北半球の温帯以北に広く分布する。日本国内では、寒冷地あるいはやや海抜の高い地域に多い。 |
北半球の温帯以北に広く分布する。日本国内での分布は、寒冷地あるいはやや海抜の高い地域に多いが、北海道から九州(大分県および宮崎県)にまでおよぶとされている<ref name=MixedCulture/>。 |
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南半球には分布しないと考えられてきたが、1991年に[[メルボルン]]の王立植物園において初めて記録された。オーストラリアでの宿主は、[[アレッポマツ]](''Pinus halepensis'' Mill.)・[[フランスカイガンショウ]](''P. pinaster'' Aiton)・[[ラジアータパイン]](''P. radiata'' D. Don)などの[[マツ属]]の樹木であるという<ref>Simpson, J. A., and T. W. May, 2002. ''Phaeolus schweinitzii'' in Australia. Australian Plant Pathology 31: 99-100.</ref>。ニュージーランドからも見出されている<ref>Buchanan, P. K., and L. Ryvarden, 2000. An annotated checklist of polypore and polypore-like fungi recorded from New Zealand. New Zealand Journal of Botany 38: 265–323.</ref>。 |
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==分類学上の位置づけ== |
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本種は、カイメンタケ属(''Phaeolus'')の[[タイプ]]種であるとともに、この属に分類される唯一の日本既知種である。カイメンタケ属は、子実体を構成する菌糸が褐色で[[かすがい連結]]を欠くこと・胞子が無色かつ平滑であること・胞子を形成する'''子実層'''に'''剛毛体'''(Setae:厚壁・褐色で先端が尖った円錐状の異型細胞)を欠くこと・[[セルロース]]をおもに資化する褐色腐朽菌であることなどによって定義づけられるが、カイメンタケの他に分類学的概念が明確な種類としては、南アメリカ産の''P. amazonicus'' De Jesus & Ryvarden が知られているのみである<ref>Ryvarden L, and I. Johansen I., 2010. A preliminary polypore flora of East Africa. Synopsis Fungorum. 27. Fungiflora, Oslo. ISBN 9788290724417.</ref>。[[マダガスカル島]]を基準産地とする''P. manihotis'' R. Heim<ref name=Heim>Heim, R., 1931. Le ''Phaeolus manihotis'' sp. nov., parasite du Manioc à Madagascar, et considérations sur le genre ''Phaeolus'' Pat. Annales Crtptogamie Exotique 4: 175-189.</ref>は、[[キャッサバ]]や[[チャ]]などの有用植物の幹を腐朽させることで注目される菌である<ref name=Heim/><ref>Rattan, P. S., 1980. ''Pseudophaeolus'' root rot of tea, a new root disease of tea in Malawi. Quarterly Newsletter. Tea Research Foundation of Central Africa (58): 4-7.</ref>が、現在ではアイカワタケ属(''Laetiporus'')に移されるとともに種小名も訂正され、''L. baudonii'' (Pat.) Ryvarden の学名の下に扱われている<ref>Ryvarden, L., 1991. Genera of Polypores: nomenclature and taxonomy. Sunopsis Fungorum 5. Fungiflora, Oslo. ISBN 829072410.</ref>。他に''P. luteo-olivaceus'' (Berk. & Broome) Pat.