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「ウビフ語」の版間の差分

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'''ウビフ語'''(ウビフご、ウビフ語:t°axəbza, tʷaχəbza, tʷɜχɨbzɜ)は、かつてウビフ人によって話されていた[[北西コーカサス語族]](アブハズ・アディゲ諸語)の言語の一つ。
{{出典の明記|date=2013年6月23日 (日) 01:28 (UTC)}}

'''ウビフ語'''(Ubykh)は、[[北西コーカサス語族]](アブハズ・アディゲ諸語)の一つ。
== 概要 ==
ウビフ語は80または81の[[子音]]を持ち、[[コン語]]の子音が解明されるまでは世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた。

[[膠着語|膠着的]]な形態法を持つ。[[能格]]型の格標示を行う。8~10個{{Refnest|group="注釈"|Dumézil (1965) p.267によれば、話者によって現在形と現在進行形の区別が存在した}}{{Refnest|group="注釈"|Dumézil (1975) p.151によれば、古ウビフ語で用いられていた過去形の時制が稀に出現する事があった}}の[[時制]]と6個の[[格]]{{Refnest|group="注釈"|Fenwick (2011) pp.33-45によれば、絶対格・関係格(能格と斜格)・処格・副詞格・共格・具格の6つ}}を区別する。動詞は多くの[[接頭辞]]と[[接尾辞]]によるきわめて複雑な[[派生]]・[[屈折]]を行う。

ウビフ語話者は自身の言語をtʷaχəbzaと呼んだ。これはウビフ人の自称である'''tʷaχə'''{{Refnest|group="注釈"|「ウビフ人」という単語はウビフ語でtʷaχəɬapq; tʷaχə(ウビフ)とɬapq(人種)の複合語。Vogt (1963) p.66及びp.142参照}}と言語を表す'''bza'''<ref>Vogtt (1963) p.91</ref>の複合語である。

「ウビフ」という名称は[[アディゲ語]]におけるウビフ人の呼称(アディゲ語:убых /wəbəx/)から来ている。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
ウビフ語を話す{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}は、もとは[[黒海]]北部沿岸の[[ソチ]]の付近に住んでいたが、[[1875年]]ごろに[[トルコ]]に移住した。[[1992年]]10月7日、ウビフ語の最後の話者であったテヴフィク・エセンチ(Tevfik Esenç)が死去し、ウビフ語は死滅した。


ウビフ語を話す{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}は、もとは[[黒海]]北部沿岸の[[ソチ]]の付近に住んでいたが、[[1864年]]に起きた[[ロシア]]との[[コーカサス戦争]]で敗戦後、生き残ったウビフ人は主に[[トルコ]]へ移住した。
エセンチとともにフランスの言語学者[[ジョルジュ・デュメジル]]や[[ジョルジュ・シャラキゼ]]が研究を行なった。


ウビフ語の最古の記録として知られているのはエヴリヤ・エフェンディによる{{仮リンク|セイハトナーメ|en|Seyahatnâme}}で、エヴリヤ・エフェンディの母親の母語であるアブハズ語と共に「サズ語」としてウビフ語を記録している<ref>Provasi, E. 1984. Encore sur l'oubykh d'Evliya Celebi. Annali 44: 307-317.</ref>。サズ人はアブハジア人の住む土地とウビフ人の住む土地の間に住んでいたと言われており、ウビフ人同様にコーカサス戦争後はトルコへ移住している。尚、サズ人はアブハズ語の一方言を話しており、ウビフ語とは関係無い。
== 特徴 ==

ウビフ語は83の[[子音]]を持ち(但し、そのうち3つは[[借用語]]にしか現れない)、以前は世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた。[[母音]]は2つしかない。そのほかにも数々の点で特異な言語である。
近代ではジェームス・ベルが1840年に「[[アバザ語]]」としてウビフ語の単語を記録しており<ref>[https://reader.digitale-sammlungen.de/en/fs1/object/goToPage/bsb10430693.html?pageNo=550 Bell, J. 1840 Journal of a Residence in Circassia: during the Years 1837, 1838 and 1839; in 2 Volumes. Volume 2, p.482]</ref>、1887年には{{仮リンク|ピョートル・ウスラル|en|Peter von Uslar}}が[[アブハズ語]]の文法書内の補遺にウビフ語の記録を遺している<ref>Uslar, P.K. 1887 Абхазскій языкъ.</ref>。

[[ロシア科学アカデミー]]の要請により{{仮リンク|アドルフ・ディル|en|Adolf Dirr}}が1913年にウビフ語の調査を行い、1928年にウビフ語に関する書籍を出版した<ref>Dirr, A. 1928 Die sprache der ubychen</ref>。これが知られている限り最も古い体系的なウビフ語の記録である{{Refnest|group="注釈"|Dirr A. (1928)pp.1-4によれば、これ以前の記録は前述のベルとウスラルのものと、Åge Benediktsenによる非公開の日記のみであった。}}。彼は自著にて次のようなことを述べており、1913年の時点で既にウビフ語が絶滅寸前であったことを示す証拠となっている。

{{Quotation|
... 正直、これが完成するかどうか怪しい。1898年にBenediktsenが既に述べていたことは1913年までに全て確認した。ウビフは絶滅した言語であり、全てのウビフ人はトリリンガル{{Refnest|group="注釈"|Uslar (1887)でもウビフ語話者がバイリンガルまたはトリリンガルであることを指摘しているが、彼はウビフ語・チェルケス語・アブハズ語のトリリンガルであると記述している。バイリンガルの場合、もう一つの言語はチェルケス語かアブハズ語である。}}であった。彼らは[[アディゲ語|チェルケス語]]、[[トルコ語]]、そして少しのウビフ語を知っていた。Kyrkbunarで私は喜ばしい事に、もちろん、完全ではないインフォーマットを見つけた。...

(中略)

...私は、私の仕事が後任にとても必要とされていることを非常に理解している。私は全力を尽くしたので、後は頑張ってほしい。私の前任が作った資料には欠陥があり、全てをやり直す必要があった。ウビフ語はUslarの時代ですらも「消滅した」言語であった。Uslarでさえ非常に単純な間違いをしていると思われるものがあり、例えば彼が純粋な単語の音素として考えていた指示辞aに関するところなどが挙げられる。信頼性の高い資料を入手するのは大変な作業だった。ウビフ人は最早独自の民話を持たず、チェルケス語やトルコ語で歌い、おとぎ話や伝統もまたウビフ語ではなくそれらの言語で語っている。Benediktsenは既にウビフ語の歌を知っていた老人は一年前に死んでいたという事を報告している ...
|Dirr, A. (1928) Die sprache der ubychen p.3|著作権保護期間満了}}

第二次世界大戦前に単独の本として出版されたウビフ語の著書はアドルフ・ディル以外に1931年にジョルジュ・デュメジル<ref>Dumézil 1931. La langue de Oubykhs.</ref>、1934年にジュリアス・メスザロス<ref>Mészáros, J. 1934 Die Päkhy-Sprache.</ref>がそれぞれ出版している。

第二次世界大戦後、[[ジョルジュ・デュメジル]]を筆頭に多くの学者がウビフ語を記録した。1954年に「ウビフ語の発音構造<ref>Dumézil, G. et A.Namitok. 1954 Le système de sons de l'oubykh. gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 49. pp.160-189</ref>」、1955年に「ウビフ語の喉音<ref>Dumézil, G. 1955 Les gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 51. pp.176-180</ref>」、1958年に「ウビフ語の母音<ref>Dumézil, G. 1958 Les vocalisme de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 53. pp.198-203</ref>」という論文が発表され、子音が80個以上存在するという学説が成立する。それ以前の文献では音素が正確でないため、注意が必要であるが、Dirr 1928とDumézil 1931に記載されたウビフ語テキストは1959年に校正され<ref>Dumézil 1959. Études oubykhs. pp.51-76</ref>、Mészáros 1934にはテキストが記載されていなかったが、”ことわざ一覧”については1960年に校正された<ref>Dumézil, G. 1960 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase I. pp.79-90</ref>。この音素構造の解明とテキストの校正では、ウビフ語話者であるテヴフィク・エセンチが活躍した。彼はトルコ語が流暢に話せない祖父母に育てられ{{Refnest|group="注釈"|Vogt (1963) pp.66-67にテヴフィク・エセンチ自身がウビフ語で自己紹介を述べた記録がある。曰く、幼い頃に父が病気で他界し、更にバルカン戦争と第一次世界大戦で彼を除く兄弟全員が死んでおり、祖父母と母の4人暮らしであった。}}、8歳までウビフ語のみで生活をしていた<ref>Vogt (1963) p.258</ref>最後のウビフ語母語話者で、1956年から彼が死ぬ1992年までウビフ語の記録に協力した。

単語集自体はDirr 1928, Dumézil 1931, Mészáros 1934に収録されているが、前述通り音素が正確でなかった。1963年、{{仮リンク|ハンス・フォークト|nn|Hans Vogt}}は今まで発表されたテキストを基にウビフ語-フランス語辞書を出版し<ref>Vogt 1963の事。参考文献参照。</ref>、これが初めてのウビフ語辞書となった。尚、この辞書は1965年デュメジルによって校正されている<ref>Dumézil 1965 pp.197-259</ref>ため、この辞書を用いる際はデュメジルによる校正も参照する事が望ましい。2020年6月現在、ウビフ語の辞書として出版されている著作物はフォークトの辞書とベルシロフによる辞書<ref>Берсиров,Б.М., Берсирова С.А. 2018 Убыхско-Адыгейско-Руский словарь.</ref>{{Refnest|group="注釈"|ベルシロフによる辞書は底本がフォークトの辞書であるので、1964年以降に収録されたテキストにある新規単語が反映されていない点に注意。}}のみである。

文法面は1959年以降、長らくまとまった資料が作られなかったが、1975年にデュメジルが「ウビフ語の動詞<ref>Dumézil 1975の事。参考文献参照</ref>」を出版した。ウビフ語全体の文法については1989年にシャラチゼが記述している<ref>Charachidzé 1989の事。参考文献参照</ref>。また、2011年には初めて英語で書かれた文法書がフェンウィックにより出版された<ref>Fenwick 2011の事。参考文献参照</ref>。

