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2022年11月23日 (水) 12:57時点における版

タアパカ
タアパカとプトレの町
標高 5,860[1][2] m
所在地  チリ
アリカ・イ・パリナコータ州の旗 アリカ・イ・パリナコータ州
位置 南緯18度06分00秒 西経69度30分00秒 / 南緯18.10000度 西経69.50000度 / -18.10000; -69.50000座標: 南緯18度06分00秒 西経69度30分00秒 / 南緯18.10000度 西経69.50000度 / -18.10000; -69.50000
山系 アンデス山脈
種類 複合火山
最新噴火 紀元前320年 ± 50年[3]
初登頂 先コロンブス期
タアパカの位置(アリカ・イ・パリナコータ州内)
タアパカ
タアパカ
タアパカ (アリカ・イ・パリナコータ州)
タアパカの位置(チリ内)
タアパカ
タアパカ
タアパカ (チリ)
タアパカの位置(南アメリカ内)
タアパカ
タアパカ
タアパカ (南アメリカ)
プロジェクト 山
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タアパカTaapacá)はチリ北部のアリカ・イ・パリナコータ州に位置する複合火山である。火山はチリのアンデス山脈内に存在し、南アメリカアンデス火山帯英語版内の4つの異なる火山帯の1つである中部アンデス火山帯の一部を構成している。火山の南西の麓にはプトレ英語版の町がある。

中部アンデス火山帯の他の火山と同様に、タアパカは南アメリカプレートの下へのナスカプレート沈み込みによって形成された。火山はアルティプラーノの西端に位置し、古い火山と堆積物のユニットの上に存在している。また、主に数多くの溶岩ドームの形でデイサイトを噴出したが、安山岩質の成層火山も存在する。

タアパカの火山活動は鮮新世から完新世にかけていくつかの段階に分かれて発生した。溶岩ドームの形成に続き、たびたびドームの崩壊とブロック・アンド・アッシュ・フローが発生し、火山の一部は山体崩壊(巨大な地滑り)を受けた。当初は更新世の間に活動が終了したと考えられていたものの、後に2300年前まで噴火が発生していたことが判明した。最新の噴火は紀元前320年頃のものである。噴火がプトレの町に危険を及ぼす可能性があるため、チリ地質鉱業局英語版が火山の監視を行っているが、噴火が発生した場合には地方の交通路や東部のボリビアにまで影響を及ぼす可能性がある。

名前の由来

タアパカはネバドス・デ・プトレの名でも知られている[4]。しばしばネバドス・デ・プトレは複合火山全体、タアパカは最も高い峰を指す用語として使われる[5]。また、現地の言葉であるタラ・パカがアイマラ語で「双頭の鷲」[6]または「冬の(獲物を狙う)鳥」[7]ケチュア語では「アンデスの鷲」[8]を意味しており、タアパカという名前はこのタラ・パカを語源としているか、創造神ビラコチャのアイマラ語名の可能性もある[9]。麓の町の名前であるプトレはアイマラ語で「流れ落ちる水の音」を意味している[7]

地理と地質学的特徴

タアパカはアリカ・イ・パリナコータ州パリナコータ県に位置している[1]。チリ北部ではグアジャティリ英語版ラスカル、およびパリナコータの各火山で噴火の大部分が記録されているものの、この地域における過去1万年間の火山活動はわずかしか記録に残っていない[4]。これらの3つの火山の内、グアジャティリとパリナコータの2つとタアパカはラウカ国立公園英語版の一部となっている[10]。タアパカはタンボ・ケマド英語版(チリとボリビアの国境)とアリカを結ぶ国際道路からアクセスすることができる[11]

広域的特徴

アンデス山脈の火山活動はペルー・チリ海溝南アメリカプレートの下へナスカプレート南極プレート沈み込むことによって引き起こされている。プレートが沈み込む速度は1年あたりでナスカプレートが7から9センチメートル、南極プレートが2センチメートルである[12]。この沈み込みの過程で下降するプレートが上部のマントルウェッジ英語版と相互作用を起こし、最終的なマグマの分化へつながる前の本源マグマを生成する[13]

このプレートの沈み込みはあらゆる場所で火山活動を引き起こしているわけではない。プレートの沈み込みの傾角が浅い場所(フラットスラブの沈み込み英語版)では新しい地質年代における火山活動はみられない。アンデス山脈ではおよそ1億8500万年前から火山活動が続いており、およそ2700万年前にファラロンプレートが解体した頃に火山活動が活発化した[12]。1994年には完新世に活動があったとみられる火山がアンデス山脈内に178前後存在し、そのうち60の火山は有史以降の活動が存在したと推定されている[12]

