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「プロトタイプベース」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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m 少なくともFlavors、CLOS、CLOS MOPの歴史とプロトタイプベースの歴史は直接的にリンクしていませんので、Flavors、CLOS、CLOS MOPがプロトタイプベースであるような記述は削除しました。(ANSI規格に歴史の記述があります: http://www.lispworks.com/documentation/HyperSpec/Body/01_ab.htm )
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2021年3月13日 (土) 12:39時点における版

プロトタイプベース (: prototype-based) は、オブジェクト指向プログラミングのサブパラダイムであり、メタオブジェクトプロトコル英語版を中心にした手法を指す。インスタンスベース(instance-based)とも呼ばれる。プロトタイプベースは1990年代前半から認知されるようになった後発のスタイルであり、先発のクラスベースのオブジェクト指向とは明確に区別されている。「Self」「Oz」「Lua」「Python」「JavaScript」「Ruby」「Etoys」「ECMAScript」「REBOL」「Io」「TypeScript」といったスクリプト言語Webプログラミング言語を中心に支持されている。

プロトタイプベースではプロトタイプ、インスタンス、シンボル、プロパティメソッドなどは全てオブジェクトとして扱われる。オブジェクトはメンバオブジェクトの識別名参照値をペア定義できる可変サイズのデータ構造体であり、この形態はフレーム&スロット(frame&slot)とも呼ばれる。プロトタイプを複製するという方式でインスタンスが生成される。プロトタイプは動的にカスタマイズできる「」と見なせるものであり、その型を複製したインスタンスは自由に加工/計算/代入できる「」になる。なお、静的な事前定義の機能が強調されたプロトタイプを「クラス」の名称で実装しているプロトタイプベースOOP言語も多いが、クラスベースのそれと区別するために本稿ではプロトタイプで統一する。

特徴

You make prototype objects, and then … make new instances. Objects are mutable in JavaScript, so we can augment the new instances, giving them new fields and methods. These can then act as prototypes for even newer objects. We don't need classes to make lots of similar objects… Objects inherit from objects. What could be more object oriented than that?
(あなたはプロトタイプを作りそして新しいインスタンスを作る。オブジェクトは可変であり新しいフィールドとメソッドを付け足して拡充できる。丁度プロトタイプで為されるように。類似オブジェクトを作るためのクラスは必要ない‥オブジェクトも継承できる。これ以上のオブジェクト指向があるだろうか?) — Douglas Crockford(JavaScript developer)

プロトタイプベースの土台であるメタオブジェクトプロトコル英語版の採用方法は言語ごとに異なっているためにその実装方式も様々であるが、本稿ではなるべく共通仕様に沿うように説明する。

オブジェクトとは

プロトタイプベースでのオブジェクトは、大まかに言うと「フレーム&スロット」「シンボル」「データ」「コード」の四要素から構成される。この四要素もまたオブジェクトである。データは変数値/定数値を指す。コードは関数式(引数有り無し/返り値有り無し)を指す。シンボルは識別子となり、データが束縛されたら変数名、コードが束縛されたら関数名になる。フレーム&スロットはシンボル(変数名/関数名)が集約される媒体であり「プロトタイプ」「インスタンス」になる。フレーム&スロットに集約された変数/関数はメンバと呼ばれる。プロトタイプは要self変数/関数にアクセスできないオブジェクトであり、インスタンス(=self)はそれができるオブジェクトである。プロトタイプは継承して派生プロトタイプを定義できる。プロトタイプを複製(copy/close)する方式でインスタンスが生成される。プロトタイプとインスタンスは共にメンバ変数とメンバ関数を自由に付け足すことができる。シンボルは上述の四要素分類、プロトタイプ/インスタンス区別、オブジェクト型識別、リテラル(数値/論理値/文字列/列挙型)識別のための型アノテーションとしても用いられており、後述のプロトタイプベースにおけるメタクラスはその用法でのシンボルである。シンボルはセレクタ(振る舞い指示子)としても使われる。シンボルにもメンバを付けることができる。

