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「ネメシス (仮説上の恒星)」の版間の差分

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[[File:Nemesis.png|220px|サムネイル|右|ネメシスの想像図]]
'''ネメシス'''(Nemesis)とは、[[オールトの雲]]以遠の、太陽から5万から10万[[天文単位]]の軌道を回っているとされる仮説上の[[赤色矮星]]、または[[褐色矮星]]。地球史上の周期的な生物の[[大量絶滅]]を説明するために仮定された。
'''ネメシス'''(Nemesis)とは、存在が提唱されている仮説上の[[赤色矮星]]<ref>Leader-Post, [https://news.google.com/newspapers?id=yL9VAAAAIBAJ&sjid=SUANAAAAIBAJ&pg=3691,1342332&dq=nemesis+red+dwarf&hl=en "Scientists claim killer star exists"], 22 Feb 1984, Page B6, Associated Press</ref>
または[[褐色矮星]]{{R|Leslie}}で、1984年に{{R|Davis1984}}[[地球史年表|地質学的記録]]において約2600万年周期でより頻繁に発生する[[大量絶滅]]を説明するために、[[太陽]]から約95,000 [[天文単位|au]](約1.5[[光年]])離れた[[オールトの雲]]よりも遠い距離を周回していると仮定された{{R|Leslie|Raup1984}}。


より強力な新しい[[赤外線]]望遠鏡の観測技術を用いれば、太陽から10光年以内にある最低で表面温度150 [[ケルビン|K]]の褐色矮星も検出できるが{{R|browndwarf}}、[[広域赤外線探査衛星]](WISE)による観測ではネメシスは発見されなかった{{R|Morrison}}<ref>{{cite journal|last=Kirkpatrick|first=J. Davy|last2=Cushing|first2=Michael C. ''et al.''|title=The First Hundred Brown Dwarfs Discovered by the Wide-field Infrared Survey Explorer (WISE)|year=2011|journal=The Astrophysical Journal Supplement Series|volume=197|issue=2|page=19|doi=10.1088/0067-0049/197/2/19|bibcode=2011ApJS..197...19K|arxiv=1108.4677}}</ref>。2011年に、[[地球近傍小惑星]]の衝突リスク評価の研究で知られているNASAの科学者David Morrisonは、こうした天体は赤外線による掃天観測で発見されるはずであり、ネメシスのような天体が存在するという確証はないと記している{{R|Morrison|NASA20140307}}<ref>{{cite web|author=David Morrison|url=http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=16790|title=Scientists today no longer think an object like Nemesis could exist|publisher=NASA Ask An Astrobiologist|date=2011-08-02|archiveurl=https://archive.is/20121213101422/http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=16790|deadurl=yes|archivedate=2012-12-13|accessdate=2019-11-14}}</ref><ref>{{cite web|author=David Morrison|url=http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=13040|title=this hypothetical Nemesis does not exist|publisher=NASA Ask An Astrobiologist|date=2010-11-25|archiveurl=https://archive.is/20121213141021/http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=13040|deadurl=yes|archivedate=2012-12-13|accessdate=2019-11-14}}</ref>。
== 大絶滅の周期性の説明 ==

1984年、[[シカゴ大学]]の[[古生物学]]者のデビッド・ラウプとジャック・セプコスキーは、過去2億5000万年の周期的な大量絶滅を[[時系列]]分析によって説明付けたとする論文を発表した<ref name=Raup1984>{{cite journal
== 主張された大量絶滅の周期性 ==
| author = Raup, D.M.
1984年、[[古生物学]]者のDavid RaupとJack Sepkoskiは、過去2億5000万年間の[[絶滅率]]の統計的周期性を[[時系列分析]]を確認したとする論文を発表した{{R|Raup1984}}。彼らは海生[[脊椎動物]]、[[無脊椎動物]]、および[[原生動物]]の科の絶滅の激しさに着目し、この期間中に12回の大量絶滅があったと結論づけた。大量絶滅間の平均的な長さは約2600万年と推定された。当時特定されていた2回の大量絶滅([[K-Pg境界#大量絶滅|K-Pg境界]]と[[始新世]]の大量絶滅)は地球への大きな天体衝突が起こった時期と一致することが示されていた。この周期性の原因は判明しなかったが、RaupとSepkoskiはこの周期性には地球外の何らかの要素が起因している可能性を示唆した。その後いくつかの天文学者の研究グループが直ちにこのメカニズムの解明に取り組み始めた{{R|Davis1984|Whitmire1984}}。
| coauthors = Sepkoski, J.J.