地域的特徴

アンデス山脈の4つの火山帯を表した地図

タアパカはアンデス山脈の中部火山帯の一部であり[14]、中部火山帯は北部火山帯、南部火山帯、およびアウストラル火山帯とともにアンデス山脈に存在する4つの火山帯の内の1つである。これらの火山帯は新しい地質年代において火山活動が認められない地域によって隔てられている[15]

中部火山帯にはおよそ44の活火山と他のいくつかのカルデラ溶結凝灰岩を伴う)および火山地域が存在する。また、古い火山は乾燥した気候のために大抵において形状がよく保たれている[12]。この火山帯は世界で最も高い火山が存在することが特徴であり、標高は5,000メートルから7,000メートルの範囲に達する。中部火山帯における最大の有史以降の噴火は1600年ワイナプチナで発生し、一方で最も活発に活動している火山はラスカルである。これら以外の火山活動については火山体が人里から遠く離れているため、ほとんど記録に残っていない[12]

タアパカはアルティプラーノの西端に位置し[16][4]、アルティプラーノでは漸新世以降にオクシデンタル山脈英語版の形成が進んだ。火山の下部の基盤はルピカ層と堆積性のワイラス層、およびラウカ溶結凝灰岩(272万年前[17])を含むいくつかの主として火山性のから成っている。これらの基盤は漸新世から鮮新世にかけて形成された[16]。また、いくつかの場所では角閃岩片麻岩、および蛇紋岩から成る原生代の基盤が露出している[13]クントゥリリ英語版ポメラペラランカグア英語版、およびパリナコータの各火山はタアパカの東方に位置する[18]。火山が存在する領域はスラストテクトニクス英語版の影響を受け[19]、大規模な衝上断層が付近を通過しているが[20]、タアパカの火山活動との関連は明確ではない[19]

火山

タアパカは海抜5,860メートルの高さに達し[1][2]、西から東へ伸びる複合火山である[2]。タアパカのすぐ東には別の火山であるラランカグアがある[21]。タアパカは主に多くの重なり合う溶岩ドームで構成され[16][22]、概ね楕円形から円形の範囲でさまざまな姿をしている[22]溶岩流の形跡はほとんど見られない。火山は特に西部と南西部、および東部の斜面でブロック・アンド・アッシュ・フローの堆積物から成るエプロンを形成し、いくつかの谷を埋めている[17]。また、安山岩質の成層火山も存在している[2]。山体の総体積はおよそ35立方キロメートルである。火山性物質は250平方キロメートルの範囲の地表を覆っている[4]

山頂のすぐ北側から谷が始まり、谷は時計回りに周回する尾根の斜面に沿って同様に時計回りに周回しながら反対側で南西に向かって開けるまで続いている。この谷からはパコージョ渓流と呼ばれる小川が流れ出ている[23]。主峰は完新世の溶岩ドームによって形成されており、主峰のすぐ西側には後期更新世に形成された溶岩ドーム(ソカパベの名で知られる)がある[24]

タアパカは通常雪に覆われているものの[25]岩石氷河英語版以外の氷河の形態はみられない[26]モレーンについては乏しいとする報告と[27]、6つの階層に別れてよく発達しており、最も低いものは西側斜面の標高4,250メートルの地点に横たわっているという両方の報告がある[21]。また、氷河によって侵食された谷の存在も報告されている[21]。過去には2つの氷河がタアパカの西側斜面から流出し、一方で4つの氷河がタアパカとラランカグアの間に発達して南へ流れ出ていた[28]。これらの氷河はタアパカを源流とするジュタ川英語版の起源となっており[25][29]、後にジュタ川は南北に走る火山の西側の谷を流れるようになった[18]。アジャネ渓流が火山の北側の斜面から西に向かってジュタ川に注ぎ[23]、火山の一部の河川は東のラウカ川英語版の流域に流れ込んでいる[30]。タアパカの南西にはチリのアルティプラーノ北部の主要な町であるプトレ英語版がある[2]

組成

タアパカは主にカリウムに富むデイサイトによって形成されているが、火山活動の初期には安山岩を噴出し[31]流紋岩の存在も1件報告されている。岩石の組成は火山の歴史を通じて比較的均一であり[17]カルク・アルカリ系列英語版のマグマによって特徴づけられている[32]

