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簡易水洗式便所

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
簡易水洗式トイレから転送)

簡易水洗式便所(かんいすいせんしきべんじょ)は、便所の形態の一つ。

下水道等の整備が十分でない地域に於いて、非水洗便所よりも衛生的であり、より水洗式便所に近い実用性が得られるため設置される便所である。

構造

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  • 排泄物を自由落下、残存物は少量の洗浄水にて洗い流し、便槽に貯留する構造となっている。便槽は浄化槽や下水道に連結せず、バキュームカーによる汲み出しを必要とすることから、技術的な広義の意味では汲み取り式に含まれる。
  • 便器と便槽の間に弁を設け、用便時の汚物跳ね返りや臭気の逆流を防止する構造、水鉄砲類似の洗浄ホースを付加し洗浄力を強化させるものなど、販売会社がそれぞれの製品で工夫を講じており、水洗便所に匹敵する実用性を確保する努力が為されている。
  • 一般には既存の汲み取り式便所を改造して設置されることが多い。便槽は既設の便槽をそのまま残すこともあるが、簡易水洗式専用の便槽も製造されている[注釈 1]。便器は、簡易水洗式専用[注釈 2]の便器を設置し、洗浄用の水道管を接続する。なお、大便器が簡易水洗式の場合であっても、小便器に限り非水洗の小便器が用いられる場合もある。
  • 下水道浄化槽が設置できない場所では、新築物件でも採用されることがある。
  • 仮設トイレ(トイレハウス)の便所として工事現場やイベント時に設置されることも多く、その場合、購入せずに土木工事用具のリース会社から借り入れる場合が大半である。
  • 設置後に下水道が整備されたときに備えて、排水トラップ部分など最小限の部品換装により水洗便器化できる簡易水洗便器が販売されている。

長所

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  • 一回の水の使用量が大体500mL以下と大変少なく抑えられている。構造上、汚物の処理は直下の便槽への自然落下を基本としているために、本格的な水洗便所のような水圧洗浄・流下に依存せずに済むことによる(普通の水洗は大便一回で4L~20Lくらいの水が必要[注釈 3])。
  • 水洗式同様、用便後に便器が洗浄できるため、一般の汲み取り式便所よりも衛生面で優れており、加えて専用便器の仕組みにより便槽を密閉できるので、ハエなどの病害虫の侵入を防ぐ効果がある。これらの特徴は、便所内での快適性改善にも役立つ。
  • 下水道や浄化槽などの設備を要さないことから、維持・管理コストを抑えられる。冬期の凍結対策の面でも、浄化槽に依存しない分、一般の水洗式より有利である。
    • これらの利点から、公共下水道(集落排水を含む)の整備が遅れている地域では、単純な汲み取り式から簡易水洗式への移行が進んでいる。
  • 近年では各メーカーとも温水洗浄便座を装備した機種を発売しており、いっそう水洗式に近い使用感が得られるようになった。

短所

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  • 完全な水洗式と異なり、通常の汲み取り式便所と同様、バキュームカーによる定期的な汲み取りが必要となる[注釈 1][注釈 2]。加えて屎尿の洗浄に水道水を用いる分、通常の汲み取り式よりも汲み取り頻度が多くなる。
  • 次項に紹介されるとおり、各種の洗浄方式が併存しており、それぞれ操作法が異なることから、正しく行えなかった場合は汚物が残ったり、飛散することにつながりかねない。特に、水洗式便所しか経験したことのない者が簡易水洗式便所を利用する際、戸惑うことがしばしばある。
  • 簡易水洗式の普及初期においては、既設の便槽に元来無かった洗浄水が余分に溜まるため、容量オーバーによるトラブルが発生し、簡易水洗式を利用しないように勧告する地域もあった。
    • 正しく操作し、必要最小限の水で洗浄した場合、既設の便槽でも十分に収容できるとして設計されていたが、利用者の不慣れな操作で過剰に洗浄水を使ったことも容量オーバーの原因として考えられる。
  • この方式に限らず、汲み取り式の場合物を落とすと回収不可能という欠点がある。実際に便器の前で用を足しながらスマートフォンなどを操作しており、落下して回収不能になった事例が数多く存在する。

洗浄方式

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  • ペダル式 : 簡易水洗式では多く使用されている。足元のペダルを踏み、便器を洗浄する洗浄方式。ペダルを踏むと同時に便器内のフラップ弁が開き、汚物を洗い落とす。
  • レバー式 : 水洗式と同様にタンクのレバーを回して、便器を洗浄する洗浄方式。レバーを回すと水が便器を放射状に流れていき、底面のフラップ弁が開き、汚物を洗い流す。
  • ピストル式 : (水鉄砲)のような放水具で便器を洗浄して、汚物を流す。水勢は厚い雑誌や新聞紙10枚を重ねても穴が開くほどの威力がある。(アサヒ衛陶などで多く見られる)。また、上記2方式と併用して流しきれなかった汚物を洗い流す目的にも使用される。

