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「競争力」の版間の差分

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2020年2月27日 (木) 15:50時点における版

競争力(きょうそうりょく、competitiveness)とは、資源配分の効率性の概念であり、与えられた市場において市場構造完全競争であると見做される範囲で企業・業種・国家が財やサービスを売買する能力と売上げの比較を言及する際に広く用いられる用語である。 ただし、国家に対して、売上やシェア等の概念を適用するのは不適切であり、客観的な競争力の指標を一意に定めることも困難である。マスメディア経済評論家などが「国際競争力」という用語を好く引き合いに出すが、そのほとんど(特に国家に対して用いられるもの)は多くの経済学者が指摘しているように明確な誤りである(後述)。


ピーター・ドラッカーによれば、知識(技術・技能)が経済力の基礎となり、知識の生産性こそが競争力の源泉となる[1]

概念

競争力の概念経済開発における新たなパラダイムとして現れた。

実証研究では、生産要素賦存量(資本労働力・技術)と才能地理的に集中する傾向が有ると裏付けられている[2]。 これは、経済主体(企業)が生産したサービスの販売において供給者・購入者・競合者が競争優位を得るのを助けるネットワークである企業間関係に組み込まれるという事実を反映する結果となる。

資本主義の下では、企業の原動力は潜在的に自らの競争力を維持し高めることである。

好景気というのは単なる支払い給与の増大ではなく、それだけでは物事は解決しない。 経済会社全体で競争力を持つことが重要である[3]

競争力という概念はどこにでもあるが、例えば、アメリカ日本のその考え方は大きく異なる。 日本では、競争力を着けるという話になると、政府補助金を与えて強くしようとする[4]が、恣意的な産業保護は意味が無く、実際に効果も挙がっていない。

内や国際的な市場において、政府の効果的な行動が予算により制約され、民間部門が競争するのに深刻な障害に直面するという場合に、競争力は国際競争によって齎される制約や課題の認識を捉える。

国際競争力は広い意味で、国や地域或いは都市の経済競争力を言及するのに使われる。グローバル市場での競争力に目を向けて審議会特別な機関を設置する例が増えつつある。

国際競争力の学術的な分析は、意味があるように定義し定量的に分析するように、計量経済学モデルで為されている[5][6][7]

指標

国際競争力の比較には、指標が存在する。

一つは国際経営開発研究所(IMD)から発表される「世界競争力年鑑」である。 このランキングは次の4項目の指標で構成されており、それらが各5個の細分化項目を設けている[8]

  1. 経済状況
  2. 政府の効率性
  3. ビジネスの効率性
  4. インフラストラクチャー

要するに、国際経営開発研究所が言う国際競争力とは多国籍企業にとっての活動し易さを意味する。

もう一つは世界経済フォーラム(WEF)で発表されている「世界競争力報告」である。 このランキングは、次の3項目の指標で構成されている[8]

  1. 基礎条件 - 制度機構・インフラストラクチャー・マクロ経済の安定性・保健初等教育
  2. 効率性促進要素 - 高等教育職業訓練・財市場の効率性・労働市場の効率性・金融市場の高度化・技術即応性・市場規模
  3. 高度化要素 - ビジネスの高度化・イノベーション

経済学における誤用

まず、競争力は為替レート次第で変動するために、為替レートを無視した競争力という概念は経済学には存在しない[9]

また、様々な研究者・研究機関が独断と偏見に基づいて国際競争力を定義している[10]。 実際には、多くの経済学者が指摘しているように、特にマクロ経済学において、国際競争力なる考え方は存在しない。 もし国際競争力の概念に実質的な意味があるとしても、生産性に向き合う国民という事実の上に存在しており、国際競争力の漠然として間違った概念の批判と平行して、エドモンド・トンプソンのような系統だった厳格な試み[7]が練り上げられる必要が有る。

なお、例外として、マクロ経済環境に起因する自国と他国の輸出企業の相対的な収益性変動(=交易条件指数/実質実効為替レート指数)という意味でならば、適した語が見付からず、この用語が敢えて使われた例が有る[11]

