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'''Xバー理論''' (エックスバーりろん、[[英語|英]]: X-bar theory) は、[[1950年]]代に[[ノーム・チョムスキー]] |
'''Xバー理論''' (エックスバーりろん、[[英語|英]]: X-bar theory) とは、[[1950年]]代に[[ノーム・チョムスキー]]が提唱した[[生成文法]][[理論]]<ref name="C55">{{Cite book |last=Chomsky|first=Noam|author= |authorlink= |coauthors= |title=The Logical Structure of Linguistic Theory|publisher=MIT Press|location=Cambridge, MA|language= |year=1955|page= |id= |isbn= |quote= }}.</ref><ref name="C57">{{Cite book |last=Chomsky|first=Noam|author= |authorlink= |coauthors= |title=Syntactic Structures|publisher=Mouton|location=The Hague|language= |year=1957|page= |id= |isbn= |quote= }}.</ref>に基づき、[[1970年]]代から[[1980年]]代に発展した、[[句範疇]]の構造を'''Xバースキーマ''' (英: X-bar schema)<ref group="注">「Xバー式型」という日本語訳が与えられることもある。</ref>と呼ばれる構造で単一的に扱うことを目指す[[統語]]理論である。Chomsky (1970)<ref name="C70">Chomsky, Noam (1970). Remarks on Nominalization. In: R. Jacobs and P. Rosenbaum (eds.) ''Reading in English Transformational Grammar'', 184-221. Waltham: Ginn.</ref>に端を発し、[[レイ・ジャッケンドフ]]がさらに発展させた (Jackendoff 1977<ref name="J77">{{cite book|title=X-bar-Syntax: A Study of Phrase Structure|last=Jackendoff|first=Ray|year=1977|publisher=MIT Press|location=Cambridge, MA}}</ref>)。Xバー理論は生成文法理論であり、[[普遍文法]]にスキーマ構造が書き込まれていることを仮定する。これはすなわち、全ての句範疇の構造を1つの基本構造から導けるような言語知識を、人間は脳内文法に保持していると言うのと同義である。具体的には、「あらゆる[[自然言語]]のあらゆる[[句]] (英: phrase) は (任意の) [[統語範疇]]Xを[[主要部]]とする'''XP''' (X Phrase) である」と規定する。Xバー理論は、定式化以前の繁雑な[[句構造規則]]の孕む問題を解消するのに重要な役目を果たした。 |
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== 背景 == |
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Xバー理論は、[[生成文法#標準理論|標準理論]] (英: Standard Theory、ST)<ref name="C65">{{Cite book |last=Chomsky|first=Noam|author= |authorlink= |coauthors= |title=Aspects of the Theory of Syntax|publisher=MIT Press|location=Cambridge, MA|language= |year=1965|page= |id= |isbn= |quote= }}.</ref>における、[[句構造規則]] (英: phrase structure rule、PSR) の孕む問題を解決するために発展した<ref name="chom-dict-xbar">{{Cite book|和書|last= |first= |author=原口 (他)|authorlink= |coauthors= |translator= |title=増補版チョムスキー理論辞典|publisher=研究社|year=2016|page=521-523|id= |isbn= |quote= }}</ref>。主にPSRには、以下4つの問題がある。 |
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Xバー理論は[[句構造規則]]から発展した研究法で<ref name="ueda_2003">{{Cite web|url=http://www.origin-life.gr.jp/3102/3102122/3102122.html |title=生成文法と科学革命 |author=上田雅信 ([[北海道大学]]言語文化部) |publisher=生命の起原および進化学会 |year=2003 |accessdate=2013-05-03}}</ref>、チョムスキーらが[[1965年]]に想定した枠組み<ref>J. Katz, P. Postal (1964), and Chomsky (1965).</ref>を元にしており、世界の全言語における全種の[[句]]([[名詞句]]・[[動詞句]]など)は普遍的な構造を持っているという理論である<ref name="yoshida-gojun">{{cite web|title=Xバー理論と語順 - 英語、ドイツ語、日本語の基本語順の比較 |url=http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/kiyo/AN00077749/StudLangCult_20_143.pdf |author=吉田光演 |publisher=広島大学 学術情報リポジトリ |date= |accessdate=2013-03-05}}</ref><ref name="ohnishi_shinka">{{Cite web|url=http://www.origin-life.gr.jp/3103/3103161/3103161.html |title=一般句構造文法の起原と進化、および、その認知システム進化学的考察 |author=大西耕二 ([[新潟大学]] 超域研究機構) |publisher=生命の起原および進化学会 |year=2003 |accessdate=2013-05-03}}</ref>。そういった共通要素の1つとして、句構造規則にはなかった「'''Xバー'''」という概念が導入された<ref name="websters-online">{{cite web|title=Definition of X-bar |url=http://www.websters-dictionary-online.net/definitions/X-bar |publisher=Webster's Online Dictionary |date= |accessdate=2013-03-05}}</ref>。Xバー理論は、特に[[1970年代]]から[[1980年代]]にかけては[[生成文法]]の主流アプローチであり<ref name="fujita_descent">{{Cite web|url=http://www.origin-life.gr.jp/3504/3504136/3504136.pdf |title=DESCENT WITH MODIFICATION - GENERATIVE GRAMMAR AND THE UNIVERSALITY/DIVERSITY - GENERATIVE GRAMMAR |author=藤田耕司 ([[京都大学]]大学院 人間・環境学研究科) |publisher=生命の起原および進化学会 |year= |accessdate=2013-05-02}}</ref>、やはりチョムスキーが提唱した([[1981年]]、[[1986年]]など)'''{{仮リンク|原理とパラメータ|en|Principles and parameters}}'''(''principles and parameters'')理論の中核であった<ref name="yoshida-gojun"/> 。 |
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# "S → NP Aux VP" など、'''外心構造''' (英: exocentric structure)<ref group="注">[[主要部]]の<u>ない</u>句構造を指す。</ref>をもつ句範疇を仮定している。これは、句は必ず[[主要部]]をもつという事実に反する<ref name="chom-dict-xbar" />。 |
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# ''John talked to the man''などの文における[[動詞句]]のPSRは "VP → V (PP)"<ref group="注">括弧内の句範疇は随意的であることを表す。</ref>となるが、''John talked to the man in person''は "VP → V (PP) (PP)" となるなど、{{仮リンク|E言語|en|E-language}} (脳内文法ではなく[[使用 (言語学)|使用]]により外界に表出する言語) に見られる事例に応じて、PSRの項目を都度増やさなければならない。これは[[普遍文法]]内の規則を無数に増やすのと同義であり、[[プラトンの問題]]ならびに[[刺激の貧困]]の観点から大きな問題がある<ref name="C65" />。 |
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# 1、2のように、PSRは'''内心構造''' (英: endocentric structure)<ref group="注">[[主要部]]の<u>ある</u>句構造を指す。</ref>を持たない構造と項目の無差別な追加を許容するため、"VP → NP A PP" のような[[自然言語]]ではありえない句構造も許容してしまう<ref name="chom-dict-xbar" />。 |
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# 平坦な、階層性のない構造を仮定するため、文の曖昧性を捉えることができない<ref name="basic-GG">{{Cite book|和書|last=岸本|first=秀樹|author= |authorlink= |coauthors= |title=ベーシック生成文法|publisher=ひつじ書房|location=東京|language= |year=2009|page=|id= |isbn= |quote= }}</ref>。 |
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これらの問題を踏まえ、Xバー理論はXPという鋳型となる句範疇とその構造を仮定する理論である。 |
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== Xバースキーマ == |
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ここにおける ''X'' は任意の'''語彙範疇'''(''lexical category'' =伝統文法における[[品詞]])であり、''XP'' はそれを[[主要部]](''head'')とする句である<ref name="ohnishi_shinka"/>。例えば、名詞('''N''')・名詞句('''NP''')、動詞('''V''')・動詞句('''VP''')、形容詞('''A''')・[[形容詞句]]('''AP''')、[[接置詞|前置詞]]('''P''')・{{仮リンク|接置詞句|en|Adpositional phrase|label=前置詞句}}(''prepositional phrase'')などが全て、この構図で表せる。 |
