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「イエス・キリスト」の版間の差分

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=== イエス・キリスト ===
=== イエス・キリスト ===
[[File:Jesus-Christ-from-Hagia-Sophia.jpg|thumb|220px|right|イエス・キリスト像(『[[全能者ハリストス]]』)。[[12世紀]]に制作された、[[アヤソフィア|アギア・ソフィア大聖堂]]の[[モザイク]][[イコン]]([[イスタンブル|イスタンブール]])。左手に[[聖書]]を持ち、右手は指の形が{{lang|el|Ιησούς Χριστός}}(イイスス・フリストス<ref>現代ギリシャでも用いられる語であるため、現代ギリシャ語から転写した。古典再建音では「イエースース・クリストース」となる。また、「フリストス」は転写によっては「ハリストス」となり、これは教会用語としては[[日本正教会]]での標準的表記であるが、教派上の中立性を確保するために一般的な現代ギリシャ語転写に本項では則った。他の[[正教会]]関連記事では「ハリストス」との転写を用いている。</ref>)の頭文字である「ΙΣΧΣ」を象るように整えられ(伸ばした人差し指:Ι、曲げた中指と小指が:Σ、親指と薬指の交差がΧ)、見る者を祝福する形に挙げられた姿で描かれている。]]
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「イエス・キリスト」はギリシャ語で[[主格]]を並べた同格表現であって、「キリストであるイエス」「イエスはキリストである」の意味である。[[マタイ伝]]・[[マルコ伝]]はそれぞれの冒頭で「[[ダビデ]]の子イエス・キリスト」「神の子イエス・キリスト」と呼び表しており、この結合表現は新約の他の文書でも用いられている。[[パウロ書簡]]には「イエス・キリスト」とならんで「キリスト・イエス」の表現も見られるが、紀元1~2世紀の間に「イエス・キリスト」の方が定着していった。
「イエス・キリスト」はギリシャ語で[[主格]]を並べた同格表現であって、「キリストであるイエス」「イエスはキリストである」の意味である。[[マタイ伝]]・[[マルコ伝]]はそれぞれの冒頭で「[[ダビデ]]の子イエス・キリスト」「神の子イエス・キリスト」と呼び表しており、この結合表現は新約の他の文書でも用いられている。[[パウロ書簡]]には「イエス・キリスト」とならんで「キリスト・イエス」の表現も見られるが、紀元1~2世紀の間に「イエス・キリスト」の方が定着していった。



2016年10月18日 (火) 12:14時点における版

蝋画法によるイエス・キリストのイコン6世紀頃、シナイ半島聖カタリナ修道院所蔵)

イエス・キリスト紀元前6年から紀元前4年頃 - 紀元後30年[1]ギリシア語: Ίησοῦς Χριστός[2]、ヘブライ語ラテン文字転記:Yhoshuah ha-Mashiah)は、ギリシア語で「キリストであるイエス」、または「イエスはキリストである」という意味である。すなわち、キリスト教においてはナザレのイエスをイエス・キリストと呼んでいるが、この呼称自体にイエスがキリストであるとの信仰内容が示されている[3]。イエスの存在についてはフラウィウス・ヨセフス(1世紀)、タキトゥス(1世紀)、スエトニウス(1世紀)などの歴史家がその著作の中で言及している。

本項では、ナザレのイエスについてのキリスト教における観点とその他について述べる。

日本正教会では中世以降のギリシャ語教会スラヴ語に由来する転写により「イイスス・ハリストス」と呼ばれる。かつてはカトリック教会ではイエスは「イエズス」と表記されていたが、現在ではあまり用いられない。戦国時代から江戸時代初期にかけてのキリシタンは、「ゼス(ゼスス)・キリシト」を用いていた。

概要

キリスト教の多くの教派正教会東方諸教会カトリック教会聖公会プロテスタント)において、三位一体至聖三者)の教義の元に、神の子受肉(藉身)して人となった、真の神であり真の人である救い主として[3][4][5](一部の教派では、単性論と通称される、神としての属性を強調する立場で)信仰の対象となっている。

イエス」は人名。ヘブライ語からギリシャ語に転写されたもの(ギリシア語: Ίησοῦς, Iēsūs古典ギリシア語再建音ではイエースース、現代ギリシア語からの転写例はイイスス)。「ヤハウェ(神)は救い」「救う者」を意味する[5][6]

キリスト」は「膏をつけられた者」という意味の、救い主の称号。膏をつけられるのは旧約聖書において王・預言者・祭司であったが、新約の時代においてはこの三つの職務をイエス・キリストが旧約のそれら全ての前例を越える形で併せ持っていたことを示していると解される[6][7](但しこの三職論については、時代・論者・教派によって、キリスト教内から異論もある)。