輸出競争

例えば、日本では、小宮隆太郎がそもそも経済力(国際競争力)とは何ぞやと批判を呈している[12]。 また、外国では、国際競争力という概念の実用性や誤用については特に国の競争力という文脈においてポール・ロビン・クルーグマンらの経済学者が活発な批判を行い[13][14]、小宮隆太郎と同様に指摘している。 何故ならば、貿易を国同士がGDPの額を競い合う輸出競争(ゼロサムゲーム)と捉えた競争などは存在しないからである[15]

なお、国際競争力を輸出競争力と捉えて或るの輸出が世界の輸出合計に占めるシェアの伸び率を用い、生活水準の指標として、内外価格差を排除するため購買力平価で計った一人当たり国内総生産(GDP)の伸び率を用いる[16]と、国際競争力と生活水準には関係が無いことが判明している[17]

要するに、国際競争力などという概念は明確には存在せず、国家を企業と見立て貿易を市場を巡る勝ち負けのゼロサム的認識が生んだ幻想に過ぎない[10]。 実際問題として、そのような競争力主義ははっきりとした誤りであり、互いの経済競争において、どの程度であっても、国際的な先進国は無い。 経済の貿易が有る部門でも無い部門でも、経済厚生水準は第一に生産性により決定される[13]

遵って、このような意味で競争力向上を目指すのは根本的に誤りである。何故ならば、競争力至上主義は労働者を搾取し失業率を悪化させ、民間企業の利益がそのまま国益にはならないからである[18]

また、市場には自浄作用など無いということが世界金融危機リーマン・ショック及び欧州ソブリン危機で如実に現れている。競争力至上主義に囚われて雇用の流動化を推し進めてきたアメリカとその逆の政策を採用したドイツを比較すると、ドイツは労働市場規制を強めていたために金融危機に対して耐性が有り、その失業率はアメリカよりも低い[18]

国際収支

特に、国際収支において、マスコミや経済評論家などが国際競争力という用語を好く引き合いに出し、誤用している。

経常収支が国際競争力を反映して決まるという考えは誤りである[10]。 基本的に、短期の貿易収支・経常収支の動きを規定しているのは国内外の景気変動であり、産業空洞化や国際競争力の低下は全く関係が無い[19]。 また、経常収支の黒字と経済成長を同一視したり経常収支の赤字を国の経済力の衰退と見做したりする考えは間違いである[20]

なお、貿易黒字の大きさは『国際競争力』の現われでも、市場の閉鎖性でもない[21]。 例えば、日本が海外で資本・投資を蓄積するのは、貿易黒字の裏返しであり、悪というわけではない。[22]

貿易立国

競争力概念と共にある貿易立国の考え方にも塩沢由典などの様々な経済学者が異論を提起している[23][24]。 趨勢的に輸出依存型経済成長を目指していては人々の幸福に繋がる経済成長は不可能であり、輸出に頼らない内需主導のサービス経済化による経済成長が望ましい[23]貿易は大いに必要であるが、生産優先の考え方が長期低迷を生み出す外需依存型経済は問題であり、そこからの脱却が必要である[25]

貿易相手国の生産性上昇を自国の国際競争力の低下とする思考方法は比較優位の基本原理と矛盾した単純な誤りである。 それは、理論的には短期的に有り得るが、現実的にまず無い[26]。 また、産業の空洞化の原因を高コストに求める考え方は、比較優位を全く理解せずに、絶対優位に基づく思考に陥っている証拠である[26]

競争力と日本経済

1919年から1931年にかけての経済論壇の主流は、経常収支赤字による対外準備減少を日本の国際競争力の欠如であり、通貨高デフレーションによって非効率な部門の淘汰し国際競争力を高めていこう、という輸出競争主義や絶対優位の思考に陥ったものであった[27]。 当時の歴代内閣の大半も、国際競争力は高コスト体質から来ていると解釈し、物価・賃金の引き下げを狙ったデフレーション政策を志向した[27]。これは正しく絶対優位に基づいた考え方である。なお、デフレーションの進行で、名目賃金は低下するが、実質賃金外貨建ての輸出価格は共に高騰する。