<ref> Patouillard, N., 1928. Champignons recueillis par M. Mayeul Grisol dans le haut Orénoque. Annales Cryptgamie Exotique 1: 266-278.</ref>や''P. tabulaeformis'' (Berk.) Pat. ・''P. tubulaeformis'' (Berk.) Pat. など<ref>Patouillard, N.T. , 1900. Champignons de la Guadeloupe. Bulletin de la Société Mycologique de France 16: 175-188.</ref>が記録されているが、これら三種は原記載以降の採集記録や[[タイプ]]標本の詳しい再記載もなく、近代的な分類体系上での位置づけについては不明な点が多い。 |
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カイメンタケ属を定義づける上記のような性質は、タバコウロコタケ科(Hymenochaetaceae)の菌によく似ているが、後者に属する菌群は例外なく白色腐朽菌を起こす点で決定的に異なっている<ref name=IandH/>。さらに、[[分子系統学]]的解析の結果からは、両者は分類学上の目のレベルで異質であることが明らかにされている<ref>Hibbett, D. S., Pine, E.. M., Langer, E., Langer, G., Donoghue, M. J., 1997. Evolution of gilled mushrooms and puffballs inferred from ribosomal DNA sequences. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 94: 12002–12006.</ref><ref>Wagner, T., and M. Fischer, 2001. Natural groups and a revised system for the European poroid Hymenochaetales (Basidiomycota) supported by nLSU rDNA sequence data. Mycological Res earch 105: 773–782.</ref>。今日ではアイカワタケ属との間に最も密接な類縁関係を有する<ref>Hibbett, D. S.., and M. Donoghue, 1995. Progress toward a phylogenetic classification f the Polyporaceae through parsimony of mitochondrial ribosomal DNA sequences. Canadian Journal of Botany 73 (Supplment 1): S853–S861.</ref>とされ、アイカワタケ属やカボチャタケ属(''Pycnoporellus'')<ref>Lindner, D. L., and M. T. Banik, 2008. Molecular phylogeny of ''Laetiporus'' and other brown rot polypore genera in North America. Mycologia 100: 417-430.</ref>あるいはエブリコ属(''Lalicifomes'')・ツガサルノコシカケ属(''Fomitopsis'')・カンバタケ属(''Piptoporus'')・ヤニタケ属(''Ishnoderma'')・ホウロクタケ属(''Daedalea'')などとともにツガサルノコシカケ科(Fomitopsidaceae)に分類されている<ref name=Color>今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編・解説)、青木孝之・内田正弘・前川二太郎・吉見昭一・横山和正(解説)、2011. 山渓カラー名鑑 日本のきのこ(増補改訂版). 山と渓谷社、東京. ISBN 978-4-635-09044-5.</ref>。 |
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== 類似種 == |
== 類似種 == |
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カイメンタケと同様に、大きなかさがいくつも集合して大きな塊状をなす菌としては[[トンビマイタケ]] |