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=== 基本原理 === |
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Xバー理論の「X」は数学上の[[変数 (数学)|変数]]と同じであり、[[名詞]] (N)、[[動詞]] (V)、[[形容詞]] (A)、[[前置詞]] (P) などの[[統語範疇]] (一般用語上の[[品詞]]) を表す<u>[[語]]</u>が当てはまる。「Xバー」とは、X (すなわち語) よりも大きい[[文法]]単位であり、Xシングルバー、Xダブルバーというように次第に大きくなる。Xダブルバーは句 (XP) に相当する。 (例: [[名詞句]] (NP)、[[動詞句]] (VP)、[[形容詞句]] (AP)、<!--[[前置詞句]]は[[句]]へのリダイレクト-->前置詞句 (PP); [[句]]も参照のこと)。 |
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Xバー理論では、全ての句範疇が図1の構造をもつと仮定する。この鋳型構造を'''Xバースキーマ'''という。 |
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文と名詞句の構造も、Xバー理論においては基本的に同じだとされる<ref name="ohnishi_shinka"/>。 |
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[[File:X-bar_schema_(basic).png|thumb|none|300px|図1]] |
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# 文: <nowiki>[X’’ The enemy [X’ [X destroyed] the city]].</nowiki> |
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図1に示すように、Xバー理論で句範疇XPはXと上二重棒線で示される{{Refnest|group="注"|Jackendoff (1977)<ref name="J77" />では、Xトリプルバーレベルまで仮定されている。}}。なお、表記上の問題で、バー表記は「X'」のようにプライム (') で代替されることが多い。以下では、句範疇の表記はXダブルバーではなくXPに統一する。 |
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# 名詞句: <nowiki>[X’’ The enemy’s [X’ [X destruction] of the city]].</nowiki> |
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Xバー理論には、中核となる2つの原理がある。 |
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* '''主要部の原理''' (英: headedness principle): 全ての[[句]]は主要部を持つ<ref name="radford">{{Cite book|last=Radford|first=Andrew|author=|authorlink= |coauthors= |translator= |year=2016|title=Analysing English Sentences: Second Edition|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|page=114-115|id= |isbn= |quote= }}</ref>。 |
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* 全ての句は主要部を持つ<ref name="yoshida-gojun"/><ref name="ohnishi_shinka"/>。 |
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* '''二股枝分かれの原理''' (英: binarity principle、binary-branching principle): 全ての[[節点 (言語学)|節点]]は二股に枝分かれする<ref name="radford" />。 |
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* 主要部と、それによって選択される[[補部]](''complement'')が、'''Xバー'''という中間'''投射'''(''projection'')を作る<ref name="yoshida-gojun"/><ref name="ohnishi_shinka"/><ref name="ushie">{{Cite web|url=http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php?id=KK000194-2 |title=構成素性と句構造(1): 構成素構造のテストとXバー理論 |author=牛江一裕 |publisher=SUCRA (Saitama United Cyber Repository of Academic Resources) |accessdate=2013-03-19}}</ref>。 |
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主要部の原理は、上記1と3の問題を同時に解消する。二股枝分かれの原理は、下記で説明する'''投射'''および曖昧性において重要な概念である。 |
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* 主要部に選定されない、随意的な{{仮リンク|付加部|en|Adjunct (grammar)}}(修飾語句)がある場合、その上層にさらなるXバーを構成する<ref name="yoshida-gojun"/><ref name="ushie"/>。 |
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* {{仮リンク|指定部|en|Specifier}}(''specifier'')がXバーを限定し、投射を完結させる。これが'''最大投射'''(''maximal projection'')、すなわち'''句'''である<ref name="yoshida-gojun"/><ref name="ushie"/>。 |
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Xバースキーマは、主要部の原理により、主要部とその周辺要素で構成される。該当する構成要素は、以下の通りである。 |
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「Xバー」という呼称は、'''<span style="text-decoration:overline">X</span>'''、つまり、[[X]]の上に横棒(''bar'')を付けた記号に由来する。<span style="text-decoration:overline">X</span>を実際に打ち込むことは困難なため、'''X’'''(X[[プライム]])と書かれることが多いが、それでも[[英語圏]]では通常、「X bar」と発音される。「XP」は「X Phrase」(X句)の頭文字を取ったもので、Xの上に2本の横線を引いた「X-bar-bar」と同じである。こちらも'''X’’'''(Xダブルプライム)と書かれることが多いが、発音は「X double bar」である。 |
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* '''指定部''' (英: specifier): '''[義務的]''' Xシングルバーと姉妹関係にある節点<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=荒木 (編) |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1999|title=英語学用語辞典|publisher=三省堂|page=587|id= |isbn= |quote= }}</ref>。統語位置そのものの名称であり、基本的に意味的な定義はない。 |
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* '''主要部''' (英: head): '''[義務的]''' 句の核。[[語彙]] (英: lexeme) が当てはまり、句全体の形や性質を決定する<ref name="dict">{{Cite book |和書 |last= |first= |author=荒木 (編) |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1999|title=英語学用語辞典|publisher=三省堂|page=249|id= |isbn= |quote= }}</ref>。 |
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* '''補部''' (英: complement): '''[義務的]''' 主要部が要求する[[項 (言語学)|項]]。 |
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* '''付加部''' (英: adjunct): '''[随意的]''' 主要部から成る句の[[修飾詞]]。 |
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指定部、主要部、補部は義務的であり、句範疇XPは必ず1つの指定部、主要部、補部を含む。一方、付加部は随意的であり、1つの句範疇は0個以上の付加部を含む。したがって、ある句範疇XPが付加部を含まない場合、その構造は図2のようになる。 |
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[[File:X-bar_schema_(wo adjunct).png|thumb|none|300px|図2]] |
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具体例として、''John studies linguistics''という文における''linguistics''という名詞句 (NP) は、図3の構造をもつ。 |
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[[File:The_X-bar_structure_of_the_NP_linguistics.png|thumb|none|250px|図3]] |
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二股枝分かれの原理及び指定部と補部の義務制から、これらの統語位置を占める要素がなくとも、要素が当てはまりうる空の統語位置が存在すると仮定する点に注意が必要である。このように考えると、PSRの場合とは異なり、別々の句が別々の構造を持つと想定する必要がなくなり、上記2の問題が解消される。なお、図3における空位置は、図4のように省略表記されることも多い。 |
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[[File:The_X-bar_structure_of_the_NP_linguistics_(simplified).png|thumb|none|130px|図4]] |