タアパカで噴出した岩石に見られる斑晶には角閃石[16]アパタイト[32]黒雲母[33]単斜輝石斜方輝石[16]普通角閃石[34]磁鉄鉱赤鉄鉱斜長石[32]石英[33]、特徴的な大型結晶を形成する[34]サニディン[16]、そしてチタン石が含まれている。デイサイト質の岩石は苦鉄質岩の包有物(鉱物の結晶内に取り込まれた物質の総称)を含み[33]、このような包有物は取り込まれている岩石が若いほど多く見られる[35]

苦鉄質包有物の存在は、タアパカでマグマの混合が起こり、先に存在していたデイサイト質マグマ溜まりに新しい安山岩質マグマが注入されることによって新たな噴火エピソードが引き起こされたことを示している[36]。これらのデイサイト質のマグマ溜りは比較的容積が小さく[37]、新たなマグマの注入によってマグマ溜りが加熱された出来事を除いてマグマ溜り内部におけるマグマの運動はほとんどないと見られている[38]。地質温度測定の結果、デイサイト質マグマの温度は870 ± 10 °Cと推定された[39]。マグマはいくつかの段階を経て形成されているとする仮説が立てられている。この仮説によれば、最初に玄武岩質安山岩英語版(典型的なカルク・アルカリ質の火山弧に見られる)が地殻下の玄武岩質マグマのキュームレイト英語版(沈積岩)の溶融に由来する玄武岩と混合する。次にこの混合物が原生代の地殻物質に由来する流紋デイサイト英語版のメルト(マグマの液体部分)[40]と相互作用する[41]。最初のキュームレイトのメルトが苦鉄質包有物の原料の大部分を、流紋デイサイトのメルトがデイサイトの原料の大部分を供給している[40]

主要なマグマ溜りは15キロメートルから20キロメートルの深さに存在すると見られているが、噴出した岩石のいくつかの岩石学的特徴は、5キロメートルから12キロメートルの深さに岩石形成の二次領域が存在することを示している[17]。また、タアパカのマグマの形成には分別結晶作用英語版部分溶融が関与している[32]

40キロメートルを超える深さにおける地殻物質の同化作用がデイサイト質マグマの形成に関与しており、この作用はデイサイトの質量のおよそ18パーセント[42]を占めている[43]。タアパカはかなり厚い地殻とそこを上昇するマグマの上に築かれているために地殻との相互作用が大きく、これはタアパカのマグマの生成に地殻物質の汚染が重要な役割を果たしていることを意味している[44]。そしてこのマグマはより浅い地点へ運ばれ、そこで結晶化する[45]

気候と生物

タアパカの近影

タアパカは熱帯高山気候に属し、気温の日較差が大きく、一年を通して夜間はが降りる場合がある[46]。気温の変動は0 °Cから20 °Cの範囲である[47]。チリの他の大部分の地域とは異なり、降水は主に夏に発生し[46]、6月から7月にかけては時折降雪が見られる[47]。しかし、気候は大部分において乾燥しているため[46]、植生には乏しい[47]

タアパカの南側では植生のほとんどがプーナ英語版(中央アンデスの高原地帯)の低木ステップからなり、西へ向かうほど低木林が優勢となる[48]。また、ヤレータに代表されるクッション植物ポリュレピス属英語版の樹木帯が見られ、ボフェダレスと呼ばれる湿地帯も存在する[49]。かつてこの地域では疎林の存在がより一般的であった[50]

動物相に関しては、地域内に鳥類、フラミンゴグアナコアンデスジカ英語版レアビクーニャビスカーチャなどが生息し、ピューマ属齧歯類もよく見られる[51]。この地域の大半はラウカ国立公園によって保護されており、タアパカも公園内に含まれている[46]

噴火活動

当初タアパカは3つの火山の段階を経ながら過去150万年にわたって活動してきたと考えられていた。しかし、その後4番目の段階の存在が明らかになり、さらに一部の岩石は150万年よりも古いと見られている[4][16]。タアパカの噴火は溶岩ドームを形成する噴火と、過去にスーフリエール・ヒルズ雲仙岳で観察されたような溶岩ドームが崩壊する際に発生するブロック・アンド・アッシュ・フローを伴う爆発性の活動からなっている[4][52]。しかし、これらの火山での出来事はタアパカで推測される出来事よりもはるかに小規模なものである。タアパカで起こった準プリニー式噴火は1回のみであり、テフラの堆積範囲も広くはない[22]。噴火活動はタアパカの歴史を通して南西の方向へ4キロメートルから5キロメートル移動し続けており[34]、その活動は山体の頂上付近に集中している[35]