イエスの言行を記した福音書を含む『聖書』は世界で最も翻訳言語数が多い歴史的ベストセラーであり、音楽・絵画・思想・哲学・世界史などに測り知れない影響を与えた。

語義と指示内容

イエス

イエスは、「イエースースΊησοῦς, Iēsūs古典ギリシア語再建音)」の慣用的日本語表記である。現代ギリシア語では「イイスス」となる。

元の語は、アラム語のイェーシューア(ישוע, Yeshua)=ヘブライ語のヨシュア(イェホーシューア、יְהוֹשֻׁעַ, Yehoshua)で、「ヤハウェの救い」「ヤハウェは救い」「救う者」を意味する[5][6]

これらのギリシア語表記の語尾は主格形であり、格変化すると異なる語尾に変化する。日本語の慣例表記「イエス」は、古典ギリシア語再建音から、日本語にない固有名詞の格変化語尾を省き、名詞幹のみとしたものである。

中世以降から現代までのギリシャ語からは「イイスス」と転写し得る。日本正教会がもちいる「イイスス(Iisus)」は、Ίησοῦς の中世ギリシア語・現代ギリシャ語に由来する転写(中世・現代のギリシャ語では"η"は"ι"と同じとなり「イ」と読む)である。正教古儀式派では、"Исус"(イスス)という、東スラヴ地域でかつて伝統的だった呼称を現在も用いている。

かつての日本のカトリック教会ではロマンス語の発音からイエズスという語を用いていたが、現在ではエキュメニズムの流れに沿ってイエスに統一されている[8]戦国時代から江戸時代初期にかけてのキリシタンは、ポルトガル語の発音からゼススまたはゼスを使用していた。

アラビア語からは「イーサー」と転写し得る。

キリスト

キリストとは、古典ギリシア語「クリストス(Χριστός, Khristos)」の慣用的日本語表記である。「クリストス」は「膏(油)を注がれた者」を意味するヘブライ語「メシア(マーシアハ、מָׁשִיַח, Māšîªḥ)」の訳語であり、旧約聖書中の預言者たちが登場を予言した救世主を意味する。日本正教会では現代ギリシア語および教会スラヴ語から、「ハリストス」と転写する。

この意味で、「キリスト」は固有名詞ではなく称号である[9]

イエス・キリスト

イエス・キリスト像(『全能者ハリストス』)。12世紀に制作された、アギア・ソフィア大聖堂モザイクイコンイスタンブール)。左手に聖書を持ち、右手は指の形がΙησούς Χριστός(イイスス・フリストス[10])の頭文字である「ΙΣΧΣ」を象るように整えられ(伸ばした人差し指:Ι、曲げた中指と小指が:Σ、親指と薬指の交差がΧ)、見る者を祝福する形に挙げられた姿で描かれている。

「イエス・キリスト」はギリシャ語で主格を並べた同格表現であって、「キリストであるイエス」「イエスはキリストである」の意味である。マタイ伝マルコ伝はそれぞれの冒頭で「ダビデの子イエス・キリスト」「神の子イエス・キリスト」と呼び表しており、この結合表現は新約の他の文書でも用いられている。パウロ書簡には「イエス・キリスト」とならんで「キリスト・イエス」の表現も見られるが、紀元1~2世紀の間に「イエス・キリスト」の方が定着していった。

「キリスト」は救い主への称号であったため、キリスト教の最初期においては、イエスを「イエス・キリスト」と呼ぶことは「イエスがキリストであることを信じる」という信仰告白そのものであったと考えられる。

しかしキリスト教の歴史の早い段階において、「キリスト」が称号としてではなくイエスを指す固有名詞であるかのように扱われはじめたことも確かであり[11]、パウロ書簡においてすでに「キリスト」が固有名詞として扱われているという説もある[12][13]

イエス・キリストとは何者か=「神の子」「真の神・真の人」

以下、イエス・キリストとは何者かについて、正教会カトリック教会聖公会プロテスタントに共通する見解を、主に教派ごとの出典に基づいてまとめる。

イエス伝

各エピソードの詳細は、それぞれの項目を参照。

旧約聖書

降誕と幼少時代

『イエスの神殿への奉献』(1886年 - 1894年頃の作品、ジェームズ・ティソ, en:James Tissot

ヨセフの婚約者であったマリアは結婚前に聖霊により身ごもった。 天使の御告によりヨセフはマリアを妻に迎え男の子が生まれ、その子をイエスと名づけた。キリスト教ではこの日を記念しクリスマスとして祝う。

イエスはガリラヤ地方のナザレで育つ。ルカの福音書によれば、大変聡明な子であったという。

受洗、荒野の誘惑

『曠野のイイスス・ハリストス』(1872年作、イワン・クラムスコイ

その頃、洗礼者ヨハネヨルダン川のほとりで「悔い改め」を説き、洗礼を施していた。イエスはそこに赴き、ヨハネから洗礼を受ける。

そののち、御霊によって荒れ野に送り出され、そこで四十日間断食し、悪魔の誘惑を受けた。

宣教活動

荒野での試練の後イエスはガリラヤで宣教を開始する(公生涯)また弟子になった者の中から12人の弟子を選び、彼らに特権を与えた。十二使徒と呼ばれる。

受難、死、復活、昇天

ゴルゴファ(ゴルゴタの丘)の夕べ』ヴァシーリー・ヴェレシチャーギンによる(1869年)、ハリストス(キリスト)の埋葬準備の光景
フレスコ画イコン主の復活』(カーリエ博物館蔵)。キリスト(ハリストス)がアダムイヴの手を取り、地獄から引き上げる情景。旧約の時代の人々にまで遡って復活の生命が主・神であるハリストスによって人類に与えられたという『ハリストスの地獄降り』と呼ばれる正教会の伝承による。

