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'''チェスター・アーヴィング・バーナード'''({{En|'''Chester Irving Barnard'''}}、 [[1886年]] - [[1961年]])は、[[アメリカ合衆国]]の[[電話会社]]の[[社長]]であり、[[経営学者]]である。
'''チェスター・アーヴィング・バーナード'''({{En|'''Chester Irving Barnard'''}}、 [[1886年]] - [[1961年]])は、[[アメリカ合衆国]]の[[電話会社]]の[[社長]]であり、[[経営学者]]である。[https://lm-tmw.com/theory-and-practice/paradigm-shift-barnard/ 1938年に経営学の古典となる『経営者の役割』を出版し、経営学を大きく転換]する一翼を担うことになった


== 概要 ==
== 概要 ==
[[1927年]]から約20年間、アメリカのベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル電話会社社長を務め、その社長在任中の[[1938年]]に主著『経営者の役割』を刊行し、それによって[[科学的管理法]]の[[フレデリック・テイラー]]と並び称される経営学者としての名声を確立した。
[[1927年]]から約20年間、アメリカのベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル電話会社社長を務め、その社長在任中の[[1938年]]に主著『経営者の役割』を刊行し、それによって[[科学的管理法]]の[[フレデリック・テイラー]]と並び称される経営学者としての名声を確立した。


彼は[[組織 (社会科学)|組織]]をシステムとして定義し、「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」とした。これは[[公式組織]]の定義であるが、その成立のための条件として組織の3要素:[[共通目的]]([[組織目的]])・[[協働意志]]([[貢献意欲]])・[[コミュニケーション]]を示した。
彼は[[組織 (社会科学)|組織]]をシステムとして定義し、「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」とした。これは[[公式組織]]の定義であるが、その成立のための条件として組織の3要素:[[共通目的]]([[組織目的]])・[[協働意志]]([[貢献意欲]])・[[コミュニケーション]]を示した。[https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/organizational-management-basic.html 「共通目的」は、組織の構成員が目的を共有していること、「貢献意欲」は、組織に貢献したいという意思をもっていること、「コミュニケーション」は、組織の構成員間でコミュニケーションを取れること]です


[[協働]]のシステムは公式組織が中核となって物的要因・人的要因・社会的要因が結合したシステムである。組織の3要素の均衡が組織成立の条件であり、存続の前提となる。この均衡を内部均衡という。また、人間にも組織にも、目的達成とそれにともなう満足ということが考えられなければならないが、目的達成の基準は有効性(effectiveness)、満足の基準は能率(efficiency)と定義される(能率という言葉の使い方は一般的なものとは異なる)。管理論はこのような組織論の基礎の上に築かれ、[[道徳]]の創造という[[リーダーシップ]]が導き出される。
[[協働]]のシステムは公式組織が中核となって物的要因・人的要因・社会的要因が結合したシステムである。組織の3要素の均衡が組織成立の条件であり、存続の前提となる。この均衡を内部均衡という。また、人間にも組織にも、目的達成とそれにともなう満足ということが考えられなければならないが、目的達成の基準は有効性(effectiveness)、満足の基準は能率(efficiency)と定義される(能率という言葉の使い方は一般的なものとは異なる)。管理論はこのような組織論の基礎の上に築かれ、[[道徳]]の創造という[[リーダーシップ]]が導き出される。


バーナードの主たる理論的な相貌は主著に明瞭に現れているが、この著作はニュージャージー・ベル電話会社の社長時代に、ハーバード大学のローウェル研究所で行った公開講義に部分的拡大と加筆修正を加えて完成させたものである。その理論は[[ハーバート・サイモン|サイモン]]や[[フィリップ・セルズニック|セルズニック]]らに影響を与えた。
バーナードの主たる理論的な相貌は主著に明瞭に現れているが、この著作はニュージャージー・ベル電話会社の社長時代に、ハーバード大学のローウェル研究所で行った公開講義に部分的拡大と加筆修正を加えて完成させたものである。その理論は[[ハーバート・サイモン|サイモン]]や[[フィリップ・セルズニック|セルズニック]]らに影響を与えた。

== バーナード革命<ref>{{Cite web|url=https://lm-tmw.com/theory-and-practice/paradigm-shift-barnard/|title=THE MEANING OF WORK>経営学のパラダイムシフトへ>バーナード革命|accessdate=20210521}}</ref> ==
バーナードは、全く新しい組織概念に提起し、それらに基づいて、[https://lm-tmw.com/theory-and-practice/paradigm-shift-barnard/ 経営学の基礎理論を築くことで、パラダイムシフトを起こしたと評価される。そのために、ケインズ革命になぞらえて、バーナード革命と呼ばれる]こともある。実際、政治学者のジュブネルは、バーナードへの書簡で「経済学においてケインズ革命を口にするように、政治学においてもバーナード革命を口にすべきだと思う」と述べている(Letter from B.de Jouvenel to C.I.Barnard,June 25th,1956)。