カイメンタケと同様に、大きな扇状のかさがいくつも集合し、基部で互いに合着して大きな塊状をなす菌としては[[トンビマイタケ]](''Meripilus giganteus'' (Pers.) P. Karst.)がある。後者は、広葉樹(主にブナ)の生きた立ち木の根際に発生する点、かさの表面の毛が目立たず、かさの裏面に形成される[[管孔]]がより微細で白っぽい点、子実体に手で触れるとしだいに黒く変色する点などにおいて異なり、さらに材の[[白色腐朽]]を起こすことでも区別される<ref name=IandH/><ref name=Kanagawa/>。独立したトンビマイタケ科(Meripilaceae)<ref name=Color/>に置かれ、カイメンタケとはかなり遠縁の菌である。また、カイメンタケと同様の成分を含むヤケコゲタケ(''Inonotus hispidus'' (Bull.: Fr.) P. Karst.)も褐色系の子実体を形成する大形種であるが、カイメンタケよりも肉厚であり、多数のかさを形成することは少ない。さらに、広葉樹(ミズナラ)などの白色腐朽を起こす生態的特徴においてカイメンタケとは決定的に異なり、タバコウロコタケ科に分類されている<ref name=IandH/><ref name=Color/>。 |
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==和名・学名・方言名および英名== |
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和名は、仙台市郊外のアカマツ林で見出された標本に基づいて名づけられたものである<ref>安田篤、1912. 菌類雑記. 植物学雑誌26: 361.</ref>。属名''Phaeolus'' は「暗褐色の」・「浅黒い」を意味し、種小名の''schweinitzii'' はドイツの菌学者 L. de Schweinitz に献名されたものであるという<ref>今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970. 標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび). 保育社、東京. ISBN 978-4-58632-014-1.</ref><ref>池田良幸、2005. 北陸のきのこ図鑑. 橋本確文堂、金沢. ISBN 978-4-893-79092-7.</ref>。食用価値がなく、生薬その他としての用途も日本では知られていないため、本種を特定する方言名は知られていない。英名ではDye Maker's Polyporeの名があるが、これはカイメンタケの子実体を細かく粉砕して温湯で浸出した液を用い、羊毛などを染色することによる<ref>Bessette, A. R., and A. E. Bessette, 2001. The Rainbow Beneath My Feet: A Mushroom Dyer's Field Guide. Syracuse University Press. ISBN 978-0815606802.</ref>。 |
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== 人間との関わり == |
== 人間との関わり == |
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毒 |
無毒ではあるが、食用的価値はない。薬学的な利用価値についてもまだ研究段階であり、上述した通りむしろ木材腐朽を起こす害菌としてよく知られている。 |
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一方、乾燥させたカイメンタケは容易に火が付く特性があるため、摩擦や[[火打石]]による[[発火法]]で「ほくち」として使用されていた。そのためカイメンタケの一種・シロカイメンタケには「ホクチキノコ」「ホクチタケ」の和名もある<ref>深津正、1983. ものと人の文化史50 燈用植物、法政大学出版局.</ref>。 |
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なお、本種の[[子実体]]を細かく粉砕して温湯で浸出した液は、羊毛などの染色に用いられる。そのため Dye Maker's Polyporeの英名が与えられている<ref>Bessette, A. R., and A. E. Bessette, 2001. The Rainbow Beneath My Feet: A Mushroom Dyer's Field Guide. Syracuse University Press. ISBN 978-0815606802.</ref>。 |
