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「ユーザーエクスペリエンス」の版間の差分

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{{ソフトウェア開発工程}}
'''ユーザーエクスペリエンス'''({{Lang-en-short|user experience}})とは、製品(あるいはシステム、サービス)との[[インタラクション]]を通じて[[ユーザー]]が得る[[経験]]である。
'''ユーザーエクスペリエンス'''({{Lang-en-short|user experience}}、'''UX''')はシステムとの出会いに由来して[[ユーザー]]が得る[[経験]]である<ref>"ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。'''ユーザー経験'''、'''ユーザー体験'''とも。
しばしば「UX」と略される。

「ユーザー経験」「ユーザー体験」などと訳される。
人間は[[経験]]という概念を持っている<ref>"経験という概念は、人間としての存在に伴っています。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。この経験のうち、製品・サービス・人工物などの独立したシステムを対象として、人間がユーザーとしてそれらに出会い利用した経験をユーザーエクスペリエンスという<ref>"ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。...「システム」は、 個人がユーザインターフェースを通して対話する、 独立したまたは組み合わされた形態の製品・サービスおよび人工物を指す。…ux は一般的な概念としての経験の一部です。ux はシステムを通じた経験であるため、より限定的です" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。例えばコンピュータゲームというシステムに対しAさんが「広告動画を見てワクワクし、友人の体験談で興奮し、ネットで購入し、夜通し遊んで熱中し、数年後にその思い出を振り返る」という体験はUXの1例である。


よいユーザーエクスペリエンスを達成するために、[[ユーザビリティ工学]]、[[インタラクションデザイン]]、[[ユーザー中心設計]] (UCD) あるいは[[人間中心設計]] (HCD) などが実践される。
よいユーザーエクスペリエンスを達成するために、[[ユーザビリティ工学]]、[[インタラクションデザイン]]、[[ユーザー中心設計]] (UCD) あるいは[[人間中心設計]] (HCD) などが実践される。



== 定義 ==
== 定義 ==
日常用語としてのユーザーエクスペリエンスは「利用者の経験」「製品・サービスを使用する際の印象や体験<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9-9472 コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁]</ref>」と定義される。


専門用語としてのユーザーエクスペリエンスには広く合意された定義が存在しない<ref>C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究</ref>{{sfn|Lallemand|2014}}<ref group="注">2010年には研究者・実務家30名による議論でも同様に、広く合意される定義は提示されていない: [[ユーザーエクスペリエンス白書]]</ref>{{sfn|Roto|2011}}{{sfn|hcdvalue|2011}}<ref>[https://andoken.blogspot.com/2017/06/ux.html 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート]</ref>。大まかな共通認識として、「ユーザーと外部(対象物や環境)との[[インタラクション]]」により「ユーザーの内面で心的プロセスが発生」し「結果としてユーザーが得る記憶や印象」がユーザーエクスペリエンスとされる。
=== 一般的な定義 ===


=== 専門用語定義例 ===
「ユーザーエクスペリエンス」という言葉は、文字どおり「ユーザーの経験」を意味する。小学館デジタル大辞泉<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9-9472 コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁]</ref>では、「製品・サービスを使用する際の印象や体験」と定義されている。
下記はこれまでに試みられてきた定義の一部である<ref>[http://www.allaboutux.org/ux-definitions User experience definitions]</ref>:


* 製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応。 – [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] <ref>Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"</ref>
=== 専門用語としての定義 ===
* 企業とエンドユーザーとの[[インタラクション]]の全側面。企業のサービスや製品。模範的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、手間や面倒なしにユーザーのニーズをきちんと満足させること。次に、所有や使用を喜びとするようなシンプルさやエレガンス。真のユーザーエクスペリエンスとは、顧客が欲しいと言っているものを提供することでもなければ、チェックリストに載っているような機能を提供することでもなく、もっとはるかに優れたものである。 – Nielsen-Norman Group {{sfn|Lallemand|2014}}
* ユーザーの内的状態の帰結(性質、期待、ニーズ、同期、気分など)、設計されたシステムの特性(複雑性、目的、ユーザビリティ、機能性など)、および[[インタラクション]]が生じる状況または環境(組織的/社会的環境、活動の有意義性、利用の自発性など)。 – Hassenzahl & Tractinsky (2006) {{sfn|Lallemand|2014}}
* 我々の感覚を喜ばせる度合い、我々が製品に与える意味(意味の経験)、引き出される感覚と感情(感性的経験)を含む、ユーザーと製品との間の[[インタラクション]]から引き出される感情の全集合 – Hekkert (2006) {{sfn|Lallemand|2014}}
* 製品やサービスとの[[インタラクション]](あるいは予期される[[インタラクション]])および利用状況における脇役(時間、場所、ユーザーの性質など)から導き出される価値。 – Sward & MacArthur (2007) {{sfn|Lallemand|2014}}
* 人が特定のデザインと[[インタラクション]]するときに得る経験の質。カップ、玩具、あるいはウェブサイトなどから、美術館や空港のような、より多く統合された経験までの幅を持ちうる。 – UXnet.org {{sfn|Lallemand|2014}}


==== 批判 ====
専門用語(テクニカルターム)としての「ユーザーエクスペリエンス」という語については、これまでに様々な定義が試みられてきた。<ref>[http://www.allaboutux.org/ux-definitions User experience definitions]</ref>
[[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] では「ユーザービリティ」という概念の意味を拡張することで「ユーザーエクスペリエンス」と同様の意味を持たせようとしているが、それではユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念がうまく整理できていないのではないかという批判がある{{sfn|黒須正明|2013|p=56}}。


==== 様々な定義 ====
=== 「経験」という語多義性 ===
「[[経験]]」という語には「過程としての経験」と「結果としての経験」という二つの意味が含まれており、発話者がどちらを意図しているのか曖昧である。この事情は英語の「エクスペリエンス」([[:en:Experience]])でも同様である。前者を動名詞形 (experiencing) で、後者を加算名詞形 (a user experience) で表現し、原形 (experience) の語義の曖昧さを退ける場合もある{{sfn|Roto|2011}}。


=== 日本語訳 ===
下記はこれまでに試みられてきた定義の一部である:
「エクスペリエンス」の日本語訳には「経験」あるいは「体験」が用いられる。


[[安藤昌也]]は著書『UXデザインの教科書』で「経験」よりも「体験」を多用している{{sfn|安藤昌也|2016}}。一方、[[黒須正明]]は「エクスペリエンス」の訳語として「経験」を選ぶ理由として、「サービスのような非持続的なもの、一回性が重要なものについては体験でもいいが、プロダクトを利用している場合のような持続的、継続的なものについては経験の方がいいと考えられる。さらにいえば、経験の方がスパンが長いから、その中には(複数の)体験が含まれている、とも考えられ、一般的な表現を考えるなら経験でいいのではないかと思われる」と説明している<ref>{{Cite web |title=experienceは「体験」か「経験」か |url=https://u-site.jp/lecture/definition-of-experience |website=U-Site |access-date=2024-02-23 |language=ja}}</ref>。
* 製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応。 – [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]]
* 企業とエンドユーザーとのインタラクションの全側面。企業のサービスや製品。模範的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、手間や面倒なしにユーザーのニーズをきちんと満足させること。次に、所有や仕様を喜びとするようなシンプルさやエレガンス。真のユーザーエクスペリエンスとは、顧客が欲しいと言っているものを提供することでもなければ、チェックリストに載っているような機能を提供することでもなく、もっとはるかに優れたものである。 – Nielsen-Norman Group <ref name="lallemand" />
* ユーザーの内的状態の帰結(性質、期待、ニーズ、同期、気分など)、設計されたシステムの特性(複雑性、目的、ユーザビリティ、機能性など)、およびインタラクションが生じる状況または環境(組織的/社会的環境、活動の有意義性、利用の自発性など)。 – Hassenzahl & Tractinsky (2006) <ref name="lallemand" />
* 我々の感覚を喜ばせる度合い、我々が製品に与える意味(意味の経験)、引き出される感覚と感情(感性的経験)を含む、ユーザーと製品との間のインタラクションから引き出される感情の全集合 – Hekkert (2006) <ref name="lallemand" />
* 製品やサービスとのインタラクション(あるいは予期されるインタラクション)および利用状況における脇役(時間、場所、ユーザーの性質など)から導き出される価値。 – Sward & MacArthur (2007) <ref name="lallemand" />
* 人が特定のデザインとインタラクションするときに得る経験の質。カップ、玩具、あるいはウェブサイトなどから、美術館や空港のような、より多く統合された経験までの幅を持ちうる。 – UXnet.org <ref name="lallemand" />