自らをユダヤ人の王であると名乗り、また「神の子」あるいはメシアであると自称した罪により、ユダヤの裁判にかけられた後、ローマ政府に引き渡され磔刑(はりつけ)に処せられた。

その後、十字架からおろされ墓に埋葬されたが、3日後に復活し、大勢の弟子たちの前に現れた。肉体をもった者として復活したと聖書の各所に記されている。

正教会カトリック教会プロテスタントなど多くの教派で、キリストの死者の中からの復活は、初期キリスト教時代からの教えの中心的内容とされており[22][23][24][25]、多くの教派で復活祭は、降誕祭(クリスマス)と同等か、もしくは降誕祭より大きな祭として祝われる。

脚注

  1. ^ Jesus | Britannica.com
  2. ^ 古典ギリシャ語再建例:イエースース・クリストース、現代ギリシャ語転写例:イイスス・フリストース
  3. ^ a b X. レオン・デュフール(編集委員長)Z. イェール(翻訳監修者)、(1987年10月20日)『聖書思想事典』47頁 - 56頁、三省堂 ISBN 4385153507
  4. ^ フスト・ゴンサレス 著、鈴木浩 訳『キリスト教神学基本用語集』p73 - p75, 教文館 (2010/11)、ISBN 9784764240353
  5. ^ a b c Іисусъ, Іисусъ Христосъ - Полный церковнославянский словарь(『教会スラヴ語大辞典』)内のページ(画像ファイル)
  6. ^ a b c Origin of the Name of Jesus Christ - The Catholic Encyclopedia (『カトリック百科事典』)内のページ
  7. ^ Христосъ - Полный церковнославянский словарь(『教会スラヴ語大辞典』)内のページ(画像ファイル)
  8. ^ これは、プロテスタントを初めとする他教派と共同で翻訳した聖書共同訳」にイエススを用いたところ内外からの批判により後続版である「新共同訳」がイエス(一部はメシア)に統一されたのに由来する。
  9. ^ Origin of the Name of Jesus Christ - The Catholic Encyclopedia (『カトリック百科事典』)内のページ
  10. ^ 現代ギリシャでも用いられる語であるため、現代ギリシャ語から転写した。古典再建音では「イエースース・クリストース」となる。また、「フリストス」は転写によっては「ハリストス」となり、これは教会用語としては日本正教会での標準的表記であるが、教派上の中立性を確保するために一般的な現代ギリシャ語転写に本項では則った。他の正教会関連記事では「ハリストス」との転写を用いている。
  11. ^ ブルトマンはギリシア語:Χριστόςが、翻訳されることなくChristusとしてラテン語に導入されたことを固有名詞化の一根拠としている。 R.Bultmann 1961 Theologie des neuen Testaments
  12. ^ R.ブルトマン 同上
  13. ^ フィリピ3:20などに「主イエス・キリストが救い主として来られる」とある。ここでパウロが「キリスト」を称号として用いていたと想定すると、この句は単なる同語反復になる。
  14. ^ a b c d 正教会からの参照:Jesus Christ, Son of God, Incarnationアメリカ正教会
  15. ^ a b c d カトリック教会からの参照:Christologyカトリック百科事典
  16. ^ a b c d 聖公会からの参照(但しこの「39箇条」は現代の聖公会では絶対視はされていない):英国聖公会の39箇条(聖公会大綱)一1563年制定一
  17. ^ a b c d ルーテル教会からの参照:Christ Jesus.(Edited by: Erwin L. Lueker, Luther Poellot, Paul Jackson)
  18. ^ a b c 改革派教会からの参照:ウェストミンスター信仰基準
  19. ^ a b c d バプテストからの参照:Of God and of the Holy Trinity., Of Christ the Mediator. (いずれもThe 1677/89 London Baptist Confession of Faith)
  20. ^ a b c d e メソジストからの参照:フスト・ゴンサレス 著、鈴木浩 訳『キリスト教神学基本用語集』p73 - p75, 教文館 (2010/11)、ISBN 9784764240353
  21. ^ Theological Outlines • by • Francis J. Hall
  22. ^ カトリック中央協議会(2002年)『カトリック教会のカテキズム』298頁 - 299頁、ISBN 4877501010
  23. ^ J. Radermakeres, P. Grelot(1987年10月20日)『聖書思想事典』730頁 - 735頁 三省堂
  24. ^ 日本ハリストス正教会教団(昭和55年)『正教要理』52頁 - 55頁
  25. ^ イエスが父と呼んだ神 第三回 ナザレのイエスへのアプローチ岩島忠彦上智大学神学部教授)

関連項目

外部リンク