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選挙演説

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選挙応援演説から転送)
街頭演説会の様子

選挙演説(せんきょえんぜつ)とは、選挙期間中に立候補者などが自らの公約などを有権者に伝えるために行われる演説

立会演説会[編集]

複数の候補者が同じ会場で同時刻にやる演説会のこと。時間の制約がある学校の生徒会選挙などはこれが主流。

日本政治家の選挙においては、1949年1月の第23回衆議院議員総選挙で初めて実施された。1950年には衆議院議員参議院地方区選出議員と都道府県知事の選挙について義務化された。そして1951年と1952年の法改正により、市町村長と都道府県議会議員、五大市の市議会議員について、条例により立会演説会を開催できるものとした(任意制公営立会演説会)。

しかし、聴衆者の参加率の低下、やじによる悪質な演説妨害、代理演説の濫用などが問題となるにつれ、廃止論が持ち上がる。1983年11月28日の参議院本会議で廃止法案が可決され、立会演説会制度は廃止された[1]

公開討論会[編集]

1996年2月8日、京都市長選挙の候補者3人による講演会が行われた。この講演会が現在の公開討論会のさきがけと言われている。講演会を仕掛けたのは当時立命館大学法学部の学生だった泉健太。泉は京都市内8大学の学生約50人とともに実行委員会「市長候補を知る '96京都」を結成し、「中立」を旗印に掲げ討論会を実現させた[1]

そしてちょうど京都市長選の講演会が行われていた頃、公開討論会の運営をサポートするNGO「リンカーン・フォーラム」が小田全宏によって設立された[1]。同団体のサポートの下、立会演説会に代わるものとして、現在全国各地で公開討論会が企画されている。公職選挙法の規制を受けないために選挙期間前に行われることが多い(選挙期間中は、次項の個人演説会を合同で開くことで立会演説会の代わりにできるが、実施例は少ない)。

個人演説会[編集]

単独の候補者が体育館講堂貸し会議室公園などを借りて行う演説会。屋内開催ならば、拡声器規制による時間制限が無いため主に夜に開催される。但し、会場が閑散としていると見映えが悪く、行えるのはある程度の有権者を動員できる候補者に限られてくる。

複数候補が合同で開催し、立会演説会の代わりとすることもあるが、告示前の公開討論会に比べ、実施例は少ない。また、合同演説会は必ず候補者および所属政党・政治団体・確認団体主催でなければならず、第三者が合同演説会の開催者となることはできない(公職選挙法第164条の3第2項)。

街頭演説会[編集]

個人演説会のような屋内ではなく、屋外で行う演説会。ハードルが低く、資力がなくても候補者なら誰でも行える。拡声器規制のため、声を出して行える時間帯は午前8時から午後8時までに限られる。なお、候補者に対して妨害行為を行うと公職選挙法第225条の選挙の自由妨害罪が適用され、訴追されると4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金の刑事罰になる可能性がある。駅前や路上で行うと人、車ともに交通規制が行われることがある。

戦後話題となった妨害事件[編集]