== 分類 ==
==== ユーザーエクスペリエンス白書 ====
UXは以下の観点から分類できる。


=== 期間 ===
2010年に研究者と実務家からなる30名の専門家が集い、ユーザーエクスペリエンスの核となる概念について議論し、その成果を『[[ユーザーエクスペリエンス白書]]』として発表した。
UXは期間に基づいて以下の3つに分類できる<ref>"対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的 ux、エピソード的 ux、累積的 uxの3種類に分けられます。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。


* 一時的UX({{Lang-en-short|momentary UX}})
その中では、
* エピソード的UX({{Lang-en-short|episodic UX}})
* 累積的UX({{Lang-en-short|cumulative UX}})


例えば遊園地で遊ぶUXを考える。遊園地に入場しジェットコースターに乗ると「ゆっくりと坂を登りドキドキする」という<u>一時的UX</u>が発生し、コースターが坂を駆け下り乗り終わるとライド全体を1つのエピソードとして「スリル満点で楽しかった」という<u>エピソード的UX</u>が発生する。その後様々なアトラクションを体験し、遊園地を出た帰り道には全てのUXの積み重ねとして「満足感のあるいい休日になった」という<u>累積的UX</u>が発生する。
* ユーザーエクスペリエンスは「'''現象としての'''ユーザーエクスペリエンス」「'''研究分野としての'''ユーザーエクスペリエンス」「'''実践としての'''ユーザーエクスペリエンス」という3つの視点から捉えられるということ
* ユーザーエクスペリエンスは注目するタイムスパンによって「'''予期的'''ユーザーエクスペリエンス」「'''瞬間的'''ユーザーエクスペリエンス<ref name="momentary-ux”>[[ユーザエクスペリエンス白書]]においては「瞬間的ユーザーエクスペリエンス」ではなく「一時的UX」と翻訳されている。</ref>」「'''エピソード的'''ユーザーエクスペリエンス」「'''累積的'''ユーザーエクスペリエンス」という4種類に分類できるということ
* ユーザーエクスペリエンスに影響を与える要素は「'''状況'''<ref name="context-of-ux”>[[ユーザエクスペリエンス白書]]においては「状況」ではなく「文脈」と翻訳されている。</ref>」「'''ユーザー'''」「'''システム'''」の主に3種類に分類できるということ


長い期間のUXは必ずしも短期間UXの総和とはならない。「あの瞬間は辛かったけど今となってはいい思い出」という体験は、負の一時的UXが発生しているにも関わらず累積的UXが正である例である<ref>"例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、 否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。このことはUX設計・評価における期間の重要性を示している<ref>"対象とする期間を明確にすることが重要で ... uxデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的uxに着目する場合と、エピソード的uxやさらに長い期間のuxに着目する場合とでは異なってきます。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。
などが主張されている。


==== 批判 ====
=== 予期と実体験 ===
UXはそれが想像・予期されたものか実体験かで二分できる。前者を'''予期的UX'''({{Lang-en-short|anticipated UX}})という。


人間はこれからおこなわれるであろう体験を想像できる。それにより実体験よりも前に想像の中で体験が発生する。これが予期的UXである。例えば遊園地の広告を見ることで、ジェットコースターが登るドキドキ感・ライド全体のスリル・遊園地の満足感といったUXを想像上で予期し体感できる<ref>"Anticipated UX may relate to the period before first use, or any of the three other time spans of UX, since a person may imagine a specific moment during interaction, a usage episode, or life after taking a system into use." ロト, et al. (2010). ''USER EXPERIENCE WHITE PAPER''.</ref>。
C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究によれば、'''ユーザーエクスペリエンスという概念について実践者および研究者の間で広く同意された単一の定義は存在しない'''。なお、研究者よりも実践者のほうが「単一の定義」を求める傾向にあるが、「多様な人々からの多様な要求を満たす単一の定義」など果たして可能なのだろうかと論文中で批判している。<ref name="lallemand">[http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0747563214005718?via%3Dihub Lallemand, C., Gronier, G., & Koenig, V.: User experience: A concept without consensus? Exploring practitioners’ perspectives through an international survey, Computers in Human Behavior, 43, pp35-48, 2015.]</ref>


==== 様々な定義に頻出する要素 ====
== 要素 ==


=== 外部 ===
様々な定義に渡ってしばしば登場する要素として、
[[ファイル:UX factors.png|サムネイル|UXに影響を与える要素]]
* ユーザーと外部(対象物や環境)とのインタラクション
個人の内面に発生するUXはそれを取り巻く要素から影響を受ける。これらの要素は3つに大別される<ref>"人がシステムと対話することによって生じるuxには、幅広くさまざまな要素(factor)が影響しています。それらは3つの主なカテゴリに分類されます。 ユーザーとシステムを取り巻く文脈、ユ ーザーの状態、システムの特性です。" ロト, et al. (2010). UX白書.</ref>。
* ユーザーの内面で起こる心的プロセス
* 結果としてユーザーが得る記憶や印象
などの存在を指摘できる。


* [[コンテクスト|'''文脈''']]: 社会的(例: 周囲の人)、物理的(例: 利用場所)、時間的(例: 前後のスケジュール)、環境的(例: 類似システム)
=== 「経験」という語の多義性 ===
* '''[[ユーザー]]''': モチベーション、期待、雰囲気、記憶・経験、精神状態、身体状態
* '''[[システム]]''': [[品質]]、[[ブランドイメージ]]、状態(例: 使い込みによるくたびれ)


例えば「爽快感がウリのゲーム(システム)」から得る面白さ(UX)はそのゲームを
「[[経験]]」という語には「過程としての経験」と「結果としての経験」という二つの意味が含まれており、発話者がどちらを意図しているのか曖昧である。この事情は英語の「エクスペリエンス」([[:en:Experience]])でも同様である。


* 「友人達の中で流行っていて(文脈)」「発売前から個人的に期待していた(ユーザー)」状態
『[[ユーザーエクスペリエンス白書]]』では、動名詞形 (experiencing) で「過程としての経験」を、加算名詞形 (a user experience / user experiences) で「結果としての経験」を意味するよう使い分けている。この区別によって原形 (experience) の語義の曖昧さを退けている。
* 「周りの評判が悪く(文脈)」「友人に言われて付き合いで仕方ない(ユーザー)」状態


のどちらの状態で遊ぶかで全く異なる。このようにUXはシステムの[[品質]]のみならず、それを取り巻く文脈・ユーザーの状態に大きく影響を受ける。UXは個人の内面に発生する現象であり直接は触れないが、UXを取り巻く要素を変化させることでUXも変化する。
=== 「経験」か「体験」か ===


=== 内部 ===
[[安藤昌也]]は著書『UXデザインの教科書』で「経験」よりも「体験」を多用している。{{sfn|安藤|2016}}
UXはシステムに触れたユーザーの内部に生じる全てとも言える。この大きなUXは複数の内部要素から成る<ref>"さまざまなシステム…を利用するという体験は、きわめて多岐に渡る精神的/肉体的活動を伴う。まず精神的には、本能的・感情的な反応から、高度な知的理解に至るまでの、幅広いレベルでの認知(Cognition)が生じる。一方、肉体的には、指一本で行うタップ入力や全身を使ったアクションによる操作、さらには誰かと一緒に行う共同作業までを含むような、多彩なインタラクション(Interaction)を伴うことになる。ユーザエクスペリエンス…とは、このような認知とインタラクションから成る総合的な利用体験である" 深見, et al. (2012). スキル向上のためのHTML5テクニカルレビュー. </ref><ref>"I found the need for a new diagram to illustrate the facets of user experience" Peter Morville. (2004). ''[http://semanticstudios.com/user_experience_design/ User Experience Design]''.</ref>。例えば「お好み焼き屋での食事」という大きな体験は「自分で生地を焼いた経験」「ソースの甘味」「食後の満足感」など様々な要素が合わさったものである。含まれる要素を明らかにすることで解像度の高いUX理解と細やかなデザインが可能になる。


