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「ストリキニーネ」の版間の差分

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2019年4月13日 (土) 10:36時点における版

(−)-ストリキニーネ
識別情報
CAS登録番号 57-24-9
PubChem 441071
日化辞番号 J4.576D
KEGG C06522
特性
化学式 C21H22N2O2
モル質量 334.41 g mol−1
外観 無色結晶
密度 1.36
融点

275–285 °C

への溶解度 不溶
log POW 1.68
危険性
安全データシート(外部リンク) モデルデータシート
ICSC 0197
EU分類 猛毒 T+ 猛毒
環境への危険性 N 環境への危険性
Rフレーズ R27/28 R50/53
Sフレーズ S(1/2) S36/37 S45 S60 S61
半数致死量 LD50 2.35 mg/kg(ラット経口
出典
ICSC Sigma Aldrich
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ストリキニーネ (strychnine) はインドールアルカロイドの一種。非常に毒性が強い。IUPAC許容慣用名ストリキニジン-10-オン strychnidin-10-one。ドイツ語ではストリキニン (Strychnin)。化学式はC21H22N2O2CAS登録番号は57-24-9。1948年ロバート・バーンズ・ウッドワードにより構造が決定され[1]1954年に同じくウッドワードにより全合成された[2]。化合物の絶対配置は1956年にX線結晶構造解析により決定された[3]

日本では毒物及び劇物取締法により毒物に指定されている[4]。 単体は無色柱状結晶で、熱湯に溶けやすくアルコールクロロホルムに少し溶ける。極めて強い苦味を持つ(1ppm程度でも苦味が認識できる)。 殺鼠剤のほか、医療用として苦味健胃薬や、痙攣誘発薬、グリシンα1受容体拮抗薬、強精剤(ED治療薬)[5]に用いられている。

主にマチン科の樹木マチンの種子から得られ、1819年にマチンの学名 Strychinos nux-vomica にちなみ命名された。日本語では名称が似るが、キニーネ(quinine)とは全く別の物質である。 天然ではトリプトファンから生合成されている。同じくマチンに含まれるブルシン (brucine) は、ストリキニーネの2,3位にメトキシ基 (CH3O−) が付いた構造を持ち、毒性はストリキニーネより弱い。

中毒症状

ヒトをはじめとする脊椎動物において、脊髄に存在するリガンド作動性Cl-チャネルであるグリシンレセプター (GlyR) に対し、アンタゴニストとして作用する[6]。 これは、主に脳幹脊髄シナプスで抑制性神経伝達物質として振る舞うグリシンを特異的に阻害し、強力な中枢興奮作用を示す(言い換えると、ブレーキを無効にして暴走させる)。 痙攣を発する量は皮下注射の場合で、マウス0.4mg/kg、ウサギ0.7mg/kg、イヌ0.25mg/kg。

経口摂取すると小腸から血流中に入り、肝臓の解毒能力(ミクロソーム系酵素代謝)を超える濃度に達する15~30分ほどで症状が現れる。 激しい強直性痙攣、後弓反張(体が弓形に反る)、痙笑(顔筋の痙攣により笑ったような顔になる)が起こるが、これは破傷風の症状に類似している。また、刺激により痙攣が誘発されるのが特徴。意識障害はなく、筋肉の激しい痛みと強い不安・恐怖を伴う。最悪の場合、呼吸麻痺と乳酸アシドーシスで死に至る[7]。 なお、心循環系、消化器系には影響を与えない。痙攣に伴い、横紋筋融解によりミオグロビン尿が出る。

ヒト致死量には個人差があり、成人の最小致死量は 30-120mg だが、3.75g 摂取して生存したケースも報告されている[8]

治療においては、まず患者に刺激を与えないようにして鎮静剤ジアゼパムバルビツール酸誘導体など)、筋弛緩剤を投与し、痙攣の防止と気道の確保を行う。 ストリキニーネの体内での分解は早いので、中毒から24時間を過ぎれば予後の生存率は高くなる。

文化

ストリキニーネ中毒は、人と動物に対して致命的な影響を与えうる中毒である。任意の既知の毒性反応のなかでも最も劇的な痛みを伴う症状を引き起こすもののひとつで、しばしば文学や映画(おおむね殺人事件)で描かれている。

また、マラリアの特効薬であるキニーネとの混同も見られる。

脚注

  1. ^ Woodward, R. B.; Brehm, W. J. (1948). "The structure of strychnine. Formulation of the neo bases." J. Am. Chem. Soc. 70: 2107–2115. doi:10.1021/ja01186a034.
  2. ^ Woodward, R. B.; Cava, M. P.; Ollis, W. D.; Hunger, A.; Daeniker, H. U.; Schenker, K. (1954). "The total synthesis of strychnine." J. Am. Chem. Soc. 76: 4749–4751. doi:10.1021/ja01647a088.
  3. ^ Peerdeman, A. F. (1956). “The absolute configuration of natural strychnine”. Acta Cryst. 9: 824. doi:10.1107/S0365110X56002266. 
  4. ^ 毒物及び劇物指定令 昭和四十年一月四日 政令第二号 第一条 十七の二
  5. ^ 一般用医薬品 : ハンビロン KEGG MEDICUS
  6. ^ Purves, Dale, George J. Augustine, David Fitzpatrick, William C. Hall, Anthony-Samuel LaMantia, James O. McNamara, and Leonard E. White (2008). Neuroscience. 4th ed.. Sinauer Associates. pp. 137–8. ISBN 978-0-87893-697-7 
  7. ^ 劇薬指定成分について スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合 厚生労働省
  8. ^ INCHEM: Chemical Safety Information from Intergovernmental Organizations:Strychnine. http://www.inchem.org/documents/pims/chemical/pim507.htm
  9. ^ 精神神経学雑誌(1943)に掲載の広告「キナポン」 http://psychodoc.eek.jp/abare/gallery/gallery1.html

関連項目

外部リンク