上述のメカニズムから、変数はdefaultスロットにデータ束縛シンボルが入ったフレーム、関数はdefaultスロットにコード束縛シンボルが入ったフレームと見なせるので、変数に自身のメンバ変数/関数を持たせることも可能であり、関数ではそのローカル変数/関数が自身のメンバ変数/関数として解釈される。defaultスロットは、フレームで暗黙的に最優先参照されるスロットである。フレーム&スロット、定数、変数、関数式、引数、返り値は、それぞれがお互いをメンバにできるので入れ子の連結関係で所有ないし所属し合えるようになっている。変数にメンバ関数/変数を付けるとクラスベースOOPインスタンスと同等になる。関数も同様であり、関数の要selfメンバ変数/関数はそのローカル変数/関数と同義になる。メンバ変数付き関数とメンバ関数付き変数は、関数オブジェクトまたはクロージャと同等なものになる。

デリゲーションとメッセージパッシング

オブジェクトのメンバ関係の連鎖メカニズムは、デリゲーション(委譲)によるオブジェクトのコミュニケーションを活性化させる。委譲の多用にはセレクタ(振る舞い指示子)を用いる言語の方が適している。セレクタはobject selector:のように書式されてこれはobjectselectorを送るという風に解釈され、これはメッセージパッシングと呼ばれる。関数呼び出しとメッセージパッシングの違いは、前者は関数名がコンパイル時定義されているの対して、後者では関数名も実行時に解釈される文字列引数(セレクタ)として渡される点である。これを受けとるオブジェクトの共通窓口はメッセージレシーバーと呼ばれる。セレクタの実行時解釈によるオーバーヘッドが懸念されて、よく用いられるセレクタのレシーブ時には対応プロセスに自動ジャンプする機構が重視されるようになり、このセレクタによる自動分岐がメソッド機構のルーツになった。セレクタ=メソッド名であるのでメソッドコールは関数呼び出しと回帰的同義になり、やがてobject.method()のように書式されるようになった。

メソッドは、関数型言語で用いられる関数適用func objectの書式を反対にしたものと解釈できる。funcは関数式でありobjectは値である。値(=オブジェクト)を先にしてそれを軸にするメソッド様式では、値にそれ専用の式内容も含ませており、セレクタはそれを引き出すための式名になっている。式内容を引き出された値はそのまま演算に移るか、後続の引数を送られての演算に移る。演算後は状態変化した自分自身か、導出された他の結果値となりそれにまたセレクタが送られる。セレクタに応じる式内容を値が持ってない場合のミッシング発生時は、値が保有しているメンバ値たちにそのセレクタを送るという委譲が積極的に行われてミッシング発生は極力回避される。セレクタの効用はこの委譲を容易にするための書式という意味が強い。ミッシングエラー回避だけでなく、セレクタを受け取った時点で委譲先オブジェクトに変えたり、後続引数で対応できなかったらそこで委譲するという処理の多様性も表現できる。

セレクタを用いない言語では、object.method()のようにメソッドコールする一般的なプログラムになる。オブジェクトのメソッドが引数付きでコールされてそこで指定処理に対応できない場合は、そのメンバオブジェクトに引数を渡してそちらに委譲する。その委譲先でも不可だった場合はそのまたメンバオブジェクトにたらい回しできる。オブジェクトはそのたらい回しの結果返ってきた値を自身の返り値にできる。

ダックタイピングと構造的型付け

プロトタイプベースは動的な関数型プログラミング由来のパラダイムである。故にプロトタイプベースでは、メンバ(変数/関数)はオブジェクトに所属しているのと同時に、そのオブジェクトに結び付けられた写像のミニモジュールであると考えたほうが仕組み的には分かりやすくなる。メンバ変数はプロセス無しの写像である。メンバ変数アクセスはinstance.propertyと書式されるが、これは仕組み的にはproperty instanceとなっていて写像シンボルpropertyをオブジェクトinstanceに適用してメンバ変数値を導出している。メンバ関数はプロセス付きの写像である。メンバ関数アクセスはinstance.method()と書式されるが、これは仕組み的にはmethod instanceとなっていて写像シンボルmethodをオブジェクトinstanceに適用してメンバ関数をコールしている。引数がある場合はinstance.method(a,b)と書式されて仕組み的にはmethod instance a bとなっている。セレクタを用いる言語では、オブジェクトに写像シンボルのメッセージを送る書式になりinstance property:instance method: #(a,b)のようになる。写像シンボルをオブジェクトに適用できるどうかの判別は、適用時のオブジェクトスロットに写像シンボルが入ってるかどうかで実行時に決められる。ガーinstanceに適用できればそれはアヒルオブジェクトという意味から、これがダックタイピングと呼ばれる。