UXを構成する側面の分割例として "UXハニカム"({{Lang-en-short|user experience honeycomb}})がある<ref>"with a little help from my friends developed the user experience honeycomb." Peter Morville. (2004). ''[http://semanticstudios.com/user_experience_design/ User Experience Design]''.</ref>。この分類ではUXを Useful / Usable / Desirable / Findable / Accessible / Credible / Valuableの7側面に分割する。この分類を用いると「使い勝手がいいし簡単に見つかって良かったけどどうにも信用できない感じ」という風にUXを整理できる。
一方、[[黒須正明]]は「エクスペリエンス」の訳語として「経験」を選ぶ理由として、「サービスのような非持続的なもの、一回性が重要なものについては体験でもいいが、プロダクトを利用している場合のような持続的、継続的なものについては経験の方がいいと考えられる。さらにいえば、経験の方がスパンが長いから、その中には(複数の)体験が含まれている、とも考えられ、一般的な表現を考えるなら経験でいいのではないかと思われる」と説明している。<ref>[https://u-site.jp/lecture/definition-of-experience 黒須正明、experienceは「体験」か「経験」か – U-Site]、2014年9月8日</ref>


しばしば評価される要素には感情面以外に審美性、モチベーション、存在感、エンゲージメント、魅力、満足などが挙げられる<ref>"For each of the 58 selected studies ... Altogether 42 unique UX constructs were measured ... Table 1 shows the 12 constructs with frequency higher than two." Law, et al. (2014). ''Attitudes towards user experience (UX) measurement''. Int. J. Human-Computer Studies.</ref>。
== ユーザーインターフェイスとの関係 ==


== 評価 ==
[[ユーザーインターフェイス]]とユーザーエクスペリエンスの関係は、「原因と結果」の関係であると考えることができる。ただし、ユーザーエクスペリエンスにとっての「原因」はユーザーインターフェイスだけではなく、ほかにも「ユーザー」と「状況」という要素が影響することには注意が必要である。言い換えれば、ユーザーインターフェイスの設計だけでユーザーのエクスペリエンスを決定することはできない。
ユーザーエクスペリエンスは人間の内部に発生する心理的現象である。どのようなUXが発生したかを知る(評価・計測する)様々な方法がある。


=== 設計品質と利用品質 ===
=== 状況 ===
システムが与えるUXの評価では文脈・ユーザを考慮した方法が求められる。


UXはシステムの品質特性だけでなくユーザー特性や利用状況にも左右される。したがって、実際の利用状況とは異なり実験室等で実施される[[ユーザビリティテスト]]は、UXの評価手法にならない<ref>[https://column.prime-strategy.co.jp/archives/column_1261 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE]</ref>。例えば、あるユーザーが自身で代金を負担して購入したうえで製品を利用する場合と、テストモニターとして実験室に招聘されて無料で試用する場合とでは「うれしさ」「好ましさ」「反復利用への意欲」などのUXが異なると考えられる。
[[黒須正明]]はユーザーインターフェイスとユーザーエクスペリエンスの概念を「[[品質]]」の観点から次のように整理している。まず、設計者にとって設計時に問題になる「設計品質」と、ユーザーにとって利用時に問題になる「利用品質」を分ける。また、外的に計測可能な「客観的品質」と、内的(心理的に)しか測定できない「主観的品質」を分ける。これら2つの区分を組み合わせると、4つの品質特性領域ができる:客観的製品品質、主観的製品品質、客観的利用品質、主観的利用品質。<ref>[https://u-site.jp/lecture/quality-of-design-and-use 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Site]および[https://u-site.jp/lecture/quality-of-design-and-use-2 後編]</ref>


また「自宅の不用品を片付けるアプリ」のUXを評価するには、実験室にいながら自宅の様子を想像しながらアプリを利用するという経験を評価するよりも、実際に自宅で不用品を探しながらアプリを利用する経験を評価するほうが、より実際の利用状況におけるUXを評価していることになる。
設計品質はユーザーインターフェイス設計において設計者が作り込むことができる「モノやコトそれ自体が持つ品質」である。一方、ユーザーエクスペリエンスはユーザーの特性や状況にも左右される。


実環境下での評価手法として[[民族誌]](エスノグラフィー)や[[文化人類学]]における[[フィールドワーク]]の手法が利用される。例えば以下の観察手法がある。
== ユーザーエクスペリエンスのデザイン ==


* フライ・オン・ザ・ウォール:調査対象者の行動に関与せず極力客観的に観察する手法
「ユーザーエクスペリエンスデザイン」「UX設計」などの語は、実務的には「[[ユーザー中心設計]] (UCD) 」あるいは「[[人間中心設計]] (HCD) 」を意味する。つまり、「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」という固有のデザイン分野があるとはみなされていない。というのも、2010年の [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] において、「[[人間中心設計]]プロセスを実施する目的はよいユーザーエクスペリエンスの達成である」という考え方が示され、それがある程度受け入れられているからである。〔※[[#歴史|歴史]]を参照のこと〕。
* シャドウイング:調査対象者の「影」のように寄り添い追跡することで、調査対象者の体験を追体験しようとする手法
* [[参与観察]]:調査者もその場に参加し、調査対象者と一緒に事物を経験する


=== 設計プロセス ===
=== 期間 ===
UX評価にはその期間という視点が重要である。例えばエピソード的UX・累積的UXは長期にわたる利用や回顧を通じてユーザーの内面において形成された印象も含むため、短時間のUX評価では検証できない事項がある<ref>[https://u-site.jp/lecture/20100617 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site]、2010年6月17日</ref>。


この長期的な(累積的な)ユーザーエクスペリエンスを、ユーザー本人ではない専門家が推察して評価することには、ほとんど何の正当性もない。長期的なユーザーエクスペリエンスの評価においては、実際のユーザーを対象とした評価の実施が不可欠である<ref>[https://u-site.jp/lecture/key-points-for-ux 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site]、2015年6月10日</ref>。
[[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] によれば、よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計プロセスは、


長期的なUXの評価手法には以下が挙げられる。
# [[人間中心設計|人間中心デザイン]]プロセスの計画
# 利用状況の理解と明示(※アンケートやインタビューなどが用いられる)
# ユーザーの要求事項の明示(※[[ペルソナ]]などが用いられる)
# ユーザーの要求事項を満たす設計による解決策の作成(※具体的な設計案が作られる)
# 要求事項に対する設計の評価(※[[ユーザビリティテスト]]などが用いられる)
# 以上2〜5の工程を、ユーザーの要求事項を満たす設計解決策が得られるまで繰り返す


* 回顧的評価: ユーザーに購入前から現在に至るまでの出来事と、それについての印象を語ってもらい、それを分析する手法
という反復型アプローチである<ref>[https://www.slideshare.net/masaya0730/iso92412102010 [[安藤昌也]]、人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント(2013年)]</ref>。
* ロギング: ユーザーに対して侵襲的にならないよう行動データを収集し、それを分析する手法
* [[ネット・プロモーター・スコア]](NPS): 「この会社(あるいは製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問への11段階尺度の回答を用いる定量的評価手法


== デザイン ==
=== ユーザーの多様性とアクセシビリティ ===
'''ユーザーエクスペリエンスデザイン'''({{Lang-en-short|user experience design}})は良いユーザーエクスペリエンスを達成するための設計・その手法である。'''UXデザイン'''、'''UX設計'''とも。UXデザインを行う者はUXデザイナーと呼ばれている。


UXは個々人の内面に発生する現象である。それと同時に、製品などのシステムは発生してほしいUXを設計思想・メッセージ・バリューとして持っている。意図するUXを定めそれを引き起こす要素を検討し良いUXを実現しようとする設計・その指針をUXデザインという。
ユーザーエクスペリエンスを意識した設計プロセスにおいては、[[ペルソナ手法]]のように具体的な想定ユーザー像を設定することが多い。なぜなら、[[#ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素|ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素]]に「ユーザー特性」があり、ユーザーを十分理解することによって[[#設計品質と利用品質|主観的利用品質]]をよりよく測定・評価でき、ひいては、よりよいユーザーエクスペリエンスを達成しうると考えられるからである。


実務的には[[ユーザー中心設計]] (UCD) あるいは[[人間中心設計]] (HCD) とほぼ同義である。つまり、「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」という固有のデザイン分野があるとはみなされていない。というのも、2010年の [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] において、「[[人間中心設計]]プロセスを実施する目的はよいユーザーエクスペリエンスの達成である」という考え方が示され、それがある程度受け入れられているからである。〔※[[#歴史|歴史]]を参照のこと〕。HCDに基づいたデザインプロセスの例として[[ISO 9241-210#%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%82%B9|ISO 9241-210]]が挙げられる。
しかし、そのような「具体的なユーザーを想定した設計」が、一方では「誰でも利用できる設計」の実現から設計者の意識を遠ざけていてしまっているのではないかと指摘する専門家もいる。つまり、よりよいユーザーエクスペリエンスを達成しようと「標準的なユーザー像」を重視する設計アプローチが行き過ぎた結果、「あらゆるユーザーが利用できること」という意味の[[アクセシビリティ]]は軽視されているのではないかという指摘である。