[[1992年]]10月7日、ウビフ語の最後の話者であったテヴフィク・エセンチが死去し、ウビフ語は死滅した。

2011年現在、ウビフ語の言葉を知る者は殆どおらず、知っていてもいくつかのフレーズが言える程度であったという報告がある<ref>[https://abkhazworld.com/aw/interview/86-interview-with-viacheslav-chirikba-ubykh Chirikba, V. The Ubykh People Were in Practice Consumed in the Flames of the Fight for Freedom]原文は2013年2月17日掲載</ref>。

=== 歴史的な話者分布 ===
公的なウビフ語の話者統計は存在しない。以下は断片的な情報である。

*1864年以前、ウビフ人はソチ周辺に住んでいた。キシュマホフによれば、ウビフ人は現在のヴォルコンカ(Волконка)以南ホスタ(Хоста)以北の範囲に住んでいた<ref>Kishmakhov, M.KH.-B. Problems of the ubykh ethnic history and culture.</ref>。
*1889年にÅge Benediktsen、1913年にジェームス・ベル、1930年にジョルジュ・デュメジルはトルコ共和国の{{仮リンク|サパンジャ|en|Sapanca}}にあるウビフ人の村を訪れていたが、1965年までに話者の殆どが死亡していた<ref>Dumézil 1965 pp.11-36</ref>。
*1931年ジュリアス・メスザロス、1953年以降のジョルジュ・デュメジル、1957年以降のハンス・フォークト、1965年以降の{{仮リンク|ジョルジュ・シャラチゼ|en|Georges Charachidzé}}などの大半の言語学者は[[バルケスィル]]のマニャス地区にあるウビフ人の村を訪れていた<ref>Smeets, R. 1994 Suffixal marking of plural in ubykh verb forms. Studia Caucasologica Ⅲ. p.38</ref>。テヴフィク・エセンチはマニャス地区のHacı Osman köyü (ウビフ語:lak°’ạs°a<ref>Vogft 1963 p.136</ref>)と呼ばれる地区に住んでいた。
*[[カフラマンマラシュ]]と[[サムスン]]にもウビフ語話者が居たとされているが、カフラマンマラシュでは1967年に最後の話者が死亡し、サムスンでは1974年の時点で誰もウビフ語を話していなかったという報告があり、言語学者による調査は殆ど行われていない<ref>Smeets, R. 1986 On Ubykh Circassian. Studia Caucasologica Ⅰ. p.278</ref>。

== 音素==
ウビフ語は北西コーカサス語族の中では数少ない、咽頭音を区別する言語として知られている。咽頭音を区別する言語は他にも[[アブハズ語]]のブズィプ方言などが知られているが、ウビフ語は北西コーカサス語族の中でも特に咽頭音が多い<ref>Colarusso (1988) p.150</ref>。

ウビフ語に出現する音素は話者により若干異なる。テヴフィク・エセンチのように外来語由来の子音を含め84個の音素を区別している者もいれば、一方で60個程度しか子音の区別がなかったケースもある(後述)。

他の北西コーカサス語族に属する言語と同じく、母音の数が極端に少ない。ウビフ語では2個または3個しかない。

===子音===
子音は80個または81個存在する。これは[kʼ]を固有の音素として数えるかどうかで学者によって意見が異なっているためである。

いずれも[[借用語]]に現れる音素を含めれば84個である。借用語にのみ現れる子音は[k] [g] [v]の3音素で、[kʼ]を加えるなら4音素である。

以下はデュメジルによる子音表<ref>Dumézil (1975) p.13</ref>及びフェンウィックによる実際の発音記号<ref>Fenwick (2011) pp.17-24</ref>である。デュメジルは[kʼ]を固有の音素として数えている。

ウビフ語では歯茎音~歯茎硬口蓋音の間に独特な唇音化が発生した<ref>Fenwick (2011) p.21, Vogt (1963) pp.15-17</ref>。[[アブハズ語#音韻|アブハズ語の唇音化]]も参照。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! rowspan=2 colspan=2 |
! colspan=2 | [[唇音]]
! colspan=3 | [[歯茎音]]
! colspan=2 | [[後部歯茎音]]
! colspan=2 | [[歯茎硬口蓋音]]
! rowspan=2 | [[そり舌音]]
! colspan=4 | [[軟口蓋音]]
! colspan=5 | [[口蓋垂音]]
! rowspan=2 | [[声門音]]
|- class=small
! 平音
! [[咽頭化|咽頭]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[側面音|側面]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[咽頭化|咽頭]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[咽頭化|咽頭]]
! 唇音+咽頭
|-
! colspan=2 | [[鼻音]]
| {{IPA|m}}
| {{IPA|mˤ}}
| {{IPA|n}}
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| ({{IPA|ʔ}}){{Refnest|group="注釈"|Vogt (1963) p.43によれば話者によって[qʼ]の異音として[ʔ]が発音される事があり、特に文末に来る過去形マーカー"-qʼa"が"-ʔa"になった。}}
|-
! rowspan=3 | [[破裂音]]
! <small>[[無声音]]</small>
| {{IPA|p}}
| {{IPA|pˤ}}
| {{IPA|t}}
| {{IPA|t͡p}}
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| {{IPA|q}}
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| {{IPA|qʷˤ}}
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|-
! <small>[[有声音]]</small>
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| {{IPA|bˤ}}
| {{IPA|d}}
| {{IPA|d͡b}}
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| {{IPA|ɡʲ}}
| <span style="color:orange;">{{IPA|ɡ}}</span>
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|pˤʼ}}
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| {{IPA|t͡pʼ}}
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| {{IPA|kʼ}}
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| {{IPA|qʼ}}
| {{IPA|qʷʼ}}
| {{IPA|qˤʼ}}
| {{IPA|qʷˤʼ}}
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|-
! rowspan=3 | [[破擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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| {{IPA|t͡ɕ}}
| {{IPA|t͡ɕᶲ}}
| {{IPA|ʈ͡ʂ}}
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! <small>[[有声音]]</small>
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| {{IPA|d͡ʑ}}
| {{IPA|d͡ʑᵝ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|t͡ʃʼ}}
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| {{IPA|t͡ɕʼ}}
| {{IPA|t͡ɕᶲʼ}}
| {{IPA|ʈ͡ʂʼ}}
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|-
! rowspan=3 | [[摩擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
| {{IPA|f}}
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| {{IPA|s}}
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| {{IPA|ɬ}}
| {{IPA|ʃ}}
| {{IPA|ʃʷ}}
| {{IPA|ɕ}}
| {{IPA|ɕᶲ}}
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| {{IPA|x}}
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| {{IPA|χʲ}}
| {{IPA|χ}}
| {{IPA|χʷ}}
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| {{IPA|χˤʷ}}
| {{IPA|h}}
|-
! <small>[[有声音]]</small>
| <span style="color:orange;">{{IPA|v}}</span>
| {{IPA|vˤ}}
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| {{IPA|ɣ}}
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| {{IPA|ʁʲ}}
| {{IPA|ʁ}}
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| {{IPA|ʁˤ}}
| {{IPA|ʁˤʷ}}
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|-
! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|ɬʼ}}
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! colspan=2 | [[接近音]]
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| {{IPA|l}}
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| {{IPA|j}}
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| {{IPA|w}}
| {{IPA|wˤ}}
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! colspan=2 | [[ふるえ音]]
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| {{IPA|r}}
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===母音===
母音は他の北西コーカサス語族と同様極端に少なく、2つまたは3つしか区別が存在しない。

開母音について、長母音と短母音の違い(母音としては1種類)があるか、開母音と広開母音の違いがあるかの2つの学説が存在し、学者によって意見が異なるため母音の数が確定していない。

また、母音の区別が少ないがために多くの異音が現れる。次に挙げる国際音声記号は三母音説に基づいた目安である<ref>Fenwick (2011) p.25</ref>。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
!
! 母音
|-
! 閉母音
| {{IPA|e}}~{{IPA|ɨ}}~{{IPA|u}}
|-
! 開母音/短開母音
| {{IPA|a}}~{{IPA|ɜ}}~{{IPA|o}}
|-
! 広開母音/長開母音
| {{IPA|a}}~{{IPA|ɐ}}~{{IPA|ɑ}}
|}

== 方言 ==
話者によってウビフ語の差異が存在するため厳密には話者毎に方言を設定する事ができるが、特筆するべきはデュメジルがKaracalarでOsman Güngörというインフォーマットから記録したウビフ語(の方言と思わしきもの{{Refnest|group="注釈"|Dumézil (1965) pp.266-269 見出しのタイトルがUn dialecte oubykh? となっている事から、デュメジルはこれを方言であると断定していない事がわかる}})である。

=== 音素 ===
多くの違いが存在するが、特に異なる部分は以下の3点である。
* 咽頭音が殆ど出現しない。変わりに平音または[[硬音]](fortis)が出現する。デュメジルは abˤa (病気)と qʷˤə (吠える)の2単語でのみ咽頭音を観測している。
*口蓋化口蓋垂音が出現しない。変わりに平音または[[硬音]](fortis)が出現する。
* [t͡p] [d͡b] [t͡pʼ] が完全に[p] [b] [pʼ]として発音されている。

以下に挙げるのはコラルッソによる子音表<ref>Colarusso (1988) p.418</ref>である。ただし[ɣ]についてデュメジルは存在しない事が示唆されると書いているため赤で示した。