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== 引用文献 == |
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== 外部リンク == |
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*[http://www.afftis.or.jp/kinoko/906.htm 野生きのこの世界]社団法人 農林水産技術情報協会 |
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2012年9月16日 (日) 07:38時点における版
カイメンタケ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Phaeolus schweinitzii (Fr.) Pat. | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
Polyporus schweinitzii | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
カイメンタケ(海綿茸) |
カイメンタケ (Phaeolus schweinitzii)は担子菌門ツガサルノコシカケ科のカイメンタケ属に属するキノコの一種である。
形態
子実体は半円形ないし扇形あるいは腎臓形を呈するかさの集合体で、一塊の直径はときに30㎝にも達する。通常は柄を欠くが、重なり合ったかさの基部が柄状をなすこともある。かさの表面は、若い部分(かさの周辺部)ではクリーム色ないし汚れた黄褐色であるが、すみやかに赤褐色~暗褐色(チョコレート色)となり、不明瞭な同心円状の環紋をあらわし、かつビロード状の毛をかぶるが、次第に毛は抜けてくる。肉は赤褐色~暗褐色で、生時には多少弾力のあるフェルト質であるが、乾燥するともろくて砕けやすい海綿質になる。かさの裏面は浅くて比較的粗大な管孔を形成し、その口は多角形をなすが崩れやすく、未熟なものでは帯緑黄褐色~淡橙褐色であるが、充分に成熟すれば暗褐色となる。
胞子は広楕円形ないし卵形で無色・平滑、薄壁である。子実層にはシスチジアや剛毛体(ごうもうたい:先端が尖り、厚壁で褐色を呈する菌糸の末端細胞)を欠く。菌糸は褐色を呈し、薄壁ないしいくぶん厚壁で、隔壁部にかすがい連結を持たない。
生態
マツ科に属する針葉樹)の生きている立ち木あるいは切り株の根際に発生し、心材の褐色腐朽を起こす。子実体はきわめて大形であるが多年生ではなく、胞子を放出すれば暗褐色に変わり、すみやかに朽ちて消える[1]。
日本では特にカラマツ(Larix kaempferi (Lamb.) Carrière)やエゾマツ(Picea jezoensis (Sieb. & Zucc.) Carrière)・トウヒ(Picea jezoensis (Sieb. & Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr.) Rehde)あるいはトドマツ(Abies sachalinensis (Fr.Schmidt) Masters)などの腐朽菌としてしばしば出現するが、アカマツ(Piinus densiflora Sieb. & Zucc.)などにも生える[2][3]。そのほか、モミ(Abies firma Sieb. & Zucc.)やツガ(Tsuga sieboldii Carrière)[4]・シラビソ(Abies veitchii Lindl.)・オオシラビソ(Abies mariesii Mast.)[5]に発生することもある。
チベット自治区(西藏)においてはトウヒ属樹木に発生した記録がある[6]。北アメリカではマツ科に属するテーダマツ(Pinus taeda L.)[7]やヒマラヤスギ(Cedrus deodara (Roxb.) G.Don[8]あるいはベイマツ(Pseudotsuga menziesii[9]に寄生するほか、クロベ属(ヒノキ科)・イチイ属(イチイ科)などにも発生する。さらには、ユーカリ属・アカシア属・フウ属・カバノキ属・サクラ属・コナラ属などの広葉樹などをも腐朽させることもあるという[10]が、日本では広葉樹に発生した例は少なく、僅かにソメイヨシノ[11]やエゾヤマザクラ[12]が宿主となった記録がある程度である。ただし、ブナの木片への人工接種することによる腐朽試験では、カイメンタケも旺盛に菌糸を生長させるとする報告もある [13]。なお、カイメンタケは森林土壌中に生息し、生きた樹木の材を腐朽させる菌であるため、製材されたり構造物に用いられたりした木材上に子実体を形成することはほとんど皆無である[14]。