UXデザインの思想は幅広いデザインにおいて実践される。例えば[[ウェブデザイン|ウェブ]]・[[ユーザインタフェース設計|UI]]・[[マンマシンインタフェース]]・[[インダストリアルデザイン|インダストリアル]]・[[コミュニケーションデザイン|コミュニケーション]]・[[インストラクショナルデザイン|インストラクショナル]]のデザインが挙げられる。例えばUXを意識した[[デザイン#デザインガイドライン|デザインガイドライン]]・デザインシステムの策定などに用いられる。
しばしば「想定外のユーザー」として無視・軽視されやすいのが、いわゆる[[障害者]]である。産業界では(しばしば無自覚に・暗黙的に)市場の多数派である健常者を想定して製品の設計を「最適化」しがちだが、その結果として、ある種の障碍者にとっては「そもそも利用できない」ような設計になってしまう場合があると指摘される。「想定ユーザー」のエクスペリエンスを重視するあまり、「想定外ユーザー」のエクスペリエンスが無視されているということである。


顧客が望むUXを表現し対話と通じたプロダクトデザインをおこなう道具として[[ユーザーストーリー]]がある。[[プロダクトマネジメント]]や[[アジャイルソフトウェア開発]]においてしばしば利用される。
アメリカ合衆国では、2001年6月25日に施行された[[リハビリテーション法第508条]]によって、連邦政府機関の電子技術や情報技術を身体障害を持つ人でも利用できるよう[[アクセシビリティ]]を確保することが義務付けられている。日本でも、2016年4月1日より[[障害者差別解消法]]が施行され、障害者が不利益を被らないようにする[[合理的配慮]]が行政機関等に義務付けられている。また、日本を含む先進各国で[[高齢化]]が進むなか、[[視力]]、[[聴力]]、その他の[[身体能力]]や[[認知能力]]などにおいて、いわゆる「成人健常者」の範疇から逸脱するユーザーの比率は高まっていくことになる。このような社会の要請に応えるため、ユーザーエクスペリエンスだけでなく[[アクセシビリティ]]にも配慮した設計が必要だと指摘されている<ref>[http://kidachi.kazuhi.to/blog/archives/039028.html UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito]</ref><ref>[http://uxpamagazine.org/integrating-usability-and-accessibility/?lang=ja ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin]</ref><ref>[http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府]</ref><ref>[https://www.wab.ne.jp/wab_sites/general-browse/view/2335 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会]</ref>


=== 基礎付け ===
=== 「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」に関する複数の観点 ===
ユーザーエクスペリエンスデザインの基礎となる関連分野として、以下のものが上げられる:
* [[ユーザビリティ]]
* [[ヒューマンファクター]]
* [[人間工学]]
* [[認知心理学]]
* [[エスノグラフィー]](民族誌)
* [[情報アーキテクチャ]]


=== ユーザーの多様性とアクセシビリティ===
よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計プロセスにおいては、[[ペルソナ手法]]のように具体的な想定ユーザー像を設定することが多い。なぜなら、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素に「ユーザー特性」があるため、ユーザー像を具体的に十分理解することによって主観的利用品質をよりよく測定・評価でき、ひいては、よりよいユーザーエクスペリエンスを達成しうると考えられるからである。

しかし、そのような「具体的なユーザーを想定した設計」が、一方では「誰でも利用できる設計」の実現から設計者の意識を遠ざけてしまっているのではないかと指摘する専門家もいる。つまり、よいユーザーエクスペリエンスを達成しようと「具体的な想定ユーザー像」を重視する設計アプローチが行き過ぎた結果、「あらゆるユーザーが利用できること」という意味の[[アクセシビリティ]]は軽視されているのではないかという指摘である。

しばしば「想定外のユーザー」として無視・軽視されやすいのが、いわゆる[[障害者]]である。産業界では(しばしば無自覚に・暗黙的に)市場の多数派である健常者を想定して製品の設計を「最適化」しがちだが、その結果として、ある種の障害者にとっては「そもそも利用できない」ような設計になってしまう場合があると指摘される。「想定ユーザー」の経験を重視するあまり、「想定外ユーザー」の経験が無視されているということである。

アメリカ合衆国では、2001年6月25日に施行された[[リハビリテーション法第508条]]によって、連邦政府機関の電子技術や情報技術を身体障害を持つ人でも利用できるよう[[アクセシビリティ]]を確保することが義務付けられている。日本でも、2016年4月1日より[[障害者差別解消法]]が施行され、障害者が不利益を被らないようにする[[合理的配慮]]が行政機関等に義務付けられている。また、日本を含む先進各国で[[高齢化]]が進むなか、[[視力]]、[[聴力]]、その他の[[身体能力]]や[[認知能力]]などにおいて、いわゆる「成人健常者」の範疇から逸脱するユーザーの比率は高まっていくことになる。このような社会の要請に応えるため、ユーザーエクスペリエンスだけでなく[[アクセシビリティ]]にも配慮した設計が必要だと指摘されている<ref>[http://kidachi.kazuhi.to/blog/archives/039028.html UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito]</ref><ref>[http://uxpamagazine.org/integrating-usability-and-accessibility/?lang=ja ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin]</ref><ref>[https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府]</ref><ref>[https://www.wab.ne.jp/wab_sites/general-browse/view/2335 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会]</ref>。

=== 「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」に関する複数の観点 ===
「デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできるのだろうか」という論点がある。
「デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできるのだろうか」という論点がある。


[[黒須正明]]によれば、デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものに関わることはできない。言い換えれば、'''ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできない'''{{sfn|黒須|2013|pp=55&ndash;56}}
==== 「デザインできない」という立場 ====
[[黒須正明]]によれば、デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものに関わることはできない。言い換えれば、'''ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできない'''{{sfn|黒須正明|2013|pp=55&ndash;56}}


それはなぜかといえば、[[#ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素|ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素]](状況、ユーザー、システム)のうち、デザイナーが設計できるのはシステムに限られるからである。状況とユーザーはデザイナーがコントロールできない。デザイナーは、ユーザーのありようをコントロールできないし、ユーザーの利用状況も(多少はできても、決定的には)コントロールしきれないからである。
それはなぜかといえば、ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素(状況、ユーザー、システム)のうち、デザイナーが設計できるのはシステムに限られるからである。状況とユーザーはデザイナーがコントロールできない。デザイナーは、ユーザーのありようをコントロールできないし、ユーザーの利用状況も(多少はできても、決定的には)コントロールしきれないからである。


デザイナーにできることは、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素のうちの1つである「システム」(または製品やサービス)を、意図的に設計することだけである。例えば、システム特性としての[[ユーザビリティ]]を高めるように[[ユーザーインターフェイス]]を設計することで、ユーザーエクスペリエンスが向上するだろうと期待することはできる。
デザイナーにできることは、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素のうちの1つである「システム」(人工物)を、意図的に設計することだけである。例えば、システム特性としての[[ユーザビリティ]]を高めるように[[ユーザーインターフェイス]]を設計することで、ユーザーエクスペリエンスが向上するだろうと期待することはできる。


しかし、どれだけ注意深く設計されたシステムでも、よいユーザーエクスペリエンスを約束することはできない。デザイナーの想定外のユーザーや、想定外の利用状況においては、よかれと意図された設計が裏目に出ることもあるからである。〔※[[#ユーザーの多様性とアクセシビリティ|ユーザーの多様性とアクセシビリティ]]を参照のこと〕
しかし、どれだけ注意深く設計されたシステムでも、よいユーザーエクスペリエンスを約束することはできない。デザイナーの想定外のユーザーや、想定外の利用状況においては、よかれと意図された設計が裏目に出ることもあるからである。〔※[[#ユーザーの多様性とアクセシビリティ|ユーザーの多様性とアクセシビリティ]]を参照のこと〕


==== 「デザインできる」という立場 ====
一方、[[安藤昌也]]によれば、「ユーザーがうれしいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験(UX)を目標にしてデザインしていく取り組みとその方法論をUXデザインと呼ぶ」のであり、'''ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできる'''。{{sfn|安藤|2016|p=2}}
[[安藤昌也]]によれば、「ユーザーがうれしいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験(UX)を目標にしてデザインしていく取り組みとその方法論をUXデザインと呼ぶ」のであり、'''ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできる'''{{sfn|安藤昌也|2016|p=2}}。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[ユーザビリティ工学]]や[[インタラクションデザイン]]論の発展史において、ユーザーの主観的[[価値]]を重視する必要性から「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになった{{sfn|黒須正明|2013|pp=22–27,38–50,52–56}}。