| year = 1984
2010年には、Adrian L. MelottとRichard K. Bambachは改善されたデータが含まれ化石データの再調査を行った。また、この際にはRaupとSepkoskiが使用していたものに加えて、2つ目の独立したデータベースが使用された。 彼らは5億年前にまで遡って調査を行い、その結果2700万年の周期で現れる過剰な絶滅率を示す信号の証拠を発見し、古い研究よりもはるかに高い統計的有意性を示した{{R|Melott2010}}。
| date = 1984年2月1日
| title = Periodicity of Extinctions in the Geologic Past
| journal = Proceedings of the National Academy of Sciences
| volume = 81
| issue = 3
| pages = 801–805
| doi = 10.1073/pnas.81.3.801
| url = http://www.pnas.org/cgi/reprint/81/3/801.pdf
| accessdate = 2007年4月30日
| pmid = 6583680
}}</ref>。彼らは海生[[脊椎動物]]、[[無脊椎動物]]、[[原生動物]]の科の絶滅の激しさに着目し、過去に12度の大量絶滅があったと結論づけた。大量絶滅間の平均的な長さは約2600万年と推定された。そのうち[[K-T境界]]と[[始新世]]の大量絶滅の際には地球への大きな衝突が起こったと考えられている。ラウプとセプコスキーは、その原因は分からなかったが、この周期性には地球外の何らかが起因しているのではないかと主張した。いくつかの天文学者のグループが直ちにこのメカニズムの解明に取り組み始めた。


== ネメシス仮説の発展 ==
== ネメシス仮説の発展 ==
WhitmireとJacksonのグループ、DavisとHutとMullerのグループがそれぞれ独立、大量絶滅の周期性に関するラウプセプコスキーの説を説明する似たような仮説を同じ号の[[ネイチャー]]に投稿した<ref name=Whitmire1984>{{cite journal
Daniel P. WhitmireとAlbert A. Jackson、 Marc DavisとPiet HutとRichard A. Mullerのそれぞれ独立した2つの研究グループが、大量絶滅の周期性に関するRaupSepkoskiの説を説明する同様の仮説を同じ号の[[ネイチャー]]に投稿した{{R|Davis1984|Whitmire1984}}。この仮説では、太陽の周りを楕円軌道で公転する未発見の[[連星|伴星]]があり、この伴星が周期的にオールトの雲を乱し、その結果として[[太陽系#ない太陽系|内太陽系]]に飛来する[[彗星]]の数を大幅に増加させ、地球への天体衝突につながったとしている。この仮説が後に「ネメシス仮説」または「死の星仮説」として知られるようになった。
| author = Whitmire, D.P.
| coauthors = Jackson, A.A.
| year = 1984
| title = Are periodic mass extinctions driven by a distant solar companion?
| journal = Nature
| volume = 308
| issue = 5961
| pages = 713–715
| doi = 10.1038/308713a0
| accessdate = 30 April 2007
}}</ref><ref name=Davis1984>{{cite journal
| author = Davis, M.
| coauthors = Hut, P., Muller, R.A.
| year = 1984
| title = Extinction of species by periodic comet showers
| journal = Nature
| volume = 308
| issue = 5961
| pages = 715–717
| doi = 10.1038/308715a0
| accessdate = 30 April 2007
}}</ref>。この仮説では、[[太陽]]には未発見の[[連星|伴星]]があり、この星が周期的にオールトの雲を乱して莫大な数の[[彗星]]を発生させ、地球への衝突につながったとしている。この仮説が後にネメシス仮説として知られるようになった。


もしこのような星が存在したとしても、ネメシスの性質全くらかになっていない。Mullerは、ネメシスは7等から12等くらいの赤色矮星である可能性が高いとしが、WhitmireとJacksonは褐色矮星であると主張した。赤色矮星であればこれまでにカタログにているはずであるが、[[固有運動]]がとても小さいた本当性質は[[年周視差]]測定しなければ分からない。
もしこのような星が存在したとしても、ネメシスの正確な性質などである。Mullerは、ネメシスは[[視等級|見かけの明るさ]]が7[[級 (天文)|等級]]から12等くらいの赤色矮星である可能性が最も高いとしている{{R|Muller}}、WhitmireとJacksonは褐色矮星であると主張した{{R|Whitmire1984}}。赤色矮星であればこれまでの[[星表]]されているはずが、太陽を公転しているので[[固有運動]]がとても小さくなり、9等級の[[バーナード星]]の固有運動(バーナード星の固有運動が初て記録されたのは1916年<ref>{{cite journal|first=E. E.|last=Barnard|authorlink=エドワード・エマーソン・バーナード|title=A small star with large proper motion|year=1916|journal=Astronomical Journal|volume=29|issue=695|page=181|bibcode=1916AJ.....29..181B|doi=10.1086/104156}}</ref>)を記録できたような過去の固有運動観測による検出ができないため、[[年周視差]]測定かその存在を確認できい。Mullerは、ネメシスが10等級より明るければ年周視差測定でネメシスを発見できると期待してる{{R|Muller2002}}


最後の大量絶滅が約1100万年前に起きたことから、Mullerはネメシスが太陽から約95,000 au(約1.5光年)離れた[[軌道長半径]]を持つと仮定し{{R|Muller}}、Mullerの仮説の詳細を満たす[[:en:Orbital arc|Orbital arc]](直訳すれば「軌道弧」の意)を描いて公転する、多数の公転周期が不定な[[長周期彗星]]の本来の[[近点・遠点|近日点]]に由来する仮説上の軌道を基に、ネメシスは[[うみへび座]]の近くに見えると推定した(1987年のYarrisによる研究でも支持されている)。Mullerのネメシス仮説に関する最も最近の論文は2002年に出版された{{R|Muller}}。2002年にMullerは、4億年前にネメシスが近くを通過した恒星によって円軌道から[[離心率|軌道離心率]]0.7の楕円軌道へと[[摂動 (天文学)|軌道を乱された]]と推測している{{R|Muller2002}}。
最後の大量絶滅は約500万年前に起きたことから、Mullerは、ネメシスは現在太陽から1-1.5光年離れた位置にあり、[[うみへび座]]の方向に見えると推定した。