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このように表記する場合、Xシングルバーレベルの[[節点 (言語学)|節点]]が必ず存在する<ref name="chom-dict-xbar" /><ref name="C86">{{Cite book|last=Chomsky|first=Noam|author=|authorlink= |coauthors= |translator= |year=1986|title=Barriers|publisher=MIT Press|location=Cambridge, MA|page=|id= |isbn= |quote= }}</ref>ということに注意が必要である。 |
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次に、図5に示すとおり、XダブルバーとXシングルバーは主要部Xの性質を継承する。これを、'''投射''' (英: projection) という<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=荒木 (編) |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1999|title=英語学用語辞典|publisher=三省堂|page=489|id= |isbn= |quote= }}</ref>。 |
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== Xバー式型 == |
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[[File:X-bar_schema_(projection).png|thumb|none|350px|図5]] |
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=== 基本規則 === |
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図5は、Xバー理論において統語構造はボトムアップ式に[[派生]]されることを同時に示している。この派生は、以下の順を経る。 |
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Xバー理論には、3つの基本規則がある。それぞれ、[[文脈自由文法]]および[[構文木]](ツリー図)で示すと次のようになる。なお、Xバー式型は2項分岐である<ref name="ohnishi_shinka"/>。 |
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# 主要部に語彙が当てはめられる。主要部は、形式上「Xゼロバーレベル」であるため、'''ゼロレベル投射''' (英: zero-level projection) と呼ばれることがあり、'''X<sup>0</sup>'''と表記される<ref>{{Cite web |url=http://primus.arts.u-szeged.hu/bese/Glossary/gloss_zero_level_projection.htm|title=Basic English Syntax with Exercises|accessdate=2021-10-22}}</ref>。 |
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# 主要部と補部が結びつき、半句範疇 (句の大きさに満たない統語範疇) である<span style="text-decoration:overline">X</span> (Xシングルバー) を形成する。この範疇は、'''中間投射''' (英: intermediate projection) と呼ばれる<ref name="chom-dict-xbar" />。 |
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# (付加部がある場合、<span style="text-decoration:overline">X</span>が付加部と結びつき、もう1つの<span style="text-decoration:overline">X</span>を形成する。付加部が複数ある場合、この手順が繰り返される。) |
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# 中間投射と指定部が結びつき、完全な句範疇であるXP (Xダブルバー) が形成される。この範疇は、'''最大投射''' (英: maximal projection) と呼ばれる<ref name="chom-dict-xbar" />。<!--(Xバー理論に基づく具体的な句構造の書き方については、[[ノート:Xバー理論/句構造の具体例]]を参照のこと。)--> |
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手順3以外は義務的であることに注意が必要である。したがって、1つの句範疇は必ずX<sup>0</sup>、<span style="text-decoration:overline">X</span>、XP (=X<nowiki>''</nowiki>) を含む。また、X<sup>0</sup>より大きい節点 (すなわち、<span style="text-decoration:overline">X</span>とXPの節点) から成る構造を、'''[[構成素]]''' (英: constituent) という。 |
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'''1. XPは、指定部とXバーから成っている(順番は問わない)。''' |
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=== 枝分かれの方向性 === |
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XP → (specifier), X’ |
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図1-5は[[英語]]の語順を元としているが、二股枝分かれの原理は節点がどちら側に枝分かれするかは規定しないため、原則としてXバースキーマは枝分かれ節点の方向性を指定しない。例えば、''John read a long book of linguistics with a red cover''という2つの付加部を含む文は、図6と図7いずれかの構造をもつ。(慣例に従い、一部の句範疇の内部構造を△で省略する。) |
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[[File:The structure of "John read a long book of linguistics with a red cover"1.png|thumb|none|700px|図6]] |
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[[File:The structure of "John read a long book of linguistics with a red cover"2.png|thumb|none|700px|図7]] |
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''The book of linguistics with a red cover is long''の意の場合は図6の構造となり、''The long book of linguistics is with a red cover''の意の場合は図7の構造となる。([[Xバー理論#階層構造|#階層構造]]も参照。) 重要なのはN'<sub>2</sub>とN'<sub>3</sub>の枝分かれ接点の方向性であり、一方は左側枝分かれ、他方は右側枝分かれとなっている。このように、二股枝分かれの原理の上では枝分かれの方向は自由である。 |
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次に、主要部と補部の位置関係は、'''[[原理とパラメータのアプローチ]]''' (英: principles-and-parameters approach)<ref name="C86" />に基づき、'''主要部パラメータ''' (英: head parameter) で言語ごとに決定される。(Xバースキーマ自体はこの位置関係を規定しない。) '''原理'''とは全ての言語における共通規則を指し、'''パラメータ'''とは通言語的な可変部分を指す。パラメータは二者択一であり、主要部パラメータの場合は <nowiki>[±head first]</nowiki> という値を元に、言語ごとにプラスかマイナスの値を設定することになる<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=荒木 (編) |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1999|title=英語学用語辞典|publisher=三省堂|page=424|id= |isbn= |quote= }}</ref>。この値をプラスに設定した場合、英語のように主要部先導型 (英: head-initial) となり、マイナスに設定した場合、日本語のように主要部終端型 (英: head-final) となる。例として、「John ate an apple」 と 「ジョンがリンゴを食べた」の構造は、それぞれ図8、9のようになる。 |
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[[File:The structure of "John ate an apple".png|thumb|none|400px|図8]] |
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XP XP |
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[[File:The structure of ”ジョンがリンゴを食べた”.png|thumb|none|400px|図9]] |
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なお、指定部の節点の枝分かれも原則方向性は規定されない。一方で、英語と日本語では共通して主語が動詞句の左側に現れることから自然言語では共通して指定部は左側枝分かれとなるという見かたもあれば、Saito and Fukui (1998)<ref>{{cite journal |last=Saito|first=Mamoru|last2=Naoki|first2=Fukui|year=1998|title=Order in Phrase Structure and Movement|url= |journal=Linguistic Inquiry|publisher= |volume=29|issue=3|pages=439-474|doi= |accessdate= }}</ref>のように、指定部の枝分かれ方向は主要部パラメータに依存して決まるという見かたもある。 |
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spec X' X' spec |
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<!--<ref name="ueda_2003">{{Cite web|url=http://www.origin-life.gr.jp/3102/3102122/3102122.html |title=生成文法と科学革命 |author=上田雅信 ([[北海道大学]]言語文化部) |publisher=生命の起原および進化学会 |year=2003 |accessdate=2013-05-03}}</ref>--> |
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: 指定部が[[ゼロ (言語学)|ゼロ]]の場合もある。 |