[[ユーザビリティ工学]]や[[インタラクションデザイン]]論の発展史において、ユーザーの主観的[[価値]]を重視する必要性から「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになった。{{sfn|黒須|2013|pp=22–27,38–50,52–56}}


従来、インタラクティブシステムのユーザーインターフェイス設計においては「ユーザビリティ」が最も重要な指標であった。しかし、2000年ごろから産業界では消費者の主観的側面への注目が高まり、「経験経済」などの議論が盛んになってきた。そのような時代状況において、インタラクティブシステムの研究者や設計者の間にも、「ユーザビリティだけではユーザーにとっての価値を表現しきれていないのではないか」という議論が起こってきた。それを象徴するのが、認知工学やユーザビリティ研究の大家として知られていた[[ドナルド・ノーマン]]が『エモーショナル・デザイン』(2004)で[[感性]]的価値の重視を訴えたことである。そのようにして「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになっていった。
従来、インタラクティブシステムのユーザーインターフェイス設計においては「ユーザビリティ」が最も重要な指標であった。しかし、2000年ごろから産業界では消費者の主観的側面への注目が高まり、「経験経済」などの議論が盛んになってきた。そのような時代状況において、インタラクティブシステムの研究者や設計者の間にも、「ユーザビリティだけではユーザーにとっての価値を表現しきれていないのではないか」という議論が起こってきた。それを象徴するのが、認知工学やユーザビリティ研究の大家として知られていた[[ドナルド・ノーマン]]が『エモーショナル・デザイン』(2004)で[[感性]]的価値の重視を訴えたことである。そのようにして「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになっていった。

[[:en:Jesse James Garrett|Jesse James Garrett]] は2000年に発表した The Elements of User Experience: User-Centered Design for the Web {{sfn|Garrett|2002}}{{sfn|Garrett|2005}} において、ユーザーエクスペリエンスの「5層モデル」を提示した。このモデルは[[ウェブデザイン]]分野においてしばしば参照され、広く知られるものになった。


よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計手法においても、従来からユーザビリティ向上のために用いられていた[[ユーザー中心設計]]の手法を発展させる形で整備されていった。1999年に[[国際標準化機構]] (ISO) で [[ISO 13407|ISO 13407 (インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)]]が制定された時点では、まだユーザーエクスペリエンスの概念は導入されていなかったが、その後2010年に同規格が [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] として改定された際には、ユーザーエクスペリエンスの概念が導入された。
よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計手法においても、従来からユーザビリティ向上のために用いられていた[[ユーザー中心設計]]の手法を発展させる形で整備されていった。1999年に[[国際標準化機構]] (ISO) で [[ISO 13407|ISO 13407 (インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)]]が制定された時点では、まだユーザーエクスペリエンスの概念は導入されていなかったが、その後2010年に同規格が [[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] として改定された際には、ユーザーエクスペリエンスの概念が導入された。


2012年にはユーザビリティ専門家の国際非営利組織である Usability Professionals Association (UPA) が、 User Experience Professionals Association (UXPA) へと改称した。
[[ISO 9241-210:2010|ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計)]] では「ユーザービリティ」という概念の意味を拡張することで「ユーザーエクスペリエンス」と同様の意味を持たせようとしているが、それではユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念がうまく整理できていないのではないかという批判もある。{{sfn|黒須|2013|p=56}}


== 他分野との関わり ==
2010年には専門家(研究者・実務家)30名がドイツに集まりユーザーエクスペリエンスの概念について議論した。無理に定義を一本化しない方針になったため、その成果である『[[ユーザーエクスペリエンス白書]]』においても簡潔にして平易な定義は提示されていない。


=== ユーザーインターフェース ===
2012年にはユーザビリティ専門家の国際非営利組織である Usability Professionals Association (UPA) が、 User Experience Professionals Association (UXPA) へと改称した。
[[ユーザーインターフェイス]](UI)はシステムがユーザーのために有する特性・機能である。UXはシステムの特性により変化するため、UIはUXへ影響を与える。例えば使いづらいアプリUI(システム)はそのサービス体験(UX)の満足感を下げてしまう。すなわち、UIとUXは「原因と結果」の関係である。ゆえにUIデザインはUXデザインの一要素として利用される。

=== ユーザビリティ ===
[[ユーザビリティ]]はシステムが有する特性・[[品質]]の一種である<ref>[https://u-site.jp/lecture/quality-of-design-and-use 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Site]および[https://u-site.jp/lecture/quality-of-design-and-use-2 後編]</ref>。UXはシステムの特性により変化するため、ユーサビリティはUXへ影響を与える。例えば使いづらい栓抜き(システム)はワインを飲む体験(UX)の満足度を下げてしまう。

設計者にとって設計時に問題になる「設計品質」と、ユーザーにとって利用時に問題になる「利用品質」を分ける。また、外的に計測可能な「客観的品質」と、内的(心理的に)しか測定できない「主観的品質」を分ける。これら2つの区分を組み合わせると、4つの品質特性領域ができる:客観的設計品質、主観的設計品質、客観的利用品質、主観的利用品質。[[ユーザビリティ]]は[[ユーザビリティテスト]]などの手段によって外的に測定できる客観的設計品質特性である。

[[ファイル:UIとUX、設計品質と利用品質.png|サムネイル|ユーザーインターフェイス(UI)は設計品質に関わる。一方、ユーザーエクスペリエンス(UX)は利用品質、ユーザー特性および利用状況に関わる。〔[https://u-site.jp/lecture/quality-of-design-and-use U-site 黒須教授のユーザ工学講義 設計品質と利用品質]を参考に投稿者が作成〕]]

=== 満足 ===
[[ユーザビリティ]]における'''満足'''({{Lang-en-short|satisfaction}})はシステム利用によりユーザのニーズ・期待がどの程度満たされたかに関するユーザの受け止め方(UX)である<ref>"3.1.14 満足(satisfaction) システム,製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程度に関するユーザの身体的,認知的及び感情的な受け止め方。"</ref>。すなわち'''UXの一種である、ニーズ及び期待が満たされている体験'''が満足である<ref>"満足は,実際の利用に起因するユーザエクスペリエンスがユーザのニーズ及び期待を満たしている程度を含む。" [[ユーザビリティ#ISO 9241-11 2|JIS Z 8521:2020]]</ref>。

ユーサビリティにおける満足はマーケティングにおける[[顧客満足]]と非常に類似した概念である。また[[顧客ロイヤリティ]]とも深い関係がある。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}


==参考文献 ==
==参考文献 ==
* {{Cite book |和書 |last=黒須 |first=正明 |coauthors=松原幸行, 八木大彦, 山崎和彦 |year= 2013 |title=人間中心設計の基礎|publisher=近代科学社 |isbn= 9784764904439}}
* {{Cite book |和書 |author=黒須正明 |coauthors=松原幸行, 八木大彦, 山崎和彦 |year= 2013 |title=人間中心設計の基礎|publisher=近代科学社 |isbn= 9784764904439}}
* {{Cite book |和書 |last=安藤 |first=昌也 |year= 2016 |title=UXデザインの教科書 |publisher=丸善出版 |isbn= 9784621300374}}
* {{Cite book |和書 |author=安藤昌也 |year= 2016 |title=UXデザインの教科書 |publisher=丸善出版 |isbn= 9784621300374}}
* [[ISO 9241-210:2010]] Ergonomics of human–system interaction — Part 210: Human-centred design for interactive systems
* {{Cite book |洋書 |last=Roto |first=Virpi |last2=Law |first2=Effie |last3=Vermeeren |first3=Arnold |last4=Hoonhout |first4=Jettie |year=2011 |title=User Experience White Paper |url=http://www.allaboutux.org/uxwhitepaper}}
** {{Cite book |和書 |last=Roto |first=Virpi |last2=Law |first2=Effie |last3=Vermeeren |first3=Arnold |last4=Hoonhout |first4=Jettie |others=hcdvalue(訳) |year= 2011 |title=ユーザエクスペリエンス(UX)白書:ユーザエクスペリエンスの概念を明確にする |url=http://site.hcdvalue.org/docs}}
* {{Cite book |洋書 |last= Garrett |first= Jesse James |year= 2002 |title= The Elements of User Experience: User-Centered Design for the Web |publisher=New Riders Publishing |isbn=9780735712027}}
* {{Cite book |和書 |last= Garrett |first= Jesse James |translator=ソシオメディア株式会社 |year= 2005 |title=ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」 : 5つの段階で考えるユーザー中心デザイン |publisher=毎日コミュニケーションズ |isbn=4839914192}}
* {{Cite journal |洋書 |last=Lallemand |first= Carine |first2=Guillaume |last2=Gronier |first3=Vincent |last3=Koenig |date=November 2014 |title=User experience: A concept without consensus? Exploring practitioners’ perspectives through an international survey |journal=Computers in Human Behavior |volume=43 |page=35-48 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0747563214005718?via%3Dihub}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[ユーザー中心設計]]
* [[ユーザビリティ]]
* [[経験デザイン]]
* [[インタラクションデザイン]]
* [[インタラクションデザイン]]
* [[情報アーキテクチャ]]
* [[情報アーキテクチャ]]
* [[ユーザインタフェス]]
* [[ユーザインタフェ設計]]
* [[ソフトウェア開発工程]]
* [[ユーザー中心設計]]
* [[ザビティ]]
* [[カスタマエクスペエンス]]
*[[ユーザーエクスペリエンス白書]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{Commonscat}}
* [https://uxpa.org/ User Experience Professionals Association (UXPA)]
* [https://uxpa.org/ User Experience Professionals Association (UXPA)]
*{{kotobank}}