1985年9月に成ったプラザ合意から、円高が急速に進み日本製品の国際市場における価格競争力が低下した[28] 同時に、労働コストが他の工業国に比べ上昇したため、日本国内に生産拠点を持っていた比較優位産業(輸出製造企業)の収益性[11]が失われた[28]。 なお、既述のように、これを他国との価格競争力の絶対比較で判断してはならない。

バブル崩壊後の日本では、国際的競争力を輸出競争力という誤用での意味に基づかせて「日本の国際的競争力は経済のグローバル化の影響で低下している。」・「(国際的競争力の低下に因って)日本の産業の空洞化が進んでいる。」という見方が広まった[19]。 日本の正しい意味での国際競争力の低下は、1980年代から明らかとなり、デフレーション基調に陥ったバブル崩壊後の1990年代後半から顕著となっている[29]。 この国際競争力の低下に対応し、日本の製造業の生産拠点が労働コストの低いアジア地域に移転され、そこから第三国にも輸出される(三角貿易)ようになった[28]。 このような現象が起こった原因が輸出競争力の低下などではないことは、収益性の大幅低下に苦しむ電機産業が群を抜いて爆発的と言って良いほど高い上昇率で実質労働生産性成長を遂げている[30]という事実から、明らかである。

出典

  1. ^ 日本経済新聞社 編『世界を変えた経済学の名著日本経済新聞出版社日経ビジネス人文庫〉、2013年5月。ISBN 978-4-532-19684-4http://www.nikkeibook.com/book_detail/19684/ 
  2. ^ “TROPICS, GERMS, AND CROPS: HOW ENDOWMENTS INFLUENCE ECONOMIC DEVELOPMENT” (PDF). NBERワーキングペーパー (全米経済研究所) 9106. (2002年8月). http://www.nber.org/papers/w9106.pdf. 
  3. ^ 『竹中先生、経済ってなんですか?』ナレッジフォア、2008年5月。ISBN 978-4-903-44109-2 
  4. ^ 最新キーワードでわかる! 日本経済入門日本経済新聞社日経ビジネス人文庫〉、2002年9月。ISBN 978-4-532-19142-9http://www.nikkeibook.com/book_detail/19142/ 
  5. ^ The Competitive Advantage of Nations. ハーバード・ビジネススクール. (1990年). ISBN 978-0-684-84147-2. http://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=189 
  6. ^ “National Competitiveness: A Question of Cost Conditions or Institutional Circumstances?”. ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・マネジメント (ジョン・ワイリー&サンズ) 15 (3): 197–218. (2004-08-12). doi:10.1111/j.1467-8551.2004.00415.x. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-8551.2004.00415.x/full. 
  7. ^ a b “A grounded approach to identifying national competitive advantage” (PDF). エンヴァイロメント・アンド・プランニング (セイジ・パブリケーションズ) A (35): 631-657. (2003年). doi:10.1068/a35110. http://epn.sagepub.com/content/35/4/631.full.pdf. 
  8. ^ a b 三菱総合研究所 編『最新キーワードでわかる! 日本経済入門日本経済新聞出版社日経ビジネス人文庫〉、2008年5月。ISBN 978-4-532-19450-5http://www.nikkeibook.com/book_detail/19450/ 
  9. ^ 日本の経済-歴史・現状・論点中央公論新社中公新書〉、2007年5月25日。ISBN 978-4-12-101896-0http://www.chuko.co.jp/shinsho/2007/05/101896.html 
  10. ^ a b c グローバル経済を学ぶ筑摩書房ちくま新書〉、2007年5月7日。ISBN 978-4-480-06363-2https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480063632/ 
  11. ^ a b バブルデフレ期の日本の金融政策」(PDF)『バブル/デフレ期の日本経済と経済政策』、経済社会総合研究所(ESRI)、2009年。 
  12. ^ 貿易黒字・赤字の経済学 日米摩擦の愚かさ東洋経済新報社、1994年9月1日。ISBN 978-4-49-239194-5http://store.toyokeizai.net/books/9784492391945/ 
  13. ^ a b ポール・ロビン・クルーグマン. “Competitiveness: A Dangerous Obsession” ((英語)). 外交問題評議会(CFR). 1994年3月1日閲覧。