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<!--<ref name="websters-online">{{cite web|title=Definition of X-bar |url=http://www.websters-dictionary-online.net/definitions/X-bar |publisher=Webster's Online Dictionary |date= |accessdate=2013-03-05}}</ref>--> |
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<!--<ref name="ushie">{{Cite web|url=http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php?id=KK000194-2 |title=構成素性と句構造(1): 構成素構造のテストとXバー理論 |author=牛江一裕 |publisher=SUCRA (Saitama United Cyber Repository of Academic Resources) |accessdate=2013-03-19}}</ref>--> |
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== 文の構造 == |
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'''2. Xバーには、もう1つのXバーと付加部から成っているものがある(順番は問わない)。''' |
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=== Sの構造 === |
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文 ('''S'''(entence))の構造は、PSRでは下記のように表記される。 |
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* S → NP (Aux) VP |
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しかしこれは、主要部がない外心構造であるため主要部の原理に違反する点、Aux(iliary) ([[助動詞]]) が生起する際Sの節点が三股枝分かれになる点で二股枝分かれの原理の違反にもなり、Xバー理論にとって大きな問題となる。この問題を解消するため、Chomsky (1981)<ref name="C81">{{Cite book|last=Chomsky|first=Noam|author= |authorlink= |coauthors= |title=Lectures on Government and Binding|publisher=MIT Press|location=Cambridge, MA|language= |year=1981|page= |id= |isbn= |quote= }}</ref>では、文は[[機能範疇]]'''Infl'''(ection) ([[屈折詞]]) を主要部とする'''InflP'''であると提案され、のちのChomsky (1986)<ref name="C86" />では、句範疇が「XP」という形の2字で表される慣例に従い、文は機能範疇'''I'''を主要部とする'''IP'''であると提案された{{Refnest|group="注"|その後、Pollock (1989)<ref>{{Cite journal|last=Pollock|first=Jean-Yves|date=1989|title=Verb Movement, Universal Grammar, and the Structure of IP|journal=Linguistic Inquiry|volume=20|issue=3|pages=365–424}}</ref>によりIは'''T'''(ense) と '''Agr'''(eement) の2つの機能範疇からなるという仮説が提案された。一方、機能範疇AgrはChomsky (1995)<ref name="C95">{{cite book|last=Chomsky|first=Noam|title=The Minimalist Program |date=1995 |publisher=MIT Press |location=Cambridge MA}}</ref>で、LFでの機能がないことを理由に存在を棄却された。故に、現在の統語論では節は機能範疇'''T'''を主要部とする'''TP'''であるという考え方が主流である。}}。 Iは、''will''や''can''などの助動詞ならびに、三単現の''-s''や過去[[時制]][[接辞]]の''-ed''などであり、文 (ないし[[節 (文法)|節]]) は必ず時制要素を含むため、「句には必ず主要部がある」ということを規定する主要部の原理と完全に合致している。 |
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この考えに基づき、''John studies linguistics at the university''という文の構造を樹形図で示すと、図6のようになる{{Refnest|group="注"|図10の構造において、文全体の語順は'''接辞移動''' (英: affix hopping、affix movement) により派生される。接辞移動とは、統語形成が終了したのちに音韻部門 (PF) で適用される操作で、[[屈折辞]]の /-s/ という「音」を動詞の位置に移動させ付加する<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=荒木 (編) |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1999|title=英語学用語辞典|publisher=三省堂|page=16|id= |isbn= |quote= }}</ref>。Chomsky (1981)<ref name="C81" />では、この時制接辞移動は規則R (英: Rule R) と呼ばれている。}}。 |
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(X’ → X’, adjunct) |
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[[File:The_X-bar_structure_of_"John_studies_linguistics_at_the_university".png|thumb|none|600px|図10]] |
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図10から自明であるように、IP仮説のもとでは文という大きな文法単位を句範疇とみなすことが可能になり、さらに主要部の原理と二股枝分かれの原理から追加の仮定なしに構造を説明することが可能となる。 |
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=== S'の構造 === |
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<pre> |
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[[従属節]]または補文を導く語を'''{{仮リンク|補文標識|en|Complementizer}}''' (英: complementizer) と言い、英語の''that''、''if''、''for''がこれにあたる{{Refnest|group="注"|同様に補文を導く''whether''も補文標識として扱われることがあるが、Nakajima (1996)<ref>{{Cite journal|last=Nakajima|first=Heizo|date=1996|title=Complementizer Selection|journal=The Linguistic Review|volume=13|issue=|pages=143-164}}</ref>などをはじめとする多くの研究者が、''whether''はCPの主要部位置に生起するのではなく、CPの指定部位置 ('''Spec-CP''') に生起するものとして扱っている (wh語の分析と同様)。これはすなわち、''whether''はC<sup>0</sup>ではないと言うのと遜色なく、どの統語範疇に属するのかは研究者によって意見が分かれる。}}。PSRでは、補文は'''S''''という範疇であると考えられていた。 |
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X' X' |
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* S' → COMP S |
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/ \ or / \ |
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Chomsky (1986)<ref name="C86" />では、このS'という範疇は機能範疇'''C'''を主要部とする'''CP'''であると提案された<ref name="radford-C">{{Cite book|last=Radford|first=Andrew|author=|authorlink= |coauthors= |translator= |year=2016|title=Analysing English Sentences: Second Edition|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|page=86-92|id= |isbn= |quote= }}</ref>。例えば、''I think that John is honest''という文は、以下の構造を持つ。 |
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X' adjunct adjunct X' |
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[[File:The_structure_of_"I_think_that_John_is_honest".png|thumb|none|700px|図11]] |
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</pre> |
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また、Chomsky (1986)<ref name="C86" />の提案のもとでは、{{仮リンク|Wh移動|en|Wh-movement}}の着地点はCPの指定部 ('''Spec-CP''') であると仮定される。例えば、''What did John eat?''というwh疑問文は、図12のように派生される{{Refnest|group="注"|Wh移動は、Chomsky (1973)<ref>Chomsky, Noam (1973). Conditions on Transformations. In: Stephen R. Anderson and Paul Kiparsky (eds.) ''A Festschrift for Morris Halle'', 232-286. New York: Holt, Rinehart, and Winston.</ref>の'''{{仮リンク|下接の条件|en|Subjacency condition}}''' (英: Subjacency Condition) に従い、'''連続循環的''' (英: successive cyclic) に、すなわち全てのSpec-CPを経由して適用される。}}。 |
|||
[[File:The_structure_of_"What_did_John_eat?".png|thumb|none|450px|図12]] |
|||