2010年と2013年には、MelottとBambachは2700万年の周期で絶滅率が過剰に大きくなることを示す信号の証拠を発見したと発表した。しかし、ネメシスは太陽から非常に離れているので、近くを別の恒星が通過することで[[摂動 (天文学)|摂動]]の影響を受けることが予想されるため、公転周期は15~30%ほど変化するはずだとされている。したがって、約2700万年周期に見られる急激な絶滅率のピークはネメシスの存在とは矛盾している{{R|Melott2010}}<ref>{{cite journal|author=Melott, A. L.|author2=Bambach, R. K.|url=https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0004-637X/773/1/6/meta|title=Do periodicities in extinction—with possible astronomical connections—survive a revision of the geological timescale?|year=2013|journal=The Astrophysical Journal|volume=773|issue=1|page=5|doi=10.1088/0004-637X/773/1/6|bibcode=2013ApJ...773....6M|arxiv=1307.1884}}</ref>。

== セドナの軌道 == <!-- この節はいるのか・・・? -->
[[File:Oort cloud Sedna orbit.svg|thumb|300px|セドナの軌道を太陽系とオールトの雲と比較した画像]]
[[太陽系外縁天体]]の[[セドナ (小惑星)|セドナ]]は非常に細長い異常な楕円軌道を描いており{{R|Melott2010}}、太陽からの距離は76 auから883 auにまで変化する{{R|Sedna}}。軌道を1回公転するには約10,500年を要する{{R|Sedna}}。セドナの発見者である[[マイケル・ブラウン (天文学者)|マイケル・ブラウン]]は、科学雑誌{{仮リンク|ディスカバー誌|en|Discover (magazine)}}の記事で「セドナはそこにあるべきではない」とセドナの位置は推論に反しているように見えると述べており、また「セドナを今いる場所に位置させる方法はない。太陽の影響を受けるほど接近しないが、他の恒星の影響を受けるほど太陽から遠く離れているわけでもない。」と述べている。したがって、ブラウンは目には見えない巨大な天体がセドナの異常な軌道の原因であると仮定した{{R|Melott2010}}。そして、この一連の調査によって最終的に[[プラネット・ナイン]]仮説が導き出された。

ブラウンは、数十億年前に太陽の近くを通過した1個以上の伴星ではない恒星がセドナを現在の軌道に引き寄せた可能性があると述べている{{R|discover}}。2004年に、Scott J. Kenyonはセドナの軌道データの分析とかつて近くを通過した恒星のコンピューターモデリングからこの説明を助成させている{{R|Kenyon2004}}。


== ネメシスの探索 ==
== ネメシスの探索 ==
低温の恒星は赤外線で比較的明るく輝いて見えるため、ネメシスを赤外線で探索することは非常に重要となる。[[カリフォルニア大学]]と[[サンフランシスコ州立大学]]が運営しているLeuschner天文台で行われた1986年までの観測ではネメシスは発見されなかった<ref>{{cite thesis|last=Perlmutter|first=Saul|authorlink=ソール・パールマッター|degree=Ph.D.|title=An Astrometric Search for a Stellar Companion to the Sun|year=1986|publisher=University of California, Berkeley}}</ref>。また、1980年代に行われた赤外線天文衛星([[IRAS]])による観測でもネメシスは発見されていない。1997年から2001年にかけて行われた[[2MASS]]による[[掃天観測]]でも太陽系内に別の恒星や褐色矮星は発見されることはなかった{{R|Leslie}}<ref>{{cite web|author=Leslie Mullen (Astrobiology Magazine)|url=http://www.space.com/8028-sun-nemesis-pelted-earth-comets-study-suggests.html|title=Sun's Nemesis Pelted Earth with Comets, Study Suggests|publisher=Space.com|date=2010-03-11|accessdate=2019-11-14}}</ref>。もしネメシスが実在するとしたら、[[2008年]]より観測が開始された[[Pan-STARRS]]や、現在計画されている[[大型シノプティック・サーベイ望遠鏡|LSST]]などの大規模探査なら発見できる可能性がある。
もしネメシスが実在するとしたら、[[2008年]]より観測が開始された[[Pan-STARRS]]や、その後の[[大型シノプティック・サーベイ望遠鏡|LSST]]などの大規模探査によって発見されるだろうと考えられていた。またもしネメシスがWhitmireやJacksonの主張するように[[褐色矮星]]であったとしても、2009年より始まった[[広域赤外線探査衛星|WISE計画]]によって簡単に見つかるはずであった。しかしNASAは[[2014年]]、WISEによる全天観測の結果、ネメシスの候補となるような[[赤色矮星]]または褐色矮星のいずれもが存在しないとの研究結果を明らかにした<ref>{{Cite web|url=https://www.nasa.gov/jpl/wise/planet-x-20140307|title=NASA's WISE Survey Finds Thousands of New Stars, But No 'Planet X'|publisher=NASA|date=2014-03-08|accessdate=2018-12-27}}</ref>。