またデュメジルが示したが、コラルッソが示さなかった音素[mː](mːa りんご,mˤa)と、[qː](qːa - 咳をする,qʲa)を青で示した。

[bˤ]と[qʷˤ]は本表には加えていない。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! rowspan=2 colspan=2 |
! colspan=2 | [[唇音]]
! colspan=3 | [[歯茎音]]
! colspan=2 | [[後部歯茎音]]
! colspan=3 | [[歯茎硬口蓋音]]
! rowspan=2 | [[そり舌音]]
! colspan=4 | [[軟口蓋音]]
! colspan=5 | [[口蓋垂音]]
! rowspan=2 | [[声門音]]
|- class=small
! 平音
! [[硬音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[側面音|側面]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 唇音+硬音
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[硬音]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[硬音]]
! 唇音+硬音
|-
! colspan=2 | [[鼻音]]
| {{IPA|m}}
| <span style="color:blue;">{{IPA|mː }}</span>
| {{IPA|n}}
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! rowspan=3 | [[破裂音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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| <span style="color:blue;">{{IPA|qː }} </span>
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! <small>[[有声音]]</small>
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| {{IPA|d}}
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| {{IPA|ɡʲ}}
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| {{IPA|ɡʷ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
| {{IPA|pʼ}}
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| {{IPA|tʼ}}
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| {{IPA|kʲʼ}}
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| {{IPA|kʷʼ}}
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| {{IPA|qʼ}}
| {{IPA|qʷʼ}}
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! rowspan=3 | [[破擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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| {{IPA|t͡s}}
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| {{IPA|t͡ʃ}}
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| {{IPA|t͡ɕ}}
| {{IPA|t͡ɕʷ}}
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| {{IPA|ʈ͡ʂ}}
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! <small>[[有声音]]</small>
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| {{IPA|d͡z}}
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| {{IPA|d͡ʒ}}
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| {{IPA|d͡ʑ}}
| {{IPA|d͡ʑʷ}}
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| {{IPA|ɖ͡ʐ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|t͡sʼ}}
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| {{IPA|t͡ʃʼ}}
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| {{IPA|t͡ɕʼ}}
| {{IPA|t͡ɕʷʼ}}
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| {{IPA|ʈ͡ʂʼ}}
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! rowspan=3 | [[摩擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
| {{IPA|f}}
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| {{IPA|s}}
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| {{IPA|ɬ}}
| {{IPA|ʃ}}
| {{IPA|ʃʷ}}
| {{IPA|ɕ}}
| {{IPA|ɕʷ}}
| {{IPA|ɕː ʷ}}
| {{IPA|ʂ}}
|
| {{IPA|x}}
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| {{IPA|χ}}
| {{IPA|χʷ}}
| {{IPA|χː }}
| {{IPA|χː ʷ}}
| {{IPA|h}}
|-
! <small>[[有声音]]</small>
| {{IPA|v}}
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| {{IPA|z}}
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| {{IPA|ʒ}}
| {{IPA|ʒʷ}}
| {{IPA|ʑ}}
| {{IPA|ʑʷ}}
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| {{IPA|ʐ}}
|
| <span style="color:red;">{{IPA|ɣ}}</span>
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| {{IPA|ʁ}}
| {{IPA|ʁʷ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|ɬʼ}}
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! colspan=2 | [[接近音]]
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| {{IPA|l}}
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| {{IPA|j}}
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| {{IPA|w}}
| {{IPA|wː }}
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! colspan=2 | [[ふるえ音]]
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| {{IPA|r}}
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|}


== 文字 ==
ウビフ語は文字を持たない言語であったが、言語学者が自著に記述する際に作成された文字体系が存在する。

以下は特に多くのウビフ語の記録を行ったジョルジュ・デュメジル<ref>Dumézil (1975) p.13</ref>及びハンス・フォークト<ref>Vogt (1963) p.13</ref>により記述された便宜上の文字である。

デュメジルは母音を3つ、フォークトは母音を4つ{{Refnest|group="注釈"|Fenwick (2011) p.25によれば4母音説を唱えたのはフォークトのみ。厳密にはフォークトは長母音・短母音を採用した2母音説}}に設定した。

デュメジル特有の音素を<span style="color:red;">赤字</span>、フォークト特有の音素を<span style="color:blue;">青字</span>、外来語(主にトルコ語)のみに現れる音素を<span style="color:orange;">橙字</span>で示す。

[kʼ]をデュメジルは固有音素として数えている一方、フォークトは固有音素として数えていない。

{| class="wikitable IPA"
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | a <br /><span style="color:red;">/ɜ/</span> <span style="color:blue;">/a/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">ạ</span> , <span style="color:blue;">aː </span> <br /><span style="color:red;">/ɐ/</span> <span style="color:blue;">/aː /</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | b <br /> /b/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ḇ <br /> /bˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c <br /> /t͡s/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c’ <br /> /t͡sʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ċ <br /> /t͡ɕ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ċ’ <br /> /t͡ɕʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c° <br /> /t͡ɕʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c°’ <br /> /t͡ɕʷʼ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | č <br /> /ʈ͡ʂ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | č’ <br /> /ʈ͡ʂʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | čʹ <br /> /t͡ʃ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | čʹ’ <br /> /t͡ʃʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | d <br /> /d/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | d° <br /> /dʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">e<br /> /e/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | f <br /> /f/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">g<br /> /g/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | gʹ <br /> /gʲ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | g° <br /> /gʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | h <br /> /h/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ı <br /> /ɯ/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">i <br /> /i/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">k <br /> /k/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k’<br /> /kʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | kʹ <br /> /kʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | kʹ’ <br /> /kʲʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k° <br /> /kʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k°’ <br /> /kʷʼ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | l <br /> /l/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">λ</span> , <span style="color:blue;">ɬ</span> <br /> /ɬ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | λ’ <br /> /ɬʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | m <br /> /m/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | m̱ <br /> /mˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | n <br /> /n/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">o <br /> /o/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ö <br /> /œ/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:blue;">oː <br /> /oː / <br />{{Refnest|group="注釈"|フォークト以外では"aw" /ɜw/ ~ /ow/に相当する。}}</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p <br /> /p/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p’ <br /> /pʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p̄ <br /> /pˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p̄’ <br /> /pˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q <br /> /q/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q’ <br /> /qʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | qʹ <br /> /qʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | qʹ’ <br /> /qʲʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q° <br /> /qʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q°’ <br /> /qʷʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄ <br /> /qˤ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄’ <br /> /qˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄° <br /> /qʷˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄°’ <br /> /qʷˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | r <br /> /r/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | s <br /> /s/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ṡ <br /> /ɕ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | s° <br /> /ɕʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | š° <br /> /ʃʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | š <br /> /ʂ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | šʹ <br /> /ʃ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t <br /> /t/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t° <br /> /tʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t’ <br /> /tʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t°’ <br /> /tʷʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">u <br /> /u/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ü <br /> /y/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">v <br /> /v/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | v̱ <br /> /vˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | w <br /> /w/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | w̱ <br /> /wˤ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x <br /> /χ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | xʹ <br /> /χʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x° <br /> /χʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x̄ <br /> /χˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x̄° <br /> /χˤʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | χ <br /> /x/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | y <br /> /j/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | z <br /> /z/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ż <br /> /ʑ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | z° <br /> /ʑʷ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ž° <br /> /ʒʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ž <br /> /ʐ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | žʹ <br /> /ʒ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ <br /> /ʁ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γʹ <br /> /ʁʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ° <br /> /ʁʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ̄ <br /> /ʁˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ̄° <br /> /ʁˤʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǧ <br /> /ɣ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ <br /> /d͡z/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ̇ <br /> /d͡ʑ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ° <br /> /d͡ʑʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǯ <br /> /ɖ͡ʐ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǯʹ <br /> /d͡ʒ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">ʹ</span> , <span style="color:blue;">?</span> <br /> /ʔ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ə <br /><span style="color:red;">/ɨ/</span> <span style="color:blue;">/ə/</span>
|}

== 文法 ==
特に断りがなければ、以下の内容はCharachidzé 1989, Dumézil 1975, Fenwick 2011に従う。

ウビフ語は[[能格言語]]であるため、[[対格言語]]である日本語から見ると[[自動詞]]の[[主格]]と[[他動詞]]の[[目的格]]が文法上同じ扱いをする。また、[[標識 (言語学)|マーカー]]によって語の文法的機能の付与を行う。
====格====
ウビフ語では6種類の基底となる格が存在する。

* [[絶対格]]: 単数・複数共にマーカー無し。
* [[能格]]-[[斜格]]: 単数 -n 複数 -na
* 副詞格: -nə
* [[処格]]: -γa
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-t°ax°a-qafa-γa ||ạ-kʹ’a-q’a-n.
|-
|the-river-shore-LOC ||3pABS-go-PAST-PL
|}
::彼らは川岸へ行った。 (Dumézil 1968 - "The world ends tomorrow"<ref>https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-f3cccaf0-cd8e-3353-b227-fc6e196577ce&idref=cocoon-81e5e086-e55c-3636-a835-586929d58316</ref> )

* [[共格]]: -ạla
共格マーカー-ạlaは接続辞の意味合いを持つ。
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạyda-xə{{Refnest|group="注釈"|原文ではạydəxəになっているが、Fenwick 2011 p.81によれば、ɐjdɜ-χɨ (ạyda-xə)}}-n-gʹə ||s°əḇa-ạla||psa-ạla ||ø-ø-x°ada-n ||ạ-y-nə-w-q’a.
|-
|another-belonging.to-ERG-also ||cheese-COM ||fish-COM ||3sABS-3sERG-buy-CONV ||3pABS-PREV{{Refnest|group="注釈"|動詞前辞-y-は反動作を示す。-wə-「運ぶ」に対して-y-wə-「持ってくる」。他にも-kʹ’a-「行く」に対して-y-kʹ’a-「来る」などがある}}-3sERG-carry-PAST
|}
::もう一人もチーズと魚を買って持ってきた。(Dumézil 1968 - "Eating fish makes you clever"<ref>https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-2b11e515-358b-3c21-8fa5-4ad299b6a613&idref=cocoon-33ecd2ad-12cc-30df-97c2-58f5f93023ec</ref> )

* [[具格]]: -awnə
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|Bardanaq°a-gʹə ||γa-t’q°’a-q’ạp’a-awn||ạ-c’ạγa ||ø-ø-q°’a-n ||(...)
|-
|Badanoquo-also ||3sPOSS-two-hand-INSTR ||the-cup{{Refnest|group="注釈"|原典の翻訳による。一方、Vogt 1963 p.98によれば「皿」}} ||3sABS-3sERG-take-CONV || (...)
|}
::バダノコ{{Refnest|group="注釈"|Bardanaq°aはナルト叙事詩に出てくる狩人。Colarusso, J. 2002 Nart sagas from the caucasus: myths and legends from the circassians, abazas, abkhaz, and ubykhs. pp.274-275参照。}}も両手でコップを取って… (Dumézil 1960 p.435<ref>Dumézil, G. 1960 "Récits Oubykh Ⅳ Textes sur Sawsərəq°a" Année 1960 pp.431-462.</ref>)