この構造において、IからCへの移動は'''主語・助動詞倒置''' (英: subject-auxiliary inversion、SAI) と呼ばれ、さらにこの種の移動は'''主要部移動''' (英: head movement) と呼ばれる{{Refnest|group="注"|主要部移動の詳細議論はBaker (1988)<ref>Baker, Mark C. (1988). ''Incorporation: A Theory of Grammatical Function Changing''. Chicago: University of Chicago Press.</ref>を参照のこと。}}。 |
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=== その他の句構造 === |
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: 付加部を含まないXPもある。 |
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* <b>[[動詞句内主語仮説]]</b> (英: VP-Internal Subject Hypothesis): Fukui and Speas (1986)<ref>Fukui, Naoki and Speas, Margaret J. (1986) Specifiers and Projection. ''MIT Working Papers in Linguistics'' '''8''': 128-172.</ref>や Kitagawa (1986)<ref>Kitagawa, Yoshihisa (1986). ''Subjects in Japanese and English'', Unpublished doctoral dissertation, University of Massachusetts. Reprinted in Kitagawa (1994), Routledge.</ref>により提案された、文主語をSpec-VPに基底生成する仮説。 |
|||
* <b>DP仮説</b>: Abney (1987)<ref>Abney, Steven P. (1987). ''The English Noun Phrase in Its Sentential Aspect''. Doctoral dissertation, MIT.</ref>により提案された、名詞句はNPではなく機能範疇'''D'''を主要部とする'''DP'''であるとする仮説。 |
|||
* <b>VP shell</b>: Larson (1988)<ref>Larson, Richard K. (1988). On the Double Object Construction. ''Linguistic Inquiry'' '''19''' (3): 335-391.</ref>により提案された、二重のVP構造。Chomsky (1995)<ref name="C95" />では、上位に位置するVPは機能範疇<i>'''v'''</i> (リトルブイ、スモールブイ) を主要部とする<i>'''v'''</i>'''P'''として昇華された。 |
|||
* <b>PredP仮説</b>: Bowers (1993, 2001)<ref>Bowers, John (1993). The Syntax of Predication. ''Linguistic Inquiry'' '''24''' (4): 591-656.</ref><ref>Bowers, John (2001). Predication. In: Mark Baltin and Chris Collins (eds.), ''The Handbook of Contemporary Syntactic Theory'', 299-333. Blackwell.</ref>により提案された、小節 (英: small clause)<ref>Stowell, Timothy (1981). ''Origins of Phrase Structure''. Doctoral dissertation, MIT.</ref> は機能範疇'''Pred'''を主要部とする'''PredP'''であるとする仮説。 |
|||
* <b>裸句構造</b> (英: Bare Phrase Structure、BPS): Xバー理論に代わる理論として、Chomsky (1995)<ref name="C95" />の提案した理論。Xバー理論のような「鋳型」構造の存在を棄却し、語や句を組み合わせる'''併合''' (英: Merge) という操作のみで統語構造を作り出す。節点に統語範疇のラベルを割り当てないという特徴ももつ。{{仮リンク|ミニマリスト・プログラム|en|Minimalist program}}も参照のこと。 |
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== 階層構造 == |
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'''3. Xバーには、X(主要部)とその補部(ゼロ以上)から成っているものがある(順番は問わない)。''' |
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PSRには、文の曖昧性 (英: ambiguity) を捉えられないという問題がある。 |
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* I saw a man with binoculars.<ref name="binos">{{Cite web |author= |url=https://www.bu.edu/linguistics/ug/course/lx522-f05/lx522/archives/16.html|title=Syntax I|website= |publisher= |date= |accessdate=2021-10-23}}</ref> |
|||
この文は、''with binoculars''がVPにかかる「私は双眼鏡を使ってある男を見た」という解釈と、NPにかかる「私は双眼鏡を持ったある男を見た」という解釈で2通りに曖昧である<ref name="binos" />。この文に関わるPSRは、以下のようになる。 |
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* S → NP VP |
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* VP → V NP PP |
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すなわち、構造は図13のようになる。 |
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[[File:The_PSR_structure_of_"I_saw_a_man_with_binoculars".png|thumb|none|500px|図13]] |
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この構造では、例外なく[<sub>PP</sub> with binoculars]がVPにかかるため、NPにかかる解釈を適切に捉えることができない。しかし、階層構造を仮定するXバー理論では、図14、15のように適切に曖昧性を捉えることができる。 |
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[[File:The_X-bar_structure_of_"I_saw_a_man_with_binoculars"1.png|thumb|none|550px|図14]] |
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[[File:The_X-bar_structure_of_"I_saw_a_man_with_binoculars"2.png|thumb|none|600px|図15]] |
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従って、[[Xバー理論#背景|#背景]]で述べた4つ目の問題もXバー理論によって解消される。なお、[[生成文法]]では、[[標準理論]] (Chomsky 1965<ref name="C65" />)、{{仮リンク|拡大標準理論|en|Extended standard theory}} (Chomsky 1972<ref name="C72">{{Cite book |last=Chomsky|first=Noam|author= |authorlink= |coauthors= |title=Studies on Semantics in Generative Grammar|publisher=Mouton|location=The Hague|language= |year=1972|page= |id= |isbn= |quote= }}</ref>)、{{仮リンク|改定拡大標準理論|en|Revised extended standard theory}} (Chomsky 1981<ref name="C81" />) の全てにおいて、「構造から意味が導かれる」と考える。したがって、この逆の「意味から構造が導かれる」ことは理論上ありえない。 |
|||
== 注釈 == |
|||
X’ → X, (complement...) |
|||
{{Reflist|group="注"|2}} |
|||
== 出典 == |
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<pre> |
|||
{{Reflist|2}} |
|||
X' X' |
|||
/ \ or / \ |
|||
X complement complement X |
|||
</pre> |
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: 左側は'''主要部先導型'''(''head-initial'')、右側は'''主要部終端型'''(''head-final'')。 |
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=== 句の構造 === |
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基本構造の組み合わせにより、句の構造は次のように示すことができる。階層に制限はなく、例えば、補部(''complement'')の位置にもう1つのXPを入れるなどして、多重構造を示すことも可能である。また、指定部(''spec''=''specifier''の略)や補部、あるいは付加部がない場合は当該位置に[[Ø]]を入れたり、見やすいように枝ごと省略することもある。 |
|||
<pre> |
|||
XP |
|||
/ \ |
|||
spec X' |
|||
/ \ |
|||
X' adjunct |
|||
/ \ |
|||
X complement |
|||
</pre> |
|||
このツリー図は[[英語]]の例を示しているが<ref name="ushie"/>、言語に応じて、例えば ''spec'' を右側に配置したり、''adjunct'' や ''complement'' を左側に配置してもかまわない。重要なのは、主要部(''head'')と補部が”姉妹”関係にあり、それから成るXバーが付加部と姉妹関係にあるということである。なお、実際には、指定部が右側に来る言語はまれである<ref name="yoshida-gojun"/>。 |
|||
=== 名詞句の構造 === |
|||
英語の「the cat」という[[名詞句]]は、次のようなXP構造で示すことができる。 |
|||
<pre> |
|||
NP |
|||
/ \ |
|||
Det N' |
|||
| | |
|||
the N |
|||
| |
|||
cat |
|||
</pre> |
|||