特にネメシスが赤色矮星や褐色矮星である場合、2009年より始まった[[広域赤外線探査衛星|WISE計画]]によってネメシスを発見することができると期待されていた{{R|Leslie}}。WISEは10光年以内の領域にある表面温度150 K(-123 [[摂氏|℃]])までの褐色矮星を検出することが可能で、褐色矮星が地球に近いほど検出が容易になる{{R|browndwarf}}。WISEによる観測の予備結果は2011年4月14日にリリースされた<ref>{{cite web|url=http://www.nasa.gov/mission_pages/WISE/news/wise20110414.html|title=NASA – WISE Delivers Millions of Galaxies, Stars, Asteroids|publisher=NASA|date=2011-04-14|accessdate=2019-11-14}}</ref>。そして翌年3月14日には、WISE計画による観測結果の全体カタログがリリースされた<ref>{{cite web|url=http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2012-072|title=NASA Releases New WISE Mission Catalog of Entire Infrared Sky|publisher=NASA/Jet Propulsion Laboratory|date=2012-03-14|accessdate=2019-11-14}}</ref>
== 他の仮説 ==
。2014年時点のWISEのデータでは、オールトの雲より内側において[[土星]]またはそれより大きい質量を持つ未知の天体が10,000 au以内の領域に存在する可能性は除外された。[[アメリカ航空宇宙局]](NASA)は、WISEによる全天観測の結果からネメシスの候補となるような[[赤色矮星]]または褐色矮星のいずれもが存在しないとの研究結果を明らかにした{{R|NASA20140307}}。
MateseとWhitmanは、大絶滅の周期性は[[太陽系]]が[[銀河系]]の円盤を周期的に横切るためであるという説を唱えた。銀河を横断するとオールトの雲が乱れ、ネメシスと同じ効果が起こる。しかしこの周期は観測事実と合わないし、大絶滅間の2600万年という期間と40%もずれを生じる。


2012年時点では1,800個以上の褐色矮星が確認されているが<ref>{{cite web|author=Chris Gelino|author2=J. Davy Kirkpatrick|author3=Adam Burgasser|title=DwarfArchives.org: Photometry, spectroscopy, and astrometry of M, L, and T dwarfs|url=http://spider.ipac.caltech.edu/staff/davy/ARCHIVE/index.shtml|publisher=caltech.edu|date=2012-11-06|accessdate=2019-11-14}} (M=536, L=918, T=355, Y=14)</ref>、実際には[[太陽系]]の近傍に存在する褐色矮星は以前考えられていたよりも少ないとされており、[[恒星]]1個につき1個の褐色矮星が存在するのではなく、最低で恒星6個当たり1個の割合でしか存在しない場合もある<ref>{{cite web|author=Ian O'Neill (Discovery News)|url=http://www.space.com/16112-brown-dwarf-stars-sun-rare.html|title=Brown Dwarfs, Runts of Stellar Litter, Rarer than Thought|publisher=Space.com|date=2012-06-12|accessdate=2019-11-14}}</ref>。太陽のような恒星の大部分は単独星とされている<ref>{{cite journal|last=Raghavan|first=Deepak|last2=McAlister|first2=Harold A.|last3=Henry|first3=Todd J.|last4=Mason|first4=David W. ''et al.''|title=A Survey of Stellar Families: Multiplicity of Solar-Type Stars|year=2010|journal=[[アストロフィジカル・ジャーナル|The Astrophysical Journal]]|volume=190|issue=1|pages=1–42|doi=10.1088/0067-0049/190/1/1|bibcode=2010ApJS..190....1R|arxiv=1007.0414}}</ref>。以前の考え方では、恒星の半分もしくはほとんどの恒星が元々は[[星団]]と関連していた二重連星や三重連星、もしくはそれ以上の多重連星であると考えられていた。2017年に発表された研究論文で、Sarah SadavoyとSteven Stahlerは、太陽は形成された時点では連星系の一部であった可能性と主張し、「かなり昔にはネメシスは存在していたかもしれない」ことを示唆した<ref>{{cite news|url=http://news.berkeley.edu/2017/06/13/new-evidence-that-all-stars-are-born-in-pairs/|title=New evidence that all stars are born in pairs|work=Berkeley News|date=2017-06-13|accessdate=2019-11-14}}</ref><ref>{{cite journal|last=Sadavoy|first=Sarah I.|last2=Stahler|first2=Steven W.|date=2017-05-03|title=Embedded binaries and their dense cores|journal=Monthly Notices of the Royal Astronomical Society|language=en|volume=469|issue=4|pages=3881–3900|doi=10.1093/mnras/stx1061|issn=0035-8711|bibcode=2017MNRAS.469.3881S|arxiv=1705.00049}}</ref>。このような恒星は40億年以上前に連星系から弾き飛ばされてしまったと考えられるため、最近の大量絶滅の周期性の原因にはならず、天文学者のDouglas Vakochは専門ニュースウェブサイトの[[ビジネスインサイダー]]のインタビューで「太陽は初期の頃は本当に連星系の一部だったが、その初期の太陽と双子を成していた恒星は『脅威のネメシス』ではなく『伴星』のような和やかな名前をつけるに値する」と述べている<ref>{{cite web|last=Levine|first=David|url=http://www.businessinsider.com/stars-form-in-pairs-nemesis-theory-2018-4|title=All stars in the universe may form in pairs — but we can't find the sun's missing 'Nemesis'|website=Business Insider|date=2018-06-19|accessdate=2019-11-14}}</ref>。
このほかに、ネメシス仮説の前提となっている天体衝突頻度の周期性自体を否定する研究もある。これは地球上に残されたクレーターの年代に基づくもので、周期性があるように見えるのは統計上の人為的な効果に過ぎないとされている<ref>{{cite news