{{デフォルトソート:ゆうさあえくすへりえんす}}
[[Category:デザイン]]
[[Category:デザイン]]
[[Category:人間とコンピュータの相互作用]]
[[Category:人間とコンピュータの相互作用]]
[[Category:ユーザインタフェース]]
[[Category:ユーザインタフェース]]
[[Category:経験]]
[[en:User_experience]]
[[Category:顧客体験]]

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ユーザーエクスペリエンス: user experienceUX)はシステムとの出会いに由来してユーザーが得る経験である[1]ユーザー経験ユーザー体験とも。

人間は経験という概念を持っている[2]。この経験のうち、製品・サービス・人工物などの独立したシステムを対象として、人間がユーザーとしてそれらに出会い利用した経験をユーザーエクスペリエンスという[3]。例えばコンピュータゲームというシステムに対しAさんが「広告動画を見てワクワクし、友人の体験談で興奮し、ネットで購入し、夜通し遊んで熱中し、数年後にその思い出を振り返る」という体験はUXの1例である。

よいユーザーエクスペリエンスを達成するために、ユーザビリティ工学インタラクションデザインユーザー中心設計 (UCD) あるいは人間中心設計 (HCD) などが実践される。

定義

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日常用語としてのユーザーエクスペリエンスは「利用者の経験」「製品・サービスを使用する際の印象や体験[4]」と定義される。

専門用語としてのユーザーエクスペリエンスには広く合意された定義が存在しない[5][6][注 1][7][8][9]。大まかな共通認識として、「ユーザーと外部(対象物や環境)とのインタラクション」により「ユーザーの内面で心的プロセスが発生」し「結果としてユーザーが得る記憶や印象」がユーザーエクスペリエンスとされる。

専門用語定義例

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下記はこれまでに試みられてきた定義の一部である[10]

  • 製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応。 – ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) [11]
  • 企業とエンドユーザーとのインタラクションの全側面。企業のサービスや製品。模範的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、手間や面倒なしにユーザーのニーズをきちんと満足させること。次に、所有や使用を喜びとするようなシンプルさやエレガンス。真のユーザーエクスペリエンスとは、顧客が欲しいと言っているものを提供することでもなければ、チェックリストに載っているような機能を提供することでもなく、もっとはるかに優れたものである。 – Nielsen-Norman Group [6]
  • ユーザーの内的状態の帰結(性質、期待、ニーズ、同期、気分など)、設計されたシステムの特性(複雑性、目的、ユーザビリティ、機能性など)、およびインタラクションが生じる状況または環境(組織的/社会的環境、活動の有意義性、利用の自発性など)。 – Hassenzahl & Tractinsky (2006) [6]
  • 我々の感覚を喜ばせる度合い、我々が製品に与える意味(意味の経験)、引き出される感覚と感情(感性的経験)を含む、ユーザーと製品との間のインタラクションから引き出される感情の全集合 – Hekkert (2006) [6]
  • 製品やサービスとのインタラクション(あるいは予期されるインタラクション)および利用状況における脇役(時間、場所、ユーザーの性質など)から導き出される価値。 – Sward & MacArthur (2007) [6]
  • 人が特定のデザインとインタラクションするときに得る経験の質。カップ、玩具、あるいはウェブサイトなどから、美術館や空港のような、より多く統合された経験までの幅を持ちうる。 – UXnet.org [6]

批判

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ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) では「ユーザービリティ」という概念の意味を拡張することで「ユーザーエクスペリエンス」と同様の意味を持たせようとしているが、それではユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念がうまく整理できていないのではないかという批判がある[12]

「経験」という語の多義性

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経験」という語には「過程としての経験」と「結果としての経験」という二つの意味が含まれており、発話者がどちらを意図しているのか曖昧である。この事情は英語の「エクスペリエンス」(en:Experience)でも同様である。前者を動名詞形 (experiencing) で、後者を加算名詞形 (a user experience) で表現し、原形 (experience) の語義の曖昧さを退ける場合もある[7]

日本語訳

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「エクスペリエンス」の日本語訳には「経験」あるいは「体験」が用いられる。

安藤昌也は著書『UXデザインの教科書』で「経験」よりも「体験」を多用している[13]。一方、黒須正明は「エクスペリエンス」の訳語として「経験」を選ぶ理由として、「サービスのような非持続的なもの、一回性が重要なものについては体験でもいいが、プロダクトを利用している場合のような持続的、継続的なものについては経験の方がいいと考えられる。さらにいえば、経験の方がスパンが長いから、その中には(複数の)体験が含まれている、とも考えられ、一般的な表現を考えるなら経験でいいのではないかと思われる」と説明している[14]

分類

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UXは以下の観点から分類できる。

期間

[編集]

UXは期間に基づいて以下の3つに分類できる[15]

  • 一時的UX(: momentary UX
  • エピソード的UX(: episodic UX
  • 累積的UX(: cumulative UX

例えば遊園地で遊ぶUXを考える。遊園地に入場しジェットコースターに乗ると「ゆっくりと坂を登りドキドキする」という一時的UXが発生し、コースターが坂を駆け下り乗り終わるとライド全体を1つのエピソードとして「スリル満点で楽しかった」というエピソード的UXが発生する。その後様々なアトラクションを体験し、遊園地を出た帰り道には全てのUXの積み重ねとして「満足感のあるいい休日になった」という累積的UXが発生する。

長い期間のUXは必ずしも短期間UXの総和とはならない。「あの瞬間は辛かったけど今となってはいい思い出」という体験は、負の一時的UXが発生しているにも関わらず累積的UXが正である例である[16]。このことはUX設計・評価における期間の重要性を示している[17]

予期と実体験

[編集]

UXはそれが想像・予期されたものか実体験かで二分できる。前者を予期的UX: anticipated UX)という。

人間はこれからおこなわれるであろう体験を想像できる。それにより実体験よりも前に想像の中で体験が発生する。これが予期的UXである。例えば遊園地の広告を見ることで、ジェットコースターが登るドキドキ感・ライド全体のスリル・遊園地の満足感といったUXを想像上で予期し体感できる[18]

要素

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外部

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UXに影響を与える要素

個人の内面に発生するUXはそれを取り巻く要素から影響を受ける。これらの要素は3つに大別される[19]

  • 文脈: 社会的(例: 周囲の人)、物理的(例: 利用場所)、時間的(例: 前後のスケジュール)、環境的(例: 類似システム)
  • ユーザー: モチベーション、期待、雰囲気、記憶・経験、精神状態、身体状態
  • システム: 品質ブランドイメージ、状態(例: 使い込みによるくたびれ)

例えば「爽快感がウリのゲーム(システム)」から得る面白さ(UX)はそのゲームを

  • 「友人達の中で流行っていて(文脈)」「発売前から個人的に期待していた(ユーザー)」状態
  • 「周りの評判が悪く(文脈)」「友人に言われて付き合いで仕方ない(ユーザー)」状態

