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DPP-4

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
DPP-IVから転送)
DPP-4の構造。

DPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4、EC3.4.14.5)とは腸管ホルモンであるインクレチンの不活化を行う酵素セリンプロテアーゼ)であり、細胞膜上をはじめ可溶性タンパク質として血液中にも存在している。インクレチンは食後の血糖値上昇に伴い腸上皮細胞から分泌され、中でもK細胞から分泌されるGIPL細胞から分泌されるGLP-1が注目されている。これらは膵臓β細胞表面の受容体に結合してインスリン分泌促進およびグルカゴンの分泌抑制により血糖値降下作用を示す。DPP-4はT細胞などの免疫系細胞表面にもCD26として発現して分化マーカーとされている。アデノシンデアミナーゼ(ADA)と結合して細胞内情報伝達を調節する働きも有しているため、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADABP)とも呼ばれる。

構造と機能

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構造

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ヒトのDPP-4は766個のアミノ酸から構成される110kDaタンパク質であり、DPP-4をコードする遺伝子は2q24.3に配座している。DPP-4はアミノ基側を細胞質に向けた1回膜貫通型のタンパク質であり、細胞内ドメインは6残基と短く、膜貫通ドメインが24残基、残りが細胞外に存在する。アミノ基側末端にβプロペラドメイン、カルボキシル基側末端にα/βヒドロラーゼドメインが配置されている。α/βヒドロラーゼドメインには3つの触媒残基(Ser630,His740,Asp708)が存在し、これらはDPP-4ファミリーの中で高度に保存されている。ヒトCD26はラットDPP-4と85%の相同性を有する。以下にヒトDPP-4タンパク質のアミノ酸配列を示す[1]

    001 MKTPWKVLLG LLGAAALVTI ITVPVVLLNK GTDDATADSR KTYTLTDYLK NTYRLKLYSL
    061 RWISDHEYLY KQENNILVFN AEYGNSSVFL ENSTFDEFGH SINDYSISPD GQFILLEYNY
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    661 YYDSVYTERY MGLPTPEDNL DHYRNSTVMS RAENFKQVEY LLIHGTADDN VHFQQSAQIS
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機能・基質

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DPP-4の阻害は血糖値の低下を引き起こす。

アミノ基側末端から2番目にプロリンあるいはアラニン残基を有するペプチドからジペプチドを切り出す働きがある。DPP-4は以下のようなペプチドを基質とする。

など。

臨床的意義

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CD26/DPPIVは腫瘍生物学において重要な役割を担っており、細胞表面あるいは血清中の濃度が、ある腫瘍では増加し、他の腫瘍では減少することから、様々な癌のマーカーとして有用であるとされている[2]

ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害薬と呼ばれる経口血糖降下薬は、この酵素の作用を阻害する事により、生体内でのインクレチン効果を持続させる事が出来る[3]

中東呼吸器症候群コロナウイルスは、DPP-4と結合する事が知られている。これは気道(肺など)や腎臓の細胞表面に存在するので、ウイルスの細胞への侵入の阻止に応用できる可能性がある[4]

DPP-4阻害薬

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シタグリプチン。

近年、インクレチンをターゲットとした血糖降下薬が新規開発された。これらはインクレチン作用増強薬GLP-1受容体作動薬に代表されるインクレチン模倣薬に大別される。DPP-4阻害薬は前者に分類され、2型糖尿病の治療を目的に経口投与される。既述の通り、DPP-4はインクレチンの分解を行う酵素であり、DPP-4阻害薬は内因性GLP-1およびGIPの血中における濃度を上昇させ、インスリン分泌を促す。経口糖尿病薬の副作用として低血糖が挙げられるが、インクレチンは食事後の血糖値上昇に伴い分泌されるため、血糖値が低い状態ではインクレチンの分泌量は少なく、したがってDPP-4阻害薬により低血糖が生じる頻度は低い。DPPsにはほかにも多くの酵素が含まれるが、DPP-8DPP-9はDPP-4と構造が類似しているため、DPP-4阻害薬によって活性が阻害される可能性がある。

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬は共にヒト膵β細胞の機能亢進を引き起こすことが報告されている[5]ほか、GLP-1受容体作動薬が体重減少を引き起こすのに対してDPP-4阻害薬は体重に影響をほとんど与えない。また、投与経路もGLP-1受容体作動薬が注射であるのに対してDPP-4阻害薬は経口投与であり投与しやすいというのが特徴である。
膵炎リスクについて懸念されていたが、システマチックレビューメタ解析の結果、膵炎リスクの上昇は認められなかった[6]。一方でDPP-4阻害薬であるシタグリプチンビルダグリプチンを対象とした臨床試験メタアナリシスでは、これらの薬剤が感染や頭痛のリスクを増大させることが示されている[7]

出典

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  • 『糖尿病の最新治療 創刊号』フジメディカル出版 2009年 ISSN 1884-2542
  • 『Q&Aでわかる 肥満と糖尿病 Vol.8 No.2』丹水社 2009年 ISSN 1347-3891
  • インクレチンとは MSD株式会社

出典

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  1. ^ Misumi Y, Hayashi Y, Arakawa F and Ikehara Y.(1992)"Molecular cloning and sequence analysis of human dipeptidyl peptidase IV, a serine proteinase on the cell surface."Biochim Biophys Acta 1131,333-6. PMID 1352704
  2. ^ “The role of CD26/dipeptidyl peptidase IV in cancer”. Frontiers in Bioscience 13 (13): 1634–45. (January 2008). doi:10.2741/2787. PMID 17981655. http://www.bioscience.org/2008/v13/af/2787/fulltext.htm. 
  3. ^ “Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and the management of type 2 diabetes mellitus”. Current Opinion in Endocrinology, Diabetes and Obesity 14 (2): 98–107. (April 2007). doi:10.1097/MED.0b013e3280a02f65. PMID 17940427. 
  4. ^ “Dipeptidyl peptidase 4 is a functional receptor for the emerging human coronavirus-EMC”. Nature (ScienceNews) 495 (7440): 251–4. (March 2013). Bibcode2013Natur.495..251R. doi:10.1038/nature12005. PMC 7095326. PMID 23486063. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7095326/. 
  5. ^ Aschner P, Kipnes MS, Lunceford JK, Sanchez M, Mickel C and Williams-Herman DE.(2006)"Effect of the dipeptidyl peptidase-4 inhibitor sitagliptin as monotherapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes."Diabetes Care 29,2632-7. PMID 17130196
  6. ^ Ling Li, et al. Incretin treatment and risk of pancreatitis in patients with type 2 diabetes mellitus: systematic review and meta-analysis of randomised and non-randomised studies. BMJ. 2014 Apr 15;348:g2366
  7. ^ Amori RE, Lau J and Pittas AG.(2007)"Efficacy and safety of incretin therapy in type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis."JAMA 298,194-206. PMID 17622601