| title = Nemesis No More? Comet-Hurling 'Death Star' Most Likely a Myth
1980年代の計算では[[銀河系]]や近くを通過する恒星から摂動の影響を受けることにより、ネメシスは不規則な軌道を持つことが示唆されている。しかし先述のように、MelottとBambachの研究{{R|Melott2010}}で、そのような予想される不規則な軌道要素とは矛盾する非常に規則的な絶滅率の上昇の信号が示されている。したがってこのような大量絶滅の周期性が支持されている間は、あくまで他の種類の[[亜恒星天体]]が存在するという可能性については矛盾しないが、ネメシス仮説とは矛盾しているように見える。2011年のNASAのニュースリリースには「最近の科学的分析は地球上で絶滅が周期的に繰り返されるという考えをもはや支持しなくなり、ネメシス仮説はもう必要ない」と記述されている<ref>{{cite web|url=http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2011-060|title=Can WISE Find the Hypothetical 'Tyche'?|publisher=NASA/Jet Propulsion Laboratory|date=2011-02-18|accessdate=2019-11-14}}</ref>。
| url = http://www.space.com/12559-nemesis-star-nibiru-existence-comet-impact.html

| publisher = SPACE.COM | date=2011-08-05 | accessdate=2011-08-26
より最近の理論では、他の恒星の接近や、太陽の銀河系内における公転軌道の軌道面に対して作用する[[銀河面]]の角度効果などの他の力が、外部にある一部の太陽系天体の[[摂動 (天文学)|軌道摂動]]の原因である可能性が示唆されている{{R|Kenyon2004}}。2011年、Coryn Bailer-Jonesは地球上に存在する[[衝突クレーター]]を分析し、初期の単純で周期的な大量絶滅の痕跡(ネメシスによって軌道を乱された[[彗星]]などによる[[天体衝突]]の痕跡を指す)の発見は[[圧縮アーティファクト|統計上の人為的な効果]](アーティファクト)であると結論付けられ、クレーターの記録はネメシスの存在を示す証拠にならないとされた<ref>{{cite web|publisher=Max Planck|url=http://www.mpg.de/4372308/nemsis_myth?filter_order=L|title=Nemesis is a myth|date=2011-08-01|accessdate=2019-11-14}}</ref>。
}}</ref>。


== 作品 ==
== 作品 ==
{{main|[[地球以外の実在天体を扱った事物]]<!--各種作品についてはこちらにお願いします-->}}
{{main|[[地球以外の実在天体を扱った事物]]<!--各種作品についてはこちらにお願いします-->}}


== 参照文献 ==
== 出典 ==
{{Reflist|2|refs=
{{reflist}}
<ref name="Leslie">{{cite web|author=Leslie Mullen|title=Getting WISE About Nemesis|url=http://www.astrobio.net/exclusive/3427/getting-wise-about-nemesis|publisher=Astrobiology Magazine (Cosmic Evolution)|date=2010-03-11|accessdate=2019-11-14}}</ref>

<ref name="Davis1984">{{cite journal|author=Davis, M.|author2=Hut, P.|author3=Muller, R. A.|url=https://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc835102/|title=Extinction of species by periodic comet showers|year=1984|journal=Nature|volume=308|issue=5961|pages=715–717|doi=10.1038/308715a0|bibcode=1984Natur.308..715D}}</ref>

<ref name="Raup1984">{{cite journal|author=Raup, D. M.|author2=Sepkoski, J. J.|url=http://www.pnas.org/cgi/reprint/81/3/801.pdf|format=PDF|title=Periodicity of Extinctions in the Geologic Past|year=1984|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=81|issue=3|pages=801–805|doi=10.1073/pnas.81.3.801|pmid=6583680}}</ref>

<ref name="Kenyon2004">{{cite journal|first=Scott J.|last=Kenyon|author2=Benjamin C. Bromley|title=Stellar encounters as the origin of distant Solar System objects in highly eccentric orbits|year=2004|journal=Nature|volume=432|issue=7017|pages=598–602|doi=10.1038/nature03136|pmid=15577903|bibcode=2004Natur.432..598K|arxiv=astro-ph/0412030}}</ref>

<ref name="Melott2010">{{cite journal|author=Melott, A. L.|author2=Bambach, R. K.|title=Nemesis Reconsidered|year=2010|journal=Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters|volume=407|issue=1|pages=L99–L102|doi=10.1111/j.1745-3933.2010.00913.x|bibcode=2010MNRAS.407L..99M|arxiv=1007.0437}}</ref>

<ref name="browndwarf">{{cite web|url=http://wise.ssl.berkeley.edu/science_browndwarfs.html|title=Science: Brown Dwarfs|publisher=WISE/NASA|accessdate=2019-11-14}}</ref>