腐朽能力はかなり強く、しばしば宿主となった樹木の折損あるいは根返りの原因となる。地中の根の傷口(太い根の切断や、礫による傷、あるいは他の腐朽菌による根の腐朽跡など)から侵入して、樹木の根際の材を腐朽させるケースが多い[15][16]。カラマツの幼樹(樹齢2-10年:心材の径の平均 1.7 cm)の根株からはカイメンタケが分離培養されないことから、自然環境下での菌の感染は、早くとも樹齢10年を経た後に起きる可能性が高いと推定されている。また、人工造林向けのカラマツ苗は、樹齢1-2年程度で造林に使用されることから、苗畑においてカラマツがカイメンタケに感染する可能性は少ない(あるいはほとんど皆無である)と考えられる[17]。
生きたカラマツ(樹齢28年および50年)の根際部にカイメンタケを人工的に接種した場合、その部位から腐朽が広がる速度は一年に5-6 cm程度であるという[18][19]。子実体の発生は、腐朽がかなり進んでからでなければ見られないことが多いため、カイメンタケに寄生されていても発見が遅れがちで、造林上の病害として重要視されている。腐朽の及ぶ範囲は、ときとして地際より3.5 m[20]ないし 4.5 m[21]に達することがある。感染は空気中に放出された有性胞子、あるいは地中の菌糸や厚壁胞子によると推定されており[22]、カイメンタケの腐朽を受けた切り株その他は、周囲の健全な樹木に新たな感染を起こす伝染源となる[15][23]。なお、カイメンタケは、老齢樹を腐朽・折損することで林床にギャップを形成し、林分の若返りを促す役割も担っている[5]。
富士山麓に立地したカラマツの老齢林(樹齢49-77年生)においては、根株腐朽を起こした立木のうち、78パーセントはカイメンタケによるものであった[24]。長野県下でも、根株腐朽を受けたカラマツ立ち木のうちの41パーセントがカイメンタケによるものであった例がある[21]。また、北海道(足寄郡足寄町)において、林齢を異にしたカラマツ人工林(林齢17年・24年・31年・38年、および41年)を選び、それぞれの林内での立木伐採から6ヶ月を経過した後、伐採跡(切り株)からのカイメンタケの子実体の出現頻度を求めたところ、41年生の林分においては伐採した立木総数の16パーセントであったのに対し、16年生の若齢林分では4パーセントにとどまったという。さらに、41年生の老齢林内においては、尾根よりも沢筋において出現率が高かったとの結果が示されている[25]。また、八ヶ岳山麓に立地したカラマツ人工林(樹齢28-71年)においても、根株腐朽の症例のうち17パーセントをカイメンタケが占めていたとの報告がある[26]。福島県や長野県のカラマツ造林地における調査でも、根株心材腐朽の原因としてはカイメンタケが最も多く、これにレンゲタケやハナビラタケが次ぐとされ、特に地下水の停留が起こりやすく、宿主樹木の根の衰弱ないし壊死を起こしがちな緩傾斜地での被害が目立つとされている[20][27]。
北海道のトドマツ天然林における観察例では、カイメンタケ同様に針葉樹の根株腐朽菌であるマツノネクチタケ(白色腐朽菌)およびトドマツオオウズラタケ(Postia balsamea (Peck) Jülich:褐色腐朽菌)の二種と、同時に同一の立ち木から発生した例がある[15]。
北アメリカ(オレゴン州)の Santa Catalina Mountains における調査例では、褐色腐朽によって根返りや折損をきたした針葉樹について、その原因となった菌を腐朽材片から分離・培養して確認したところ、被害木の本数の62パーセントはカイメンタケによるものであり、30パーセントがハナビラタケ属の菌に起因していた。残り8パーセントは、カイメンタケとハナビラタケ属の菌とが同一の樹木に同時に感染したことによるものであり、調査した林分においては、他の菌による根株の褐色腐朽は見出されなかったという[28]。
なお、カイメンタケは、ショウジョウパエ科(Famiy Drosophilidae)のショウジョウパエ亜科(Subfamily Drosophilinae)に属するモンキノコショウジョウパエ(Mycodrosophila. poecilogastra Loew)の食物であり、繁殖の場でもある[29]。ただし、モンキノコショウジョウバエが利用するのはカイメンタケのみではなく、木材の白色腐朽菌であるヒラタケや褐色腐朽菌[30]の一種であるアオゾメタケ(Postia caesia (Schrad.: Fr.) P. Karst.)、あるいは地上の枯れ葉や小枝を分解するモリノカレバタケ属の一種(Gymnopus sp.)、および広葉樹の白色腐朽菌ではないかと推定されるシロキクラゲなども同様に利用する[31]と報告されている。
