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'''カナートス'''({{lang|grc|'''Κάναθος'''}}, {{ラテン翻字|el|Kanathos}})は、[[古代ギリシアの宗教]]において、女神[[ヘーラー]]が年1回自身の処女性を回復したとされる泉である。この泉は、[[アルゴリダ県|アルゴリダ地方]]の[[ナフプリオ|ナウプリア]]にあったとされる<ref group="注">ナウプリアは湾を挟んで古代の聖地{{仮リンク|レルナ|en|Lerna}}に面していた。</ref>。 |
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[[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]は「カナートスと呼ばれる泉があり、[[アルゴス (ギリシャ)|アルゴス]]人が言うことには、ヘーラーはそこで毎年沐浴し、それによって乙女になるが、この物語は彼らがヘーラーに対して行う儀式と関連している」と記している<ref name="Pausanias38.2"> パウサニアス、ii.38.2</ref>。儀式について秘匿するという性質から、[[ギリシア神話]]の中で、儀式について具体的に、あるいは隠さずに語ることは許されなかった。S. キャッソンはこれについて、「[[ルドビシの玉座]]」と呼ばれる彫刻に描かれた、[[パフォス|パポス]]の海で沐浴し再生する[[アプロディーテー]]と共通する、あいまいな主題であることを示唆している<ref>S. Casson, "Hera of Kanathos and the Ludovisi Throne" ''The Journal of Hellenic Studies'' '''40'''.2 (1920), pp. 137-142.</ref>。 |
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[[サモス島]]では、密議において女神の儀式的な沐浴が表現された。サモスの古い木造のヘーラー像は、もとは偶像視された木の板か、{{仮リンク|クソアノン|en|Xoanon}}{{Refnest|木製の像、特に神々の像<ref>{{Cite web|url=http://stephanus.tlg.uci.edu/lsj/#eid=74002|title={{lang|el|ξόανον}}|publisher=Thesaurus Linguae Graecae|website=The Online Liddell-Scott-Jones Greek-English Lexicon|accessdate=2019-04-10}}</ref>。|group=注}}であったとされ、年に一度、海で洗う儀式が行われたが、その[[起源神話]]としてこの逸話が生じた<ref>[http://www.wbenjamin.org/nc/heraion.html Helmut Kyrieleis, "The Heraion of Samos"] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20121128121229/http://www.wbenjamin.org/nc/heraion.html|date=2012-11-28}}, Scott J. Thompson, tr., from Kyrieleis' ''Führer Durch das Heraion von Samos'' ["Guide Through the Heraion of Samos"], Deutsches Archäologisches Institut (Athens:Krene) 1981, pp 9-53.</ref>。G. W. エルダーキンはアプロディーテーの巫女たちが行う「洗う水を運ぶ者」を意味するルートロポロス (loutrophoros) という儀式について「女神像の沐浴は、女神が自ら行った沐浴を記念し、再現する儀式である」と指摘している<ref>G. W. Elderkin, "Aphrodite and Athena in the Lysistrata of Aristophanes" ''Classical Philology'' '''35'''.4 (October 1940, pp. 387-396) p. 395.</ref> 。 |
2021年11月15日 (月) 11:17時点における版
カナートス(Κάναθος, Kanathos)は、古代ギリシアの宗教において、女神ヘーラーが年1回自身の処女性を回復したとされる泉である。この泉は、アルゴリダ地方のナウプリアにあったとされる[注 1]。
パウサニアスは「カナートスと呼ばれる泉があり、アルゴス人が言うことには、ヘーラーはそこで毎年沐浴し、それによって乙女になるが、この物語は彼らがヘーラーに対して行う儀式と関連している」と記している[1]。儀式について秘匿するという性質から、ギリシア神話の中で、儀式について具体的に、あるいは隠さずに語ることは許されなかった。S. キャッソンはこれについて、「ルドビシの玉座」と呼ばれる彫刻に描かれた、パポスの海で沐浴し再生するアプロディーテーと共通する、あいまいな主題であることを示唆している[2]。
サモス島では、密議において女神の儀式的な沐浴が表現された。サモスの古い木造のヘーラー像は、もとは偶像視された木の板か、クソアノン[注 2]であったとされ、年に一度、海で洗う儀式が行われたが、その起源神話としてこの逸話が生じた[4]。G. W. エルダーキンはアプロディーテーの巫女たちが行う「洗う水を運ぶ者」を意味するルートロポロス (loutrophoros) という儀式について「女神像の沐浴は、女神が自ら行った沐浴を記念し、再現する儀式である」と指摘している[5] 。
ジェーン・エレン・ハリソンによれば、これはおそらくペラスゴイ人に起源を持つ三相のヘーラーがアルカディア地方のステュムパーロスで「一年を表す女神として彼女の中に古代ギリシアの季節の、春、夏から秋、そして冬を想起させる」乙女、妻、そして寡婦として崇められられていたことを[1]彷彿させるものである。ナウプリアでも同様に[6]、ヘーラーは、年々若さを回復するが、他の年を司る神々と同様に、若さと処女性を取り戻すにはカナートスで沐浴しなければならなかった。『イーリアス』に見られるような高貴な母神性もまた、文学的なオリンポスの神々の完全性を強調するものである。[7]
エレウテリオン[注 3]の水はアルゴスのヘーラー神殿での沐浴の儀式に使われた[9]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b パウサニアス、ii.38.2
- ^ S. Casson, "Hera of Kanathos and the Ludovisi Throne" The Journal of Hellenic Studies 40.2 (1920), pp. 137-142.
- ^ “ξόανον”. The Online Liddell-Scott-Jones Greek-English Lexicon. Thesaurus Linguae Graecae. 2019年4月10日閲覧。
- ^ Helmut Kyrieleis, "The Heraion of Samos" Archived 2012-11-28 at the Wayback Machine., Scott J. Thompson, tr., from Kyrieleis' Führer Durch das Heraion von Samos ["Guide Through the Heraion of Samos"], Deutsches Archäologisches Institut (Athens:Krene) 1981, pp 9-53.
- ^ G. W. Elderkin, "Aphrodite and Athena in the Lysistrata of Aristophanes" Classical Philology 35.4 (October 1940, pp. 387-396) p. 395.
- ^ パウサニアス、ii.38.2
- ^ Harrison, reviewing Charles Waldstein, "Excavations of the American School of Athens at the Heraion of Argos, 1892" in The Classical Review '6.10 (December 1892, pp. 473-474) p.474.
- ^ 馬場訳、p.84。
- ^ パウサニアス、ii.17.1.
参考文献
- パウサニアス 著、馬場恵二 訳『ギリシア案内記 下巻』岩波書店〈岩波文庫〉、1979年4月。ISBN 4-00-334602-5。