<ref name="Morrison">{{cite web|author=David Morrison|url=http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=21175|title=The idea has been disproved by several infrared sky surveys, most recently the WISE mission|publisher=NASA Ask An Astrobiologist|date=2012-10-17|archiveurl=https://web.archive.org/web/20121023225846/http://astrobiology2.arc.nasa.gov/ask-an-astrobiologist/question/?id=21175|deadurl=yes|archivedate=2012-10-23|accessdate=2019-11-14}}</ref>

<ref name="NASA20140307">{{cite web|url=http://www.nasa.gov/jpl/wise/planet-x-20140307/#.UyY_qdxIhwY|title=NASA's WISE Survey Finds Thousands of New Stars, But No 'Planet X'|publisher=[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]/[[ジェット推進研究所|Jet Proplusion Laboratory]]|date=2014-03-07|accessdate=2019-11-14}}</ref>

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== 参考資料 ==
== 参考資料 ==
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* [[仮説上の天体]]
* [[仮説上の天体]]
** [[惑星X]]
** [[惑星X]]
** [[テュケー (仮説上の惑星)]] オールトの雲の領域にあるとされ、質量は木星4倍前後とされる。
** [[テュケー (仮説上の惑星)]] - ネメシスと同じくオールトの雲にあるとされる仮想上天体
* [[プラネット・ナイン]]
* [[グリーゼ710]] 太陽系への最接近時(136万年後)にオールトの雲に刺激を与える可能性のある天体。
* [[グリーゼ710]] - 太陽系への最接近時(136万年後)にオールトの雲に刺激を与える可能性のある恒星

== 外部リンク ==
* [http://www.astrobio.net/exclusive/3427/getting-wise-about-nemesis "Astrobiology Magazine", "Cosmic Evolution" Section, "Getting WISE about Nemesis"] 03/11/10, Author: Leslie Mullen, Article about Nemesis and Tyche theory, and how the WISE Sky Survey Mission may prove or disprove the theories.
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* {{cite journal|author=Foot R., Silagadze Z. K.|title=Do mirror planets exist in our solar system?|arxiv=astro-ph/0104251|year=2001|journal=Acta Physica Polonica|volume=B32|issue=7|pages=2271–2278|bibcode=2001AcPPB..32.2271F}}
* Richard A. Muller, ''[http://muller.lbl.gov/papers/Lunar_impacts_Nemesis.pdf Measurement of the lunar impact record for the past 3.5 billion years, and implications for the Nemesis theory]'', Geological Society of America Special Paper 356, pp 659–665 (2002). I
* Richard A. Muller, [http://muller.lbl.gov/pages/lbl-nem.htm ''Nemesis''] (Weidenfeld & Nicolson, 1988, OP)
* Richard A. Muller, lecture where he describes [https://www.youtube.com/watch?v=ERy-MTfgulc Nemesis Theory]
* Z.K. Silagadze, ''[https://arxiv.org/abs/hep-ph/0002255 TeV scale gravity, mirror universe, and ... dinosaurs]'', [http://th-www.if.uj.edu.pl/acta/ Acta Physica Polonica] '''B32''' (2001) 99–128. ''(Provides a very entertaining and readable review of the Nemesis extinction hypothesis, including dozens of references to scientific articles on the topic.)''
* SpaceDaily. [http://www.spacedaily.com/reports/Evidence_Mounts_For_Companion_Star_To_Our_Sun.html Evidence Mounts For Companion Star To Our Sun]. Apr 25, 2006
* Lynn Yarris. "Does a Companion Star to the Sun Cause Earth's Periodic Mass Extinctions?" Science Beat. Spring 1987


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2019年11月14日 (木) 13:52時点における版

ネメシスの想像図

ネメシス(Nemesis)とは、存在が提唱されている仮説上の赤色矮星[1] または褐色矮星[2]で、1984年に[3]地質学的記録において約2600万年周期でより頻繁に発生する大量絶滅を説明するために、太陽から約95,000 au(約1.5光年)離れたオールトの雲よりも遠い距離を周回していると仮定された[2][4]

より強力な新しい赤外線望遠鏡の観測技術を用いれば、太陽から10光年以内にある最低で表面温度150 Kの褐色矮星も検出できるが[5]広域赤外線探査衛星(WISE)による観測ではネメシスは発見されなかった[6][7]。2011年に、地球近傍小惑星の衝突リスク評価の研究で知られているNASAの科学者David Morrisonは、こうした天体は赤外線による掃天観測で発見されるはずであり、ネメシスのような天体が存在するという確証はないと記している[6][8][9][10]

主張された大量絶滅の周期性

1984年、古生物学者のDavid RaupとJack Sepkoskiは、過去2億5000万年間の絶滅率の統計的周期性を時系列分析を確認したとする論文を発表した[4]。彼らは海生脊椎動物無脊椎動物、および原生動物の科の絶滅の激しさに着目し、この期間中に12回の大量絶滅があったと結論づけた。大量絶滅間の平均的な長さは約2600万年と推定された。当時特定されていた2回の大量絶滅(K-Pg境界始新世の大量絶滅)は地球への大きな天体衝突が起こった時期と一致することが示されていた。この周期性の原因は判明しなかったが、RaupとSepkoskiはこの周期性には地球外の何らかの要素が起因している可能性を示唆した。その後いくつかの天文学者の研究グループが直ちにこのメカニズムの解明に取り組み始めた[3][11]