「the」は[[限定詞]](''determiner'')、厳密には[[冠詞]](''article'')である([[英語の冠詞]]も参照)。ここでは、当初のXバー理論に則り、名詞「cat」を[[主要部]]とする[[名詞句]](NP)の指定部として「the」が示されている。その後に提唱された「名詞句は{{仮リンク|限定詞句|en|Determiner phrase}}の補部である」という考え方によると、「the cat」は次のような構造になる。 |
|||
<pre> |
|||
DP |
|||
| |
|||
D' |
|||
| \ |
|||
D NP |
|||
| \ |
|||
the N' |
|||
| |
|||
N |
|||
| |
|||
cat |
|||
</pre> |
|||
=== 複数の補部 === |
|||
主要部が複数の[[補部]]を選択する場合のXバー構造については、見解が分かれている<ref name="yoshida-gojun"/>。以下、a. は、主要部と2つの補部が同じ階層に並ぶ平板構造で、主要部先導型言語では X が左端、主要部終端型では X が右端に来るという違いしかない<ref name="yoshida-gojun"/>。一方、b. と c. は補部同士の間に階層があるとする考え方で、主要部先導型か主要部終端型かにより、{{仮リンク|枝分かれ|en|Branching (linguistics)}}の方向も逆になる<ref name="yoshida-gojun"/>。 |
|||
<pre> |
|||
a. X' b. X' c. X' |
|||
/ | \ / \ / \ |
|||
X comp comp X' comp comp X' |
|||
/ \ / \ |
|||
X comp comp X |
|||
</pre> |
|||
=== 文の構造 === |
|||
句や文が複雑な構造を成している場合、理論の違いによって、Xバー構文木も異なる形になる。 |
|||
==== S = IP という捉え方 ==== |
|||
[[Image:Xbarst1.svg|right|thumb|500px]] |
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例えば、[[生成文法#変形生成文法の展開|変形生成文法]]においては、「He studies linguistics at the university.」という文(''full sentence'' = '''S''')を '''IP''' として表すことができる。'''IP'''とは、{{仮リンク|屈折句|en|Inflectional phrase}}(''inflectional phrase'')を指す。その主要部である'''屈折詞'''(''inflection'' = '''I''')の位置には何もないように見えるが、動詞「studies」に表れている「現在」という[[時制]]が '''I''' の位置で決定されていると考えられている。これを未来形で「He will study linguistics at the university.」と言う場合、「will」が '''I''' の位置を占めることになる。このモデルにおける IP の指定部は ''He'' という主語[[名詞句]]、補部は ''studies linguistics at the university'' という[[動詞句]]('''VP''')である。また、'''IP''' の外側(上層)にさらに '''CP'''(''[[:en:Complementizer|complementizer]] phrase''='''補文標識句''')が存在し、{{仮リンク|Wh移動|en|Wh-movement}}の着地点が CP の指定部だと考えられている<ref name="yoshida-gojun"/>。 |
|||
==== S = VP という捉え方 ==== |
|||
[[主辞駆動句構造文法]]や'''動詞句内主語仮説'''では、「文=動詞句」という捉え方により、主語名詞句が動詞句の指定部に入ることになる<ref name="yoshida-gojun"/>。これは、「動詞=文の主要部」と捉える[[依存文法]]に近い考え方である。 |
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<pre> |
|||
VP |
|||
/ \ |
|||
spec V' |
|||
| | \ |
|||
NP V' PP |
|||
| | \ | |
|||
N' V NP P' |
|||
| | | | \ |
|||
N studies N' P NP |
|||
| | | | \ |
|||
He N at D N' |
|||
| | | |
|||
linguistics the N |
|||
| |
|||
university |
|||
</pre> |
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== 代用テスト == |
|||
Xバーの存在を証明するには、V や V’や VP を「do」「does」で代用できるか試してみる方法がある。例えば、上で例に挙げた「He studies linguistics at the university.」に対し、誰かが「She does, too.」という受け答えをすると、その場合の ''does'' は ''studies linguistics at the university'' を指し、すなわち、「She studies linguistics at the university, too.」と同義になる。しかし、その受け答えが「And she does at night-school.」であったなら、その場合の ''does'' は ''studies linguistics'' のみを指し、すなわち、「And she studies linguistics at night-school.」という意味になる。このように、「does」が同じ動詞句内の異なる部分を代用できるという事実が、その動詞句には複数の階層があるという証明になる。ここにおける下位の階層は V’であり、上位の階層は動詞句(VP)そのものまたは上位の V’である。 |
|||
== Xバー理論の利点と欠点 == |
|||
[[1970年代]]にXバー式型が[[生成文法]]に取り入れられるまでは、{{仮リンク|内心構造と外心構造|en|Endocentric and exocentric|label=外心構造}}という視点も許容されていた。例えば、文は主語名詞句と動詞句(述部)から成っている(S → NP + VP)が、文には[[主要部]]が存在しない、すなわち文は外心構造的であるという考え方である。しかし、Xバー理論は、全ての句(文や節も含む)が主要部を持っている<ref name="yoshida-gojun"/>、すなわち内心構造的であると主張した。そういう意味では、外心構造を認めない[[依存文法]]に近づいたとも言える。ただし、依存文法が文の構造を極力簡素な形で示そうとするのに対し、Xバー式型ではかなり複雑に示すことができるという点が大きく異なる。 |
|||
Xバー式型では、2本以上の枝(指定部と補部、時には付加部も)を持つ[[構成素]](句)を積み重ねることによって、複雑な(”高い”)構文木を構築でき、さまざまな構成素に対応できる。しかし、構文木が複雑になれば、{{仮リンク|非連続性|en|discontinuity (linguistics)}}が発生する可能性も増加し、{{仮リンク|統語移動|en|Syntactic movement}}の解析({{仮リンク|統率束縛理論|en|Government and binding theory}}など)も煩雑になる。 |
|||
== 理論の簡潔化への動き == |
|||
[[1981年]]、[[マサチューセッツ工科大学]]の Tim Stowell が『Origins of phrase structure』と題した学位論文によって、もっと一般的な原理に基づくXバー理論を導き出そうとした。[[:en:András Kornai|András Kornai]] と [[:en:Geoffrey K. Pullum|Geoffrey Pullum]] によれば、それは画期的な試みながら失敗に終わったという<ref>Kornai, Andras and Pullum, Geoffrey (1990) The X-bar theory of phrase structure. ''Language'' 66 24-50</ref>。 |
|||
[[1990年代]]半ば、Xバー理論を簡潔化しようという大きな試みが、2つの異なる立場からなされた。1つは、[[:en:Richard Kayne|Richard Kayne]] が提唱した{{仮リンク|反対称性 (言語学)|en|Antisymmetry|label=反対称性}}理論で、文の構造と[[順序集合|線型順序]](''linear order'')の間には密接な関係があるという前提でXバー理論を捉える立場である。 |
|||
もう1つは、チョムスキーによる『Bare Phrase Structure』('''素句構造''')と題された論文<ref>{{cite journal|author=Chomsky, Noam|title=Bare Phrase Structure|year=1994|journal=MIT Occasional Papers in Linguistics|issue=5}}</ref>で、X’やXPといったラベルを節点(''node'')から取り払い、その代わりに個々の語彙要素の素性を示すというアプローチである<ref name="ono">{{Cite web|url=http://www.kufs.ac.jp/English/faculty/ono/hp-ono4.htm |title=生成文法用語解説 |author=小野隆啓 |publisher=[[京都外国語大学]]|accessdate=2013-03-06}}</ref>。表示階層と派生を最小限に抑えるという姿勢から、'''ミニマリスト理論'''とも呼ばれる<ref name="yoshida-gojun"/>([[生成文法#ミニマリスト・プログラム]]も参照)。 |
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素句構造では、例えば、上記[[#名詞句の構造]]で限定詞句として示されていた「the cat」(a.)は、D’やDPというラベルではなく、その主要部冠詞の「the」(b.)で示す。 |
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<pre> |
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a. DP b. the |
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| / \ |
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D' the cat |
|||
| \ |
|||
D NP |
|||
| \ |
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the N' |
|||
| |
|||
N |
|||
| |
|||
cat |
|||
</pre> |
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Xバー理論は、{{仮リンク|原理とパラメータ|en|Principles and parameters}}(''principles and parameters''、略して'''P&P''')理論の中核を為していた<ref name="yoshida-gojun"/>。P&P理論とは、[[普遍文法]](''Universal Grammar''、略して'''UG''')という理論の裏づけを取ろうとする試みの1つで、人間の子供が言語を習得しようとする過程で、その言語が例えば主要部先導型かどうかというパラメータのスイッチをオン/オフにすることによって他の要素も割り出し、短期間での言語習得を可能にしているという考え方である。しかし、ミニマリスト理論の登場により、Xバー式型はUGの構成要素として疑問視されるようになった<ref name="yoshida-gojun"/>。また、少なくともチョムスキーにとっては、Xバー理論はすでに排除されているという見方もある<ref name="fujita_descent"/><ref name="ohnishi_shinka"/>。 |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[言語学]] |