選挙演説の妨害による公職選挙法違反事件は枚挙にいとまがない。ここでは、公職選挙法施行以降、特に話題となり、特筆すべきとも考えられる事件を取り上げる。

  • 1960年6月11日、青森県知事選で青森市古川小学校の立会演説会の会場にやってきた男が壇上にあがって候補者に抱きつくなど演説を複数回妨害し、男は警官らに連れ出された。警官らを候補者の護衛と思った男は、飛び出しナイフで刺し、警官1名が死亡、もう1名が重傷を負う事件が起こった[2]
  • 同じく1960年10月12日、同年の衆議院総選挙に先駆けて、東京都千代田区の日比谷公会堂で行われた自由民主党・日本社会党・民社党の合同演説会で、社会党委員長の浅沼稲次郎が演説中に、壇上に乱入した右翼の山口二矢により刃物で脇腹を刺され、その後死亡する事態が発生した(浅沼稲次郎暗殺事件)。
  • 1971年3月の東京都知事選挙において立会演説会が始まった同月22日以降、毎回ほぼ連日のように男女学生数十人と右翼関係者やはり数十人がレンタカー約10台に分乗し、演説会を追って会場から会場へと移動して、大声で「死刑だ」「カタワになるぞ」といった脅しを美濃部候補の演説に対して浴びせ、演説を中断させたり、聞き取れない状態にした。その結果、民主法律家協会の弁護士ら25人が公選法違反で警視庁に指揮者を含め、告発した[3]
  • 2017年7月1日、東京都議会議員選挙において、応援演説に立った安倍晋三首相(当時)に対し、会場に集まった者の一部から多数の「辞めろ」「帰れ」といったコールが続き、演説が妨害されるという事件が起きた[4]。事前にSNS等で抗議の声を挙げるという情報に接して集まった者らによるコールで、これは安倍登壇前から始まり断続的ながら終わったのは1時間以上経ったあとであった[4][5]
  • 2019年7月15日、参議院議員選挙では、札幌市での安倍首相の応援演説において、ヤジを繰り返した男性と数回行った女子大生が道警によって会場近辺から取り押さえられて排除されるという事件が起こった[6][7]。なお、それぞれの訴え内容も別で互いの関連性も見られず、他にプラカードを掲げようとして持っていただけの年輩の女性もこのとき強制的に排除されている[8]
  • 2022年7月8日、参議院議員選挙では、奈良市において応援演説中であった安倍元首相が銃撃され、その後死亡する事態が発生した(安倍晋三銃撃事件)。この一件により候補者の演説の中止など一時的に選挙運動に甚大な影響を与えている。
  • 黒川敦彦(のちの「つばさの党」代表)は、2017年衆議院議員選挙で安倍首相の選出区である山口県第4区に自身も立候補(当時は無所属)したうえで、安倍出陣式の会場外で大音量でスピーカーを鳴らす[9]2023年4月の統一地方選挙では反対派候補者の街頭演説を声を張り上げたり候補者眼前で釣り竿を振り回す[10]といった形で、単発的ながら計画的とみられる妨害行為を行っていたが、2024年4月の衆議院東京都第15区補欠選挙では、つばさの党候補者の根本良輔とともに他党候補者らに会場に来るだけでなく、相手が移動すれば追い回すといった執拗な形で、スピーカーを用いて街頭演説の妨害を行った。立候補者自身が参加した行動であったため、候補者自身の表現の自由・選挙活動の自由との兼合いが問題となったが、選挙終了後、黒川・根本らは協力者らとともに演説妨害・交通妨害を理由に、公職選挙法違反(選挙の自由妨害罪)で逮捕・立件されている[11]。選挙の自由妨害罪において、演説妨害だけでなく交通妨害も理由に逮捕されたのはこれが初だと言われている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c 小池秀明「選挙における公開討論会の今日的意義:市民による公開討論会運動の経験を通して」『北大法学研究科ジュニア・リサーチ・ジャーナル』第7巻、北海道大学大学院法学研究科、2000年12月、191-226頁、NAID 1100005622232021年10月1日閲覧 
  2. ^ 「二警官死傷 選挙演説妨害男が刺す」『朝日新聞』、1960年6月11日、朝刊。
  3. ^ 「立会演説妨害の集団を告発 東京の弁護士」『毎日新聞』、1971年4月4日、朝刊。
  4. ^ a b 安倍首相がアキバで応援演説 - YouTube”. 東京新聞社. 2024年6月26日閲覧。
  5. ^ 【衆院選】安倍晋三首相の演説を妨害した「こんな人たち」を封じた聴衆の「声」 「選挙妨害をやめろ」はメディアにも向けられた(1/4ページ)”. 産経新聞社. 2024年6月25日閲覧。
  6. ^ 安倍氏へのヤジは「演説妨害」だったのか 札幌「排除」問題、警察OBと弁護士の見解割れる: J-CAST ニュース【全文表示】”. 株式会社ジェイ・キャスト. 2024年6月25日閲覧。
  7. ^ 「安倍やめろ!」ヤジ飛ばした男女排除…裁判で提出された新映像 警備の専門家も北海道警の行動を疑問視 2022年12月22日放送”. 北海道放送株式会社. 2024年6月26日閲覧。
  8. ^ 【HTBニュース】「安倍帰れ!」ヤジの市民を警察が排除 札幌”. 北海道テレビ放送. 2024年6月26日閲覧。
  9. ^ 安倍首相のおひざ元・衆院山口4区で起きたこと…これが選挙戦なのか 民主主義が揺らいでいる(1/5ページ) - 産経ニュース”. 産経新聞社. 2024年6月25日閲覧。
  10. ^ 黒川敦彦の酷すぎる選挙妨害!釣竿を振り回し奇声をあげて大暴れ! 大津綾香 が懇意にしてる人、本当に大丈夫?【 NHK党 政治家女子48党 立花孝志 切り抜き 】 警察 つばさの党 選挙妨害”. 立花孝志. 2024年6月25日閲覧。
  11. ^ つばさの党代表ら3人逮捕 演説妨害容疑、全容解明へ―捜査本部設置、異例の立件・警視庁”. 時事ドットコム. 時事通信社. 2024年6月26日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]