後期更新世から完新世にかけての活動はおよそ1万年続く個別の出来事から構成され、この期間はそれ以前の活動が認められない数万年の期間によって隔てられている。タアパカでは実際の噴火だけではなく、火山の部分的な領域の崩壊や、ブロック・アンド・アッシュ・フローを発生させた個々のドームの大規模な破壊を含むさまざまなタイプの山体崩壊の存在が確認されている[14]

火山活動の各段階

最も古い火山活動の段階は鮮新世から更新世にかけての安山岩質の溶岩流からなり、北側の斜面の2か所で露出しており、浸食が激しく、一部は後の火山活動によって埋もれている[16]。この段階の山体は広い範囲にわたる成層火山であった可能性が最も高い[35]

その後、150万年前から50万年前にかけてデイサイト質の溶岩流と溶岩ドームが火山の北側と東側の斜面の大部分を形成した。東側の斜面では溶岩流による隆起部分のように溶岩流の形状がよく保存されているが[33]、北側では氷食作用や熱水作用による変質が起こり、これらの形状が劣化している。火山の北側と北西側では長さ13キロメートルにわたって厚さ20メートルのブロック・アンド・アッシュ・フローが地表を覆っているが、火山からさらに遠く離れた場所では厚さ2メートル未満の同様の痕跡が認められる。これらのブロック・アンド・アッシュ・フローの面積は110平方キロメートルに及ぶ。また、フローの末端領域ではしばしば最大で厚さ5メートルに達するラハールの露出部分が見られる。この段階でのタアパカは恐らく急峻な溶岩ドームからなる大規模な成層火山であった[31][53]

続く第3段階は第2段階に似た火山活動を特徴とし、その火山生成物は特に山体の中央部、東部、および南西部で18平方キロメートルの範囲を覆っている[53]。一方で火山の南側では別の溶岩ドーム群が形成された[31]。西側の斜面には短く厚い複数の溶岩流の痕跡があり、東側の斜面では第3段階に形成された複数の溶岩ドームが特徴的な存在となっている。また、これらの溶岩ドームのうちの1つはパンケーキのような外観をしている。火山の南側と東側の斜面でそれぞれ南北に並んでいる溶岩ドームはこの時期に形成された[54]。第2段階の火山と恐らくは第3段階の火山も氷河の侵食を受けており、その後の山体崩壊と相まってタアパカの山体の多くが失われ、火山の中核部分が露出するようになった[31]

第4段階は更新世と完新世にまたがり、1平方キロメートルの表面を覆っているチュリリンコ岩屑なだれの堆積で始まった[54]。この岩屑なだれは45万年前から43万年前の間に古い山体が崩壊して起こったもので[55]、熱水変質によって山体が脆くなった後に崩壊した可能性が高いと考えられている[31]。43万年前から2万5000年前の間には南南西方向の斜面に30平方キロメートルの範囲を覆うタジャネユニットが形成された。このユニットは厚い溶岩流、西側斜面のいくつかの溶岩ドーム、南側斜面の岩屑なだれ、そして南側と南西側斜面の二つの火砕流による扇状地から成っている。2万5000年前から9000年前の間にはソカパベユニットが形成され、タアパカの西端に位置するより多くの溶岩ドームとこれらのドームに食い込んでいる別の岩屑なだれによって構成されている。この岩屑なだれは20平方キロメートルの範囲を10キロメートルの距離にわたって覆っており、堆積した当時は高温であったと考えられている[55]。また、この山体崩壊は火山内部の潜在ドーム(粘性の高いマグマが噴火せずに地表近くで地盤を隆起させたもの)の発達によって引き起こされ[52]、プトレの町はこの岩屑なだれとタジャネおよびソカパベの各ユニット、そして完新世の火砕流の堆積物の上に築かれている[23]。さらに、ある火砕噴火の発生によってソカパベユニットの堆積物の隙間が岩屑なだれで埋まり、この火砕噴火はタジャネユニットの南側の扇状地の上にさらに多くの火砕物を堆積させた[56]