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* [[自然言語]] |
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* [[統語論]] |
* [[統語論]] |
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* [[構成素]] |
* [[構成素]] |
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* [[主要部]] |
* [[主要部]] |
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* [[補部]] |
* [[補部]] |
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* [[句]] |
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* [[統語範疇]] |
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* [[語彙範疇]]<!--{{aimai}}ページ; リンク先要記事化--> |
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* {{仮リンク|機能範疇|en|Functional category}} |
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* [[品詞]] |
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* [[節点 (言語学)]] |
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* [[構成素]] |
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* [[生成文法]] |
* [[生成文法]] |
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* [[普遍文法]] |
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* [[プラトンの問題]] |
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* [[刺激の貧困]] |
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* [[変形文法]] |
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* [[句構造文法]] |
* [[句構造文法]] |
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* [[句構造規則]] |
* [[句構造規則]] |
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* [[標準理論]] |
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* {{仮リンク|拡大標準理論|en|Extended standard theory}} |
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* {{仮リンク|改定拡大標準理論|en|Revised extended standard theory}} |
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* {{仮リンク|統率・束縛理論|en|Government and binding theory}} |
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* [[C統御]] |
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* [[原理とパラメータのアプローチ]] |
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* {{仮リンク|ミニマリスト・プログラム|en|Minimalist program}} |
* {{仮リンク|ミニマリスト・プログラム|en|Minimalist program}} |
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* [[構文解析]] |
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== 脚注 == |
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<references /> |
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== 外部リンク == |
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* [http://www.ling.upenn.edu/~beatrice/syntax-textbook/index.html The syntax of natural language: An online introduction using the Trees program] - Beatrice Santorini & Anthony Kroch ([[ペンシルベニア大学]]言語学部). |
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* [http://kornai.com/Papers/xbarver.pdf The X-Bar Theory of Phrase Structure] - Andr´as Kornai ([[スタンフォード大学]] & [[ハンガリー科学アカデミー]]) & Geoffrey K. Pullum ([[カリフォルニア大学サンタクルーズ校]]). |
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{{Normdaten}} |
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{{DEFAULTSORT:えつくすはありろん}} |
{{DEFAULTSORT:えつくすはありろん}} |
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[[Category:言語学]] |
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[[Category:統語論]] |
[[Category:統語論]] |
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[[Category: |
[[Category:生成文法]] |
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[[Category:フレーズ]] |
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[[Category:統語範疇]] |
2021年10月23日 (土) 12:18時点における版
言語学 |
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基礎分野 |
言語の変化と変異 |
理論 |
応用分野 |
関連項目 |
Xバー理論 (エックスバーりろん、英: X-bar theory) とは、1950年代にノーム・チョムスキーが提唱した生成文法理論[1][2]に基づき、1970年代から1980年代に発展した、句範疇の構造をXバースキーマ (英: X-bar schema)[注 1]と呼ばれる構造で単一的に扱うことを目指す統語理論である。Chomsky (1970)[3]に端を発し、レイ・ジャッケンドフがさらに発展させた (Jackendoff 1977[4])。Xバー理論は生成文法理論であり、普遍文法にスキーマ構造が書き込まれていることを仮定する。これはすなわち、全ての句範疇の構造を1つの基本構造から導けるような言語知識を、人間は脳内文法に保持していると言うのと同義である。具体的には、「あらゆる自然言語のあらゆる句 (英: phrase) は (任意の) 統語範疇Xを主要部とするXP (X Phrase) である」と規定する。Xバー理論は、定式化以前の繁雑な句構造規則の孕む問題を解消するのに重要な役目を果たした。
背景
Xバー理論は、標準理論 (英: Standard Theory、ST)[5]における、句構造規則 (英: phrase structure rule、PSR) の孕む問題を解決するために発展した[6]。主にPSRには、以下4つの問題がある。
- "S → NP Aux VP" など、外心構造 (英: exocentric structure)[注 2]をもつ句範疇を仮定している。これは、句は必ず主要部をもつという事実に反する[6]。
- John talked to the manなどの文における動詞句のPSRは "VP → V (PP)"[注 3]となるが、John talked to the man in personは "VP → V (PP) (PP)" となるなど、E言語 (脳内文法ではなく使用により外界に表出する言語) に見られる事例に応じて、PSRの項目を都度増やさなければならない。これは普遍文法内の規則を無数に増やすのと同義であり、プラトンの問題ならびに刺激の貧困の観点から大きな問題がある[5]。
- 1、2のように、PSRは内心構造 (英: endocentric structure)[注 4]を持たない構造と項目の無差別な追加を許容するため、"VP → NP A PP" のような自然言語ではありえない句構造も許容してしまう[6]。
- 平坦な、階層性のない構造を仮定するため、文の曖昧性を捉えることができない[7]。
これらの問題を踏まえ、Xバー理論はXPという鋳型となる句範疇とその構造を仮定する理論である。
Xバースキーマ
基本原理
Xバー理論の「X」は数学上の変数と同じであり、名詞 (N)、動詞 (V)、形容詞 (A)、前置詞 (P) などの統語範疇 (一般用語上の品詞) を表す語が当てはまる。「Xバー」とは、X (すなわち語) よりも大きい文法単位であり、Xシングルバー、Xダブルバーというように次第に大きくなる。Xダブルバーは句 (XP) に相当する。 (例: 名詞句 (NP)、動詞句 (VP)、形容詞句 (AP)、前置詞句 (PP); 句も参照のこと)。
Xバー理論では、全ての句範疇が図1の構造をもつと仮定する。この鋳型構造をXバースキーマという。
図1に示すように、Xバー理論で句範疇XPはXと上二重棒線で示される[注 5]。なお、表記上の問題で、バー表記は「X'」のようにプライム (') で代替されることが多い。以下では、句範疇の表記はXダブルバーではなくXPに統一する。
Xバー理論には、中核となる2つの原理がある。
- 主要部の原理 (英: headedness principle): 全ての句は主要部を持つ[8]。
- 二股枝分かれの原理 (英: binarity principle、binary-branching principle): 全ての節点は二股に枝分かれする[8]。
主要部の原理は、上記1と3の問題を同時に解消する。二股枝分かれの原理は、下記で説明する投射および曖昧性において重要な概念である。
Xバースキーマは、主要部の原理により、主要部とその周辺要素で構成される。該当する構成要素は、以下の通りである。
- 指定部 (英: specifier): [義務的] Xシングルバーと姉妹関係にある節点[9]。統語位置そのものの名称であり、基本的に意味的な定義はない。