上述の写像(メンバ変数/関数)を単体で識別するダックタイピングに対して、写像のまとまりをセットで識別するのは構造的型付けと呼ばれる。一つの目的を表現するための写像のミニモジュールはトレイトなどと呼ばれる。トレイトをオブジェクトに多重実装させるのはミックスインと呼ばれる。ミックスインは一つの目的に沿ったメンバ変数/関数のミニモジュールをワンタッチでオブジェクトに実装して、そのミニモジュールの特性(trait)でオブジェクトを分類できるようにする。オブジェクトのトレイト実装判別は、そのトレイトの変数/関数をオブジェクトも全て保有しているかどうかが基準にされてトレイト名自体は顧みられない。インターフェースミックスインは共に実装継承の対象であるが、前者は抽象性重視の性質からクラスベースで扱われる事が多く、後者は構造性重視の性質からプロトタイプベースや関数型スタイルOOPで扱われることが多い。

メタクラスとプロトタイプ

クラスベースとプロトタイプベースでは、メタクラスと名指しする対象が異なるので注意が必要である。クラスベースのクラスはシステムが保持する特殊なデータなので直接の閲覧/操作はできず、システムが提供するインターフェースを通してのみクラス構成情報の閲覧/操作ができるので、そのインターフェース機構がメタクラスとされる。それに対してプロトタイプはプログラマが自由に扱えるデータ構造体であり、直接その構成情報を閲覧/操作できるのでプロトタイプ自体がメタクラス機能を備えているが、プロトタイプベースではプロトタイプ=メタクラスとはしておらず、プロトタイプのtypeスロット(これはprotoスロットやclassスロットとも称される)に入るオブジェクトをメタクラスとしている。プロトタイプベースにおけるメタクラスとは、アドホック多相の型アノテーションの働きをするシンボルになっている。他言語の属性付きアノテーションと同様にシンボルにもメンバを付け足して多様な型情報を表わせる。オブジェクトのtypeスロットは原型元オブジェクトを指し、parentスロットは継承元オブジェクトを指している。

よく使われる定型的なプロトタイプはそのメンバ変数/関数を、クラスベースOOPクラスと同様にあらかじめ静的定義するかされているのが普通である。この静的な事前定義の側面が強調されたプロトタイプを「クラス」と呼んでいるプロトタイプベースOOP言語も多いが、クラスベースOOPのそれとは性質的に異なる。プロトタイプは継承可能であり派生プロトタイプを定義できる。派生プロトタイプのparentスロットに入るオブジェクトが基底プロトタイプになる。多重継承可能な言語では複数の基底プロトタイプをparentスロットに入れることができる。

プロトタイプを複製(clone/copy)する方式でインスタンスが生成される。この複製では、複製元プロトタイプとそのparentスロットからの基底連鎖チェーン上の全プロトタイプのメンバを積み重ねて、同名メンバ重複を一定の手順で解決したひとかたまりがインスタンスになる。同名メンバ重複の解決はもっぱら派生側から最初にサーチされたものが最優先される方法で行われ、多重継承時の関数ではC3線形化などのメソッド解決順序(MRO)が用いられる。プロトタイプベースのこの一つのインスタンスにまとめる生成方式は連結(concatenation)と呼ばれる。クラスベースでは基底クラスごとのインスタンスを数珠繋ぎしたものを一つのインスタンスにするという連鎖(linkage)の生成方式を採用しているのでここが決定的に異なっている。クラスベースのインスタンスはsuper参照を持つが、プロトタイプベースのインスタンスのparentスロットは空欄になる。typeスロットには複製元プロトタイプが入れられる。上述のメカニズムから、typeスロットにプロトタイプが入ってるフレームがインスタンス、typeスロットにシンボルが入ってるフレームがプロトタイプとも判別できる。

原型関係と継承関係

クラスベースと異なりプロトタイプベースでは原型関係(typeスロット)の存在感が高く、継承関係(parentスロット)の存在感は低いものになっている。継承関係は前節で説明した複製方式(clone/copy)のインスタンス生成時に意味を成しており、基底プロトタイプのメンバ変数/関数を持ってきて合成するための機能になっている。前節で説明したミックスインの作法通りである。従ってparentスロットは合成ミニモジュール候補とも読み替えられる。またparentスロットがない言語では、指定インスタンスをself(これはthisやmeとも称される)にして該当メンバにアクセスできる特殊関数の用法を継承と定義しており、この場合の継承は特殊なデリゲーションと同義になっている。原型関係は言語によっては、インスタンスのスロットに指定メンバ(関数や定数)が見つからなかった際の次のサーチ先(プロトタイプ)になっている事もあり、この場合はクラスベースの継承関係と同じ働きをする。