生理的性質
麦芽エキス培地などを用いて培養することが可能で、生育至適温度は28℃前後であるという[32]。初めは綿毛状・白色のコロニーを形成するが、次第にフェルト状になるとともに黄褐色を帯びてくる。培養した菌糸も、子実体の構成菌糸と同様にかすがい連結を持たない[10]。また、コロニー表面に立ち上がった菌糸(気中菌糸 aerial hyphae)の中途、あるいは培地の内部に蔓延した菌糸の中途や先端部に厚壁胞子を形成する[10][30]。厚壁胞子は球形ないし卵形で表面は平滑、黄褐色を帯び、細胞壁はいくぶん肥厚する。
腐朽が進んだ材では、その見かけ比重は健全な材の75-85パーセント程度に落ち、セルロースも健全材の30パーセント前後にまで減少する。逆に、アルカリ(1パーセント水酸化ナトリウム溶液)可溶物は4倍量程度にまで増加する(エゾマツおよびトドマツの場合)[33]。カラマツの心材片を用いた腐朽試験でも、材の絶乾重量は健全な材片の70パーセント程度にまで低下するとの報告がある[19]。
カイメンタケが産生するセルラーゼについては純化・結晶化・構造解析が行われ、β-1,4-グルカン-4-グルカノヒドラーゼであることが明らかになっている[34]。他にヘミセルラーゼやアセチルエステラーゼなどをも産生し、アセチルキシランに対する後者の活性力価は、ブタの肝臓に含まれるシュードコリンエステラーゼの約二倍、シイタケに由来するアセチルエステラーゼの約40パーセントに相当する[35]。なお、ラッカーゼやペルオキシダーゼは産生しないが、チロシナーゼ活性を有する。
子実体のアルコール滲出物や、菌糸体を液体培地上で培養した後の濾液には抗菌活性が認められるが、これはヒスピディン(hispidin: 4-ヒドロキシ-6-(3,4-ジヒドロキシスチリル)ピロン)によるものであるといわれている[36]。ヒスピディンは、白色腐朽菌であるヤケコゲタケ(Inonotus hispidus (Bull.: Fr.) P. Karst.)の子実体から初めて単離された化合物[37]であり、抗酸化機能も有する[38]。
アズマタケ(主にマツ属の樹木の根株を犯して白色腐朽を起こす)とともに、適当な培地を流し込んだ容器内に同時に接種する対峙培養を行うと、培地の種類あるいは対峙培養の温度にかかわらず、アズマタケのコロニーはカイメンタケのそれに被覆されて生長を停止するという[32]が、その原因がヒスピディンの活性によるものであるのか否かについては不明である。カイメンタケと同様、カラマツ・エゾマツ・トドマツその他の針葉樹を侵すトドマツオオウズラタケ(褐色腐朽菌)やチウロコタケモドキ(Stereum sanguinolentum (Alb. & Schwein.) Fr.,:主に枯れ枝の脱落部から侵入し、白色腐朽を起こす)などとの間で対峙培養を行ったところでは、カイメンタケとこれら二種とは拮抗を示す[39]。他の菌類に寄生する性質を持つ Trichoderma viride Pers.[40][41]や 抗菌性物質の産生能力を有するPaecilomyces variotii Bainier[42]は、腐朽がかなり進んだ段階(あるいは腐朽過程が終わりに近づいた段階)にある木材から見出されることが多い菌であるが、これらとの対峙培養に際しては、カイメンタケの菌糸は著しい生育阻害を受ける[39]。
なお、カイメンタケはある種のヒ素化合物を代謝して、揮発性のメチルアルシンを生成する性質を持つ。この性質を利用してカイメンタケを検出するための特殊な培地(五酸化二ヒ素 As2O5)を含む)が考案されている[43]。
合成オーキシンの一種であるナフタレン酢酸(NAA)は、培地1リットル当り1 mgの添加でカイメンタケの菌糸生長を抑制する。また L-グルタミンも、培地1リットル当り 500mg の濃度で同様に働く。合成サイトカイニンの一種6-ベンジルアミノプリンはNAAの作用を増強するが、L-グルタミンによる菌糸生長抑制に対しては妨害作用を示すという[44]。
分布
北半球の温帯以北に広く分布する。日本国内での分布は、寒冷地あるいはやや海抜の高い地域に多いが、北海道から九州(大分県および宮崎県)にまでおよぶとされている[32]。
南半球には分布しないと考えられてきたが、1991年にメルボルンの王立植物園において初めて記録された。オーストラリアでの宿主は、アレッポマツ(Pinus halepensis Mill.)・フランスカイガンショウ(P. pinaster Aiton)・ラジアータパイン(P. radiata D. Don)などのマツ属の樹木であるという[45]。ニュージーランドからも見出されている[46]。
分類学上の位置づけ