使用時と清掃時の知識

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  • 大便を排泄する前にフラップの上にあらかじめ少量の水を流しておくか、トイレットペーパーを敷いておくとフラップ弁に糞が付着することを防止することができる。
  • 便器に付着した汚物を除去する際に放水ピストルを使う際はトリガーを強く引かないようにする。水勢が強すぎると、便器から汚物が飛散しかねない。
    • 水鉄砲からの放水を汚物に直撃させてはならない。汚物より上のところに放水を当て、そこから垂れ落ちる水の流れを利用することで、汚物の飛散を防止することができる。

簡易水洗便器を製造発売しているメーカー

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現在簡易水洗便器を製造発売しているメーカー

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  • アサヒ衛陶
    「サンクリーン」、「ニューレット」の商品名で発売。簡易水洗式では生産量のトップメーカーであり、洗浄方式はピストル式が多い。「サンクリーン」はロータンク式押しボタン式)、「ニューレット」はフラッシュバルブ式(タンクレス式)である。かつては、「サンクリーン」、「ニューレット」ともに、和式もラインナップされていたが、和式は2010年代になってから製造ならびに発売を終了し、洋式のみのラインナップになった。また、ネポンOEM供給している商品がある。
  • LIXIL
    「トイレーナ」の商品名で発売(現行機種は「ニュートイレーナR(TW-3系)」である。かつては、洋式も伊奈製陶(inaブランド)だった時代(1979年~1985年初頭頃)とINAX(INAXブランド)の初期(1985年~1986年頃)には「トイレーナ(TWC-1系)」として、INAX(INAXブランド)だった時代(1986年から2005年)には「ニュートイレーナF(TWC-2系)」として、それぞれ発売されていた。また、和式については、伊奈製陶(inaブランド)だった時代(1979年~1985年初頭頃)とINAX(INAXブランド)の初期(1985年~1986年頃)には「トイレーナ(TWC-100系)」として、INAX(INAXブランド)だった時代(1986年から2005年)には「ニュートイレーナF(TWC-200系)」として、それぞれ発売され、現在も「ニュートイレーナF(TWC-200系)」として発売されている。したがって、「ニュートイレーナR(TW-3系)」は洋式、「ニュートイレーナF(TWC-200系)」は和式である。)。レバー式
  • ジャニス工業
    「ジャレット」の名称で発売。洋式のみ[注釈 4]で、レバー式
  • 積水ホームテクノ
    「セキスイ リブレット」の名称で発売。
  • ダイワ化成
    「ソフィアシリーズ」の名称で発売。レバー式電磁弁式がある。業界初の幼児用簡易水洗便器も発売している。
  • ネポン
    「プリティーナ」(水洗式)、「パールトイレ」(泡洗式)の商品名で発売している。前者にはパンタロン式とフラッパー式がある。なお、プリティーナの一部商品(洋式)はアサヒ衛陶からOEM供給を受けて発売されている。パールトイレの泡には、「ネポノール」という商品名がある専用の洗浄液を使用する。パブリック用にも途を開いた。
  • ロンシール機器
    「ロンクリーン」の名称で発売。将来水洗化された場合には、専用部品で水洗便器への変更も可能となっている。レバー式、電磁弁式、エアーフラッシュ式がある。なお、製造はリンフォースに委託されている。

かつて簡易水洗便器を製造発売していたメーカー

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  • パナソニック(旧・パナソニック電工)
    「クリーンスイセン」の名称で発売されていたが、2015年4月をもって生産終了され、現在は発売されていない。なお、クリーンスイセン陶器洋風Cタイプ用水洗化改装キット(簡易水洗→水洗式の変更)は引き続き発売されている。

なお、TOTOは、一般の水洗式では日本で6割以上のシェアを誇る最大手企業だが、今のところ自社が直接的に簡易水洗便所の分野には参入していない。

脚注

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注釈

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  1. ^ a b 簡易水洗便器は基本的に下水道や浄化槽に直結することができないので、あくまでも汲み取り式便所のひとつである。それに対して、非水洗便器が下水道ないしは浄化槽に接続され、トンネル式水洗便所として活用されている例もある。
  2. ^ a b 完全な水洗便器を用いた水洗式便所であっても、簡易水洗式便所のように下水道ないしは浄化槽に接続せずに、便槽に接続してバキュームカーで汲み取るケースも存在する。
  3. ^ 一時、大便の洗浄に2Lの水量で済む水洗便器がTOTOから発売されていたが、コンプレッサーを必要とすることなどからあまり普及せず、短期間で姿を消した。
  4. ^ かつて同社では、和式の簡易水洗便器も製造発売されていたがその後終了した。