====基本文型====
基本文形はSOVまたはAOV(Agent-Objective-Verb)である。

斜格を取る自動詞では、絶対格が主格を取るときと、斜格が主格を取るときの2パターンが存在する。これは動詞によって異なる。

*SOVの例 (絶対格 斜格 動詞)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-γ°ənd°ə ||ạ-γ°ən-ša-n ||ø-ø-šəq°’ạ-t°’as-q’a.
|-
|the-bird(ABS) ||the-top-tree-OBL ||3sABS-3sOBL-preverb-sit-PAST
|}
::鳥が木の頂に止まった。 (Fenwick 2011 p.35, Dumézil 1975 p.122)

*SOVの例 (斜格 絶対格 動詞)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|za-tətə-n ||t’q°’a-q°a ||ø-ø-q’ạ-γ-q’a.
|-
|one-man-OBL ||two-son(ABS) ||3pABS-3sOBL-by.hand(PREV)-hang-PAST
|}
::ある男が2人の息子を持っていた。 (Vogt 1963 p.72)

*AOVの例 (能格 絶対格 動詞)
人称代名詞には、能格-斜格マーカーはつかない。
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|γ°a ||zakʹ’a ||sə-pšʹa ||da-ø-w-bəya-q’a-γạfa ||wə-š°ačʹá-n.
|-
|you(ERG) ||once ||1sPOSS-back(ABS) ||how-3sABS-2sERG-see-hang-PAST-because ||2sABS-laugh-PRES
|}
::あなたは一度私の後ろを見たから笑った。 (Dumézil 1968 - "The goat and the sheep"<ref>https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-03c7f3a0-b6a2-3df6-b67d-5e6ef019c281&idref=cocoon-bb839640-d38c-33cd-97bd-30bd00bfb542</ref>)

===形容詞・副詞===
形容詞または動詞で名詞を修飾する事で別の意味を持った名詞、複合語を作る事ができる。この時、後置修飾である。

動詞の過去形を形容詞として名詞に修飾し、複合語を作る事がある。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|za-pxʹas°-ạnəs°a
|-
|one-woman-beautiful
|}
::(1人の,とある)美しい女性 (Dumézil 1975 p.155)

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|čʹa-t°’a-q'a
|-
|milk-purulent-PAST
|}
::ヨーグルト (直訳:膿んだ牛乳) (Vogt 1963 p.104)


形容詞は副詞格マーカーを併用すると副詞になる。副詞は動詞に対して前置修飾である。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|yada-n|| ạ-č’a-gʹəγə-ø
|-
|much-ADV|| 3sABS-good-very-PRES(STAT)
|}
::とても良い。 (Vogt 1963 p.67)

=== 動作動詞 ===
ウビフ語には動作動詞と状態動詞の2種類の動詞が存在するが、今回は動作動詞のみを取り上げる。

ウビフ語に限らず、北西コーカサス語族の動詞の構造は非常に複雑である。重要な要素のみを取り上げると、動詞の構造は'''「絶対格(ABS)-斜格(OBL)-関係動詞前辞(REL)-斜格(OBL)-動詞前辞(PREV)-能格(ERG)-否定辞(NEG)-動詞語幹-[[アスペクト]]-複数辞(PL)-[[時制]]-複数辞(PL)-否定辞(NEG)-[[ムード]]」'''である。複数辞と否定辞が2個あるのは、時制によって出現位置が変わるからである。


人称は1人称から3人称まで存在し、単数・複数の区別がある。男女の区別は存在しない{{Refnest|group="注釈"|かつては2人称単数にのみ男女の区別があったとされたが、これは動詞の関係格マーカーの可能性がある。Dumézil 1975 p.77参照。}}。

====人称代名詞====
* 1人称単数 səγ°a
* 2人称単数 wγ°a, γ°a
* 3人称単数 ạγ°a
* 1人称複数 šʹəγ°aλa
* 2人称複数 s°əγ°aλa
* 3人称複数 ạγ°aλa

====絶対格人称マーカー====
* 1人称単数 s(ə)-
* 2人称単数 w(ə)-, ø-(命令文の時、無標となる事がある)
* 3人称単数 ạ-, yə-, ə-, ø-
* 1人称複数 šʹ(ə)-
* 2人称複数 s°(ə)-
* 3人称複数 ạ-, yə-, ø-
* 無人称 ya-

3人称マーカーが複数あるが、これは以下のルールに従う。
*自動詞
**3人称単数ならばạ-またはø-, 3人称複数ならばạ-
*斜格を伴う自動詞または他動詞
**後続の人称マーカーが1人称または2人称ならば単数ạ-またはø-,複数ạ-
**後続の人称マーカーが3人称単数なら単数複数共にyə-またはø-
**後続の人称マーカーが3人称複数なら、無標(ø-)。
*斜格を伴う他動詞
**斜格人称マーカーが1人称または2人称ならばいかなる能格でも単数ạ-またはø-,複数ạ-
**斜格が3人称単数なら、いかなる能格でもyə-。更に能格が3人称単数ならば省略できる(ø-)。
**斜格が3人称複数なら、いかなる能格でも無標(ø-)。
*絶対格人称マーカーにアクセントがあるとき、yə-はə-になる事がある。
*無人称絶対格マーカーは本来絶対格を取らなければならない他動詞で絶対格を取らない時に用いる。
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|čʹ’ax°a|| ya-sə-fə-q’a-ma.
|-
|today|| nullABS-1sERG-eat-PAST-NEG
|}
::今日、私はまだ何も食べていない。(Fenwick 2011 p.108)

====斜格人称マーカー====
* 1人称単数 s(ə)-, z-
* 2人称単数 w(ə)-
* 3人称単数 ø-
* 1人称複数 šʹ(ə)-, žʹ-
* 2人称複数 s°(ə)-, z°(ə)-
* 3人称複数 ạ-

後続するマーカーまたは動詞の語幹が有声音かつ斜格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

====能格人称マーカー====
* 1人称単数 s(ə)-, z-
* 2人称単数 w(ə)-, ø-(命令文の時、無標となる事がある)
* 3人称単数 ø- (斜格または動詞前辞が無い時), n(ə)- (斜格または動詞前辞が有る時)
* 1人称複数 šʹ(ə)-, žʹ-
* 2人称複数 s°(ə)-, z°(ə)-
* 3人称複数 ạ- (斜格または動詞前辞が無い時), nạ- (斜格または動詞前辞が有る時)

後続するマーカーまたは動詞の語幹が有声音かつ能格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

====時制====
ウビフ語の時制は8個から10個存在する。今回はうち6個を取り上げる。

未来形が2個あるが、未来形Ⅰは実際に起きる確率が高い未来で、未来形Ⅱは不確かさのある未来形である。

時制の単数・複数は絶対格の単数・複数に依存する。たとえ斜格・能格が複数でも絶対格が単数ならば時制は単数である。

*現在形 単数 -n; 複数 -ạ-n
**否定形 単数 -m(ə)-語幹-n; 複数 -m(ə)-語幹-ạ-n
*過去形 単数 -q’a; 複数 -q’a-n
**否定形 単数 -q’a-ma; 複数-q’a-na-ma
*未来形Ⅰ 単数 -aw; 複数 -na-aw
**否定形 単数 -amət; 複数 -na-amət
*未来形Ⅱ 単数 -awt; 複数 -na-awt
**否定形 単数 -awmət; 複数 -na-awmət
*過去進行形 単数 -na-jt’; 複数 -ạ-na-jλ
**否定形 単数 -m(ə)-語幹-na-jt’; 複数 -m(ə)-語幹-ạ-na-jλ
*過去完了形 単数 -q’a-jt’; 複数 -q’a-jλ ~ -q’a-na-jt’
**否定形 単数 -q’a-jt’-ma; 複数 -q’a-jλa-ma ~ -q’a-na-jt’-ma

====基本動詞型====
自動詞、斜格のある自動詞、他動詞、斜格のある他動詞の4パターンに分かれる。デュメジルはこれをA~Dパターンと分類した。

*自動詞(A)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-tət|| ø-q̄a-q’a.
|-
|the-man(ABS)|| 3sABS-run-PAST
|}
::その男は走った。 (Charachidzé 1989 p.370)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-tət|| ạ-q̄a-q’a-na.
|-
|the-man(ABS)|| 3pABS-run-PAST-PL
|}
::その男たちは走った。 (Charachidzé 1989 p.370)

*斜格のある自動詞(B)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| sə-wə-ya-n.
|-
|1sABS-2sOBL-hit-PRES
|}
::私はあなたを叩いた。 (Dumézil 1975 p.87)

*他動詞(C)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| sə-z°-bya-n.
|-
|1sABS-2sERG-see-PRES
|}
::あなたたちは私を見る。 (Dumézil 1975 pp.87-88)

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| s°ə-z-bya-ạ-n.
|-
|2pABS-2sERG-see-PL-PRES
|}
::私はあなたたちを見る。 (Dumézil 1975 pp.87-88)

*斜格のある他動詞(D)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ạ-sə-wə-t°ə-n.
|-
|3sABS-1sOBL-2sERG-give-PRES
|}
::あなたはそれを私へあげる。 (Dumézil 1975 pp.90-92)

*斜格が2個ある例
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ạ-s-xʹa-w-γa-nə-wt°ə-ạy-awt
|-
|3sABS-1sOBL<sub>a</sub>-REL(BEN){{Refnest|group="注釈"|斜格が2個現れる場合は、必ず関係動詞前辞も出現する。関係動詞前辞は3種類ある。Fenwick 2011 p.110参照。}}-2sOBL<sub>b</sub>-PREV-3sERG-remove-反復相(アスペクト)-FUTⅡ
|}
::3sERGは3sABSをあなた<sub>b</sub>から私<sub>a</sub>へ奪い返すだろう。 (Dumézil 1975 pp.102)