のどちらの状態で遊ぶかで全く異なる。このようにUXはシステムの品質のみならず、それを取り巻く文脈・ユーザーの状態に大きく影響を受ける。UXは個人の内面に発生する現象であり直接は触れないが、UXを取り巻く要素を変化させることでUXも変化する。

内部

[編集]

UXはシステムに触れたユーザーの内部に生じる全てとも言える。この大きなUXは複数の内部要素から成る[20][21]。例えば「お好み焼き屋での食事」という大きな体験は「自分で生地を焼いた経験」「ソースの甘味」「食後の満足感」など様々な要素が合わさったものである。含まれる要素を明らかにすることで解像度の高いUX理解と細やかなデザインが可能になる。

UXを構成する側面の分割例として "UXハニカム"(: user experience honeycomb)がある[22]。この分類ではUXを Useful / Usable / Desirable / Findable / Accessible / Credible / Valuableの7側面に分割する。この分類を用いると「使い勝手がいいし簡単に見つかって良かったけどどうにも信用できない感じ」という風にUXを整理できる。

しばしば評価される要素には感情面以外に審美性、モチベーション、存在感、エンゲージメント、魅力、満足などが挙げられる[23]

評価

[編集]

ユーザーエクスペリエンスは人間の内部に発生する心理的現象である。どのようなUXが発生したかを知る(評価・計測する)様々な方法がある。

状況

[編集]

システムが与えるUXの評価では文脈・ユーザを考慮した方法が求められる。

UXはシステムの品質特性だけでなくユーザー特性や利用状況にも左右される。したがって、実際の利用状況とは異なり実験室等で実施されるユーザビリティテストは、UXの評価手法にならない[24]。例えば、あるユーザーが自身で代金を負担して購入したうえで製品を利用する場合と、テストモニターとして実験室に招聘されて無料で試用する場合とでは「うれしさ」「好ましさ」「反復利用への意欲」などのUXが異なると考えられる。

また「自宅の不用品を片付けるアプリ」のUXを評価するには、実験室にいながら自宅の様子を想像しながらアプリを利用するという経験を評価するよりも、実際に自宅で不用品を探しながらアプリを利用する経験を評価するほうが、より実際の利用状況におけるUXを評価していることになる。

実環境下での評価手法として民族誌(エスノグラフィー)や文化人類学におけるフィールドワークの手法が利用される。例えば以下の観察手法がある。

  • フライ・オン・ザ・ウォール:調査対象者の行動に関与せず極力客観的に観察する手法
  • シャドウイング:調査対象者の「影」のように寄り添い追跡することで、調査対象者の体験を追体験しようとする手法
  • 参与観察:調査者もその場に参加し、調査対象者と一緒に事物を経験する

期間

[編集]

UX評価にはその期間という視点が重要である。例えばエピソード的UX・累積的UXは長期にわたる利用や回顧を通じてユーザーの内面において形成された印象も含むため、短時間のUX評価では検証できない事項がある[25]

この長期的な(累積的な)ユーザーエクスペリエンスを、ユーザー本人ではない専門家が推察して評価することには、ほとんど何の正当性もない。長期的なユーザーエクスペリエンスの評価においては、実際のユーザーを対象とした評価の実施が不可欠である[26]

長期的なUXの評価手法には以下が挙げられる。

  • 回顧的評価: ユーザーに購入前から現在に至るまでの出来事と、それについての印象を語ってもらい、それを分析する手法
  • ロギング: ユーザーに対して侵襲的にならないよう行動データを収集し、それを分析する手法
  • ネット・プロモーター・スコア(NPS): 「この会社(あるいは製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問への11段階尺度の回答を用いる定量的評価手法

デザイン

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ユーザーエクスペリエンスデザイン: user experience design)は良いユーザーエクスペリエンスを達成するための設計・その手法である。UXデザインUX設計とも。UXデザインを行う者はUXデザイナーと呼ばれている。

UXは個々人の内面に発生する現象である。それと同時に、製品などのシステムは発生してほしいUXを設計思想・メッセージ・バリューとして持っている。意図するUXを定めそれを引き起こす要素を検討し良いUXを実現しようとする設計・その指針をUXデザインという。

実務的にはユーザー中心設計 (UCD) あるいは人間中心設計 (HCD) とほぼ同義である。つまり、「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」という固有のデザイン分野があるとはみなされていない。というのも、2010年の ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) において、「人間中心設計プロセスを実施する目的はよいユーザーエクスペリエンスの達成である」という考え方が示され、それがある程度受け入れられているからである。〔※歴史を参照のこと〕。HCDに基づいたデザインプロセスの例としてISO 9241-210が挙げられる。

UXデザインの思想は幅広いデザインにおいて実践される。例えばウェブUIマンマシンインタフェースインダストリアルコミュニケーションインストラクショナルのデザインが挙げられる。例えばUXを意識したデザインガイドライン・デザインシステムの策定などに用いられる。

顧客が望むUXを表現し対話と通じたプロダクトデザインをおこなう道具としてユーザーストーリーがある。プロダクトマネジメントアジャイルソフトウェア開発においてしばしば利用される。

基礎付け

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ユーザーエクスペリエンスデザインの基礎となる関連分野として、以下のものが上げられる:

ユーザーの多様性とアクセシビリティ

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よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計プロセスにおいては、ペルソナ手法のように具体的な想定ユーザー像を設定することが多い。なぜなら、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素に「ユーザー特性」があるため、ユーザー像を具体的に十分理解することによって主観的利用品質をよりよく測定・評価でき、ひいては、よりよいユーザーエクスペリエンスを達成しうると考えられるからである。

しかし、そのような「具体的なユーザーを想定した設計」が、一方では「誰でも利用できる設計」の実現から設計者の意識を遠ざけてしまっているのではないかと指摘する専門家もいる。つまり、よいユーザーエクスペリエンスを達成しようと「具体的な想定ユーザー像」を重視する設計アプローチが行き過ぎた結果、「あらゆるユーザーが利用できること」という意味のアクセシビリティは軽視されているのではないかという指摘である。

しばしば「想定外のユーザー」として無視・軽視されやすいのが、いわゆる障害者である。産業界では(しばしば無自覚に・暗黙的に)市場の多数派である健常者を想定して製品の設計を「最適化」しがちだが、その結果として、ある種の障害者にとっては「そもそも利用できない」ような設計になってしまう場合があると指摘される。「想定ユーザー」の経験を重視するあまり、「想定外ユーザー」の経験が無視されているということである。

アメリカ合衆国では、2001年6月25日に施行されたリハビリテーション法第508条によって、連邦政府機関の電子技術や情報技術を身体障害を持つ人でも利用できるようアクセシビリティを確保することが義務付けられている。日本でも、2016年4月1日より障害者差別解消法が施行され、障害者が不利益を被らないようにする合理的配慮が行政機関等に義務付けられている。また、日本を含む先進各国で高齢化が進むなか、視力聴力、その他の身体能力認知能力などにおいて、いわゆる「成人健常者」の範疇から逸脱するユーザーの比率は高まっていくことになる。このような社会の要請に応えるため、ユーザーエクスペリエンスだけでなくアクセシビリティにも配慮した設計が必要だと指摘されている[27][28][29][30]

「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」に関する複数の観点

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「デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできるのだろうか」という論点がある。

「デザインできない」という立場

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黒須正明によれば、デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものに関わることはできない。言い換えれば、ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできない[31]

それはなぜかといえば、ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素(状況、ユーザー、システム)のうち、デザイナーが設計できるのはシステムに限られるからである。状況とユーザーはデザイナーがコントロールできない。デザイナーは、ユーザーのありようをコントロールできないし、ユーザーの利用状況も(多少はできても、決定的には)コントロールしきれないからである。

デザイナーにできることは、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素のうちの1つである「システム」(人工物)を、意図的に設計することだけである。例えば、システム特性としてのユーザビリティを高めるようにユーザーインターフェイスを設計することで、ユーザーエクスペリエンスが向上するだろうと期待することはできる。

しかし、どれだけ注意深く設計されたシステムでも、よいユーザーエクスペリエンスを約束することはできない。デザイナーの想定外のユーザーや、想定外の利用状況においては、よかれと意図された設計が裏目に出ることもあるからである。〔※ユーザーの多様性とアクセシビリティを参照のこと〕

「デザインできる」という立場

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安藤昌也によれば、「ユーザーがうれしいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験(UX)を目標にしてデザインしていく取り組みとその方法論をUXデザインと呼ぶ」のであり、ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできる[32]