- 主要部 (英: head): [義務的] 句の核。語彙 (英: lexeme) が当てはまり、句全体の形や性質を決定する[10]。
- 補部 (英: complement): [義務的] 主要部が要求する項。
- 付加部 (英: adjunct): [随意的] 主要部から成る句の修飾詞。
指定部、主要部、補部は義務的であり、句範疇XPは必ず1つの指定部、主要部、補部を含む。一方、付加部は随意的であり、1つの句範疇は0個以上の付加部を含む。したがって、ある句範疇XPが付加部を含まない場合、その構造は図2のようになる。
具体例として、John studies linguisticsという文におけるlinguisticsという名詞句 (NP) は、図3の構造をもつ。
二股枝分かれの原理及び指定部と補部の義務制から、これらの統語位置を占める要素がなくとも、要素が当てはまりうる空の統語位置が存在すると仮定する点に注意が必要である。このように考えると、PSRの場合とは異なり、別々の句が別々の構造を持つと想定する必要がなくなり、上記2の問題が解消される。なお、図3における空位置は、図4のように省略表記されることも多い。
このように表記する場合、Xシングルバーレベルの節点が必ず存在する[6][11]ということに注意が必要である。
次に、図5に示すとおり、XダブルバーとXシングルバーは主要部Xの性質を継承する。これを、投射 (英: projection) という[12]。
図5は、Xバー理論において統語構造はボトムアップ式に派生されることを同時に示している。この派生は、以下の順を経る。
- 主要部に語彙が当てはめられる。主要部は、形式上「Xゼロバーレベル」であるため、ゼロレベル投射 (英: zero-level projection) と呼ばれることがあり、X0と表記される[13]。
- 主要部と補部が結びつき、半句範疇 (句の大きさに満たない統語範疇) であるX (Xシングルバー) を形成する。この範疇は、中間投射 (英: intermediate projection) と呼ばれる[6]。
- (付加部がある場合、Xが付加部と結びつき、もう1つのXを形成する。付加部が複数ある場合、この手順が繰り返される。)
- 中間投射と指定部が結びつき、完全な句範疇であるXP (Xダブルバー) が形成される。この範疇は、最大投射 (英: maximal projection) と呼ばれる[6]。
手順3以外は義務的であることに注意が必要である。したがって、1つの句範疇は必ずX0、X、XP (=X'') を含む。また、X0より大きい節点 (すなわち、XとXPの節点) から成る構造を、構成素 (英: constituent) という。
枝分かれの方向性
図1-5は英語の語順を元としているが、二股枝分かれの原理は節点がどちら側に枝分かれするかは規定しないため、原則としてXバースキーマは枝分かれ節点の方向性を指定しない。例えば、John read a long book of linguistics with a red coverという2つの付加部を含む文は、図6と図7いずれかの構造をもつ。(慣例に従い、一部の句範疇の内部構造を△で省略する。)
The book of linguistics with a red cover is longの意の場合は図6の構造となり、The long book of linguistics is with a red coverの意の場合は図7の構造となる。(#階層構造も参照。) 重要なのはN'2とN'3の枝分かれ接点の方向性であり、一方は左側枝分かれ、他方は右側枝分かれとなっている。このように、二股枝分かれの原理の上では枝分かれの方向は自由である。
次に、主要部と補部の位置関係は、原理とパラメータのアプローチ (英: principles-and-parameters approach)[11]に基づき、主要部パラメータ (英: head parameter) で言語ごとに決定される。(Xバースキーマ自体はこの位置関係を規定しない。) 原理とは全ての言語における共通規則を指し、パラメータとは通言語的な可変部分を指す。パラメータは二者択一であり、主要部パラメータの場合は [±head first] という値を元に、言語ごとにプラスかマイナスの値を設定することになる[14]。この値をプラスに設定した場合、英語のように主要部先導型 (英: head-initial) となり、マイナスに設定した場合、日本語のように主要部終端型 (英: head-final) となる。例として、「John ate an apple」 と 「ジョンがリンゴを食べた」の構造は、それぞれ図8、9のようになる。
なお、指定部の節点の枝分かれも原則方向性は規定されない。一方で、英語と日本語では共通して主語が動詞句の左側に現れることから自然言語では共通して指定部は左側枝分かれとなるという見かたもあれば、Saito and Fukui (1998)[15]のように、指定部の枝分かれ方向は主要部パラメータに依存して決まるという見かたもある。
文の構造
Sの構造
文 (S(entence))の構造は、PSRでは下記のように表記される。
- S → NP (Aux) VP
しかしこれは、主要部がない外心構造であるため主要部の原理に違反する点、Aux(iliary) (助動詞) が生起する際Sの節点が三股枝分かれになる点で二股枝分かれの原理の違反にもなり、Xバー理論にとって大きな問題となる。この問題を解消するため、Chomsky (1981)[16]では、文は機能範疇Infl(ection) (屈折詞) を主要部とするInflPであると提案され、のちのChomsky (1986)[11]では、句範疇が「XP」という形の2字で表される慣例に従い、文は機能範疇Iを主要部とするIPであると提案された[注 6]。 Iは、willやcanなどの助動詞ならびに、三単現の-sや過去時制接辞の-edなどであり、文 (ないし節) は必ず時制要素を含むため、「句には必ず主要部がある」ということを規定する主要部の原理と完全に合致している。
この考えに基づき、John studies linguistics at the universityという文の構造を樹形図で示すと、図6のようになる[注 7]。
図10から自明であるように、IP仮説のもとでは文という大きな文法単位を句範疇とみなすことが可能になり、さらに主要部の原理と二股枝分かれの原理から追加の仮定なしに構造を説明することが可能となる。
S'の構造
従属節または補文を導く語を補文標識 (英: complementizer) と言い、英語のthat、if、forがこれにあたる[注 8]。PSRでは、補文はS'という範疇であると考えられていた。
- S' → COMP S
Chomsky (1986)[11]では、このS'という範疇は機能範疇Cを主要部とするCPであると提案された[21]。例えば、I think that John is honestという文は、以下の構造を持つ。
また、Chomsky (1986)[11]の提案のもとでは、Wh移動の着地点はCPの指定部 (Spec-CP) であると仮定される。例えば、What did John eat?というwh疑問文は、図12のように派生される[注 9]。
この構造において、IからCへの移動は主語・助動詞倒置 (英: subject-auxiliary inversion、SAI) と呼ばれ、さらにこの種の移動は主要部移動 (英: head movement) と呼ばれる[注 10]。
その他の句構造
- 動詞句内主語仮説 (英: VP-Internal Subject Hypothesis): Fukui and Speas (1986)[24]や Kitagawa (1986)[25]により提案された、文主語をSpec-VPに基底生成する仮説。
- DP仮説: Abney (1987)[26]により提案された、名詞句はNPではなく機能範疇Dを主要部とするDPであるとする仮説。
- VP shell: Larson (1988)[27]により提案された、二重のVP構造。Chomsky (1995)[18]では、上位に位置するVPは機能範疇v (リトルブイ、スモールブイ) を主要部とするvPとして昇華された。
- PredP仮説: Bowers (1993, 2001)[28][29]により提案された、小節 (英: small clause)[30] は機能範疇Predを主要部とするPredPであるとする仮説。
- 裸句構造 (英: Bare Phrase Structure、BPS): Xバー理論に代わる理論として、Chomsky (1995)[18]の提案した理論。Xバー理論のような「鋳型」構造の存在を棄却し、語や句を組み合わせる併合 (英: Merge) という操作のみで統語構造を作り出す。節点に統語範疇のラベルを割り当てないという特徴ももつ。ミニマリスト・プログラムも参照のこと。
階層構造
PSRには、文の曖昧性 (英: ambiguity) を捉えられないという問題がある。
- I saw a man with binoculars.[31]
この文は、with binocularsがVPにかかる「私は双眼鏡を使ってある男を見た」という解釈と、NPにかかる「私は双眼鏡を持ったある男を見た」という解釈で2通りに曖昧である[31]。この文に関わるPSRは、以下のようになる。
- S → NP VP
- VP → V NP PP
すなわち、構造は図13のようになる。
この構造では、例外なく[PP with binoculars]がVPにかかるため、NPにかかる解釈を適切に捉えることができない。しかし、階層構造を仮定するXバー理論では、図14、15のように適切に曖昧性を捉えることができる。
従って、#背景で述べた4つ目の問題もXバー理論によって解消される。なお、生成文法では、標準理論 (Chomsky 1965[5])、拡大標準理論 (Chomsky 1972[32])、改定拡大標準理論 (Chomsky 1981[16]) の全てにおいて、「構造から意味が導かれる」と考える。したがって、この逆の「意味から構造が導かれる」ことは理論上ありえない。
注釈
- ^ 「Xバー式型」という日本語訳が与えられることもある。
- ^ 主要部のない句構造を指す。
- ^ 括弧内の句範疇は随意的であることを表す。
- ^ 主要部のある句構造を指す。
- ^ Jackendoff (1977)[4]では、Xトリプルバーレベルまで仮定されている。
- ^ その後、Pollock (1989)[17]によりIはT(ense) と Agr(eement) の2つの機能範疇からなるという仮説が提案された。一方、機能範疇AgrはChomsky (1995)[18]で、LFでの機能がないことを理由に存在を棄却された。故に、現在の統語論では節は機能範疇Tを主要部とするTPであるという考え方が主流である。
- ^ 図10の構造において、文全体の語順は接辞移動 (英: affix hopping、affix movement) により派生される。接辞移動とは、統語形成が終了したのちに音韻部門 (PF) で適用される操作で、屈折辞の /-s/ という「音」を動詞の位置に移動させ付加する[19]。Chomsky (1981)[16]では、この時制接辞移動は規則R (英: Rule R) と呼ばれている。
- ^ 同様に補文を導くwhetherも補文標識として扱われることがあるが、Nakajima (1996)[20]などをはじめとする多くの研究者が、whetherはCPの主要部位置に生起するのではなく、CPの指定部位置 (Spec-CP) に生起するものとして扱っている (wh語の分析と同様)。これはすなわち、whetherはC0ではないと言うのと遜色なく、どの統語範疇に属するのかは研究者によって意見が分かれる。
- ^ Wh移動は、Chomsky (1973)[22]の下接の条件 (英: Subjacency Condition) に従い、連続循環的 (英: successive cyclic) に、すなわち全てのSpec-CPを経由して適用される。
- ^ 主要部移動の詳細議論はBaker (1988)[23]を参照のこと。
出典
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- ^ a b “Syntax I”. 2021年10月23日閲覧。
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関連項目
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