かつてタアパカは既に活動していない火山であると考えられていたが、追加的な調査によって完新世における噴火の存在が明らかとなった[4]。これらの噴火は火山の南側、中央部、および南西側の斜面を中心にプトレユニットを生み出した。このユニットはタアパカの東側の大規模な溶岩ドーム[57]、南側のより小規模な溶岩ドーム、そして南側と南西側の斜面における一連の火砕物から構成されている。これらの火砕物は数多くのブロック・アンド・アッシュ・フローによってもたらされた。また、軽石流、ラハール、およびテフラの層も存在している。過去8000年の間に少なくとも3回の火砕噴火が発生し、一方でテフラの降下も7000年前から2000年前の間に起こった。このテフラの降下は恐らく溶岩ドームの噴火に関連すると見られている[31]全地球火山活動プログラムによれば、完新世の間にタアパカで8回の個別の噴火が発生し[3]、最後の噴火はおよそ2300年前の紀元前320年 ± 50年である[3][58]。20世紀初頭にタアパカにおける噴気活動の存在が報告されているものの[59]、有史以来噴火の記録はなく、今日における火山活動の様子は熱水泉を通してのみ目にすることができる[26]

噴火の危険と警戒体制

プトレと同様にタアパカの噴火による危険が及ぶ可能性のあるソコロマの町(2013年2月)

チリ北部の火山の多くは都市や人が居住する地域から遠く離れているため、これらの火山の活動によって著しい人的被害を生じることはないが[23]、タアパカに関しては例外である[60]。現地の主要な人口集中地であるプトレは[34]、タアパカの火砕堆積物の上に築かれており、将来の噴火の脅威にさらされている。火山の南側には同様に脅威が及ぶ範囲内を通っているボリビアから太平洋に至る幹線道路(ラパスアリカを結ぶ[61]チリの国道11号線英語版[23])があり[4]、一方で南西と西側の斜面にはペルーに向かうビスビリ英語版への道路が通っている[18]。また、ソコロマ英語版とサパウイラの町やボリビアのオルロ県も危険が及ぶ範囲内にある[26]。タアパカの噴火の平均間隔はおよそ450年であり、その危険性は完新世における火山活動の影響が主にプトレの位置する南西側の斜面に対するものであったという事実によっても際立っている[62]

将来におけるタアパカの火山活動は、山体にマグマが注入され、火山が不安定になる段階まで山体を変形させた場合にさらなる外周の崩壊を引き起こす可能性があり、同様に溶岩ドームが火山に押し出された場合にブロック・アンド・アッシュ・フローと一次および二次火砕流を発生させる可能性がある[22]。また、4月から11月の間(火山が雪に覆われている時期)の噴火は、12月から3月にかけての雨季の降水時と同様にラハールを発生させる可能性がある。後者のタイプのラハールは火山の斜面が急勾配であることから今日のタアパカでたびたび発生しているものの、通常は道路の損傷だけで済む場合がほとんどである[62]

チリ地質鉱業局英語版は火山を監視し、火山の危険性のレベルを公開している[1]。また、タアパカのハザードマップも公開しており、火山弾の落下、火砕流、およびテフラの降下の危険が及ぶ範囲を示している[23]

信仰と鉱業

プトレの街並み(2009年7月)

アンデスの人々の間では今日でも山岳信仰が続いている。2002年には考古学者がタアパカの山頂で岩で築かれた囲みの中から貝殻で作られた3センチメートル程の小さな男性像を発見した。このような像はインカの人々の雨乞いの儀式において欠かせないものであった。さらに山頂から200メートル離れた北西の尾根でもインカ人の遺跡が発見されている[63]。インカの人々は山が天候を支配し、それ故に植物や動物の繁殖をも司っていると考えていたことから、恐らくはこの像を供えることで安定した水の供給を得ようとしていたと見られている[25]。タアパカはインカの山の聖域の一つであり[64]、今日においてもプトレの集落を守護していると言われている[65]

また、タアパカの山頂部には硫黄の鉱床が存在する。1930年代にプトレで活動を始めたタアパカ硫黄会社(Empresa Azufrera Taapaca)がタアパカで硫黄を採掘し[66]、タアパカの火口の周辺にそれぞれカネパとシアと呼ばれる鉱山作業者のキャンプが設営された[67]。この採掘活動は当時のプトレにかなりの人数の雇用をもたらした[68]

脚注

出典

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参考文献