本種は、カイメンタケ属(Phaeolus)のタイプ種であるとともに、この属に分類される唯一の日本既知種である。カイメンタケ属は、子実体を構成する菌糸が褐色でかすがい連結を欠くこと・胞子が無色かつ平滑であること・胞子を形成する子実層に剛毛体(Setae:厚壁・褐色で先端が尖った円錐状の異型細胞)を欠くこと・セルロースをおもに資化する褐色腐朽菌であることなどによって定義づけられるが、カイメンタケの他に分類学的概念が明確な種類としては、南アメリカ産のP. amazonicus De Jesus & Ryvarden が知られているのみである[47]。マダガスカル島を基準産地とするP. manihotis R. Heim[48]は、キャッサバやチャなどの有用植物の幹を腐朽させることで注目される菌である[48][49]が、現在ではアイカワタケ属(Laetiporus)に移されるとともに種小名も訂正され、L. baudonii (Pat.) Ryvarden の学名の下に扱われている[50]。他にP. luteo-olivaceus (Berk. & Broome) Pat.[51]やP. tabulaeformis (Berk.) Pat. ・P. tubulaeformis (Berk.) Pat. など[52]が記録されているが、これら三種は原記載以降の採集記録やタイプ標本の詳しい再記載もなく、近代的な分類体系上での位置づけについては不明な点が多い。
カイメンタケ属を定義づける上記のような性質は、タバコウロコタケ科(Hymenochaetaceae)の菌によく似ているが、後者に属する菌群は例外なく白色腐朽菌を起こす点で決定的に異なっている[1]。さらに、分子系統学的解析の結果からは、両者は分類学上の目のレベルで異質であることが明らかにされている[53][54]。今日ではアイカワタケ属との間に最も密接な類縁関係を有する[55]とされ、アイカワタケ属やカボチャタケ属(Pycnoporellus)[56]あるいはエブリコ属(Lalicifomes)・ツガサルノコシカケ属(Fomitopsis)・カンバタケ属(Piptoporus)・ヤニタケ属(Ishnoderma)・ホウロクタケ属(Daedalea)などとともにツガサルノコシカケ科(Fomitopsidaceae)に分類されている[57]。
類似種
カイメンタケと同様に、大きな扇状のかさがいくつも集合し、基部で互いに合着して大きな塊状をなす菌としてはトンビマイタケ(Meripilus giganteus (Pers.) P. Karst.)がある。後者は、広葉樹(主にブナ)の生きた立ち木の根際に発生する点、かさの表面の毛が目立たず、かさの裏面に形成される管孔がより微細で白っぽい点、子実体に手で触れるとしだいに黒く変色する点などにおいて異なり、さらに材の白色腐朽を起こすことでも区別される[1][4]。独立したトンビマイタケ科(Meripilaceae)[57]に置かれ、カイメンタケとはかなり遠縁の菌である。また、カイメンタケと同様の成分を含むヤケコゲタケ(Inonotus hispidus (Bull.: Fr.) P. Karst.)も褐色系の子実体を形成する大形種であるが、カイメンタケよりも肉厚であり、多数のかさを形成することは少ない。さらに、広葉樹(ミズナラ)などの白色腐朽を起こす生態的特徴においてカイメンタケとは決定的に異なり、タバコウロコタケ科に分類されている[1][57]。
和名・学名・方言名および英名
和名は、仙台市郊外のアカマツ林で見出された標本に基づいて名づけられたものである[58]。属名Phaeolus は「暗褐色の」・「浅黒い」を意味し、種小名のschweinitzii はドイツの菌学者 L. de Schweinitz に献名されたものであるという[59][60]。食用価値がなく、生薬その他としての用途も日本では知られていないため、本種を特定する方言名は知られていない。英名ではDye Maker's Polyporeの名があるが、これはカイメンタケの子実体を細かく粉砕して温湯で浸出した液を用い、羊毛などを染色することによる[61]。
人間との関わり
無毒ではあるが、食用的価値はない。薬学的な利用価値についてもまだ研究段階であり、上述した通りむしろ木材腐朽を起こす害菌としてよく知られている。
一方、乾燥させたカイメンタケは容易に火が付く特性があるため、摩擦や火打石による発火法で「ほくち」として使用されていた。そのためカイメンタケの一種・シロカイメンタケには「ホクチキノコ」「ホクチタケ」の和名もある[62]。
引用文献
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関連項目
外部リンク
- 野生きのこの世界社団法人 農林水産技術情報協会]