日本においては、バーナード理論は、

(1)組織理論をベースにした理論であること

(2)厳密なフレームワークに基づく、論理的で、体系的な理論であること

(3)科学的であるばかりでなく、経験から生まれ、実践的な洞察を含む理論であること

という評価を受けて、大きく受容され、発展した(櫻田・磯村、2020)。


== 主な著作 ==
== 主な著作 ==
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==参考文献==
==参考文献==
*磯村和人『Organization Theory by Chester Barnard: An Introduction』(Springer, 2020年)
*経営学史学会編『経営学史辞典』(文眞堂、2002年)
*経営学史学会編『経営学史辞典』(文眞堂、2002年)
*飯野春樹編『バーナード 経営者の役割』(有斐閣、1979年)
*飯野春樹編『バーナード 経営者の役割』(有斐閣、1979年)
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==外部リンク==
==外部リンク==
*[https://lm-tmw.com/theory-and-practice/connect-theory-to-practice/ チェスター・バーナード研究の第一人者である磯村和人教授「Organization Theory by Chester Barnard: An Introduction」から「理論と実践の架橋」をテーマにした考察・問いかけを行う]
*[http://mtlab.ecn.fpu.ac.jp/reading_chester_barnard_2.html チェスター・バーナード『組織と管理』を読む 福井県立大学・経済学部 田中求之]
*[http://mtlab.ecn.fpu.ac.jp/reading_chester_barnard_2.html チェスター・バーナード『組織と管理』を読む 福井県立大学・経済学部 田中求之]



2021年6月4日 (金) 05:23時点における版

チェスター・アーヴィング・バーナードChester Irving Barnard1886年 - 1961年)は、アメリカ合衆国電話会社社長であり、経営学者である。1938年に経営学の古典となる『経営者の役割』を出版し、経営学を大きく転換する一翼を担うことになった。

概要

1927年から約20年間、アメリカのベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル電話会社社長を務め、その社長在任中の1938年に主著『経営者の役割』を刊行し、それによって科学的管理法フレデリック・テイラーと並び称される経営学者としての名声を確立した。

彼は組織をシステムとして定義し、「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」とした。これは公式組織の定義であるが、その成立のための条件として組織の3要素:共通目的組織目的)・協働意志貢献意欲)・コミュニケーションを示した。「共通目的」は、組織の構成員が目的を共有していること、「貢献意欲」は、組織に貢献したいという意思をもっていること、「コミュニケーション」は、組織の構成員間でコミュニケーションを取れることです。

協働のシステムは公式組織が中核となって物的要因・人的要因・社会的要因が結合したシステムである。組織の3要素の均衡が組織成立の条件であり、存続の前提となる。この均衡を内部均衡という。また、人間にも組織にも、目的達成とそれにともなう満足ということが考えられなければならないが、目的達成の基準は有効性(effectiveness)、満足の基準は能率(efficiency)と定義される(能率という言葉の使い方は一般的なものとは異なる)。管理論はこのような組織論の基礎の上に築かれ、道徳の創造というリーダーシップが導き出される。

バーナードの主たる理論的な相貌は主著に明瞭に現れているが、この著作はニュージャージー・ベル電話会社の社長時代に、ハーバード大学のローウェル研究所で行った公開講義に部分的拡大と加筆修正を加えて完成させたものである。その理論はサイモンセルズニックらに影響を与えた。

バーナード革命[1]

バーナードは、全く新しい組織概念に提起し、それらに基づいて、経営学の基礎理論を築くことで、パラダイムシフトを起こしたと評価される。そのために、ケインズ革命になぞらえて、バーナード革命と呼ばれることもある。実際、政治学者のジュブネルは、バーナードへの書簡で「経済学においてケインズ革命を口にするように、政治学においてもバーナード革命を口にすべきだと思う」と述べている(Letter from B.de Jouvenel to C.I.Barnard,June 25th,1956)。

日本においては、バーナード理論は、

(1)組織理論をベースにした理論であること

(2)厳密なフレームワークに基づく、論理的で、体系的な理論であること

(3)科学的であるばかりでなく、経験から生まれ、実践的な洞察を含む理論であること

という評価を受けて、大きく受容され、発展した(櫻田・磯村、2020)。

主な著作

  • 『経営者の役割』(1938年) 山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳
  • 『組織と管理』飯野春樹監訳・日本バーナード協会訳
  • 『経営者の哲学』飯野春樹監訳・日本バーナード協会訳

参考文献

  • 磯村和人『Organization Theory by Chester Barnard: An Introduction』(Springer, 2020年)
  • 経営学史学会編『経営学史辞典』(文眞堂、2002年)
  • 飯野春樹編『バーナード 経営者の役割』(有斐閣、1979年)
  • 飯野春樹『バーナード研究』(文眞堂、1978年)

外部リンク

  1. ^ THE MEANING OF WORK>経営学のパラダイムシフトへ>バーナード革命”. 20210521閲覧。