=== 数字 ===
ウビフ語は北西コーカサス語族の他言語と同じく、20進数である。純数詞で2つ以上の数詞を言う場合、両方の数詞に共格マーカー-ạlaが伴う。
{| class="wikitable"
|-
! 数 !! 数詞 !! 数 !! 数詞 !! 数 !! 数詞
|-
| 1 || za || 11 || ž°əza || 21 || t’q°’at°’ạla zạla
|-
| 2 || t’q°’a || 12 || ž°ət’q°’a || 39 || t’q°’at°’ạla ž°əbγʹạla
|-
| 3 || ṡa || 13 || ž°əṡa || 40 || t’q°’amċ’at’q°’at°’
|-
| 4 || p’λ’ə || 14 || ž°əp’λ’ || 50 || š°azaǯʹa
|-
| 5 || šʹχə || 15 || ž°əšʹχ || 60 || ṡamċ’at’q°’at°’
|-
| 6 || fə || 16 || ž°əf || 80 || p’λ’əmċ’at’q°’at°’
|-
| 7 || blə || 17 || ž°əbl || 100 || š°a
|-
| 8 || γ°a || 18 || ž°əγ°a || 200 || t’q°’aš°a
|-
| 9 || bγʹə || 19 || ž°əbγʹ || 300 || ṡəš°a{{Refnest|group="注釈"|発音の問題でṡaš°aとならない。同じく同音異義語のṡə-š°a(3年)でもṡaš°aとならない。Fenwick 2011 p.90参照}}
|-
| 10 || ž°ə || 20 || t’q°’at°’ || 1000 || bən, mən
|}

====例====

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|bən-ạla||bγʹəš°a-ạla||p’λ’ə-š°a-awn||sə-γ̄-q’a.
|-
|1000-COM ||900-COM ||4-year-INSTR ||1sABS-be.born-PAST
|}
::私は1904年に生まれた。 (Vogt 1963 p.66)

==例文==

以下の文は全てテヴフィク・エセンチによって示された189個のことわざの抜粋である<ref>Dumezil, G. 1985 Proverbes tcherkesses en oubykh. Revue des etudes georgiennes et caucasiennes 1. pp.1-8.</ref>。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-psašʹạkʹ’a ||tətə-n ||ạ-ċaxʹə-n ||γa-gʹə ||waʒ̇a ||š°wa ||da-ø-la-mə-tə-ʒ̇.
|-
|the-worker ||human-OBL ||the-more{{Refnest|group="注釈"|比較級を表す形容詞は冠詞ạ-を伴うと最上級の意味になる}}-ADV||3sPOSS-self ||angry ||thing ||how-3sABS-PREV-NEG-be-COP{{Refnest|group="注釈"|da-は肯定文だと「~の時」という意味になる。}}.
|}
::勤勉な者にとって最大の怒りは仕事がない事だ。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ạ-caca ||ø-m-γ̄ə-ba ||ạ-gʹəʒa-š-awəyt’-ma.
|-
|the-small ||3sABS-NEG-be.born-if ||3sABS-big-become-CONDⅠ-NEG.
|}
::小さく生まれなかったら大きく成れなかった。(人は誰でも生まれた時は小さかった。)

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|za-laqʹa-awnə||za-q̄ạla|| ạ-w-šʹ-fa-awmət.
|-
|one-stone-INSTR||one-fortress|| 3sABS-2sOBL-become-can-FUTⅡ.NEG.
|}
::一つの石で要塞は作れない。


[[膠着語|膠着的]]な形態法を持つ。[[能格]]型の格標示を行う。4つの[[格]]を区別する。動詞は多くの[[接頭辞]]と[[接尾辞]]によるきわめて複雑な[[派生]]・[[屈折]]を行う。
==脚注==
==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist}}
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}


==関連項目==
==関連項目==
*{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}
*{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}
*[[アブハズ語]]
*[[アディゲ語]]

==参考文献==
* Charachidzé, G. 1989 Oubykh. (Hewitt, B.G. (ed.) The indigenous languages of the Caucasus 2: North West Caucasus, pp.359-459)
* Colarusso, J. 1988 The Northwest Caucasian Languages: a phonological survey. Routledge.
* Dumézil, G. 1965 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase III. Institut d'ethnologie: Paris. (Vogt (1963) の校正が収録されている。)
* Dumézil, G. 1975 Le verbe oubykh. Paris.
* Fenwick, R.S.H. 2011 A Grammar of Ubykh. Lincom Europa.
* Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.


==外部リンク==
==外部リンク==
39行目: 1,191行目:
*[http://llmap.org/languages/uby.html LL-Map]
*[http://llmap.org/languages/uby.html LL-Map]
*[http://multitree.org/codes/uby MultiTree]
*[http://multitree.org/codes/uby MultiTree]
*[http://archive.phonetics.ucla.edu/Language/UBY/uby.html The UCLA Phonetics Lab Archive - Ubykh] ウビフ語の単語が聞けるサイト
**単語リストにはいくつか間違いがある。例えば、"私" ben はsəsanではなくsəɣʷa
*[https://pangloss.cnrs.fr/corpus/list_rsc.php?lg=Ubykh Autres enregistrements en Ubykh] ウビフ語の単語と民話が聞けるサイト
*[https://oi.uchicago.edu/research/publications/saoc/saoc-9-die-pakhy-sprache Meszaros, J. 1934 Die Pakhy-Sprache]


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[[Category:死語]]
[[Category:死語]]

2020年6月27日 (土) 10:13時点における版

ウビフ語
t°axəbza , tʷaχəbza
発音 IPA: t͡pɜχɨbzɜ
話される国 ソチ周辺(1864年以前)
トルコ(1864年以後)
地域 コーカサス
消滅時期 1992年10月7日
言語系統
表記体系 無文字言語
言語コード
ISO 639-1 なし
ISO 639-2 cau
ISO 639-3 uby
消滅危険度評価
Extinct (Moseley 2010)
テンプレートを表示

ウビフ語(ウビフご、ウビフ語:t°axəbza, tʷaχəbza, tʷɜχɨbzɜ)は、かつてウビフ人によって話されていた北西コーカサス語族(アブハズ・アディゲ諸語)の言語の一つ。

概要

ウビフ語は80または81の子音を持ち、コン語の子音が解明されるまでは世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた。

膠着的な形態法を持つ。能格型の格標示を行う。8~10個[注釈 1][注釈 2]時制と6個の[注釈 3]を区別する。動詞は多くの接頭辞接尾辞によるきわめて複雑な派生屈折を行う。

ウビフ語話者は自身の言語をtʷaχəbzaと呼んだ。これはウビフ人の自称であるtʷaχə[注釈 4]と言語を表すbza[1]の複合語である。

「ウビフ」という名称はアディゲ語におけるウビフ人の呼称(アディゲ語:убых /wəbəx/)から来ている。

歴史

ウビフ語を話すウビフ人は、もとは黒海北部沿岸のソチの付近に住んでいたが、1864年に起きたロシアとのコーカサス戦争で敗戦後、生き残ったウビフ人は主にトルコへ移住した。

ウビフ語の最古の記録として知られているのはエヴリヤ・エフェンディによるセイハトナーメ英語版で、エヴリヤ・エフェンディの母親の母語であるアブハズ語と共に「サズ語」としてウビフ語を記録している[2]。サズ人はアブハジア人の住む土地とウビフ人の住む土地の間に住んでいたと言われており、ウビフ人同様にコーカサス戦争後はトルコへ移住している。尚、サズ人はアブハズ語の一方言を話しており、ウビフ語とは関係無い。

近代ではジェームス・ベルが1840年に「アバザ語」としてウビフ語の単語を記録しており[3]、1887年にはピョートル・ウスラル英語版アブハズ語の文法書内の補遺にウビフ語の記録を遺している[4]

ロシア科学アカデミーの要請によりアドルフ・ディル英語版が1913年にウビフ語の調査を行い、1928年にウビフ語に関する書籍を出版した[5]。これが知られている限り最も古い体系的なウビフ語の記録である[注釈 5]。彼は自著にて次のようなことを述べており、1913年の時点で既にウビフ語が絶滅寸前であったことを示す証拠となっている。

... 正直、これが完成するかどうか怪しい。1898年にBenediktsenが既に述べていたことは1913年までに全て確認した。ウビフは絶滅した言語であり、全てのウビフ人はトリリンガル[注釈 6]であった。彼らはチェルケス語トルコ語、そして少しのウビフ語を知っていた。Kyrkbunarで私は喜ばしい事に、もちろん、完全ではないインフォーマットを見つけた。...

(中略)

...私は、私の仕事が後任にとても必要とされていることを非常に理解している。私は全力を尽くしたので、後は頑張ってほしい。私の前任が作った資料には欠陥があり、全てをやり直す必要があった。ウビフ語はUslarの時代ですらも「消滅した」言語であった。Uslarでさえ非常に単純な間違いをしていると思われるものがあり、例えば彼が純粋な単語の音素として考えていた指示辞aに関するところなどが挙げられる。信頼性の高い資料を入手するのは大変な作業だった。ウビフ人は最早独自の民話を持たず、チェルケス語やトルコ語で歌い、おとぎ話や伝統もまたウビフ語ではなくそれらの言語で語っている。Benediktsenは既にウビフ語の歌を知っていた老人は一年前に死んでいたという事を報告している ...