  14. ^ “The Impact of Business Regulatory Reforms on Economic Growth” (PDF). Journal of the Japanese and International Economies (エルゼビア) 26 (3): 285–307. (2012年). ISSN 0889-1583. http://poseidon01.ssrn.com/delivery.php?ID=065004099094075103083027029117112077008034068021065036067100101107017075125002115118017016059047050120097083119002106079068067123047029051078025092102079124020080023040052127124007010085122024079101104028110070097026103096017004069078113086103091072&EXT=pdf. 
  15. ^ 高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学河出書房新社、2013年9月10日。ISBN 978-4-309-24628-4http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309246284/ 
  16. ^ 戸谷隆夫. “国際競争力の妄想”. 税経新人会全国協議会. 2015年10月1日閲覧。
  17. ^ コンパクト 日本経済論新世社コンパクト 経済学ライブラリ〉、2008年12月25日。ISBN 978-4-88384-132-5http://www.saiensu.co.jp/index.php?page=book_details&ISBN=ISBN978-4-88384-132-5 
  18. ^ a b ポール・ロビン・クルーグマン. “The Competition Myth” ((英語)). ニューヨーク・タイムズ. 2011年1月23日閲覧。
  19. ^ a b 平成大停滞と昭和恐慌 プラクティカル経済学入門NHK出版NHKブックス〉、2003年8月29日。ISBN 978-4-14-001978-8https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00019782003 
  20. ^ TPP亡国論集英社集英社新書〉。ISBN 978-4-087-20584-8http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0584-a/ 
  21. ^ ゼロからわかる経済の基本講談社講談社現代新書〉、2002年12月16日。ISBN 978-4-06-149641-5http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061496415 
  22. ^ ジョン・ケネス・ガルブレイス. “ジョン・K・ガルブレイス「文明の衝突は起きない」 ~ 「グローバルビジネス」1994年8月15日号掲載”. ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社. 2009年12月30日閲覧。
  23. ^ a b 今よりマシな日本社会をどう作れるか 経済学者の視野から編集グループSURE、2013年6月http://www.groupsure.net/post_item.php?type=books&page=shiozawa_imayori 
  24. ^ リカード貿易問題の最終解決 国際価値論の復権岩波書店、2014年3月27日。ISBN 978-4-00-025569-1http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/X/0255690.html 
  25. ^ 日本経済が何をやってもダメな本当の理由日本経済新聞出版社、2011年6月。ISBN 978-4-532-35469-5http://www.nikkeibook.com/book_detail/35469/ 
  26. ^ a b 構造改革論の誤解東洋経済新報社、2001年12月14日。ISBN 978-4-492-39361-1http://store.toyokeizai.net/books/9784492393611/ 
  27. ^ a b 日本建替論 100兆円の余剰資金を動員せよ!藤原書店、2012年2月。ISBN 978-4-894-34843-1http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=1243 
  28. ^ a b c 三和総合研究所 編『30語でわかる日本経済日本経済新聞社日経ビジネス人文庫〉、2000年10月。ISBN 978-4-532-19003-3http://www.nikkeibook.com/book_detail/19003/ 
  29. ^ あしたの経済学 改革は必ず日本を再生させる幻冬舎、2003年1月28日。ISBN 978-4-344-90043-1http://www.gentosha.co.jp/book/b4651.html 
  30. ^ 内閣府. “国民経済計算(GDP統計)”. 内閣府. 2015年10月1日閲覧。

関連項目

外部リンク