オブジェクトは、原型関係(typeスロット)と継承関係(parentスロット)の二系統から体系化されている。継承関係の最上位は専らObjectオブジェクトであり、原型関係の最上位は専らTypeオブジェクトである。やや分かり難くなるが、このObjectTypeも継承関係で結ばれておりObjectは基底でTypeは派生である。同時にTypeObjectは原型関係でも結ばれておりTypeは原型元でObjectは実例先である。Objectはフレーム&スロットであり、Typeはシンボルである。前述の通りシンボルはdefaultスロットにシンボルが入ったフレームであり、この場合のフレームをeigenclass(ownclass)などと定義している言語もある。この系統ラインの相互再帰ループがメタオブジェクトプロトコルの特徴でもある。

動的関数型プログラミング

プロトタイプベースは、関数オブジェクトが変数オブジェクト(値オブジェクト)を引数にしてまた返り値にするといった様式に集約されるものである。値オブジェクトはダックタイピングで動的に型判別される。引数の動的な型判別は動的な関数オーバーロードを自然表現し、これは従来の静的な関数型言語に対するアドバンテージになった。型推論を用いる静的な関数型言語で関数オーバーロードを実装するには、記名的型付けによる”文脈”といった追加仕様が必要になるからである。関数と変数は双方ともにプロパティとメソッドを自由に付け足し付け替えできるので、関数のプロパティは二階述語論理の表現手法になり、変数のメソッドは高階述語論理の表現手法になった。プロパティとメソッドの保持構成による型判別は構造的型付けでも行われる。ミックスインは一定の目的に基づくプロパティとメソッドのアタッチを形式化した型付けのための仕組みである。これらの特徴からプロトタイプベースOOPは、関数型プログラミングの動的拡張版と見なしてもよいものになっている。

来歴

プロトタイプベースのルーツは、1972年にアラン・ケイが開発した言語「Smalltalk」が採用していたメタオブジェクトの仕様に求めることができる。オブジェクト指向は元々Smalltlkの設計を説明する中で初めて発信された用語である。故にプロトタイプベースは元祖オブジェクト指向と同時に誕生したスタイルと言ってよいが、Smalltalkでのメタオブジェクトはアラン・ケイが最重視していたメッセージングの仕組みを実現するためのインフラストラクチャであったので、そのスタイル自体が取り沙汰されることは無かった。それはLISP風プログラミングの拡張と見なせるものでもあった。Smalltalkのメタオブジェクト仕様は「LISP」のアトム/シンボル型/リストといった情報要素を参考にしていた。

1980年代になって知名度を得た「Smalltalk」本来の要点であるメッセージングは、その実装が途上段階でもあった理由からさほど認知される事はなく、代わりにその下部構造であるメタオブジェクト仕様の方が「Simula 67」由来のクラスインスタンスという視点から技術的関心を集めて、オブジェクト指向を表舞台に立たせる原動力になっている。しかしこれは、オブジェクトにsubclass:セレクタをメッセージングして派生クラスをクローンするという仕組みの糖衣構文的な事前定義が、そのまま額面通りにSimula風のクラス定義になぞらえられた曲解的解釈でもあった。そこでは動的なメタオブジェクトと静的なユーザー定義型という性質の違いは無視されていた。1980年代を通して、元祖オブジェクト指向のプロトタイプ性質はクラス機構に覆い隠される事になり、オブジェクト指向もまた元祖とは異なるクラス重視の仕様で世間に広まっている。その一方でSmalltalkやLISPコミュニティでは本来のメタオブジェクトを中心にしたパラダイムが追求されていた。

1990年にSmalltalkの方言として公開された「Self」はプロトタイプベースと定義された初のOOP言語として知られている。ただしこれは後付けの解釈であり「JavaScript」こそがプロトタイプベースの立役者とする見方もある。1990年代のプログラム言語の大衆化が重視されるようになった風潮の中で「Self」が示したメタオブジェクトないしメタクラスの考え方は、スクリプト言語Webプログラミング言語に適した手軽で柔軟なパラダイムとして注目を集めた。1994年に「Python」のver 1.0がリリースされ、1996年に「JavaScript」「Ruby」が公開された。その公開当初から人気を集めたJavaScriptの存在感が、従来のクラス中心のオブジェクト指向とは異なることを示すための新しいスタイル定義を必要にしている。

脚注

関連項目