— Dirr, A. (1928) Die sprache der ubychen p.3、著作権保護期間満了

第二次世界大戦前に単独の本として出版されたウビフ語の著書はアドルフ・ディル以外に1931年にジョルジュ・デュメジル[6]、1934年にジュリアス・メスザロス[7]がそれぞれ出版している。

第二次世界大戦後、ジョルジュ・デュメジルを筆頭に多くの学者がウビフ語を記録した。1954年に「ウビフ語の発音構造[8]」、1955年に「ウビフ語の喉音[9]」、1958年に「ウビフ語の母音[10]」という論文が発表され、子音が80個以上存在するという学説が成立する。それ以前の文献では音素が正確でないため、注意が必要であるが、Dirr 1928とDumézil 1931に記載されたウビフ語テキストは1959年に校正され[11]、Mészáros 1934にはテキストが記載されていなかったが、”ことわざ一覧”については1960年に校正された[12]。この音素構造の解明とテキストの校正では、ウビフ語話者であるテヴフィク・エセンチが活躍した。彼はトルコ語が流暢に話せない祖父母に育てられ[注釈 7]、8歳までウビフ語のみで生活をしていた[13]最後のウビフ語母語話者で、1956年から彼が死ぬ1992年までウビフ語の記録に協力した。

単語集自体はDirr 1928, Dumézil 1931, Mészáros 1934に収録されているが、前述通り音素が正確でなかった。1963年、ハンス・フォークトノルウェー語 (ニーノシュク)版は今まで発表されたテキストを基にウビフ語-フランス語辞書を出版し[14]、これが初めてのウビフ語辞書となった。尚、この辞書は1965年デュメジルによって校正されている[15]ため、この辞書を用いる際はデュメジルによる校正も参照する事が望ましい。2020年6月現在、ウビフ語の辞書として出版されている著作物はフォークトの辞書とベルシロフによる辞書[16][注釈 8]のみである。

文法面は1959年以降、長らくまとまった資料が作られなかったが、1975年にデュメジルが「ウビフ語の動詞[17]」を出版した。ウビフ語全体の文法については1989年にシャラチゼが記述している[18]。また、2011年には初めて英語で書かれた文法書がフェンウィックにより出版された[19]

1992年10月7日、ウビフ語の最後の話者であったテヴフィク・エセンチが死去し、ウビフ語は死滅した。

2011年現在、ウビフ語の言葉を知る者は殆どおらず、知っていてもいくつかのフレーズが言える程度であったという報告がある[20]

歴史的な話者分布

公的なウビフ語の話者統計は存在しない。以下は断片的な情報である。

  • 1864年以前、ウビフ人はソチ周辺に住んでいた。キシュマホフによれば、ウビフ人は現在のヴォルコンカ(Волконка)以南ホスタ(Хоста)以北の範囲に住んでいた[21]
  • 1889年にÅge Benediktsen、1913年にジェームス・ベル、1930年にジョルジュ・デュメジルはトルコ共和国のサパンジャ英語版にあるウビフ人の村を訪れていたが、1965年までに話者の殆どが死亡していた[22]
  • 1931年ジュリアス・メスザロス、1953年以降のジョルジュ・デュメジル、1957年以降のハンス・フォークト、1965年以降のジョルジュ・シャラチゼ英語版などの大半の言語学者はバルケスィルのマニャス地区にあるウビフ人の村を訪れていた[23]。テヴフィク・エセンチはマニャス地区のHacı Osman köyü (ウビフ語:lak°’ạs°a[24])と呼ばれる地区に住んでいた。
  • カフラマンマラシュサムスンにもウビフ語話者が居たとされているが、カフラマンマラシュでは1967年に最後の話者が死亡し、サムスンでは1974年の時点で誰もウビフ語を話していなかったという報告があり、言語学者による調査は殆ど行われていない[25]

音素

ウビフ語は北西コーカサス語族の中では数少ない、咽頭音を区別する言語として知られている。咽頭音を区別する言語は他にもアブハズ語のブズィプ方言などが知られているが、ウビフ語は北西コーカサス語族の中でも特に咽頭音が多い[26]

ウビフ語に出現する音素は話者により若干異なる。テヴフィク・エセンチのように外来語由来の子音を含め84個の音素を区別している者もいれば、一方で60個程度しか子音の区別がなかったケースもある(後述)。

他の北西コーカサス語族に属する言語と同じく、母音の数が極端に少ない。ウビフ語では2個または3個しかない。

子音

子音は80個または81個存在する。これは[kʼ]を固有の音素として数えるかどうかで学者によって意見が異なっているためである。

いずれも借用語に現れる音素を含めれば84個である。借用語にのみ現れる子音は[k] [g] [v]の3音素で、[kʼ]を加えるなら4音素である。

以下はデュメジルによる子音表[27]及びフェンウィックによる実際の発音記号[28]である。デュメジルは[kʼ]を固有の音素として数えている。

ウビフ語では歯茎音~歯茎硬口蓋音の間に独特な唇音化が発生した[29]アブハズ語の唇音化も参照。

唇音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 そり舌音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
平音 咽頭 平音 唇音 側面 平音 唇音 平音 唇音 口蓋 平音 唇音 咽頭 口蓋 平音 唇音 咽頭 唇音+咽頭
鼻音 [m] [mˤ] [n] ([ʔ])[注釈 9]
破裂音 無声音 [p] [pˤ] [t] [t͡p] [kʲ] [k] [kʷ] [qʲ] [q] [qʷ] [qˤ] [qʷˤ]
有声音 [b] [bˤ] [d] [d͡b] [ɡʲ] [ɡ] [ɡʷ]
放出音 [pʼ] [pˤʼ] [tʼ] [t͡pʼ] [kʲʼ] [kʼ] [kʷʼ] [qʲʼ] [qʼ] [qʷʼ] [qˤʼ] [qʷˤʼ]
破擦音 無声音 [t͡s] [t͡ʃ] [t͡ɕ] [t͡ɕᶲ] [ʈ͡ʂ]
有声音 [d͡z] [d͡ʒ] [d͡ʑ] [d͡ʑᵝ] [ɖ͡ʐ]
放出音 [t͡sʼ] [t͡ʃʼ] [t͡ɕʼ] [t͡ɕᶲʼ] [ʈ͡ʂʼ]
摩擦音 無声音 [f] [s] [ɬ] [ʃ] [ʃʷ] [ɕ] [ɕᶲ] [ʂ] [x] [χʲ] [χ] [χʷ] [χˤ] [χˤʷ] [h]
有声音 [v] [vˤ] [z] [ʒ] [ʒʷ] [ʑ] [ʑᵝ] [ʐ] [ɣ] [ʁʲ] [ʁ] [ʁʷ] [ʁˤ] [ʁˤʷ]
放出音 [ɬʼ]
接近音 [l] [j] [w] [wˤ]
ふるえ音 [r]

母音

母音は他の北西コーカサス語族と同様極端に少なく、2つまたは3つしか区別が存在しない。

開母音について、長母音と短母音の違い(母音としては1種類)があるか、開母音と広開母音の違いがあるかの2つの学説が存在し、学者によって意見が異なるため母音の数が確定していない。

また、母音の区別が少ないがために多くの異音が現れる。次に挙げる国際音声記号は三母音説に基づいた目安である[30]

母音
閉母音 [e][ɨ][u]
開母音/短開母音 [a][ɜ][o]
広開母音/長開母音 [a][ɐ][ɑ]

方言

話者によってウビフ語の差異が存在するため厳密には話者毎に方言を設定する事ができるが、特筆するべきはデュメジルがKaracalarでOsman Güngörというインフォーマットから記録したウビフ語(の方言と思わしきもの[注釈 10])である。

音素

多くの違いが存在するが、特に異なる部分は以下の3点である。

  • 咽頭音が殆ど出現しない。変わりに平音または硬音(fortis)が出現する。デュメジルは abˤa (病気)と qʷˤə (吠える)の2単語でのみ咽頭音を観測している。
  • 口蓋化口蓋垂音が出現しない。変わりに平音または硬音(fortis)が出現する。
  • [t͡p] [d͡b] [t͡pʼ] が完全に[p] [b] [pʼ]として発音されている。

以下に挙げるのはコラルッソによる子音表[31]である。ただし[ɣ]についてデュメジルは存在しない事が示唆されると書いているため赤で示した。

またデュメジルが示したが、コラルッソが示さなかった音素[mː](mːa りんご,mˤa)と、[qː](qːa - 咳をする,qʲa)を青で示した。

[bˤ]と[qʷˤ]は本表には加えていない。

唇音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 そり舌音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
平音 硬音 平音 唇音 側面 平音 唇音 平音 唇音 唇音+硬音 口蓋 平音 唇音 硬音 口蓋 平音 唇音 硬音 唇音+硬音
鼻音 [m] [mː ] [n]
破裂音 無声音 [p] [t] [kʲ] [kʷ] [q] [qʷ] [qː ]
有声音 [b] [d] [ɡʲ] [ɡʷ]
放出音 [pʼ] [tʼ] [kʲʼ] [kʷʼ] [qʼ] [qʷʼ]
破擦音 無声音 [t͡s] [t͡ʃ] [t͡ɕ] [t͡ɕʷ] [ʈ͡ʂ]
有声音 [d͡z] [d͡ʒ] [d͡ʑ] [d͡ʑʷ] [ɖ͡ʐ]
放出音 [t͡sʼ] [t͡ʃʼ] [t͡ɕʼ] [t͡ɕʷʼ] [ʈ͡ʂʼ]
摩擦音 無声音 [f] [s] [ɬ] [ʃ] [ʃʷ] [ɕ] [ɕʷ] [ɕː ʷ] [ʂ] [x] [χ] [χʷ] [χː ] [χː ʷ] [h]
有声音 [v] [z] [ʒ] [ʒʷ] [ʑ] [ʑʷ] [ʐ] [ɣ] [ʁ] [ʁʷ]
放出音 [ɬʼ]
接近音 [l] [j] [w] [wː ]
ふるえ音 [r]


文字

ウビフ語は文字を持たない言語であったが、言語学者が自著に記述する際に作成された文字体系が存在する。

以下は特に多くのウビフ語の記録を行ったジョルジュ・デュメジル[32]及びハンス・フォークト[33]により記述された便宜上の文字である。

デュメジルは母音を3つ、フォークトは母音を4つ[注釈 11]に設定した。

デュメジル特有の音素を赤字、フォークト特有の音素を青字、外来語(主にトルコ語)のみに現れる音素を橙字で示す。

[kʼ]をデュメジルは固有音素として数えている一方、フォークトは固有音素として数えていない。

a
/ɜ/ /a/
,
/ɐ/ /aː /
b
/b/

/bˤ/
c
/t͡s/
c’
/t͡sʼ/
ċ
/t͡ɕ/
ċ’
/t͡ɕʼ/

/t͡ɕʷ/
c°’
/t͡ɕʷʼ/
č
/ʈ͡ʂ/
č’
/ʈ͡ʂʼ/
čʹ
/t͡ʃ/
čʹ’
/t͡ʃʼ/
d
/d/

/dʷ/
e
/e/
f
/f/
g
/g/

/gʲ/

/gʷ/
h
/h/
ı
/ɯ/
i
/i/
k
/k/
k’
/kʼ/

/kʲ/
kʹ’
/kʲʼ/

/kʷ/
k°’
/kʷʼ/
l
/l/
λ , ɬ
/ɬ/
λ’
/ɬʼ/
m
/m/

/mˤ/
n
/n/
o
/o/
ö
/œ/

/oː /
[注釈 12]
p
/p/
p’
/pʼ/

/pˤ/
p̄’
/pˤʼ/
q
/q/
q’
/qʼ/

/qʲ/
qʹ’
/qʲʼ/

/qʷ/
q°’
/qʷʼ/

/qˤ/
q̄’
/qˤʼ/
q̄°
/qʷˤ/
q̄°’
/qʷˤʼ/
r
/r/
s
/s/

/ɕ/

/ɕʷ/
š°
/ʃʷ/
š
/ʂ/
šʹ
/ʃ/
t
/t/

/tʷ/
t’
/tʼ/
t°’
/tʷʼ/
u
/u/
ü
/y/
v
/v/

/vˤ/
w
/w/

/wˤ/
x
/χ/

/χʲ/

/χʷ/

/χˤ/
x̄°
/χˤʷ/
χ
/x/
y
/j/
z
/z/
ż
/ʑ/

/ʑʷ/
ž°
/ʒʷ/
ž
/ʐ/
žʹ
/ʒ/
γ
/ʁ/
γʹ
/ʁʲ/
γ°
/ʁʷ/
γ̄
/ʁˤ/
γ̄°
/ʁˤʷ/
ǧ
/ɣ/
ʒ
/d͡z/
ʒ̇
/d͡ʑ/
ʒ°
/d͡ʑʷ/
ǯ
/ɖ͡ʐ/
ǯʹ
/d͡ʒ/
ʹ , ?
/ʔ/
ə
/ɨ/ /ə/