歴史

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ユーザビリティ工学インタラクションデザイン論の発展史において、ユーザーの主観的価値を重視する必要性から「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになった[33]

従来、インタラクティブシステムのユーザーインターフェイス設計においては「ユーザビリティ」が最も重要な指標であった。しかし、2000年ごろから産業界では消費者の主観的側面への注目が高まり、「経験経済」などの議論が盛んになってきた。そのような時代状況において、インタラクティブシステムの研究者や設計者の間にも、「ユーザビリティだけではユーザーにとっての価値を表現しきれていないのではないか」という議論が起こってきた。それを象徴するのが、認知工学やユーザビリティ研究の大家として知られていたドナルド・ノーマンが『エモーショナル・デザイン』(2004)で感性的価値の重視を訴えたことである。そのようにして「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになっていった。

Jesse James Garrett は2000年に発表した The Elements of User Experience: User-Centered Design for the Web [34][35] において、ユーザーエクスペリエンスの「5層モデル」を提示した。このモデルはウェブデザイン分野においてしばしば参照され、広く知られるものになった。

よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計手法においても、従来からユーザビリティ向上のために用いられていたユーザー中心設計の手法を発展させる形で整備されていった。1999年に国際標準化機構 (ISO) で ISO 13407 (インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)が制定された時点では、まだユーザーエクスペリエンスの概念は導入されていなかったが、その後2010年に同規格が ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) として改定された際には、ユーザーエクスペリエンスの概念が導入された。

2012年にはユーザビリティ専門家の国際非営利組織である Usability Professionals Association (UPA) が、 User Experience Professionals Association (UXPA) へと改称した。

他分野との関わり

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ユーザーインターフェース

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ユーザーインターフェイス(UI)はシステムがユーザーのために有する特性・機能である。UXはシステムの特性により変化するため、UIはUXへ影響を与える。例えば使いづらいアプリUI(システム)はそのサービス体験(UX)の満足感を下げてしまう。すなわち、UIとUXは「原因と結果」の関係である。ゆえにUIデザインはUXデザインの一要素として利用される。

ユーザビリティ

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ユーザビリティはシステムが有する特性・品質の一種である[36]。UXはシステムの特性により変化するため、ユーサビリティはUXへ影響を与える。例えば使いづらい栓抜き(システム)はワインを飲む体験(UX)の満足度を下げてしまう。

設計者にとって設計時に問題になる「設計品質」と、ユーザーにとって利用時に問題になる「利用品質」を分ける。また、外的に計測可能な「客観的品質」と、内的(心理的に)しか測定できない「主観的品質」を分ける。これら2つの区分を組み合わせると、4つの品質特性領域ができる:客観的設計品質、主観的設計品質、客観的利用品質、主観的利用品質。ユーザビリティユーザビリティテストなどの手段によって外的に測定できる客観的設計品質特性である。

ユーザーインターフェイス(UI)は設計品質に関わる。一方、ユーザーエクスペリエンス(UX)は利用品質、ユーザー特性および利用状況に関わる。〔U-site 黒須教授のユーザ工学講義 設計品質と利用品質を参考に投稿者が作成〕

満足

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ユーザビリティにおける満足: satisfaction)はシステム利用によりユーザのニーズ・期待がどの程度満たされたかに関するユーザの受け止め方(UX)である[37]。すなわちUXの一種である、ニーズ及び期待が満たされている体験が満足である[38]

ユーサビリティにおける満足はマーケティングにおける顧客満足と非常に類似した概念である。また顧客ロイヤリティとも深い関係がある。

脚注

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注釈

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  1. ^ 2010年には研究者・実務家30名による議論でも同様に、広く合意される定義は提示されていない: ユーザーエクスペリエンス白書

出典

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  1. ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  2. ^ "経験という概念は、人間としての存在に伴っています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  3. ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。...「システム」は、 個人がユーザインターフェースを通して対話する、 独立したまたは組み合わされた形態の製品・サービスおよび人工物を指す。…ux は一般的な概念としての経験の一部です。ux はシステムを通じた経験であるため、より限定的です" ロト, et al. (2010). UX白書.
  4. ^ コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁
  5. ^ C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究
  6. ^ a b c d e f Lallemand 2014.
  7. ^ a b Roto 2011.
  8. ^ hcdvalue 2011.
  9. ^ 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート
  10. ^ User experience definitions
  11. ^ Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"
  12. ^ 黒須正明 2013, p. 56.
  13. ^ 安藤昌也 2016.
  14. ^ experienceは「体験」か「経験」か”. U-Site. 2024年2月23日閲覧。
  15. ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的 ux、エピソード的 ux、累積的 uxの3種類に分けられます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  16. ^ "例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、 否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  17. ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で ... uxデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的uxに着目する場合と、エピソード的uxやさらに長い期間のuxに着目する場合とでは異なってきます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  18. ^ "Anticipated UX may relate to the period before first use, or any of the three other time spans of UX, since a person may imagine a specific moment during interaction, a usage episode, or life after taking a system into use." ロト, et al. (2010). USER EXPERIENCE WHITE PAPER.
  19. ^ "人がシステムと対話することによって生じるuxには、幅広くさまざまな要素(factor)が影響しています。それらは3つの主なカテゴリに分類されます。 ユーザーとシステムを取り巻く文脈、ユ ーザーの状態、システムの特性です。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  20. ^ "さまざまなシステム…を利用するという体験は、きわめて多岐に渡る精神的/肉体的活動を伴う。まず精神的には、本能的・感情的な反応から、高度な知的理解に至るまでの、幅広いレベルでの認知(Cognition)が生じる。一方、肉体的には、指一本で行うタップ入力や全身を使ったアクションによる操作、さらには誰かと一緒に行う共同作業までを含むような、多彩なインタラクション(Interaction)を伴うことになる。ユーザエクスペリエンス…とは、このような認知とインタラクションから成る総合的な利用体験である" 深見, et al. (2012). スキル向上のためのHTML5テクニカルレビュー.
  21. ^ "I found the need for a new diagram to illustrate the facets of user experience" Peter Morville. (2004). User Experience Design.
  22. ^ "with a little help from my friends developed the user experience honeycomb." Peter Morville. (2004). User Experience Design.
  23. ^ "For each of the 58 selected studies ... Altogether 42 unique UX constructs were measured ... Table 1 shows the 12 constructs with frequency higher than two." Law, et al. (2014). Attitudes towards user experience (UX) measurement. Int. J. Human-Computer Studies.
  24. ^ 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE
  25. ^ 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site、2010年6月17日
  26. ^ 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site、2015年6月10日
  27. ^ UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito
  28. ^ ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin
  29. ^ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
  30. ^ 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
  31. ^ 黒須正明 2013, pp. 55–56.
  32. ^ 安藤昌也 2016, p. 2.
  33. ^ 黒須正明 2013, pp. 22–27, 38–50, 52–56.
  34. ^ Garrett 2002.
  35. ^ Garrett 2005.
  36. ^ 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Siteおよび後編
  37. ^ "3.1.14 満足(satisfaction) システム,製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程度に関するユーザの身体的,認知的及び感情的な受け止め方。"
  38. ^ "満足は,実際の利用に起因するユーザエクスペリエンスがユーザのニーズ及び期待を満たしている程度を含む。" JIS Z 8521:2020

参考文献

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  • 黒須正明、松原幸行, 八木大彦, 山崎和彦『人間中心設計の基礎』近代科学社、2013年。ISBN 9784764904439 
  • 安藤昌也『UXデザインの教科書』丸善出版、2016年。ISBN 9784621300374 
  • ISO 9241-210:2010 Ergonomics of human–system interaction — Part 210: Human-centred design for interactive systems
  • Roto, Virpi; Law, Effie; Vermeeren, Arnold; Hoonhout, Jettie (2011). User Experience White Paper. http://www.allaboutux.org/uxwhitepaper 
  • Garrett, Jesse James (2002). The Elements of User Experience: User-Centered Design for the Web. New Riders Publishing. ISBN 9780735712027 
  • Garrett, Jesse James 著、ソシオメディア株式会社 訳『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」 : 5つの段階で考えるユーザー中心デザイン』毎日コミュニケーションズ、2005年。ISBN 4839914192 
  • Lallemand, Carine; Gronier, Guillaume; Koenig, Vincent (November 2014). “User experience: A concept without consensus? Exploring practitioners’ perspectives through an international survey”. Computers in Human Behavior 43: 35-48. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0747563214005718?via%3Dihub. 

関連項目

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外部リンク

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