2010年には、Adrian L. MelottとRichard K. Bambachは改善されたデータが含まれ化石データの再調査を行った。また、この際にはRaupとSepkoskiが使用していたものに加えて、2つ目の独立したデータベースが使用された。 彼らは5億年前にまで遡って調査を行い、その結果2700万年の周期で現れる過剰な絶滅率を示す信号の証拠を発見し、古い研究よりもはるかに高い統計的有意性を示した[12]

ネメシス仮説の発展

Daniel P. WhitmireとAlbert A. Jackson、 Marc DavisとPiet HutとRichard A. Mullerのそれぞれ独立した2つの研究グループが、大量絶滅の周期性に関するRaupとSepkoskiの説を説明する同様の仮説を同じ号のネイチャーに投稿した[3][11]。この仮説では、太陽の周りを楕円軌道で公転する未発見の伴星があり、この伴星が周期的にオールトの雲を乱し、その結果として内太陽系に飛来する彗星の数を大幅に増加させ、地球への天体衝突につながったとしている。この仮説が後に「ネメシス仮説」または「死の星仮説」として知られるようになった。

もしこのような伴星が存在したとしても、ネメシスの正確な性質などは不明である。Mullerは、ネメシスは見かけの明るさが7等級から12等級くらいの赤色矮星である可能性が最も高いとしているが[13]、WhitmireとJacksonは褐色矮星であると主張した[11]。赤色矮星であればこれまでの星表に掲載されているはずだが、太陽を公転しているので固有運動がとても小さくなり、9等級のバーナード星の固有運動(バーナード星の固有運動が初めて記録されたのは1916年[14])を記録できたような過去の固有運動観測による検出ができないため、年周視差の測定でしかその存在を確認できない。Mullerは、ネメシスが10等級より明るければ年周視差測定でネメシスを発見できると期待している[15]

最後の大量絶滅が約1100万年前に起きたことから、Mullerはネメシスが太陽から約95,000 au(約1.5光年)離れた軌道長半径を持つと仮定し[13]、Mullerの仮説の詳細を満たすOrbital arc(直訳すれば「軌道弧」の意)を描いて公転する、多数の公転周期が不定な長周期彗星の本来の近日点に由来する仮説上の軌道を基に、ネメシスはうみへび座の近くに見えると推定した(1987年のYarrisによる研究でも支持されている)。Mullerのネメシス仮説に関する最も最近の論文は2002年に出版された[13]。2002年にMullerは、4億年前にネメシスが近くを通過した恒星によって円軌道から軌道離心率0.7の楕円軌道へと軌道を乱されたと推測している[15]

2010年と2013年には、MelottとBambachは2700万年の周期で絶滅率が過剰に大きくなることを示す信号の証拠を発見したと発表した。しかし、ネメシスは太陽から非常に離れているので、近くを別の恒星が通過することで摂動の影響を受けることが予想されるため、公転周期は15~30%ほど変化するはずだとされている。したがって、約2700万年周期に見られる急激な絶滅率のピークはネメシスの存在とは矛盾している[12][16]

セドナの軌道

セドナの軌道を太陽系とオールトの雲と比較した画像

太陽系外縁天体セドナは非常に細長い異常な楕円軌道を描いており[12]、太陽からの距離は76 auから883 auにまで変化する[17]。軌道を1回公転するには約10,500年を要する[17]。セドナの発見者であるマイケル・ブラウンは、科学雑誌ディスカバー誌英語版の記事で「セドナはそこにあるべきではない」とセドナの位置は推論に反しているように見えると述べており、また「セドナを今いる場所に位置させる方法はない。太陽の影響を受けるほど接近しないが、他の恒星の影響を受けるほど太陽から遠く離れているわけでもない。」と述べている。したがって、ブラウンは目には見えない巨大な天体がセドナの異常な軌道の原因であると仮定した[12]。そして、この一連の調査によって最終的にプラネット・ナイン仮説が導き出された。

ブラウンは、数十億年前に太陽の近くを通過した1個以上の伴星ではない恒星がセドナを現在の軌道に引き寄せた可能性があると述べている[18]。2004年に、Scott J. Kenyonはセドナの軌道データの分析とかつて近くを通過した恒星のコンピューターモデリングからこの説明を助成させている[19]

ネメシスの探索

低温の恒星は赤外線で比較的明るく輝いて見えるため、ネメシスを赤外線で探索することは非常に重要となる。カリフォルニア大学サンフランシスコ州立大学が運営しているLeuschner天文台で行われた1986年までの観測ではネメシスは発見されなかった[20]。また、1980年代に行われた赤外線天文衛星(IRAS)による観測でもネメシスは発見されていない。1997年から2001年にかけて行われた2MASSによる掃天観測でも太陽系内に別の恒星や褐色矮星は発見されることはなかった[2][21]。もしネメシスが実在するとしたら、2008年より観測が開始されたPan-STARRSや、現在計画されているLSSTなどの大規模探査なら発見できる可能性がある。