文法

特に断りがなければ、以下の内容はCharachidzé 1989, Dumézil 1975, Fenwick 2011に従う。

ウビフ語は能格言語であるため、対格言語である日本語から見ると自動詞主格他動詞目的格が文法上同じ扱いをする。また、マーカーによって語の文法的機能の付与を行う。

ウビフ語では6種類の基底となる格が存在する。

ạ-t°ax°a-qafa-γa ạ-kʹ’a-q’a-n.
the-river-shore-LOC 3pABS-go-PAST-PL
彼らは川岸へ行った。 (Dumézil 1968 - "The world ends tomorrow"[34] )

共格マーカー-ạlaは接続辞の意味合いを持つ。

ạyda-xə[注釈 13]-n-gʹə s°əḇa-ạla psa-ạla ø-ø-x°ada-n ạ-y-nə-w-q’a.
another-belonging.to-ERG-also cheese-COM fish-COM 3sABS-3sERG-buy-CONV 3pABS-PREV[注釈 14]-3sERG-carry-PAST
もう一人もチーズと魚を買って持ってきた。(Dumézil 1968 - "Eating fish makes you clever"[35] )
Bardanaq°a-gʹə γa-t’q°’a-q’ạp’a-awn ạ-c’ạγa ø-ø-q°’a-n (...)
Badanoquo-also 3sPOSS-two-hand-INSTR the-cup[注釈 15] 3sABS-3sERG-take-CONV (...)
バダノコ[注釈 16]も両手でコップを取って… (Dumézil 1960 p.435[36])

基本文型

基本文形はSOVまたはAOV(Agent-Objective-Verb)である。

斜格を取る自動詞では、絶対格が主格を取るときと、斜格が主格を取るときの2パターンが存在する。これは動詞によって異なる。

  • SOVの例 (絶対格 斜格 動詞)
ạ-γ°ənd°ə ạ-γ°ən-ša-n ø-ø-šəq°’ạ-t°’as-q’a.
the-bird(ABS) the-top-tree-OBL 3sABS-3sOBL-preverb-sit-PAST
鳥が木の頂に止まった。 (Fenwick 2011 p.35, Dumézil 1975 p.122)
  • SOVの例 (斜格 絶対格 動詞)
za-tətə-n t’q°’a-q°a ø-ø-q’ạ-γ-q’a.
one-man-OBL two-son(ABS) 3pABS-3sOBL-by.hand(PREV)-hang-PAST
ある男が2人の息子を持っていた。 (Vogt 1963 p.72)
  • AOVの例 (能格 絶対格 動詞)

人称代名詞には、能格-斜格マーカーはつかない。

γ°a zakʹ’a sə-pšʹa da-ø-w-bəya-q’a-γạfa wə-š°ačʹá-n.
you(ERG) once 1sPOSS-back(ABS) how-3sABS-2sERG-see-hang-PAST-because 2sABS-laugh-PRES
あなたは一度私の後ろを見たから笑った。 (Dumézil 1968 - "The goat and the sheep"[37])

形容詞・副詞

形容詞または動詞で名詞を修飾する事で別の意味を持った名詞、複合語を作る事ができる。この時、後置修飾である。

動詞の過去形を形容詞として名詞に修飾し、複合語を作る事がある。

za-pxʹas°-ạnəs°a
one-woman-beautiful
(1人の,とある)美しい女性 (Dumézil 1975 p.155)
čʹa-t°’a-q'a
milk-purulent-PAST
ヨーグルト (直訳:膿んだ牛乳) (Vogt 1963 p.104)


形容詞は副詞格マーカーを併用すると副詞になる。副詞は動詞に対して前置修飾である。

yada-n ạ-č’a-gʹəγə-ø
much-ADV 3sABS-good-very-PRES(STAT)
とても良い。 (Vogt 1963 p.67)

動作動詞

ウビフ語には動作動詞と状態動詞の2種類の動詞が存在するが、今回は動作動詞のみを取り上げる。

ウビフ語に限らず、北西コーカサス語族の動詞の構造は非常に複雑である。重要な要素のみを取り上げると、動詞の構造は「絶対格(ABS)-斜格(OBL)-関係動詞前辞(REL)-斜格(OBL)-動詞前辞(PREV)-能格(ERG)-否定辞(NEG)-動詞語幹-アスペクト-複数辞(PL)-時制-複数辞(PL)-否定辞(NEG)-ムードである。複数辞と否定辞が2個あるのは、時制によって出現位置が変わるからである。


人称は1人称から3人称まで存在し、単数・複数の区別がある。男女の区別は存在しない[注釈 17]

人称代名詞

  • 1人称単数 səγ°a
  • 2人称単数 wγ°a, γ°a
  • 3人称単数 ạγ°a
  • 1人称複数 šʹəγ°aλa
  • 2人称複数 s°əγ°aλa
  • 3人称複数 ạγ°aλa

絶対格人称マーカー

  • 1人称単数 s(ə)-
  • 2人称単数 w(ə)-, ø-(命令文の時、無標となる事がある)
  • 3人称単数 ạ-, yə-, ə-, ø-
  • 1人称複数 šʹ(ə)-
  • 2人称複数 s°(ə)-
  • 3人称複数 ạ-, yə-, ø-
  • 無人称 ya-

3人称マーカーが複数あるが、これは以下のルールに従う。

  • 自動詞
    • 3人称単数ならばạ-またはø-, 3人称複数ならばạ-
  • 斜格を伴う自動詞または他動詞
    • 後続の人称マーカーが1人称または2人称ならば単数ạ-またはø-,複数ạ-
    • 後続の人称マーカーが3人称単数なら単数複数共にyə-またはø-
    • 後続の人称マーカーが3人称複数なら、無標(ø-)。
  • 斜格を伴う他動詞
    • 斜格人称マーカーが1人称または2人称ならばいかなる能格でも単数ạ-またはø-,複数ạ-
    • 斜格が3人称単数なら、いかなる能格でもyə-。更に能格が3人称単数ならば省略できる(ø-)。
    • 斜格が3人称複数なら、いかなる能格でも無標(ø-)。
  • 絶対格人称マーカーにアクセントがあるとき、yə-はə-になる事がある。
  • 無人称絶対格マーカーは本来絶対格を取らなければならない他動詞で絶対格を取らない時に用いる。
čʹ’ax°a ya-sə-fə-q’a-ma.
today nullABS-1sERG-eat-PAST-NEG
今日、私はまだ何も食べていない。(Fenwick 2011 p.108)

斜格人称マーカー

  • 1人称単数 s(ə)-, z-
  • 2人称単数 w(ə)-
  • 3人称単数 ø-
  • 1人称複数 šʹ(ə)-, žʹ-
  • 2人称複数 s°(ə)-, z°(ə)-
  • 3人称複数 ạ-

後続するマーカーまたは動詞の語幹が有声音かつ斜格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

能格人称マーカー

  • 1人称単数 s(ə)-, z-
  • 2人称単数 w(ə)-, ø-(命令文の時、無標となる事がある)
  • 3人称単数 ø- (斜格または動詞前辞が無い時), n(ə)- (斜格または動詞前辞が有る時)
  • 1人称複数 šʹ(ə)-, žʹ-
  • 2人称複数 s°(ə)-, z°(ə)-
  • 3人称複数 ạ- (斜格または動詞前辞が無い時), nạ- (斜格または動詞前辞が有る時)

後続するマーカーまたは動詞の語幹が有声音かつ能格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

時制

ウビフ語の時制は8個から10個存在する。今回はうち6個を取り上げる。

未来形が2個あるが、未来形Ⅰは実際に起きる確率が高い未来で、未来形Ⅱは不確かさのある未来形である。

時制の単数・複数は絶対格の単数・複数に依存する。たとえ斜格・能格が複数でも絶対格が単数ならば時制は単数である。

  • 現在形 単数 -n; 複数 -ạ-n
    • 否定形 単数 -m(ə)-語幹-n; 複数 -m(ə)-語幹-ạ-n
  • 過去形 単数 -q’a; 複数 -q’a-n
    • 否定形 単数 -q’a-ma; 複数-q’a-na-ma
  • 未来形Ⅰ 単数 -aw; 複数 -na-aw
    • 否定形 単数 -amət; 複数 -na-amət
  • 未来形Ⅱ 単数 -awt; 複数 -na-awt
    • 否定形 単数 -awmət; 複数 -na-awmət
  • 過去進行形 単数 -na-jt’; 複数 -ạ-na-jλ
    • 否定形 単数 -m(ə)-語幹-na-jt’; 複数 -m(ə)-語幹-ạ-na-jλ
  • 過去完了形 単数 -q’a-jt’; 複数 -q’a-jλ ~ -q’a-na-jt’
    • 否定形 単数 -q’a-jt’-ma; 複数 -q’a-jλa-ma ~ -q’a-na-jt’-ma

