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高密度焦点式超音波治療法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
HIFUから転送)

高密度焦点式超音波法(こうみつどしょうてんしきちょうおんぱりょうほう、High Intensity Focused Ultrasound)とは、超音波エネルギーを用いて、組織の治療を試みるものである[1]HIFU(ハイフ)と呼ばれる。

仕組み

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HIFUは、お椀型のトランスデューから強力な超音波エネルギーを照射することで、トランスデューサーから一定の距離にエネルギーを収束させるものである。HIFUの生体組織に対する影響として、生体組織内における焦点領域に収束された超音波エネルギーが、熱凝固およびcavitationと呼ばれる物理的現象により、組織を破壊することが報告されている(Fry WJ, Barnard JW, Fry EJ, et al. Ultrasonic lesions in the mammalian central nervous system. Science 1955; 122: 517., Madersbacher S, Pedevilla M, Vingers L, et al. Effect of high-intensity focused ultrasound on human prostate cancer in vivo. Cancer Res 1995; 55: 3346.)。

Madersbacherらは、HIFUの焦点領域内では組織温度が70-100℃近くまで上昇する一方、焦点領域外では、組織温度の上昇が認められにくいこと、計画した通りの部位、形状に組織学的な壊死を生じさせることをHIFU後に摘出した前立腺の病理組織学的検討により、明らかにした(Madersbacher S, Pedevilla M, Vingers L, et al. Effect of high-intensity focused ultrasound on human prostate cancer in vivo. Cancer Res 1995; 55: 3346.)。

このように、HIFUの特徴として、治療領域を自由な形に設定できること、数ミリ単位で治療領域、非治療領域の組織変化の違いを鮮明にして治療することができること、さらには、針の穿刺操作なく治療が実施できることが挙げられ、良性疾患、悪性腫瘍、および美容形成領域など幅広く使用されている。

適応

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2024年現在、日本国内で薬事承認されている適応疾患は、前立腺肥大症、パーキンソン病に対してである。

臨床研究として、前立腺がん、膵臓がん、肝臓がん、乳がん、子宮筋腫などに対する治療が行われている。

前立腺がんについては、2023年2月以降、厚生労働省から先進医療Bとして承認され、実施されている。

膵臓がんについては、国内で立ち上げられたベンチャー企業(集束超音波(HIFU:ハイフ)治療 | ソニア・セラピュ-ティクス株式会社 | 日本) (https://www.sonire-therapeutics.com/)が国産治療機器を開発し、治験を実施している。なお、膵臓がんに対するHIFU治療は、東京医科大学病院を中心に実施されている。(すい臓がん「パープルリボンセミナー in 東京2020」3「化学療法とHIFU治療の最前線」祖父尼 淳先生: https://www.youtube.com/watch?v=LPlE7RD5l_Q)

アルツハイマー病

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ExAblate 2000(InsighTec.,)というMRI治療器でアルツハイマー病につて2017年にPMA(市場試験)が認められ2023年7月期限で正式承認への最終報告が求められている。

https://www.fda.gov/medical-devices/how-study-and-market-your-device/breakthrough-devices-program

類骨骨腫 (非癌性)の治療

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小児の下肢の長骨で成長する良性 (非癌性) の小さな腫瘍に対する治療についてFDAは条件付きでSonalleve MR-HIFUシステム(Profound Medical Inc.)を緊急承認した。

https://www.fda.gov/drugs/resources-information-approved-drugs/fda-approves-device-treatment-osteoid-osteoma-extremities

美容

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顔のたるみに対し、美容目的での利用がおこなわれている[2]。弾性のない硬い筋膜や骨格があると超音波は全く別の挙動を示し高熱となるため内部火傷を起こす場合がある。また超音波機器の基礎知識の低いものが発振器の取り扱いを誤って非接触を起こすと今度は発振器が加熱して表皮に強い火傷ダメージを与える事故が報告されている。顔面には多くの神経が存在し、また超音波発振機の照射対象内の硬い筋膜、神経鞘に火傷ダメージによる、神経障害を引き起こす可能性がある[3]。美容目的のHIFUについて、顔面のまひや視覚障害などの事故が相次いだため[3][4]、2024年に厚生労働省は医師以外の施術は医師法違反にあたるとする通知を出した[5][6]消費者安全調査委員会によると、解剖学的知識や機器の特性、適切な施術方法を熟知していない施術者による危険性が指摘されている[3]。事故発生場所は、エステサロンでの被害が多いが、医療機関での事故も報告されている[6][7]

前立腺がんに対するHIFU治療

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かつては、前立腺がんに対するHIFUは、前立腺全体を治療するwhole-gland therapyとして実施されていた。しかし、前立腺全体を治療することにより、尿道狭窄症などの合併症が出現しやすいことから、近年では、Focal Therapyとして使用されている。

現在、前立腺がんに対するHIFUは、予後に影響するがんを治療する一方、正常組織を可能な限り温存する“Focal Therapy”のモダリティーとして使用されている。(前立腺がん診療ガイドライン, 2023年版, 日本泌尿器科学会編)

東海大学医学部付属病院およびその関連病院が実施した多施設前向き臨床研究では、治療後の経過観察期間4-4.5年間に手術、あるいは放射線治療による前立腺全体治療を回避できた割合は、低リスク群*96.1%、中リスク群94.4%、高リスク群95.1%であり、選択された患者においては、低侵襲治療として有用である可能性が示唆されている。(*リスク群: D'Amicoリスク分類を使用) (Shoji et al. 2024 Nov 23.doi: 10.1038/s41391-024-00921-0.)

2023年2月には厚生労働省から先進医療Bとして承認され、多施設共同研究として実施されている。(【東海大学】「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」(先進医療B認定)に関するプレスセミナー: https://www.youtube.com/watch?v=7fASzGZWGoU)

現在、前立腺がんに対するHIFUを用いたFocal Therapyを実施している医療機関は、東海大学医学部付属病院、済生会川口総合病院、医誠会国際総合病院である。

脚注

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文献

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  • 小路 直, 内田豊昭. 「高密度焦点式超音波療法(HIFU)」『放射線医科学』 医療科学社 2016年 p.173-175

関連項目

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外部リンク

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