特にネメシスが赤色矮星や褐色矮星である場合、2009年より始まったWISE計画によってネメシスを発見することができると期待されていた[2]。WISEは10光年以内の領域にある表面温度150 K(-123 )までの褐色矮星を検出することが可能で、褐色矮星が地球に近いほど検出が容易になる[5]。WISEによる観測の予備結果は2011年4月14日にリリースされた[22]。そして翌年3月14日には、WISE計画による観測結果の全体カタログがリリースされた[23] 。2014年時点のWISEのデータでは、オールトの雲より内側において土星またはそれより大きい質量を持つ未知の天体が10,000 au以内の領域に存在する可能性は除外された。アメリカ航空宇宙局(NASA)は、WISEによる全天観測の結果からネメシスの候補となるような赤色矮星または褐色矮星のいずれもが存在しないとの研究結果を明らかにした[8]

2012年時点では1,800個以上の褐色矮星が確認されているが[24]、実際には太陽系の近傍に存在する褐色矮星は以前考えられていたよりも少ないとされており、恒星1個につき1個の褐色矮星が存在するのではなく、最低で恒星6個当たり1個の割合でしか存在しない場合もある[25]。太陽のような恒星の大部分は単独星とされている[26]。以前の考え方では、恒星の半分もしくはほとんどの恒星が元々は星団と関連していた二重連星や三重連星、もしくはそれ以上の多重連星であると考えられていた。2017年に発表された研究論文で、Sarah SadavoyとSteven Stahlerは、太陽は形成された時点では連星系の一部であった可能性と主張し、「かなり昔にはネメシスは存在していたかもしれない」ことを示唆した[27][28]。このような恒星は40億年以上前に連星系から弾き飛ばされてしまったと考えられるため、最近の大量絶滅の周期性の原因にはならず、天文学者のDouglas Vakochは専門ニュースウェブサイトのビジネスインサイダーのインタビューで「太陽は初期の頃は本当に連星系の一部だったが、その初期の太陽と双子を成していた恒星は『脅威のネメシス』ではなく『伴星』のような和やかな名前をつけるに値する」と述べている[29]

1980年代の計算では銀河系や近くを通過する恒星から摂動の影響を受けることにより、ネメシスは不規則な軌道を持つことが示唆されている。しかし先述のように、MelottとBambachの研究[12]で、そのような予想される不規則な軌道要素とは矛盾する非常に規則的な絶滅率の上昇の信号が示されている。したがってこのような大量絶滅の周期性が支持されている間は、あくまで他の種類の亜恒星天体が存在するという可能性については矛盾しないが、ネメシス仮説とは矛盾しているように見える。2011年のNASAのニュースリリースには「最近の科学的分析は地球上で絶滅が周期的に繰り返されるという考えをもはや支持しなくなり、ネメシス仮説はもう必要ない」と記述されている[30]

より最近の理論では、他の恒星の接近や、太陽の銀河系内における公転軌道の軌道面に対して作用する銀河面の角度効果などの他の力が、外部にある一部の太陽系天体の軌道摂動の原因である可能性が示唆されている[19]。2011年、Coryn Bailer-Jonesは地球上に存在する衝突クレーターを分析し、初期の単純で周期的な大量絶滅の痕跡(ネメシスによって軌道を乱された彗星などによる天体衝突の痕跡を指す)の発見は統計上の人為的な効果(アーティファクト)であると結論付けられ、クレーターの記録はネメシスの存在を示す証拠にならないとされた[31]

作品

出典

  1. ^ Leader-Post, "Scientists claim killer star exists", 22 Feb 1984, Page B6, Associated Press
  2. ^ a b c d Leslie Mullen (2010年3月11日). “Getting WISE About Nemesis”. Astrobiology Magazine (Cosmic Evolution). 2019年11月14日閲覧。
  3. ^ a b c Davis, M.; Hut, P.; Muller, R. A. (1984). “Extinction of species by periodic comet showers”. Nature 308 (5961): 715–717. Bibcode1984Natur.308..715D. doi:10.1038/308715a0. https://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc835102/. 
  4. ^ a b Raup, D. M.; Sepkoski, J. J. (1984). “Periodicity of Extinctions in the Geologic Past” (PDF). Proceedings of the National Academy of Sciences 81 (3): 801–805. doi:10.1073/pnas.81.3.801. PMID 6583680. http://www.pnas.org/cgi/reprint/81/3/801.pdf. 
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  8. ^ a b NASA's WISE Survey Finds Thousands of New Stars, But No 'Planet X'”. NASA/Jet Proplusion Laboratory (2014年3月7日). 2019年11月14日閲覧。
  9. ^ David Morrison (2011年8月2日). “Scientists today no longer think an object like Nemesis could exist”. NASA Ask An Astrobiologist. 2012年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月14日閲覧。
  10. ^ David Morrison (2010年11月25日). “this hypothetical Nemesis does not exist”. NASA Ask An Astrobiologist. 2012年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月14日閲覧。
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  30. ^ Can WISE Find the Hypothetical 'Tyche'?”. NASA/Jet Propulsion Laboratory (2011年2月18日). 2019年11月14日閲覧。
  31. ^ Nemesis is a myth”. Max Planck (2011年8月1日). 2019年11月14日閲覧。

参考資料

  • リチャード ミュラー 著、手塚治虫 訳『恐竜はネメシスを見たか』集英社、1987年。ISBN 4087730824 

関連項目

外部リンク