基本動詞型

自動詞、斜格のある自動詞、他動詞、斜格のある他動詞の4パターンに分かれる。デュメジルはこれをA~Dパターンと分類した。

  • 自動詞(A)
ạ-tət ø-q̄a-q’a.
the-man(ABS) 3sABS-run-PAST
その男は走った。 (Charachidzé 1989 p.370)
ạ-tət ạ-q̄a-q’a-na.
the-man(ABS) 3pABS-run-PAST-PL
その男たちは走った。 (Charachidzé 1989 p.370)
  • 斜格のある自動詞(B)
sə-wə-ya-n.
1sABS-2sOBL-hit-PRES
私はあなたを叩いた。 (Dumézil 1975 p.87)
  • 他動詞(C)
sə-z°-bya-n.
1sABS-2sERG-see-PRES
あなたたちは私を見る。 (Dumézil 1975 pp.87-88)
s°ə-z-bya-ạ-n.
2pABS-2sERG-see-PL-PRES
私はあなたたちを見る。 (Dumézil 1975 pp.87-88)
  • 斜格のある他動詞(D)
ạ-sə-wə-t°ə-n.
3sABS-1sOBL-2sERG-give-PRES
あなたはそれを私へあげる。 (Dumézil 1975 pp.90-92)
  • 斜格が2個ある例
ạ-s-xʹa-w-γa-nə-wt°ə-ạy-awt
3sABS-1sOBLa-REL(BEN)[注釈 18]-2sOBLb-PREV-3sERG-remove-反復相(アスペクト)-FUTⅡ
3sERGは3sABSをあなたbから私aへ奪い返すだろう。 (Dumézil 1975 pp.102)

数字

ウビフ語は北西コーカサス語族の他言語と同じく、20進数である。純数詞で2つ以上の数詞を言う場合、両方の数詞に共格マーカー-ạlaが伴う。

数詞 数詞 数詞
1 za 11 ž°əza 21 t’q°’at°’ạla zạla
2 t’q°’a 12 ž°ət’q°’a 39 t’q°’at°’ạla ž°əbγʹạla
3 ṡa 13 ž°əṡa 40 t’q°’amċ’at’q°’at°’
4 p’λ’ə 14 ž°əp’λ’ 50 š°azaǯʹa
5 šʹχə 15 ž°əšʹχ 60 ṡamċ’at’q°’at°’
6 16 ž°əf 80 p’λ’əmċ’at’q°’at°’
7 blə 17 ž°əbl 100 š°a
8 γ°a 18 ž°əγ°a 200 t’q°’aš°a
9 bγʹə 19 ž°əbγʹ 300 ṡəš°a[注釈 19]
10 ž°ə 20 t’q°’at°’ 1000 bən, mən

bən-ạla bγʹəš°a-ạla p’λ’ə-š°a-awn sə-γ̄-q’a.
1000-COM 900-COM 4-year-INSTR 1sABS-be.born-PAST
私は1904年に生まれた。 (Vogt 1963 p.66)

例文

以下の文は全てテヴフィク・エセンチによって示された189個のことわざの抜粋である[38]

ạ-psašʹạkʹ’a tətə-n ạ-ċaxʹə-n γa-gʹə waʒ̇a š°wa da-ø-la-mə-tə-ʒ̇.
the-worker human-OBL the-more[注釈 20]-ADV 3sPOSS-self angry thing how-3sABS-PREV-NEG-be-COP[注釈 21].
勤勉な者にとって最大の怒りは仕事がない事だ。
ạ-caca ø-m-γ̄ə-ba ạ-gʹəʒa-š-awəyt’-ma.
the-small 3sABS-NEG-be.born-if 3sABS-big-become-CONDⅠ-NEG.
小さく生まれなかったら大きく成れなかった。(人は誰でも生まれた時は小さかった。)
za-laqʹa-awnə za-q̄ạla ạ-w-šʹ-fa-awmət.
one-stone-INSTR one-fortress 3sABS-2sOBL-become-can-FUTⅡ.NEG.
一つの石で要塞は作れない。

脚注

注釈

  1. ^ Dumézil (1965) p.267によれば、話者によって現在形と現在進行形の区別が存在した
  2. ^ Dumézil (1975) p.151によれば、古ウビフ語で用いられていた過去形の時制が稀に出現する事があった
  3. ^ Fenwick (2011) pp.33-45によれば、絶対格・関係格(能格と斜格)・処格・副詞格・共格・具格の6つ
  4. ^ 「ウビフ人」という単語はウビフ語でtʷaχəɬapq; tʷaχə(ウビフ)とɬapq(人種)の複合語。Vogt (1963) p.66及びp.142参照
  5. ^ Dirr A. (1928)pp.1-4によれば、これ以前の記録は前述のベルとウスラルのものと、Åge Benediktsenによる非公開の日記のみであった。
  6. ^ Uslar (1887)でもウビフ語話者がバイリンガルまたはトリリンガルであることを指摘しているが、彼はウビフ語・チェルケス語・アブハズ語のトリリンガルであると記述している。バイリンガルの場合、もう一つの言語はチェルケス語かアブハズ語である。
  7. ^ Vogt (1963) pp.66-67にテヴフィク・エセンチ自身がウビフ語で自己紹介を述べた記録がある。曰く、幼い頃に父が病気で他界し、更にバルカン戦争と第一次世界大戦で彼を除く兄弟全員が死んでおり、祖父母と母の4人暮らしであった。
  8. ^ ベルシロフによる辞書は底本がフォークトの辞書であるので、1964年以降に収録されたテキストにある新規単語が反映されていない点に注意。
  9. ^ Vogt (1963) p.43によれば話者によって[qʼ]の異音として[ʔ]が発音される事があり、特に文末に来る過去形マーカー"-qʼa"が"-ʔa"になった。
  10. ^ Dumézil (1965) pp.266-269 見出しのタイトルがUn dialecte oubykh? となっている事から、デュメジルはこれを方言であると断定していない事がわかる
  11. ^ Fenwick (2011) p.25によれば4母音説を唱えたのはフォークトのみ。厳密にはフォークトは長母音・短母音を採用した2母音説
  12. ^ フォークト以外では"aw" /ɜw/ ~ /ow/に相当する。
  13. ^ 原文ではạydəxəになっているが、Fenwick 2011 p.81によれば、ɐjdɜ-χɨ (ạyda-xə)
  14. ^ 動詞前辞-y-は反動作を示す。-wə-「運ぶ」に対して-y-wə-「持ってくる」。他にも-kʹ’a-「行く」に対して-y-kʹ’a-「来る」などがある
  15. ^ 原典の翻訳による。一方、Vogt 1963 p.98によれば「皿」
  16. ^ Bardanaq°aはナルト叙事詩に出てくる狩人。Colarusso, J. 2002 Nart sagas from the caucasus: myths and legends from the circassians, abazas, abkhaz, and ubykhs. pp.274-275参照。
  17. ^ かつては2人称単数にのみ男女の区別があったとされたが、これは動詞の関係格マーカーの可能性がある。Dumézil 1975 p.77参照。
  18. ^ 斜格が2個現れる場合は、必ず関係動詞前辞も出現する。関係動詞前辞は3種類ある。Fenwick 2011 p.110参照。
  19. ^ 発音の問題でṡaš°aとならない。同じく同音異義語のṡə-š°a(3年)でもṡaš°aとならない。Fenwick 2011 p.90参照
  20. ^ 比較級を表す形容詞は冠詞ạ-を伴うと最上級の意味になる
  21. ^ da-は肯定文だと「~の時」という意味になる。

出典

  1. ^ Vogtt (1963) p.91
  2. ^ Provasi, E. 1984. Encore sur l'oubykh d'Evliya Celebi. Annali 44: 307-317.
  3. ^ Bell, J. 1840 Journal of a Residence in Circassia: during the Years 1837, 1838 and 1839; in 2 Volumes. Volume 2, p.482
  4. ^ Uslar, P.K. 1887 Абхазскій языкъ.
  5. ^ Dirr, A. 1928 Die sprache der ubychen
  6. ^ Dumézil 1931. La langue de Oubykhs.
  7. ^ Mészáros, J. 1934 Die Päkhy-Sprache.
  8. ^ Dumézil, G. et A.Namitok. 1954 Le système de sons de l'oubykh. gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 49. pp.160-189
  9. ^ Dumézil, G. 1955 Les gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 51. pp.176-180
  10. ^ Dumézil, G. 1958 Les vocalisme de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 53. pp.198-203
  11. ^ Dumézil 1959. Études oubykhs. pp.51-76
  12. ^ Dumézil, G. 1960 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase I. pp.79-90
  13. ^ Vogt (1963) p.258
  14. ^ Vogt 1963の事。参考文献参照。
  15. ^ Dumézil 1965 pp.197-259
  16. ^ Берсиров,Б.М., Берсирова С.А. 2018 Убыхско-Адыгейско-Руский словарь.
  17. ^ Dumézil 1975の事。参考文献参照
  18. ^ Charachidzé 1989の事。参考文献参照
  19. ^ Fenwick 2011の事。参考文献参照
  20. ^ Chirikba, V. The Ubykh People Were in Practice Consumed in the Flames of the Fight for Freedom原文は2013年2月17日掲載
  21. ^ Kishmakhov, M.KH.-B. Problems of the ubykh ethnic history and culture.
  22. ^ Dumézil 1965 pp.11-36
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  28. ^ Fenwick (2011) pp.17-24
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  35. ^ https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-2b11e515-358b-3c21-8fa5-4ad299b6a613&idref=cocoon-33ecd2ad-12cc-30df-97c2-58f5f93023ec
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  37. ^ https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-03c7f3a0-b6a2-3df6-b67d-5e6ef019c281&idref=cocoon-bb839640-d38c-33cd-97bd-30bd00bfb542
  38. ^ Dumezil, G. 1985 Proverbes tcherkesses en oubykh. Revue des etudes georgiennes et caucasiennes 1. pp.1-8.

関連項目

参考文献

  • Charachidzé, G. 1989 Oubykh. (Hewitt, B.G. (ed.) The indigenous languages of the Caucasus 2: North West Caucasus, pp.359-459)
  • Colarusso, J. 1988 The Northwest Caucasian Languages: a phonological survey. Routledge.
  • Dumézil, G. 1965 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase III. Institut d'ethnologie: Paris. (Vogt (1963) の校正が収録されている。)
  • Dumézil, G. 1975 Le verbe oubykh. Paris.
  • Fenwick, R.S.H. 2011 A Grammar of Ubykh. Lincom Europa.
  • Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.

外部リンク